説明

障壁層を備える印刷ブランケット

【課題】
【解決手段】基体層と、印刷層と、印刷層に対して接して配置され、印刷ブランケットの印刷層の下に印刷薬品や他の液体が浸透することを実質的に抑制するか排除する機能を有する少なくとも1枚の障壁層とを有する印刷ブランケットを提供する。障壁層は各種ポリマー又は各種ゴムの一種から成る。障壁層は、てん料又は吸収材料を含むことにより、当該層の障壁特性が改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、障壁層を備える印刷ブランケットの使用に関するものであり、特に、印刷ブランケット又は印刷スリーブ構造の印刷面の下の障壁層を使用して薬品や他の液体が下にあるブランケット層に浸透することを抑えることに関する。
【背景技術】
【0002】
最も一般的な商業的印刷処理の1つとしてオフセットリソグラフィがある。この印刷処理においては、インクによる画像が、印刷プレートから、ブランケット胴に搭載されて表面がゴム処理された印刷ブランケット又はスリーブにオフセットされる。それからそのインク画像は、例えば紙のような基体に転写される。典型的には、印刷ブランケット又はスリーブは、とりわけ接着剤で張り合わされた布製の層及び圧縮可能な性質を有する層のような幾重もの層で補強されている。
【0003】
オフセット印刷処理で使用される印刷ブランケット及びスリーブは、水、湿し水、洗浄薬品、及びインクを含むいろいろな薬品に曝される。例えば、水、湿し水、及びインクは、ブランケット表面を十分に“湿らせ”、印刷画像を、プレートからブランケットへ、またブランケットから最終的な画像が載せられる表面へ適切に転写することができるようにするために必要なものである。洗浄液は、異なる各印刷作業の間の洗浄中にブランケット表面からインクを取り去るのに使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4,015,046号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
印刷及び/又は洗浄処理の間、かかる薬品がしばしば印刷ブランケットの表面に浸透し、そして場合によっては、布製層、圧縮性層、及び接着剤層のような、ブランケット構造の更に深い層にまで浸透する。そのような浸透によりブランケットの厚さの部分的増加(膨潤)が生じ、画像転写不良、巻取り特性不良、及び印刷位置決め不良を含む多くの印刷上の問題に至る。
【0006】
加えて、薬品の浸透により、その薬品により生ずる層間の接着力減少のせいでブランケットが早期に劣化してしまう。印刷中にプレートや圧胴ニップによりブランケットの構成要素に繰り返し圧力がかかると、ブランケットの膨潤によりそのブランケット構成要素内で余計な機械的ストレスがもたらされるので、かかる不具合も起こりえる。また、布製及び圧縮性層内の空隙に液体が貯まることにより不具合が起こりえる。そのような液体は、ニップを通過する間、強い水圧力にさらされ、それにより層の更なる機械的劣化が起こり、そして膨れやうねりや剥離の形成によりブランケットが劣化してしまう。
【0007】
従って、印刷面層を超えた薬品浸透を抑制するか又は排除しつつ、ブランケット表面とその薬品との相溶性を維持することが望ましい。そこでこれまで基体構造からブランケットの内部の層への液体のウィッキングを抑制するために障壁層を設けるという試みがなされてきた。例えば、特許文献1(Pinkston et al.、米国特許第4,015,046号)を参照すると、布製強化層に隣接して配置されたアクリロニトリルを含有する障壁層を使用することを教示している。しかしながら、アクリロニトリルは、インクや洗浄液内に見受けられる特定の薬品が存在すると、膨張する傾向があるので、アクリロニトリルにより薬品浸透を常に十分に防ぐことはできない。
【0008】
従って、当該技術分野においては、印刷ブランケット又はスレーブ内の下にある層への薬品浸透を抑制するか又は排除する必要性が存在する。
本発明は、印刷薬品、インク、洗浄液、及び他の液体が印刷ブランケット又はスリーブの画像転送面層の下に浸透することを実質的に抑制するか又は排除する機能を有する障壁層を設けることにより、上記要求を満たしている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある様相によれば、使用中、液体がその内部に浸透することを抑制する印刷ブランケットを提供する。この印刷ブランケットは、少なくとも1枚の台紙と、印刷画像を受け取る第1表面と第2表面とを有して台紙を覆う印刷層と、印刷層の第2表面に対して接して配置される少なくとも一枚の障壁層とを備え、障壁層は、液体が印刷層を超えて印刷ブランケットに浸透することを抑制する。
