説明

鍵盤装置

【課題】発熱時にも駆動推力を維持することが可能となる鍵盤装置を提供する。
【解決手段】鍵盤装置は、複数の鍵、および複数の鍵とそれぞれ連動する連動部材と、複数の鍵、又は複数の連動部材をそれぞれ独立に駆動する複数の電気的駆動部を含み、鍵を押鍵前の初期位置から押鍵位置まで変位させる押鍵動作、および鍵を押鍵位置から初期位置まで変位させる離鍵動作を含む押離鍵動作を鍵毎に行なわせる鍵駆動手段と、鍵駆動手段の温度を検出する少なくとも1つの温度検出手段と、自動演奏モードにおいて、時間経過に従って供給される鍵の押鍵および離鍵を表す鍵情報に応じて、鍵駆動手段を電気的に駆動制御する鍵駆動信号を供給する鍵駆動制御手段であって、温度検出手段による検出結果に応じて鍵駆動信号を変化させる鍵駆動制御手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵盤を駆動制御する鍵盤駆動制御装置を備えた鍵盤装置に関する。
【0002】
「ソレノイド」は、コイルのみでなく、鉄などの磁性金属で形成された可動部材をコイル内に備え、コイルに電流を流すことにより可動部材の直進運動を得る機構を意味するものとする。
【背景技術】
【0003】
ピアノ等の鍵盤楽器に自動演奏を行なわせる場合、鍵盤の鍵又は鍵に連動する部材をソレノイド等で駆動する。生ピアノにおいては、駆動された鍵に連動するハンマが弦を打弦することにより楽音が生じる。所望の楽音を生じさせるためには、正確なタイミングで、所定の速度でハンマが弦を打つことが必要であり、ハンマを駆動する鍵の移動速度をフィードバック制御することが行なわれる。電子ピアノにおいては、楽音は自動演奏データによって電子音源から発生し、鍵の動きには関係しない。但し、鍵盤は発生する楽音と合う押鍵、離鍵運動を示すことが望ましい。例えば、アタックの強い楽音が発生しているのに、押鍵動作が弱々しいのは不自然である。
【0004】
特許第2890557号公報は、鍵の動きを光学的に検出し、鍵の変位、又は速度、又は加速度を検出し、実演奏情報と比較して偏差を算出し、偏差の絶対値を小さくするような駆動信号を算出し、アナログ変換した駆動信号をソレノイドのコイルに供給することを提案する。
【0005】
特開平7−219526号公報は、演奏情報に応じた駆動パターンを生成してソレノイドを励磁駆動し、鍵に打鍵動作を与え、打鍵動作が打弦機構に伝達される際、ソレノイドが発熱して加熱状態となると、励磁コイルの抵抗成分が増加し、ソレノイドの推力が低下し、打弦力が落ちて発音音量が弱くなってしまうことを指摘し、打鍵動作に基づく鍵速度を検出し、演奏情報に対応する打鍵速度と比較して誤差信号を生成し、打鍵動作の定常的な速度偏差を制御すると共に、鍵加速度を検出し、誤差信号と比較して、加速度偏差を制御することによって、伝達関数における減衰率を、加速度フィードバックゲインを変えることによって個別に調整することを提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2890557号公報
【特許文献2】特開平7−219526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ソレノイドが発熱して加熱状態となると、励磁コイルの抵抗成分が増加し、ソレノイドの推力が低下して、鍵の動きが弱々しくなる。生鍵盤楽器においては、発生する楽音に直接影響する。電子鍵盤楽器においても、見た目の演奏が弱々しくなり、好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1観点によれば、
複数の鍵、および前記複数の鍵とそれぞれ連動する連動部材と、
前記複数の鍵、又は前記複数の連動部材をそれぞれ独立に駆動する複数の電気的駆動部を含み、鍵を押鍵前の初期位置から押鍵位置まで変位させる押鍵動作、および鍵を前記押鍵位置から前記初期位置まで変位させる離鍵動作を含む押離鍵動作を鍵毎に行なわせる鍵駆動手段と、
