説明

集電体材料とその製造方法

【課題】その表面上への活物質の密着性を高めることができるとともに、活物質との間の界面での電気抵抗を低減することが可能な集電体材料とその製造方法を提供する。
【解決手段】集電体材料1はアルミニウム箔11の表面上に形成された炭素含有層40と、それらの間に形成されたアルミニウム元素と炭素元素とを含む介在層43とを備える。介在層43はアルミニウム箔11の表面の少なくとも一部の領域に形成されたアルミニウムの炭化物を含む第1の表面部分を含む。炭素含有層40は第1の表面部分43から外側に向かって延びるように形成された第2の表面部分41を含む。炭素含有層40は炭素含有粒子42をさらに含む。第2の表面部分41は第1の表面部分43と炭素含有粒子42との間に形成されてアルミニウムの炭化物を含む。複数の貫通孔12がアルミニウム箔11と炭素含有層40とを貫通するように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的には、集電体材料とその製造方法に関し、特定的には、二次電池、電気二重層キャパシタ、特にリチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ等に用いられる集電体材料とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、たとえば、リチウムイオン二次電池では、製造工程において活物質が集電体の表面から脱落すると、所望の電気容量を有する二次電池を得ることができず、また充放電中に集電体の表面から活物質が脱落すると、充放電効率の低下を招くという問題があった。この問題を解決するために活物質の密着性を高める手段として、たとえば、正極、負極に用いられる集電体の表面粗さを意図的に大きくすること、または、特公平7−70327号公報(特許文献1)、特開2004−103314号公報(特許文献2)で提案されているように、集電体の厚み方向に貫通する貫通孔を形成することが考えられている。
【0003】
また、最近では、リチウムイオンをドーピングさせるために正極および負極の集電体材料として、貫通孔を形成したアルミニウム箔や銅箔を用いたリチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタが、たとえば、特開2006−286919号公報(特許文献3)に記載されている。
【特許文献1】特公平7−70327号公報
【特許文献2】特開2004−103314号公報
【特許文献3】特開2006−286919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、貫通孔を形成したアルミニウム箔や銅箔の表面上に活物質を直接付着させると、投錨効果により、集電体としてのアルミニウム箔や銅箔の表面上への活物質の密着性を高めることができるが、活物質と集電体との電気的な接触が充分でないため、これらの間の界面での電気抵抗が大きくなるという問題がある。その結果、集電効率が低下し、電池特性が低下する。
【0005】
そこで、この発明の目的は、その表面上への活物質の密着性を高めることができるとともに、活物質との間の界面での電気抵抗(インピーダンス)を低減することが可能な集電体材料とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、従来技術の問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、アルミニウム箔に炭素含有粒子を含む炭素含有物質を付着させて貫通孔を形成した後に加熱することによって上記の目的を達成可能な集電体材料を得ることができることを見出した。このような発明者の知見に基づいて本発明はなされたものである。
【0007】
この発明に従った集電体材料は、アルミニウム箔と、このアルミニウム箔の表面上に形成された炭素含有層と、アルミニウム箔と炭素含有層との間に形成された、アルミニウム元素と炭素元素とを含む介在層とを備える。介在層は、アルミニウム箔の表面の少なくとも一部の領域に形成された、アルミニウムの炭化物を含む第1の表面部分を含む。炭素含有層は、第1の表面部分から外側に向かって延びるように形成された第2の表面部分を含む。炭素含有層は炭素含有粒子をさらに含む。第2の表面部分は第1の表面部分と炭素含有粒子との間に形成されてアルミニウムの炭化物を含む。複数の貫通孔がアルミニウム箔と炭素含有層とを貫通するように形成されている。
【0008】
