説明

開離嵌挿具付隠しスライドファスナー用スライダー

【課題】開離嵌挿具付隠しスライドファスナーにおけるスライダーにおいて、蝶棒が正常位置でなく挿入されたとき、正常に復元修正できるスライダーを提供する。
【解決手段】開離嵌挿具付隠しスライドファスナーにおけるスライダーにおいて、スライダー1の胴体2に立設した案内柱6の側方における下翼板5の肩口15に凹陥部20を設け、凹陥部20の案内柱6の側方および後口16側の側壁21を斜面に形成し、挿入される蝶棒28が異状な形態、例えばファスナーテープ22に対して縦方向に垂下されて挿入されても、側壁21の斜面によって正常、例えばファスナーテープ22に対して平行に配されるように迅速に復元修正した後、箱体26に挿入することができ、円滑かつ容易に嵌挿操作ができるスライダーである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、隠しタイプのスライドファスナーにおけるファスナーチェーンの一端に取り付け、スライダーを前後に摺動操作を行うことによって、閉鎖状態のファスナーチェーンを左右のファスナーストリンガーに分離開放し、また開放状態のファスナーチェーンを閉鎖させる機能を備えた箱体、箱棒、蝶棒から構成された開離嵌挿具に使用される隠しスライドファスナー用スライダーであって、特にスライダーに対する蝶棒の挿入性の向上を図った開離嵌挿具付隠しスライドファスナー用スライダーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来知られている開離嵌挿具付隠しスライドファスナー用スライダーは、図11,12に示すように、スライダーの胴体における下翼板の中央長手方向に案内柱を立設し、図面には表示されていないが案内柱の上部に停止機構を備えた引手取付部を設け、この引手取付部は案内柱よりも側方へ張り出し、また下翼板の両側にファスナーエレメントの反転部を押圧することができるフランジを設けて、ファスナーエレメントを挿通するY字状のガイド部を形成し、フランジの上部には引手取付部の下縁に対向する上翼板を曲設し、引手取付部と上翼板との間に、ファスナーテープが挿通することができるテープ通路を設けて、隠しスライダーを完成する。
【0003】
このスライダーに使用する隠しスライドファスナー用ファスナーチェーンは、ファスナーチェーンにおけるファスナーテープの側縁は断面U字状に折り曲げ、折り曲げたテープの外面にファスナーエレメントの噛合頭部が外側へ突出する状態に取り付け、ファスナーエレメントが存在しないスペース部には補強テープが取り付けられている。補強テープのうち一方の補強テープには、ファスナーストリンガーを開離閉鎖することができる、開離嵌挿具の箱体と箱棒をファスナーエレメントに連続して取り付けられており、他方の補強テープを取り付たファスナーストリンガーには箱体の蝶棒挿入孔へ挿入できる蝶棒をファスナーエレメントに連続して取り付けられている。この蝶棒およびスライダーのガイド溝における蝶棒挿入溝および箱体の蝶棒挿入孔に挿入した後、スライダーを引き上げて摺動させることによって、左右のファスナーストリンガーを閉鎖して隠しファスナーチェーンを完成する。
【0004】
また、図13に示すような開離嵌挿具付スライダーが知られている。この隠しスライダーは、胴体の下翼板における両側のフランジ上部に曲設した上翼板の後口に平行部を設け、この上翼板の肩口付近から平行部にかけて、上翼板に凹欠部を設けてファスナーテープとの接触面を少なくし、かつ案内柱の上部に停止機構を備えた引手取付部を設け、この下縁にガイドフランジを設け、このガイドフランジの上方にファスナーエレメントの規整を助ける翼片、すなわち翼片はファスナーテープから突出しているファスナーエレメントの噛合頭部の上面に接触し、ファスナーエレメントの上方への移動を阻止する形に形成されている。また案内柱の後口側の先端にファスナーエレメントの噛合頭部を規整しガイドする規整体を設けた隠しスライダーが特許公報に記載されている。なお使用するファスナーチェーンは、前記したファスナーチェーンと同様のものを使用できる。
