説明

電動ポンプの吐出流量推定装置

【課題】電動ポンプの吐出流量を、エアの吸い込み時も正確に推定し得るようにする。
【解決手段】ポンプ作動要否信号Sop=ONにより、ポンプ2が回転速度Nop=目標回転速度Nop_1となるよう制御されている間、演算部43は油温TEMPoilおよびポンプ回転速度Nopから、目標ポンプ回転速度Nop_1を達成する目標駆動電流tIopを求める。演算部44は、tIopに対する実ポンプ駆動電流Iopの電流偏差(tIop−Iop)から、目標ポンプ駆動トルクtTopに対する実ポンプ駆動トルクTopのポンプ駆動力変化量ΔTopを演算する。演算部45は、ΔTopと比例常数Kとの乗算により、エアの吸い込みに起因したポンプ吐出流量偏差ΔQopを演算し、演算部46は、ポンプ回転速度Nopから理論上のポンプ吐出流量Qop_0を求め、演算部47は、Qop_0から上記のΔQopを差し引いて、ポンプ2の吐出流量Qopを求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスミッションの変速摩擦要素(クラッチやブレーキ)に潤滑を含む冷却用のオイルを適宜供給する等のために用いる電動ポンプの吐出流量を推定する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トランスミッションは、クラッチやブレーキのような各種変速摩擦要素を選択的に締結して対応変速段を選択可能で、締結する変速摩擦要素の切り替えにより対応変速段への変速を行うことができる。
ところで変速摩擦要素は、アクセル操作による加速要求があったり、湾曲登坂路などで変速段を切り替えながらの低速走行を繰り返す場合に、伝達トルクの増大や繰り返し変化に伴って負荷が増し、発熱量が多くなって熱的負荷が増す。
【0003】
かように変速摩擦要素の発熱量が多くなって熱的負荷が増す場合、または、そのために変速摩擦要素が温度上昇してしまった場合、該変速摩擦要素が焼損するなどの問題を生じないよう、当該変速摩擦要素を冷却する必要がある。
この冷却に電動ポンプからの吐出オイルを用いる場合、変速摩擦要素の熱負荷状態を推定して電動ポンプの作動が必要か否かを、また作動が必要ならポンプ吐出流量を如何なる量にすべきかを決定しなければならない。
【0004】
そのため変速摩擦要素の熱負荷状態を推定する必要があるが、この推定技術としては従来、例えば特許文献1に記載のごときものが提案されている。
この提案技術は、上記電動ポンプの制御に用いるものではなく、現在における変速摩擦要素の熱負荷状態と、次の変速で予測される変速摩擦要素の発熱状態とから、次変速の許可、禁止を決定する制御に用いるものであるが、固定値の放熱量に基づき変速摩擦要素の熱負荷状態を推定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−263172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、変速摩擦要素の熱負荷状態を推定するに当たって必要な変速摩擦要素の放熱量は、主として変速摩擦要素へのオイル等の冷媒流量、つまり前記電動ポンプの吐出流量に依存する。
【0007】
従って、上記特許文献1所載の技術のように、変速摩擦要素の放熱量を、変速摩擦要素が締結状態か、解放状態かに応じて定めるのでは、しかも当該放熱量を変速摩擦要素の締結状態、解放状態に応じて固定値とするのでは、当該放熱量そのものが不正確で、これを基に推定した変速摩擦要素の熱負荷状態(温度、または、その予測値)も不正確である。
【0008】
このため、当該推定した変速摩擦要素の熱負荷状態に応じて決める変速摩擦要素への目標冷媒流量(目標ポンプ吐出流量)が、変速摩擦要素の実熱負荷状態に対応したものにならない虞があり、変速摩擦要素の冷却が過不足をもったものになることがある。
変速摩擦要素の冷却過多は、電動ポンプの吐出流量が多すぎることを意味し、過多分だけポンプが電力を無駄に消費していることとなり、エネルギー効率の低下に関する問題を生じ、
変速摩擦要素の冷却不足は、変速摩擦要素の過熱を招き、その耐久性が低下するという問題や、変速摩擦要素が焼損するという問題を生ずる。
【0009】
本発明は、上記の問題に鑑み、電動ポンプの吐出流量を正確に推定することが必要であり、また、電動ポンプの駆動力変化がポンプの吐出流量変化を良く表し、このポンプ駆動力変化からポンプ吐出流量を推定すれば、その推定精度が高くなって上記の要求を叶え得るとの認識に基づき、この着想を具体化して上記の問題を回避し得るようにした電動ポンプの吐出流量推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的のため、本発明による電動ポンプの吐出流量推定装置は、以下のごとくにこれを構成する。