この発明の集電体材料においては、第2の表面部分がアルミニウム箔の表面上に形成された炭素含有層の表面積を増大させる作用をする。また、アルミニウム箔と第2の表面部分との間にはアルミニウムの炭化物を含む第1の表面部分が形成されているので、この第1の部分が、炭素含有層の表面積を増大させる第2の表面部分との間の密着性を高める作用をする。これらにより、アルミニウム箔の表面上での酸化被膜の生成が最小限に抑えられるとともに、アルミニウム箔の表面上に形成された炭素含有層によって表面積を拡大または増大することができる。その結果、貫通孔の形成により集電体材料としてその表面上への活物質の密着性を高めることができるとともに、活物質との間の界面での電気抵抗(インピーダンス)を低減することができる。
【0009】
この発明の集電体において、貫通孔の直径は0.1mm以上2.0mm以下であり、アルミニウム箔の表面積に対する貫通孔の占める割合は10%以上90%以下であることが好ましい。
【0010】
また、この発明の集電体において、炭素含有粒子の粒径は30nm以上5μm以下であることが好ましい。
【0011】
この発明に従った集電体の製造方法は、以下の工程を備える。
【0012】
(a)炭素含有粒子を含む炭素含有物質をアルミニウム箔の表面に付着させることにより、炭素含有物質付着層を形成する工程。
【0013】
(b)アルミニウム箔と炭素含有物質付着層とを貫通するように複数の貫通孔を形成する工程。
【0014】
(c)複数の貫通孔が形成されたアルミニウム箔と炭素含有物質付着層とを、炭化水素含有物質を含む空間に配置して、加熱する工程。
【0015】
この発明の集電体の製造方法において、アルミニウム箔と炭素含有物質付着層とを加熱する工程は、450℃以上640℃未満の温度範囲で行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
以上のようにこの発明によれば、集電体材料としてその表面上への活物質の密着性を高めることができるとともに、活物質との間の界面での電気抵抗(インピーダンス)を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1〜図3は、この発明の1つの実施の形態に従った集電体材料の製造工程を順に示す模式的な断面図である。
【0019】
まず、図1に示すように、炭素含有粒子を含む炭素含有物質をアルミニウム箔10の表面上に付着させることにより、炭素含有物質付着層20を形成する。この実施の形態では、アルミニウム箔10の両面上に炭素含有物質付着層20を形成しているが、アルミニウム箔10の片側表面上に炭素含有物質付着層20を形成してもよい。
【0020】
次に、図2に示すように、アルミニウム箔10と炭素含有物質付着層20とを貫通するように複数の貫通孔12と22を形成する。貫通孔12を形成する工程は、アルミニウム箔10と炭素含有物質付着層20とからなる基材を化学的に溶解するためのケミカルエッチング、基材に対して物理的または機械的に貫通孔を形成するためのラス加工や抜き加工、等が考えられるが、量産性を考慮すると、抜き加工で行うのが好ましい。この実施の形態の場合、抜き加工で貫通孔を形成するので、バリが発生するが、後工程でプレス工程を行うことによりバリを解消することができる。
【0021】
最後に、複数の貫通孔12が形成されたアルミニウム箔11と炭素含有物質付着パターン層21とを、炭化水素含有物質を含む空間に配置して、加熱する。このようにして、図3に示すように、本発明の集電体材料1として、複数の貫通孔12が形成されたアルミニウム箔11の表面上に炭素含有層40が形成される。
【0022】
図4は、この発明の一つの実施の形態として、貫通孔の部分を除いた箇所の集電体材料の詳細な断面構造を模式的に示す断面図である。
【0023】
図4に示すように、この発明の一つの実施の形態として、集電体材料の断面構造によれば、アルミニウム箔11の表面上に炭素含有層40が形成されている。アルミニウム箔11と炭素含有層40との間には、アルミニウム元素と炭素元素とを含む介在層43が形成されている。炭素含有層40は、アルミニウム箔11の表面から外側に延びるように形成されている。介在層43は、アルミニウム箔11の表面の少なくとも一部の領域に形成された、アルミニウムの炭化物を含む第1の表面部分を構成している。炭素含有層40は、第1の表面部分43から外側に繊維状またはフィラメント状の形態で延びるように形成された第2の表面部分41を含む。第2の表面部分41は、アルミニウム元素と炭素元素との化合物である。また、炭素含有層40は多数個の炭素粒子42をさらに含む。第2の表面部分41は、第1の表面部分43から外側に繊維状またはフィラメント状の形態で延び、第1の表面部分43と炭素粒子42との間に形成されてアルミニウムの炭化物を含む。
