鍵盤楽器
【課題】片持ち振動板を振動させて発音する鍵盤楽器であって、発生される音の音量を大きくした鍵盤楽器を提供する。さらに、前記発生される音を豊かにして、表現力を向上させた鍵盤楽器を提供する
【解決手段】複数の振動板24,25,26が共鳴体27に片持ち梁状に組み付けられる。鍵11は、フレームFRに固定された鍵支持部12によって揺動可能に支持される。鍵11の後部に、それぞれ振動板24,25,26を弾くための複数の弾き部材21,22,23が組み付けられる。振動板24,25,26のうちの少なくとも1つの固有振動周波数を、鍵11の鍵音高に対応した周波数としておき、他の振動板の固有振動周波数を、鍵11の鍵音高に対応する周波数とは僅かに異ならせる。
【解決手段】複数の振動板24,25,26が共鳴体27に片持ち梁状に組み付けられる。鍵11は、フレームFRに固定された鍵支持部12によって揺動可能に支持される。鍵11の後部に、それぞれ振動板24,25,26を弾くための複数の弾き部材21,22,23が組み付けられる。振動板24,25,26のうちの少なくとも1つの固有振動周波数を、鍵11の鍵音高に対応した周波数としておき、他の振動板の固有振動周波数を、鍵11の鍵音高に対応する周波数とは僅かに異ならせる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打鍵によって片持ち振動板を振動させて演奏する鍵盤楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば下記特許文献1に示されているように、演奏者による鍵の押鍵操作によって片持ち振動板を振動させて発音する鍵盤楽器は知られている。この鍵盤楽器においては、鍵の鍵音高に対応した周波数で振動する片持ち振動板が各鍵ごとに1つずつ設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−206028号公報
【発明の概要】
【0004】
上記従来の鍵盤楽器においては、一度の押鍵操作によって振動する片持ち振動板は1つだけなので、発生される音は、その音量が小さく、またオルゴールと同様に単純である。
【0005】
本発明は上記問題に対処するためになされたもので、その目的は、演奏者による鍵の押鍵操作によって片持ち振動板を振動させて発音する鍵盤楽器であって、発生される音の音量を大きくした鍵盤楽器を提供することにある。さらに、前記発生される音を豊かにして、表現力を向上させた鍵盤楽器を提供することにある。
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、複数の鍵(11)からなる鍵盤と、複数の鍵にそれぞれ対応して設けられ、振動して発音する複数の振動部と、複数の振動部にそれぞれ対応して設けられ、各鍵の押鍵操作に連動して、振動部を励振する複数の励振部とを備えた鍵盤楽器において、振動部は、複数の片持ち振動板(24,25,26)からなり、励振部(21,22,23,57a1,57d1)は、各鍵の一度の押鍵操作により、複数の片持ち振動板のうちのいずれか1つ又は複数の片持ち振動板を励振するようにしたことにある。例えば、複数の片持ち振動板のすべてを励振するようにすれば、上記従来の鍵盤楽器に比べて大きな音量で発音させることができる。また、励振部の一部を省略して、いくつかの片持ち振動板が励振されないようにしても、励振されない片持ち振動板は、励振された片持ち振動板の振動に起因して共振する。したがって、複数の片持ち振動板のすべてを励振する場合よりも単純な構造の励振部によって、上記従来の鍵盤楽器に比べて大きな音量で発音させることができる。
【0007】
また、本発明の他の特徴は、複数の片持ち振動板のうち、いずれか1つ又は複数の片持ち振動板の固有振動周波数を鍵音高に対応する周波数とは僅かに異ならせたことにある。これによれば、一度の押鍵操作において、僅かに音程の異なる音が同時に発生するので、上記従来の鍵盤楽器に比べて大きな音量で発音できるだけでなく、音が豊かに広がったような効果(コーラス効果)を得ることができる。
【0008】
また、本発明の他の特徴は、励振部は、複数の片持ち振動板のうち、少なくとも2つの片持ち振動板を異なるタイミングで励振することにある。これによれば、一度の押鍵操作において、複数の片持ち振動板のうちのいくつかの振動板は他の振動板の振動開始に遅れて振動し始めるので、音の立ち上がりが複雑になり、発生される音が豊かになる。したがって、楽器の表現力を向上させることができる。
【0009】
なお、前記括弧内の符号は、本発明の理解を容易にするために、後述する実施形態との対応関係を示すものであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態に係る鍵盤楽器を縦断して1つの鍵について示す右側面図である。
【図2】図1の鍵盤楽器の1つの鍵について示す平面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る鍵盤楽器の1つの鍵について示す平面図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る鍵盤楽器を縦断して、1つの鍵の後部を拡大して示す右側面である。
【図5】図4の鍵盤楽器の1つの鍵の後部を拡大して示す平面図である。
【図6】本発明の第3実施形態の変形例に係る鍵盤楽器を縦断して、1つの鍵について示す右側面図である。
【図7】図6の鍵盤楽器の1つの鍵について示す平面図である。
【図8A】図6の鍵盤楽器の可動共鳴体の構成を示す図である。
【図8B】図6の鍵盤楽器の固定共鳴体の構成を示す図である。
【図9】図6の鍵盤楽器のレバーを踏み込んで、可動共鳴体と固定共鳴体を上下方向に離間させた状態を示す図である。
【図10】本発明の第3実施形態の他の変形例に係る鍵盤楽器を縦断して、1つの鍵について示す右側面図である。
【図11】本発明の第3実施形態の他の変形例に係る鍵盤楽器を縦断して、1つの鍵について示す右側面図である。
【図12】本発明の第1乃至第3実施形態の変形例に係る鍵盤楽器を縦断して、1つの鍵について示す右側面図である。
【図13】図12のアームの構成を示す図である。
【図14A】図12の回転式弾き部の右側面図である。
【図14B】図12の回転式弾き部の平面図である。
【図14C】図12の回転式弾き部の左側面図である。
【図15】図12のA−A線に沿って見た断面図である。
【図16A】離鍵状態における第1駆動部と第1被駆動爪の位置関係を示す図である。
【図16B】離鍵状態における第2駆動部と第2被駆動爪の位置関係を示す図である。
【図17A】押鍵途中の第1駆動部と第1被駆動爪の位置関係を示す図である。
【図17B】押鍵途中の第2駆動部と第2被駆動爪の位置関係を示す図である。
【図18A】押鍵終了時の第1駆動部と第1被駆動爪の位置関係を示す図である。
【図18B】押鍵終了時の第2駆動部と第2被駆動爪の位置関係を示す図である。
【図19A】離鍵途中の第1駆動部と第1被駆動爪の位置関係を示す図である。
【図19B】離鍵途中の第2駆動部と第2被駆動爪の位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
a.第1実施形態
以下、本発明の第1実施形態について図面を用いて説明する。この鍵盤楽器は、図1及び図2に示すように、演奏者によって押離鍵操作される複数の鍵を有する。なお、いずれの鍵についても構成は同様なので、以降の説明は1つの鍵11についてのみ行う。鍵11は合成樹脂によって長尺状に形成されている。そして、鍵11は、フレームFRに設けられた鍵支持部12により支持されており、中間部の回転中心13を中心として、前端部が上下方向に揺動可能となっている。なお、フレームFRとは、この鍵盤楽器の種々の部品を支持するための構造体及びこの鍵盤楽器のハウジング自体を意味する。鍵11の前部下方には、ばね14が設けられている。ばね14の下端はフレームFRに固定され、その上端は鍵11の前部下面に当接している。ばね14は、鍵11の前部を上方へ付勢する。また、鍵11の前部下方には、ゴム、フェルトなどの衝撃吸収材によって構成された長尺状の下限ストッパ16が横方向に延設されてフレームFRに固定されている。この下限ストッパ16は、鍵11の前部の下方への変位を規制する。また、鍵11の後部下方には、下限ストッパ16と同様の上限ストッパ17が横方向に延設されてフレームFRに固定されている。この上限ストッパ17は鍵11の前部の上方への変位を規制する。
【0012】
鍵11の後部上面には、金属製で平面視方形状に形成された板状のベース板18が組み付けられている。ベース板18の上面には、後述の振動板24,25,26を弾くための弾き部を構成する3つの弾き部材21,22,23が、横方向に等間隔に組み付けられている。弾き部材21,22,23は、金属製で四角錐状に形成されていて、先細りとなった端部が鍵11及びベース板18の後端から楽器後部側へ張り出している。なお、弾き部材21,22,23の形状はこれに限られず、鍵11及びベース板18の後端から後方へ突出していて、鍵11の揺動に伴って振動板24,25,26を弾くことができる形状(例えば四角柱状)であればよい。また、弾き部材21,22,23は、鍵11の後端面に組み付けられていてもよい。また、横方向に幅の広い弾き部材を1つ設けて、この弾き部材で振動板24,25,26を弾くようにしてもよい。この場合、例えば、ベース板18を鍵11の後端から後方へ張り出させておいて、ベース板18の後端部で振動板24,25,26を弾くようにしてもよい。すなわち、ベース板18の後端部を弾き部として利用してもよい。
