説明

難水溶性ポリフェノール類の糖付加物の製造方法

【課題】効率よく難水溶性ポリフェノール類からその糖付加物を製造する方法の提供。
【解決手段】次の工程(1)及び(2):
(1)水性媒体の存在下、難水溶性ポリフェノール類(A)を100〜180℃で加熱処理し、加熱処理液を得る工程、
(2)得られた加熱処理液に糖供与体(B)及び糖転移酵素を添加し、加熱処理後300分以内に糖転移反応を開始し、難水溶性ポリフェノール類(A)の糖付加物を得る工程、
を含む難水溶性ポリフェノール類の糖付加物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難水溶性ポリフェノール類の糖付加物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、生理機能を有する様々な素材が提案され、これらを含有する数多くの健康食品が上市されている。なかでも、ポリフェノールは、抗酸化力を有することが知られており、抗動脈硬化、抗アレルギー、血流増強等の効果が期待されるため、健康食品の重要な成分として認識されている。
しかしながら、ポリフェノールには難水溶性のものが多く、それらを清涼飲料等の水性食品へ使用することは難しい。
【0003】
そこで、難水溶性のポリフェノールを水に可溶化させる技術が検討され、ポリフェノールにグルコース等の糖を付加させた糖付加物が提案されている。例えば、ヘスペリジンの25℃における水への溶解度は僅かに0.02mg/gであるが、ヘスペリジンにグルコースを結合させたα-グルコシルヘスペリジンでは、25℃の水への溶解度が200mg/g以上と高くなる。更に、ポリフェノールの糖付加物は、ポリフェノールと同等の機能を発揮する等の利点がある。
【0004】
ポリフェノールの糖付加物を製造する方法としては、例えば、懸濁状もしくはpH7.0を超えるアルカリ側pHで溶解させた溶液状のルチン又はヘスペリジンと澱粉部分加水分解物等を含有する溶液に糖転移酵素を作用させる方法(特許文献1、2)、フラボノイドをpH8〜10に調整した増粘多糖類溶液に溶解させ、サイクロデキストリン合成酵素を作用させるフラボノイド糖転移法(特許文献3)、フラボノイド類をpH8以上のアルカリ域であるいは/およびサイクロデキストリンを加えて可溶化し、さらにアルカリ域でサイクロデキストリン合成酵素を作用させるフラボノイド配糖体の製造方法(特許文献4)等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−27293号公報
【特許文献2】特開平3−7593号公報
【特許文献3】特開平10−101705号公報
【特許文献4】特開平7−107972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜4のように、ポリフェノールをアルカリ性の水溶液に溶解した後、糖転移酵素と反応させる方法は、アルカリ域でのポリフェノールの安定性が低く分解され易い上に、アルカリの中和と脱塩の工程が必要で、製造プロセスの煩雑化が懸念される。また、特許文献1及び2のように、難水溶性のポリフェノールを懸濁した溶液に糖転移酵素を作用させる方法は、糖転移反応液中のポリフェノールの溶解量が少ないため十分な転化率が得られない場合がある。
したがって、本発明の課題は、難水溶性ポリフェノール類からその糖付加物を効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討したところ、難水溶性ポリフェノール類を特定の温度範囲で加熱処理した後に、特定の時間内に糖転移酵素を作用させると、難水溶性ポリフェノールの溶解濃度を大幅に高め、かつ高濃度を維持したまま糖転移反応が進行し、水溶性に優れたポリフェノール糖付加物を高収率で得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の工程(1)及び(2):
(1)水性媒体の存在下、難水溶性ポリフェノール類(A)を100〜180℃で加熱処理し、加熱処理液を得る工程、