【0024】
この発明の集電体材料1においては、第2の表面部分41がアルミニウム箔11の表面上に形成された炭素含有層40の表面積を増大させる作用をする。また、アルミニウム箔11と第2の表面部分41との間にはアルミニウムの炭化物を含む第1の表面部分43が形成されているので、この第1の部分43が、炭素含有層40の表面積を増大させる第2の表面部分41との間の密着性を高める作用をする。これらにより、アルミニウム箔11の表面上での酸化被膜の生成が最小限に抑えられるとともに、アルミニウム箔11の表面上に形成された炭素含有層40によって表面積を拡大または増大することができる。その結果、貫通孔の形成により、集電体材料1としてその表面上への活物質の密着性を高めることができるとともに、活物質との間の界面での電気抵抗(インピーダンス)を低減することができる。
【0025】
また、この発明の集電体材料においては、炭素含有層はアルミニウム箔の少なくとも片方の面に形成すればよく、その厚みは0.01μm以上10mm以下の範囲内であるのが好ましい。この発明の集電体において、貫通孔の直径は0.1mm以上2.0mm以下であり、アルミニウム箔の表面積に対する貫通孔の占める割合、すなわち、開口率は10%以上90%以下であることが好ましい。貫通孔の直径が0.1mm未満の場合、貫通孔を形成する工程において、抜き加工にて発生したバリをプレス工程で潰した際に、潰したバリによって貫通孔が塞がるおそれがある。さらに、直径が0.1mm未満の貫通孔で所定の開口率になるように加工しようとすると、加工速度が著しく低下するため、量産性に乏しくなり、現実的ではない。また、貫通孔の直径が2.0mmを超えると、貫通孔自体を形成することは容易になるが、活物質が貫通孔から抜け落ちるおそれがある。開口率が10%未満の場合、集電効率の低下は抑制されるが、活物質との密着性が不十分であり、活物質が脱落する可能性がある。また、開口率が90%を超えると、活物質の密着性は十分であるが、集電効率が著しく低下し、電気抵抗の増加に繋がる可能性がある。
【0026】
この発明の一つの実施の形態において、炭素含有層が形成される基材としてのアルミニウム箔は、特に限定されず、純アルミニウムまたはアルミニウム合金を用いることができる。本発明で用いられるアルミニウムは、その組成として、鉛(Pb)、珪素(Si)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ニッケル(Ni)およびホウ素(B)の少なくとも1種の合金元素を必要範囲内において添加したアルミニウム合金、または、上記の不可避的不純物元素の含有量を限定したアルミニウムも含む。なお、アルミニウム箔として純アルミニウムを用いる場合、その純度は99.3%以上であるのが好ましい。アルミニウム箔の厚みは、特に限定されないが、5μm以上1mm以下の範囲内であるのが好ましい。
【0027】
上記のアルミニウム箔は、公知の方法によって製造されるものを使用することができる。たとえば、上記の所定の組成を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯を調製し、これを鋳造して得られた鋳塊を適切に均質化処理する。その後、この鋳塊に熱間圧延と冷間圧延を施すことにより、アルミニウム箔を得ることができる。なお、上記の冷間圧延工程の途中で、150℃以上400℃以下の範囲内で中間焼鈍処理を施してもよい。
【0028】
本発明の集電体材料の製造方法の一つの実施の形態では、用いられる炭化水素含有物質の種類は特に限定されない。炭化水素含有物質の種類としては、たとえば、メタン、エタン、プロパン、n‐ブタン、イソブタンおよびペンタン等のパラフィン系炭化水素、エチレン、プロピレン、ブテンおよびブタジエン等のオレフィン系炭化水素、アセチレン等のアセチレン系炭化水素等、またはこれらの炭化水素の誘導体が挙げられる。これらの炭化水素の中でも、メタン、エタン、プロパン等のパラフィン系炭化水素は、アルミニウム箔を加熱する工程においてガス状になるので好ましい。さらに好ましいのは、メタン、エタンおよびプロパンのうち、いずれか一種の炭化水素である。最も好ましい炭化水素はメタンである。
【0029】
