説明

防振支持装置

【課題】防振性能上求められる極めて低いバネ定数をもちながら、支持位置補正のための支持力補正感度が高い特性をもつと共に、その支持力の補正制御における制御エネルギー消費量を画期的に抑制する。
【解決手段】支持部材10と固定部材14との間に配設され、比較的高いバネ定数をもつ第一バネ要素15と、支持部材10と支持力補正制御部材12との間に配設され、第一バネ要素15のバネ定数とは正負が逆の関係のバネ定数をもつ第二バネ要素16と、支持力補正制御部材12と固定部材14との間に配設され第二バネ要素16のバネ定数とは正負が逆の関係のバネ定数をもつ第三バネ要素17と、油圧を受けてその油圧に応じた補正推力を支持力補正制御部材12に与える補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構13と、支持部材10の変位に応じた出力油圧を補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構13に作用させる油圧比変換装置62とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な装置の支持土台に振動が作用した場合にその振動が装置に与える影響を緩和するための防振支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な装置の支持土台に振動が作用した場合に、その振動が装置に与える影響を緩和する目的で、種々の防振支持装置が用いられている。
【0003】
このような防振支持装置の基本原理は、装置とその支持土台との間に、振動による支持土台の変位を吸収するバネ要素を介在させ、そのバネ要素のバネ定数を低く抑えた設定にすることで、振動による変位量で変化する装置支持力の変化感度を鈍くして、装置に発生する加速度を小さく抑えるものである。
【0004】
この基本原理上、バネ要素のバネ定数が低いほど、振動による変位に対する装置支持力の変化が少なくなって発生加速度が小さくなり、防振効果が高まる。しかし、バネ要素のバネ定数を低く設定することは、反面、支持対象物の重量状態に変化が生じた場合、その変化重量と釣り合う支持荷重となるのに、バネ要素の大きな変位を伴うことになり、支持位置の変動が大きくなってしまう問題がある。そのため、結局、支持対象物の重量変動に対する支持位置安定性の要求と、防振効果の要求とのトレードオフバランス妥協判断によって、バネ要素のバネ定数諸元の適正レベルとする妥協の産物にならざるを得なかった。
【0005】
この問題に対して、低いバネ定数で大きな防振効果を得る設定での支持位置変動増大のデメリットを補完する方法として、支持対象物の支持位置の基準位置からの変化量を制御パラメータとし、その変化量が設定値を超えた場合に、装置支持力を増減補正することで支持対象物の支持位置を基準位置に復帰させる、オートレベリング装置と呼ばれる補正装置を併用することで、このトレードオフ問題を緩和する方法も用いられている。
【0006】
この代表例として、大型自動車等で用いられているエアーサスペンションが挙げられる(例えば特許文献1参照)。このエアーサスペンションは、バネ要素として、負荷荷重容量の割に低いバネ定数特性を得やすい、空気の圧縮反力を用いた空気バネを用いると共に、サスペンションの変位を検出するレベリングセンサ機構によって、サスペンションの変位が基準位置からの設定許容範囲を超えたか否かを把握し、サスペンションが基準位置より下側に設定値を超えて沈み込んだ場合には、空気バネの空気室内に、外部からより高い圧力の圧縮空気を注入することで空気バネの支持荷重値を増して車高を上昇補正し、逆に、サスペンションが基準位置より上側に設定値を超えて浮き上がった場合には、空気バネの空気室内の空気を一部大気に放出することで空気バネの支持荷重値を減らして車高を下降補正するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−338015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エアーサスペンションのように、荷重支持を担うバネ要素にオートレベリング装置を付加する構成によって、防振機能として望ましい低いバネ定数特性に設定した場合の、支持位置変動増大のデメリットをかなり緩和できるが、この場合でも、バネ定数をあまり低く設定すると、オートレベリング装置によって支持荷重値を増減補正しようとする際の制御応答感度も鈍くなるので、支持位置補正に時間がかかりすぎて、支持位置安定性の要求を満たせなくなる問題が生じる。また、オートレベリング装置の動作設定範囲を狭くして動作感度を高くすると、頻繁に支持荷重値の増減補正操作が実施されるので、若干支持位置補正時間を短くすることができる反面、支持荷重値の増減補正操作に伴う大きなエネルギー消費が避けられないという問題がある。
【0009】
例えば、エアーサスペンションの例で説明すれば、空気バネのバネ定数は、その支持荷重を発揮する圧縮空気の封入容器の容積によって決まるから、空気バネのバネ定数を下げるには、封入容器の容積を大きく設定することになる。
【0010】
そして、空気バネの支持荷重値は、その支持荷重を発揮する圧縮空気の封入圧力によって決まり、その圧縮空気の封入圧力は、封入容器の容積に対する封入空気の分子数の比率によって決まる。そのため、封入容器内の圧縮空気を、分子数で同量出し入れした場合の圧力変化感度は、封入容器の容積が大きくなるほど鈍くなり、封入容器の容積を大きくして空気バネのバネ定数を低く設定した場合、同じ支持荷重値を得るために出し入れせねばならない空気量が指数級数的に増加してしまうので、支持荷重値の補正速度を維持するには、時間当たりの封入空気の出し入れ量を増やさねばならないので、その空気の移動速度を速めねばならない。
【0011】
空気の移動速度は、音速を上限として圧力差に依存するので、支持荷重値の増加補正速度を速くするには、空気バネの空気室内に外部から注入する圧縮空気の圧力をより高くする必要があり、支持荷重値の補正操作は、その高エネルギーの圧縮空気を大量に注入したり、減圧時にはそれを大気に放出廃棄する操作となるから、極めて大きなエネルギー消費を伴うことになる。
【0012】
結局、このような問題から実用上は、荷重支持を担うバネ要素にオートレベリング装置を付加する構成によっても、支持重量変動に伴う支持位置変動を自動補正して安定化させながら、バネ定数を低く設定して防振性能を向上させるには限界があった。
【0013】