【0013】
鍵11の後方かつ上方には、弾き部材21,22,23にそれぞれ対応して、振動部を構成する3つの振動板24,25,26が設けられている。振動板24,25,26は金属などの板状弾性部材で長尺状に形成される。振動板24,25,26の一端は楽器後部にて横方向に延設された平板状の共鳴体27の上面に固定される。そして、その他端は共鳴体27から前方へ張り出している。すなわち、振動板24,25,26は片持ち梁状に支持されており、横方向に等間隔に並設されている。振動板24,25,26の固有振動周波数は、鍵11の音高に対応した周波数と同一である。したがって、振動板24,25,26の幅、厚み及び長さは同一である。共鳴体27は支持部材28を介してフレームFRに固定される。なお、この鍵盤楽器を構成するすべての振動板に対して1つの共鳴体27を設けてもよいし、所定の音域(例えば1オクターブ)ごと又は鍵11ごとに共鳴体27を設けてもよい。
【0014】
次に、上記のように構成した鍵盤楽器の動作を説明する。離鍵時においては、ばね14によって鍵11の前部が上方へ付勢される。これにより、鍵11の後端部下面が上限ストッパ17の上面に当接して、図1の状態となっている。一方、ばね14の付勢力に対抗して、鍵11を押すと、鍵11は、回転中心13を中心として、図1にて反時計回りに回転し始め、弾き部材21,22,23が上方へ変位する。その後、弾き部材21,22,23は、それぞれ振動板24,25,26の自由端に当接して、振動板24,25,26の自由端側を上方へ押し曲げる。弾き部材21,22,23が、さらに上方へ変位すると、弾き部材21,22,23は、それぞれ振動板24,25,26を乗り越える。すなわち、弾き部材21,22,23が、それぞれ振動板24,25,26を弾く。これにより、振動板24,25,26が振動し、その振動が共鳴体27により増幅され、鍵音高に対応する楽器音が発音される。さらに深く押鍵されると、鍵11の前部下面が下限ストッパ16に当接し、鍵11の前部の下方への変位が規制される。
【0015】
離鍵時においては、ばね14の付勢力によって鍵11の前部が上方へ押し上げられる。これにより、鍵11は回転中心13を中心として、図1において時計回りに回転し始め、弾き部材21,22,23が下方へ変位する。すると、弾き部材21,22,23がそれぞれ振動板24,25,26の自由端に当接して、振動板24,25,26の振動を抑制する。弾き部材21,22,23がさらに下方へ変位すると、弾き部材21,22,23は振動板24,25,26を乗り越える。鍵11の後部下面が上限ストッパ17に当接すると、鍵11の前部の上方への変位が規制され、鍵11は元の位置(図1の位置)へ復帰する。
【0016】
上記のように構成した鍵盤楽器においては、鍵11の一度の押鍵操作によって鍵11の後部上面に組み付けられた弾き部材21,22,23で振動板24,25,26を弾いて、発音することができる。すなわち、一度の押鍵操作によって、3つの振動板24,25,26が振動するので、上記従来の鍵盤楽器に比べて大きな音量で発音することができる。なお、上記実施形態においては、鍵11について、3つの振動板24,25,26を設けたが、振動板の数は3つに限られない。すなわち、2つ以上であれば、振動板をいくつ設けてもよい。そして、弾き部によって複数の振動板を同時に弾くようにすればよい。このように構成しても、図1に示す第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0017】
また、上記第1実施形態においては、振動板24,25,26の固有振動周波数を鍵音高に対応した周波数と同一とした。しかし、少なくとも1つの振動板の固有振動周波数を鍵音高に対応した周波数と同一としておき、他の振動板の固有振動周波数を鍵音高に対応した周波数とは僅かに異なるようにしてもよい。このように構成すれば、周波数の異なる音を同時に発生させて、発生音にコーラス効果を付与することができる。したがって、楽器の表現力を向上させることができる。
【0018】
b.第2実施形態
次に、弾き部によって弾かれない振動板を有するようにした、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態の構成は、ほぼ第1実施形態と同様であるが、図3に示すように、第1実施形態の弾き部材23が省略されている。すなわち、本実施形態に係る鍵盤楽器は、振動板24,25を弾くための弾き部を構成する2つの弾き部材21,22を有し、振動板26を弾くための弾き部材を有さない。
【0019】
上記のように構成した本発明の第2実施形態に係る鍵盤楽器の動作も、第1実施形態とほぼ同様である。ただし、鍵11が押されると、振動板24,25は弾き部材21,22によって弾かれるが、振動板26は弾かれない。しかし、振動板26は、振動板24,25の振動に起因して共振する。
【0020】
上記のように構成した鍵盤楽器においては、2つの振動板24,25がそれぞれ弾き部材21,22によって弾かれ、弾き部によって弾かれない振動板26も振動板24,25の振動に起因して共振するので、上記従来の鍵盤楽器に比べて大きな音量で発音することができる。また、第1実施形態の弾き部材23を省略して、2つの弾き部材21,22を有するようにしたので、第1実施形態に比べて簡単な構成にすることができる。なお、振動板は3つに限られず、2つ以上であればいくつ設けてもよい。そして、少なくとも1つの弾き部材が、少なくとも1つの振動板を弾くようにしておいて、他の弾き部材を省略すればよい。このように構成しても、弾き部によって弾かれない振動板は、弾かれた他の振動板の振動に起因して共振するため、上記第2実施形態と同様の効果が得られる。また、上記第2実施形態においても、少なくとも1つの振動板の固有振動周波数を鍵音高に対応した周波数と同一としておき、他の振動板の固有振動周波数を鍵音高に対応した周波数とは僅かに異ならせるようにしてもよい。これにより、発生音にコーラス効果を付与することができる。
【0021】
c.第3実施形態
次に、弾き部が振動板を弾くタイミングを異ならせるようにした本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態においては、図4及び図5に示すように、振動板24,25は、共鳴体27の下面に組み付けられ、振動板26は、共鳴体27の上面に組み付けられる。すなわち、振動板26は、振動板24,25よりも共鳴体27の厚さ分だけ上方に位置する。その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0022】
鍵11が押され、押鍵深さが中程度まで達した段階で、まず弾き部材21,22が振動板24,25をそれぞれ同時に弾く。この段階では、弾き部材23は、振動板26の下方に位置している。そして、鍵11がさらに深く押されると、弾き部材23が振動板26を弾く。
【0023】
上記のように構成した本発明の第3実施形態に係る鍵盤楽器においては、押鍵操作時に、振動板26は、振動板24,25に遅れて振動を開始する。そのため、上記従来の鍵盤楽器よりも大きな音量で発音させることができるだけでなく、音の立ち上がりを複雑にして、発生される音を豊かにできる。したがって、楽器の表現力を向上させることができる。また、押鍵開始から押鍵深さが中程度まで達して、振動板24,25を弾いた直後に離鍵した場合、振動板26は弾かれないが、振動板26は振動板24,25の振動に起因して共振する。したがって、押鍵途中で離鍵する場合と、深く押鍵する場合とで、異なった音を発生させることができるので、楽器の表現力を向上させることができる。なお、本実施形態においても振動板は3つに限られず、2つ以上の振動板を設ければよい。そして、少なくとも1つの振動板を共鳴体27の上面に組み付け、少なくとも1つの振動板を共鳴体27の下面に組み付ければよい。3つ以上の振動板を有する場合は、上下方向に離間した少なくとも一組の振動板を弾くための弾き部材を設けて、他の振動板を弾くための弾き部材を省略してもよい。
【0024】
また、第3実施形態においても、少なくとも1つの振動板の固有振動周波数を鍵音高に対応した周波数と同一としておき、他の振動板の固有振動周波数を鍵音高に対応した周波数とは僅かに異なるようにしてもよい。これにより、発生音にコーラス効果を付与することができる。
【0025】
また、全ての振動板24,25,26を、共鳴体27の上面(又は下面)に組み付けるとともに、ベース板18の上面に、弾き部材21,22よりも弾き部材23の組み付け位置が低くなるように段差を設けておいてもよい。このように構成しても、弾き部材21,22が振動板24,25を弾くのに遅れて、弾き部材23が振動板26を弾くので、上記第3実施形態と同様の効果が得られる。
【0026】
また、図6及び図7に示すようにペダルの踏み込みによって、振動板24と振動板25,26との上下方向の距離を変更可能とするようにしてもよい。振動板24,25,26の下方には、レバー29がフレームFRに固定されたレバー支持部31に支持されており、前端部が上下方向に揺動可能となっている。レバー29の前部下方には、ばね32がフレームFRに固定されており、レバー29の前部を上方へ付勢している。レバー29の中間部上方には、レバー29の上方向への変位を規制するレバー上限ストッパ33がフレームFRに固定されている。レバー29の前部下方には、レバー29の下方への変位を規制するレバー下限ストッパ34がフレームFRに固定されている。
