説明

鍛造用耐熱鋼、鍛造用耐熱鋼の製造方法、鍛造部品および鍛造部品の製造方法

【課題】優れた、長時間クリープ破断寿命、クリープ破断延性や靭性、耐水蒸気酸化性を兼備した鍛造用耐熱鋼およびその製造方法、この鍛造用耐熱鋼を用いて構成された鍛造部品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】鍛造用耐熱鋼は、質量%で、C:0.05〜0.2、Si:0.01〜0.1、Mn:0.01〜0.15、Ni:0.05〜1、Cr:8以上10未満、Mo:0.05〜1、V:0.05〜0.3、Co:1〜5、W:1〜2.2、N:0.01以上0.015未満、Nb:0.01〜0.15、B:0.003〜0.03を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、高温における強度特性、常温における靭性に優れた鍛造用耐熱鋼およびその製造方法、この鍛造用耐熱鋼で形成される鍛造部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電システムでは、発電効率を一層高効率化するために、蒸気タービンの蒸気温度を上昇させる傾向にある。その結果、蒸気タービンに使用される鍛造用耐熱鋼に要求される高温特性も一層厳しくなる。
【0003】
これまでも蒸気タービンに使用される鍛造用耐熱鋼として多くの提案がなされている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
蒸気タービンに使用される鍛造用耐熱鋼として、一層の発電効率の向上に貢献するためには、長時間クリープ破断寿命を向上させる必要がある。蒸気タービンのタービンロータのように、回転部品であり、かつ大型鍛造部品を構成する材料には、運転時における破壊防止の観点から、優れた、クリープ延性や靭性が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再表96/032517(国際公開WO96/32517)号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鍛造用耐熱鋼が高温で長時間の時効や長時間のクリープ変形を受けると、クリープ破断延性や靭性が低下する場合がある。これらの特性の低下が、大型回転構造部品であるタービンロータに生じると、運用上の危険性が高まる。しかしながら、従来の鍛造用耐熱鋼においては、クリープ破断寿命を向上させる観点からの組成改良が中心に検討されているが、クリープ延性や靭性にまで配慮した組成改良は十分に検討されていない。
【0007】
長時間クリープ破断寿命の向上およびクリープ破断延性や靭性の向上のすべてについての両立を図ることは非常に困難である。
【0008】
そこで、本発明は、優れた、長時間クリープ破断寿命、クリープ破断延性や靭性、耐水蒸気酸化性を兼備した鍛造用耐熱鋼およびその製造方法、この鍛造用耐熱鋼を用いて構成された鍛造部品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、質量%で、C:0.05〜0.2、Si:0.01〜0.1、Mn:0.01〜0.15、Ni:0.05〜1、Cr:8以上10未満、Mo:0.05〜1、V:0.05〜0.3、Co:1〜5、W:1〜2.2、N:0.01以上0.015未満、Nb:0.01〜0.15、B:0.003〜0.03を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする鍛造用耐熱鋼が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】Cr含有率と、クリープ破断寿命およびFATTとの関係を示す図である。
【図2】W含有率と、クリープ破断寿命およびFATTとの関係を示す図である。
【図3】N含有率と、クリープ破断寿命およびFATTとの関係を示す図である。
【図4】B含有率と、クリープ破断寿命およびFATTとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る一実施の形態において、発明者らは、火力発電システムにおける発電効率の高効率化や、蒸気タービンやガスタービンの長期耐久性の向上等を可能にするため、蒸気タービンやガスタービンの鍛造部品に用いる鍛造用耐熱鋼について、(a)長時間クリープ破断寿命の向上、(b)クリープ破断延性や靭性の向上、を図るべく鋭意研究を進め、これらの特性の向上を図るには、次の手段が有効であることを見出した。
【0012】
(i)長時間クリープ破断寿命を向上させるために、Cr含有量の適正化、微細Nb(C,N)炭窒化物の分散析出、粗大なBNを形成しないB(有効B)含有量の増加、Wによる固溶強化を図る。
【0013】
(ii)クリープ破断延性や靭性を向上させるために、微細Nb(C,N)炭窒化物の分散析出によるクリープ破断寿命の向上に有効なN含有量を確保した上で、粗大なBNの生成を抑制する観点から、N含有量の適正化を図る。
【0014】
なお、微細Nb(C,N)炭窒化物とは、直径が50nm以下のNb(C,N)炭窒化物をいう。
【0015】
上記したように、本発明者らは、特に、N含有量、B含有量、Cr含有量、W含有量の適正化を図ることで、上記した(a)および(b)の特性の向上を同時に達成できるとの知見を得た。
