説明

難燃加工剤および、当該難燃加工剤を用いたポリエステル系繊維の難燃加工方法

【課題】ポリエステル系繊維に対して優れた難燃性を付与し、分散染料への染色性に影響が少なく、ブリードや耐加水分解性に優れた難燃加工剤とその加工方法を提供する。
【解決手段】この難燃加工剤は、トリフェニルホスフィンオキシド(TPPO)と、特定の化学構造を有するアニオン系界面活性剤の少なくとも一種を含み、アニオン系界面活性剤の含有量は、TPPOに対し5〜40重量%であるか、あるいは、特定の化学構造を有する非イオン系界面活性剤の少なくとも一種をTPPOに対し5〜20重量%併含する場合には、アニオン系界面活性剤の含有量はTPPOに対し5〜30重量%である。本発明の難燃加工方法では、上記の難燃加工剤が使用され、分散染料又は/及びカチオン染料を併用して100℃〜150℃に処理液を加熱することで、染料と共にTPPOをポリエステル系繊維に吸着させ、難燃加工ポリエステル系繊維を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル系繊維に対し、分散染料又は/及びカチオン染料と同浴で処理した場合に優れた難燃性を付与し、染色性への影響が少なく、かつブリードや耐加水分解性に優れた難燃加工剤に関する。又、本発明は、このような難燃加工剤を用いたポリエステル系繊維の難燃加工方法に関するものでもある。
【背景技術】
【0002】
樹脂の難燃化にはリン系の化合物が多く使われている。これらリン系の化合物は主に樹脂に対して練り込みによって添加されているが、練り込みの場合、選択されるリン系化合物の種類及び添加量は比較的自由に変えることが出来る。
しかし、リン系化合物をポリエステル系繊維に吸尽処理によって吸着させる場合、リン系化合物を界面活性剤水溶液に乳化又は分散させた組成物を用いるのが一般的である。この場合、難燃加工処理浴に染料を添加して染色と同浴・同時に難燃加工を行なう方法が最も合理的である。しかし、リン系化合物の乳化又は分散体の安定性、リン系化合物のポリエステル系繊維への吸尽性と染色性への影響は、リン系化合物そのものと、併用される界面活性剤の構造によって大きく異なる為、適切なリン系化合物と界面活性剤を選択する必要がある。
【0003】
練り込み用に限らず難燃剤として用いられるリン系化合物の多くがリン酸エステルである。吸尽処理によるリン酸エステル系難燃剤を用いたポリエステル系繊維の難燃加工についても下記の特許文献1〜4のようなものが提案されているが、リン酸エステル系難燃剤の一般的な問題点として、(1)ブリード、(2)フォギング、(3)加水分解性、(4)染色性への影響等がある。
【特許文献1】特開昭53−73248号公報
【特許文献2】特開平8−41781号公報
【特許文献3】特開平2001−254268号公報
【特許文献4】特開平2002−88368号公報
【0004】
リン酸エステル系難燃剤で難燃加工されたポリエステル系繊維は、繊維が長期間高温に曝されると、リン酸エステルが繊維表面に移行するブリードを、更にリン酸エステルが繊維表面から揮発して付近のガラス表面等に付着した結果、ガラスの透明度を低下させるフォギングを起こす可能性がある。また、耐加水分解性が弱いものについては、処理されたポリエステル系繊維が高温高湿の特殊条件下に保管されると、経時的に繊維の強度低下を起こす懸念がある。更にブリード、フォギング、耐加水分解性を改善したタイプのリン酸エステル系難燃剤も存在するが、これらの乳化・分散物を難燃加工剤としてポリエステル繊維に吸尽処理を行なっても、吸尽性が低く、いくら処理濃度を高くしても充分な難燃性は得られないという問題があった。
また、リン酸エステル系難燃剤は分散染料との親和性が強く、リン酸エステル系難燃剤と分散染料を同浴でポリエステル系繊維に処理した場合、分散染料の染色性に多大な影響を与える可能性があった。更にリン酸エステル系難燃剤の分散体又は乳化体中に含まれる界面活性剤も分散染料の染色性、処理浴の起泡性等に悪影響を与える可能性があった。
【0005】
一方、加水分解性のないリン系化合物として、ホスフィン、ホスフィンオキシド、リン酸アミド、ホスファゼン等が存在する。ホスフィンオキシド系の難燃剤として、トリフェニルホスフィンオキシドがあり、主に樹脂練り込み型難燃剤として利用されている。
【0006】