そこで、本発明の目的は、防振性能上求められる極めて低いバネ定数をもちながら、支持位置補正のための支持力補正感度が高い特性をもつと共に、その支持力の補正制御におけるエネルギー消費量を画期的に抑制することができる防振支持装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は、防振性能上求められる極めて低いバネ定数特性と、支持位置補正性能上求められる高い支持力補正感度特性を両立させる手段と、支持力の補正制御における制御エネルギー消費量を画期的に抑制する手段とで構成される。
【0015】
本発明は、防振性能上求められる極めて低いバネ定数特性と、支持位置補正性能上求められる高い支持力補正感度特性を両立させる手段として、支持対象物の支持位置変化と連動して固定部材に対して往復運動する支持部材と、該支持部材の移動方向に沿って往復運動する支持力補正制御部材と、一端が上記支持部材に接続され他端が上記固定部材に接続され、比較的高いバネ定数をもつ第一バネ要素と、一端が上記支持部材に接続され他端が上記支持力補正制御部材に接続され、上記第一バネ要素のバネ定数とは正負が逆の関係のバネ定数をもち、且つ、そのバネ定数の絶対値が上記第一バネ要素のバネ定数の絶対値に近い値となるように設定された第二バネ要素とを備えることで、上記支持部材が往復運動したときの変位に対する実質的なバネ定数を第一バネ要素のバネ定数及び第二バネ要素のバネ定数の和として作用させることで、バネ定数ゼロも可能な極めて低いバネ定数特性を実現するものである。
【0016】
また、本発明は、後者の支持力の補正制御における制御エネルギー消費量を画期的に抑制する手段として、一端が上記支持力補正制御部材に接続され他端が上記固定部材に接続され、上記第二バネ要素のバネ定数とは正負が逆の関係のバネ定数をもち、且つ、そのバネ定数の絶対値が上記第二バネ要素のバネ定数の絶対値とほぼ同じ値となるように設定された第三バネ要素と、上記支持力補正制御部材に連結され、油圧を受けてその油圧に応じた補正推力を上記支持力補正制御部材に与える補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構と、上記支持部材の変位に応じた出力油圧を上記補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構に作用させる油圧比変換装置とを備えることで、上記支持力補正制御部材の移動抵抗力変動を上記第二バネ要素及び上記第三バネ要素でゼロに相殺すると共に、上記支持部材の変位に伴う制御方向推力変動を上回る補正推力を上記支持力補正制御部材に与えて、上記支持部材を所望の制御方向に移動させ、上記支持部材の変位方向に応じた支持力補正機能を発揮させるものである。
【0017】
また、本発明は、必要な制御エネルギーが極めて少なくて済む油圧比変換装置として、受圧面積の異なる複数の油圧プランジャ素子系統群を含み、各油圧プランジャ素子系統群への油圧供給状況を変化させることで供給油圧に対して出力油圧を多段階に変化させる多段油圧比変換機構を用いると共に、その多段油圧比変換機構の油圧供給源として、定圧アキュムレータシステムの蓄圧油圧を用いることで、装置全体の動作にエネルギー回生機能を与え、制御エネルギー消費を最小限に抑えるものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、防振性能上求められる極めて低いバネ定数をもちながら、支持位置補正のための支持力補正感度が高い特性をもつと共に、その支持力の補正制御における制御エネルギー消費量を画期的に抑制することができる防振支持装置を提供することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る防振支持装置の概略図である。
【図2】図2は、支持力補正制御部材を移動させた状態を示す防振支持装置の概略図である。
【図3】図3は、支持力補正制御部材を移動させた状態を示す防振支持装置の概略図である。
【図4】図4は、支持対象物の支持位置が基準位置から変位した状態を示す防振支持装置の概略図である。
【図5】図5は、第一バネ要素のバネ定数特性を示す図である。
【図6】図6は、第二バネ要素のバネ定数特性を示す図である。
【図7】図7は、第三バネ要素のバネ定数特性を示す図である。
【図8】図8は、制御油圧による移動推力特性を示す図である。
【図9】図9は、別の実施形態に係る防振支持装置の概略図である。
【図10】図10は、第一バネ要素のバネ定数特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0021】
図1に示すように、本実施形態に係る防振支持装置1は、支持対象物(図示せず)の支持位置変化と連動して後述する固定部材14に対して往復運動する支持部材10と、支持部材10に連結され、一定の供給油圧を常時受けて荷重負荷に対抗する一定の油圧推力を支持部材10に与える支持力変換油圧ピストン・シリンダ機構(第一油圧ピストン・シリンダ機構)11と、支持部材10の移動方向に沿って往復運動する支持力補正制御部材12と、支持力補正制御部材12に連結され、制御油圧を受けて制御油圧に応じた補正推力を支持力補正制御部材12に与える補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構(第二油圧ピストン・シリンダ機構)13と、一端が支持部材10に接続され他端が固定部材14に接続され、支持部材10の変位の増大に伴って反力が減少する負のバネ定数をもつ第一バネ要素15と、一端が支持部材10に接続され他端が支持力補正制御部材12に接続され、支持部材10と支持力補正制御部材12との間の相対変位の増大に伴って反力が増加する正のバネ定数をもち、且つ、そのバネ定数の絶対値が第一バネ要素15のバネ定数の絶対値より若干大きな値となるように設定された第二バネ要素16と、一端が支持力補正制御部材12に接続され他端が固定部材14に接続され、支持力補正制御部材12の変位の増大に伴って反力が減少する負のバネ定数をもち、且つ、そのバネ定数の絶対値が第二バネ要素16のバネ定数の絶対値とほぼ同じ値となるように設定された第三バネ要素17とを備える。
【0022】
即ち、防振支持装置1は、一端が支持部材10に接続され他端が固定部材14に接続され、比較的高いバネ定数をもつ第一バネ要素15と、一端が支持部材10に接続され他端が支持力補正制御部材12に接続され、第一バネ要素15のバネ定数とは正負が逆の関係のバネ定数をもち、且つ、そのバネ定数の絶対値が第一バネ要素15のバネ定数の絶対値に近い値となるように設定された第二バネ要素16と、一端が支持力補正制御部材12に接続され他端が固定部材14に接続され、第二バネ要素16のバネ定数とは正負が逆の関係のバネ定数をもち、且つ、そのバネ定数の絶対値が第二バネ要素16のバネ定数の絶対値とほぼ同じ値となるように設定された第三バネ要素17とを備える。