【0016】
本発明に係る一実施の形態における鍛造用耐熱鋼は、質量%で、C:0.05〜0.2、Si:0.01〜0.1、Mn:0.01〜0.15、Ni:0.05〜1、Cr:8以上10未満、Mo:0.05〜1、V:0.05〜0.3、Co:1〜5、W:1〜2.2、N:0.01以上0.015未満、Nb:0.01〜0.15、B:0.003〜0.03を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。
【0017】
上記した一実施の形態の鍛造用耐熱鋼における各組成成分範囲の限定理由を説明する。なお、以下の説明において組成成分を表す%は、特に明記しない限り質量%とする。
【0018】
(1)C(炭素)
Cは、焼入性を確保し、マルテンサイト変態を促進させるとともに、合金中のFe、Cr、MoなどとM23型の炭化物を形成したり、Nb、V、NなどとMX型炭窒化物を形成して、析出強化により高温クリープ強度を高めるために不可欠な元素である。Cは、耐力の向上にも寄与するとともに、δフェライト生成の抑制にも不可欠な元素である。これらの効果を発揮させるために、Cを0.05%以上含有することが必要である。一方、Cの含有率が0.2%を越えると、炭化物や炭窒化物の凝集や粗大化が起こりやすくなり、高温クリープ破断強度が低下する。そのため、Cの含有率を0.05〜0.2%とした。同様の理由により、Cの含有率を0.08〜0.13%とすることが好ましい。さらに好ましくは、Cの含有率が0.09〜0.12%である。
【0019】
(2)Si(ケイ素)
Siは、溶鋼の脱酸剤として有効な元素である。この効果を発揮させるために、Siを0.01%以上含有することが必要である。一方、Siの含有率が0.1%を超えると、鋼塊内部の偏析が増加するとともに、焼戻し脆化感受性が極めて高くなる。そして、切欠靭性が損なわれ、高温に長時間保持することにより、析出物形態の変化が助長され、靭性が経時劣化する。そのため、Siの含有率を0.01〜0.1%とした。
【0020】
最近では真空カーボン脱酸法やエレクトロスラグ再溶解法が一般的に適用されるようになっており、必ずしもSiによる脱酸を実施する必要がなくなっている。この場合におけるSi含有率は、0.05%以下に抑えることが可能である。そのため、好ましいSiの含有率を0.01〜0.05%とする。さらに好ましくは、Siの含有率が0.03〜0.05%である。
【0021】
(3)Mn(マンガン)
Mnは、溶解時の脱酸剤や脱硫剤として有効であり、焼入性を高めて強度を向上させることにも有効な元素である。これらの効果を発揮させるために、Mnを0.01%以上含有することが必要である。一方、Mnの含有率が0.15%を超えると、MnはSと結びついてMnSの非金属介在物を形成して、靭性を低下させるとともに、靭性の経時劣化を助長するとともに、高温クリープ破断強度を低下させる。そのため、Mnの含有率を0.01〜0.15%とした。
【0022】
最近では炉外精錬などの精錬技術により、S含有量の低減が容易となり、Mnを脱硫剤として添加する必要がなくなっている。この場合におけるMn含有率は、0.1%以下に抑えることが可能である。そのため、好ましいMnの含有率を0.01〜0.1%とする。さらに好ましくは、Mnの含有率が0.05〜0.1%である。
【0023】
(4)Ni(ニッケル)
Niは、オーステナイト安定化元素であり、靭性向上に有効である。焼入性を増大させ、δフェライトの生成を抑制し、室温における強度や靭性を高めるためにも有効である。これらの効果を発揮させるために、Niを0.05%以上含有することが必要である。一方、Niの含有率が1%を超えると、炭化物やラーべス相の凝集や粗大化が助長され、高温クリープ破断強度を低下させたり、焼戻脆性を助長させる。そのため、Niの含有率を0.05〜1%とした。同様の理由により、Niの含有率を0.1〜0.5%とすることが好ましい。さらに好ましくは、Niの含有率が0.2〜0.4%である。
【0024】
(5)Cr(クロム)
Crは、耐酸化性および高温耐食性を高め、M23型炭化物やMX型炭窒化物による析出強化により高温クリープ破断強度を高めるために必要不可欠の元素である。これらの効果を発揮させるために、Crを8%以上含有することが必要である。一方、Crの含有量が高くなるにつれて、室温における引張強度や、短時間クリープ破断強度は強くなるが、その反面、長時間クリープ破断強度は低くなる傾向にある。これは、長時間クリープ破断寿命の屈曲現象の一因とも考えられている。また、Cr含有量が多くなると、長時間域でマルテンサイト組織の下部組織(微細組織)の顕著な変化が生じ、下部組織のサブグレイン化、結晶粒界近傍の析出物の顕著な凝集や粗大化、転位密度の顕著な減少などの微細組織の劣化が進む。これらの傾向は、Cr含有率が10%以上になると急速に強まる。そのため、Crの含有率を8%以上10%未満とした。同様の理由により、Crの含有率を8%以上9%未満とすることが好ましい。さらに好ましくは、Crの含有率が8.5%以上9%未満である。
【0025】
(6)Mo(モリブデン)
