説明

防汚効果のある道路標識物

【課題】道路標識物、特にポールコーンの防汚加工物を提供する。
【解決手段】熱可塑性エラストマーに、ポリエーテル変性シリコン、フッ素樹脂パウダー及びカルボキシ変性ポリオレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種を練り込み、この樹脂をポールコーンに成形することにより、油性、無機性汚れが雨水により容易に流されるポールコーンが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路の側縁や中央分離帯等に設置され、車両運転者を誘導する道路標識物、特にポールコーンと呼ばれる成型品の防汚加工に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポールコーンは、道路上に設置されている円筒状の道路標識物で、工事中の道路を分岐したり、車を誘導したりする標識物として使用されている。
【0003】
ポールコーンは、通常道路上に設置されるため、車の排気ガスや埃により汚れてしまい、時間の経過と共に走行中の車から道路標識物としての認識性能が悪くなってしまう問題がある。現在は、定期的にポールコーンを回収し、一本づつ洗浄し、表面の汚れを落として再利用している。
【0004】
回収は、交通量の多い一般国道で半年に一回、高速道路では3ヶ月に一回程度位行われているが、その回収と洗浄に要するメンテナンス費用と手間はかなり莫大なものになっている。しかしこれまでポールコーンのこれらに要する経費や手間の軽減等のための施策は殆どなされていない。
【0005】
このような車の排気ガスや埃によるポールコーンの汚れをポールコーンを回収洗浄することなく、雨水により洗い流すことが提案されており、その具体的手段として、特開平11−81255号公報(特許文献1)には、光触媒である二酸化チタンをポールコーンの表面に付着させ、該二酸化チタンに紫外線が照射されることにより二酸化チタンが活性化され、ポールコーン表面を親水化され、雨水により汚れを洗い流す方法が提案されている。しかしながら、実際には、洗い流される汚れの量よりも付着する汚れの量の方がはるかに多く、汚れが付着していない状態を保つことは極めて困難である。さらに、光触媒は、紫外線を照射されることにより、それと接触する樹脂を急速に劣化させる働きがあることから、ポールコーンを構成している樹脂に直接添加したり、あるいは樹脂成形物の表面に直接付着させることが出来ず、光触媒と樹脂との間に、光触媒により劣化されない特別の樹脂層を介在させることが必要となり、製造コストが大幅にアップすることとなり、さらに光触媒を表面層として存在させる場合には、該表面層が剥離しやすいという問題を有している。
【0006】
【特許文献1】特開平11−81255号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ポールコーンで代表される道路標識物の回収や洗浄によるメンテナンス費用と手間を軽減することを目的に、ポールコーンの成型物本体に防汚加工を施すものであって、雨水等により充分に汚れが洗浄され、かつ道路標識物構成樹脂を殆ど劣化させることのない道路標識物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明者等は鋭意研究を行った結果、本発明者らは、有効な防汚剤としてポリエーテル変性シリコン、フッ素樹脂及びカルボキシ変性ポリオレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を道路標識物、好ましくはポールコーンの本体に使用している熱可塑性樹脂に練り込み、その樹脂を成型することにより、付着した排気ガス中の油性汚れや埃などが、雨などにより簡単に落ちてしまうこと、さらに添加されている樹脂を殆ど劣化させないことを見つけた。
【発明の効果】
【0009】
本発明の、ポリエーテル変性シリコン、フッ素樹脂及びカルボキシ変性ポリオレフィンのからなる群から選ばれる少なくとも1種を練りこんだ熱可塑性樹脂からなるポールコーンは、付着した汚れが雨などの水分によって簡単に剥離、流出する。これは、成型物の表面と油性・無機性の汚れに間に、これらの防汚材料が介在し、雨などの水分によって防汚材料がわずかに溶解、流出する時に一緒に汚れを流し去るものと考えられる。また練りこんだことによる成型物の強度の低下もほとんどない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に用いるポリエーテル変性シリコンの具体例としては、ジメチルポリシロキサンの末端又は側鎖にポリアルキレンオキシドが付加した化合物やポリメチルシロキサンとポリアルキレンオキシドが交互に重合した化合物である。ポリアルキレンオキシドとしては、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシドポリプロピレンオキシド共重合体、ポリプロピレンオキシド等が挙げられる。シリコン本体はジメチルシロキサンの重合度により液状(オイル)から固体(レジン)の形状があるが、特にその形状は問わない。ポリメチルシロキサンとポリアルキレンオキシドの重量比としては、70:30〜20:80の範囲が汚れの剥離、流出を高める上で好ましい。もちろん、本発明で用いられるポリエーテル変性シリコンには、ポリアルキレンオキシド及びジメチルポリシロキサン以外の基を有していてもよい。