【0023】
また、本実施形態に係る防振支持装置1は、支持対象物の支持位置が基準位置にある場合には、補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構13内の油の出し入れを阻止して、支持力補正制御部材12の移動を拘束し、支持対象物の支持位置が基準位置から変位した場合には、支持対象物の支持位置の基準位置からの変位方向と反対方向に支持力補正制御部材12を移動させて、支持対象物の支持位置の基準位置からの変位方向と反対方向に第二バネ要素16を介して支持部材10を移動させ、支持対象物の支持位置を基準位置に戻す補正機構18を更に備える。
【0024】
本実施形態の支持力変換油圧ピストン・シリンダ機構11は、固定部材14に接続されたシリンダ19と、シリンダ19内に往復運動可能に収容されたピストン20と、一端がピストン20に接続され他端が支持部材10に接続されたロッド21とから構成されている。ピストン20は、シリンダ19内をロッド21側のロッド側油室22とロッド21とは反対側の対向油室23とに区画している。ロッド側油室22は油圧供給通路24を介して油圧供給源25に接続され、対向油室23は通路26を介して後述する荷重支持油圧ピストン・シリンダ機構27の油室31に接続される。
【0025】
ここで、本実施形態では、支持対象物の直接的な支持構造部としての荷重支持油圧ピストン・シリンダ機構27を設けている。荷重支持油圧ピストン・シリンダ機構27は、固定系に接続された有底円筒状のシリンダ28と、シリンダ28に往復運動可能に装着されたピストン29と、一端がピストン29に接続され他端が支持対象物に接続されるロッド30とから構成されている。ピストン29の頂部とシリンダ28の底部との間に油室31が区画形成されており、油室31は通路26を介して支持力変換油圧ピストン・シリンダ機構11の対向油室23に接続されている。
【0026】
本実施形態では、支持対象物の直接的な支持構造部としての荷重支持油圧ピストン・シリンダ機構27を設けているので、荷重支持油圧ピストン・シリンダ機構27のピストン29に与える油圧推力が荷重支持力となり、支持対象物の支持位置はピストン29の位置によって決まるようになっている。この場合、荷重支持油圧ピストン・シリンダ機構27の油室31と支持力変換油圧ピストン・シリンダ機構11の対向油室23とを導通させておくことで、支持力変換油圧ピストン・シリンダ機構11の対向油室23に発生する油圧は、荷重支持油圧ピストン・シリンダ機構27のピストン29に作用する正味の荷重支持力に比例した値となり、支持力変換油圧ピストン・シリンダ機構11及び荷重支持油圧ピストン・シリンダ機構27を、各々の設置場所に拘わらず連動させることができる。なお、荷重支持油圧ピストン・シリンダ機構27の設置場所の周辺機構条件によっては、この荷重支持油圧ピストン・シリンダ機構27の両端部を図1のように回動可能な支点構造にしてもよい。ちなみに、このような別置きの荷重支持油圧ピストン・シリンダ機構27を設けるのではなく、支持部材10そのものを、支持対象物の直接的な支持構造部として用いても良いことは言うまでもない。
【0027】
また、本実施形態では、支持力変換油圧ピストン・シリンダ機構11のロッド側油室22と油圧供給源25とを繋ぐ油圧供給通路24の途中に変位検出油圧ピストン・シリンダ機構32を設置して、この変位検出油圧ピストン・シリンダ機構32を、ピストン33の往復運動によって支持対象物の支持位置を検出する変位検出器としている。変位検出油圧ピストン・シリンダ機構32は、固定系に接続されたシリンダ34と、シリンダ34内に往復運動可能に収容されたピストン33と、ピストン33に接続されたロッド35とから構成されている。ピストン33は、シリンダ34内をロッド35側のロッド側油室36とロッド35とは反対側の対向油室37とに区画している。ロッド側油室36は支持力変換油圧ピストン・シリンダ機構11のロッド側油室22に導通され、対向油室37は油圧供給源25に導通される。
【0028】
本実施形態では、変位検出油圧ピストン・シリンダ機構32で検出した支持対象物の支持位置に応じて、後述する制御弁セット63を駆動するようにしている。なお、支持部材10の変位から支持対象物の支持位置を検出しても良いことは言うまでもない。どのように支持対象物の支持位置を検出するかは、装置の設置場所のスペース制約等に応じて選択すれば良い。
【0029】
また、本実施形態では、後述する第一揺動ピストン・シリンダ機構45、第二揺動ピストン・シリンダ機構50、第三揺動ピストン・シリンダ機構56及び多段油圧比変換機構(油圧比変換装置62)の動作エネルギー源となる油圧供給源25として、エネルギー貯蔵効率の良い封入ガス圧縮型の定圧アキュムレータをエネルギー貯蔵源とする定圧アキュムレータシステムを用いている。この定圧アキュムレータシステムは、出力油圧として一定の供給油圧P0を出力するものである。
【0030】
本実施形態の補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構13は、固定部材14に接続されたシリンダ38と、シリンダ38内に往復運動可能に収容されたピストン39と、一端がピストン39に接続され他端が支持力補正制御部材12に接続されたロッド40とから構成されている。ピストン39は、シリンダ38内をロッド40側のロッド側油室41とロッド40とは反対側の対向油室42とに区画している。ロッド側油室41は制御油圧供給側導通通路43を介して後述する油圧比変換装置62に接続され、対向油室42は定圧供給側導通通路44を介して油圧供給通路24に接続される。補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構13のピストン39には、ロッド側油室41の油圧推力と対向油室42の油圧推力との油圧推力偏差が作用し、この油圧推力偏差が支持力補正制御部材12の移動推力となる。
【0031】
本実施形態の第一バネ要素15は、図1に示す基準位相において、所定の傾斜角度θ1(例えば、30°)で対向設置される一対の第一揺動ピストン・シリンダ機構45を有する第一揺動ピストン・シリンダ機構セットから構成されている。各第一揺動ピストン・シリンダ機構45は、固定部材14に設けられた支点に回動可能に接続された有底筒状のシリンダ46と、シリンダ46に往復運動可能に装着されたピストン47と、一端がピストン47に接続され他端が支持部材10に設けられた支点に回動可能に接続されたロッド48とから構成されている。ピストン47の頂部とシリンダ46の底部との間に油室49が区画形成されており、油室49は油圧供給通路24に接続されている。