Moは、合金中に固溶してマトリックスを固溶強化させるとともに、微細炭(窒)化物や微細なラーベス相を生成して高温クリープ破断強度を向上させる。また、Moは、焼戻脆化の抑制にも有効な元素である。これらの効果を発揮させるために、Moを0.05%以上含有することが必要である。一方、Moの含有率が1%を超えると、δフェライトを生成して、靭性を著しく低下させるとともに、高温クリープ破断強度も低下させる。そのため、Moの含有率を0.05〜1%とした。同様の理由により、Moの含有率を0.5〜1%とすることが好ましい。さらに好ましくは、Moの含有率が0.55〜0.8%である。
【0026】
(7)V(バナジウム)
Vは、微細な炭化物や炭窒化物を形成して、高温クリープ破断強度を向上させるのに有効な元素である。この効果を発揮させるために、Vを0.05%以上含有することが必要である。一方、Vの含有率が0.3%を超えると、炭(窒)化物の過度の析出や粗大化が生じ、高温クリープ破断強度の低下を招く。そのため、Vの含有率を0.05〜0.3%とした。同様の理由により、Vの含有率を0.15〜0.25%とすることが好ましい。さらに好ましくは、Vの含有率が0.18〜0.23%である。
【0027】
(8)Co(コバルト)
Coは、δフェライトの生成を抑制することにより靱性低下を抑制し、固溶強化により高温引張強度や高温クリープ破断強度を向上させる。これは、Coの添加によってAc変態点がほとんど低下しないことによって、組織安定性を低下させずにδフェライトの生成を抑制できるためである。これらの効果を発揮させるために、Coを1%以上含有することが必要である。一方、Coの含有率が5%を超えると、延性や高温クリープ破断強度の低下が生じるとともに、製造コストが増加する。そのため、Coの含有率を1〜5%とした。同様の理由により、Coの含有率を2〜4%とすることが好ましい。さらに好ましくは、Coの含有率が2.5〜3.5%である。
【0028】
(9)W(タングステン)
Wは、M23型炭化物の凝集や粗大化を抑制する。また、Wは、合金中に固溶してマトリックスを固溶強化させ、ラス境界等にラーベス相を分散析出させ、高温引張強度や高温クリープ破断強度の向上に有効な元素である。これらの効果は、Moとの複合添加の場合に顕著である。これらの効果を発揮させるために、Wを1%以上含有することが必要である。一方、Wの含有率が2.2%を超えると、δフェライトや粗大なラーベス相が生成しやすくなり、延性や靭性が低下するとともに、高温クリープ破断強度も低下する。そのため、Wの含有率を1〜2.2%とした。同様の理由により、Wの含有率を1.5%以上2%未満とすることが好ましい。さらに好ましくは、Wの含有率が1.6〜1.9%である。
【0029】
(10)N(窒素)
Nは、C、Nb、Vなどと結びついて炭窒化物を形成し、高温クリープ破断強度を向上させる。Nの含有率が0.01%未満では、十分な引張強度や高温クリープ破断強度を得ることができない。一方、Nの含有率が0.015%以上では、Bとの結びつきが強く、BNの窒化物が生成されることにより、健全な鋼塊の製造が困難になり、熱間加工性が低下し、延性や靭性が低下する。また、BN相の析出により、高温クリープ破断強度に有効な固溶Bの含有量が減少するので、高温クリープ破断強度が低下する。そのため、Nの含有率を0.01%以上0.015%未満とした。同様の理由により、Nの含有率を0.011〜0.014%とすることが好ましい。
【0030】
従来技術(例えば、再表96/032517(国際公開WO96/32517)号公報)では、N含有率は、比較的高めの範囲まで有効であるとされているが、発明者らの研究によれば、クリープ破断延性や靭性の大幅向上とクリープ破断強度の大幅向上の双方をともに満たす適正なN含有率は、0.01%以上0.015%未満の比較的低く、かつ狭い範囲にある。N含有率をこの範囲とすることで、長時間クリープ破断寿命の向上およびクリープ破断延性や靭性の向上の両立を図ることが可能となる。
【0031】
(11)Nb(ニオブ)
Nbは、室温での引張強度の向上に有効であるとともに、微細炭化物や炭窒化物を形成し、高温クリープ破断強度を向上させる。また、Nbは、微細なNbCを生成して結晶粒の微細化を促進し、靭性を向上させる。Nbの一部は、V炭窒化物と複合したMX型炭窒化物を析出して、高温クリープ破断強度を向上させる効果もある。これらの効果を発揮させるために、Nbを0.01%以上含有することが必要である。一方、Nbの含有率が0.15%を超えると、粗大な炭化物や炭窒化物が析出し、延性や靭性を低下させる。そのため、Nbの含有率を0.01〜0.15%とした。同様の理由により、Nbの含有率を0.03〜0.08%とすることが好ましい。さらに好ましくは、Nbの含有率が0.04〜0.06%である。
【0032】
(12)B(ホウ素)
Bは、微量の添加で焼入性が増大し、靭性が向上する。また、Bは、オーステナイト結晶粒界およびその下部組織のマルテンサイトパケット、マルテンサイトブロック、マルテンサイトラス内の炭化物、炭窒化物およびラーベス相の凝集や粗大化を高温下で長時間に亘って抑制する効果を有している。さらに、Bは、WやNbなどと複合添加することによって、高温クリープ破断強度を向上させるのに有効な元素である。これらの効果を発揮させるために、Bを0.003%以上含有することが必要である。一方、Bの含有率が0.03%を超えると、BとNが結合してBN相が析出し、熱間加工性が損なわれたり、高温クリープ破断延性や靭性が大きく低下する。また、BN相の析出により、高温クリープ破断強度に有効な固溶Bの含有量が減少するため、高温クリープ破断強度が低下する。そのため、Bの含有率を0.003〜0.03%とした。同様の理由により、Bの含有率を0.005〜0.017%とすることが好ましい。さらに好ましくは、Bの含有率が0.007〜0.015%である。