【0027】
レバー29の後部上面には、駆動ロッド36の下端が当接している。駆動ロッド36は長尺状部材で、上方へ延設されている。駆動ロッドの中間部には、上下に離間した2つの円柱部36a,36bが設けられている。円柱部36aは、円柱部36bの上方に位置し、円柱部36a,36bの中間には、円筒状のガイド37が設けられている。ガイド37の下端は、フレームFRに固定されている。駆動ロッド36は、ガイド37によってガイドされて上下方向にのみ変位する。また、ゴム、フェルトなどの衝撃吸収材によって構成された環状の駆動ロッド上限ストッパ38がフレームFRに固定されている。また、駆動ロッド上限ストッパ38と同様の駆動ロッド下限ストッパ39がガイド37の上面に固定されている。円柱部36aの下面及び円柱部36bの上面が、それぞれ駆動ロッド下限ストッパ39及び駆動ロッド上限ストッパ38に当接して、駆動ロッド36の変位が規制される。
【0028】
駆動ロッド36の上端には、可動共鳴体41が組み付けられる。可動共鳴体41は、図8Aに示すように、横方向に延設された金属板の前部の一部を切り欠くことにより、平面視方形状の前方に張り出した張出し部を有する。この張出し部の下面に、振動板24の後部が組み付けられ、振動板24はさらに前方へ張り出している。可動共鳴体41の下方には、固定共鳴体42が支持部材28を介してフレームFRに固定されている。固定共鳴体42も、図8Bに示すように、可動共鳴体41と同様に、横方向に延設された金属板で、前部に平面視方形状の前方に張り出した張出し部を有する。この張出した部の上面に、振動板25,26の後部が組み付けられ、振動板25,26は、さらに前方へ張り出している。
【0029】
レバー29が踏み込まれていない状態においては、ばね32によって、レバー29の前端部が上方へ付勢され、レバー29の上面がレバー上限ストッパ33に当接する。そして、駆動ロッド36の円柱部36aの下面が駆動ロッド下限ストッパ39に当接して、図6の状態になっている。すなわち、振動板24,25,26は、第1実施形態と同様に、横方向に等間隔に並設された状態となっており、上下方向及び前後方向の位置も同一となっている。ばね32の付勢力に対抗してレバー29を踏み込むと、レバー29の後部が上方へ変位する。これにより、駆動ロッド36も上方へ変位するので、振動板24も上方へ変位する。駆動ロッド36の円柱部36bの上面が駆動ロッド上限ストッパ38に当接すると、駆動ロッド36の上方への変位が規制され、図9の状態となる。すなわち、離鍵状態において、弾き部材21と振動板24との上下方向の距離は、弾き部材22,23と振動板25,26との上下方向の距離よりも大きくなる。この状態で押鍵すれば、弾き部材22,23が振動板25,26を弾くのに遅れて、弾き部材21が振動板24を弾くので、音の立ち上がりを複雑にして、発生される音を豊かにすることができる。また、演奏者が演奏中にレバー29を踏み込み操作して、振動板24と振動板25,26との上下方向の距離を変更することにより、振動板24,25,26の振動開始タイミングを調節できるので、楽器の表現力をさらに向上させることができる。なお、駆動ロッド36の円柱部36bの上面が駆動ロッド上限ストッパ38に当接する前に、演奏者がレバー29の踏み込み操作を適当な位置で停止するようにすれば、振動板24と振動板25,26との上下方向の距離を任意に変更することもできる。
【0030】
また、図10に示すように、可動共鳴体41を固定共鳴体42の下方に位置させておき、レバー29の踏み込みにより、可動共鳴体41を下方へ変位させるようにしてもよい。この場合、駆動ロッド36に代えて下端がフック状に形成された駆動ロッド43を用いる。駆動ロッド43も図示しないガイドによって、上下方向にのみ変位可能となっている。レバー29の中間部には、駆動ロッド43の下端のフックに係合する駆動ロッド係合部29aが設けられる。駆動ロッド43の中間部に設けられた円柱部43aとフレームFRの間にばね44が設けられ、ばね44の上端が円柱部43aの下面に当接している。これにより、駆動ロッド43は上方へ付勢され、駆動ロッド43の下端のフックは、駆動ロッド係合部29aに常に係合している。駆動ロッド43の上端には可動共鳴体41が組み付けられている。また、可動共鳴体41の上方には、固定共鳴体42が支持部材28を介してフレームFRに固定されている。他の構成は、図6の場合と同様である。
【0031】
レバー29が踏み込まれていない状態においては、ばね32によって、レバー29の前端部が上方へ付勢され、レバー29の上面がレバー上限ストッパ33に当接する。そして、駆動ロッド43は、ばね44によって上方に付勢され、図10の状態になっている。この状態では、図6に示す第3実施形態の変形例と同様に、振動板24,25,26は、横方向に等間隔に並設されており、上下方向及び前後方向の位置も同一となっている。ばね32及びばね44の付勢力に対抗してレバー29を踏み込むと、レバー29に係合した駆動ロッド43が下方へ変位するので、振動板24も下方へ変位する。レバー29の前部下面がレバー下限ストッパ34に当接すると、レバー29及び駆動ロッド43の下方への変位が規制される。すなわち、離鍵状態において、弾き部材21と振動板24との上下方向の距離は、弾き部材22,23と振動板25,26との上下方向の距離よりも小さくなる。この状態で押鍵すれば、弾き部材21が振動板24を弾くのに遅れて、弾き部材22,23が振動板25,26を弾くので、図6に示す第3実施形態の変形例と同様の効果が得られる。また、この場合も、レバー下限ストッパ34によって、レバー29及び駆動ロッド43の下方への変位が規制される前の適当な位置で、レバー29の踏み込み操作を停止すれば、振動板24と振動板25,26との上下方向の距離を任意に変更することもできる。
【0032】
さらに、図11に示すように、レバー29の踏み込みにより可動共鳴体41の支持部材46を後方へ倒すように回転させてもよい。この場合、可動共鳴体41の支持部材46は、下端部がフレームFRに固定された支持部47によって回転中心47aを中心として回転可能に支持される。また、支持部材46の下端部から前方へ被駆動部46aが延設されている。被駆動部46aの下面には、駆動ロッド36の上端が当接している。被駆動部46aの上方には、ばね48が設けられている。ばね48は、上端がフレームFRに固定されており、下端は被駆動部46aの上面に当接している。他の構成は、図6の場合と同様である。
【0033】
レバー29が踏み込まれていない状態においては、ばね32によって、レバー29の前端部が上方へ付勢され、レバー29の上面がレバー上限ストッパ33に当接する。また、ばね48によって被駆動部46aが下方へ付勢されて、支持部材46は回転中心47aを中心として図11にて反時計回りに回転する。そして、駆動ロッド36の円柱部36aの下面が駆動ロッド下限ストッパ39の上面に当接して、図11の状態となっている。この状態では、図6に示す第3実施形態の変形例と同様に、振動板24,25,26は、横方向に等間隔に並設されており、上下方向及び前後方向の位置も同一となっている。ばね32及びばね48の付勢力に対抗してレバー29を踏み込むと、レバー29の後部が上方へ変位する。これにより、駆動ロッド36も上方へ変位するので、支持部材46が回転中心47aを中心として図11において時計回りに回転する。駆動ロッド36の円柱部36bの上面が駆動ロッド上限ストッパ38に当接すると、駆動ロッド36の上方への変位が規制される。そのため、振動板24が振動板25,26に対して傾斜した状態で支持部材46の回転が停止し、振動板24の前端部が振動板25,26の前端部よりも上方に位置する。すなわち、離鍵状態において、弾き部材21と振動板24との上下方向の距離は、弾き部材22,23と振動板25,26との上下方向の距離よりも大きくなる。この状態で押鍵すれば、弾き部材22,23が振動板25,26を弾くのに遅れて、弾き部材21が振動板24を弾く。これにより、図6に示す第3実施形態の変形例と同様の効果が得られる。また、この場合も、駆動ロッド上限ストッパ38によってレバー29及び駆動ロッド36の上方への変位が規制される前の適当な位置で、レバー29の踏み込み操作を停止すれば、振動板24と振動板25,26との上下方向の距離を任意に変更することもできる。
【0034】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0035】
上記第1乃至第3実施形態においては、鍵11の後部上面側に組み付けられた弾き部によって、振動板を弾くようにした。しかし、図12に示すように、押離鍵操作に伴って、弾き部を一定方向に回転させて振動板を弾くようにしてもよい。鍵11は、上記実施形態と同様に支持され、下限ストッパ16及び上限ストッパ17によって、揺動範囲が規定されている。鍵11の後部上面には、下部が円柱状に形成され、上部が半球状に形成された突起状のキャプスタン51が組み付けられている。キャプスタン51の上端には、アーム52の前端部の下面が当接している。
【0036】