(2)得られた加熱処理液に糖供与体(B)及び糖転移酵素を添加し、加熱処理後300分以内に糖転移反応を開始し、難水溶性ポリフェノール類(A)の糖付加物を得る工程、
を含む難水溶性ポリフェノール類の糖付加物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、糖転移反応の転化率を向上させることができ、高収率で溶解性に優れるポリフェノール類の糖付加物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の方法における工程(1)は、水性媒体の存在下、難水溶性ポリフェノール類(A)を100〜180℃で加熱処理する工程である。
本明細書において「難水溶性ポリフェノール類」とは、logP値が−1.0〜4.0のポリフェノール類を云う。難水溶性ポリフェノール類は、logP値が−0.5〜3.5のものが好ましい。logP値は、1−オクタノール/水間の分配係数の常用対数をとった値で、有機化合物の疎水性を示す指標である。この値が正に大きい程疎水性が高いことを表す。ポリフェノールのlogP値は、日本工業規格 Z7260−107記載のフラスコ振盪法により測定できる。詳細は実施例に記載した。
【0011】
難水溶性ポリフェノール類(A)としては、ベンゼン環にヒドロキシル基が1個以上、更に2個以上結合したフェノール性物質が好ましく適用できる。例えば、植物由来のフラボノイド、タンニン、フェノール酸等が挙げられる。より好ましく適用できる難水溶性ポリフェノール類としては、フラボノール類、フラバノン類、フラボン類、イソフラボン類、フェノールカルボン酸類等が挙げられる。
具体的には、ルチン、ケルシトリン、イソケルシトリン、ケルセチン、ミリシトリン、ダイゼイン、ダイジン、グリシテイン、グリシチン、ゲニステイン、ゲニスチン、ミリセチン、ヘスペリジン、ネオヘスペリジン、ヘスペレチン、ナリンギン、クルクミン、リンゲニン、プルニン、アストラガリン、ケンフェロール、レスベラトロール、アピイン、アピゲニン、デルフィニジン、デルフィン、ナスニン、ペオニジン、ペオニン、ペツニン、ペオニジン、マルビジン、マルビン、エニン、シアニジン、ロイコシアニジン、シアニン、クリサンテミン、ケラシアニン、イデイン、メコシアニン、ペラルゴニジン、カリステフィン、フェルラ酸、p−クマル酸又はこれらの誘導体が挙げられる。上記誘導体としては、アセチル化物、マロニル化物、メチル化物が例示される。なかでも、原料の溶解性の低さから、フラボノール類及びフラバノン類が好ましく適用でき、フラバノン類がより好ましく、ルチン、ヘスペリジンが更に好ましい。難水溶性ポリフェノール類は、1種であっても、2種以上の混合物であってもよい。
【0012】
なお、本発明の難水溶性ポリフェノール類(A)の中には、前述の定義を満たす限り、アグリコンのみならずアグリコンに糖が結合した配糖体が含まれる。
例えば、ヘスペレチン(5,7,3'−トリヒドロキシ−4'−メトキシフラバノン)の7位の水酸基にルチノース(L−ラムノシル−(α1→6)−D−グルコース)がβ結合した配糖体であるヘスペリジン、アピゲニンにアピオース及びグルコースが結合したアピイン、ケルセチンにルチノースが結合したルチン、ケルセチンにラムノースが結合したケルシトリン等が挙げられる。
【0013】
本明細書において水性媒体とは、水、及び有機溶媒の水溶液を云う。水としては、水道水、蒸留水、イオン交換水、精製水が例示される。有機溶媒としては、水と均一に混合するものであれば特に限定されない。有機溶媒としては炭素数4以下のアルコールが好ましく、メタノール及びエタノールがより好ましく、食品に適用可能であるという観点よりエタノールが更に好ましい。水性媒体として有機溶媒の水溶液を用いる場合は、前記水溶液中の有機溶媒の濃度は、0.1〜80質量%(以下、単に「%」とする)が好ましく、1〜70%がより好ましく、5〜60%が更に好ましい。
【0014】
水性媒体のpHは、難水溶性ポリフェノール類の安定性の観点より、3以上7未満が好ましく、3.5〜6.9がより好ましく、4〜6.8が更に好ましい。
【0015】