【0033】
上記した組成成分範囲の鍛造用耐熱鋼は、例えば、蒸気タービンやガスタービンの鍛造部品を構成する材料として好適である。蒸気タービンやガスタービンの鍛造部品として、例えば、タービンロータやタービンディスクなどが挙げられる。
【0034】
上記した蒸気タービンやガスタービンの鍛造部品のすべての部位を上記した鍛造用耐熱鋼で構成してもよいし、鍛造部品の一部の部位を上記した鍛造用耐熱鋼で構成してもよい。
【0035】
また、上記した組成成分範囲の鍛造用耐熱鋼は、長時間クリープ破断寿命に優れ、クリープ破断延性や靭性にも優れている。さらに、この鍛造用耐熱鋼においては、耐水蒸気酸化性に優れている。そのため、この鍛造用耐熱鋼を用いて、蒸気タービンやガスタービンのタービンロータやタービンディスクなどの鍛造部品を構成することで、高温環境下においても高い信頼性を有する鍛造部品を提供することができる。
【0036】
ここで、一実施の形態の鍛造用耐熱鋼、およびこの鍛造用耐熱鋼を用いて製造される鍛造部品の製造方法について説明する。
【0037】
一実施の形態の鍛造用耐熱鋼は、例えば、次のように製造される。
【0038】
上記した鍛造用耐熱鋼を構成する組成成分を得るために必要な原材料を、アーク式電気炉、真空誘導電気炉などの溶解炉で溶解し、精錬、脱ガスを行う。その後、所定サイズの型に注湯し、時間をかけて凝固させ鋼塊を形成する。凝固が完了した鋼塊は、11001200℃に加熱され鍛造処理が施され、その後、調質熱処理(焼入処理および焼戻処理)が施される。このような工程を経て、鍛造用耐熱鋼が製造される。
【0039】
蒸気タービンやガスタービンのタービンロータやタービンディスクなどの鍛造部品は、例えば、次のように製造される。
【0040】
まず、鍛造部品を構成する、上記した鍛造用耐熱鋼を構成する組成成分を得るために必要な原材料を、アーク式電気炉、真空誘導電気炉などの溶解炉で溶解し、精錬、脱ガスを行う。その後、所定サイズの型に注湯し、時間をかけて凝固させ鋼塊を形成する。なお、真空環境中で注湯させる場合には、真空脱ガスが行われることから鋼塊中のガス成分がより低減化され、非金属介在物の低減にもつながる。
【0041】
凝固が完了した鋼塊は1100℃〜1200℃に加熱され、大型プレスにより鍛造部品の形状にまで鍛造処理(熱間加工)が行われる。鍛造処理後、調質熱処理(焼入処理および焼戻処理)が施される。このような工程を経て、鍛造部品が製造される。
【0042】
ここで、鍛造処理における加熱温度を1100℃〜1200℃の温度範囲とすることが好ましいのは、温度が1100℃未満では、材料の熱間加工性が十分に得られず、鍛造部品中心部における鍛造効果が十分に行き届かなかったり、鍛造変形中に鍛造割れを発生させる原因となる可能性があり、温度が1200℃を超えると、結晶粒の粗大化や結晶粒の不均一性が顕著になり、鍛造による変形が不均一になることや鍛造後に行われる調質熱処理の焼入処理時の結晶粒粗大化や不均一性の原因となるからである。
【0043】
なお、鍛造用耐熱鋼や鍛造部品を作製する方法は、上記した方法に限定されるものではない。
【0044】
ここで、調質熱処理について説明する。
【0045】
(焼入処理)
焼入加熱によって、材料中に生成していた炭化物や炭窒化物のほとんどを、一旦マトリックス中に固溶させ、その後の焼戻処理によって炭化物や炭窒化物を微細均一にマトリックス中に析出させることによって、高温クリープ破断強度、クリープ破断延性や靭性を向上させることができる。
【0046】
焼入温度は、1040〜1120℃の温度範囲に設定されることが好ましい。焼入温度が1040℃未満では、鍛造過程までに析出している比較的粗大な炭化物や炭窒化物のマトリックスへの固溶が十分ではなく、その後の焼戻処理後においても粗大な未固溶炭化物や未固溶炭窒化物として残る。そのため、良好な、高温クリープ破断強度、延性および靭性を得ることが困難である。一方、焼入温度が1120℃を超えると、オーステナイト相中にδフェライト相が生成するとともに、結晶粒が粗大化して延性や靭性が低下する。
【0047】
焼入処理において、焼入後、鍛造素材は、焼入マルテンサイト組織にするために、鍛造素材の中心部において50〜300℃/時の冷却速度で冷却されることが好ましい。この範囲の冷却速度を得るための冷却方法として、例えば、油冷などを採用することができる。
【0048】
鍛造素材の中心部とは、例えば、鍛造素材がタービンロータなどの場合には、その中心軸上で、かつ軸方向の中央をいう。また、鍛造素材の中心部とは、鍛造素材が所定の肉厚を有する構造体からなるものであれば、その肉厚の中心部をいう。すなわち、これらの部分は、鍛造素材において最も冷却速度が小さくなる部分である。なお、ここでは、鍛造素材の中心部の冷却速度を定義しているが、上記した冷却速度は、鍛造素材において最も冷却速度が小さくなる部位の冷却速度としてもよい。また、焼戻処理においても同様とする。
【0049】
(焼戻処理)