【0010】
本発明の一実施形態においては、印刷ブランケットは、台紙を覆う少なくとも1枚の強化層を更に備える。ここで、その強化層は布製である。また、本発明の他の実施形態においては、印刷ブランケットは、台紙を覆う圧縮性層を更に備える。
【0011】
本発明の一実施形態においては、障壁層は、ナイロン、ポリアミド、ポリビニリデン塩化物、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリウレタン、クロロプレンゴム、エチレン/プロピレンゴム、弗化炭化水素ゴム、及びブチルゴムからなるグループから選択される。
【0012】
本発明の他の実施形態においては、障壁層は、金属でコーティングされたポリマー又はゴムから成る。他の実施形態においては、障壁層は、酸化ケイ素膜によりコーティングされたポリマー又はゴムから成る。
【0013】
また、他の実施形態においては、障壁層は、天然もしくは合成ゴム、又は合成ポリマーからなり、好ましくは、少なくとも一種のてん料が添加された、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、又はオレフィン共重合体のようなエラストマーから成る。てん料は、雲母、ケイ素、粘土、滑石、及びアルミナの粒子から選択される。一実施形態においては、てん料の粒子は、アスペクト比が1.0より大きく、障壁層の表面に対して実質的に平行に向いている。てん料は、シラン又は弗化炭化水素によりコーティングされた粒子の形態でもあり得る。
【0014】
本発明の他の実施形態においては、障壁層は、吸収材料を含む合成ポリマー又は天然ゴムの層である。吸収材料は、シリカ、アルミナ、カーボンブラック、分子篩、及び乾燥剤から成る。
【0015】
更に他の実施形態においては、障壁層は、液体の浸透を防止するために化学処理された圧縮性層から成る。ここでその化学処理は、弗化炭化水素処理である。
印刷ブランケットは、2枚以上の障壁層を有してもよい。一実施形態においては、印刷ブランケットは、少なくとも2枚の隣接する障壁層を有する。
【0016】
障壁層の厚さは、約0.002インチから約0.015インチ(約0.05から約0.38mm)の間にある。
本発明の一実施形態においては、印刷ブランケットは、台紙と、台紙を覆う第1強化層と、第1強化層を覆う圧縮性層と、圧縮性層を覆う第2強化層と、第1及び第2の表面を有して第2強化層を覆う印刷可能面層とを備える。また、少なくとも一枚の障壁層が、印刷層の第2表面に対して位置づけされ、液体が印刷層を超えて印刷ブランケットの各層に浸透することを抑制する。ブランケットの各層を接着剤により互いに接着することも可能である。
【発明の効果】
【0017】
以上から、本発明の特徴は、使用中、薬品や他の液体がブランケットの内部に浸透することを抑制する障壁層を有する印刷ブランケットを提供することにある。
本発明の他の特徴及び利点は、以下の説明、添付図面、付加された請求項により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の印刷ブランケットの一実施形態を表わす断面図である。
【図2】図2は、印刷ブランケットの他の実施形態を表わす断面図である。
【図3】図3は、印刷ブランケットの他の実施形態を表わす断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の印刷ブランケットは障壁層を備え、使用中に、ブランケットに接触する可能性のある溶剤、薬品、水、湿し水、インク等の様々な液体に対する防御を提供するものである。障壁層は、ブランケットの印刷層を超えてかかる薬品類が浸透することを抑制するか、又は実質的に排除する機能を有し、それによりブランケットの性能や耐久性を維持することができる。印刷層の第2表面に対して接して障壁層を配置することにより、その下のすべての層は、液体のブランケットへの侵入から守られる。
【0020】
本発明の障壁層は、印刷層や、例えばニトリル又はニトリル/多硫化物の層のような他の層よりも20から100倍も低い透過率を呈することが好ましい。
