説明

隔離床栽培装置及び隔離床栽培方法

【課題】栽培施設内の温度が高温になる夏期に、培土と培土表面近くの温度を栽培に適した温度まで下げることができる隔離床栽培装置と、この装置を使った隔離床栽培方法を提供する。
【解決手段】栽培ベッド2に詰められた培土Sにヒートパイプ3を埋設し、ヒートパイプに冷水を流して培土を冷却する。併せて、栽培ベッドの上方に細霧管4を配設し、細霧管から水を細霧状にして散布して培土表面近くの熱を細霧が蒸発することによって吸収させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガラス温室やビニールハウスなどの栽培施設内で使われる隔離床栽培装置に関し、特に、栽培施設内の温度が高温になる夏期に、培土と培土表面近くの温度を栽培に適した温度まで下げることができる隔離床栽培装置と、この装置を使った隔離床栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガラス温室やビニールハウスなどの栽培施設では、栽培環境をある程度調節しながら、野菜や花などの植物が栽培されている。そして、栽培施設内では、連作障害の回避や養水分の制御などの目的で、栽培ベッドに植物を植え、植物の根域を地面(地床ともいう)から隔離して栽培する隔離床栽培が行われている。
【0003】
隔離床栽培装置としては、ヒートパイプを栽培ベッドに詰められた培土に埋設することで、ヒートパイプに冷水を流すと、栽培施設内が高温になる夏期に培土の温度を20〜25℃程度の低温に保持できるようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、栽培施設内の温度を下げる方法としては、細霧(ミストともいう)を発生させ、水が蒸発するときの気化熱を利用して、栽培施設内の温度を下げる細霧冷房方法が知られている。
【0005】
細霧冷房装置としては、細霧ノズルの下側に送風機を配置することで、送風機が発生させる上向きの乱流によって細霧を広く拡散させて、栽培施設内の温度を均一に下げられるようにしたものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−71号公報(段落0004,0015、図1)
【特許文献2】特開2006−6105号公報(段落0010、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1に係る隔離床栽培装置では、培土に埋設したヒートパイプに冷水を流して培土の温度を下げるよう構成されているために、栽培施設内の温度を下げることには適していない。より詳細には、前記特許文献1に係る隔離床栽培装置では、培土表面を断熱シートで覆うことで、日光や外気からの熱を遮断して培土の温度が上がるのを抑えながら、ヒートパイプに接する培土を冷却するよう構成されているために、温度を下げる効果は培土に限られ、栽培施設内の温度を下げることには適していない。
【0008】
前記特許文献2に係る細霧冷房装置では、細霧ノズルの下側に送風機を配置することで、細霧を広く拡散させるよう構成されているために、ポンプと細霧管と細霧ノズルとから成る一般的な細霧冷房装置と比べて、構造が複雑で取扱いも難しい。
【0009】
そこで、この発明では、前記した課題を解決し、栽培施設内の温度が高温になる夏期に、培土と培土表面近くの温度を栽培に適した温度まで下げることができる隔離床栽培装置と、この装置を使った隔離床栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明では、植物の隔離床栽培装置を、栽培ベッドに詰められた培土にヒートパイプを埋設するとともに、栽培ベッドの上方に細霧管を配設するよう構成した。
【0011】
請求項2に係る発明では、前記隔離床栽培装置でワサビを栽培するようにした。
【0012】
請求項3に係る発明では、栽培ベッド内の培土に埋設されたヒートパイプに水を流すとともに、栽培ベッド上方に配設された細霧管から散水して温度を調整しながら植物を栽培するようにした。
【0013】
請求項4に係る発明では、前記方法でワサビを栽培するようにした。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、栽培ベッドに詰められた培土にヒートパイプを埋設したので、ヒートパイプに培土よりも冷たい水を流すと、培土の温度を下げることができる。また、栽培ベッドの上方に細霧管を配設したので、栽培ベッドの上方から栽培ベッドに向けて細霧を発生させると、栽培ベッドの周辺、言い換えると培土表面近くの温度を下げることができる。このように、請求項1に係る発明によれば、ヒートパイプと細霧管を併用して冷房するので、栽培施設内の温度が高温になる夏期でも、培土と培土表面近くの温度を下げることができる。
【0015】
ここで、請求項1に係る発明によれば、ヒートパイプと細霧管を併用して培土と培土表面近くの温度を部分的に下げるようにしたので、栽培施設内の温度を全体的に下げようとするエアコンと比べて、冷房設備を簡素化でき、電気使用量も抑えることができる。例えば、ヒートパイプに流す水を冷やす水冷却装置(チラーともいう)は、ヒートパイプと細霧管を併用するとその相乗作用によって効率的に冷房できるので、ヒートパイプ単独で冷房するのと比べて、低い性能のもので足りる。
【0016】