焼戻処理によって、上記した焼入処理によって生じた残留オーステナイト組織を分解し、焼戻マルテンサイト組織とし、炭化物や炭窒化物をマトリックス中に均一に分散析出させるとともに転位組織を適正レベルに回復させる。これによって、必要とする、高温クリープ破断強度、破断延性および靭性が得られる。
【0050】
この焼戻処理は、2回実施されることが好ましい。1回目の焼戻処理(第1段焼戻処理)は、残留オーステナイト組織を分解させることを目的とし、540〜600℃の温度範囲で行われることが好ましい。第1段焼戻処理の温度が540℃未満では、残留オーステナイト組織の分解が十分に行われない。一方、第1段焼戻処理の温度が600℃を超えると、炭化物や炭窒化物が残留オーステナイト組織中よりもマルテンサイト組織中に優先的に析出しやすくなり、析出物が不均一に分散析出することになり、高温クリープ破断強度が低下する。
【0051】
第1段焼戻処理において、第1段焼戻後、鍛造素材は、冷却時に形状変化部位などの応力集中部に大きなひずみを発生させないように、鍛造素材の中心部において、20〜100℃/時の冷却速度で冷却されることが好ましい。この範囲の冷却速度を得るための冷却方法として、例えば、炉冷や空冷などを採用することができる。
【0052】
2回目の焼戻処理(第2段焼戻処理)は、材料全体を焼戻マルテンサイト組織にすることにより、必要とする、高温クリープ破断強度、破断延性および靭性を得ることを目的とし、650℃〜750℃の温度範囲で行われることが好ましい。第2段焼戻処理の温度が650℃未満では、炭化物や炭窒化物などの析出物が安定状態に析出しないため、高温クリープ破断強度、延性や靭性において必要とする特性が得られない。一方、第2段焼戻処理の温度が750℃を超えると、炭化物や炭窒化物の粗大析出となり、必要とする高温クリープ破断強度が得られない。
【0053】
第2段焼戻処理において、第2段焼戻後、鍛造素材は、冷却時に形状変化部位などの応力集中部にひずみを発生させないように、20〜60℃/時の冷却速度で冷却されることが好ましい。この範囲の冷却速度を得るための冷却方法として、例えば、炉冷などを採用することができる。なお、第2段焼戻処理における冷却は、炉冷などにより小さな冷却速度で冷却されるため、冷却過程における、鍛造素材の中心部と外周部における温度差は小さい。そのため、第2段焼戻処理における冷却速度の定義においては、鍛造素材の中心部という限定をせず、例えば、鍛造素材の中心部または外周部などの、鍛造素材内のいずれの位置における冷却速度であってもよい。
【0054】
以下に、本発明に係る一実施の形態の鍛造用耐熱鋼が、高温クリープ破断特性(高温クリープ破断寿命および破断伸び)、靭性(室温におけるシャルピー衝撃値、破面遷移温度(FATT:Fracture Appearance Transition Temperature))、および耐水蒸気酸化性に優れていることを説明する。
【0055】
(試料)
表1は、材料特性評価に用いた各種試料(試料1〜試料69)の化学組成成分(残部はFeおよび不可避的不純物)を示す。なお、試料1〜試料53は、本発明に係る一実施の形態の鍛造用耐熱鋼の実施例であり、試料54〜試料69は、本発明に係る一実施の形態の鍛造用耐熱鋼の化学組成範囲にない鍛造用耐熱鋼であり、比較例である。
【0056】
なお、表1には、全含有N量(全N)だけでなく、焼入加熱時の未固溶N量および固溶N量も示している。焼入加熱時の未固溶Nは、結晶粒粗大化を抑制する未固溶炭窒化物に微量含まれる他に、大部分がBと結びついてBNを生成する。この未固溶Nは、クリープ破断強度の向上に寄与せず、クリープ破断延性や靭性を低下させる。一方、焼入加熱時の固溶Nは、Bと結びつかず、マトリックス中に固溶して固溶強化に寄与したり、焼戻時に微細なNb(C,N)を生成して、析出強化に寄与する。Bは、Nと結びついてBNを生成するが、それ以外のBは、焼戻時にM23(C,B)として微細に析出したり、マトリックス中に固溶し、炭化物、炭窒化物およびラーベス相の凝集や粗大化を高温下で長時間にわたって抑制する。そのため、Bは、高温クリープ破断強度を向上させるのに有効な元素である。表1において、BNを生成していないBを有効Bとして示している。
【0057】
固溶N量は、電解抽出や酸分解などの方法で析出物や介在物を残渣として溶液内に落とし、その溶液をろ過することによって残渣以外の溶液中のN量を固溶N量として吸光光度計で測定した。未固溶N量は、全含有N量(全N)から固溶N量を減じて求めた。
【0058】
有効B量は、次のように求めた。まず、試料を酸分解、白煙処理した後、蒸留により発生したBを吸収させ、クルクミンなどの呈色試薬を加えて発色させ、吸光度を測定し、全B量を算出した。続いて、試料を電解抽出し、吸引ろ過により残渣を回収した後、その残渣を全B量の測定と同様の作業を行い、化合物型(BN型)B量を求めた。そして、全B量から化合物型(BN型)B量を差し引くことによって有効B量を求めた。
【0059】
【表1】

【0060】
これらの試料を次のように形成した。各試料を構成する原材料を、真空誘導溶解炉(VIM)で溶解し、脱ガスを行い、金型内に注湯した。そして、20kgの鋼塊を作製した。
【0061】
続いて、凝固した各鋼塊を1200℃に加熱し、鍛造比が3の加工比で鍛造処理を行った。続いて、焼入処理、第1段焼戻処理および第2段焼戻処理を行った。
【0062】