【特許文献1】特公昭50−25855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前項で述べた図11,12に示した隠しスライダー、および図13に示した隠しスライダーは、ともに胴体の下翼板おいて案内柱の両側における下翼板の内面には何ら改良が加えられていない。ファスナーストリンガーに取り付けられた蝶棒を、スライダーの肩口から挿入する際、ファスナーテープの側縁をU字状に折り曲げ、その折り返し部分よりも側端に蝶棒を取り付けているため、蝶棒は折り返し点を中心に回動し、ファスナーテープ面に対し垂下、すなわち略直角状に傾倒する傾向がある。また蝶棒自体が長手方向の中央において、ファスナーエレメントの噛合頭部側の表面がやや折曲して湾曲し、かつファスナーエレメントに接続する側が太く形成されているため、この状態すなわち蝶棒が垂下状態でスライダーの肩口から挿入すると、蝶棒の下向の先端がスライダーの下翼板に当接し、蝶棒の上方の湾曲部分が案内柱の上部に形成したガイドフランジ、または上翼板に当接し、蝶棒に連接するファスナーエレメントの噛合頭部が、該部に引っ掛かり円滑な嵌挿操作が行えないなど問題点がある。
【0006】
この発明は、上述の問題点を考慮して発明されたものであり、この発明のうち請求項1記載の発明の目的は、隠しスライドファスナー用スライダーの胴体における下翼板の内面にファスナーストリンガーに取り付けられた蝶棒が、ファスナーテープ面に対して正常な姿勢でなく、ある程度ファスナー面に対して垂下状態または傾倒した状態でスライダーの蝶棒挿入溝に挿入されても、スライダーにおける下翼板の内面に設けた蝶棒の姿勢を復元させる機構によって、蝶棒を正常な姿勢に復元させる。ここで蝶棒の正常な姿勢また正常位置とは、ファスナーテープ面に対し、蝶棒が平行状に配され、蝶棒を取り付けたファスナーテープの側縁の横断面形状がU字状を呈し、その状態で箱体の蝶棒挿入孔に直接挿入することができる形態をいう。従って正常な姿勢また正常位置の蝶棒をスライダーおよび箱体へ円滑かつ確実に挿入操作を行うことができる開離嵌挿具付隠しスライドファスナー用スライダーを提供することが主たる目的である。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の目的に加え、スライダーの胴体における下翼板の内面に設けた蝶棒の正常位置への復元機構としての凹陥部は案内柱側の壁面および後口側の壁面を斜面状に仕上げることによって、蝶棒をスライダーおよび箱体への円滑な挿入操作が行える開離嵌挿具付隠しスライドファスナー用スライダーを提供することが目的である。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明の目的に加え、スライダーの胴体における下翼板の内面に設ける蝶棒の正常位置への復元機構としての凹陥部の設置範囲を限定し、最も適した位置であって理想的な左右のファスナーストリンガーの噛み合いが迅速に行うことができる開離嵌挿具付隠しスライドファスナー用スライダーを提供することが目的である。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の発明の目的に加え、スライダーの胴体における下翼板の内面に設ける蝶棒の正常位置への復元機構としての凹陥部は、蝶棒を備えたファスナーストリンガーを円滑に移送が行え、的確に箱棒側のファスナーストリンガーと噛み合せることができる開離嵌挿具付隠しスライドファスナー用スライダーを提供することが目的である。
【0010】
請求項5記載の発明は、請求項1記載の発明の目的に加え、スライダーの胴体における下翼板の内面に設ける蝶棒の正常位置への復元機構としての凹陥部は、蝶棒を迅速に正常位置に復元させ、正常な状態でスライダーの後口へ円滑にファスナーストリンガーを移送し、かつ的確に噛み合い操作が行える開離嵌挿具付隠しスライドファスナー用スライダーを提供することが目的である。
【0011】