先ず、本発明の前提となる電動ポンプの吐出流量推定装置は、ポンプ回転速度が目標ポンプ回転速度となるよう制御される電動ポンプの吐出流量を推定するものである。
【0011】
本発明は、かかる電動ポンプの吐出流量推定装置に対し、以下のようなポンプ駆動力情報検出手段およびポンプ吐出流量演算手段を設けた構成に特徴づけられる。
前者のポンプ駆動力情報検出手段は、上記電動ポンプの駆動力に係わるポンプ駆動力情報を検出するものであり、また、
後者のポンプ吐出流量演算手段は、ポンプ駆動力情報検出手段で検出したポンプ駆動力情報から得られるポンプ駆動力の変化を基に電動ポンプの吐出流量を演算するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明による電動ポンプの吐出流量推定装置にあっては、ポンプ吐出流量の変化を良く表すポンプ駆動力の変化を基に電動ポンプの吐出流量を演算して推定するため、
エアの吸い込みなどによりポンプ容積効率が低下してポンプ吐出流量が変化した場合においても、ポンプ吐出流量を高精度に推定することができ、当該推定したポンプ吐出流量に基づく制御を常に狙い通りに遂行可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例になるポンプ吐出流量推定装置を内包したポンプ吐出流量制御装置を示す機能別ブロック線図である。
【図2】図1における目標ポンプ駆動電流演算部が、電動オイルポンプの目標駆動電流を求める時に用いる目標ポンプ駆動電流のマップ図である。
【図3】図1におけるポンプ吐出流量推定装置の動作タイムチャートで、 (a)は、電動オイルポンプがエアを吸い込まない場合における動作タイムチャート、 (b)は、電動オイルポンプがエアを吸い込んだ場合における動作タイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
<実施例の構成>
図1は、本発明の一実施例になるポンプ吐出流量推定装置を内包したポンプ吐出流量制御装置を示す機能別ブロック線図である。
図1の吐出流量制御装置は、トランスミッション1内における図示せざる発進クラッチに対し、潤滑を含む冷却用のオイルを必要に応じて適宜供給するための電動オイルポンプ2(本発明における電動ポンプに相当)を吐出流量制御するものとする。
なお電動オイルポンプ2は、ポンプ回転速度が後で詳述する目標ポンプ回転速度Nop_2となるように行う回転速度制御によって、その吐出流量が要求吐出流量となるよう制御されるものである。
【0015】
トランスミッション1内における図示せざる発進クラッチは、各変速段で動力伝達を司るよう締結されるクラッチで、この発進クラッチは、アクセル操作による加速要求があった場合や、湾曲登坂路などで変速段を切り替えながらの低速走行を繰り返す場合に、クラッチ伝達トルクの増大や繰り返し変化に伴って負荷が増大し、発熱量が多くなる。
【0016】
そして、かように発進クラッチの発熱量が多くなる場合、または、そのために発進クラッチが温度上昇してしまった場合、該クラッチが耐久性を損なわれたり、焼損するなどの問題を生ずることのないよう、当該クラッチは冷却する必要がある。
この場合、電動オイルポンプ2を作動させて、これからの吐出オイルを発進クラッチに供給し、同時に電動オイルポンプ2を、その吐出流量が発進クラッチの冷却必要油量に対応したものとなるよう回転速度制御する。
【0017】
そのため図1に示す電動オイルポンプ2の吐出流量制御装置は、オイルポンプ作動要否判定部10と、基準目標ポンプ回転速度演算部20と、目標ポンプ回転速度選択部30とにより構成し、これらを以下に順次詳説する。
【0018】
オイルポンプ作動要否判定部10は、トランスミッション1の油温TEMPoil、発進クラッチの入力トルクTcin、発進クラッチの差回転であるクラッチスリップ量ΔNcl、路面勾配θ、および発進クラッチの温度TEMPclを基に、発進クラッチを冷却すべきか否かをチェックして、電動オイルポンプ2を作動させるべきか否かを判定する。
【0019】
クラッチ温度TEMPclや油温TEMPoilが、発進クラッチの冷却を必要とする高温であれば、発進クラッチを冷却すべきであるから、電動オイルポンプ2の作動を指令すべく、オイルポンプ作動要否判定部10はオイルポンプ作動要否信号SopをSop=ONとなす。