前記鍵駆動手段の温度を検出する少なくとも1つの温度検出手段と、
自動演奏モードにおいて、時間経過に従って供給される鍵の押鍵および離鍵を表す鍵情報に応じて、前記鍵駆動手段を電気的に駆動制御する鍵駆動信号を供給する鍵駆動制御手段であって、前記温度検出手段による検出結果に応じて前記鍵駆動信号を変化させる鍵駆動制御手段と、
を有する鍵盤装置
が提供される。
【発明の効果】
【0009】
各鍵の速度フィードバックないし加速度フィードバックを行なうことなく、発熱時にも駆動推力を維持することが可能となる。
【0010】
発熱時に必要なマージンを考慮することなく、通常駆動時の駆動電流を設定できるため、消費電力を低減でき、発熱そのものも抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1A,図1Bは、電子鍵盤楽器の構成を概略的に示すブロック図、鍵盤装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図2A,図2B,図2Cは、鍵盤装置の休止時、押鍵時の状態を示す断面図、および駆動ユニットを拡大して示す断面図である。
【図3−1】図3Aは、鍵駆動のデューティ比テーブルのデータ内容を示すグラフである。
【図3−2】図3B,図3Cは、検出した温度に応じてデューティ比を調整する2種類の制御のフローチャートである。
【図4−1】図4Aは、自動演奏プログラムのフローチャートである。
【図4−2】図4Bは、自動演奏に含まれる鍵駆動イベント処理のフローチャートである。
【図4−3】図4Cは、鍵駆動イベント処理に含まれる鍵駆動オフ処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る鍵盤装置を備えた電子楽器の構成について図面を用いて説明する。
【0013】
図1Aに示すように、電子楽器において、押鍵操作、自動演奏等を行う鍵盤装置10、スイッチなどの設定操作子64の状態を検出する検出回路67、表示装置65、サウンドシステム69に楽音信号を供給する音源66、プログラムなどを記憶する読み出し専用メモリ(ROM)73、測定値、演算値等を一時記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)74、自動演奏データなどを記憶するハードディスクドライブ(HDD),コンパクトディスクドライブ(CDD)等の外部メモリ81、外部のMIDI機器91と通信するためのMIDIインタフェース(I/F)82が、バスライン63を介して、中央演算装置(CPU)71,タイマ72に接続されている。電子楽器は、例えばマニュアル演奏と自動演奏ができる電子ピアノである。
【0014】
図1Bは、鍵盤装置10の構成を示す。前後方向に延設された複数の白鍵及び黒鍵11が横方向に1列に配置されている。全鍵域が、例えば4つの鍵域、低域2、中低域3、中高域4、高域5に分けられ、それぞれ、駆動制御部CTL,複数の鍵11を含み、各鍵には駆動装置であるソレノイドSLが結合されている。駆動制御部CTLは、CPU71に接続され、CPU71の制御の下、所望の鍵に結合したソレノイドSLにパルス幅変調(PWM)された駆動信号を供給し、押鍵動作、押鍵維持動作、離鍵動作を行なわせる。PWM駆動信号は、デューティ比を変化させることにより、駆動力を変化させる。鍵の構造は鍵域毎に調整され、生楽器に類似する演奏感覚を実現する。各鍵域2,3,4,5には、温度センサTSが備えられ、ソレノイドSLの温度を検出して、駆動制御部CTLに供給する。駆動制御部CTLは、温度に応じてPWM駆動信号のデューティ比を調整する。
【0015】
マニュアル演奏においては、複数のスキャン部SCが押離鍵動作を検出し、キーコード、押鍵速度(ベロシティ)等の演奏情報をCPU71に送る。マニュアル演奏に関しては、公知の構成であり、例えば、特開2008−233828号、特開2008−233809号等の実施例の欄を参照できる。