本特許は本来の難燃性能、並びに弊害要因であるブリード、フォギング、加水分解性、染色性への影響等を考慮した結果、難燃剤の有効成分をトリフェニルホスフィンオキシドに限定したものである。更にポリエステル系繊維の難燃処理方法の中で最も合理的とされる染色・難燃同浴加工方法における染色性(ビルドアップ性、染料分散性、処理浴の起泡性)の点で、最適の界面活性剤を応用したトリフェニルホスフィンオキシドの分散体組成物を開発した技術である。
【0007】
ホスフィンオキシド系の化合物を繊維加工用難燃剤として、ポリエステル系繊維の吸尽処理に応用した特許出願については、例えば下記特許文献5,6がある。
【特許文献5】特開平2002−20976号公報
【特許文献6】特開平2004−232149号公報
【0008】
上記特許文献5では、請求するホスフィンオキシド系化合物はジオール又はジカルボン酸の誘導体に限定されており、トリフェニルホスフィンオキシドは該当しない。又、上記特許文献6は、使用されるリン系化合物については、ホスフィンオキシド系化合物と共に縮合タイプを含むリン酸エステル、ホスホン酸エステル、ホスフィン酸エステル等と幅広く網羅しており、トリフェニルホスフィンオキシドを特に指定したものではない。更に、リン系化合物を特定の処理条件下、ポリエステル系繊維に対して吸尽処理を行なうポリエステル系繊維の難燃加工方法に関するものである。すなわち、難燃加工処理浴に請求した範囲の溶解エンタルピーを持つ無機塩を添加することで、処理浴のζ電位の範囲を指定した結果、リン系化合物のポリエステル系繊維への吸尽性を向上させるものである。
【0009】
通常、リン酸エステル系難燃剤やトリフェニルホスフィンオキシドを乳化又は分散体とする場合、界面活性剤を必要とする。これらの界面活性剤はアニオン系又は/及び非イオン系の界面活性剤が使用される。しかし、ほとんどの界面活性剤はリン酸エステル系難燃剤やトリフェニルホスフィンオキシドの乳化・分散体を分散又は/及びカチオン染料の存在下、ポリエステル系繊維に吸着させる場合、難燃加工処理浴の起泡性、分散染料の分散性、染料のビルドアップ性、難燃剤の吸尽性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0010】
特に、アニオン系界面活性剤、例えばドデシルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、スルホコハク酸ジアルキルエステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等は起泡性が極めて高く、これらの界面活性剤を用いた難燃加工薬剤の処理浴を液流染色機でポリエステル系繊維を処理した場合、泡のために布の走行が困難になることがある。
【0011】
又、非イオン系界面活性剤、例えばポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエステル等は、分散染料の分散性やビルドアップ性に悪影響を及ぼす恐れがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、ポリエステル系繊維に対して優れた難燃性を付与し、ブリードや耐加水分解性に優れ、分散染料の染色性に対して影響の少ないリン系難燃加工剤とその加工方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記の問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、トリフェニルホスフィンオキシド(以下TPPOと略す)を難燃加工剤の有効成分として用い、更に特定の界面活性剤の存在下、分散体とするものである。更にTPPO分散体を分散染料又は/及びカチオン染料と同浴でポリエステル系繊維を処理した場合、従来のリン酸エステル系難燃剤と較べ、ポリエステル系繊維に対して優れた難燃性を付与し、ブリードや耐加水分解性に優れ、分散染料の染色性に対して影響の少ない難燃加工が可能であることを見出した。
【0014】
本発明の難燃加工剤は、ポリエステル系繊維に対する難燃加工を行なう際に使用される薬剤であって、下記化学式(1)で表されるTPPOが、下記化学式(2)〜(4)で表されるアニオン系界面活性剤の少なくともいずれか1種の存在下で水中に分散されていることを特徴とし、この際、前記アニオン界面活性剤の含有量は、化学式(1)のTPPOに対して5〜40重量%であることが好ましい。
【0015】
【化1】