また、請求項1に係る発明によれば、ヒートパイプと細霧管を併用して培土と培土表面近くの温度を部分的に下げるようにしたので、栽培施設内の温度を全体的に下げようとする従来の細霧冷房方法と比べて、細霧噴霧時間を短くでき、栽培施設内が多湿になることを防ぐこともできる。
【0017】
請求項2に係る発明によれば、ヒートパイプと細霧管を併用した隔離床栽培装置でワサビを栽培するようにしたので、栽培施設内の温度が高温になる夏期でも、培土と培土表面近くの温度をワサビの生育温度まで下げることができる。
【0018】
請求項3に係る発明によれば、栽培ベッド内の培土に埋設されたヒートパイプに水を流すとともに、栽培ベッド上方に配設された細霧管から散水して温度を調整しながら植物を栽培するようにしたので、栽培施設内の温度が高温になる夏期でも、培土と培土表面近くの温度を部分的に下げながら植物を栽培することができる。そのために、栽培施設内の温度が高温になる夏期でも、冷涼な環境を好むイチゴやレタスなどの植物を栽培することができる。
【0019】
また、請求項3に係る発明によれば、栽培施設内の温度を全体的に下げようとする従来の細霧冷房方法よりも細霧噴霧時間を短くして、栽培施設内が多湿になることを防ぎながら、冷涼な環境で植物を栽培することができる。そのために、高温多湿が原因で発生する病気を防ぐこともできる。
【0020】
請求項4に係る発明によれば、ヒートパイプに水を流すとともに、細霧管から散水して温度を調整しながらワサビを栽培するようにしたので、栽培施設内の温度が高温になる夏期でも、培土と培土表面近くの温度をワサビの生育温度まで下げることができ、栽培施設内でワサビを夏越しさせることができる。そのために、10月ごろに栽培施設内に苗を定植する従来の葉ワサビの栽培方法と比べて、収穫時期を例えば年内に早めることができる。
【0021】
さらに、請求項4に係る発明によれば、畑で育てる畑ワサビの栽培方法でも夏期には高温が原因で生育が抑制されるのに対して、茎葉を生長させ続けることができる。そのために、夏期にも茎葉を収穫することができ、葉ワサビを周年で収穫することができる。
【0022】
また、請求項4に係る発明によれば、栽培施設内の温度を全体的に下げようとする従来の細霧冷房方法よりも細霧噴霧時間を短くして、栽培施設内が多湿になることを防ぎながら、冷涼な環境でワサビを栽培することができる。そのために、高温多湿が原因で発生する病気、例えば軟腐病を防ぐこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明に係る隔離床栽培装置を栽培施設に適用した概略説明図である。
【図2】この発明に係る隔離床栽培装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
まず、この発明の創作の基礎となる事項について簡単に説明する。発明者らは、栽培施設内で隔離床栽培方法によって、ワサビの栽培に取り組んでいた。発明者らは、換気や遮光といった温度の上昇を抑制する方法では、栽培施設内の温度が高温になる夏期に、冷涼な環境を好む植物の生育温度(ワサビはおよそ8〜18℃、最高気温が28℃以上になると生育が抑制され、日焼けや軟腐病の発生が多くなる)まで、栽培施設内の温度を下げることができなかったことから、冷房技術の開発を始めた。
【0025】
発明者らは、当時の冷房技術が栽培施設内の温度を全体的に下げようとしているところ、植物の生育に影響しやすい範囲の温度を部分的に下げるといった当時の冷房技術に反する考えを着想した。
【0026】
そして、発明者らは、培土の温度調節に用いられるヒートパイプと、空気の温度調整に用いられる細霧冷房方法とを組み合わせると、植物の生育に影響しやすい培土と培土表面近くの温度を効果的に下げることができることを見いだし、この発明を創作するに至ったものである。
【0027】
次に、この発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、この発明に係る隔離床栽培装置を栽培施設に適用した概略説明図である。
【0028】
図1に示すように、隔離床栽培装置1は、ガラス温室やビニールハウスなどの栽培施設H内に設置されていて、栽培ベッド2と、ヒートパイプ3と、細霧管4とを有して構成されている。
【0029】
栽培ベッド2とは、隔離床栽培用の栽培容器である。栽培ベッド2は、ここでは断面V字形の容器であり、その内部に培土Sを詰められるように構成されている。栽培ベッド2は、その底部の中央に図示しない排水孔が複数形成されていて、図示しない潅水(かんすい)チューブから供給された水や液肥を排水孔から排水管5を通じて排水できるようになっている。そして、栽培ベッド2には植物、ここではワサビPが植えられている。
【0030】
ヒートパイプ3とは、温水や冷水など熱媒体が循環する金属製内管の外側に、密閉した金属製外管を取り付け、この金属製外管の内部に減圧状態で作業液を封入したもので、小さな温度差でも多量の熱を移送できるようになっている。ヒートパイプ3は、図1に示すように、地表から見えないように培土Sに、ここでは畝間の地中に埋設されている。
【0031】
細霧管4とは、細霧冷房装置を構成する一部材であり、図示しないポンプから供給される地下水などを図示しない細霧ノズルから細霧状にして散布するように構成されている。細霧管4は、図1に示すように、栽培ベッド2の上方に、ここでは栽培ベッド2に平行してそれぞれの位置に設けられていて、栽培ベッド2の周辺に細霧を散布できるようになっている。
