説明

難治性ウイルス感染症の治療剤

【課題】IL28B遺伝子の遺伝子多型のメジャーとマイナーいずれのバリアントに対してもIFN−λを十分に誘導し、PEG化IFN−αでは難治性であった肝炎ウイルス感染症に対して有効な抗肝炎ウイルス活性を示す、難治性肝炎ウイルス感染症治療剤等を提供する。さらに、難治性の各種ウイルス感染症に対して有効な抗ウイルス活性を示す、難治性ウイルス感染症治療剤等を提供する。
【解決手段】本発明にかかる難治性ウイルス感染症治療剤は、薬物を細胞内に移送するのに有用な薬物担体に、ポリI若しくはポリIアナログ及びポリC若しくはポリCアナログ、又は、ポリA若しくはポリAアナログ及びポリU若しくはポリUアナログを包含する複合体を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難治性ウイルス感染症治療剤及びインターフェロン−λ誘導剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイノシン酸(ポリI)・ポリシチジル酸(ポリC)やポリアデニル酸(ポリA)・ポリウリジル酸(ポリU)に代表される合成RNAは、自然免疫を誘導する作用が知られている。例えば、自然免疫誘導作用の指標の一つとして、I型インターフェロン(以下、「I型IFN」という。)に属するIFN−αやIFN−βの誘導作用が挙げられる。ポリI・ポリCやポリA・ポリUに代表される合成RNAは、マウスやウサギ等の生体内に投与したり、ヒト細胞の単層培養系に添加したりすると、I型IFNを誘導し、かかるI型IFNによりウイルスの増殖を抑制することが知られている。しかしながら、合成RNA等の核酸物質はアニオン性であり、同じくアニオン性物質である細胞膜とは静電的に反発するため、合成RNA単独での細胞内取込み効率は著しく悪い。そこで、合成RNA単独ではなく、合成RNAと、いわゆるカチオン性リポソームとで複合体を形成することで、細胞内取込み効率を改善し、この複合体により肝炎ウイルスによる感染症を治療することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。かかる複合体は、マウス生体に投与されると肝臓に特異的に集積し、そこでI型IFNを誘導して、その結果、血中IFNは、長時間に渡り臨床上の有効性が十分に期待されるレベルとなることから、ウイルス性肝炎の治療効果が期待された。しかしながら、特許文献1には、当該複合体のI型IFN誘導を介した作用のみ開示されているに過ぎず、ウイルス性肝炎の治療効果については開示されていない。
【0003】
当時は、ウイルス性肝炎モデルの利用に限界があり、かかる複合体の抗肝炎ウイルス活性については未確認であった。例えば、C型肝炎ウイルス(以下、「HCV」という。)やB型肝炎ウイルス(以下、「HBV」という。)は、ヒトとチンパンジーの肝細胞にしか感染しない性質を持つため、かかる複合体がどの程度の抗HCV活性や抗HBV活性を有しているのかを、HCV又はHBVに感染した動物モデルで証明することは事実上不可能であった。
しかしその後、HCV又はHBVに感染する特性を有するヒト正常肝細胞を肝臓に持つキメラマウスが開発された。HCV又はHBVに感染させたヒト肝臓キメラマウスに、かかる複合体を投与したところ、かかる複合体が抗肝炎ウイルス活性を有することが実際に確認された(特許文献2参照。)。かかる複合体の抗肝炎ウイルス活性は、現在抗HCV薬として最も多く使われているポリエチレングリコール(PEG)化インターフェロン−α(以下、「PEG化IFN−α」という。)や、現在抗HBV薬として最も治療効果が高いとされているヌクレオシド系逆転写阻害剤エンテカビル(以下、「ETV」という。)よりも強い抗HCV活性又は抗HBV活性を示した。さらに、特許文献2では、かかる複合体が、I型IFNの誘導とは関係のない新たな抗ウイルスメカニズムを誘導することが示されているが、その新たな抗ウイルスメカニズムについては、これまで具体的には明らかにされていなかった。
【0004】
2009年の8月以降、複数の研究グループにより、肝炎ウイルス感染症の治療抵抗性(いわゆる難治性肝炎ウイルス感染症)の指標として注目されているIL28B遺伝子(IL−28B(別名:IFN−λ3)をコードする遺伝子)の遺伝子多型が、HCV慢性感染に対する治療法であるPEG化IFN−αとリバビリンとの併用療法の奏効率と強く関っていることが明らかにされた。IL28B遺伝子近傍のSNPsとしてrs8099917にTアリル又はrs12979860にCアリル等を有するバリアント(以下、「メジャーバリアント」という。)に対しては、PEG化IFN−αとリバビリンとの併用療法の奏効が期待できるが、IL28B遺伝子近傍のSNPsとしてrs8099917にGアリル又はrs12979860にTアリル等を有するバリアント(以下、「マイナーバリアント」という。)に対しては奏効が期待できない。これは、IL28B遺伝子のマイナーバリアントではIFN−λの誘導量がメジャーバリアントよりも低いことに起因していると考えられている。現在のところ、IL28B遺伝子のマイナーバリアントに対するPEG化IFN−αの不応答問題を解決する方法は存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第99/48531号公報
【特許文献2】国際公開第2008/114787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況下において、前記IL28B遺伝子の遺伝子多型のメジャーとマイナーいずれのバリアントに対してもIFN−λを十分に誘導し、PEG化IFN−αでは難治性であった肝炎ウイルス感染症に対して有効な抗肝炎ウイルス活性を示す、難治性肝炎ウイルス感染症の治療剤の開発が望まれていた。さらには、肝炎ウイルス感染症以外の難治性の各種ウイルス感染症に対しても有効な抗ウイルス活性を示す、難治性ウイルス感染症の治療剤の開発も望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記状況を考慮してなされたもので、以下に示す、難治性ウイルス感染症治療剤、IFN−λ誘導剤、IFN−λ誘導方法等を提供するものである。
【0008】
(1)薬物を細胞内に移送するのに有用な薬物担体に、ポリI若しくはポリIアナログ及びポリC若しくはポリCアナログを包含する複合体、又は薬物を細胞内に移送するのに有用な薬物担体に、ポリA若しくはポリAアナログ及びポリU若しくはポリUアナログを包含する複合体を含有することを特徴とする、難治性ウイルス感染症治療剤。
上記(1)の治療剤において、薬物担体としては、例えば、カチオン性リポソーム、アテロコラーゲン及びナノ粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。ここで、カチオン性リポソームとしては、例えば、下記一般式[I]で示される化合物及びリン脂質を必須構成成分として形成されるものが挙げられる。
【0009】
【化1】