アーム52は、図13に示すように、基部53、第1駆動部54及び第2駆動部55から構成される。基部53は、合成樹脂製で、下面の中間部から前方の部分が僅かに下方へ湾曲している。一方、基部53の上面は、中間部から前方へ向かうに従って低くなる急傾斜の斜面を形成している。第1駆動部54及び第2駆動部55は金属製で円弧状に屈曲した屈曲部を有するように成形された板状部材である。各屈曲部の先端面は平面になっている。第1駆動部54は基部53の後端部の高音部側(演奏者から見て右側)の面上に、その屈曲部が上方から下方に向かうように組み付けられる。第2駆動部55は、基部53の低音部側(演奏者から見て左側)の面上に、その屈曲部が下方から上方へ向かうように組み付けられる。第1駆動部54及び第2駆動部55は、それぞれ屈曲部が基部53の後端から後方へ張出しており、横方向に若干ずれて位置している。
【0037】
アーム52は、フレームFRに固定されたアーム支持部材56に設けられた回転中心56aを中心として回転可能に支持される。アーム52の後方には、回転式弾き部57が、アーム支持部材56に設けられた回転中心56bを中心として回転可能に支持される。
【0038】
回転式弾き部57は、金属製で、図14A乃至図14Cに示すように、第1乃至第4円板57a,57b,57c,57dを有し、高音部側から低音部側へ向かってこの順に等間隔に配置されるように、それぞれの中心が中心軸57eに接合された部材である。なお、図14Aは回転式弾き部57の右側面図であり、図14Bは回転式弾き部57の平面図であり、図14Cは回転式弾き部の左側面図である。また、各円板の構成を明瞭に示すために、図14Aにおいては、第3及び第4円板57c,57dを省略し、図14Cにおいては、第1及び第2円板57a,57bを省略している。
【0039】
第1円板57a及び第4円板57dは、同様の構成で、外周部に複数(例えば4つ)の弾き爪57a1,57d1を有する。弾き爪57a1,57d1は、第1及び第4円板の外周に突起状に設けられていて、それぞれ振動板24,26を弾く。弾き爪57a1,57d1は、周方向の同一位置に設けられている。弾き爪57a1,57d1の振動板24,26と当接する面は円弧状の曲面となっている。第2円板57bは、弾き爪57a1,57d1と同数の第1被駆動爪57b1を外周に有している。第1被駆動爪57b1は、突起状で、アーム52の第1駆動部54の先端面と当接する平面部と、第1駆動部54の屈曲部と当接する円弧状の曲面部を有する。また、第3円板57cも、第2円板57bと同様に、弾き爪57a1,57d1と同数の第2被駆動爪57c1をその外周に有する。第2被駆動爪57c1には、アーム52の第2駆動部55が当接する。第2被駆動爪57c1の形状は、第1被駆動爪57b1と同様である。ただし、第3円板57cは第2円板57bとは各被駆動爪57b1,57c1の位置が45度ずれている。回転式弾き部57の後方には振動板24,25,26が第1実施形態と同様に構成されている。図15に示すように、振動板24,26は、円板57a,57dの外周面に対向しており、振動板25は、第2円板57bと第3円板57cの中間かつ後方に位置している。
【0040】
次に、上記のように構成した鍵盤楽器の動作を説明する。図16A乃至図19Aは、回転式弾き部57の周辺を拡大して高音部側から見た図であり、図16B乃至図19Bは、回転式弾き部57の周辺を拡大して、低音部側から見た図である。また、第1駆動部54、第1被駆動爪57b1、第2駆動部55及び第2被駆動爪57c1の位置関係を明瞭に示すため、図16A乃至図19Aにおいては、第3及び第4円板57c,57dを省略し、図16B乃至図19Bにおいては、第1及び第2円板57a,57bを省略している。離鍵時には、ばね14によって、鍵11の前部が上方へ付勢されて、図12において時計回りに回転し、鍵11の後部下面が下限ストッパ17に当接して、図12の状態となっている。このとき、アーム52の第1駆動部54は、図16Aに示すように、回転式弾き部57の第1被駆動爪57b1から離れている。一方、図16Bに示すように、アーム52の第2駆動部55の先端面は、回転式弾き部57の第2被駆動爪57c1の平面部に当接した状態となっている。さらに、第2駆動部55と第2被駆動爪57c1の円弧状の曲面同士が当接している。従って、この状態では、回転式弾き部57は第2駆動部55によって固定された状態になり、回転不可能となっている。
【0041】
一方、ばね14の付勢力に対抗して鍵11を押すと、鍵11は回転中心13を中心として、図12にて反時計回りに回転し始める。すると、鍵11の後部が上方に変位し、キャプスタン51に当接しているアーム52の前部を上方へ変位させる。これにより、アーム52は回転中心56aを中心として、図12にて時計回りに回転する。さらに深く押鍵されると、図17Aに示すように、第1駆動部54の先端面が第1被駆動爪57b1の平面部に当接して、回転式弾き部57を図17Aにて時計回りに回転させようとする。このとき、図17Bに示すように第2被駆動爪57c1は、第2駆動部55から解放されているので、回転式弾き部57は回転可能となっている。したがって、回転式弾き部57が回転し、それに伴い弾き爪57a1,57d1も回転する。その後、弾き爪57a1,57d1は振動板24,26の自由端に当接して、振動板24,26の自由端側を下方へ押し曲げる。弾き爪57a1,57d1がさらに回転すると、図18A及び図18Bに示すように、弾き爪57a1,57d1は振動板24,26を乗り越える。すなわち、弾き爪57a1,57d1が振動板24,26を同時に弾く。そして、第2実施形態と同様に、振動板24,26が振動し、その振動が共鳴体27により増幅され、鍵音高に対応する楽器音が発音される。また、振動板25は、振動板24,26の振動に起因して共振する。そして、鍵11の前部下面が下限ストッパ16に当接すると、鍵11の揺動は停止し、回転式弾き部57の回転も停止する。この状態では、図18Bに示すように、アーム52の第2駆動部55は、回転式弾き部57の第2被駆動爪57c1から離れている。一方、図18Aに示すように、アーム52の第1駆動部54及び回転式弾き部57の第1被駆動爪57b1の円弧状の曲面同士が当接するので、回転式弾き部57は回転不可能になっている。
【0042】
離鍵時には、ばね14の付勢力によって鍵11の前部が上方へ押し上げられる。これにより、鍵11は回転中心13を中心として、図12において時計回りに回転し始める。鍵11の後端部は下方へ変位し、アーム52は自重により回転中心56aを中心として、図12にて反時計回りに回転する。すると、図19Bに示すように、第2駆動部55の先端面が第2被駆動爪57c1の平面部に当接して、回転式弾き部57を押鍵時と同じ方向(図19Aにて時計回り、すなわち図19Bにおいて反時計回り)へ回転させようとする。このとき、図19Aに示すように、第1被駆動爪57b1は第1駆動部54から解放されているので、回転式弾き部57は回転可能となっている。したがって、回転式弾き部57の回転により、押鍵によって振動板24,26を弾いた弾き爪57a1,57d1が、振動板24,26から遠ざかる。鍵11の後部下面が上限ストッパ17に当接すると、鍵11の前部の上方への変位が規制され、鍵11は元の位置(図12の位置)へ復帰し、アーム52と回転式弾き部57も元の位置(図16A及び図16Bの位置)へ復帰する。
【0043】
上記のように構成しても、鍵11の押鍵操作に連動するアーム52によって、回転式弾き部57を回転させて振動板24,26を弾き、発音させることができる。そして、弾き部材によって弾かれない振動板25も振動板24,26の振動に起因して共振する。したがって、上記第2実施形態と同様の効果が得られる。さらに、離鍵時には、弾き爪57a1,57d1が振動板24,26から遠ざかる方向へ回転式弾き部57を回転させることができる。すなわち、離鍵時に弾き爪57a1,57d1が振動板24,26に接触しないので、雑音を発することがない。したがって、楽器の表現力をさらに向上させることができる。
【0044】
また、第2及び第3円板57b,57cの間に、第1円板57a又は第4円板57dと同様の円板を設ければ、振動板24,25,26を同時に弾くことができ、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。また、弾き爪57a1,57d1をそれぞれ第1及び第4円板57a,57dの周方向の若干異なる位置に設ければ、振動板24,26が弾かれるタイミングがずれるので、上記第3実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0045】
11・・・鍵、12・・・鍵支持部、21,22,23・・・弾き部材、24,25,26・・・振動板、27・・・共鳴体、41・・・可動共鳴体、42・・・固定共鳴体、52・・・アーム、57・・・回転式弾き部、57a1,57d1・・・弾き爪、57b1・・・第1被駆動爪、57c1・・・第2被駆動爪、フレーム・・・FR
【技術分野】
【0001】
本発明は、打鍵によって片持ち振動板を振動させて演奏する鍵盤楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば下記特許文献1に示されているように、演奏者による鍵の押鍵操作によって片持ち振動板を振動させて発音する鍵盤楽器は知られている。この鍵盤楽器においては、鍵の鍵音高に対応した周波数で振動する片持ち振動板が各鍵ごとに1つずつ設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−206028号公報
【発明の概要】
【0004】
上記従来の鍵盤楽器においては、一度の押鍵操作によって振動する片持ち振動板は1つだけなので、発生される音は、その音量が小さく、またオルゴールと同様に単純である。