【0032】
第一揺動ピストン・シリンダ機構セット(第一バネ要素15)は、各第一揺動ピストン・シリンダ機構45の油室49に一定の供給油圧を常時作用させることで生じる油圧推力Fa1、Fa2の角分力Fax1、Fax2が支持部材10に作用する油圧推力となる原理であるが、各第一揺動ピストン・シリンダ機構45が、図1に示す基準位相において、各々傾斜角度θ1の対向状態で設置されるので、図1に示す基準位相においては、各第一揺動ピストン・シリンダ機構45の角分力Fax1、Fax2同士が相殺し合い、支持部材10に作用する油圧推力Fax(=Fax1+Fax2)はゼロである。図1に示す基準位相から、支持部材10との相対位置が変化(つまり油圧バネとしての撓み挙動)することによって、各第一揺動ピストン・シリンダ機構45の傾斜角度θ1の対称性が崩れて角分力Fax1、Fax2に偏差が生じることで、第一揺動ピストン・シリンダ機構セット(第一バネ要素15)は、支持部材10の変位に比例して反力が増減するバネ定数特性を発揮するようになっている。各第一揺動ピストン・シリンダ機構45による油圧推力Fa1、Fa2は支点間伸長方向の推力となるので、第一揺動ピストン・シリンダ機構セット(第一バネ要素15)は、支持部材10の変位の増大に伴って反力が減少する負のバネ定数をもつことになる(図5参照)。そして、このバネ定数の値は、各第一揺動ピストン・シリンダ機構45の受圧面積、供給油圧及び両支点間の高さ偏差により決まる。
【0033】
また、本実施形態では、第一揺動ピストン・シリンダ機構セットを複数備え、それら第一揺動ピストン・シリンダ機構セットを、支持部材10の移動方向と直交する方向の角分力Fay1、Fay2が互いに相殺されるように配置している。図1では、第一揺動ピストン・シリンダ機構セットを、支持部材10の移動軸線Cを挟んで対称となるように一対配置している。
【0034】
本実施形態の第二バネ要素16は、図1に示す基準位相において、所定の傾斜角度θ2(例えば、30°)で対向設置される一対の第二揺動ピストン・シリンダ機構50を有する第二揺動ピストン・シリンダ機構セットから構成されている。各第二揺動ピストン・シリンダ機構50は、支持力補正制御部材12に設けられた支点に回動可能に接続されたシリンダ51と、シリンダ51内に往復運動可能に収容されたピストン52と、一端がピストン52に接続され他端が支持部材10に設けられた支点に回動可能に接続されたロッド53とから構成されている。ピストン52は、シリンダ51内をロッド53側のロッド側油室54とロッド53とは反対側の気室55とに区画している。ロッド側油室54は油圧供給通路24に接続され、気室55はシリンダ51に設けた開口を通じて大気開放されている。
【0035】
第二揺動ピストン・シリンダ機構セット(第二バネ要素16)は、各第二揺動ピストン・シリンダ機構50のロッド側油室54に一定の供給油圧を常時作用させることで生じる油圧推力Fb1、Fb2の角分力Fbx1、Fbx2が支持部材10に作用する油圧推力となる原理であるが、各第二揺動ピストン・シリンダ機構50が、図1に示す基準位相において、各々傾斜角度θ2の対向状態で設置されるので、図1に示す基準位相においては、各第二揺動ピストン・シリンダ機構50の角分力Fbx1、Fbx2同士が相殺し合い、支持部材10に作用する油圧推力Fbx(=Fbx1+Fbx2)はゼロである。図1に示す基準位相から、支持部材10との相対位置が変化(つまり油圧バネとしての撓み挙動)することによって、各第二揺動ピストン・シリンダ機構50の傾斜角度θ2の対称性が崩れて角分力Fbx1、Fbx2に偏差が生じることで、第二揺動ピストン・シリンダ機構セット(第二バネ要素16)は、支持部材10と支持力補正制御部材12との間の相対変位に比例して反力が増減するバネ定数特性を発揮するようになっている。各第二揺動ピストン・シリンダ機構50による油圧推力Fb1、Fb2は支点間収縮方向の推力となるので、第二揺動ピストン・シリンダ機構セット(第二バネ要素16)は、支持部材10と支持力補正制御部材12との間の相対変位の増大に伴って反力が増加する正のバネ定数をもつことになる(図6参照)。そして、このバネ定数の値は、各第二揺動ピストン・シリンダ機構50の受圧面積、供給油圧及び両支点間の高さ偏差により決まる。
【0036】
また、本実施形態では、第二揺動ピストン・シリンダ機構セットを複数備え、それら第二揺動ピストン・シリンダ機構セットを、支持部材10の移動方向と直交する方向の角分力Fby1、Fby2が互いに相殺されるように配置している。図1では、第二揺動ピストン・シリンダ機構セットを、支持部材10の移動軸線Cを挟んで対称となるように一対配置している。
【0037】
本実施形態の第三バネ要素17は、図1に示す基準位相において、所定の傾斜角度θ3(例えば、30°)で対向設置される一対の第三揺動ピストン・シリンダ機構56を有する第三揺動ピストン・シリンダ機構セットから構成されている。各第三揺動ピストン・シリンダ機構56は、固定部材14に設けられた支点に回動可能に接続された有底筒状のシリンダ57と、シリンダ57に往復運動可能に装着されたピストン58と、一端がピストン58に接続され他端が支持力補正制御部材12に設けられた支点に回動可能に接続されたロッド59とから構成されている。ピストン58の頂部とシリンダ57の底部との間に油室60が区画形成されており、油室60は油圧供給通路24に接続されている。
【0038】
第三揺動ピストン・シリンダ機構セット(第三バネ要素17)は、各第三揺動ピストン・シリンダ機構56の油室60に一定の供給油圧を常時作用させることで生じる油圧推力Fc1、Fc2の角分力Fcx1、Fcx2が支持力補正制御部材12に作用する油圧推力となる原理であるが、各第三揺動ピストン・シリンダ機構56が、図1に示す基準位相において、各々傾斜角度θ3の対向状態で設置されるので、図1に示す基準位相においては、各第三揺動ピストン・シリンダ機構56の角分力Fcx1、Fcx2同士が相殺し合い、支持力補正制御部材12に作用する油圧推力Fcx(=Fcx1+Fcx2)はゼロである。図1に示す基準位相から、支持力補正制御部材12との相対位置が変化(つまり油圧バネとしての撓み挙動)することによって、各第三揺動ピストン・シリンダ機構56の傾斜角度θ3の対称性が崩れて角分力Fcx1、Fcx2に偏差が生じることで、第三揺動ピストン・シリンダ機構セット(第三バネ要素17)は、支持力補正制御部材12の変位に比例して反力が増減するバネ定数特性を発揮するようになっている。各第三揺動ピストン・シリンダ機構56による油圧推力Fc1、Fc2は支点間伸長方向の推力となるので、第三揺動ピストン・シリンダ機構セット(第三バネ要素17)は、支持力補正制御部材12の変位の増大に伴って反力が減少する負のバネ定数をもつことになる(図7参照)。そして、このバネ定数の値は、各第三揺動ピストン・シリンダ機構56の受圧面積、供給油圧及び両支点間の高さ偏差により決まる。