〔式[I]中、R、Rは、異なって、OY、又は、−A−(CH)n−Eを表す。nは0〜4の整数を表す。ここで、Eは、ピロリジノ、ピペリジノ、置換若しくは無置換のピペラジノ、モルホリノ、置換若しくは無置換のグアニジノ、又は下記式:
【0010】
【化2】

(式中、R3、R4は、同一又は異なって、水素、炭素数1〜4の低級アルキル、炭素数1〜4のヒドロキシ低級アルキル、又はモノ若しくはジ低級アルキルアミノアルキル(炭素数2〜8)を表す。)で示される基を表し、Aは、下記式:
【0011】
【化3】

で示されるいずれかの基を表す。また、R、Yは、同一又は異なって、炭素数10〜30の飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基、又は炭素数10〜30の飽和若しくは不飽和の脂肪酸残基を表す。〕
【0012】
上記一般式[I]で表される化合物の具体例としては、例えば、2−O−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル-1,3−O−ジオレオイルグリセロール、3−O−(4−ジメチルアミノブタノイル)-1,2−O−ジオレイルグリセロール、3−O−(2−ジメチルアミノエチル)カルバモイル-1,2−O−ジオレイルグリセロール、又は3−O−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル-1,2−O−ジオレイルグリセロールが挙げられる。
【0013】
(2)2−O−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル-1,3−O−ジオレオイルグリセロール及びリン脂質を必須構成成分として形成されるカチオン性リポソームに、ポリI若しくはポリIアナログ及びポリC若しくはポリCアナログを包含する複合体、又は2−O−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル-1,3−O−ジオレオイルグリセロール及びリン脂質を必須構成成分として形成されるカチオン性リポソームに、ポリA若しくはポリAアナログ及びポリU若しくはポリUアナログを包含する複合体を含有することを特徴とする、難治性ウイルス感染症治療剤。
上記(1)及び(2)の治療剤は、例えば、ポリI、ポリIアナログ、ポリC、ポリCアナログ、ポリA、ポリAアナログ、ポリU、ポリUアナログの各鎖長が、各々独立して100〜600塩基数の範囲内であるものが挙げられる。
【0014】
(3)2−O−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル-1,3−O−ジオレオイルグリセロール及びリン脂質を必須構成成分として形成されるカチオン性リポソームに、鎖長が100〜600塩基数の範囲内にあるポリI及び鎖長が100〜600塩基数の範囲内にあるポリCを包含する複合体を含有することを特徴とする、難治性ウイルス感染症治療剤。
上記(1)〜(3)の治療剤において、リン脂質としては、例えばレシチンが挙げられる。
上記(1)〜(3)の治療剤において、ウイルスとしては、例えば肝炎ウイルス、具体的にはC型肝炎ウイルス又はB型肝炎ウイルスが挙げられる。C型肝炎ウイルスの遺伝子型としては、例えば1a型又は1b型が挙げられ、B型肝炎ウイルスの遺伝子型としては、例えばC型が挙げられる。
【0015】
(4)薬物を細胞内に移送するのに有用な薬物担体に、ポリI若しくはポリIアナログ及びポリC若しくはポリCアナログを包含する複合体、又は薬物を細胞内に移送するのに有用な薬物担体に、ポリA若しくはポリAアナログ及びポリU若しくはポリUアナログを包含する複合体を含有することを特徴とする、IFN−λ誘導剤。
(5)2−O−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル-1,3−O−ジオレオイルグリセロール及びリン脂質を必須構成成分として形成されるカチオン性リポソームに、ポリI若しくはポリIアナログ及びポリC若しくはポリCアナログを包含する複合体、又は2−O−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル-1,3−O−ジオレオイルグリセロール及びリン脂質を必須構成成分として形成されるカチオン性リポソームに、ポリA若しくはポリAアナログ及びポリU若しくはポリUアナログを包含する複合体を含有することを特徴とする、IFN−λ誘導剤。
上記(4)及び(5)の誘導剤は、例えば、ポリI、ポリIアナログ、ポリC、ポリCアナログ、ポリA、ポリAアナログ、ポリU、ポリUアナログの各鎖長が、各々独立して100〜600塩基数の範囲内であるものが挙げられる。
【0016】
(6)2−O−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル-1,3−O−ジオレオイルグリセロール及びリン脂質を必須構成成分として形成されるカチオン性リポソームに、鎖長が100〜600塩基数の範囲内にあるポリI及び鎖長が100〜600塩基数の範囲内にあるポリCを包含する複合体を含有することを特徴とする、IFN−λ誘導剤。
(7)肝細胞に対して、上記(4)〜(6)に記載の誘導剤を作用させる工程を含む、IFN−λ誘導方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、IL28B遺伝子の遺伝子多型のメジャーとマイナーいずれのバリアントに対してもIFN−λを十分に誘導し得るIFN−λ誘導剤を提供することができる。当該誘導剤は、PEG化IFN−αでは難治性であった肝炎ウイルス感染症に対して有効な抗肝炎ウイルス活性を示し、難治性肝炎ウイルス感染症の治療剤として用いることができる点で、極めて有用なものである。さらに、当該誘導剤は、肝炎ウイルス感染症以外の各種難治性ウイルス感染症に対しても有効な抗ウイルス活性を示し、各種難治性ウイルス感染症の治療剤としても用いることができる点で、極めて有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1aは、HCV(1b型)感染キメラマウスの血清中HCVゲノムRNA数を表す。図1bは、HCV(1a型)感染キメラマウスの血清中HCVゲノムRNA数を表す。図1cは投与開始後4日目における肝臓中HCVゲノムRNA数を表す。図1dは、HBV(C型)感染キメラマウスの血清中HBVゲノムDNA数を表す。図1eは、肝臓中HBVゲノムDNA数を表す。
【図2】図2aは、HCV感染ヒト肝臓キメラマウスに対する本発明の治療剤の投与と、血清又は肝臓の採取スケジュールを表す。図2bは、血清中IFN−βおよびIFN−α濃度を表す。図2cは、肝臓中のIFNB1遺伝子、IFNA2遺伝子、IFNG遺伝子のmRNA量を表す。
【図3】図3aは、HBV感染ヒト肝臓キメラマウスに対する本発明の治療剤の投与と、血清又は肝臓の採取スケジュールを表す。図3bは、血清中IFN−βおよびIFN−α濃度を表す。図3cは、肝臓中のIFNB1遺伝子、IFNA2遺伝子、IFNG遺伝子のmRNA量を表す。
【0019】
【図4】図4aは、ヒト肝臓キメラマウスの肝臓におけるDNAマイクロアレイの結果を表す。HCVに感染しているだけで何も投与していないキメラマウス対する各実験群の発現量を表示している。図4bは、肝臓中のIL29遺伝子、IL28A遺伝子、IL28B遺伝子のmRNA量を表す。図4cは、肝臓中IFN−λ量のウェスタンブロッティングの結果を表す。
【図5】図5a〜cは、組換えIFN−λで刺激したHCVレプリコン細胞のHCVレプリコン数および細胞数を表す。図5dは、HCV感染キメラマウスの血清中HCVゲノムRNA数を表す。図5eは、本発明の治療剤と抗IFN−λ2中和抗体との同時投与時の血清中HCVゲノムRNA量を表す。図5fは、本発明の治療剤と抗IFN−λ2中和抗体との同時投与時の肝臓中HCVゲノムRNA量を表す。
【図6】図6aは、HCV感染キメラマウスの肝臓中のIL29遺伝子、IL28A遺伝子、IL28B遺伝子のmRNA量を表す。図6bは、HCV感染キメラマウスの血清中HCVゲノムRNA数を表す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0021】