難水溶性ポリフェノール類(A)は水への溶解度が低いため、水性媒体へ分散させ、スラリーの状態で存在させるのが好ましい。水性媒体中の難水溶性ポリフェノール類(A)の含有量は、難水溶性ポリフェノール類の種類によって異なるが、スラリーの流動性の点から、0.1〜100g/Lが好ましく、0.5〜50g/Lがより好ましく、0.7〜20g/Lが更に好ましく、0.7〜10g/Lが更に好ましい。
【0016】
水性媒体の存在下、難水溶性ポリフェノール類(A)を加熱処理する方法は、特に制限されず、公知の方法を適用できる。
加熱処理の温度は、100〜180℃であるが、110〜170℃がより好ましく、120〜160℃が更に好ましく、120〜150℃が更に好ましい。100℃以上において大幅な溶解性の向上が達成され、また、180℃以下において難水溶性ポリフェノール類の安定性が確保される。加熱の手段は、例えば、水蒸気、電気が挙げられる。
【0017】
加熱処理時の圧力は、ゲージ圧で0〜10MPaが好ましく、0.1〜8MPaがより好ましく、0.1〜6MPaが更に好ましく、0.2〜6MPaが更に好ましく、0.2〜4MPaが更に好ましく、0.25〜2MPaが更に好ましく、0.3〜1.5MPaが更に好ましく、0.3〜0.6MPaが更に好ましい。また、水の飽和蒸気圧以上に設定するのが好ましい。飽和蒸気圧以上の加圧は、背圧弁により調整しても良く、また、ガスを用いてもよい。用いられるガスとしては、例えば、不活性ガスが好ましく、窒素ガス、ヘリウムガスがより好ましい。
【0018】
加熱処理は、例えば、回分法、半回分法、流通式処理方法等いずれの方法によっても実施できる。なかでも、流通式処理方法は、処理時間の制御が容易である点で好ましい。
【0019】
加熱処理の時間は、難水溶性ポリフェノール類の溶解性向上と熱安定性の点から、上記の加熱処理の温度範囲にある時間が0.1〜30分が好ましく、更に0.2〜15分、更に0.5〜8分が好ましい。
流通式処理方式で行う場合、加熱処理の時間は、処理器の高温高圧部の体積を水性媒体の供給速度で割ることにより算出される平均滞留時間を用いる。
【0020】
加熱処理後、得られた加熱処理液を90℃以下、好ましくは50℃以下、更に好ましくは30℃以下に冷却する工程を行うのが、ポリフェノールの熱劣化防止の点から好ましい。冷却時に、加熱処理液を混合攪拌してもよい。
【0021】
加熱処理温度から90℃まで低下するのに要した時間から算出される加熱処理液の冷却速度は0.2℃/s以上、更に0.5℃/s以上、1℃/s以上、更に3℃/s以上、更に5℃/s以上が好ましい。冷却速度が大きいほど難水溶性ポリフェノール類の溶解量を向上することができる。このため、冷却速度の上限は特に定めないが、例えば100℃/s以下、更に50℃/s以下が好ましい。
【0022】
更に、加熱処理液から、溶解せずに残留する固体部を除去する工程を行うのが、得られる難水溶性ポリフェノール類の糖付加物の溶解性を高める点から好ましい。固体部を除去する方法としては、特に制限されず、例えば遠心分離やデカンテーション、ろ過により行うことができる。
【0023】
本発明の方法において、加熱処理は、可溶化剤(C)の存在下に行ってもよい。加熱処理は、難水溶性ポリフェノール類(A)と可溶化剤(C)の合計に対する可溶化剤(C)の質量比[(C)/((A)+(C))]が0.1未満である条件で行うのが、難水溶性ポリフェノール類(A)から糖付加物への転化率向上の点、反応生成物の精製負荷軽減の点から好ましい。
すなわち、難水溶性ポリフェノール類(A)と可溶化剤(C)の関係は、
0≦(C)/((A)+(C))<0.1
と表すことができる。
反応生成物の精製負荷軽減の点という観点からは、上記質量比は0.09以下が好ましく、0.07以下がより好ましく、0.05以下が更に好ましく、0.04以下が更に好ましく、0(可溶化剤(C)が存在しない条件)が殊更好ましい。
【0024】
可溶化剤(C)としては、原料である難水溶性ポリフェノール類(A)より水溶性が高いものが好ましく、難水溶性ポリフェノール類(A)の糖付加物が好ましく、ヘスペリジン糖付加物がより好適に用いられる。
【0025】