【0016】
【化2】

【0017】
【化3】

【0018】
【化4】

【0019】
又、本発明は、上記の難燃加工剤において、更に下記化学式(5)〜(7)で表される非イオン系界面活性剤の少なくともいずれか1種が含有されていることを特徴とするものでもあり、この際、本発明の難燃加工剤は、前記化学式(1)のTPPOに対して5〜30重量%の前記アニオン界面活性剤と前記化学式(1)のTPPOに対して5〜20重量%の前記非イオン界面活性剤とを併含することが好ましい。
【0020】
【化5】

【0021】
【化6】

【0022】
【化7】

【0023】
又、ポリエステル系繊維に難燃性を付与するための本発明の難燃加工方法は、上述の難燃加工剤を水中に添加した難燃加工処理液に分散染料又は/及びカチオン染料を併用することを特徴とするものである。
更に、本発明は、上記の難燃加工方法において、前記難燃加工剤処理液にポリエステル系繊維を浸漬し、100℃〜150℃の温度で5〜60分間加熱処理することで、TPPOを分散染料又は/及びカチオン染料と共にポリエステル系繊維に吸着させることを特徴とするものでもある。
【発明の効果】
【0024】
本発明による難燃加工剤は、ポリエステル系繊維に対して優れた難燃燃性能を付与するだけでなく、分散染料の染色性に対して影響が少なく、ブリードもなく、耐加水分解性も良好な難燃加工を可能とする。
本発明に使用する界面活性剤は炭化水素基に多くの芳香環を含むため、分散染料及びTPPOの分散性に優れ、また、処理浴の起泡性も比較的低いものである。更に分散染料とカチオン染料を同浴で染色する場合、分散染料中のアニオン系の分散剤とカチオン染料との間でコンプレックス形成を防止する効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
まず最初に、本発明の難燃加工剤について説明する。
本発明の難燃加工剤は、ポリエステル系繊維に対して難燃加工を行なう際に使用される薬剤であって、TPPOに前記化学式(2)〜(4)のアニオン系界面活性剤の少なくともいずれか一種を含有するか、あるいは、前記化学式(2)〜(4)のアニオン系界面活性剤に前記化学式(5)〜(7)に示す非イオン系界面活性剤の少なくともいずれか一種を併用することで、TPPOを分散体とするものである。
【0026】
本発明において、前記化学式(2)〜(7)の化合物は全てアリールフェノールのエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシド付加体か、その硫酸エステル塩に相当する。エチレンオキシド及びプロピレンオキシド両方を付加させる場合、ブロック、ランダムいずれでも良い。
【0027】
前記化学式(2)の化合物の具体例としては、ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテルサルフェートが挙げられる。本化合物はスチリル基及びアルキレンオキシドの付加モル数の異なるものを2種以上使用してもよい。なお、対イオンはナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、炭素数1〜6の有機アミン等がある。
【0028】
前記化学式(3)の化合物の具体例としては、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテルサルフェートが挙げられる。本化合物はベンジル基及びアルキレンオキシドの付加モル数の異なるものを2種以上使用してもよい。なお、対イオンはナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、炭素数1〜6の有機アミン等がある。
【0029】
前記化学式(4)の化合物の具体例としては、ポリオキシエチレンクミルフェニルエーテルサルフェートが挙げられる。アルキレンオキシドの付加モル数の異なるものを2種以上使用してもよい。なお、対イオンはナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、炭素数1〜6の有機アミン等がある。
【0030】
前記化学式(5)の化合物の具体例としては、ポリオキシプロピレントリスチリルフェニルエーテルが挙げられる。本化合物はスチリル基及びアルキレンオキシドの付加モル数の異なるものを2種以上使用してもよい。
【0031】
前記化学式(6)の化合物の具体例としては、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテルが挙げられる。本化合物はベンジル基及びアルキレンオキシドの付加モル数の異なるものを2種以上使用してもよい。
【0032】
前記化学式(7)の化合物の具体例としては、ポリオキシエチレンクミルフェニルエーテルが挙げられる。アルキレンオキシドの付加モル数の異なるものを2種以上使用してもよい。
【0033】
TPPO分散体である本発明の難燃加工剤において、有効成分であるTPPOは分散体中に10〜50重量%含有することが好ましい。10重量%以下では難燃加工処理を行なう時に多量の難燃加工剤を必要となり、50重量%以上では安定な分散体を形成することが困難である。