1.本発明の概要
本発明者らは、肝炎ウイルスに感染させたヒト肝臓キメラマウスを用い、カチオン性リポソームやアテロコラーゲン等の薬物を細胞内に移送するのに有用な薬物担体と、二本鎖を形成し得る2種の合成RNA(ポリI・ポリC又はポリA・ポリU等)との複合体による強力な抗ウイルス活性の作用機序を解析した。その結果、かかる複合体は、IFN−αやIFN−βといったI型インターフェロン(IFN)ではなく、III型IFNに属するIL−29(別名IFN−λ1)、IL−28A(別名IFN−λ2)、IL−28B(別名IFN−λ3)をヒト肝細胞特異的に誘導することにより、抗ウイルス活性を発揮することが示された。さらに、かかる複合体は、IL28B遺伝子のメジャーバリアントとマイナーバリアントのいずれに対しても、IFN−λを強く誘導することが示された。以上のことから、かかる複合体が、従来PEG化IFN−αでは難治性であった肝炎ウイルス感染症に対しても有効な抗肝炎ウイルス活性を示し、難治性肝炎ウイルス感染症の治療剤として用い得ることが見出された。さらに、かかる複合体が、肝炎ウイルス感染症以外の難治性の各種ウイルス感染症に対しても有効な抗ウイルス活性を示し、その治療剤として用い得ることが見出された。本発明はこのようにして完成されるに至ったものである。
【0022】
なお、本発明において、「I」はイノシン酸、「C」はシチジル酸、「A」はアデニル酸、「U」はウリジル酸を、それぞれ意味する。また、ポリIアナログ、ポリCアナログ、ポリAアナログ及びポリUアナログは、当業者には周知であるが、各々、効果の増強や安定性の向上などを目的として、核酸を構成する糖、核酸塩基又はリン酸バックボーンの全部又は一部が改変されたものを意味する。
【0023】