本発明の方法における工程(2)は、得られた加熱処理液に糖供与体(B)及び糖転移酵素を添加し、加熱処理後300分以内に糖転移反応を開始し、難水溶性ポリフェノール類(A)の糖付加物を得る工程である。
本明細書において、加熱処理後「300分以内」とは、加熱処理が終了した時点、すなわち加熱処理液が100℃未満に下がった時点から、糖転移反応の開始までの時間である。加熱処理後から糖転移反応の開始までの時間は、転化率向上の点から、0.1〜300分が好ましく、更に0.1〜180分が好ましく、更に1〜120分が好ましく、1〜60分が好ましい。
【0026】
本発明の方法で用いられる糖供与体(B)としては、難水溶性ポリフェノール類(A)に後述する糖を供与できるものであれば特に制限はない。
糖供与体(B)の具体例としては、澱粉、デキストリン、シクロデキストリン、マルトオリゴ糖等の澱粉部分加水分解物、キシロオリゴ糖、フラクタン、アラビノガラクタン、プルラン、ラフィノース、又はこれらの含有物等が挙げられる。
【0027】
糖供与体(B)の使用量は、難水溶性ポリフェノール類(A)の転化率向上の点から、糖転移反応の反応開始時における難水溶性ポリフェノール類(A)に対する質量比(B)/(A)として1〜30が好ましく、更に1.2〜15が好ましい。
【0028】
本発明の方法で用いられる糖転移酵素としては、難水溶性ポリフェノール類(A)に対して糖の転移活性を有する酵素であれば特に制限はないが、用いる糖供与体(B)の種類に応じて適宜選択し得る。
糖転移酵素の具体例としては、シクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ、デキストリンデキストラナーゼ、アミロスクラーゼ、デキストランスクラーゼ、α−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、α−アミラーゼ、キシラナーゼ、プルラナーゼ、アラビノフラノシダーゼ等が挙げられる。
【0029】
糖転移酵素は、その起源に限定はなく、動物由来、植物由来、微生物由来等のすべての由来のものを使用することができる。さらに、遺伝子組み換え技術、部分加水分解等による人工酵素であってもよい。
また、糖転移酵素の形態は特に限定されず、酵素蛋白質の乾燥物、酵素蛋白質を含む粒子、及び酵素蛋白質を含む液体等を用いることができる。
【0030】
糖転移酵素の使用量は、糖転移反応の条件、糖の種類等によって異なるが、例えば、シクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼの場合、10〜10,000U/mLが好ましい。ここで活性は以下に示す方法により測定される。
5mM Tris−HCl緩衝溶液(pH7.5)、0.05%(w/v)アミロース、および酵素を含む液100μLを30℃、30分間反応させた後、ヨウ素溶液(1mg/mL KI,0.1mg/mL I2 ,3.8mM HClを含む)2mLを添加して反応を停止し、波長660nmにおける吸光度を測定して定量する。1分間に吸光度を1%低下させる酵素量を1ユニット(U)とする。
【0031】
工程(2)において糖転移反応の条件は、使用する酵素の特性に合わせて反応温度や反応液のpHを選択することが可能であるが、例えば、シクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼを用いる場合、pH3〜7とすることが好ましく、更に4〜6.5とすることが好ましい。
【0032】
また、反応温度は、糖転移酵素の安定性の点、糖転移反応の反応速度向上の点から、10〜80℃、更に20〜60℃、更に35〜55℃とすることが好ましい。
【0033】
反応時間は、糖転移酵素の種類等によって異なるが、難水溶性ポリフェノール類(A)転化率向上の点、難水溶性ポリフェノール類(A)の糖付加物の生産性向上の点から、例えば、0.5〜120時間が好ましく、更に1〜100時間、更に2〜20時間が好ましい。
【0034】
本発明の方法によれば、40〜100%、更に45〜95%の転化率で、難水溶性ポリフェノール類(A)から難水溶性ポリフェノール類の糖付加物を製造することができる。なお、転化率は、後記実施例に記載した式(1)により算出できる。