焼入処理では、1070℃の温度で5時間鋼塊を加熱保持し、その後、鋼塊を冷却速度100℃/時(鋼塊の中心部における冷却速度)で冷却した。第1段焼戻処理では、焼入処理後の鋼塊を、570℃の温度で20時間加熱保持し、その後、鋼塊を冷却速度50℃/時(鋼塊の中心部における冷却速度)で冷却した。第2段焼戻処理では、第1段焼戻処理後の鋼塊を、680℃の温度で20時間加熱保持し、その後、鋼塊を冷却速度50℃/時で冷却した。なお、ここでは、第2段焼戻処理における冷却速度を、鋼塊の中心部における冷却速度とした。
【0063】
(クリープ破断試験)
上記した試料1〜試料69を用いて、625℃、20kgf/mmおよび625℃、15kgf/mmの条件でクリープ破断試験を実施した。試験片は、上記した各鋼塊から作製した。
【0064】
クリープ破断試験は、JIS Z 2271(金属材料のクリープ及びクリープ破断試験方法)に準じて実施した。表2には、各試料におけるクリープ破断試験の結果が示されている。なお、表2には、クリープ破断試験の結果として、クリープ破断寿命(時間)およびクリープ破断伸び(%)が示されている。
【0065】
【表2】

【0066】
表2に示すように、試料1〜試料53は、試料54および試料55(B含有率が本発明に係る一実施の形態の鍛造用耐熱鋼の化学組成範囲を下回っているもの)と比較して、625℃、20kgf/mmおよび625℃、15kgf/mmのクリープ条件において、クリープ破断寿命が長く、クリープ破断強度が向上していることがわかる。
【0067】
試料1〜試料53は、試料56〜試料57(B含有率が本発明に係る一実施の形態の鍛造用耐熱鋼の化学組成範囲を超えているもの)と比較して、625℃、20kgf/mmおよび625℃、15kgf/mmのクリープ条件において、クリープ破断伸びが向上していることがわかる。
【0068】
試料1〜試料53は、試料58〜試料59(N含有率が本発明に係る一実施の形態の鍛造用耐熱鋼の化学組成範囲を下回っているもの)と比較して、625℃、20kgf/mmおよび625℃、15kgf/mmのクリープ条件において、クリープ破断寿命が長く、クリープ破断強度が向上していることがわかる。
【0069】
試料1〜試料53は、試料60〜試料61(N含有率が本発明に係る一実施の形態の鍛造用耐熱鋼の化学組成範囲を超えているもの)と比較して、625℃、20kgf/mmおよび625℃、15kgf/mmのクリープ条件において、クリープ破断伸びが向上していることがわかる。
【0070】
試料1〜試料53は、試料62(N含有率が本発明に係る一実施の形態の鍛造用耐熱鋼の化学組成範囲を超えているもの)と比較して、625℃、20kgf/mmおよび625℃、15kgf/mmのクリープ条件において、クリープ破断寿命が長く、クリープ破断強度が向上し、さらに、クリープ破断伸びが向上していることがわかる。
【0071】
試料1〜試料53は、試料63〜試料64(Cr含有率が本発明に係る一実施の形態の鍛造用耐熱鋼の化学組成範囲を下回っているもの)と比較して、625℃、20kgf/mmおよび625℃、15kgf/mmのクリープ条件において、クリープ破断寿命が長く、クリープ破断強度が向上していることがわかる。
【0072】
試料1〜試料53は、試料65〜試料66(Cr含有率が本発明に係る一実施の形態の鍛造用耐熱鋼の化学組成範囲を超えているもの)と比較して、625℃、15kgf/mmのクリープ条件において、クリープ破断寿命が長く、クリープ破断強度が向上していることがわかる。
【0073】
試料1〜試料53は、試料67(W含有率が本発明に係る一実施の形態の鍛造用耐熱鋼の化学組成範囲を下回っているもの)と比較して、625℃、20kgf/mmおよび625℃、15kgf/mmのクリープ条件において、クリープ破断寿命が長く、クリープ破断強度が向上していることがわかる。
【0074】
試料1〜試料53は、試料68〜試料69(W含有率が本発明に係る一実施の形態の鍛造用耐熱鋼の化学組成範囲を超えているもの)と比較して、625℃、20kgf/mmおよび625℃、15kgf/mmのクリープ条件において、クリープ破断伸びが向上していることがわかる。
【0075】
(シャルピー衝撃試験)
上記した試料1〜試料69を用いて、室温および破面遷移温度(FATT)を得るのに必要な数種類の温度条件で、シャルピー衝撃試験を実施した。試験片は、上記した各鋼塊から作製した。
【0076】
シャルピー衝撃試験は、JIS Z 2242(金属材料のシャルピー衝撃試験方法)に準じて実施した。表2には、各試料におけるシャルピー衝撃試験の結果が示されている。なお、表2には、シャルピー衝撃試験の結果として、室温におけるシャルピー衝撃値(kgf−m/cm)および破面遷移温度(FATT)(℃)が示されている。
【0077】
表2に示すように、試料1〜試料53は、試料56〜試料57(B含有率が本発明に係る一実施の形態の鍛造用耐熱鋼の化学組成範囲を超えているもの)と比較して、室温におけるシャルピー衝撃値が高く、破面遷移温度(FATT)が低くなり、靭性が向上していることがわかる。
【0078】
試料1〜試料53は、試料60〜試料62(N含有率が本発明に係る一実施の形態の鍛造用耐熱鋼の化学組成範囲を超えているもの)と比較して、室温におけるシャルピー衝撃値が高く、破面遷移温度(FATT)が低くなり、靭性が向上していることがわかる。
【0079】
