説明

難削材加工装置

【課題】 高価な専用加工装置を導入することなく難削材の切り屑が切削工具と固定治具の間に入り込みを防ぐ装置を提供する。
【解決手段】 難加工材3の下面から鉛直上方に向かって切削する難削材加工装置において、切削工具4の上方に高硬度切削屑が超硬ドリルの固定治具に入り込んで傷つけないように切削屑防御カバー5を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、タングステンやセラミックス等の難削材の穴開け加工装置のに関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明はタングステンやセラミックス等の難削材を下方から穴開け加工をするに際し、切り屑が固定冶具に入り込んで傷つけないようにした穴開け加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
量子機能材料としての希土類プニクタイト、カルコゲナイド化合物や希土類を含んだ希土類希薄磁性半導体の電子状態を調べるためには大型純良単結晶試料の育成が不可欠である。
これらの材料の単結晶育成するには、超高融点(2000〜3000℃)、高蒸気圧および坩堝材料との反応性という観点を考慮することが必要であり、このような要求を満たすものとして従来から超高融点タングステン坩堝に原料を封入して加熱する方式が採用されてきた。
しかしながら、この超高融点タングステン坩堝を成形するには超高融点タングステン材の高硬度性や高脆性に起因する1)冷間穴開け加工に要する長時間の作業、2)切削工具の極度の消耗性および3)坩堝の割れ等の困難な問題を生じるため、これまでこの分野の研究推進を大幅に遅らせてきた。超高融点タングステン坩堝の成形装置としては、放電、レーザー、または超音波等を利用する加工機も考えられるが、直径数mm以上で、しかも深さ10mm以上の長尺の穴を開けるには加工速度の点で機械研削装置が断然優れている。
本出願人はタングステンやセラミックス等の難削材の機械研削装置の改良装置として難削材の下方から超硬ドリルで穴開け加工する装置を開発し、「難削材の下方から超硬ドリルで穴開け加工する装置」として既に特許出願をしている(特許文献1)。
なお、難削材の加工や穴開けに関する技術については、文献やWebにおいて、これまでにも数多く紹介されている(非特許文献1〜6)。
【特許文献1】: 特開2001−347408号公報
【非特許文献1】: 鈴木孝、志田博、李徳新、芳賀芳範、松村武、落合明、北澤英明、小山田明、権容聖「希土類モノカルコゲナイド、プニクタイトの結晶作製」、固体物理29(1994)、685−689.
【非特許文献2】: “Optical and magneto-optical studies on electronic structure of CeSb in the magnetically ordered states”,S.Kimura,M.Okuno,H.Kitazawa,G.Kido,F.Ishiyama,O.Sakai,J.Phys.Soc.Jpn.71(2002)2200-2207。
【非特許文献3】: 「最新・難削材切削加工データ集」、「機械技術」Vol.51.No.12(2003)、日刊工業新聞社。
【非特許文献4】: 「穴加工用工具による高能率・高精度加工」、「機械技術」Vol.52.No.3(2004)、日刊工業新聞社。
【非特許文献5】: 「穴加工用工具のすべて」、でか版技能ブックス10、大河出版。
【非特許文献6】:http://www.nims.go.jp/nanomat_lab/Japanese/ResGroup_j/Physcs_j/jphysics.html
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この改良された「難削材の下方から超硬ドリルで穴開け加工する装置」は、穴開け時間を短縮し、切削工具の消耗を抑えるとともに、難削材の割れを解消できるという優れた特徴を有しているが、切削加工を下方の超硬ドリルで行なうため、タングステン等の難削材の切り屑が超硬ドリルと固定治具の間に入り込み高価な超硬ドリルや固定具を傷つけると
いう問題があった。この出願の発明は高価な専用加工装置を導入することなく難削材の切り屑が超硬ドリルと固定治具の間に入り込みを防ぐ装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この出願の発明は上記の課題を解決するものとして、第1には、切削工具または難加工材の少なくともいずれか一方を回転して難加工材の下面を切削工具で垂直上方に穴開け加工する装置において、切削工具の上方に防護カバーを設けた難削材加工装置を提供する。第2には、防護カバーが外側に向かって下方に傾斜している上記の難削材加工装置を提供する。
第3には、防護カバーの断面が波形または三角形状である上記の難削材加工装置を提供する。
第4には、防護カバーの外周に凹溝が設けられている上記の難削材加工装置を提供する。第5には、防護カバーの下面に切削工具保持部との係合部が設けられている上記の難削材加工装置を提供する。
【発明の効果】
【0005】
上記第1の難削材加工装置によれば、難削材の切り屑が切削工具と固定治具の間に入り込みを防ぐ装置を提供することができる。
【0006】
上記第2の難削材加工装置によれば、難削材の切り屑を切削工具の周囲から早く除去することができるため切り屑の巻き込みを防止できる。
【0007】
上記第3の難削材加工装置によれば、難削材の切り屑を切削工具の周囲からより早く除去できるため切り屑の巻き込みを防止できる。
【0008】
上記第4の難削材加工装置によれば、難削材の切り屑を防護カバーの外周に集めることができるため切り屑の逸散を防止できる。
【0009】
上記第5の難削材加工装置によれば、切削工具による振動があっても防護カバーを切削工具保持部に対して安定して係合できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