【0005】
本発明は上記問題に対処するためになされたもので、その目的は、演奏者による鍵の押鍵操作によって片持ち振動板を振動させて発音する鍵盤楽器であって、発生される音の音量を大きくした鍵盤楽器を提供することにある。さらに、前記発生される音を豊かにして、表現力を向上させた鍵盤楽器を提供することにある。
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、複数の鍵(11)からなる鍵盤と、複数の鍵にそれぞれ対応して設けられ、振動して発音する複数の振動部と、複数の振動部にそれぞれ対応して設けられ、各鍵の押鍵操作に連動して、振動部を励振する複数の励振部とを備えた鍵盤楽器において、振動部は、複数の片持ち振動板(24,25,26)からなり、励振部(21,22,23,57a1,57d1)は、各鍵の一度の押鍵操作により、複数の片持ち振動板のうちのいずれか1つ又は複数の片持ち振動板を励振するようにしたことにある。例えば、複数の片持ち振動板のすべてを励振するようにすれば、上記従来の鍵盤楽器に比べて大きな音量で発音させることができる。また、励振部の一部を省略して、いくつかの片持ち振動板が励振されないようにしても、励振されない片持ち振動板は、励振された片持ち振動板の振動に起因して共振する。したがって、複数の片持ち振動板のすべてを励振する場合よりも単純な構造の励振部によって、上記従来の鍵盤楽器に比べて大きな音量で発音させることができる。
【0007】
また、本発明の他の特徴は、複数の片持ち振動板のうち、いずれか1つ又は複数の片持ち振動板の固有振動周波数を鍵音高に対応する周波数とは僅かに異ならせたことにある。これによれば、一度の押鍵操作において、僅かに音程の異なる音が同時に発生するので、上記従来の鍵盤楽器に比べて大きな音量で発音できるだけでなく、音が豊かに広がったような効果(コーラス効果)を得ることができる。
【0008】
また、本発明の他の特徴は、励振部は、複数の片持ち振動板のうち、少なくとも2つの片持ち振動板を異なるタイミングで励振することにある。これによれば、一度の押鍵操作において、複数の片持ち振動板のうちのいくつかの振動板は他の振動板の振動開始に遅れて振動し始めるので、音の立ち上がりが複雑になり、発生される音が豊かになる。したがって、楽器の表現力を向上させることができる。
【0009】
なお、前記括弧内の符号は、本発明の理解を容易にするために、後述する実施形態との対応関係を示すものであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態に係る鍵盤楽器を縦断して1つの鍵について示す右側面図である。
【図2】図1の鍵盤楽器の1つの鍵について示す平面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る鍵盤楽器の1つの鍵について示す平面図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る鍵盤楽器を縦断して、1つの鍵の後部を拡大して示す右側面である。
【図5】図4の鍵盤楽器の1つの鍵の後部を拡大して示す平面図である。
【図6】本発明の第3実施形態の変形例に係る鍵盤楽器を縦断して、1つの鍵について示す右側面図である。
【図7】図6の鍵盤楽器の1つの鍵について示す平面図である。
【図8A】図6の鍵盤楽器の可動共鳴体の構成を示す図である。
【図8B】図6の鍵盤楽器の固定共鳴体の構成を示す図である。
【図9】図6の鍵盤楽器のレバーを踏み込んで、可動共鳴体と固定共鳴体を上下方向に離間させた状態を示す図である。
【図10】本発明の第3実施形態の他の変形例に係る鍵盤楽器を縦断して、1つの鍵について示す右側面図である。
【図11】本発明の第3実施形態の他の変形例に係る鍵盤楽器を縦断して、1つの鍵について示す右側面図である。
【図12】本発明の第1乃至第3実施形態の変形例に係る鍵盤楽器を縦断して、1つの鍵について示す右側面図である。
【図13】図12のアームの構成を示す図である。
【図14A】図12の回転式弾き部の右側面図である。
【図14B】図12の回転式弾き部の平面図である。
【図14C】図12の回転式弾き部の左側面図である。
【図15】図12のA−A線に沿って見た断面図である。
【図16A】離鍵状態における第1駆動部と第1被駆動爪の位置関係を示す図である。
【図16B】離鍵状態における第2駆動部と第2被駆動爪の位置関係を示す図である。
【図17A】押鍵途中の第1駆動部と第1被駆動爪の位置関係を示す図である。
【図17B】押鍵途中の第2駆動部と第2被駆動爪の位置関係を示す図である。
【図18A】押鍵終了時の第1駆動部と第1被駆動爪の位置関係を示す図である。
【図18B】押鍵終了時の第2駆動部と第2被駆動爪の位置関係を示す図である。
【図19A】離鍵途中の第1駆動部と第1被駆動爪の位置関係を示す図である。
【図19B】離鍵途中の第2駆動部と第2被駆動爪の位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
a.第1実施形態
以下、本発明の第1実施形態について図面を用いて説明する。この鍵盤楽器は、図1及び図2に示すように、演奏者によって押離鍵操作される複数の鍵を有する。なお、いずれの鍵についても構成は同様なので、以降の説明は1つの鍵11についてのみ行う。鍵11は合成樹脂によって長尺状に形成されている。そして、鍵11は、フレームFRに設けられた鍵支持部12により支持されており、中間部の回転中心13を中心として、前端部が上下方向に揺動可能となっている。なお、フレームFRとは、この鍵盤楽器の種々の部品を支持するための構造体及びこの鍵盤楽器のハウジング自体を意味する。鍵11の前部下方には、ばね14が設けられている。ばね14の下端はフレームFRに固定され、その上端は鍵11の前部下面に当接している。ばね14は、鍵11の前部を上方へ付勢する。また、鍵11の前部下方には、ゴム、フェルトなどの衝撃吸収材によって構成された長尺状の下限ストッパ16が横方向に延設されてフレームFRに固定されている。この下限ストッパ16は、鍵11の前部の下方への変位を規制する。また、鍵11の後部下方には、下限ストッパ16と同様の上限ストッパ17が横方向に延設されてフレームFRに固定されている。この上限ストッパ17は鍵11の前部の上方への変位を規制する。
【0012】
鍵11の後部上面には、金属製で平面視方形状に形成された板状のベース板18が組み付けられている。ベース板18の上面には、後述の振動板24,25,26を弾くための弾き部を構成する3つの弾き部材21,22,23が、横方向に等間隔に組み付けられている。弾き部材21,22,23は、金属製で四角錐状に形成されていて、先細りとなった端部が鍵11及びベース板18の後端から楽器後部側へ張り出している。なお、弾き部材21,22,23の形状はこれに限られず、鍵11及びベース板18の後端から後方へ突出していて、鍵11の揺動に伴って振動板24,25,26を弾くことができる形状(例えば四角柱状)であればよい。また、弾き部材21,22,23は、鍵11の後端面に組み付けられていてもよい。また、横方向に幅の広い弾き部材を1つ設けて、この弾き部材で振動板24,25,26を弾くようにしてもよい。この場合、例えば、ベース板18を鍵11の後端から後方へ張り出させておいて、ベース板18の後端部で振動板24,25,26を弾くようにしてもよい。すなわち、ベース板18の後端部を弾き部として利用してもよい。
【0013】
鍵11の後方かつ上方には、弾き部材21,22,23にそれぞれ対応して、振動部を構成する3つの振動板24,25,26が設けられている。振動板24,25,26は金属などの板状弾性部材で長尺状に形成される。振動板24,25,26の一端は楽器後部にて横方向に延設された平板状の共鳴体27の上面に固定される。そして、その他端は共鳴体27から前方へ張り出している。すなわち、振動板24,25,26は片持ち梁状に支持されており、横方向に等間隔に並設されている。振動板24,25,26の固有振動周波数は、鍵11の音高に対応した周波数と同一である。したがって、振動板24,25,26の幅、厚み及び長さは同一である。共鳴体27は支持部材28を介してフレームFRに固定される。なお、この鍵盤楽器を構成するすべての振動板に対して1つの共鳴体27を設けてもよいし、所定の音域(例えば1オクターブ)ごと又は鍵11ごとに共鳴体27を設けてもよい。
【0014】
次に、上記のように構成した鍵盤楽器の動作を説明する。離鍵時においては、ばね14によって鍵11の前部が上方へ付勢される。これにより、鍵11の後端部下面が上限ストッパ17の上面に当接して、図1の状態となっている。一方、ばね14の付勢力に対抗して、鍵11を押すと、鍵11は、回転中心13を中心として、図1にて反時計回りに回転し始め、弾き部材21,22,23が上方へ変位する。その後、弾き部材21,22,23は、それぞれ振動板24,25,26の自由端に当接して、振動板24,25,26の自由端側を上方へ押し曲げる。弾き部材21,22,23が、さらに上方へ変位すると、弾き部材21,22,23は、それぞれ振動板24,25,26を乗り越える。すなわち、弾き部材21,22,23が、それぞれ振動板24,25,26を弾く。これにより、振動板24,25,26が振動し、その振動が共鳴体27により増幅され、鍵音高に対応する楽器音が発音される。さらに深く押鍵されると、鍵11の前部下面が下限ストッパ16に当接し、鍵11の前部の下方への変位が規制される。