【0032】
図2は、この発明に係る隔離床栽培装置1の断面図である。図2に示すように、隔離床栽培装置1は、栽培ベッド2に詰められた培土Sにヒートパイプ3が埋設されるとともに、栽培ベッド2の上方に細霧管4が配設されている。
【0033】
以上のように構成された隔離床栽培装置1では、栽培施設H(図1参照)内の温度が高温になる夏期に、ヒートパイプ3に培土Sよりも冷たい水、ここでは地下水を水冷却装置でさらに冷やした水を流すと、ヒートパイプ3が冷却され、ヒートパイプ3に接する培土Sも冷却される。併せて、細霧管4から水を細霧状にして栽培ベッド2の周辺に散布すると、栽培ベッド2の周辺、言い換えると培土S表面近くの熱が、細霧が蒸発する際に吸収される。
【0034】
実施形態に係る隔離床栽培装置1では、栽培ベッド2に詰められた培土Sにヒートパイプ3を埋設するとともに、栽培ベッド2の上方に細霧管4を配設しているために、培土Sと培土S表面近くの温度を集中的に下げられるようになっている。そのために、栽培施設内Hの温度を全体的に下げようとする従来の細霧冷房方法と比べて細霧噴霧時間を短くしても、ワサビPの生育に影響しやすい培土Sと培土S表面近くの温度をワサビPの栽培に適した温度に下げられるようになっている。なお、隔離床栽培装置1では、図示しない換気扇によって栽培施設H内の湿度を下げるようにすると、より効率的に培土Sと培土S表面近くの温度を下げることができる。
【0035】
続いて、隔離床栽培装置1を使った隔離床栽培方法について説明する。隔離床栽培装置1を使った隔離床栽培方法は、冷涼な環境を好む植物の栽培に適していて、ここではワサビPを栽培している。
【0036】
実施形態に係る隔離床栽培装置1を使った隔離床栽培方法では、ヒートパイプ3と細霧管4を併用して冷房するために、栽培施設H内の温度が高温になる夏期でも、培土Sと培土S表面近くの温度を集中的に下げられるようになっている。また、ヒートパイプ3に地下水を水冷却装置でさらに冷やした水を流して培土Sを冷やしているために、細霧冷房方法のみの場合より細霧噴霧時間を短くしても、ワサビPの生育に影響しやすい培土Sと培土S表面近くの温度をワサビPの栽培に適した温度に下げられるようになっている。なお、隔離床栽培方法では、栽培施設H内を換気して湿度を下げるようにすると、より効率的に培土Sと培土S表面近くの温度を下げることができる。
【0037】
以上、この発明の実施形態について説明したが、この発明は前記実施形態には限定されない。例えば、この発明に係る細霧管4は、パイプに限られるものではなく、チューブでも構わない。また、細霧管4は、細霧ノズルを備えるものに限られるものではなく、水を細霧状にして散布できればよく、例えば細霧管4に小さい孔を開けたものでも構わない。さらに、細霧管4は、冷房用の細霧のほかに、水や液肥を供給するようにしてもよい。
【0038】
この発明においてヒートパイプ3が培土Sに埋設されるとは、実施形態のようにヒートパイプ3が地表から見えないように地中に埋められている状態のほかに、ヒートパイプ3の一部が地表から出ている状態も含まれる。
【0039】
この発明において細霧管4が栽培ベッド2の上方に配設されたとは、栽培ベッド2の周辺に、より詳しくは植物の生育に影響しやすい植物体の周辺空間に細霧を散布できるように細霧管4を配設することをいう。そのために、細霧管4が栽培ベッド2の上方に配設されたとは、実施形態のほかにも、細霧管4を培土S表面に置くように配設することも含まれる。さらに、現実的ではないが、細霧管4を栽培ベッド2の側方や斜め下方に配設して、細霧管4の上方に向かって細霧を散布しても、植物体の周辺空間に細霧を散布できるために、細霧管4が栽培ベッド2の上方に配設されたといえる。
【0040】
この発明において隔離床栽培装置1と、この装置を使った隔離床栽培方法は、ヒートパイプ3に温水を流すと培土Sを温めることができ、暖房にも使えることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0041】
1 隔離床栽培装置
2 栽培ベッド
3 ヒートパイプ
4 細霧管
5 排水管
H 栽培施設
S 培土
P ワサビ(植物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の隔離床栽培装置において、
ヒートパイプが栽培ベッドに詰められた培土に埋設されるとともに、
細霧管が前記栽培ベッドの上方に配設されたことを特徴とする隔離床栽培装置。
【請求項2】
前記植物がワサビであることを特徴とする請求項1に記載の隔離床栽培装置。
【請求項3】
植物の隔離床栽培方法において、
栽培ベッド内の培土に埋設されたヒートパイプに水を流すとともに、前記栽培ベッド上方に配設された細霧管から散水して温度を調整しながら植物を栽培することを特徴とする隔離床栽培方法。
【請求項4】
前記植物がワサビであることを特徴とする請求項3に記載の隔離床栽培方法。

【図1】
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【図2】
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