請求項6記載の発明は、請求項1記載の発明の目的に加え、スライドファスナーにおける開離嵌挿操作が世界中で同一方式を採用していないため、右差し方式を採用している国、地域、また左差し方式を採用している国、地域でも即刻実施できるように、スライダーの胴体における下翼板の内面に案内柱の両側に蝶棒の復元機構としての凹陥部を設けて利便性を図った開離嵌挿具付隠しスライドファスナー用スライダーを提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するため、この発明のうち請求項1記載の発明は、隠しスライドファスナーにおけるファスナーテープ22は相対する側縁部37をU字状に折り曲げ、この側縁部37の外側の表面に沿ってファスナーエレメント23の噛合頭部31が突出する形に取り付けて一対のファスナーストリンガー25を形成し、ファスナーテープ22に取り付けたファスナーエレメント23の噛合頭部31を係脱する隠しスライドファスナー用スライダー1において、スライダー1の胴体2における下翼板5の内面で案内柱6の側方に設けたY字状のファスナーエレメント23を誘導するガイド溝11のうち、蝶棒28を備えたファスナーストリンガー25を挿入するガイド溝11の肩口15の端部から後口16側へ向けて、挿入される蝶棒28が正常位置にないとき、すなわち蝶棒28がファスナーテープ22面に対して垂下または傾倒した形態でも正常位置に復元させることができる凹状の凹陥部20を設けた開離嵌挿具付隠しスライドファスナー用スライダーを主な構成とするものである。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成に加え、スライダー1における胴体2の下翼板5に凹設した蝶棒28の正常位置へ復元させるための凹陥部20は、案内柱6側の側壁21と、後口16側の側壁21は、傾斜状を呈する斜面から形成し、蝶棒28の復元を促進する構成に形成した開離嵌挿具付隠しスライドファスナー用スライダーである。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明の構成に加え、スライダー1における胴体2の下翼板5に凹設し、蝶棒28の正常位置へ復元させるための凹陥部20の設置位置は、胴体2における案内柱6の側方の範囲内に凹設した開離嵌挿具付隠しスライドファスナー用スライダーである。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の発明の構成に加え、スライダー1における胴体2の下翼板5に凹設し、蝶棒28の正常位置へ復元させるための凹陥部20は、胴体2の肩口15から後口16側へ向けて次第に幅狭くなる形状に形成した開離嵌挿具付隠しスライドファスナー用スライダーである。
【0016】
請求項5記載の発明は、請求項1記載の発明の構成に加え、スライダー1における胴体2の下翼板5に凹設し、蝶棒28の正常位置へ復元させるための凹陥部20は、胴体2の肩口15側で案内柱6の側方でファスナーエレメント23の噛合頭部31が載置できる中仕切17と、フランジ8の隅角部分でファスナーエレメント23の反転部32を載置し押圧できる基部18との間に凹設した開離嵌挿具付隠しスライドファスナー用スライダーである。
【0017】
請求項6記載の発明は、請求項1記載の発明の構成に加え、スライダー1における胴体2の下翼板5に凹設し、蝶棒28の正常位置へ復元させるための凹陥部20は、案内柱6の両側に設けた平面形状がY字状のガイド溝11の双方の肩口15から後口16に向けて設け、蝶棒28を備えたファスナーストリンガー25を右差し、左差しの何れにも適用できるように形成し、世界の国、地域において蝶棒28の右差し、左差しに即応できる形態にスライダー1を形成した開離嵌挿具付隠しスライドファスナー用スライダーである。
【発明の効果】
【0018】
この出願の効果として、請求項1記載の発明は、ファスナーテープが相対する側縁部がU字状に屈設し、該側縁部の外側表面に沿ってファスナーエレメントが取着された一対のファスナーストリンガーの各噛合頭部を係脱する隠しスライドファスナー用スライダーであって、下翼板の内面に設けたY字状のガイド溝には肩口の端部から後口側へ向けて凹陥部を凹設したことによって、下記の効果を奏する。
【0019】
スライダーの胴体における下翼板の内面に設けた、ガイド溝の一方の蝶棒挿入溝の肩口側に挿入される蝶棒の正常位置へ復元させるための凹陥部を設けているから、たとえ蝶棒がファスナーテープ面に対して縦方向に回動し、垂下状態あるいは傾倒した異状形態であっても、蝶棒の上面が案内柱の引手取付部の下面に接触し、蝶棒の先端下面が下翼板に設けた凹陥部に接触するので、ゆとりのある蝶棒の挿入ができ、従来のように上下面で挟み付けて挿入動作を妨げることがなく、蝶棒の円滑な挿入操作ができる効果がある。