2.難治性ウイルス感染症治療剤
本発明に係る難治性ウイルス感染症治療剤(「難治性ウイルス感染症治療用医薬組成物」ともいう。以下、総称して「本発明の治療剤」という。)は、前述のとおり、薬物を細胞内に移送するのに有用な薬物担体(以下、単に「薬物担体」という。)に、ポリI若しくはポリIアナログ及びポリC若しくはポリCアナログ、又は、ポリA若しくはポリAアナログ及びポリU若しくはポリUアナログを包含する複合体(以下、「本複合体」ということがある。)を含有することを特徴とするものである。
本発明の治療剤において、治療対象となる難治性ウイルス感染症としては、当該ウイルス感染により直接発症する炎症、症状及び疾患に限らず、その後これら炎症に起因して発症する各種症状及び疾患等も含まれる。難治性ウイルス感染症としては、限定はされないが、例えば、肝炎ウイルス感染症等が好ましく挙げられ、具体的には、肝炎に包含される各種炎症、症状、疾患や、さらには肝硬変及び各種肝癌が挙げられる。ここで、肝炎ウイルスとしては、C型肝炎ウイルス(HCV)及びB型肝炎ウイルス(HBV)等が挙げられ、詳しくは、HCVの遺伝子型としては1a型及び1b型が、HBVの遺伝子型としてはC型が、代表的なものとして挙げられる。
【0024】
本発明に用いられる「薬物担体」としては、医薬上許容され、合成RNAを包含することができ、包含された合成RNAを細胞内に移送することができるものであれば、特に限定されない。かかる薬物担体として、例えば、カチオン性リポソーム、アテロコラーゲン、ナノ粒子を挙げることができる。
具体的には、当該カチオン性リポソームとして、例えば、オリゴフェクトアミン(登録商標)、リポフェクチン(登録商標)、リポフェクトアミン(登録商標)、リポフェクトアミン2000(登録商標)、リポフェクトエース(登録商標)、DMRIE−C(登録商標)、GeneSilencer(登録商標)、TransMessenger(登録商標)、TransIT TKO(登録商標)や、国際公開第94/19314号公報に開示されている薬物担体、即ち、以下の一般式[I]で表される化合物[例えば、2−O−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル-1,3−O−ジオレオイルグリセロール(以下、「化合物X」という。)、3−O−(4−ジメチルアミノブタノイル)-1,2−O−ジオレイルグリセロール、3−O−(2−ジメチルアミノエチル)カルバモイル-1,2−O−ジオレイルグリセロール及び3−O−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル-1,2−O−ジオレイルグリセロール等]とリン脂質とを必須構成成分として形成される薬物担体(以下、「本グリセロール担体」という。)を挙げることができる。
【0025】
【化4】

〔式[I]中、R、Rは、異なって、OY、又は、−A−(CH)n−Eを表す。nは0〜4の整数を表す。ここで、Eは、ピロリジノ、ピペリジノ、置換若しくは無置換のピペラジノ、モルホリノ、置換若しくは無置換のグアニジノ、又は下記式:
【0026】
【化5】

(式中、R3、R4は、同一又は異なって、水素、炭素数1〜4の低級アルキル、炭素数1〜4のヒドロキシ低級アルキル、又はモノ若しくはジ低級アルキルアミノアルキル(炭素数2〜8)を表す。)で示される基を表し、Aは、下記式:
【0027】
【化6】

で示されるいずれかの基((i))〜(vii)で示されるいずれかの基)を表す。また、R、Yは、同一又は異なって、炭素数10〜30の飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基、又は炭素数10〜30の飽和若しくは不飽和の脂肪酸残基を表す。〕
【0028】
本発明において好ましいカチオン性リポソームとしては、化合物Xとリン脂質とを必須構成成分として形成される薬物担体(以下、「本グリセロール担体X」という。)を挙げることができる。
ポリIアナログ、ポリCアナログ、ポリAアナログ、ポリUアナログは、もとの核酸(例えばポリIアナログならポリI)の機能を著しく損なわないものであれば特に限定されないが、具体例としては、ポリ(7−デアザイノシン酸)、ポリ(2’−アジドイノシン酸)、ポリ(シチジン−5’−チオリン酸)、ポリ(1−ビニルシチジル酸)、ポリ(シチジル酸、ウリジル酸)コポリマー、ポリ(シチジル酸、4−チオウリジル酸)コポリマー、ポリ(アデニル酸、ウリジル酸)コポリマーを挙げることができる。
【0029】
ポリI、ポリIアナログ、ポリC、ポリCアナログ、ポリA、ポリAアナログ、ポリU、及びポリUアナログの各鎖長は、特に限定されないが、各々独立して、50〜2,000塩基数の範囲内にあるものが適当であり、100〜600塩基数の範囲内にあるものが好ましく、200〜500塩基数の範囲内にあるものがより好ましい。50塩基数未満でも、また2,000塩基数より長くても本発明の効果を奏し得るが、場合により、50塩基数未満では有効性に問題が生じるおそれがあり、2,000塩基数より長いと毒性が生じるおそれがある。
なお、ポリIやポリC等の合成RNAは、通常様々な鎖長からなる一定の分布をもって存在するので、前記各鎖長は最大分布の塩基数を意味する。
【0030】
本グリセロール担体中のリン脂質としては、医薬上許容されるリン脂質であれば特に限定されないが、具体例としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、レシチン等を挙げることができる。また、水素添加されたリン脂質も挙げることができる。好ましいリン脂質としては、卵黄ホスファチジルコリン、卵黄レシチン、大豆レシチン、卵黄ホスファチドを挙げることができる。これらの1種又は2種以上のリン脂質を用いることができる。なお、本グリセロール担体Xについても上記と同様のリン脂質を挙げることができる。本グリセロール担体Xにおける好ましいリン脂質についても同様に、卵黄ホスファチジルコリン、卵黄レシチン、大豆レシチン、卵黄ホスファチドを挙げることができる。同様にこれらの1種又は2種以上のリン脂質を用いることができる。
【0031】
本発明の治療剤の好ましい態様としては、リン脂質がレシチンである本グリセロール担体Xに、各合成RNAの鎖長が100〜600塩基数(好ましくは200〜500塩基数)の範囲内にある、ポリI若しくはポリIアナログ及びポリC若しくはポリCアナログを包含する複合体、又はリン脂質がレシチンである本グリセロール担体Xに、各合成RNAの鎖長が100〜600塩基数(好ましくは200〜500塩基数)の範囲内にある、ポリA若しくはポリAアナログ及びポリU若しくはポリUアナログを包含する複合体を含有するものを挙げることができる。特に好ましい態様としては、リン脂質がレシチンである本グリセロール担体Xに、各合成RNAの鎖長が200〜500塩基数の範囲内にある、ポリI及びポリCを包含する複合体を含有するものを挙げることができる。
【0032】
本複合体中における薬物担体とポリI及びポリC等の合成RNAとの構成比率は、用いる薬物担体や合成RNAの種類や鎖長、ウイルスの種類や増殖程度等によって異なるが、薬物担体10重量部に対して、合成RNA 0.05〜10重量部が適当であり、0.1〜4重量部が好ましく、0.3〜2重量部がより好ましい。
本グリセロール担体X中における化合物Xとリン脂質との構成比率は、合成RNAの種類や鎖長、使用量、またリン脂質の種類等によって異なるが、化合物X 1重量部に対して、リン脂質0.1〜10重量部が適当であり、0.5〜5重量部が好ましく、1〜2重量部がより好ましい。
【0033】