【0035】
本発明の方法により得られる難水溶性ポリフェノール類の糖付加物は、原料である難水溶性ポリフェノール類(A)に少なくとも1個の糖が結合した化合物である。難水溶性ポリフェノール類(A)に結合する糖の種類は、特に制限されないが、グルコース、ガラクトース、フルクトース、ラムノース、キシロース、アラビノース、エリトロース等の4〜6炭糖から選ばれる少なくとも1種以上が好ましい。また、糖の結合数は、好ましくは1個〜10個、より好ましくは1個〜6個である。難水溶性ポリフェノール類(A)への糖の結合部位は、フェノール性水酸基又は配糖体の糖残基である。難水溶性ポリフェノール類(A)とこれら糖との結合様式はα−結合又はβ−結合のいずれであってもよい。
【0036】
本発明の方法により得られる難水溶性ポリフェノール類の糖付加物の溶解量は、好ましくは1g/L以上であり、より好ましくは2g/L以上であり、更に好ましくは5g/L以上であり、更に好ましくは10g/L以上である。本明細書における溶解量は、水に対する25℃での溶解量である。
【0037】
本発明の製造方法で得られるポリフェノール類の糖付加物は、様々な飲食品や医薬品等に使用することができる。例えば、飲食品としては、飲料、パン類、麺類、クッキー等の菓子類、スナック類、ゼリー類、乳製品、冷凍食品、粉末コーヒー等のインスタント食品、でんぷん加工製品、加工肉製品、その他加工食品、調味料、栄養補助食品等の液状、固形状又は半固形状の飲食品が挙げられる。とりわけ、容器詰飲料に利用するのが有用である。容器詰飲料としては、緑茶等の茶系飲料や、スポーツ飲料、アイソトニック飲料、ニアウォーター等の非茶系飲料が挙げられる。
【実施例】
【0038】
[難水溶性ポリフェノール類の測定]
難水溶性ポリフェノール類の測定は、日立製作所製高速液体クロマトグラフを用い、インタクト社製カラムCadenza CD−C18 (4.6mmφ×150mm、 3μm)を装着し、カラム温度40℃でグラジエント法により行った。移動相A液は0.05mol/L酢酸水溶液、B液はアセトニトリルとし、1.0mL/分で送液した。グラジエント条件は以下のとおりである。
時間(分) A液(%) B液(%)
0 85 15
20 80 20
35 10 90
50 10 90
40.1 85 15
60 85 15
試料注入量は10μL、検出はルチンは波長360nm、ヘスペリジンは波長283nmの吸光度により定量した。
【0039】
[難水溶性ポリフェノール類のlogP値の測定]
日本工業規格 Z7260−107記載のフラスコ振盪法に従って測定した。まず1−オクタノールと蒸留水を25℃で24時間振とうして平衡化させた。次いで蓋付きガラス瓶にポリフェノール10mgを量りとり、平衡化させた1−オクタノールと蒸留水をそれぞれ4mLずつ加え、25℃で4日間振とうした。遠心分離により1−オクタノール相と水相を分け、上記[難水溶性ポリフェノールの測定]と同様にしてHPLCにより各相のポリフェノール類の濃度を測定した。2相間の分配係数の常用対数を取った値をlogP値とした。
【0040】
[水性媒体及び糖転移反応液のpHの測定]
蒸留水と糖転移反応終了後の反応液のpHを25℃にて測定した。
【0041】
[転化率の算出]
糖転移反応開始から7時間後に転化率を求めた。転化率は次式(1)により算出した。
転化率(%)={(1−糖転移反応終了時に反応液中に残存している難水溶性ポリフェノール類濃度)/(糖転移反応開始時の反応液中の難水溶性ポリフェノール類濃度)}×100 (1)
【0042】
実施例1
ルチン製剤((株)常盤植物化学研究所製、ルチン含有量100%、以下、同じ)を蒸留水(pH6.5)に5g/Lの濃度で分散し、スラリー供給タンク内で均一攪拌した。内容積100mLのステンレス製流通式処理器(日東高圧(株)製)に、スラリー供給タンク内の液を100mL/分で供給し、150℃で加熱処理を行った(平均滞留時間1分)。処理器内の圧力は出口バルブにより0.6MPaに調整した。処理器出口から加熱処理液を抜き出し、熱交換器により25℃まで冷却し、孔径7μmの金属焼結フィルターを通した後、出口バルブで圧力を大気圧に戻して加熱処理液を得た。150℃から90℃までの冷却時間から求めた冷却速度は8℃/sであった。