【0020】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加え、凹陥部における案内柱側の側壁および後口側の側壁は、斜面から形成したことによって、蝶棒の正常位置への復元するための凹陥部において、縦方向に回動した垂下状態または傾倒状態の蝶棒を正常な状態に復元するのに、凹陥部の案内柱側および後口側の側壁の壁面を斜面に形成し、復元を迅速および円滑に行える効果がある。
【0021】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加え、凹陥部の設置位置は、案内柱の側方の範囲内に設けたことによって、蝶棒の正常位置への復元するための凹陥部を案内柱の側方に設けたので、左右のファスナーエレメントを案内柱と後口との間に配した中仕切上で、正確かつ確実に噛み合わせることができる効果がある。
【0022】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加え、凹陥部は、肩口から後口側へ向けて漸次幅狭に形成したことによって、蝶棒の正常位置への復元するための凹陥部を肩口から後口側へ向けて次第に幅狭くなるように形成しているので、異状な状態の蝶棒を迅速に正常位置に復元させ、ファスナーストリンガーを確実に移送できる効果がある。
【0023】
請求項5記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加え、案内柱の側方に設けた凹陥部は、肩口側で案内柱の側方に設けた中仕切と、フランジの隅角の基部との間に凹設したことによって、蝶棒を正常位置へ復元させ、蝶棒に接続するファスナーエレメントの噛合頭部を中仕切に迅速に載置し、ファスナーエレメントの反転部を基部に載置しフランジで押圧して、ファスナーストリンガーを的確に移送し、円滑に噛み合い操作を行うことができる効果がある。
【0024】
請求項6記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加え、凹陥部を案内柱の両側の下翼板に設置し、蝶棒の右差し、左差しに対応できる形態に形成したことによって、蝶棒の右差し、左差しに対処できるスライダーで、世界の何れの地域においても即刻対応できるスライダーである効果があるなど、この発明が奏する効果はきわめて顕著である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
この発明における開離嵌挿具付隠しスライドファスナー用スライダーは、スライダー1の胴体2および個別の箱体26、箱棒27、蝶棒28からなる開離嵌挿具4は全て金属製であることが好ましい。前記スライダー1が挿通される開離嵌挿具付隠しファスナーストリンガー25は、噛合頭部31を内側にしてファスナーエレメント23が2本一対のファスナーテープの対向側縁に沿って、それぞれ縫製などにより取り付けられている。また、前記一対のファスナーストリンガー25の一端にはファスナーエレメント23が存在しないファスナーテープ22のスペース部29に補強テープ30が貼り付けられており、一方のファスナーストリンガー25のスペース部29の側縁には箱棒27が取り付けられ、他方のファスナーストリンガー25のスペース部29の側縁には蝶棒28が取り付けられている。さらに、箱棒27の先端には箱体26が取り付けられており、この箱体26における箱棒27とは反対側に蝶棒28が挿入できるように形成されている。こうして得られる一対のファスナーストリンガー25の各ファスナーエレメント23を取り付けた取付縁部42をファスナーエレメント23の噛合頭部31が外側に突出するように、連続エレメント35に沿ってU字状に折り曲げ、この部分を熱セットなどにより固定する。
【0026】
隠しスライドファスナー用スライダー1は、図1の斜視図に示すように、下翼板5の肩口15の中央に案内柱6を立設し、案内柱6は上側部分に引手3を取り付けるための引手取付部7を設け、この引手取付部7は案内柱6の幅よりも広く側方に張り出し、また後口16側へ引手取付部7を延設して停止機構の爪杆38を装着する。引手取付部7の後口16側端部は、隠しスライドファスナー用ファスナーチェーンにおける連続エレメント35の噛合頭部31の上面をガイドし、スライダー1のガイド溝11からファスナーチェーンが抜脱するのを防いでいる。
【0027】