3.INF−λ誘導剤
本発明に係るINF−λ誘導剤(以下、「本発明の誘導剤」という。)は、前述のとおり、薬物を細胞内に移送するのに有用な薬物担体(以下、単に「薬物担体」という。)に、ポリI若しくはポリIアナログとポリC若しくはポリCアナログとを包含する複合体、又は、ポリA若しくはポリAアナログとポリU若しくはポリUアナログとを包含する複合体を含有することを特徴とするものである。
ここで、本発明の誘導剤の各構成成分等については、上記2.項に記載の本発明の治療剤に関する説明が全て適用できる。
【0034】

4.本発明の治療剤及び誘導剤の使用形態
本発明の治療剤及び誘導剤は、例えば、液剤(注射剤、点滴剤等)やその凍結乾燥製剤の形態をとることができる。
本発明の治療剤及び誘導剤は、医薬上許容される任意の添加剤、例えば、乳化補助剤、安定化剤、等張化剤、pH調整剤を適当量含有していてもよい。具体的には、炭素数6〜22の脂肪酸(例、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸)やその医薬上許容される塩(例、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩)、アルブミン、デキストラン等の乳化補助剤、コレステロール、ホスファチジン酸等の安定化剤、塩化ナトリウム、グルコース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース等の等張化剤、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエタノールアミン等のpH調整剤などを挙げることができる。
【0035】
本発明の治療剤及び誘導剤は、薬物担体ないしその原料化合物と合成RNAとを、常法により混合、攪拌、分散等を行うことにより製造することができる。薬物担体がカチオン性リポソームである本発明の治療剤及び誘導剤の場合には、例えば、リポソームの一般的な製法と同様な方法により製造することができる。具体的には、カチオン性リポソーム又はその原料化合物(例えば、化合物Xとリン脂質)と、例えば二本鎖ポリI・ポリCないしは一本鎖ポリIと一本鎖ポリCとを、水溶液中で適当な分散機により分散処理することにより製造することができる。水溶液としては、注射用水、注射用蒸留水、生理食塩水等の電解質液、ブドウ糖液等を挙げることができる。適当な分散機としては、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散器、超音波ホモジナイザー、高圧乳化分散機、マイクロフルイダイザー(商品名)、ナノマイザー(商品名)、アルティマイザー(商品名)、デビー(商品名)、マントン−ガウリン型高圧ホモジナイザーを挙げることができる。また、当該分散処理は、粗分散を経るなど数段階に分けて行うこともできる。
薬物担体は、市販のものをその指示に従って用いることができ、また適当に加工して用いることもできる。
【0036】
カチオン性リポソームの原料化合物から本発明の治療剤及び誘導剤を製造する場合には、当該原料化合物に、例えば二本鎖ポリI・ポリCないしは一本鎖ポリIと一本鎖ポリCとを加え、一緒に分散処理して製造することができるほか、当該原料化合物をまず分散処理してカチオン性リポソームを形成し、続いて例えば二本鎖ポリI・ポリCないしは一本鎖ポリIと一本鎖ポリCとを加え再度分散処理して製造することもできる。
医薬上(薬理学上)許容される任意の添加剤は、分散前でも分散後でも適当な工程で添加することができる。
本発明の治療剤及び誘導剤の凍結乾燥製剤は、常法により製造することができる。例えば、液状である本発明の治療剤及び誘導剤を滅菌し、所定量をバイアル瓶に分注する。次いで、約−40℃〜−20℃の条件で予備凍結を約2時間程度行い、約0℃〜10℃で減圧下に一次乾燥を行い、さらに約15℃〜25℃で減圧下に二次乾燥して凍結乾燥する。その後、一般的にはバイアル内部を窒素ガスで置換し、打栓して本発明の治療剤及び誘導剤の凍結乾燥製剤を得ることができる。
【0037】
本発明の治療剤及び誘導剤の凍結乾燥製剤は、一般には任意の適当な溶液(再溶解液)の添加によって再溶解し使用することができる。このような再溶解液としては、注射用水、生理食塩水等の電解質液、ブドウ糖液、その他一般輸液を挙げることができる。この再溶解液の液量は、用途等によって異なり特に制限されないが、凍結乾燥前の液量の0.5〜2倍量、又は500mL以下が適当である。
本発明の治療剤は、限定はされず、難治性のウイルス感染症を引き起こし得る各種ウイルス、例えば、A型、B型及びC型等の肝炎ウイルスや、インフルエンザウイルス、RSウイルスなどへの使用が考えられる。本発明の治療剤による抗ウイルス効果は、投与期間中を通して持続した。後述する実施例から明らかな通り、本発明の治療剤は、I型IFNを初回投与後に単回だけ誘導するのに対して、IFN−λは投与期間中、投与毎に何度も繰返し誘導した。さらに、本発明の治療剤は、IL28B遺伝子のメジャーバリアントとマイナーバリアントのいずれに対しても、IFN−λを強く誘導した。これらのことから、本発明の治療剤によれば、IL28B遺伝子のマイナーバリアントにおけるPEG化IFN−α不応答問題も解決されることが期待される。
【0038】
本発明の治療剤及び誘導剤は、ヒトを含む動物に対して有効であり、特に肝細胞に対して作用させる場合に有効である。
本発明の治療剤及び誘導剤の投与方法としては、例えば、静脈内投与、皮下投与、肝動脈内投与、局所投与(例、経粘膜投与、経鼻投与、吸入投与)を挙げることができる。
本発明の治療剤及び誘導剤の投与量は、用いる薬物担体、合成RNAの種類や組成及び鎖長、ウイルスの種類や進行状況、患者の年齢、動物種差、投与経路、投与方法等によって異なるが、ポリI及びポリC等の合成RNAの投与量として、1回当たり通常1μg〜50mg/ヒトが適当であり、10μg〜10mg/ヒトが好ましい。本発明の治療剤及び誘導剤は、1日1〜3回を、連日、隔日、1週毎又は2週毎等に、1ショット投与や点滴投与等することができる。
【0039】
本発明においては、前述した本発明の治療剤を難治性ウイルス感染症の患者に投与することを含む難治性ウイルス感染症の治療方法や、難治性ウイルス感染症を治療するための本発明の治療剤の使用や、難治性ウイルス感染症を治療するための薬剤を製造するための本複合体の使用についても提供することができる。本発明の治療剤は、難治性ウイルス感染症の予防剤(予防用医薬組成物)としても用いることができる。
また本発明においては、肝細胞に本発明の誘導剤を作用させることを含む、INF−λ誘導方法や、肝細胞からINF−λ誘導するための本発明の誘導剤の使用や、INF−λ誘導剤を製造するための複合体の使用についても提供することができる。
【0040】