加熱処理終了時点から5分後に、得られた加熱処理液10mLをガラス瓶に入れ、γ-シクロデキストリン(γ−CD、(株)シクロケム製、以下同じ)0.2gと糖転移酵素(天野エンザイム(株)製コンチザイム、以下同じ)0.5mL(糖転移反応液1mLあたりの添加は500U)を添加した。糖転移反応開始時の反応液中のルチン濃度は5.0g/Lであり、25℃における水への溶解度(0.03g/L)よりも顕著に高い過飽和溶解状態であった。反応液を45℃においてロータリーシェーカーで70r/minで7時間振盪した。ガラス瓶を沸騰水中に1分間浸漬させることにより酵素を失活させて反応を停止させ、ルチンの糖付加物を得た。加熱処理条件、糖転移反応条件、及びルチンの転化率を表1に示す(以下同じ)。
【0043】
実施例2
実施例1と同様にルチン製剤を加熱処理し、金属焼結フィルターを通した後、加熱処理液10mLをガラス瓶に入れて静置した。加熱処理終了時点から120分後に実施例1と同様に糖転移反応を行い、ルチンの糖付加物を得た。糖転移反応開始時の反応液中のルチン濃度は5.0g/Lであるがやや懸濁した状態であった。
【0044】
比較例1
実施例1と同様にしてルチン製剤を加熱処理し、金属焼結フィルターを通した後、加熱処理液10mLをガラス瓶に入れて静置した。加熱処理終了時点から1440分後に実施例1と同様に糖転移反応を行い、ルチンの糖付加物を得た。糖転移反応開始時の反応液中のルチン濃度は5.0g/Lであるが懸濁状態であった。
【0045】
比較例2
ルチン製剤を0.05g、γ-シクロデキストリンを0.2gと蒸留水10mLをガラス瓶に入れた。ルチン濃度は5.0g/Lであるが懸濁状態であった。糖転移酵素を0.5mL添加し、実施例1と同様に糖転移反応を行い、ルチンの糖付加物を得た。
【0046】
実施例3
ルチン製剤に代えてヘスペリジン製剤(ヘスペリジン「ハマリ」(商品名)、浜理薬品工業(株)製、ヘスペリジン(HES)含有量90%、以下同じ)を5g/Lで蒸留水(pH6.5)に分散して用いた以外は実施例1と同様にして加熱処理を行い、金属焼結フィルターを通し、加熱処理液を得た。
得られた加熱処理液を用いて実施例1と同様に糖転移反応を行い、ヘスペリジンの糖付加物を得た。糖転移反応開始時の反応液中のヘスペリジン濃度は2.5g/Lであり、25℃における水への溶解度(0.02g/L)よりも顕著に高い過飽和溶解状態であった。加熱処理条件、糖転移反応条件、及びヘスペリジンの転化率を表2に示す(以下同じ)。
【0047】
実施例4
加熱温度を120℃、圧力を0.3MPaとした以外は実施例3と同様にヘスペリジン製剤を加熱処理し、金属焼結フィルターを通し、加熱処理液を得た。得られた加熱処理液を用いて実施例1と同様に糖転移反応を行い、ヘスペリジンの糖付加物を得た。糖転移反応開始時の反応液中のヘスペリジン濃度は1.9g/Lであり、25℃における溶解度(0.02g/L)よりも顕著に高い過飽和溶解状態であった。
【0048】
実施例5
加熱温度を120℃、圧力を0.3MPaとした以外は実施例3と同様にヘスペリジン製剤を加熱処理し、金属焼結フィルターを通し、加熱処理液を得た。加熱処理の10分後に、得られた加熱処理液をロータリーエバポレータで濃縮した(液温は40℃とした)。加熱処理終了時点から120分後に、得られた加熱処理液の濃縮液10mLをガラス瓶に入れ、実施例1と同様に糖転移反応を行い、ヘスペリジンの糖付加物を得た。糖転移反応開始時の反応液中のヘスペリジン濃度は6.0g/Lであり、25℃における水への溶解度よりも顕著に高い過飽和溶解状態であった。
【0049】
実施例6