試料1〜試料53は、試料68〜試料69(W含有率が本発明に係る一実施の形態の鍛造用耐熱鋼の化学組成範囲を超えているもの)と比較して、室温におけるシャルピー衝撃値が高く、破面遷移温度(FATT)が低くなり、靭性が向上していることがわかる。
【0080】
(耐水蒸気酸化性の評価)
上記した試料1〜試料69を用いて、耐水蒸気酸化性の評価試験を行った。試験片として、上記した各鋼塊から平板(長さが15mm、幅が10mm、厚さが3mm)を製作した。
【0081】
試験片を、625℃の水蒸気環境下に3000時間暴露して、暴露前後の水蒸気酸化増量(mg/cm)を測定した。ここで、水蒸気酸化増量とは、水蒸気酸化によって試料の表面に酸化物が生成し、試料の重量が増加したものである。酸化物中に酸素が含まれることで重量増加がもたらされる。この水蒸気酸化増量は、水蒸気酸化によって試料の表面に生成した酸化物を含んだ試料全体の重量から水蒸気酸化試験開始前の試料の重量を差し引いた重量に基づいて算出した。表2には、各試料における水蒸気酸化増量の結果が示されている。
【0082】
表2に示すように、試料1〜試料53は、試料63〜試料64(Cr含有率が本発明に係る一実施の形態の鍛造用耐熱鋼の化学組成範囲を下回っているもの)と比較して、水蒸気酸化増量が少なく、耐水蒸気酸化性に優れていることがわかる。
【0083】
(Cr、W、N、Bの影響)
ここでは、前述したクリープ破断試験およびシャルピー衝撃試験の結果に基づいて、クリープ破断特性や靭性に対して、特に重要な役割を果たしているCr、W、N、Bの含有率と、クリープ破断特性や靭性との関係をまとめた。
【0084】
クリープ破断特性として、625℃、15kgf/mmのクリープ条件におけるクリープ破断寿命の測定結果、靭性として、FATTの測定結果に基づいて上記した関係をまとめた。
【0085】
Cr含有率の影響は、試料9、試料21、試料33、試料45、試料53、試料63〜試料66の測定結果に基づいてまとめた。図1は、Cr含有率と、クリープ破断寿命およびFATTとの関係を示す図である。
【0086】
図1に示すように、Cr含有量が8%以上10%未満の範囲で、クリープ破断寿命が長く、FATTが低く、クリープ破断強度および靭性ともに優れていることがわかる。この範囲内でもCr含有量が8%以上9%未満の範囲で、FATTが低く、特にクリープ破断寿命が長くなり、この範囲がより好ましいことがわかる。
【0087】
W含有率の影響は、試料21、試料49、試料50、試料51、試料52、試料67〜試料69の測定結果に基づいてまとめた。図2は、W含有率と、クリープ破断寿命およびFATTとの関係を示す図である。
【0088】
図2に示すように、W含有量が1〜2.2%の範囲で、クリープ破断寿命が長いとともに、FATTが低く、クリープ破断強度および靭性ともに優れていることがわかる。この範囲内でもW含有量が1.5%以上2%未満の範囲で、FATTが低く、特にクリープ破断寿命が長くなり、この範囲がより好ましいことがわかる。なお、W含有量が2.2%を超えると、FATTが急激に増加している。
【0089】
N含有率の影響は、試料15、試料21、試料58〜試料62の測定結果に基づいてまとめた。図3は、N含有率と、クリープ破断寿命およびFATTとの関係を示す図である。
【0090】
図3に示すように、N含有量が0.01%以上0.015%未満の範囲で、クリープ破断寿命が長く、FATTが低く、クリープ破断強度および靭性ともに優れていることがわかる。この範囲内でもN含有量が0.011〜0.014%の範囲で、FATTが低く、特にクリープ破断寿命が長くなり、この範囲がより好ましいことがわかる。
【0091】
B含有率の影響は、試料19〜試料24、試料54〜試料57の測定結果に基づいてまとめた。図4は、B含有率と、クリープ破断寿命およびFATTとの関係を示す図である。
【0092】
図4に示すように、B含有量が0.003〜0.03%の範囲で、クリープ破断寿命が長く、FATTが低く、クリープ破断強度および靭性ともに優れていることがわかる。この範囲内でもB含有量が0.005〜0.017%の範囲で、特に、クリープ破断寿命が長く、かつFATTが低くなり、この範囲がより好ましいことがわかる。
【0093】
(焼入温度および焼戻温度の影響)
焼入温度および焼戻温度が、クリープ破断特性や靭性に及ぼす影響について調べた。
【0094】
ここでは、試料21からなる鋼塊を使用し、次に示す条件で焼入処理、焼戻処理を行った。焼入処理における焼入温度として、1020℃、1070℃、1100℃、1150℃の4条件について行い、それぞれの焼入温度に5時間加熱保持した。5時間加熱保後、100℃/時の冷却速度(鋼塊の中心部における冷却速度)で冷却した。
【0095】
第1段焼戻処理における第1段焼戻温度として、530℃、570℃、610℃の3条件について行い、それぞれの第1段焼戻温度に20時間加熱保持した。20時間加熱保後、50℃/時の冷却速度(鋼塊の中心部における冷却速度)で冷却した。
【0096】
第2段焼戻処理における第2段焼戻温度として、630℃、680℃、710℃、770℃の4条件について行い、それぞれの第2段焼戻温度に20時間加熱保持した。20時間加熱保後、50℃/時の冷却速度で冷却した。なお、ここでは、第2段焼戻処理における冷却速度を、鋼塊の中心部における冷却速度とした。
【0097】