【0034】
本発明におけるTPPOの分散体には化学式(2)〜(4)のアニオン系界面活性剤がTPPOに対し、5〜40重量%含有することが好ましく、更に好ましくは10〜35重量%である。TPPOに対し5重量%以下では安定な分散体が形成できず、40%以上では分散体がゲル化・増粘しやすくなり、染色浴中で染色性に悪影響を与える可能性がある。
【0035】
本発明におけるTPPOの分散体に化学式(5)〜(7)の非イオン系界面活性剤を併用することは、分散染料及びTPPOの分散性、均染性、可溶化力向上のため好ましい。非イオン系界面活性剤はTPPOに対し、5〜20重量%含有することが好ましい。TPPOに対し5%以下では併用の効果が現れず、20重量%以上では分散体がゲル化・増粘しやすくなり、染色浴中で緩染性が大きくなるとともに分散染料の分散性を低下させるため、逆に染色性に悪影響を与える可能性がある。また、アニオン活性剤と併用するに当たって、トータルの活性剤量がTPPOに対し40%以下が好ましい、トータルの活性剤量がTPPOに対し、40%を超えると分散体がゲル化・増粘しやすくなる。
【0036】
本発明においては、TPPO分散体にTPPO分散体及びポリエステル系繊維の染色性に影響のない範囲で請求項に記載される以外のアニオン界面活性剤又は/及び非イオン界面活性剤を加えても良い。この場合もトータルの界面活性剤量はTPPOに対し、40%以下が好ましい。
【0037】
本発明によるTPPOの分散体に非イオン系界面活性剤のみを用いることは好ましくない。それは、非イオン系界面活性剤のみの場合、非イオン系界面活性剤が曇点現象を示すためであり、エチレンオキシド付加数を多くしても120〜140℃の温度ではTPPOの分散性が低下し、TPPO及び分散染料の分散性を低下させることが考えられる。
本発明におけるTPPOの分散体には更に、有機溶剤、コロイド保護剤等を併用しても良い。
【0038】
上記有機溶媒として、メチルアルコ−ル、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ベンジルアルコール等のアルコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルピロリドン等のアミド類、酢酸エチル、酢酸ブチル、ブチロラクトン等のエステル類、ヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素、更にはエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジオキサン、アセトン、メチルイソブチルケトン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの溶剤は単独、又は2種以上の混合使用のどちらでも良い。これらの溶剤の添加量はTPPOに対して0.1〜100重量%が好ましい。
【0039】
上記保護コロイド剤として、アルギン酸ソーダ、カルボキシメチルセルロース、デンプン、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、グアーガム、キサンタンガム等があるが、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。これらの保護コロイド剤の添加量は難燃加工剤に対し、0.01〜1%が好ましい。
【0040】
次に上述の難燃加工剤を用いた本発明の難燃加工方法について説明する。上述の難燃加工剤は、浸漬処理方法で使用するものである。浸漬処理方法による本発明の難燃加工方法では、上述の難燃加工剤を水で希釈することによって、難燃加工処理液とし、この難燃加工処理液中にポリエステル系繊維を浸漬して、100℃〜150℃、好ましくは120℃〜140℃の温度で5分〜60分間処理することにより、TPPOをポリエステル系繊維に吸着させるのが一般的である。従って、難燃加工処理液中に分散染料又は/及びカチオン染料を添加し、100℃〜150℃、好ましくは120℃〜140℃の温度で染色と同時にTPPOを吸着させる方法が、工程上簡略化でき、好ましい。処理温度が100℃以下では難燃加工剤と染料がポリエステル系繊維に十分に吸着することが出来ず、150℃以上では繊維の強度低下、熱変性等を引き起こす恐れがある。
【0041】
染色で使用される染料については、分散染料、カチオン染料とも市販されているものであれば特に制限はないが、分散染料については染料分散性が良好なものを、カチオン染料については、難燃加工薬剤及び分散染料中のアニオン界面活性剤との相溶性が優れる分散型カチオン染料を選択する方が好ましい。
【0042】
難燃加工処理後のポリエステル系繊維は堅ろう度向上のため、ソーピング又は還元洗浄を行なうことが好ましく、染色濃度が極淡色で還元洗浄が必要ないと判断されるケースでもソーピングを行なう事が好ましい。
【0043】