この出願の発明は、従来の難削材加工装置のように切削によって生じた高硬度の切削屑が加工対象である難加工材に形成された穴に溜まってしまうのを防ぐために、加工対象の難加工材の下面から鉛直上方に向かって切削することにより切削で、生ずる高硬度切削屑を重力により速かに落下させて形成された穴から排除するようにする構造を有する難削材加工装置であるが、この出願の発明はこの難削材加工装置の切削工具の上方に高硬度切削屑が入り込んで傷つけないように専用のカバーを設けている点に特徴を有している。
【0011】
図1はこの出願の発明の難削材加工装置の全体を示す断面図であるが、この出願の発明の難削材加工装置を図1に従って説明すると、この難削材加工装置は難加工材(3)、難加工材用チャック(2)、難加工材(3)を下面から鉛直上方に向かって切削する切削工具(4)、切削工具用チャック(6)、切削屑防御カバー(5)、難加工材(3)または切削工具(4)の少なくともいずれか一方を回転させる回転手段(1)と、切削工具用チャック(6)を固定して上下、左右の少なくともいずれか一方に移動可能なテーブル(7)とから構成されている。図2は難削材加工装置における切削工具(4)の固定手段を説明するために切削工具用チャック(6)を分解した状態を示す模式図である。図2では切削工具(4)の固定手段を詳しく説明するために、図1における切削工具用チャック(6)は固着具(6a)、コレット(6b)、コレット支持具(6c)、固着具(6d)に分
けられている。
【0012】
この切削工具(4)の固定手段を具体的に説明すると、切削工具(4)を固定するためには、例えば切削工具(4)を縦方向にスリットの入ったコレット(6b)等に圧入する。
【0013】
そしてコレット(6b)をコレット支持具(6c)に挿入した後、ネジ等の固着具(6a)で固着する。またコレット支持具(6c)は、テーブル(7)にネジ等の固着具(6d)で固着されるようになっている。このように切削工具(4)をしっかり固着した状態で切削屑防御カバー(5)を装填する。なお、切削屑防御カバー(5)の裏面には切削中に動かないように固着具(6a)の頂部に係合するような窪み等を設けることも考えられてよい。
【0014】
この難加工材の穴開け加工装置を使用する穴開け加工の態様としては、テーブル(7)上に固定された超硬ドリル等の切削工具(4)を難加工材(3)の回転中心に一致するように配置した後、モーター等の回転手段(1)により難加工材(3)または切削工具(4)のいずれか一方を回転させる。次いで、難加工材(3)を手動又は自動により鉛直下方に移動させ、切削工具(4)により下方から鉛直上方に向かって穴開け加工を行なう。
【0015】
もちろん、他の態様としては、難加工材(3)の位置を固定しておき、テーブル(11)を移動させる等して切削工具(4)を鉛直上方に移動させることもできる。
【0016】
図3は本願発明の防護カバーを設けた難削材加工装置を用いて穴開け加工した後、切削屑が防護カバーで侵入するのを防いでいる状態を示した写真である。この防護カバーを外側に傾斜させたり、防護カバーの断面を波形や三角形に成形することにより切削屑が特定の部位に集まり速かに切削屑を排除することができる。また防護カバーの外周に溝を設けて切削屑を外縁でトラップして切削屑の逸散を防ぐことも考えられる。図4は従来の難削材加工装置を用いて穴開け加工した後の切削工具用チャックの上面に切削屑が堆積している状態を示した写真である。本願発明の効果は図3と図4の写真を対比することでも容易に理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
この出願の発明は、希土類磁性化合物や希土類元素添加のIII-VI族やII-VI族半導体のバ
ルク単結晶成長に関する研究を推進し、該当する物性及び材料研究の飛躍的向上を図ることが可能となる。しかも、新規な専用加工装置を導入することなく、既存のボール盤に装着させるだけの簡単な器具を設けることによりタングステン坩堝の加工費を大幅に削減することが可能になり、また様々な分野で利用されているセラミックス加工費を削減することが可能となり、経済的にも多大な貢献をするものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】切削屑防護カバーを備えた難削材穴開け加工装置の断面図である。
【図2】難削材穴開け加工装置の切削工具の取り付け部の分解図である。
【図3】加工後の切削屑防護カバー上に切削屑が堆積した状態を示した写真である。
【図4】従来の難削材穴開け加工装置で加工した後の固定冶具に切削屑が堆積した状態を示す写真である。
【符号の説明】
【0019】
1 回転手段
2 難加工材用チャック
3 難加工材
4 切削工具
5 切削屑防御カバー
6 切削工具用チャック
6a 固着具
6b コレット
6c コレット支持具
6d 固着具
7 テーブル






【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具または難加工材の少なくともいずれか一方を回転して難加工材の下面を切削工具で垂直上方に穴開け加工する装置において、切削工具の上方に防護カバーを設けることを特徴とする難削材加工装置。
【請求項2】
防護カバーが外側に向かって下方に傾斜していることを特徴とする請求項1の難削材加工装置。
【請求項3】
防護カバーの断面が波形または三角形状であることを特徴とする請求項1または2の難削材加工装置。
【請求項4】
防護カバーの外周に凹溝が設けられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかの難削材加工装置。
【請求項5】
防護カバーの下面に切削工具保持部との係合部が設けられていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかの難削材加工装置。

















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−51577(P2006−51577A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−235399(P2004−235399)
【出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】