下翼板5の両側には、ファスナーエレメント23の反転部32側を圧接しガイドするためのフランジ8を設け、このフランジ8の上部には、案内柱6に向けて折曲した上翼板9が設けられている。上翼板9はファスナーエレメント23の脚部33と、この脚部33を取り付けているファスナーテープ22の側縁を上方から圧接可能に形成する。そして上翼板9の案内柱6に対向する先端に、案内柱6と上翼板9との間にファスナーテープ22を挿通することができるテープ通路部19を形成し、ファスナーテープ22のU字状に折曲した部分を挿通する。
【0028】
案内柱6の両側に形成されたY字状を呈するガイド溝11において、一方に箱棒挿入溝12を設け、他方に蝶棒挿入溝13を設ける。蝶棒挿入溝13における下翼板5の肩口15側の内面にファスナーテープ22に取り付けた蝶棒28が正常の状態すなわち蝶棒28がファスナーテープ22面に対し平行状に配されておらず、スライダー1に容易に挿入することが困難な場合、例えば図4に示すように、ファスナーテープ22の側縁部37がU字状を保持することなく直角状を呈し、蝶棒28がファスナーテープ22面に対し縦状の状態すなわち垂下状態または傾倒状態で挿入されたとき、正常の状態すなわちファスナーテープ22面と平行な状態に蝶棒28が配されるように復元させるための機構、例えば凹陥部20を下翼板5の内面のうち、肩口15側の端部から後口16へ向けて形成する。そのため、下翼板5の内面よりも低く形成された底面43が形成される。また、凹陥部20は下翼板5の内面と底面43とを連結する側壁21を備えており、案内柱6側の側壁21と、後口16側の側壁21は斜面を呈するように形成されている。
【0029】
隠しスライドファスナー用ファスナーチェーンは、箱棒27と箱体26を取り付けたファスナーストリンガー25にスライダー1を箱体26に接するように固定し、他方の蝶棒28を取り付けたファスナーストリンガー25の蝶棒28およびファスナーテープ22のU字状の折り返し部分、すなわち側縁部37をスライダー1のテープ通路部19を利用して挿入し、このとき蝶棒28が垂下状態または傾倒状態で挿入されたとしても、蝶棒28を取り付けたエレメント取付縁部44を迅速にファスナーテープ22面と平行状に修正するとともに、蝶棒28の先端を凹陥部20の後口16側の側壁21に沿って円滑に進出させ、箱体26の蝶棒挿入孔34に挿入した後、スライダー1を上方へ引き上げると、左右のファスナーエレメント23の噛合頭部31を案内柱6の後口16側に設けた中仕切17の上面で、下翼板5の両側に設けたフランジ8によって、ファスナーエレメント23の反転部32を圧接させることによって、左右の噛合頭部31を次々と噛み合わせて隠しスライドファスナーチェーンを完成する。
【0030】
また蝶棒28の右差し、または左差しに対応できるように、案内柱6を立設した下翼板5のY字状のガイド溝11における左右の挿入溝12、13にそれぞれ凹陥部20を凹設して右差し、左差しに対処できるスライダー1とすることもできる。
【実施例1】
【0031】
図1〜図7に示した実施例1の開離嵌挿具付隠しスライドファスナー用スライダーは、スライダー1の胴体および個別の箱体26、箱棒27、蝶棒28から形成された開離嵌挿具4はアルミニウム合金、亜鉛合金などの金属から形成されている。前記スライダー1が挿通される隠しファスナーストリンガー25は、噛合頭部31を内側に配してファスナーエレメント23が2本一対のファスナーテープ22の対向側縁に沿って縫製などにより取り付けられ、前記一対のファスナーストリンガー25の一端にはファスナーエレメント23が存在しないファスナーテープ22のスペース部29を設けてその表面に補強テープ30を貼り付け、一方のファスナーストリンガー25のスペース部29の側縁には、ファスナーエレメント23に連接して略角柱状を呈する箱棒27が取り付けられ、他方のファスナーストリンガー25のスペース部29の側縁には蝶棒28が取り付けられている。
【0032】
蝶棒28は他方のファスナーストリンガー25の側縁に取り付けたファスナーエレメント23に連接し、上面、下面および上下面を連接する側面を有する略角柱状を呈しており、蝶棒28の長手方向における先端側の半分の片隅を斜面状に切欠してある。
【0033】