そして、各鋼塊から試験片を作製し、前述した各試験と同様の方法で各試験を行い、高温クリープ破断特性(高温クリープ破断寿命および破断伸び)、靭性(室温におけるシャルピー衝撃値、破面遷移温度(FATT)、および耐水蒸気酸化性について評価した。表3は、高温クリープ破断特性、靭性および耐水蒸気酸化性に係る各試験結果を示している。
【0098】
【表3】

【0099】
表3に示すように、焼入温度を1070℃、1100℃、第1段焼戻温度を570℃、かつ第2段焼戻温度を680℃、710℃として熱処理された試料においては、高温クリープ破断特性、靭性および耐水蒸気酸化性のすべてについて優れていることがわかる。
【0100】
このように、焼入処理および焼戻処理の熱処理条件によって、クリープ破断特性および靭性に影響が及ぼされ、適正な熱処理条件を適用することによって、クリープ破断特性、靭性および耐水蒸気酸化性のすべてについて優れた鍛造用耐熱鋼が得られることがわかる。
【0101】
(微細Nb(C,N)炭窒化物数の評価)
上記した試料1〜試料69を用いて、625℃の温度で1万時間の時効処理後と、この時効処理前とにおける、直径が50nm以下のNb(C,N)炭窒化物の数を調べた。
【0102】
時効処理後および時効処理前の各鋼塊から試験片を作製し、試験片の表面を鏡面仕上げした後、腐食液でエッチング処理を施した。エッチング処理が施された表面の析出物を抽出レプリカ法による透過型電子顕微鏡(TEM)により観察を行い、画像解析法を用いてNb(C,N)炭窒化物のサイズおよび数量を定量化した。
【0103】
ある一定の観察面積において、時効処理前の直径が50nm以下のNb(C,N)炭窒化物の数に対する、時効処理後の直径が50nm以下のNb(C,N)炭窒化物の数の比(時効処理後の数/時効処理前の数)を、時効処理後の残存率として算出した。表2には、直径が50nm以下のNb(C,N)炭窒化物の数に係る時効処理後の残存率が示されている。
【0104】
表2に示すように、試料1〜試料53のいずれも、時効処理後の残存率が50%以上であることが明らかとなった。
【0105】
以上のように、本発明に係る一実施の形態の鍛造用耐熱鋼は、クリープ破断寿命が長く、かつクリープ破断延性や靭性にも優れている。また、耐水蒸気酸化性についても優れている。すなわち、本発明に係る一実施の形態の鍛造用耐熱鋼は、優れた、長時間クリープ破断寿命、クリープ破断延性や靭性、耐水蒸気酸化性を兼備している。
【0106】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.05〜0.2、Si:0.01〜0.1、Mn:0.01〜0.15、Ni:0.05〜1、Cr:8以上10未満、Mo:0.05〜1、V:0.05〜0.3、Co:1〜5、W:1〜2.2、N:0.01以上0.015未満、Nb:0.01〜0.15、B:0.003〜0.03を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする鍛造用耐熱鋼。
【請求項2】
直径が50nm以下のNb(C,N)炭窒化物の数が、625℃の温度で1万時間の時効処理後において、当該時効処理前の50%以上であることを特徴とする請求項1記載の鍛造用耐熱鋼。
【請求項3】
請求項1または2記載の鍛造用耐熱鋼を用いて、少なくとも所定部位が作製されたことを特徴とする鍛造部品。
【請求項4】
請求項1または2記載の鍛造用耐熱鋼の製造方法において、
前記鍛造用耐熱鋼の組成成分を得るために必要な原材料を溶解し、所定の型に注湯して鋼塊を形成し、鍛造処理し、1040〜1120℃の温度で焼入処理し、540〜600℃の温度で第1段の焼戻処理し、650〜750℃の温度で第2段の焼戻処理することを特徴とする鍛造用耐熱鋼の製造方法。
【請求項5】
前記焼入処理における加熱後の冷却速度が鍛造用耐熱鋼の中心部において50〜300℃/時であり、前記第1段の焼戻処理における加熱後の冷却速度が鍛造用耐熱鋼の中心部において20〜100℃/時であり、前記第2段の焼戻処理における加熱後の冷却速度が20〜60℃/時であることを特徴とする請求項4記載の鍛造用耐熱鋼の製造方法。
【請求項6】
請求項3記載の鍛造部品の製造方法において、
前記鍛造部品を形成する鍛造用耐熱鋼の組成成分を得るために必要な原材料を溶解し、所定の型に注湯して鋼塊を形成し、鍛造処理し、1040〜1120℃の温度で焼入処理し、540〜600℃の温度で第1段の焼戻処理し、650〜750℃の温度で第2段の焼戻処理することを特徴とする鍛造部品の製造方法。
【請求項7】
前記焼入処理における加熱後の冷却速度が鍛造部品の中心部において50〜300℃/時であり、前記第1段の焼戻処理における加熱後の冷却速度が鍛造部品の中心部において20〜100℃/時であり、前記第2段の焼戻処理における加熱後の冷却速度が20〜60℃/時であることを特徴とする請求項6記載の鍛造部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−140666(P2012−140666A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293314(P2010−293314)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】