以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0041】
難治性肝炎ウイルス感染症治療剤(INF−λ誘導剤)の製造
前記化合物X(2−O−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル-1,3−O−ジオレオイルグリセロール)124g、精製卵黄レシチン200g、及びマルトース2kgを容器にとり、これに注射用水10.2Lを加え攪拌混合し、ホモジナイザーで粗乳化した後、高圧乳化分散機(マイクロフルイダイザー(登録商標))で微細乳化した。これに約300塩基数のポリIと約300塩基数のポリCとを溶解した注射用水(全量8L)を徐々に添加し、再度前記高圧乳化分散機で分散し、この分散液を0.2μmのメンブランフィルターでろ過滅菌して、本発明の治療剤を得た。次いで、かかる治療剤をバイアル瓶に5mLずつ充填した後、常法に従って凍結乾燥した。
【0042】
抗肝炎ウイルス効果の確認
(1)方法
ジェノタイプ1b型HCV、ジェノタイプ1a型HCV、またはジェノタイプC型HBVを感染させたヒト肝キメラマウス(フェニックスバイオ社製、以下同じ。)を用いた。試験液(投与液)としては、上述の凍結乾燥した本発明の治療剤に4.6mLの注射用水を加え再構築し、これに5%ブドウ糖液を加えて適宜希釈したものを用いた。試験液は上記キメラマウスの尾静脈または眼窩静脈叢から投与した。対照薬としてPEG化IFN−α(ペガシス(登録商標)、中外製薬社製、以下同じ。)を皮下投与した。また別の対照薬としてエンテカビル(ETV)(バラクルード(登録商標)、ブリストルマイヤーズ社製、以下同じ。)を経口投与した。適時、血清または肝臓を採取し、その中に含まれるHCVゲノムRNA量またはHBVゲノムDNA量を、それぞれ定量RT−PCRまたは定量PCRで測定した。
【0043】
(2)結果
上記測定の結果を図1に示す。
本発明の治療剤(0.1mg/kg×1回/日または0.1mg/kg×3回/日)は、血清中のジェノタイプ1b型HCVゲノムRNA量を用量依存的に減少させた(図1a)。その効果は臨床用量20倍のPEG化IFN−α(30μg/kg×2回/週)よりも強かった。本発明の治療剤(0.01〜0.1mg/kg×1回/日)は、血清中のジェノタイプ1a型HCVゲノムRNA量を用量依存的に減少させた(図1b)。その効果は臨床用量20倍のPEG化IFN−α(30μg/kg×2回/週)よりも強かった。また、本発明の治療剤(0.1mg/kg×1回/日)は、肝臓中のHCVゲノムRNA量を減少させた(図1c)。
本発明の治療剤(0.1mg/kg×1回/日)は、血清中のジェノタイプC型HBVゲノムDNA量を減少させた(図1d)。その効果は臨床用量20倍のPEG化IFN−α(30μg/kg×2回/週)または臨床用量のETV(0.017mg/kg×1回/日)よりも強かった。また、本発明の治療剤(0.1mg/kg×1回/日)は、肝臓中のHBVゲノムDNA量を減少させた(図1e)