また、炭化水素含有物質は、本発明の製造方法において液体、気体等のいずれの状態で用いてもよい。炭化水素含有物質は、アルミニウム箔が存在する空間に存在するようにすればよく、アルミニウム箔を配置する空間にどのような方法で導入してもよい。たとえば、炭化水素含有物質がガス状である場合(メタン、エタン、プロパン等)には、アルミニウム箔の加熱処理が行なわれる密閉空間中に炭化水素含有物質を単独または不活性ガスとともに充填すればよい。また、炭化水素含有物質が液体である場合には、その密閉空間中で気化するように炭化水素含有物質を単独または不活性ガスとともに充填してもよい。
【0030】
アルミニウム箔を加熱する工程において、加熱雰囲気の圧力は特に限定されず、常圧、減圧または加圧下であってもよい。また、圧力の調整は、ある一定の加熱温度に保持している間、ある一定の加熱温度までの昇温中、または、ある一定の加熱温度から降温中のいずれの時点で行なってもよい。
【0031】
アルミニウム箔を加熱する空間に導入される炭化水素含有物質の重量比率は、特に限定されないが、通常はアルミニウム100重量部に対して炭素換算値で0.1重量部以上50重量部以下の範囲内にするのが好ましく、特に0.5重量部以上30重量部以下の範囲内にするのが好ましい。
【0032】
アルミニウム箔を加熱する工程において、加熱温度は、加熱対象物であるアルミニウム箔の組成等に応じて適宜設定すればよいが、通常は450℃以上640℃未満の範囲内が好ましく、530℃以上620℃以下の範囲内で行なうのがより好ましい。ただし、本発明の製造方法において、450℃未満の温度でアルミニウムを加熱することを排除するものではなく、少なくとも300℃を超える温度でアルミニウムを加熱すればよい。
【0033】
加熱時間は、加熱温度等にもよるが、一般的には1時間以上100時間以下の範囲内である。
【0034】
加熱温度が400℃以上になる場合は、加熱雰囲気中の酸素濃度を1.0体積%以下とするのが好ましい。加熱温度が400℃以上で加熱雰囲気中の酸素濃度が1.0体積%を超えると、アルミニウム箔の表面の熱酸化被膜が肥大し、アルミニウム箔の表面抵抗値が増大するおそれがある。
【0035】
また、加熱処理の前にアルミニウム箔の表面を粗面化してもよい。粗面化方法は、特に限定されず、洗浄、エッチング、ブラスト等の公知の技術を用いることができる。
【0036】
本発明の製造方法において、アルミニウム箔の表面に炭素含有物質を付着させた後、炭化水素含有物質を含む空間でアルミニウム箔を加熱する工程が採用される。この場合、アルミニウム箔の表面に付着される炭素含有物質は、活性炭素繊維、活性炭クロス、活性炭フェルト、活性炭粉末、墨汁、カーボンブラックまたはグラファイト等のいずれを用いてもよい。また、炭化珪素等の炭素化合物も好適に使用できる。付着方法は、バインダ、溶剤または水等を用いて、スラリー状、液体状または固体状等に上記の炭素含有物質を調製したものを、塗布、ディッピングまたは熱圧着等によってアルミニウム箔の表面上に付着させればよい。炭素含有物質をアルミニウムの表面上に付着させた後、加熱処理の前に、20℃以上300℃以下の範囲内の温度で乾燥させてもよい。
【0037】
なお、この発明の製造方法において、炭素含有物質をアルミニウム箔の表面に付着させるためにバインダが用いられる場合、バインダは、カルボキシ変性ポリオレフィン樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩酢ビ共重合樹脂、ビニルアルコール樹脂、フッ化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、アクリロニトリル樹脂、ニトロセルロース樹脂、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等の合成樹脂、ワックスまたはタール、およびにかわ、ウルシ、松脂、ミツロウ等の天然樹脂またはワックスが好適に使用できる。これらのバインダは、それぞれ分子量、樹脂種類により、加熱時に揮発するものと、熱分解により炭素前駆体として炭素含有層中に残存するものとがある。バインダは、有機溶剤等で希釈し、粘性を調整してもよい。
【0038】
図5〜図6は、この発明のもう1つの実施の形態に従った集電体材料の製造工程を順に示す模式的な断面図である。
【0039】