【0016】
図2Aは休止状態の鍵を示す。鍵11の前部下面には、ほぼ垂直下方に延設したアクション部材12が一体的に形成されている。各鍵11に対応して、揺動レバー40が鍵11の下方にそれぞれ配置されている。揺動レバー40は、合成樹脂製のレバー基部41と金属棒などの金属製の質量体42とにより構成されている。レバー基部41の下面の凹部43は厚肉に成形され、鍵フレーム20の回動支持部25に係合している。板ばね28は、後端が鍵11の後端部の内面に当接し、前端がレバー基部41の背面の凹部44に係合し、揺動レバー40を回動支持部25に押し付け、上下に揺動可能に支持する。
【0017】
レバー基部41の前端部45には、二股に分かれた一対の脚部が形成され、両脚部の間に、鍵11のアクション部材12の下端部が侵入して両脚部に摺動、回転可能に係合している。この係合により、鍵11と揺動レバー40とは連動する。揺動レバー40の支点より右側の質量体42の自重により、揺動レバー40は右下がり(左上がり)の姿勢となり、質量体42が底板30上に設置された下限ストッパ23の上に停止する。揺動レバー40の左側部分は押し上げられ、アクション部材12を押し上げて、鍵11をほぼ水平位置に支持する。なお、下限ストッパ23の上方には上限ストッパ24が配置されている。
【0018】
電子鍵盤楽器のマニュアル演奏においては、鍵の運動を検出し、楽音を発生させる。本構成においては、レバー基部41下面に設けられたスイッチ駆動部46とその下方のプリント基板47に取り付けられた2メイクスイッチ48とにより、鍵運動検出部が構成されている。なお2メイクスイッチに代え、3メイクスイッチや光学的オールストロークセンサを用いることもできる。図1Bに示したスキャン部SCが鍵の運動を検出すると、キーコード、キーオンタイミング又はキーオフタイミング、ベロシティ等の楽音制御データ等を含むイベントデータを作成し、図1Aに示した音源66に供給し、サウンドシステム69から楽音を発生する。
【0019】
自動演奏においては、図1Aに示した外部メモリ81に記憶された自動演奏データのイベントデータに基づき、音源66を介してサウンドシステム69から楽音を発生させると共に、鍵盤の鍵を駆動する。本構成においては、複数のソレノイド型駆動ユニット32が底板30に千鳥格子状に2列に配列されている。
【0020】
図2Cは、駆動ユニット32を拡大して示す。各駆動ユニット32は、ボビン33と、ボビン33を取り囲むコイル34と、ボビン内に収容され、鉄などの磁性金属を含むプランジャ35、プランジャ35上部に結合されたロッド36、ロッド36上方に結合された弾性部材(クッション)37を含むソレノイドを有する。休止状態では、図2Aに示すように、揺動レバー40とソレノイドの弾性部材37との間には間隙が形成されている。コイル34は下部ヨーク38、上部ヨーク39に囲まれ、ヨークと磁気的に結合している。下部ヨーク38、上部ヨーク39は、全鍵(全駆動ユニット)に共通な、鉄などの磁性金属部材で構成されている。コイル34に電流を供給すると、コイルと磁気的に結合したヨーク38,39から発生する磁気によってプランジャ35が上方に引き付けられる。推力の大きさは、電流値に比例する。
【0021】
コイル34に電流を流すと、コイルの抵抗成分によってジュール熱が発生する。熱は、ヨーク38,39を介して近隣の駆動ユニット32にも伝達される。自動演奏の進行と共に、ソレノイドの温度は上昇していく。本構成においては、少なくとも1つの温度センサTSが、下部ヨーク38上に取り付けられ、ソレノイドの温度をモニタする。温度センサTSは、例えばサーミスタ、熱電対、赤外線温度センサ等で構成され、温度を(連続的に)検出する。なお、温度検出は連続的である必要はなく、段階的であってもよい。例えば複数のサーモスタットで温度センサTSを構成し、段階的な温度検出を行なってもよい。
【0022】