なお、ここでいう蝶棒28の上下面とはファスナーテープ22の表裏面に該当する面を指し、側面とは前記上下面と垂直な面を指す。さらに、箱棒27の先端には箱体26を多少可動できるように取り付け、この箱体26における箱棒27を取り付けた個所に隣接した個所に蝶棒28が挿入できるように形成されている。こうして得られる一対のファスナーストリンガー25の各ファスナーエレメントを取り付けた取付縁部42をファスナーエレメントの噛合頭部31が外側に突出するように、連続エレメント35に沿ってU字状に折り曲げ、熱セットなどによりその折り曲げ形状が変化しないように固定される。
【0034】
スライダー1は図1、図2に示すように、胴体2の下翼板5におけるスライダー1の摺動方向の一端中央に案内柱6を立設し、この案内柱6の上部に引手3を取り付けるための引手取付部7を設け、この引手取付部7は案内柱6の周部から外側へ延出して一体的に形成され、また引手取付部7をスライダー1の摺動方向の他端へ延設して停止機構の停止爪39を備えた爪杆38を取り付ける。引手取付部7は下翼板5の内面に形成した中仕切17と略同じ形状を呈し、その引手取付部7の下縁は隠しファスナーチェーンにおける樹脂フィラメントから形成した連続エレメント35の噛合頭部31の上面に圧接することが可能であり、かつガイドするように形成し、スライダー1の内部に形成された下翼板5、案内柱6、引手取付部7、フランジ8および上翼板9に囲まれたY字状のガイド溝11に挿通した隠しファスナーチェーンが抜脱するのを防ぐ形状に形成する。
【0035】
下翼板5の内面のうち、スライダー1の摺動方向に直交する左右側縁部分には、ファスナーエレメント23の反転部32に圧接可能なフランジ8を立設し、このフランジ8の上部には、案内柱6に向けて突出する上翼板9を設ける。上翼板9はファスナーエレメント23の脚部33と、この脚部33を取り付けているファスナーテープ22の側縁に圧接し、ガイド可能に設置されている。そして上翼板9の案内柱6に対向する先端に、案内柱6と上翼板9との間にファスナーテープ22を挿通することができるテープ通路部19を形成して、ファスナーテープ22のU字状に曲り折げた側縁部37を挿通する。
【0036】
前記スライダー1の下翼板5の内面のうち、蝶棒28が挿入される肩口15側には、肩口15の端部から後口16側へ向けて蝶棒の挿入方向または挿入軸を変位させることができる、ファスナーテープ22をU字状に屈設させた正常位置に復元させるための凹陥部20が凹設されている。この凹陥部20は下翼板5の後口16側の内面よりも低く形成された底面43を有しており、また、挿入される蝶棒28を正常位置に復元する動作を円滑に行うことができるように、凹陥部20における底面43は下翼板5の内面とを、なだらかな斜面によって連接されている。さらに、この斜面はスライダー1の摺動方向と平行に形成された案内柱6の側方の側壁21と、案内柱6側の側壁21とフランジ8の基部18にかけて配設された後口16側の側壁21とから形成する。なお、凹陥部20のうち肩口15側は蝶棒28が挿入し易いように外側に開放された平坦面から形成する。
【0037】
前記凹陥部20の設置位置は、下翼板5の内面のうち、案内柱6の側方の範囲内つまり、案内柱6の後口16側の端部と、直交する範囲内に形成されていることが好ましい。凹陥部20をこの範囲内に形成することで、挿入される蝶棒28が、左右のファスナーエレメント23の噛み合う前に、ほぼ正常な位置に復帰させることができるので、蝶棒28が下翼板5の内面と引手取付柱7の下縁との間で挟まり、蝶棒28の挿入が困難になることがない。また、凹陥部20は肩口15側で案内柱6の側方に設けた中仕切17とフランジ8の隅角部分の基部18との間に凹設してあり、案内柱6の側方の側壁21が案内柱6に対して所定の間隔を空けて肩口15側の略中央に形成されている。また、案内柱6の側方の側壁21はスライダー1の摺動方向に沿って平行に形成されており、フランジ8は、胴体2に設けた中仕切17に沿って設け、ファスナーエレメント23の反転部32を押圧する形に形成されているので、案内柱6とフランジ8間に凹設する凹陥部20は、肩口15から後口16側へ向けて漸次幅狭に形成する必要がある。このような構成とすることで、スライダー1に対する蝶棒28の挿入角度を最適にすることができるので、容易に蝶棒28を正常な位置に復帰させることができる。
【0038】
次に図4から図7に示されるように蝶棒28が正常な位置へ復帰する動作について説明する。