まず、図5に示すように、炭素含有粒子を含む炭素含有物質をアルミニウム箔10の一方の表面の全面上に付着させることにより、炭素含有物質付着層30を形成する。また、アルミニウム箔10の他方の表面上には、貫通孔の形成パターンに従って、炭素含有粒子を含む炭素含有物質を印刷することにより、複数の貫通孔32を有する炭素含有物質付着パターン層31を形成する。炭素含有物質付着層30と炭素含有物質付着パターン層31は、エッチング耐性を有する材料からなる。この実施の形態では、アルミニウム箔10の両面上に炭素含有物質を付着させているが、アルミニウム箔10の片側表面上に炭素含有物質付着パターン層31を形成してもよい。
【0040】
次に、炭素含有物質付着パターン層31をマスクとしてエッチングを施すことによって、図6に示すように、アルミニウム箔10と炭素含有物質付着層30とを貫通するように複数の貫通孔12と32を形成する。この実施の形態では、貫通孔12と32を形成する工程は、アルミニウム箔10と炭素含有物質付着層30とからなる基材を化学的に溶解するためのケミカルエッチングで行う。
【0041】
最後に、複数の貫通孔12と32が形成されたアルミニウム箔11と炭素含有物質付着パターン層31とを、炭化水素含有物質を含む空間に配置して、加熱する。このようにして、図3に示すように、本発明の集電体材料1として、複数の貫通孔12が形成されたアルミニウム箔11の表面上に炭素含有層40が形成される。
【0042】
以上のように、この発明の製造方法によれば、まず、アルミニウム箔に炭素含有粒子を含む炭素含有物質を付着させて貫通孔を形成することにより、炭素含有層の前駆体としての炭素含有物質で被覆された多孔質の集電体用アルミニウム箔が得られる。炭素含有物質で被覆された多孔質の集電体用アルミニウム箔を450℃以上の炭化水素含有物質を含む雰囲気中で熱処理を行うことにより、アルミニウム箔と炭素含有層との間に、たとえば、アルミニウムの炭化物としてAl(アルミニウムカーバイド)が形成され、アルミニウム箔と炭素含有層とがAl(アルミニウムカーバイド)で強固に結合された集電体材料として、炭素含有層で被覆された多孔質の集電体用アルミニウム箔が得られる。このようにして製造されるので、アルミニウム箔の表面上での酸化被膜の生成が最小限に抑えられるとともに、アルミニウム箔の表面上に形成された炭素含有層によって表面積を拡大または増大することができる。その結果、貫通孔の形成により集電体材料としてその表面上への活物質の密着性を高めることができるとともに、活物質との間の界面での電気抵抗(インピーダンス)を低減することができる。
【0043】
なお、この発明の集電体は、二次電池、電気二重層キャパシタ、特にリチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ等に用いられる。また、この発明の集電体において形成された貫通孔は、リチウムイオンをドーピングさせるために用いることができる。
【実施例】
【0044】
以下の実施例1〜2と比較例1〜3に従って、アルミニウム箔を基材として用いた集電体材料を作製した。
【0045】
(実施例1)
図1に示すように、厚みが50μmのアルミニウム箔10(JIS 1085−H18)の両面に、炭素含有粒子を含む炭素含有物質を塗布し、付着させることにより、炭素含有物質付着層20を形成した。炭素含有物質の組成は、平均粒径が約300nmのカーボンブラック10重量部を溶剤(トルエン及びメチルエチルケトン)に分散させて、固形分を20〜30%に調製したものであった。乾燥後の厚みがアルミニウム箔10の片面側で平均約1μmになるように炭素含有物質付着層20を形成した。
【0046】
次に、炭素含有物質付着層20を付着させたアルミニウム箔10を、表面に凸部が形成された鋼製の成形エンボスロールと、表面に凹凸が形成されていない平ロールとの間に通過させるプレス加工を行うことにより、図2に示すように所定のパターンの貫通孔12、22を有する開口率が25%の炭素含有物質付着パターン層21で被覆された多孔質のアルミニウム箔11を得た。
【0047】
図7は貫通孔が形成されたアルミニウム箔を示す平面図、図8は図7の一部を拡大して示したもので、貫通孔の大きさと間隔を示す拡大平面図である。
【0048】
図7に示すように、多孔質のアルミニウム箔11には多数の貫通孔12が所定の間隔をあけて配置されている。実施例1では、図8に示すように、貫通孔12の直径Aは0.4mm、4つの貫通孔12で形成される四辺形の対角距離Bは1.4mm、四辺形の一辺の距離Cは0.8mmであった。
【0049】
さらに、複数の貫通孔12と22が形成されたアルミニウム箔11と炭素含有物質付着パターン層21とを、450℃以上の温度の炭化水素雰囲気中で10時間、加熱する焼鈍処理を行うことにより、集電体材料として、図3に示すように炭素含有層40で被覆された多孔質の集電体用アルミニウム箔を作製した。