【0015】
離鍵時においては、ばね14の付勢力によって鍵11の前部が上方へ押し上げられる。これにより、鍵11は回転中心13を中心として、図1において時計回りに回転し始め、弾き部材21,22,23が下方へ変位する。すると、弾き部材21,22,23がそれぞれ振動板24,25,26の自由端に当接して、振動板24,25,26の振動を抑制する。弾き部材21,22,23がさらに下方へ変位すると、弾き部材21,22,23は振動板24,25,26を乗り越える。鍵11の後部下面が上限ストッパ17に当接すると、鍵11の前部の上方への変位が規制され、鍵11は元の位置(図1の位置)へ復帰する。
【0016】
上記のように構成した鍵盤楽器においては、鍵11の一度の押鍵操作によって鍵11の後部上面に組み付けられた弾き部材21,22,23で振動板24,25,26を弾いて、発音することができる。すなわち、一度の押鍵操作によって、3つの振動板24,25,26が振動するので、上記従来の鍵盤楽器に比べて大きな音量で発音することができる。なお、上記実施形態においては、鍵11について、3つの振動板24,25,26を設けたが、振動板の数は3つに限られない。すなわち、2つ以上であれば、振動板をいくつ設けてもよい。そして、弾き部によって複数の振動板を同時に弾くようにすればよい。このように構成しても、図1に示す第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0017】
また、上記第1実施形態においては、振動板24,25,26の固有振動周波数を鍵音高に対応した周波数と同一とした。しかし、少なくとも1つの振動板の固有振動周波数を鍵音高に対応した周波数と同一としておき、他の振動板の固有振動周波数を鍵音高に対応した周波数とは僅かに異なるようにしてもよい。このように構成すれば、周波数の異なる音を同時に発生させて、発生音にコーラス効果を付与することができる。したがって、楽器の表現力を向上させることができる。
【0018】
b.第2実施形態
次に、弾き部によって弾かれない振動板を有するようにした、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態の構成は、ほぼ第1実施形態と同様であるが、図3に示すように、第1実施形態の弾き部材23が省略されている。すなわち、本実施形態に係る鍵盤楽器は、振動板24,25を弾くための弾き部を構成する2つの弾き部材21,22を有し、振動板26を弾くための弾き部材を有さない。
【0019】
上記のように構成した本発明の第2実施形態に係る鍵盤楽器の動作も、第1実施形態とほぼ同様である。ただし、鍵11が押されると、振動板24,25は弾き部材21,22によって弾かれるが、振動板26は弾かれない。しかし、振動板26は、振動板24,25の振動に起因して共振する。
【0020】
上記のように構成した鍵盤楽器においては、2つの振動板24,25がそれぞれ弾き部材21,22によって弾かれ、弾き部によって弾かれない振動板26も振動板24,25の振動に起因して共振するので、上記従来の鍵盤楽器に比べて大きな音量で発音することができる。また、第1実施形態の弾き部材23を省略して、2つの弾き部材21,22を有するようにしたので、第1実施形態に比べて簡単な構成にすることができる。なお、振動板は3つに限られず、2つ以上であればいくつ設けてもよい。そして、少なくとも1つの弾き部材が、少なくとも1つの振動板を弾くようにしておいて、他の弾き部材を省略すればよい。このように構成しても、弾き部によって弾かれない振動板は、弾かれた他の振動板の振動に起因して共振するため、上記第2実施形態と同様の効果が得られる。また、上記第2実施形態においても、少なくとも1つの振動板の固有振動周波数を鍵音高に対応した周波数と同一としておき、他の振動板の固有振動周波数を鍵音高に対応した周波数とは僅かに異ならせるようにしてもよい。これにより、発生音にコーラス効果を付与することができる。
【0021】
c.第3実施形態
次に、弾き部が振動板を弾くタイミングを異ならせるようにした本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態においては、図4及び図5に示すように、振動板24,25は、共鳴体27の下面に組み付けられ、振動板26は、共鳴体27の上面に組み付けられる。すなわち、振動板26は、振動板24,25よりも共鳴体27の厚さ分だけ上方に位置する。その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0022】
鍵11が押され、押鍵深さが中程度まで達した段階で、まず弾き部材21,22が振動板24,25をそれぞれ同時に弾く。この段階では、弾き部材23は、振動板26の下方に位置している。そして、鍵11がさらに深く押されると、弾き部材23が振動板26を弾く。
【0023】
上記のように構成した本発明の第3実施形態に係る鍵盤楽器においては、押鍵操作時に、振動板26は、振動板24,25に遅れて振動を開始する。そのため、上記従来の鍵盤楽器よりも大きな音量で発音させることができるだけでなく、音の立ち上がりを複雑にして、発生される音を豊かにできる。したがって、楽器の表現力を向上させることができる。また、押鍵開始から押鍵深さが中程度まで達して、振動板24,25を弾いた直後に離鍵した場合、振動板26は弾かれないが、振動板26は振動板24,25の振動に起因して共振する。したがって、押鍵途中で離鍵する場合と、深く押鍵する場合とで、異なった音を発生させることができるので、楽器の表現力を向上させることができる。なお、本実施形態においても振動板は3つに限られず、2つ以上の振動板を設ければよい。そして、少なくとも1つの振動板を共鳴体27の上面に組み付け、少なくとも1つの振動板を共鳴体27の下面に組み付ければよい。3つ以上の振動板を有する場合は、上下方向に離間した少なくとも一組の振動板を弾くための弾き部材を設けて、他の振動板を弾くための弾き部材を省略してもよい。
【0024】
また、第3実施形態においても、少なくとも1つの振動板の固有振動周波数を鍵音高に対応した周波数と同一としておき、他の振動板の固有振動周波数を鍵音高に対応した周波数とは僅かに異なるようにしてもよい。これにより、発生音にコーラス効果を付与することができる。
【0025】
また、全ての振動板24,25,26を、共鳴体27の上面(又は下面)に組み付けるとともに、ベース板18の上面に、弾き部材21,22よりも弾き部材23の組み付け位置が低くなるように段差を設けておいてもよい。このように構成しても、弾き部材21,22が振動板24,25を弾くのに遅れて、弾き部材23が振動板26を弾くので、上記第3実施形態と同様の効果が得られる。
【0026】
また、図6及び図7に示すようにペダルの踏み込みによって、振動板24と振動板25,26との上下方向の距離を変更可能とするようにしてもよい。振動板24,25,26の下方には、レバー29がフレームFRに固定されたレバー支持部31に支持されており、前端部が上下方向に揺動可能となっている。レバー29の前部下方には、ばね32がフレームFRに固定されており、レバー29の前部を上方へ付勢している。レバー29の中間部上方には、レバー29の上方向への変位を規制するレバー上限ストッパ33がフレームFRに固定されている。レバー29の前部下方には、レバー29の下方への変位を規制するレバー下限ストッパ34がフレームFRに固定されている。
【0027】
レバー29の後部上面には、駆動ロッド36の下端が当接している。駆動ロッド36は長尺状部材で、上方へ延設されている。駆動ロッドの中間部には、上下に離間した2つの円柱部36a,36bが設けられている。円柱部36aは、円柱部36bの上方に位置し、円柱部36a,36bの中間には、円筒状のガイド37が設けられている。ガイド37の下端は、フレームFRに固定されている。駆動ロッド36は、ガイド37によってガイドされて上下方向にのみ変位する。また、ゴム、フェルトなどの衝撃吸収材によって構成された環状の駆動ロッド上限ストッパ38がフレームFRに固定されている。また、駆動ロッド上限ストッパ38と同様の駆動ロッド下限ストッパ39がガイド37の上面に固定されている。円柱部36aの下面及び円柱部36bの上面が、それぞれ駆動ロッド下限ストッパ39及び駆動ロッド上限ストッパ38に当接して、駆動ロッド36の変位が規制される。
【0028】
駆動ロッド36の上端には、可動共鳴体41が組み付けられる。可動共鳴体41は、図8Aに示すように、横方向に延設された金属板の前部の一部を切り欠くことにより、平面視方形状の前方に張り出した張出し部を有する。この張出し部の下面に、振動板24の後部が組み付けられ、振動板24はさらに前方へ張り出している。可動共鳴体41の下方には、固定共鳴体42が支持部材28を介してフレームFRに固定されている。固定共鳴体42も、図8Bに示すように、可動共鳴体41と同様に、横方向に延設された金属板で、前部に平面視方形状の前方に張り出した張出し部を有する。この張出した部の上面に、振動板25,26の後部が組み付けられ、振動板25,26は、さらに前方へ張り出している。
【0029】