図1は、本発明の印刷ブランケット10の一実施形態を表わしており、その印刷ブランケット10は、台紙12と、第1及び第2表面16及び18を有する印刷層14と、印刷層と台紙の間に位置する障壁層20を備えており、その障壁層20は、印刷層14の第2表面18に対接して(つまり、対して直接接して)いる。印刷ブランケットが、ブランケット胴に対して巻かれて固定されるように設計された平面ブランケットの形態で設けられてもよいし、印刷スリーブの形態で設けられてもよいということが認識されるべきである。
【0021】
台紙は、布でできていてもよいし、金属、ポリマー、又はガラス繊維の材料で形成されていてもよい。
障壁層は、クロロプレンゴム、エチレン/プロピレンゴム、弗化炭化水素ゴム、ブチルゴムのような薬品の浸透に対抗するように形成された、ポリアミド、ポリビニリデン塩化物、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリウレタン、又はゴムの材料等を含む多くの合成ポリマー材料から成っている。合成ポリマー又は天然ゴムの障壁層は、疎水性を有するように酸化ケイ素の層によりコーティングされてもよい。
【0022】
他の場合として、障壁層は、金属でコーティングされたポリマー又はゴムで形成されていてもよい。
また、障壁層は、1つ又は複数のてん料を含有する合成ポリマー又は天然ゴムの障壁層であってもよい。例えば、そのてん料としては、雲母、滑石、その他の鉱物のような高いアスペクト比(例えば、1より大)を有する材料が考えられる。その雲母、滑石、その他の鉱物は、障壁層に添加されたときに、障壁層の表面に対して平行に向く「血小板(プレートリット)」を形成して浸透を防ぐ役目をしている。適したてん料の例としては、雲母、ケイ素、粘土、滑石、及びアルミナの粒子が挙げられる。そのようなてん料の粒子は、シラン又は弗化炭化水素によりコーティングされ、障壁層に対して疎水性を与えるので、水や極性薬品等の液体を吸収することが抑えられる。
【0023】
また、障壁層は、吸収材料を有する合成ポリマー又は天然ゴムであってもよい。適した吸収材料としては、アルミナ、カーボンブラック、スーパー吸収ポリマー(SAP)、シリカゲル、分子篩、乾燥剤、又は他の広表面積微粒子がある。
【0024】
これらの添加物が1つでも複数でも障壁層に使用され得ることが認識されるべきことである。例えば、障壁層は、てん料と吸収材料の双方を含むことができる。
また、障壁層は、薬品浸透を防ぐためにコーティング又は化学処理された圧縮性を有する層であってもよい。そのような化学処理としては、弗化炭化水素処理が挙げられる。この分野ではいくつかの適した圧縮性層が知られており、例えば気泡構造を有するか、微小球を含むエラストマー材料が考えられる。
【0025】
障壁層の厚さは、約0.002インチから約0.015インチ(約0.05から約0.38mm)の間が考えられる。
図2は、本発明の他の実施形態を表わしており、その印刷ブランケットは、台紙12と、その台紙を覆う第1強化層22と、その強化層を覆う圧縮性層24と、その圧縮性層を覆う第2強化層26と、その第2強化層を覆う印刷可能面層14と、その印刷層14の第2表面18に対して接して配置された障壁層20とを備えている。
【0026】
それらの強化層は布製であってもよいし、ポリマー、又はポリマー/布合成材料により形成されていてもよい。
望むのであれば、障壁層は、例えば第2強化層26の代わりの他の1枚の強化層としであってもよく、それにより液体の浸透も抑えることができるし、その強化層により特に与えられる妥当な支持/機械特性を呈することもできる。障壁層が強化層としての性質を含む実施形態においては、その強化層は、弗化炭化水素、ポリビニリデン塩化物、酸化ケイ素により任意に処理されたポリエステル膜、ナイロン膜、若しくはポリウレタン膜、又は金属層から成っていることが好ましい。
【0027】
印刷ブランケット構成として、1枚の障壁層でも複数枚の障壁層でも使用され得る。図3は、本発明の一実施形態を表わす図であり、その実施形態においては、印刷ブランケットは、隣接した2枚の障壁層20,20’を備えている。この実施形態においては、それらの障壁層は、同一の材料でできていてもよいし、異なる材料でできていてもよい。
【0028】
ブランケット構成のすべての実施形態においては、各層同士を接着するためにそれらの層の間に接着層(図示せず)を設けてもよい。障壁層は、他の機能層のみならず、ブランケットのその接着層に液体が浸透することも抑制することができる。
【0029】