【0039】
また、本実施形態では、第三揺動ピストン・シリンダ機構セットを複数備え、それら第三揺動ピストン・シリンダ機構セットを、支持力補正制御部材12の移動方向と直交する方向の角分力Fcy1、Fcy2が互いに相殺されるように配置している。図1では、第三揺動ピストン・シリンダ機構セットを、支持部材10の移動軸線Cを挟んで対称となるように一対配置している。
【0040】
本実施形態の補正機構18は、補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構13のロッド側油室41及び対向油室42への油の出し入れを制御するための制御方向規制弁セット61と、補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構13のロッド側油室41に供給する制御油圧の大きさを、支持部材10の変位に応じて段階的に変化させるための多段油圧比変換機構を有する油圧比変換装置62と、変位検出油圧ピストン・シリンダ機構32の検出値(支持部材10の変位)に応じて制御方向規制弁セット61及び多段油圧比変換機構(油圧比変換装置62)を駆動する制御弁セット63とを有している。
【0041】
本実施形態の制御方向規制弁セット61は、補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構13の対向油室42の定圧側導通通路44に配設され、対向油室42内への油の流入のみを許容し、対向油室42からの油の流出を阻止する定圧供給側一方向チェック弁64と、定圧供給側一方向チェック弁64を迂回する定圧供給側バイパス通路65と、補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構13のロッド側油室41の制御油圧供給側導通通路43に配設され、ロッド側油室41内への油の流入のみを許容し、ロッド側油室41からの油の流出を阻止する制御油圧供給側一方向チェック弁66と、制御油圧供給側一方向チェック弁66を迂回する制御油圧供給側バイパス通路67と、定圧供給側バイパス通路65及び制御油圧供給側バイパス通路67を開閉する遮断弁68とを有している。
【0042】
遮断弁68は、制御弁セット63によって、変位検出油圧ピストン・シリンダ機構32の検出値(支持部材10の変位)に応じて制御され、支持部材10の位置が基準位置にある場合には、定圧供給側バイパス通路65及び制御油圧供給側バイパス通路67共に遮断状態とされ、支持部材10の位置が基準位置より変位増加方向(図中右側)に変位した場合には、制御油圧供給側バイパス通路67が開放状態とされ、支持部材10の位置が基準位置より変位減少方向(図中左側)に変位した場合には、定圧供給側バイパス通路65が開放状態とされるように制御される。
【0043】
制御方向規制弁セット61により、支持対象物の支持位置が基準位置にある状態では、遮断弁68によって定圧供給側バイパス通路65及び制御油圧供給側バイパス通路67共に遮断状態にあるので、補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構13のロッド側油室41及び対向油室42の導通先は各々制御油圧供給側一方向チェック弁66及び定圧供給側一方向チェック弁64のみとなる。この場合、支持力補正制御部材12が移動しようとすると、補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構13の両油室(ロッド側油室41、対向油室42)の容積縮小側油室内の油が押し出されようとするが、その油の流出は制御油圧供給側一方向チェック弁66或いは定圧供給側一方向チェック弁64によって阻止されるので、結局、支持力補正制御部材12はその時の位置で拘束された状態になる。
【0044】
そして、支持対象物の支持位置が基準位置より変位増加方向(図中右側)に変位した場合には、遮断弁68によって制御油圧供給側バイパス通路67が開放される(図4参照)ので、支持力補正制御部材12の変位減少方向(図中左側)への移動のみが許容され、支持対象物の支持位置が基準位置より変位減少方向(図中左方向)に変位した場合には、遮断弁68によって定圧供給側バイパス通路65が開放されるので、支持力補正制御部材12の変位増加方向(図中右側)への移動のみが許容される。
【0045】
つまり、支持対象物の重量増加による支持力バランスの崩れで支持部材10が基準位置より変位増加方向(図中右側)に変位した場合には、支持力補正制御部材12は変位減少方向(図中左側)への移動のみが許容され、逆に、支持部材10が基準位置より変位減少方向(図中左側)に変位した場合には、支持力補正制御部材12の変位増加方向(図中右側)への移動のみが許容される。
【0046】
図示はしないが、上記の多段油圧比変換機構は、受圧面積の異なる複数の油圧プランジャ素子系統群を含み、各油圧プランジャ素子系統群への油圧供給状況を制御弁セット63の操作によって変化させることで供給油圧に対して出力油圧を多段階に変化させるようになっている。
【0047】
そして、支持部材10の変位によって段階的に変化する多段油圧比変換機構(油圧比変換装置62)による制御油圧の変化特性として、図1のように、補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構13の対向油室42に一定の供給油圧が供給され、補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構13のロッド側油室41に制御油圧が導かれる構成の場合には、支持部材10の変位増加(右移動)に対する制御油圧の段階的変化の平均勾配を負の特性にしておけば(図8参照)、この補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構13の油圧推力偏差は支持部材10の変位の増加に伴って段階的に増加する特性になり、第二バネ要素16による油圧推力に対抗する推力変化特性となる。
【0048】