レバー29が踏み込まれていない状態においては、ばね32によって、レバー29の前端部が上方へ付勢され、レバー29の上面がレバー上限ストッパ33に当接する。そして、駆動ロッド36の円柱部36aの下面が駆動ロッド下限ストッパ39に当接して、図6の状態になっている。すなわち、振動板24,25,26は、第1実施形態と同様に、横方向に等間隔に並設された状態となっており、上下方向及び前後方向の位置も同一となっている。ばね32の付勢力に対抗してレバー29を踏み込むと、レバー29の後部が上方へ変位する。これにより、駆動ロッド36も上方へ変位するので、振動板24も上方へ変位する。駆動ロッド36の円柱部36bの上面が駆動ロッド上限ストッパ38に当接すると、駆動ロッド36の上方への変位が規制され、図9の状態となる。すなわち、離鍵状態において、弾き部材21と振動板24との上下方向の距離は、弾き部材22,23と振動板25,26との上下方向の距離よりも大きくなる。この状態で押鍵すれば、弾き部材22,23が振動板25,26を弾くのに遅れて、弾き部材21が振動板24を弾くので、音の立ち上がりを複雑にして、発生される音を豊かにすることができる。また、演奏者が演奏中にレバー29を踏み込み操作して、振動板24と振動板25,26との上下方向の距離を変更することにより、振動板24,25,26の振動開始タイミングを調節できるので、楽器の表現力をさらに向上させることができる。なお、駆動ロッド36の円柱部36bの上面が駆動ロッド上限ストッパ38に当接する前に、演奏者がレバー29の踏み込み操作を適当な位置で停止するようにすれば、振動板24と振動板25,26との上下方向の距離を任意に変更することもできる。
【0030】
また、図10に示すように、可動共鳴体41を固定共鳴体42の下方に位置させておき、レバー29の踏み込みにより、可動共鳴体41を下方へ変位させるようにしてもよい。この場合、駆動ロッド36に代えて下端がフック状に形成された駆動ロッド43を用いる。駆動ロッド43も図示しないガイドによって、上下方向にのみ変位可能となっている。レバー29の中間部には、駆動ロッド43の下端のフックに係合する駆動ロッド係合部29aが設けられる。駆動ロッド43の中間部に設けられた円柱部43aとフレームFRの間にばね44が設けられ、ばね44の上端が円柱部43aの下面に当接している。これにより、駆動ロッド43は上方へ付勢され、駆動ロッド43の下端のフックは、駆動ロッド係合部29aに常に係合している。駆動ロッド43の上端には可動共鳴体41が組み付けられている。また、可動共鳴体41の上方には、固定共鳴体42が支持部材28を介してフレームFRに固定されている。他の構成は、図6の場合と同様である。
【0031】
レバー29が踏み込まれていない状態においては、ばね32によって、レバー29の前端部が上方へ付勢され、レバー29の上面がレバー上限ストッパ33に当接する。そして、駆動ロッド43は、ばね44によって上方に付勢され、図10の状態になっている。この状態では、図6に示す第3実施形態の変形例と同様に、振動板24,25,26は、横方向に等間隔に並設されており、上下方向及び前後方向の位置も同一となっている。ばね32及びばね44の付勢力に対抗してレバー29を踏み込むと、レバー29に係合した駆動ロッド43が下方へ変位するので、振動板24も下方へ変位する。レバー29の前部下面がレバー下限ストッパ34に当接すると、レバー29及び駆動ロッド43の下方への変位が規制される。すなわち、離鍵状態において、弾き部材21と振動板24との上下方向の距離は、弾き部材22,23と振動板25,26との上下方向の距離よりも小さくなる。この状態で押鍵すれば、弾き部材21が振動板24を弾くのに遅れて、弾き部材22,23が振動板25,26を弾くので、図6に示す第3実施形態の変形例と同様の効果が得られる。また、この場合も、レバー下限ストッパ34によって、レバー29及び駆動ロッド43の下方への変位が規制される前の適当な位置で、レバー29の踏み込み操作を停止すれば、振動板24と振動板25,26との上下方向の距離を任意に変更することもできる。
【0032】
さらに、図11に示すように、レバー29の踏み込みにより可動共鳴体41の支持部材46を後方へ倒すように回転させてもよい。この場合、可動共鳴体41の支持部材46は、下端部がフレームFRに固定された支持部47によって回転中心47aを中心として回転可能に支持される。また、支持部材46の下端部から前方へ被駆動部46aが延設されている。被駆動部46aの下面には、駆動ロッド36の上端が当接している。被駆動部46aの上方には、ばね48が設けられている。ばね48は、上端がフレームFRに固定されており、下端は被駆動部46aの上面に当接している。他の構成は、図6の場合と同様である。
【0033】
レバー29が踏み込まれていない状態においては、ばね32によって、レバー29の前端部が上方へ付勢され、レバー29の上面がレバー上限ストッパ33に当接する。また、ばね48によって被駆動部46aが下方へ付勢されて、支持部材46は回転中心47aを中心として図11にて反時計回りに回転する。そして、駆動ロッド36の円柱部36aの下面が駆動ロッド下限ストッパ39の上面に当接して、図11の状態となっている。この状態では、図6に示す第3実施形態の変形例と同様に、振動板24,25,26は、横方向に等間隔に並設されており、上下方向及び前後方向の位置も同一となっている。ばね32及びばね48の付勢力に対抗してレバー29を踏み込むと、レバー29の後部が上方へ変位する。これにより、駆動ロッド36も上方へ変位するので、支持部材46が回転中心47aを中心として図11において時計回りに回転する。駆動ロッド36の円柱部36bの上面が駆動ロッド上限ストッパ38に当接すると、駆動ロッド36の上方への変位が規制される。そのため、振動板24が振動板25,26に対して傾斜した状態で支持部材46の回転が停止し、振動板24の前端部が振動板25,26の前端部よりも上方に位置する。すなわち、離鍵状態において、弾き部材21と振動板24との上下方向の距離は、弾き部材22,23と振動板25,26との上下方向の距離よりも大きくなる。この状態で押鍵すれば、弾き部材22,23が振動板25,26を弾くのに遅れて、弾き部材21が振動板24を弾く。これにより、図6に示す第3実施形態の変形例と同様の効果が得られる。また、この場合も、駆動ロッド上限ストッパ38によってレバー29及び駆動ロッド36の上方への変位が規制される前の適当な位置で、レバー29の踏み込み操作を停止すれば、振動板24と振動板25,26との上下方向の距離を任意に変更することもできる。
【0034】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0035】
上記第1乃至第3実施形態においては、鍵11の後部上面側に組み付けられた弾き部によって、振動板を弾くようにした。しかし、図12に示すように、押離鍵操作に伴って、弾き部を一定方向に回転させて振動板を弾くようにしてもよい。鍵11は、上記実施形態と同様に支持され、下限ストッパ16及び上限ストッパ17によって、揺動範囲が規定されている。鍵11の後部上面には、下部が円柱状に形成され、上部が半球状に形成された突起状のキャプスタン51が組み付けられている。キャプスタン51の上端には、アーム52の前端部の下面が当接している。
【0036】
アーム52は、図13に示すように、基部53、第1駆動部54及び第2駆動部55から構成される。基部53は、合成樹脂製で、下面の中間部から前方の部分が僅かに下方へ湾曲している。一方、基部53の上面は、中間部から前方へ向かうに従って低くなる急傾斜の斜面を形成している。第1駆動部54及び第2駆動部55は金属製で円弧状に屈曲した屈曲部を有するように成形された板状部材である。各屈曲部の先端面は平面になっている。第1駆動部54は基部53の後端部の高音部側(演奏者から見て右側)の面上に、その屈曲部が上方から下方に向かうように組み付けられる。第2駆動部55は、基部53の低音部側(演奏者から見て左側)の面上に、その屈曲部が下方から上方へ向かうように組み付けられる。第1駆動部54及び第2駆動部55は、それぞれ屈曲部が基部53の後端から後方へ張出しており、横方向に若干ずれて位置している。
【0037】
アーム52は、フレームFRに固定されたアーム支持部材56に設けられた回転中心56aを中心として回転可能に支持される。アーム52の後方には、回転式弾き部57が、アーム支持部材56に設けられた回転中心56bを中心として回転可能に支持される。
【0038】
回転式弾き部57は、金属製で、図14A乃至図14Cに示すように、第1乃至第4円板57a,57b,57c,57dを有し、高音部側から低音部側へ向かってこの順に等間隔に配置されるように、それぞれの中心が中心軸57eに接合された部材である。なお、図14Aは回転式弾き部57の右側面図であり、図14Bは回転式弾き部57の平面図であり、図14Cは回転式弾き部の左側面図である。また、各円板の構成を明瞭に示すために、図14Aにおいては、第3及び第4円板57c,57dを省略し、図14Cにおいては、第1及び第2円板57a,57bを省略している。
【0039】
第1円板57a及び第4円板57dは、同様の構成で、外周部に複数(例えば4つ)の弾き爪57a1,57d1を有する。弾き爪57a1,57d1は、第1及び第4円板の外周に突起状に設けられていて、それぞれ振動板24,26を弾く。弾き爪57a1,57d1は、周方向の同一位置に設けられている。弾き爪57a1,57d1の振動板24,26と当接する面は円弧状の曲面となっている。第2円板57bは、弾き爪57a1,57d1と同数の第1被駆動爪57b1を外周に有している。第1被駆動爪57b1は、突起状で、アーム52の第1駆動部54の先端面と当接する平面部と、第1駆動部54の屈曲部と当接する円弧状の曲面部を有する。また、第3円板57cも、第2円板57bと同様に、弾き爪57a1,57d1と同数の第2被駆動爪57c1をその外周に有する。第2被駆動爪57c1には、アーム52の第2駆動部55が当接する。第2被駆動爪57c1の形状は、第1被駆動爪57b1と同様である。ただし、第3円板57cは第2円板57bとは各被駆動爪57b1,57c1の位置が45度ずれている。回転式弾き部57の後方には振動板24,25,26が第1実施形態と同様に構成されている。図15に示すように、振動板24,26は、円板57a,57dの外周面に対向しており、振動板25は、第2円板57bと第3円板57cの中間かつ後方に位置している。