ここでいうポリエステル系繊維とは、ポリエステル樹脂を原料とした繊維である。ポリエステル樹脂はジカルボン酸とジオールの、又はヒドロキシ酸の脱水縮合により合成されるもので、具体的にはポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、不飽和ポリエステル樹脂等の他、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンスクシネート等脂肪族ポリエステルを示す。また、アニオン基又はカチオン基含有成分を加えたカチオン又はアニオン可染ポリエステルも含まれる。また、繊維構造物として、糸、織物、編物、不織布等のいずれの形態でも良く、他繊維と混紡、交織、交編されていても良い。
【0044】
本発明の難燃加工方法にて使用される難燃加工処理浴中には、上述の染料の他、分散均染剤、pH調整剤、キャリア、浴中柔軟剤、耐光向上剤、抑泡剤、無機塩等を併用しても良い。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例中の部は重量である。
【0046】
下記の表1に示す処方の難燃加工剤を調整し、0.5mmガラスビーズ、充填率70%でビーズミルで24時間処理した。ミルによる粉砕終了後、難燃加工薬剤の状態(粘度の上昇等)を肉眼にて観察した。更に難燃加工薬剤処理液の起法性及び分散染料の分散性を以下の条件にて評価した。
【0047】
(起泡性評価法)
以下の処方の処理液 2LをMathis社製試験用染色機にて布なしでジェット出力4で液を循環しながら40℃から130℃まで昇温速度3.0℃/分で昇温し、液の泡立ち具合を以下の基準で肉眼判定した。
○:泡少ない
△:普通
×:泡多い
上記の起泡性試験に用いた処方は、以下の通りである。
難燃加工剤 6g/L
酢酸(90%) 0.3g/L
Dianix Red UN−SE 1g/L
【0048】
(分散染料分散性)
カラーペットホルダーにポリエステル加工糸織物(9cm巾)10gを巻き付け、輪ゴムで両端を止める。カラーペット試験機にて以下の処方で浴比1:20、110℃×5分間処理後、ホルダーを軽く水洗して処理布をホルダーより外し、風乾した。処理布に付着した染料タールの量を以下の基準で肉眼判定した。
○:染料タールなし
△:染料タール普通
×:染料タール多い
上記の分散性試験に用いた処方は、以下の通りである。
Sumikaron Yellow SE−RPD 1%owf
Sumikaron Red SE−RPD 1%owf
Sumikaron Blue SE−RPD 1%owf
難燃加工剤 10%owf
ディスパーN−700 0.5g/L
酢酸(90%) 0.3ml/L
【0049】
〔比較例〕
表2及び3に示す処方の難燃加工薬剤を調整し、実施例と同様にビーズミルで24時間処理した。ミルによる粉砕終了後、実施例と同様に各種性能を評価した。
尚、比較例5のみ難燃剤濃度を起泡性試験は3.5g/L、分散性試験では6%owfで行なった。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
表1〜3より、適切な活性剤を所定量使用した場合にのみ、TPPO分散体の状態、処理液の起泡性及び分散染料の分散性が良好であることが分かる。
【0054】
実施例1及び5、更に以下に示す比較例10〜12の難燃加工剤でポリエステル系繊維を以下の条件で処理し、各種性能を評価した。なお、実施例及び比較例に示す性能値は次の方法で測定した。
【0055】
難燃加工処理方法
目付150g/mのポリエステル織物を精練・乾燥し、180℃×1分間ヒートセットをした。この織物を分散染料〔C.I.Disperse Red 60〕 3%o.w.f.、分散均染剤〔Disper N−700(明成化学工業社製)〕0.5g/L、90%酢酸 0.3ml/L及び、実施例1に示した難燃加工剤 10%o.w.f.を含む染浴中で、浴比1:10、130℃×30分間処理し水洗後、下記処方(a)で浴比1:20、80℃×20分間還元洗浄、水洗、乾燥した。
【0056】
各種性能評価法
(難燃性)
JIS L 1091 D法。接炎回数3回以上で合格。3回ずつ行なう。
(洗濯及びドライクリーニング耐久性)
JIS L 1091繊維製品の難燃性試験方法に記載される洗濯及びドライクリーニング方法による。この方法により5回繰り返した。
(染色性への影響)
分散染料〔C.I.Disperse Red 60〕と難燃剤処理液を同浴で処理し、ポリエステル布の染色性を以下の基準で肉眼判定した。
○:良好
△:普通
×:不良
(難燃加工布の経時劣化性)
難燃加工処理布を環境試験器にて温度70℃、湿度95%で5週間及び10週間暴露し、処理布の引き裂き強度を測定した。
引裂き強度測定法:JIS L 1096−99.8.15.5D法(ペンジュラム法)
(ブリード性)
染色性への影響で検討した難燃加工染色布をろ紙にはさみ、12.5kPaの荷重をかけて環境試験器にて温度60℃、湿度85%にて72時間暴露し、ろ紙に移行した染料の量を以下の基準で肉眼判定した。
○:染料移行なし
△:染料移行普通
×:染料移行多い
【0057】
比較例10
下記処方により難燃加工薬剤を調製し、この難燃加工剤10%o.w.f.を実施例1の難燃加工剤と同様にポリエステル系繊維を処理した。