案内柱6の両側に形成された全体がY字状を呈するガイド溝11において、一対の肩口15のうち一方の肩口15には箱棒挿入溝12を設け、他方の肩口15には蝶棒挿入溝13が設けられている。この蝶棒挿入溝13における下翼板5の肩口15側の内面にファスナーテープ22に取り付けた蝶棒28が正常の状態すなわち蝶棒28がファスナーテープ22面に対し平行状に配されていなく、スライダー1に容易に挿入することが困難な場合、例えば図4に示すように、ファスナーテープ22がU字状を保持することなく直角状を呈し、蝶棒28がファスナーテープ22面に対し縦状の状態すなわち垂下状態または傾倒状態で挿入されたとき、正常の状態すなわちファスナーエレメント23を取り付けた取付縁部42がファスナーテープ22面に対してU字状に屈曲され蝶棒28の上下面がファスナーテープ22の表裏面と同一面となるように復元させるための機構、例えば凹陥部20を蝶棒28の挿入状態を修正して箱体26の蝶棒挿入孔34に正常な状態で挿入できるように形成されている。つまり、図5に示すように、蝶棒28が縦状の状態でスライダー1に挿入されたとき、図6に示すように、まず仮想線で示した蝶棒28がさらに奥へ挿入されると蝶棒28の先端が後口16側の側壁21に当接したのち、実線で示したとおり下翼板5に乗り上げた状態となる。一方このとき蝶棒28の基端側は凹陥部20に落ち込んでいる。この状態からさらに蝶棒をスライダー1の奥へと挿入させると、ファスナーテープ22自体がU字状に折曲された状態に戻ろうとする力が働き、図7に示されるように、実線で示した蝶棒28が仮想線で示した位置へと回動する。このとき、凹陥部20は下翼板5の内面よりも低く形成されているので、蝶棒28が元の位置に回動するための十分な隙間を確保している。
【0039】
また、図7の状態において、スライダー1の摺動方向に沿って形成された案内柱6の側方の側壁21は蝶棒28の挿入方向に対して交差する方向に延設されているので、蝶棒28の一部が、案内柱6の側方の側壁21に接触しながら挿入されることで蝶棒28が正常な状態に戻ろうとするのを助勢する。さらに、図7に見られるように案内柱6の側方の側壁21は引手取付部7よりもフランジ8側に形成されているので、蝶棒28の側面が引手取付部7の下縁に接触した状態で挿入されていくので、蝶棒28が正常な状態に戻ろうとするのを助勢する。
【0040】
隠しファスナーチェーンは箱棒27と箱体26を取り付けたファスナーストリンガー25にスライダー1を箱体26に接し多少可動できるように固定し、他方の蝶棒28を取り付けたファスナーストリンガー25の蝶棒28およびファスナーテープ22のU字状の折り返し部分をスライダー1のテープ通路部19を利用して挿入し、このとき蝶棒28が縦状の状態で挿入されたとしても、蝶棒28はスライダー1の下翼板5に凹設した凹陥部20によって、蝶棒28がファスナーテープ22面と平行状に修正するための復帰動作を行うための隙間を確保するとともに、側壁21によって、蝶棒28が元の位置に戻ろうとする力を助勢することで、ファスナーテ−プ22の側縁部37がU字状に屈曲された状態に復帰させ、箱体26の蝶棒挿入孔34に挿入した後、スライダー1を上方へ引き上げると、左右のファスナーエレメント23の噛合頭部31は案内柱6の後口16側に設けた中仕切17の上面で、下翼板5の両側に曲設したフランジ8によって、ファスナーエレメント23の反転部32を内側へ向けて押圧することによって、左右の噛合頭部31を次々と噛み合わせて隠しスライドファスナー用ファスナーチェーンを完成する。
【実施例2】
【0041】
図8〜10に示した実施例2の開離嵌挿具付スライドファスナー用スライダーは、スライダー1の胴体2における下翼板5に肩口15の中央から後口16へ向けた位置に案内柱6を立設し、下翼板5の両側にフランジ8を曲折する基本的な形状は、実施例1のスライダー1と同一である。異なる構成は、案内柱6の両側のガイド溝12, 13の下翼板5に凹陥部20を対称的に凹設したことである。この構成以外の構成は、前記実施例1に示したスライダー1の構成と同一である。
【0042】