【0050】
(比較例1)
厚みが50μmのアルミニウム箔(JIS 1085−H18)を、表面に凸部が形成された鋼製の成形エンボスロールと、表面に凹凸が形成されていない平ロールとの間に通過させるプレス加工を行うことにより、集電体材料として、図7と図8に示すように所定のパターンの貫通孔12を有する開口率が25%の多孔質のアルミニウム箔11を作製した。比較例1では、図8に示すように、貫通孔12の直径Aは0.4mm、4つの貫通孔12で形成される四辺形の対角距離Bは1.4mm、四辺形の一辺の距離Cは0.8mmであった。
【0051】
(比較例2)
厚みが50μmのアルミニウム箔(JIS 1099−O)を、温度75℃で濃度が5%の塩酸水溶液に浸漬させた状態で、電流密度が0.2A/cmの直流電流を流すことによって、アルミニウム箔に貫通ピットを形成した。さらに、温度85℃で濃度が5%の塩酸水溶液に20分間浸漬させることによって、貫通ピットの孔径を拡大した。このようにして、集電体材料として、エッチングによって開口率が22%の多孔質のアルミニウム箔を作製した。
【0052】
(比較例3)
圧延後、熱処理等を施していない厚みが50μmのアルミニウム箔(JIS 1085−H18)を集電体材料として準備した。
【0053】
(実施例2)
図5に示すように、炭素含有粒子を含む炭素含有物質を厚みが50μmのアルミニウム箔10(JIS 1085−H18)の一方の表面の全面上に付着させることにより、炭素含有物質付着層30を形成した。また、このアルミニウム箔10の他方の表面上には、貫通孔の形成パターンに従って、炭素含有粒子を含む炭素含有物質を印刷することにより、複数の貫通孔32を有する炭素含有物質付着パターン層31を形成した。炭素含有物質付着層30と炭素含有物質付着パターン層31はエッチング耐性を有する材料からなり、その組成は、平均粒径が約300nmのカーボンブラック1重量部を、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂固形分1重量部と混合し、固形分が25〜30%になるように調製し、その調製したものの固形分重量比に対し、15重量部のイソシアネート系硬化剤を配合したものであった。乾燥後の厚みがアルミニウム箔10の片面側で平均約1μmになるように炭素含有物質付着層30と炭素含有物質付着パターン層31を形成した。
【0054】
次に、炭素含有物質付着パターン層31をマスクとして用いて、温度40℃で濃度が20%の塩酸水溶液中でエッチング処理を施すことによって、アルミニウム箔10と炭素含有物質付着層30とを貫通するように複数の貫通孔12、32を形成した。このようにして図6に示すように所定のパターンの貫通孔12、32を有する開口率が25%の炭素含有物質付着パターン層31で被覆された多孔質のアルミニウム箔11を得た。
【0055】
実施例2では、図8に示すように、貫通孔12の直径Aは0.6mm、4つの貫通孔12で形成される四辺形の対角距離Bは1.5mm、四辺形の一辺の距離Cは1.06mmであった。
【0056】
さらに、複数の貫通孔12と32が形成されたアルミニウム箔11と炭素含有物質付着パターン層31とを、450℃以上の温度の炭化水素雰囲気中で10時間、加熱する焼鈍処理を行うことにより、集電体材料として、図3に示すように炭素含有層40で被覆された多孔質の集電体用アルミニウム箔を作製した。
【0057】
なお、上記の実施例1〜2と比較例1〜2における開口率は、試料において貫通孔が形成されたアルミニウム箔のみを10cm×10cmの大きさに切り出し、その重量を測定して、以下の式により算出した。
【0058】
開口率(%)={1-(切り出したアルミニウム箔の重量(g)/(アルミニウム箔の厚み(mm)×10×2.71(アルミニウムの比重)))×100
以上のようにして作製された実施例1〜2と比較例1〜3の各試料について、密着性(セロテープ密着性)、表面積(静電容量)および界面での電気抵抗(ACインピーダンス)を評価した。評価条件は次に示すとおりである。その結果を表1に示す。
【0059】
<セロテープ密着性>
セロテープ密着性は、幅が18mmのセロテープ(登録商標)を各試料に貼り付け、セロテープ剥離後にアルミニウム箔の表面上の炭素の残渣の有無を確認した。その結果を次のようにして評価し、表1に示した。
【0060】
×:全面剥離
△:部分的に剥離有り
○:剥離無し
<静電容量>
静電容量は、アジピン酸アンモニウム水溶液中で電圧20Vの直流電流を印加して各試料に化成処理を施した後、硼酸アンモニウム水溶液中で測定した。