【実施例2】
【0044】
インターフェロン(INF)の誘導効果の確認
1.I型IFNおよびII型IFNの誘導
(1)方法
ジェノタイプ1b型HCV、ジェノタイプ1a型HCV、またはジェノタイプC型HBVを感染させたヒト肝キメラマウスを用いた。試験液(投与液)としては、実施例1で製造した凍結乾燥した本発明の治療剤に4.6mLの注射用水を加え再構築し、これに5%ブドウ糖液を加えて適宜希釈したものを用いた。試験液は上記キメラマウスの尾静脈または眼窩静脈叢から投与した。図2aまたは図3aに示す投与スケジュールに従って、血清または肝臓を採取した。血清中のIFN−βまたはIFN−αはELISAで定量した。肝臓中のIFNB1、IFNA2及びIFNG遺伝子発現量は定量RT−PCRで測定した。
【0045】
(2)結果
上記測定の結果を図2及び図3に示す。
本発明の治療剤(0.1mg/kg×1回/日)は、初回の投与後では血清中のヒトIFN−βの濃度を上昇させたが、その量はわずかであった。また、初回投与時に見られた血清中ヒトIFN−β濃度の上昇は、5回目の投与後以降では消失した(図2b、図3b)。血清中ヒトIFN−αは、全投与期間を通じて検出されなかった(図2b、図3b)。なお、本発明の治療剤の投与時の血清中I型IFNとは対照的に、PEG化IFN−α(30μg/kg×2回/週)を投与したヒト肝キメラマウスの血清中IFN−αは非常に高い濃度が維持されていた(図2b)。
本発明の治療剤(0.1mg/kg×1回/日)は、初回の投与後では肝臓中のIFNB1遺伝子の発現を誘導したが、その量はわずかであった。また、初回投与時に見られた肝臓中のIFNB1遺伝子の発現誘導は、5回目の投与後以降では消失した(図2c、図3c)。肝臓中のIFNA2、IFNG遺伝子の発現誘導は、全投与期間を通じて検出されなかった(図2c、図3c)。
【0046】
2.III型IFN(IFN−λ)誘導
(1)方法
ジェノタイプ1b型HCVを感染させたヒト肝キメラマウスを用いた。試験液(投与液)としては、実施例1で製造した凍結乾燥した本発明の治療剤に4.6mLの注射用水を加え再構築し、これに5%ブドウ糖液を加えて適宜希釈したものを用いた。試験液は上記キメラマウスの尾静脈または眼窩静脈叢から投与した。適時、肝臓を採取し、IFN発現量をDNAマイクロアレイにより解析した。また、IFN−λ遺伝子発現量は定量RT−PCRで測定した。肝臓中のIFN−λ量はウェスタンブロッティングで測定した。
【0047】
(2)結果
上記測定の結果を図4に示す。
本発明の治療剤(0.1mg/kg×1回/日)によって誘導される抗ウイルス活性と発現挙動が相関する遺伝子をDNAマイクロアレイにより探索したところ、IL29遺伝子(IL−29(別名:IFN−λ1)をコード)、IL28A遺伝子(IL−28A(別名:IFN−λ2)をコード)、IL28B遺伝子(IL−28B(別名:IFN−λ3)をコード)が同定された(図4a)。これら3つのIFN−λ遺伝子は、I型IFN遺伝子と異なり、5回目の投与後においても繰返し誘導された(図4b)。また、本発明の治療剤の投与期間を通して、IFN−λが肝臓中存在していることが示された(図4c)。

【実施例3】
【0048】
IFN−λを介する抗ウイルス効果の確認
(1)方法
培養HCVレプリコン細胞に組換えIFN−λを添加し、HCVレプリコン数と細胞数を測定した。ジェノタイプ1b型HCVを感染させたヒト肝キメラマウスに、組換えIFN−λを投与(1mg/kg×1回/日)し、適時、血清を採取して、その中に含まれるHCVゲノムRNA量を定量RT−PCRで測定した。また、ジェノタイプ1b型HCVを感染させたヒト肝キメラマウスに、実施例1で製造した本発明の治療剤(0.1mg/kg×1回/日)を抗IFN−λ2中和抗体またはコントロール抗体(1mg/kg×1回/日)と共に投与し、3日目の血清と肝臓中のHCVゲノムRNA量を定量RT−PCRで測定した。
【0049】
(2)結果
上記測定の結果を図5に示す。
組換えIFN−λは、濃度依存的にHCVレプリコンの複製を抑制した(図5a〜c)。また、組換えIFN−λは、血清中のHCVゲノムRNA量を減少させた(図5d)。さらに、抗IFN−λ2中和抗体は、本発明の治療剤による血清中および肝臓中でのHCVゲノムRNA量の減少を減弱させた(図5e〜f)。

【実施例4】
【0050】
IL28B遺伝子の各バリアントに対するIFN−λ誘導効果と抗ウイルス効果の確認
(1)方法
IL28B遺伝子のメジャーバリアントまたはマイナーバリアントのドナーのヒト肝細胞を移植したヒト肝キメラマウスを、ジェノタイプ1b型HCVを感染させた。試験液(投与液)としては、実施例1で製造した凍結乾燥した本発明の治療剤に4.6mLの注射用水を加え再構築し、これに5%ブドウ糖液を加えて適宜希釈したものを用いた。試験液は上記キメラマウスの尾静脈または眼窩静脈叢から投与した。適時、肝臓または血清を採取し、肝臓中のIFN−λ遺伝子発現量または血清中のHCVゲノムRNA量を定量RT−PCRで測定した。
【0051】
(2)結果
上記測定の結果を図6に示す。
本発明の治療剤(0.1mg/kg×1回/日)は、IL28B遺伝子のメジャーバリアントとマイナーバリアントのいずれのドナー肝細胞を移植して作製したヒト肝臓キメラマウスに対しても、IL29遺伝子、IL28A遺伝子、IL28B遺伝子の3つのIFN−λ遺伝子を、投与期間中を通じて繰返し誘導した(図6a)。また、本発明の治療剤(0.1mg/kg×1回/日)は、IL28B遺伝子のメジャーバリアントとマイナーバリアントのいずれのドナー肝細胞を移植して作製したヒト肝臓キメラマウスに対しても、血清中HCVゲノムRNA量を減少させた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物を細胞内に移送するのに有用な薬物担体に、ポリI若しくはポリIアナログ及びポリC若しくはポリCアナログを包含する複合体、又は薬物を細胞内に移送するのに有用な薬物担体に、ポリA若しくはポリAアナログ及びポリU若しくはポリUアナログを包含する複合体を含有することを特徴とする、難治性ウイルス感染症治療剤。
【請求項2】
薬物担体が、カチオン性リポソーム、アテロコラーゲン及びナノ粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1記載の治療剤。
【請求項3】
カチオン性リポソームが、下記一般式[I]で示される化合物及びリン脂質を必須構成成分として形成されるものである、請求項2記載の治療剤。
【化7】