図2Bに示すように、駆動ユニット32が励磁されると、磁気が発生し、プランジャ35をコイル34内へと引き寄せる。プランジャ35の上昇と共に、ロッド36、弾性部材37が上昇する。弾性部材37がまず揺動レバー40のレバー基部41に、支点より右側で、接し、次にレバー基部41を押し上げる。揺動レバー40は支点より右側が上がるので、支点より左側は下がり、鍵11を押し下げる。揺動レバー40の質量体42が上限ストッパ24に当たると、プランジャ35の上昇が止められ、鍵11を押しきった状態に対応する。
【0023】
図3Aは、自動演奏における駆動信号パターンの例を示すグラフである。横軸が時間経過を示し、縦軸がPWM駆動信号のデューティ比を示す。デューティ比が高いほど、電流値が高く、駆動力が強い。キーオンからキーオフまで8段階でデューティ比を制御している。
【0024】
状態ST1は、ノイズ発生を抑制して弾性部材37を揺動レバー40に当接させる動作である。弾性部材37が揺動レバー40に当接した後、状態ST2〜ST7により押鍵駆動を開始する。押鍵動作を開始するために強い推力を発生し(ST2)、鍵が動き始めたら次第に推力を低下させる(ST3〜ST6)。揺動レバー40が上限ストッパ24に当たってリバウンドしないように、押鍵動作の最後は推力を強くする(ST7)。押鍵維持状態では、弱い推力を発生させる(ST8)。キーオフイベントが生じ、離鍵動作が開始すると、ソレノイドへの電流供給を停止し(ST9)、質量体42を自重で降下させ、鍵を初期状態へと復帰させる。質量体42が下限ストッパ23に当たる前から、ソレノイドに徐々に電流を供給し(ST10,ST11,ST12)、質量体42が下限ストッパ23にソフトランディングするようにする。
【0025】
押鍵動作は、発生させる音の大きさに応じて押鍵速度(ベロシティ)が変化する。図3Aに示す駆動信号パターンは、ベロシティにあわせてピーク高さ(PWM駆動信号のピークのデューティ比)を変化させる。また、白鍵よりもモーメントの小さい黒鍵のデューティ比を高くする、低音鍵ほどデューティ比を高くする、ようにすることもできる。
【0026】
コイル34に電流が流れると、コイルの抵抗成分により、発熱が生じる。自動演奏が継続すると、発熱により、コイル34が加熱され、ソレノイドの温度が上昇する。ソレノイドの温度が上昇すると、コイル34の抵抗値が増加する。一定電圧が印加される場合、電流値が減少する。駆動推力が低下して、鍵の運動が弱々しくなってしまう。
【0027】
押鍵速度をモニタして、フィードバックする場合も、フィードバックが掛かる前の動作は修正できない。動き始めが弱々しくなってしまう。温度上昇時にも駆動推力を確保するため、強めの駆動力を発生するパターンにしておくと、電力消費が大きくなり、発熱も大きくなってしまう。
【0028】
そこで、本発明者は温度をモニタして、温度が高くなった時に駆動推力を増加することを提案する。PWM駆動の場合は、デューティ比を増加させれば、電流値を増加できる。電圧を増大させて、電流値を増大することもできる。
【0029】
ソレノイドに結合されるヨークは、全鍵に共通の部材であることが多い。すなわち、各鍵のソレノイドは、ヨークを介して熱的に結合している。従って、各鍵のソレノイド毎に温度センサを設けなくとも、十分な精度の温度検出が可能である。
【0030】
演奏操作は、おもに中低域、中高域の鍵を用いて行なわれる。自動演奏においても、中低域、中高域の鍵用の駆動装置が、低域、高域の鍵用の駆動装置と較べ、より頻繁に駆動される。従って、発熱量は、中低域、中高域の鍵用の駆動装置で低域、高域の鍵用の駆動装置より大きい。従って、全体的な温度分布は中央で高く、両側部で低くなる。温度分布の全体的形状はほぼ同様になる場合が多い。鍵盤の1箇所、例えば中央、で温度を検出して、駆動電流を制御しても見た目には十分な効果を得ることができよう。
【0031】