【0040】
次に、上記のように構成した鍵盤楽器の動作を説明する。図16A乃至図19Aは、回転式弾き部57の周辺を拡大して高音部側から見た図であり、図16B乃至図19Bは、回転式弾き部57の周辺を拡大して、低音部側から見た図である。また、第1駆動部54、第1被駆動爪57b1、第2駆動部55及び第2被駆動爪57c1の位置関係を明瞭に示すため、図16A乃至図19Aにおいては、第3及び第4円板57c,57dを省略し、図16B乃至図19Bにおいては、第1及び第2円板57a,57bを省略している。離鍵時には、ばね14によって、鍵11の前部が上方へ付勢されて、図12において時計回りに回転し、鍵11の後部下面が下限ストッパ17に当接して、図12の状態となっている。このとき、アーム52の第1駆動部54は、図16Aに示すように、回転式弾き部57の第1被駆動爪57b1から離れている。一方、図16Bに示すように、アーム52の第2駆動部55の先端面は、回転式弾き部57の第2被駆動爪57c1の平面部に当接した状態となっている。さらに、第2駆動部55と第2被駆動爪57c1の円弧状の曲面同士が当接している。従って、この状態では、回転式弾き部57は第2駆動部55によって固定された状態になり、回転不可能となっている。
【0041】
一方、ばね14の付勢力に対抗して鍵11を押すと、鍵11は回転中心13を中心として、図12にて反時計回りに回転し始める。すると、鍵11の後部が上方に変位し、キャプスタン51に当接しているアーム52の前部を上方へ変位させる。これにより、アーム52は回転中心56aを中心として、図12にて時計回りに回転する。さらに深く押鍵されると、図17Aに示すように、第1駆動部54の先端面が第1被駆動爪57b1の平面部に当接して、回転式弾き部57を図17Aにて時計回りに回転させようとする。このとき、図17Bに示すように第2被駆動爪57c1は、第2駆動部55から解放されているので、回転式弾き部57は回転可能となっている。したがって、回転式弾き部57が回転し、それに伴い弾き爪57a1,57d1も回転する。その後、弾き爪57a1,57d1は振動板24,26の自由端に当接して、振動板24,26の自由端側を下方へ押し曲げる。弾き爪57a1,57d1がさらに回転すると、図18A及び図18Bに示すように、弾き爪57a1,57d1は振動板24,26を乗り越える。すなわち、弾き爪57a1,57d1が振動板24,26を同時に弾く。そして、第2実施形態と同様に、振動板24,26が振動し、その振動が共鳴体27により増幅され、鍵音高に対応する楽器音が発音される。また、振動板25は、振動板24,26の振動に起因して共振する。そして、鍵11の前部下面が下限ストッパ16に当接すると、鍵11の揺動は停止し、回転式弾き部57の回転も停止する。この状態では、図18Bに示すように、アーム52の第2駆動部55は、回転式弾き部57の第2被駆動爪57c1から離れている。一方、図18Aに示すように、アーム52の第1駆動部54及び回転式弾き部57の第1被駆動爪57b1の円弧状の曲面同士が当接するので、回転式弾き部57は回転不可能になっている。
【0042】
離鍵時には、ばね14の付勢力によって鍵11の前部が上方へ押し上げられる。これにより、鍵11は回転中心13を中心として、図12において時計回りに回転し始める。鍵11の後端部は下方へ変位し、アーム52は自重により回転中心56aを中心として、図12にて反時計回りに回転する。すると、図19Bに示すように、第2駆動部55の先端面が第2被駆動爪57c1の平面部に当接して、回転式弾き部57を押鍵時と同じ方向(図19Aにて時計回り、すなわち図19Bにおいて反時計回り)へ回転させようとする。このとき、図19Aに示すように、第1被駆動爪57b1は第1駆動部54から解放されているので、回転式弾き部57は回転可能となっている。したがって、回転式弾き部57の回転により、押鍵によって振動板24,26を弾いた弾き爪57a1,57d1が、振動板24,26から遠ざかる。鍵11の後部下面が上限ストッパ17に当接すると、鍵11の前部の上方への変位が規制され、鍵11は元の位置(図12の位置)へ復帰し、アーム52と回転式弾き部57も元の位置(図16A及び図16Bの位置)へ復帰する。
【0043】
上記のように構成しても、鍵11の押鍵操作に連動するアーム52によって、回転式弾き部57を回転させて振動板24,26を弾き、発音させることができる。そして、弾き部材によって弾かれない振動板25も振動板24,26の振動に起因して共振する。したがって、上記第2実施形態と同様の効果が得られる。さらに、離鍵時には、弾き爪57a1,57d1が振動板24,26から遠ざかる方向へ回転式弾き部57を回転させることができる。すなわち、離鍵時に弾き爪57a1,57d1が振動板24,26に接触しないので、雑音を発することがない。したがって、楽器の表現力をさらに向上させることができる。
【0044】
また、第2及び第3円板57b,57cの間に、第1円板57a又は第4円板57dと同様の円板を設ければ、振動板24,25,26を同時に弾くことができ、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。また、弾き爪57a1,57d1をそれぞれ第1及び第4円板57a,57dの周方向の若干異なる位置に設ければ、振動板24,26が弾かれるタイミングがずれるので、上記第3実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0045】
11・・・鍵、12・・・鍵支持部、21,22,23・・・弾き部材、24,25,26・・・振動板、27・・・共鳴体、41・・・可動共鳴体、42・・・固定共鳴体、52・・・アーム、57・・・回転式弾き部、57a1,57d1・・・弾き爪、57b1・・・第1被駆動爪、57c1・・・第2被駆動爪、フレーム・・・FR
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鍵からなる鍵盤と、
前記複数の鍵にそれぞれ対応して設けられ、振動して発音する複数の振動部と、
前記複数の振動部にそれぞれ対応して設けられ、各鍵の押鍵操作に連動して、前記振動部を励振する複数の励振部とを備えた鍵盤楽器において、
前記振動部は、複数の片持ち振動板からなり、
前記励振部は、各鍵の一度の押鍵操作により、前記複数の片持ち振動板のうちのいずれか1つ又は複数の片持ち振動板を励振するようにしたことを特徴とする鍵盤楽器。
【請求項2】
前記複数の片持ち振動板のうち、いずれか1つ又は複数の片持ち振動板の固有振動周波数を鍵音高に対応する周波数とは僅かに異ならせたことを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器。
【請求項3】
前記励振部は、前記複数の片持ち振動板のうち、少なくとも2つの片持ち振動板を異なるタイミングで励振することを特徴とする請求項1又は2に記載の鍵盤楽器。
【請求項1】
複数の鍵からなる鍵盤と、
前記複数の鍵にそれぞれ対応して設けられ、振動して発音する複数の振動部と、
前記複数の振動部にそれぞれ対応して設けられ、各鍵の押鍵操作に連動して、前記振動部を励振する複数の励振部とを備えた鍵盤楽器において、
前記振動部は、複数の片持ち振動板からなり、
前記励振部は、各鍵の一度の押鍵操作により、前記複数の片持ち振動板のうちのいずれか1つ又は複数の片持ち振動板を励振するようにしたことを特徴とする鍵盤楽器。
【請求項2】
前記複数の片持ち振動板のうち、いずれか1つ又は複数の片持ち振動板の固有振動周波数を鍵音高に対応する周波数とは僅かに異ならせたことを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器。
【請求項3】
前記励振部は、前記複数の片持ち振動板のうち、少なくとも2つの片持ち振動板を異なるタイミングで励振することを特徴とする請求項1又は2に記載の鍵盤楽器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図17A】
【図17B】
【図18A】
【図18B】
【図19A】
【図19B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図17A】
【図17B】
【図18A】
【図18B】
【図19A】
【図19B】
【公開番号】特開2011−75754(P2011−75754A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226149(P2009−226149)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
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