〔式[I]中、R、Rは、異なって、OY、又は、−A−(CH)n−Eを表す。nは0〜4の整数を表す。ここで、Eは、ピロリジノ、ピペリジノ、置換若しくは無置換のピペラジノ、モルホリノ、置換若しくは無置換のグアニジノ、又は下記式:
【化8】

(式中、R3、R4は、同一又は異なって、水素、炭素数1〜4の低級アルキル、炭素数1〜4のヒドロキシ低級アルキル、又はモノ若しくはジ低級アルキルアミノアルキル(炭素数2〜8)を表す。)で示される基を表し、Aは、下記式:
【化9】

で示されるいずれかの基を表す。また、R、Yは、同一又は異なって、炭素数10〜30の飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基、又は炭素数10〜30の飽和若しくは不飽和の脂肪酸残基を表す。〕
【請求項4】
一般式[I]で表される化合物が、2−O−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル-1,3−O−ジオレオイルグリセロール、3−O−(4−ジメチルアミノブタノイル)-1,2−O−ジオレイルグリセロール、3−O−(2−ジメチルアミノエチル)カルバモイル-1,2−O−ジオレイルグリセロール、又は3−O−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル-1,2−O−ジオレイルグリセロールである、請求項3記載の治療剤。
【請求項5】
2−O−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル-1,3−O−ジオレオイルグリセロール及びリン脂質を必須構成成分として形成されるカチオン性リポソームに、ポリI若しくはポリIアナログ及びポリC若しくはポリCアナログを包含する複合体、又は2−O−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル-1,3−O−ジオレオイルグリセロール及びリン脂質を必須構成成分として形成されるカチオン性リポソームに、ポリA若しくはポリAアナログ及びポリU若しくはポリUアナログを包含する複合体を含有することを特徴とする、難治性ウイルス感染症治療剤。
【請求項6】
ポリI、ポリIアナログ、ポリC、ポリCアナログ、ポリA、ポリAアナログ、ポリU、ポリUアナログの各鎖長が、各々独立して100〜600塩基数の範囲内である、請求項1又は5記載の治療剤。
【請求項7】
2−O−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル-1,3−O−ジオレオイルグリセロール及びリン脂質を必須構成成分として形成されるカチオン性リポソームに、鎖長が100〜600塩基数の範囲内にあるポリI及び鎖長が100〜600塩基数の範囲内にあるポリCを包含する複合体を含有することを特徴とする、難治性ウイルス感染症治療剤。
【請求項8】
リン脂質がレシチンである、請求項3、5又は7記載の治療剤。
【請求項9】
ウイルスが肝炎ウイルスである、請求項1〜8のいずれかに記載の治療剤。
【請求項10】
肝炎ウイルスが、C型肝炎ウイルス又はB型肝炎ウイルスである、請求項9記載の治療剤。
【請求項11】
C型肝炎ウイルスの遺伝子型が、1a型又は1b型である、請求項10記載の治療剤。
【請求項12】
B型肝炎ウイルスの遺伝子型が、C型である、請求項10記載の治療剤。
【請求項13】
薬物を細胞内に移送するのに有用な薬物担体に、ポリI若しくはポリIアナログ及びポリC若しくはポリCアナログを包含する複合体、又は薬物を細胞内に移送するのに有用な薬物担体に、ポリA若しくはポリAアナログ及びポリU若しくはポリUアナログを包含する複合体を含有することを特徴とする、IFN−λ誘導剤。
【請求項14】
2−O−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル-1,3−O−ジオレオイルグリセロール及びリン脂質を必須構成成分として形成されるカチオン性リポソームに、ポリI若しくはポリIアナログ及びポリC若しくはポリCアナログを包含する複合体、又は2−O−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル-1,3−O−ジオレオイルグリセロール及びリン脂質を必須構成成分として形成されるカチオン性リポソームに、ポリA若しくはポリAアナログ及びポリU若しくはポリUアナログを包含する複合体を含有することを特徴とする、IFN−λ誘導剤。
【請求項15】
ポリI、ポリIアナログ、ポリC、ポリCアナログ、ポリA、ポリAアナログ、ポリU、ポリUアナログの各鎖長が、各々独立して100〜600塩基数の範囲内である、請求項13又は14記載の誘導剤。
【請求項16】
2−O−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル-1,3−O−ジオレオイルグリセロール及びリン脂質を必須構成成分として形成されるカチオン性リポソームに、鎖長が100〜600塩基数の範囲内にあるポリI及び鎖長が100〜600塩基数の範囲内にあるポリCを包含する複合体を含有することを特徴とする、IFN−λ誘導剤。
【請求項17】
肝細胞に対して、請求項13〜16のいずれか1種の誘導剤を作用させる工程を含む、IFN−λ誘導方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−56896(P2012−56896A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202355(P2010−202355)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(591063394)財団法人 東京都医学総合研究所 (69)
【Fターム(参考)】