もちろん、温度モニタの位置を増やせば、それだけ温度検出の精度は向上する。しかし、鍵毎に温度検出する必要はほとんどない。全体的な温度分布を検出できれば、高い精度を得ることができる。そこで、図1Bに示したように、全鍵を複数の鍵域に分割し、各鍵域に少なくとも1つの温度モニタを配置するのが、効果およびコストの両面から好ましい。
【0032】
図3Bは、検出した温度に基づき駆動信号パターンを変化させる鍵駆動のフローチャートである。ステップS1でチャネル番号iを1に初期化し、ステップS2aで検出した温度TSに基づく係数K(TS)をi番目のチャネルの係数K(i)とする。例えば、外部メモリに記憶された駆動信号パターンを読み出し、時間経過による段階STに従うデューティ比に係数K(i)を乗算する。端数は切り捨て、四捨五入等で処理すればよい。デューティ比の変化を段階的にしてもよい。
【0033】
所定の時間Tcが経過したら、ステップS3で、経過時間TM(i)にTcを加算し、TM(i)+Tcを新たな経過時間TM(i)とする。ステップS4aで、設定された状態ST(i)がn番目の状態STnであるか否かを判断する。ST(i)がSTnであれば、次のステップS5で時間経過TM(i)が境界の時間T1に達したか否かを判断する。T1に達していれば、ステップS6において次の状態STn+1を新たな状態ST(i)とする。ステップS7aで、キーコードKC(i)に割り当てられたデューティ比テーブルから、新たな状態STn+1に対応したデューティ比を読み出し、係数K(i)を乗算し、キーコードKC(i)と共に、修正されたデューティ比を供給する。なお、ステップS4aで否の場合は、ステップS4bで次のn+1番目の状態であるか否かを判断する。同様の判断を繰り返すことにより、該当する状態でステップS5〜S7aと同様の処理を行なう。その後、ステップS2aに戻る。
【0034】
このように、検出された温度に基づく係数K(TS)に応じて駆動信号パターンのデューティ比を変化させる。温度が上昇して、設定された駆動信号パターンのデューティ比では弱々しい駆動になる現象を、温度上昇に応じてデューティ比を増大することで抑制することができる。なお、検出した温度に応じて係数を設定し、駆動信号パターン全体のデューティ比を変化させる場合を説明したが、ピーク部分のみ(例えば状態ST2、またはST2とST3等)のデューティ比を調整してもよい。また、温度変化に応じた複数の駆動信号パターン(テーブル)を外部メモリに記憶しておくこともできる。
【0035】
図3Cにおいては、ステップS2bとステップS7bが図3BのフローチャートのステップS2aとステップS7aと異なる。ステップS2bにおいては、外部メモリに記憶した複数の駆動信号パターンから、検出した温度に応じていずれかの駆動信号パターンを読み出す。ステップS7bにおいては、選択した駆動信号パターンの状態STn+1のデューティ比をキーコードKC(i)と共に供給する。これらの点以外は、図3Bのフローチャートと同様である。
【0036】
図4Aは、全体的な自動演奏のフローチャートである。S10で自動演奏が開始すると、S11でランフラグRUNが1か否かを判断し、否であればS12でスタート指示があるか否かを判断し、あればS13でランフラグRUNに1を立て、テンポクロックTCLを0にクリアする。S11でランフラグRUNが1であれば、S14でテンポクロックTCLを1増加させる。S13またはS14に続き、S15で駆動データ中にテンポクロック(TCL)タイミングに対応するイベントデータがあるか否かを判断する。あれば、S16で対応する1つのイベントデータを読み出し、S17で図4Bを参照して説明する鍵駆動イベント処理を行なう。S18で残りのイベントがあるか否かを判断する。あれば、S16に戻る。なければ、S19でエンドデータか否かを判断する。エンドデータであれば、S20でランフラグRUNを0にクリアし、S21で処理を終了する。S12、S15,S19で否の時は、ランフラグRUNをクリアすることなく処理を終了する。
【0037】