レゾルシンビス(ジフェニル)ホスフェート 300部
ポリオキシエチレン(20モル付加)
トリスチリルフェニルエーテルサルフェート 75部
水 625部
計 1000部
【0058】
比較例11
下記処方により難燃加工剤を調製し、この難燃加工剤10%o.w.f.を実施例1の難燃加工剤と同様にポリエステル系繊維を処理した。

リン酸トリクレジル 300部
ポリオキシエチレン(20モル付加)
トリスチリルフェニルエーテルサルフェート 75部
水 625部
計 1000部
【0059】
比較例12
難燃加工剤を使用しないで実施例1と全く同様にポリエステル織物を加工した。
【0060】
処方(a)
ラッコールNB(明成化学工業社製洗浄剤) 2g/L
ハイドロサルファイトコンク 2g/L
ソーダ灰 2g/L
【0061】
これらについて難燃性能他の評価結果を表4に示す。
【0062】
【表4】

【0063】
表4の実験結果から、TPPOを分散体とする本発明の難燃加工剤は、難燃性能を付与しにくい素材に対しても安定した良好な難燃性能が付与可能であることがわかる。更に通常使用されるリン酸エステル系難燃剤と較べ、分散染料の染色性に対して影響が少なく、ブリードもなく、耐加水分解性も優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系繊維に対する難燃加工を行なう際に使用される薬剤であって、下記化学式(1)で表されるトリフェニルホスフィンオキシドが、下記化学式(2)〜(4)で表されるアニオン系界面活性剤の少なくともいずれか1種の存在下で水中に分散されていることを特徴とする難燃加工剤。
【化1】


【化2】


【化3】


【化4】

【請求項2】
前記アニオン界面活性剤の含有量が、前記化学式(1)のトリフェニルホスフィンオキシドに対して5〜40重量%であることを特徴とする請求項1に記載の難燃加工剤。
【請求項3】
更に、下記化学式(5)〜(7)で表される非イオン系界面活性剤の少なくともいずれか1種が含有されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃加工剤。
【化5】


【化6】


【化7】

【請求項4】
前記アニオン界面活性剤の含有量が、前記化学式(1)のトリフェニルホスフィンオキシドに対して5〜30重量%であり、しかも、前記非イオン界面活性剤の含有量が、前記化学式(1)のトリフェニルホスフィンオキシドに対して5〜20重量%であることを特徴とする請求項3に記載の難燃加工剤。
【請求項5】
ポリエステル系繊維に難燃性を付与する方法であって、請求項1〜4記載の難燃加工剤を水中に添加した難燃加工処理液に分散染料又は/及びカチオン染料を併用することを特徴とするポリエステル系繊維の難燃化方法。
【請求項6】
前記難燃加工剤処理液にポリエステル系繊維を浸漬し、100℃〜150℃の温度で5〜60分間処理することで、前記化学式(1)のトリフェニルホスフィンオキシドを分散染料又は/及びカチオン染料と共にポリエステル系繊維に吸着させることを特徴とする請求項5に記載のポリエステル系繊維の難燃化方法。

【公開番号】特開2007−92263(P2007−92263A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−287131(P2005−287131)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(591018051)明成化学工業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】