【0011】
本発明で言うフッ素樹脂とは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、四フッ化エチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(PFEP)、四フッ化エチレン−エチレン共重合体(ETFE)、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、三フッ化塩化塩化エチレン樹脂(PCTFE)、三フッ化塩化エチレン−エチレン共重合体(ECTFE)、ポリテトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキシソールコポリマー(TFE/PDD)、ポリビニルフルオライド(PVF)等の一般的にフッ素樹脂と称される樹脂を意味し、本発明では、これらのフッ素樹脂をパウダー状にしたものを使用する。道路標識物への成形の際の温度では、上記フッ素樹脂は溶融しない場合が多いが、本発明ではパウダー状であることから、成形物中にはパウダー状で存在することとなる。
【0012】
フッ素樹脂パウダーは、上記したフッ素樹脂の少なくとも1種を機械的に粉砕した微粉体であり、一般的に塗料,インキの添加剤やゴム,エンジニアプラスチックの添加剤として用いられており、一般に300℃以上の耐熱性がある。本発明において、上記フッ素樹脂群のなかでも、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)がもっとも好ましい。フッ素樹脂パウダーの大きさとしては、平均値で0.5〜100μmのもの、特に1〜10μmのものが汚れの剥離、流出を高める上で好ましい。なお、本発明でいう平均直径とは、レーザー回析・散乱法により測定した値である。
【0013】
カルボキシ変性ポリオレフィンとしては、ポリオレフィンの末端に無水マレイン酸等のカルボキシル基含有化合物を付加したものやポリオレフィンとカルボキシル基含有モノマーを交互あるいはランダムに重合したもの、さらにはポリオレフィンの側鎖にカルボキシル基含有化合物を付与したもの等が挙げられ、一般にポリオレフィン樹脂への相溶化剤や無機フィラーの分散剤として用いられている。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体等が挙げられる。なかでも、ポリプロピレンが最適である。またカルボキシル基含有化合物としては、アクリル酸やメタクリル酸、無水マレイン酸等のエチレン性不飽和二重結合を有するモノマーが代表例として挙げられる。なかでも、無水マレイン酸がもっとも好ましい。
【0014】
防汚剤の練りこみ量は、主体樹脂に対して1〜20重量%が好ましい。1重量%未満の場合には防汚効果が少なくなる。また20重量%を越えると、ポールコーンの本体の物性(強度、耐衝撃性等)に影響が出て、成型加工が難しくなるために良くない。より好ましくは3〜10重量%の範囲である。
【0015】
また、本発明の道路標識物を製造する際には、樹脂に、防カビ剤、防藻剤、防炎剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、再帰性反射物等の機能加工剤を添加併用することも可能である。また着色顔料や蛍光顔料などを併用しても良い。
【0016】
道路標識物に使用される主体樹脂としては、熱可塑性の樹脂が使用される。道路上で使用されるために、自動車に何度も接触したり、踏まれたりすることが生じることから、これらの外的な力でも変形、破損することが少ない材料、例えば熱可塑性のエラストマーが好ましい。具体的には、熱可塑性ポリウレタン樹脂、可塑化されたポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレンとポリオレフィンのブロック共重合体またはその水素添加物、オレフィン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、天然ゴム、合成ゴム類などが挙げられる。なかでも、ポリウレタン系エラストマーがもっとも好ましい。勿論これらの樹脂に限定されるものではない。