図4Bは、図4AにおけるステップS17の鍵駆動イベント処理を示すフローチャートである。
【0038】
S100において鍵駆動イベント処理が開始すると、S101において駆動オン(キーオン)イベント処理か否かを判断する。キーオンイベントであれば、S102でキーオンテーブル内に、同一キーコードKCのキーオンが既に記憶されているか否かを判定する。記憶されていなければ、新たに発音すべきキーオンであり、S103で発音チャンネルのアサインを行なう。キーオンテーブル内の第1スイッチフラグSW1が0で、割り当て優先度最大のチャンネルiにキーオンデータを割り当て、キーコードKCをチャネルのキーコードKC(i)として割り当て、チャンネルの状態ST(i)を第1状態ST1とし、経過時間TM(i)を0にリセットし、オフディレイフラグOFDL(i)及びオンディレイフラグONDL(i)を0に設定し、第1スイッチフラグSW1(i)を1に設定する。
【0039】
続いて、キーコードKC(i)が割り当てられているデューティ比テーブル内の状態ST1に対応したデューティ比をキーコードKC(i)と共に出力し、リターン(S105)する。S101でキーオンイベントでない時は、S110でキーオフイベントか否かを判定し、キーオフイベントであれば、S111で図4Cを参照して説明するキーオフ処理を行ない、リターン(S105)する。キーオフイベントでない場合は、S111を省略して、リターン(S105)する。S102で発音中の鍵が連打されたと判定された時は、S121で再打鍵処理を行ない、リターン(S105)する。
【0040】
図4Cは、図4BにおけるS111のキーオフイベント処理を示すフローチャートである。S200でキーオフイベント処理がスタートすると、発音中の楽音を終了させる為、S201で同一キーコードが記憶されたチャンネル(i)を探し出す。S202で、発音中のチャネルの状態ST(i)が、図3Aに示す押鍵維持状態ST8か否かを判定する。ST8であれば、S203で離鍵開始状態ST9を状態フラグST(i)に設定し、S204で駆動信号パターンのST9に対応したデューティ比とキーコードKC(i)を出力する。S202で状態ST8ではないと判定された時は、S210で現在の状態ST(i)が押鍵中の状態ST1〜ST7であるか否かを判定し、いずれかの状態であればS211でオフディレイフラグOFDL(i)を1に設定し、キーオフ処理を延期する。S210で押鍵動作中でないと判定された時は、S220で同一鍵連打処理のフラグを立てる。同一鍵連打処理は、特開2008−233828の実施形態記載の様に行えばよい。
【0041】
検出温度による制御以外の自動演奏のフローチャートに関しては、特開2008−233828号ないし特開2008−233809号の実施形態の開示を参照することができる。
【0042】
このようにして、温度に応じた調整を行なった自動演奏を行なうことができる。20℃の温度上昇が生じた時、自動演奏が弱々しくなった。実施例に従って温度上昇による抵抗変化を補償する様にデューティ比を増加させたところ、自動演奏における鍵運動が改善され、気になることはなかった。
【0043】
なお、自動演奏に伴う温度上昇に限らず、室温の変化も自動演奏の鍵動作に影響する。温度をモニタして駆動推力を調整することにより、外気温に左右されない所望の自動演奏動作が提供される。温度変化の原因を問わず、温度変化による悪影響を低減することができる。
【0044】
温度センサにより温度を検出する場合を説明したが、温度と均等な物理量を検出してもよい。たとえば、図1BのブロックTSを電流検出回路とすることができる。温度上昇により抵抗が増加すれば、一定電圧で流れる電流値はほぼ逆比例して減少する。電流検出回路が温度検出手段として機能する。検出した電流値に基づいて、減少した駆動推力を補償することができる。駆動信号パターン全体で電流を検出する必要はなく、複数の状態を含む駆動信号パターンの内、最も大きい駆動信号を出力する際、即ちパターンのピークにおいて、電流を検出することが、精度、手順の簡潔さの点から好ましい。