ちなみに、補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構13の油圧推力偏差の段階的変化の平均勾配(絶対値)と、第二バネ要素16のバネ定数によって決まる油圧推力の増加勾配(絶対値)との差が少ないと、支持対象物の支持位置の基準位置からの変位が小さな領域では、補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構13による油圧推力偏差が第二バネ要素16による油圧推力を上回らず、補正制御動作が停止してしまう領域が生じる。そのため、補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構13による油圧推力偏差の段階的変化の変化勾配を第二バネ要素16による油圧推力の変化勾配の二倍以上に設定することが望ましい。
【0049】
また、補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構13のロッド側油室41に一定の供給油圧が供給され、補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構13の対向油室42に制御油圧が導かれる構成の場合には、支持部材10の変位増加(右移動)に対する制御油圧の段階的変化の平均勾配を正の特性にしておけば、同様の推力変化特性が得られる。
【0050】
このような特性諸元関係に設定することにより、支持対象物の支持位置が基準位置からずれると、その基準位置からの変位の増大に伴って支持力補正制御部材12に補正方向の移動推力(補正推力)が作用し、支持対象物の支持位置の自動補正機能が発揮される。
【0051】
また、本実施形態に係る防振支持装置1は、油圧供給源25(定圧アキュムレータシステム)の蓄圧エネルギー量を監視し、支持位置の基準位相換算での蓄圧エネルギー量が設定値を下回った場合に、電動油圧ポンプ等の油圧汲み上げ手段を駆動して蓄圧エネルギー量を補充し、蓄圧エネルギー量が設定値を上回った時点でその補充操作を停止させる、蓄圧エネルギー管理システムをさらに備える。
【0052】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0053】
本実施形態では、支持対象物の支持位置が基準位置にある状態において、支持部材10が発揮する荷重支持力は、支持力変換油圧ピストン・シリンダ機構11のロッド側油室22に常時供給油圧を作用させておくことで発生する、支持力変換油圧ピストン・シリンダ機構11による基準油圧推力と、第一揺動ピストン・シリンダ機構45の油室49及び第二揺動ピストン・シリンダ機構50のロッド側油室54に常時供給油圧を作用させておくことで発生する、第一バネ要素15及び第二バネ要素16の両油圧推力の三者の合計値となる。
【0054】
本実施形態のように、第一バネ要素15が負のバネ定数をもち、第二バネ要素16が正のバネ定数を持つ場合、支持対象物の支持位置変動による支持部材10の変位が生じると、第一バネ要素15及び第二バネ要素16に同じ量の変位が与えられることになり、負のバネ定数をもつ第一バネ要素15の油圧推力減少と、正のバネ定数をもつ第二バネ要素16の油圧推力増加とが合算された差分の油圧推力が支持部材10に作用する。この場合、第一バネ要素15のバネ定数を−Ka、第二バネ要素16のバネ定数を+Kbとすると、結局これら第一バネ要素15及び第二バネ要素16の合算バネ定数特性としては、(Kb−Ka)のバネ定数をもつ油圧バネとして振る舞うことになり、例えば本実施形態のように第二バネ要素16のバネ定数の絶対値を第一バネ要素15のバネ定数の絶対値より若干大きな値となるように設定した場合には、防振機能として望ましい極めて低いバネ定数特性が得られる。なお、第一バネ要素15のバネ定数の絶対値と第二バネ要素16のバネ定数の絶対値とを等しく設定した場合には、支持対象物の支持位置変動によって支持部材10が発揮する荷重支持力に変化が生じない(支持力変換油圧ピストン・シリンダ機構11が発揮する基準油圧推力で一定)バネ定数ゼロの特性も得られる。
【0055】
ちなみに、図1に示す基準位相においては、第一バネ要素15及び第二バネ要素16により支持部材10に作用する油圧推力(角分力Fax、Fbx)は共にゼロであるから、この状態における支持部材10に作用する推力は、支持力変換油圧ピストン・シリンダ機構11が発揮する基準油圧推力のみであり、これが荷重支持力となる。
【0056】
一方、支持対象物の重量変化によって支持対象物の支持位置が基準位置から変位した場合には、支持対象物の支持位置の基準位置からの変位方向と反対方向に支持力補正制御部材12を移動させて、支持対象物の支持位置の基準位置からの変位方向と反対方向に第二バネ要素16を介して支持部材10を移動させ、支持対象物の支持位置を基準位置に戻すようにしている。
【0057】
本実施形態では、第三バネ要素17のバネ定数を第二バネ要素16のバネ定数と絶対値がほぼ同じで正負が逆の特性に設定しているので、第二バネ要素16及び第三バネ要素17の合成バネ定数はゼロとなり、支持力補正制御部材12を移動させて第二バネ要素16及び第三バネ要素17に同じ変位を与えても、制御力をほとんど必要とせずに支持力補正制御部材12を移動させることができる。即ち、本実施形態によれば、支持力補正制御部材12の移動による第二バネ要素16の位相変化に伴う制御反力を第三バネ要素17によって相殺することで、制御力をほとんど必要とせずに支持力補正制御部材12を移動させることができ、支持位置補正操作に伴うエネルギー消費を画期的に少なく抑えることができ、支持位置補正のための支持位置補正感度が高い特性を得られる。
【0058】
ここで、仮に、図2に示すように、支持部材10の位置が不変で、図1に示す基準位相から支持力補正制御部材12を左方向に移動させた状態を想定すると、第二バネ要素16及び第三バネ要素17に同じ変位が与えられ、第二バネ要素16による油圧推力が正側に増加し、第三バネ要素17による油圧推力が負側に増加するが、第二バネ要素16及び第三バネ要素17のバネ定数の絶対値を等しく設定してあるので、支持力補正制御部材12に作用する油圧推力は互いに相殺され、支持力補正制御部材12の移動には制御力をほとんど必要としない。この場合、第二バネ要素16(第二揺動ピストン・シリンダ機構50)の他端は支持部材10に接続されているので、支持部材10に第二バネ要素16による増加推力が作用して支持力変換油圧ピストン・シリンダ機構11による基準油圧推力に加算される結果、荷重支持力が増大することになる。逆に、図3に示すように、支持部材10の位置が不変で、図1に示す基準位相から支持力補正制御部材12を右方向に移動させた場合には、同様に制御力をほとんど必要とせずに支持力補正制御部材12を移動させることができ、また荷重支持力を減少させることができる。