詳細に、また好適な実施形態を参照することにより、発明を説明してきたが、本発明の範囲を超えない限りにおいて、修正された各種態様が可能であることは明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1枚の台紙と、
印刷画像を受け取る第1表面と第2表面とを有して前記台紙を覆う印刷層と、
前記印刷層の前記第2表面に対して接して配置される少なくとも一枚の障壁層とを備え、
前記障壁層は、液体が前記印刷層を超えて印刷ブランケットに浸透することを抑制することを特徴とする印刷ブランケット。
【請求項2】
前記台紙を覆う少なくとも1枚の強化層を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の印刷ブランケット。
【請求項3】
前記強化層は布製であることを特徴とする請求項2に記載の印刷ブランケット。
【請求項4】
前記台紙を覆う圧縮性層を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の印刷ブランケット。
【請求項5】
前記障壁層は、ナイロン、ポリアミド、ポリビニリデン塩化物、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリウレタン、クロロプレンゴム、エチレン/プロピレンゴム、弗化炭化水素ゴム、及びブチルゴムからなるグループから選択されることを特徴とする請求項1に記載の印刷ブランケット。
【請求項6】
前記障壁層は、酸化ケイ素膜によりコーティングされた合成ポリマー又は天然ゴムから成ることを特徴とする請求項1に記載の印刷ブランケット。
【請求項7】
前記障壁層は、少なくとも一種のてん料が含まれた合成ポリマー又は天然ゴムから成ることを特徴とする請求項1に記載の印刷ブランケット。
【請求項8】
前記てん料は、雲母、滑石、ケイ素、粘土、及びアルミナから選択されることを特徴とする請求項7に記載の印刷ブランケット。
【請求項9】
前記てん料は、高いアスペクト比を有し、前記障壁層の表面に対して実質的に平行に向いていることを特徴とする請求項7に記載の印刷ブランケット。
【請求項10】
前記てん料は、シラン又は弗化炭化水素によりコーティングされていることを特徴とする請求項7に記載の印刷ブランケット。
【請求項11】
前記障壁層は、吸収材料を含む合成ポリマー又は天然ゴムから成ることを特徴とする請求項1に記載の印刷ブランケット。
【請求項12】
前記吸収材料は、シリカ、アルミナ、カーボンブラック、分子篩、及び乾燥剤の中から選択されることを特徴とする請求項11に記載の印刷ブランケット。
【請求項13】
前記障壁層は、液体の浸透を防止するために化学処理された圧縮性層から成ることを特徴とする請求項1に記載の印刷ブランケット。
【請求項14】
前記化学処理は、弗化炭化水素によるものであることを特徴とする請求項13に記載の印刷ブランケット。
【請求項15】
前記障壁層は、金属でコーティングされたポリマー又はゴムから成ることを特徴とする請求項1に記載の印刷ブランケット。
【請求項16】
少なくとも2枚の隣接する障壁層を備えることを特徴とする請求項1に記載の印刷ブランケット。
【請求項17】
前記障壁層の厚さは、約0.002インチから約0.015インチの間にあることを特徴とする請求項1に記載の印刷ブランケット。
【請求項18】
台紙と、
前記台紙を覆う第1強化層と、
前記第1強化層を覆う圧縮性層と、
前記圧縮性層を覆う第2強化層と、
第1及び第2の表面を有して前記第2強化層を覆う印刷可能面層と、
前記印刷層の前記第2表面に対して位置づけされる少なくとも一枚の障壁層とを備え、
前記障壁層は、液体が前記印刷層を超えて印刷ブランケットの各層に浸透することを抑制することを特徴とする印刷ブランケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−500939(P2010−500939A)
【公表日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−524815(P2009−524815)
【出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【国際出願番号】PCT/US2007/076198
【国際公開番号】WO2008/022306
【国際公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(300078202)デイ インターナショナル インコーポレーテッド (21)
【Fターム(参考)】