モノグルコシルヘスペリジン製剤(林原ヘスペリジンS(商品名)、(株)林原生物化学研究所製、ヘスペリジン含有量17%、モノグルコシルヘスペリジン(mGHES)含有量74%)を1.1g/L溶解した蒸留水にヘスペリジン製剤を10g/Lで分散したスラリーを用いた以外は実施例4と同様に加熱処理し、金属焼結フィルターを通し、加熱処理液を得た。次いで、加熱処理終了時点から30分後にγ-シクロデキストリンに代えて澱粉(和光純薬工業(株)製、溶性)を用いた以外は実施例1と同様に糖転移反応を行い、ヘスペリジンの糖付加物を得た。糖転移反応開始時の反応液中のヘスペリジン濃度は2.8g/Lであり、25℃における水への溶解度よりも顕著に高い過飽和溶解状態であった。
【0050】
比較例3
実施例4で得られた加熱処理液10mLをガラス瓶に入れて静置した。加熱処理終了時点から360分後に実施例1と同様に糖転移反応を行い、ヘスペリジンの糖付加物を得た。糖転移反応開始時の反応液中のヘスペリジン濃度は1.9g/Lであるが懸濁した状態であった。
【0051】
比較例4
ヘスペリジン製剤0.067gを用いた以外は比較例2と同様に糖転移反応を行い、ヘスペリジンの糖付加物を得た。糖転移反応開始時の反応液中のヘスペリジン濃度は6.0g/Lであるが懸濁状態であった。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
表1及び2から明らかなように、本発明方法によれば、難水溶性ポリフェノール類の溶解量を顕著に増大させることができ、高い転化率で難水溶性ポリフェノール類の糖付加物を得ることができた。
他方、比較例2及び4では、糖転移反応開始時のルチンやヘスペリジンの溶解量が低く懸濁状態であるため、転化率は低かった。比較例1及び3では、加熱処理終了直後はルチンやヘスペリジンが溶解していたが、加熱処理から1440分或いは360分経過した後は懸濁状態であり、転化率は低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程(1)及び(2):
(1)水性媒体の存在下、難水溶性ポリフェノール類(A)を100〜180℃で加熱処理し、加熱処理液を得る工程、
(2)得られた加熱処理液に糖供与体(B)及び糖転移酵素を添加し、加熱処理後300分以内に糖転移反応を開始し、難水溶性ポリフェノール類(A)の糖付加物を得る工程、
を含む難水溶性ポリフェノール類の糖付加物の製造方法。
【請求項2】
前記工程(1)の加熱処理を、可溶化剤(C)の存在下で、且つ難水溶性ポリフェノール類(A)と可溶化剤(C)の合計に対する可溶化剤(C)の質量比[(C)/((A)+(C))]が0.1未満である条件で行う、請求項1記載の難水溶性ポリフェノール類の糖付加物の製造方法。
【請求項3】
可溶化剤(C)が難水溶性ポリフェノール類の糖付加物である、請求項2記載の難水溶性ポリフェノール類の糖付加物の製造方法。
【請求項4】
糖転移反応の反応開始時における難水溶性ポリフェノール類(A)に対する糖供与体(B)の質量比(B)/(A)が1〜30である、請求項1〜3のいずれか1項記載の難水溶性ポリフェノール類の糖付加物の製造方法。
【請求項5】
前記工程(1)で用いる水性媒体のpHが3以上7未満である、請求項1〜4のいずれか1項記載の難水溶性ポリフェノール類の糖付加物の製造方法。
【請求項6】
難水溶性ポリフェノール類(A)のlogP値が−1.0〜4.0である請求項1〜5のいずれか1項記載の難水溶性ポリフェノール類の糖付加物の製造方法。
【請求項7】
前記(2)の工程において、糖転移反応の温度が10〜80℃である請求項1〜6のいずれか1項記載の難水溶性ポリフェノール類の糖付加物の製造方法。
【請求項8】
更に、工程(1)で得られた加熱処理液を冷却する工程、及び冷却された加熱処理液から固体部を除去する工程を含む、請求項1〜7のいずれか1項記載の難水溶性ポリフェノール類の糖付加物の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の製造方法により得られる難水溶性ポリフェノール類の糖付加物を含有する飲食品。

【公開番号】特開2013−42712(P2013−42712A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183331(P2011−183331)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】