【0059】
このように、支持部材10の変位によって、自動的に荷重支持力が補正され、支持部材10の位置(支持対象物の支持位置)を基準位置に戻す自動補正機能が発揮される。このような支持位置の自動補正機能の動作として、例えば、それまで荷重支持力が支持対象物の重量負荷と釣り合って支持対象物の支持位置が基準位置で安定していた状態から、支持対象物の重量が増加して釣り合いが崩れ、支持部材10等が降下運動する場合、その降下運動によって、荷重支持力発生油圧の圧力油(荷重支持力を発生させていた圧力油の一部)は定圧アキュムレータ(油圧供給源25)側へ押し戻されて、ポテンシャルエネルギー低下相当分が圧力エネルギーとして蓄圧され、支持部材10の降下変位を受けて支持力自動補正機能によって荷重支持力が増加補正される。その結果、支持部材10等に上昇加速度が生じて支持部材10等の降下運動が上昇運動に転じて支持対象物の支持位置が基準位置に復帰する挙動になり、最終的に、増加した支持対象物の重量と釣り合う荷重支持力で支持対象物の支持位置が基準位置に収束安定することになる。この基準位置への復帰時の上昇運動時には、定圧アキュムレータ(油圧供給源25)に蓄圧されていたエネルギーが消費される。
【0060】
この降下運動時の蓄圧エネルギー回収量と、上昇運動時の蓄圧エネルギー消費量との比較では、その釣り合い重量値の差分だけ後者の蓄圧エネルギー消費量の方が大きい。このような支持位置の自動補正機能の繰り返しによって定圧アキュムレータ(油圧供給源25)の蓄圧エネルギー量は徐々に目減りしていくので、目減りした蓄圧エネルギー量を補填するために前述のような蓄圧エネルギー管理システムを備えるのが望ましい。
【0061】
そして、支持位置の自動補正機能の動作は、荷重支持力の補正によって支持対象物に生じる加速度によってもたらされるものなので、支持部材10の変位に対する支持力補正の応答速度があまり速いと、支持部材10に振動変位が作用した場合に、その往復変位回数及び振幅に応じて支持力補正に要するエネルギー消費量が増加するだけでなく、その支持位置補正加速度が折角の極めて低いバネ定数による防振機能を劣化させることになる。そのため、この観点では、支持部材10の変位に対する支持力補正の応答速度は適度に遅いことが望ましい。
【0062】
一方、このような振動入力による支持部材10の変位ではなく、支持対象物に重量変化が生じて支持対象物の重量負荷と荷重支持力との釣り合いが崩れた場合の変位運動に対しては、支持部材10のストローク許容限界に達する前に、荷重支持力を増減補正することが求められるので、適度に速い支持位置補正の応答速度が望まれる。
【0063】
この支持部材10の変位をパラメータとした荷重支持力のフィードバック補正の応答速度は、支持力補正制御部材12の移動速度により決まるものであり、その支持力補正制御部材12の移動速度は、補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構13の差圧推力等の移動推力から移動抵抗力を差し引いた正味移動推力と、支持力補正制御部材12と連動運動する機構部材系の等価質量との比で決まる移動加速度に、経過時間を乗じたものである。そのため、支持部材10の変位による荷重支持力のフィードバック補正の応答速度は、補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構13による移動推力だけでなく、支持力補正制御部材12の移動抵抗力によっても適度に調整することができる。
【0064】
そして、この支持力補正制御部材12に移動抵抗力を付与することにより、支持部材10の変位による荷重支持力のフィードバック補正での支持対象物の支持位置の補正応答挙動のオーバーシュート振動の減衰収束を早める効果も得られる。
【0065】
ちなみに、振動入力に対する防振性能として求められる遅い応答速度と、重量変動対応で求められる速い応答速度の両立や、支持位置の補正応答挙動のオーバーシュート振動の減衰収束に適した支持力補正制御部材12の移動抵抗力特性としては、移動速度の二乗比例で変化する流体抵抗力のような特性が望ましく、さらに、支持部材10(支持対象物)の基準位置付近では移動抵抗力が大きく(応答速度が小さく)、支持部材10(支持対象物)の支持位置が基準位置から大きく変位した領域では移動抵抗力が小さく変化して応答速度を速めるような特性であるとさらに望ましい。
【0066】
このような移動抵抗力生成手段の例として、補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構13のロッド側油室41又は対向油室42に連なる導通通路の途中に抵抗オリフィスを設ける等の方法で支持力補正制御部材12の移動抵抗を増やしても良く、更に、小変位時(支持対象物の支持位置が基準位置に近い領域)には支持力補正制御部材12の移動抵抗を増やすと共に、大変位時(支持対象物の支持位置が基準位置から大きく変位した領域)には支持力補正制御部材12の移動抵抗を減らす可変オリフィス機構等を適用しても良い。
【0067】
以上要するに、本実施形態に係る防振支持装置によれば、防振性能上求められる極めて低いバネ定数をもちながら、支持位置補正のための支持力補正感度が高い特性をもつと共に、その支持力の補正制御における制御エネルギー消費量を画期的に抑制することができる防振支持装置を提供することが可能となる。
【0068】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態には限定されず他の様々な実施形態を採ることが可能である。
【0069】
例えば、図1に示した実施形態では、第二バネ要素16が正のバネ定数をもち、第一バネ要素15及び第三バネ要素17が負のバネ定数をもつ構成にしてあるが、この関係を逆にして、第二バネ要素16が負のバネ定数をもち、第一バネ要素15及び第三バネ要素17が正のバネ定数をもつ構成にしても、補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構13のロッド側油室41に導かれる制御油圧の変化特性を逆勾配の特性に変えてやれば、図1に示した実施形態と同様の効果が得られる。その場合、第二バネ要素16のバネ定数の絶対値が第一バネ要素15のバネ定数の絶対値より若干小さな値となるように設定される。
【0070】