下翼板5の肩口15の中央に案内柱6を立設し、この案内柱6の両側に設けた箱棒27または蝶棒28を挿入するための挿入溝12, 13を設け、この挿入溝12, 13の一方を箱棒挿入溝12、他方を蝶棒挿入溝13とする。挿入溝12, 13を箱棒用と蝶棒用と区別しないのは、一方の挿入溝を蝶棒用として用いるが、世界の地域によっては蝶棒28を右差し専用に用いる場合と、左差し専用として用いる場合がある。そこで地域によって区別するのであれば最初から凹陥部20を双方の挿入溝12,13に設けておけば、右差し用にも左差し用にも応用できるから双方の挿入溝12,13に凹陥部20を凹設する。
【0043】
なお、この発明で用いるファスナーエレメント23はポリアミドあるいはポリエステルのモノフィラメントをコイル状またはジグザグ状に形成した連続エレメント、さらに金属または樹脂から形成された単独エレメントをファスナーテープの側縁に取り付けた隠しスライドファスナーチェーンを用いる。また、開離嵌挿具およびスライダーの材質を金属に代えて樹脂を用いて成形することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
この発明の開離嵌挿具付隠しスライドファスナー用スライダーは、デザインを重視する物品、例えば衣服、特にコート、スーツ、ワンピース、ジャケットの外衣などの開口部に用いる隠しスライドファスナーのスライダーである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例1に基づく、隠しスライドファスナー用スライダーの斜視図である。
【図2】同上のスライダーの平面図である。
【図3】同上のスライダーの使用態様を示す平面図である。
【図4】同上のスライダーの使用態様を示す斜視図である。
【図5】同上のスライダーの使用態様を示す一部切欠した側面図である。
【図6】同上のスライダーの使用態様を示す一部切欠した側面図である。
【図7】同上のスライダーの使用態様を示す一部切欠した拡大図である。
【図8】実施例2に基づく、隠しスライドファスナー用スライダーの斜視図である。
【図9】同上のスライダーの平面図である。
【図10】同上のスライダーの使用態様を示す平面図である。
【図11】公知の隠しスライダーの平面図である。
【図12】同上のスライダーの使用態様を示す平面図である。
【図13】他の公知の隠しスライダーの斜視図である。
【符号の説明】
【0046】
1 スライダー
2 胴体
4 開離嵌挿具
5 下翼板
6 案内柱
8 フランジ
11 ガイド溝
12 箱棒挿入溝
13 蝶棒挿入溝
15 肩口
16 後口
17 中仕切
18 基部
20 凹陥部
21 側壁
22 ファスナーテープ
23 ファスナーエレメント
25 ファスナーストリンガー
26 箱体
27 箱棒
28 蝶棒
31 噛合頭部
32 反転部
33 脚部
37 側縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファスナーテープ22は相対する側縁部37がU字状に屈設し、該側縁部37の外側表面に沿ってファスナーエレメント23が取着された一対のファスナーストリンガー25の各噛合頭部31を係脱する隠しスライドファスナー用スライダー1であって、下翼板5の内面に設けたY字状のガイド溝11には肩口15の端部から後口16側へ向けて凹陥部20を凹設してなることを特徴とする開離嵌挿具付隠しスライドファスナー用スライダー。
【請求項2】
凹陥部20における案内柱6側の側壁21および後口16側の側壁21は、斜面から形成してなる請求項1記載の開離嵌挿具付隠しスライドファスナー用スライダー。
【請求項3】
凹陥部20の設置位置は、案内柱6の側方の範囲内に設けてなる請求項1記載の開離嵌挿具付隠しスライドファスナー用スライダー。
【請求項4】
凹陥部20は、肩口15から後口16側へ向けて漸次幅狭に形成されてなる請求項1記載の開離嵌挿具付隠しスライドファスナー用スライダー。
【請求項5】
案内柱6の側方に設ける凹陥部20は、肩口15側で案内柱6の側方に設けた中仕切17と、フランジ8の隅角の基部18との間に凹設してなる請求項1記載の開離嵌挿具付隠しスライドファスナー用スライダー。
【請求項6】
凹陥部20を案内柱6の両側の下翼板5に設置し、蝶棒28の右差し、左差しに対応できる形態に形成してなる請求項1記載の開離嵌挿具付隠しスライドファスナー用スライダー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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