【0061】
<ACインピーダンス>
ACインピーダンスは、北斗電工製「HZ−3000」測定機を使用し、温度30℃に保持した1molの塩酸水溶液中に各試料を浸漬した状態で、周波数0.02Hz〜1,000Hz域にて測定した。
【0062】
【表1】

【0063】
表1の結果から、実施例1〜2の集電体材料は、炭素含有層の密着性が良好で、比較例1〜3に比べて高い静電容量、すなわち、増大した表面積を示し、低いACインピーダンス、すなわち、表面に活物質を形成した場合にその界面での電気抵抗が低いことを示すことがわかる。
【0064】
今回開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は以上の実施の形態と実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものであることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】この発明の1つの実施の形態に従った集電体材料の第1の製造工程を順に示す模式的な断面図である。
【図2】この発明の1つの実施の形態に従った集電体材料の第2の製造工程を順に示す模式的な断面図である。
【図3】この発明の1つの実施の形態に従った集電体材料の第3の製造工程を順に示す模式的な断面図である。
【図4】この発明の一つの実施の形態として、貫通孔の部分を除いた箇所の集電体材料の詳細な断面構造を模式的に示す断面図である。
【図5】この発明のもう1つの実施の形態に従った集電体材料の第1の製造工程を順に示す模式的な断面図である。
【図6】この発明のもう1つの実施の形態に従った集電体材料の第2の製造工程を順に示す模式的な断面図である。
【図7】貫通孔が形成されたアルミニウム箔を示す平面図である。
【図8】図7の一部を拡大して示したもので、貫通孔の大きさと間隔を示す拡大平面図である。
【符号の説明】
【0066】
1:集電体材料、10,11:アルミニウム箔、12,22,32:貫通孔、20,30:炭素含有物質付着層、21,31:炭素含有物質付着パターン層、40:炭素含有層、41:第2の表面部分、42:炭素粒子、43:介在層(第1の表面部分)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム箔と、
前記アルミニウム箔の表面上に形成された炭素含有層と、
前記アルミニウム箔と前記炭素含有層との間に形成された、アルミニウム元素と炭素元素とを含む介在層とを備え、
前記介在層は、前記アルミニウム箔の表面の少なくとも一部の領域に形成された、アルミニウムの炭化物を含む第1の表面部分を含み、
前記炭素含有層は、前記第1の表面部分から外側に向かって延びるように形成された第2の表面部分を含み、
前記炭素含有層は炭素含有粒子をさらに含み、前記第2の表面部分は前記第1の表面部分と前記炭素含有粒子との間に形成されてアルミニウムの炭化物を含み、
複数の貫通孔が前記アルミニウム箔と前記炭素含有層とを貫通するように形成されている、集電体材料。
【請求項2】
前記貫通孔の直径は0.1mm以上2.0mm以下であり、前記アルミニウム箔の表面積に対する前記貫通孔の占める割合は10%以上90%以下である、請求項1に記載の集電体材料。
【請求項3】
前記炭素含有粒子の粒径は30nm以上5μm以下である、請求項1または請求項2に記載の集電体材料。
【請求項4】
炭素含有粒子を含む炭素含有物質をアルミニウム箔の表面に付着させることにより、炭素含有物質付着層を形成する工程と、
前記アルミニウム箔と前記炭素含有物質付着層とを貫通するように複数の貫通孔を形成する工程と、
複数の貫通孔が形成された前記アルミニウム箔と前記炭素含有物質付着層とを、炭化水素含有物質を含む空間に配置して、加熱する工程とを備えた、集電体材料の製造方法。
【請求項5】
前記アルミニウム箔と前記炭素含有物質付着層とを加熱する工程は、450℃以上640℃未満の温度範囲で行う、請求項4に記載の集電体材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−283152(P2008−283152A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128577(P2007−128577)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【Fターム(参考)】