また、第一バネ要素15、第二バネ要素16及び第三バネ要素17として、上記実施形態のように油圧バネシステムで構成するのが、大きな荷重撓み容量を確保する上で望ましいが、支持対象物の重量変動幅の許容範囲をさほど大きく必要とせず、想定最大振動振幅もあまり大きくない場合には、これら第一バネ要素15、第二バネ要素16及び第三バネ要素17に求められる最大撓みストローク量が少なくて済むので、その場合には、正のバネ定数をもつバネ要素に関しては必ずしも油圧バネシステムである必要はなく、必要なバネ定数特性及び最大バネ撓みストローク量を満足できれば、一般的な金属バネ等で置き換えても良い。
【0071】
また、図9に示すように、第一バネ要素15が、図9に示す基準位相において、直立状態で配置される第一揺動ピストン・シリンダ機構45から構成されても良い。図10に、図9に示す第一揺動ピストン・シリンダ機構45(第一バネ要素15)のバネ定数特性を示す。図9に示す実施形態によれば、第一バネ要素15が、小振幅領域ではリニアな負のバネ定数特性をもち、大振幅領域では急激にバネ定数勾配が鈍化する特性を持っているので、支持対象物の重量変化による支持力バランスの崩れで支持対象物が基準位置より大きく変位して大振幅領域に突入した場合には、第一バネ要素15のバネ定数勾配が相対的に鈍化して、第二バネ要素16の反力変化に対する相殺量が減少するようになるので、大変位時の基準位置復帰方向への復元力が自動加算され、基準位置復帰補正応答が速まる効果が得られる。この場合、第二バネ要素16のバネ定数の絶対値が、第一バネ要素15の基準位相付近の線形バネ定数領域でのバネ定数の絶対値より若干大きな値となるように設定される。
【符号の説明】
【0072】
1、2 防振支持装置
10 支持部材
12 支持力補正制御部材
13 補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構
14 固定部材
15 第一バネ要素
16 第二バネ要素
17 第三バネ要素
25 油圧供給源(定圧アキュムレータシステム)
45 第一揺動ピストン・シリンダ機構
50 第二揺動ピストン・シリンダ機構
56 第三揺動ピストン・シリンダ機構
61 制御方向規制弁セット
62 油圧比変換装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持対象物の支持位置変化と連動して固定部材に対して往復運動する支持部材と、
該支持部材の移動方向に沿って往復運動する支持力補正制御部材と、
一端が上記支持部材に接続され他端が上記固定部材に接続され、比較的高いバネ定数をもつ第一バネ要素と、
一端が上記支持部材に接続され他端が上記支持力補正制御部材に接続され、上記第一バネ要素のバネ定数とは正負が逆の関係のバネ定数をもち、且つ、そのバネ定数の絶対値が上記第一バネ要素のバネ定数の絶対値に近い値となるように設定された第二バネ要素と、 一端が上記支持力補正制御部材に接続され他端が上記固定部材に接続され、上記第二バネ要素のバネ定数とは正負が逆の関係のバネ定数をもち、且つ、そのバネ定数の絶対値が上記第二バネ要素のバネ定数の絶対値とほぼ同じ値となるように設定された第三バネ要素と、
上記支持力補正制御部材に連結され、油圧を受けてその油圧に応じた補正推力を上記支持力補正制御部材に与える補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構と、
上記支持部材の変位に応じた出力油圧を上記補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構に作用させる油圧比変換装置とを備えたことを特徴とする防振支持装置。
【請求項2】
上記第一バネ要素が、一端が上記支持部材に回動可能に接続され他端が上記固定部材に回動可能に接続された第一揺動ピストン・シリンダ機構を有し、
上記第二バネ要素が、一端が上記支持部材に回動可能に接続され他端が上記支持力補正制御部材に回動可能に接続された第二揺動ピストン・シリンダ機構を有し、
上記第三バネ要素が、一端が上記支持力補正制御部材に回動可能に接続され他端が上記固定部材に回動可能に接続された第三揺動ピストン・シリンダ機構を有する請求項1に記載の防振支持装置。
【請求項3】
上記油圧比変換装置が、受圧面積の異なる複数の油圧プランジャ素子系統群を含む多段油圧比変換機構を有する請求項1又は2に記載の防振支持装置。
【請求項4】
上記補正推力発生油圧ピストン・シリンダ機構の油圧回路に設けられ、上記支持力補正制御部材の所定方向への移動のみを許容する制御方向規制弁セットをさらに備える請求項1から3のいずれかに記載の防振支持装置。
【請求項5】
上記第一揺動ピストン・シリンダ機構、上記第二揺動ピストン・シリンダ機構及び上記第三揺動ピストン・シリンダ機構の油圧供給源として、定圧アキュムレータシステムの蓄圧エネルギーを用いる請求項2に記載の防振支持装置。
【請求項6】
上記多段油圧比変換機構の油圧供給源として、定圧アキュムレータシステムの蓄圧エネルギーを用いる請求項3に記載の防振支持装置。
【請求項7】
上記第一バネ要素が上記支持部材の変位の増大に伴って反力が減少する負のバネ定数をもち、
上記第二バネ要素が上記支持部材と上記支持力補正制御部材との間の相対変位の増大に伴って反力が増加する正のバネ定数をもち、
上記第三バネ要素が上記支持力補正制御部材の変位の増大に伴って反力が減少する負のバネ定数をもつ請求項1から6のいずれかに記載の防振支持装置。
【請求項8】
上記第一バネ要素が上記支持部材の変位の増大に伴って反力が増加する正のバネ定数をもち、
上記第二バネ要素が上記支持部材と上記支持力補正制御部材との間の相対変位の増大に伴って反力が減少する負のバネ定数をもち、
上記第三バネ要素が上記支持力補正制御部材の変位の増大に伴って反力が増加する正のバネ定数をもつ請求項1から6のいずれかに記載の防振支持装置。
【請求項9】
上記支持力補正制御部材の変位に対する抵抗力特性を、上記支持対象物の支持位置が基準位置に近い領域では大きく、上記支持対象物の支持位置が基準位置から大きく変位した領域では小さくする請求項1から8のいずれかに記載の防振支持装置。
【請求項10】
上記定圧アキュムレータシステムの蓄圧エネルギー量を監視し、上記定圧アキュムレータシステムの蓄圧エネルギー量が設定値を下回った場合に蓄圧エネルギー量を補充するための蓄圧エネルギー管理システムをさらに備える請求項5又は6に記載の防振支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−180910(P2010−180910A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22805(P2009−22805)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】