【0045】
ソレノイドを用いて、鍵または鍵に連動する部材を駆動する場合を説明したが、ソレノイド以外の駆動手段を用いることも可能である。例えばモータ、圧電素子等を用いることも可能であろう。電子楽器の鍵盤装置を例に挙げて説明したが、簡単な構成の生楽器に対しても適用可能である。この場合は揺動レバーの代わりに、ハンマを用いることになり、鍵を駆動する機構に温度補償を行うことになろう。
【0046】
その他種々の変更、置換、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0047】
11 鍵、2 低域、3 中低域、4 中高域、5 高域、TS 温度センサ、CTL 駆動制御部、12 アクション部材、40 揺動レバー、41 レバー基部、42 質量体、32 駆動ユニット、34 コイル、35 プランジャ、36 ロッド、37 弾性部材、38 下部ヨーク、39 上部ヨーク、23 下限ストッパ、24 上限ストッパ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鍵、および前記複数の鍵とそれぞれ連動する連動部材と、
前記複数の鍵、又は前記複数の連動部材をそれぞれ独立に駆動する複数の電気的駆動部を含み、鍵を押鍵前の初期位置から押鍵位置まで変位させる押鍵動作、および鍵を前記押鍵位置から前記初期位置まで変位させる離鍵動作を含む押離鍵動作を鍵毎に行なわせる鍵駆動手段と、
前記鍵駆動手段の温度を検出する少なくとも1つの温度検出手段と、
自動演奏モードにおいて、時間経過に従って供給される鍵の押鍵および離鍵を表す鍵情報に応じて、前記鍵駆動手段を電気的に駆動制御する鍵駆動信号を供給する鍵駆動制御手段であって、前記温度検出手段による検出結果に応じて前記鍵駆動信号を変化させる鍵駆動制御手段と、
を有する鍵盤装置。
【請求項2】
前記鍵駆動制御手段は、前記温度検出手段による検出結果に応じて係数を決定し、外部メモリから供給される駆動信号パターンに前記係数を乗じる演算を行なう請求項1記載の鍵盤装置。
【請求項3】
複数の駆動信号パターンが外部メモリに記憶され、
前記鍵駆動制御手段は、前記温度検出手段による検出結果に応じて、前記外部メモリに記憶された複数の駆動信号パターンからいずれかの駆動信号パターンを選択する請求項1記載の鍵盤装置。
【請求項4】
前記複数の鍵が複数の鍵域に分割され、
前記鍵駆動制御手段が、前記各鍵域毎に駆動制御部を有し、
前記温度検出手段が、前記各駆動制御部毎に温度検出器を有する
請求項1〜3のいずれか1項記載の鍵盤装置。
【請求項5】
前記鍵駆動手段が、ヨークと結合したソレノイドを有し、
前記温度検出手段が前記ヨークに結合している、
請求項1〜4のいずれか1項記載の鍵盤装置。
【請求項6】
前記温度検出手段が、設定温度の異なる複数のサーモスタットを含み、
前記鍵駆動制御手段が前記サーモスタットの状態に応じて段階的に前記鍵駆動信号を変化させる、
請求項1〜5のいずれか1項記載の鍵盤装置。
【請求項7】
前記鍵駆動手段がソレノイドを有し、
前記温度検出手段が、ソレノイドを流れる電流を検出する電流検出回路を有し、駆動信号パターンの内、最も大きい駆動信号を出力する際の電流を検出し、
前記鍵駆動制御手段が、前記温度検出手段の検出結果に基づいて、前記鍵駆動信号を変化させる、
請求項1〜4のいずれか1項記載の鍵盤装置。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【公開番号】特開2011−81189(P2011−81189A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233403(P2009−233403)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】