【0017】
本発明が対象とする道路標識物としては、ポールコーンが代表例として挙げられる。それ以外に道路標識板なども本発明に含まれる。そして、本発明の道路標識物の表面に少なくとも一部には、再帰反射性物質が付与されていても良い。本発明の道路標識物を用いることにより、従来は短期間の内に、回収して洗浄し再取り付けする手間があったのが、回収期間を大幅に延長できたり、あるいは回収する作業そのものが不要となり、作業コストの大幅な低減が可能となる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により詳細説明する。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0019】
実施例1〜3、比較例1
試料作成:ポールコーンの素材コンパウンド(熱可塑性ウレタン樹脂)に下記の薬剤からなる防汚剤をそれぞれ5重量%添加、練り込んだ後、それぞれの樹脂からプレートを作製した。比較例品として、防汚剤を添加していない樹脂についてもプレートを作製した。
加工温度:210〜230℃
【0020】
使用薬剤:
A)ポリエーテル変性シリコン:3−(ポリオキシエチレン)プロピルヘプタメチルトリシロキサン
B)フッ素樹脂:テフロンパウダー(平均粒径:3μm)
C)カルボキシ変性ポリオレフィン:ポリプロピレン無水マレイン酸化物(軟化点145℃,酸価52mg KOH/g)
【0021】
試験方法:
作製したプレートの中心部にカーボンブラックを1%分散した重油を1滴滴下し、約2時間放置した。繊維用撥水度試験機(JIS L1006)に2時間放置したプレートを貼り付けたアクリル板をセットした後、水500mlをロートより注ぎ、重油の落ち具合を観察した。その結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
また、上記のA、B及びCを添加した樹脂に、緑色の顔料を5重量%添加し、その樹脂組成物を成形して、高さ50cm、直径10cmの円筒型ポールコーンに加工し、その中間部と上から1/4の高さの部分に再帰性反射物を塗布したテープを巻きつけたものを作製し、それらを交通量の激しい交差点に接する雨ざらしの場所に立て、表面の汚れ状態を長期にわたり観察した。
その結果、上記薬剤を添加したいずれのポールコーンの場合には、3ヶ月経過後において、テープを巻いた個所の樹脂表面汚れと巻いていない個所の表面汚れとの差は殆ど見られず、いずれのポールコーンも殆ど汚れが目立たなかった。一方、薬剤を添加しない樹脂からなるポールコーンの場合には、排気ガスによる明らかな黒ずんだ汚れが目立ち、テープを巻いた個所の樹脂表面汚れと巻いていない個所の表面汚れとの差は歴然としたものがあった。
また、これらのポールコーンから樹脂を切り出し、樹脂の引張り強度を測定したところ、3ヶ月間設置の前後において殆ど強度の差が見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
ポリエーテル変性シリコン、フッ素樹脂パウダー及びカルボキシ変性ポリオレフィンの内1種類以上を練りこむことにより付着した油性、無機汚れが雨などの水分により簡単に離脱する道路標識物、特にポールコーンを提供することができる。水による容易な汚れの離脱はセルフクリーニングを可能にし、現在行なわれている定期的な回収、洗浄の手間と経費削減に寄与する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を主体成型材料とし、ポリエーテル変性シリコン、フッ素樹脂及びカルボキシ変性ポリオレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有したことを特徴とする道路標識物。
【請求項2】
ポリエーテル変性シリコン、フッ素樹脂及びカルボキシ変性ポリオレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂の含有率が、主体成形材料に対して1〜20重量%である請求項1に記載の道路標識物。
【請求項3】
熱可塑性樹脂が熱可塑性エラストマーである請求項1または2に記載の道路標識物。
【請求項4】
道路標識物がポールコーンである請求項1〜3のいずれかに記載の道路標識物。

【公開番号】特開2007−239426(P2007−239426A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−100103(P2006−100103)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000208260)大和化学工業株式会社 (28)
【出願人】(000104906)クラレプラスチックス株式会社 (52)
【Fターム(参考)】