クラッチ温度TEMPclや油温TEMPoilが、発進クラッチの冷却を必要としない低温であれば、発進クラッチを冷却する必要がないから、電動オイルポンプ2の非作動を指令すべく、オイルポンプ作動要否判定部10はオイルポンプ作動要否信号SopをSop=OFFとなす。
【0020】
オイルポンプ作動要否判定部10は更に、クラッチ入力トルクTcin、クラッチスリップ量ΔNcl、および路面勾配θから、発進クラッチが近々冷却の必要な高温になるか否かを予測し、
発進クラッチが近々冷却の必要な高温になると予測される条件下であれば、発進クラッチを冷却すべきであるから、電動オイルポンプ2の作動を指令すべく、オイルポンプ作動要否信号SopをSop=ONとなし、
発進クラッチが近々冷却の必要な高温になることはないと予測される条件下であれば、 発進クラッチを冷却する必要がないから、電動オイルポンプ2の非作動を指令すべく、オイルポンプ作動要否信号SopをSop=OFFとなす。
【0021】
なおオイルポンプ作動要否判定部10は、油温TEMPoil、クラッチ入力トルクTcin、クラッチスリップ量ΔNcl、路面勾配θ、および発進クラッチ温度TEMPclのいずれか1つのみに基づいて発進クラッチを冷却すべきか否かをチェックして、電動オイルポンプ2を作動させるべきか否かを判定してもよいし、これら入力情報の任意のものを組み合わせて当該判定を行うようにしてもよい。
【0022】
基準目標ポンプ回転速度演算部20は、油温TEMPoilおよびクラッチ入力トルクTcinから予定のマップを基に、発進クラッチの冷却に必要な油量を賄い得る電動オイルポンプ2の要求吐出流量に対応した、電動オイルポンプ2の基準となる目標ポンプ回転速度Nop_1を求める。
【0023】
目標ポンプ回転速度選択部30は、オイルポンプ作動要否判定部10からのオイルポンプ作動要否信号Sop=ON(電動オイルポンプ2の作動要求を示す信号)またはオイルポンプ作動要否信号Sop=OFF(電動オイルポンプ2の作動不要を示す信号)に応答し、
演算部20からの基準目標ポンプ回転速度Nop_1またはポンプ停止用回転速度指令tNop=0を最終的な目標ポンプ回転速度Nop_2に設定する。
【0024】
つまり目標ポンプ回転速度選択部30は、Sop=ONであれば、演算部20からの基準目標ポンプ回転速度Nop_1を最終的な目標ポンプ回転速度Nop_2に設定して、電動オイルポンプ2を回転速度がNop_2=Nop_1になるよう制御し、電動オイルポンプ2を基準目標ポンプ回転速度Nop_1で回転させる。
また目標ポンプ回転速度選択部30は、Sop=OFFであれば、tNop=0を最終的な目標ポンプ回転速度Nop_2に設定して、電動オイルポンプ2を回転速度がNop_2=tNop=0になるよう制御し、電動オイルポンプ2を停止させる。
【0025】
<電動オイルポンプの吐出流量制御>
上記した第1実施例による電動オイルポンプ2の回転速度制御を介した吐出流量制御を、以下に概略説明する。
オイルポンプ作動要否判定部10による電動オイルポンプ2の作動要否判定結果(オイルポンプ作動要否信号Sop)がSop=ONである(電動オイルポンプ2の作動が要求される)場合、目標ポンプ回転速度選択部30は、基準目標ポンプ回転速度演算部20で求めた、発進クラッチの冷却に必要な油量を賄い得る電動オイルポンプ2の要求吐出流量を実現可能な電動オイルポンプ2の基準目標ポンプ回転速度Nop_1を最終的な目標ポンプ回転速度Nop_2と定め、電動オイルポンプ2を、回転速度がNop_2=Nop_1になるよう制御する。
【0026】
オイルポンプ作動要否判定部10による電動オイルポンプ2の作動要否判定結果(オイルポンプ作動要否信号Sop)がSop=OFFである(電動オイルポンプ2の作動が要求されない)場合、目標ポンプ回転速度選択部30は、最終的な目標ポンプ回転速度Nop_2をNop_2=tNop=0と定め、電動オイルポンプ2を、回転速度がNop_2=0になるよう制御して、電動オイルポンプ2を停止させる。
【0027】
<オイルポンプ吐出流量の推定>
上記したように作動する電動オイルポンプ2の吐出流量を推定するための装置を、本実施例では以下のようなものとする。
このポンプ吐出流量推定装置は図2に示すように、ポンプ駆動電流検出部41と、ポンプ回転速度検出部42と、目標ポンプ駆動電流演算部43と、ポンプ駆動トルク変化量演算部44と、ポンプ吐出流量偏差演算部45と、理論ポンプ吐出流量演算部46と、ポンプ吐出流量演算部47と、クラッチ温度推定部48と、クラッチ温度判定部49とで構成する。
【0028】
ポンプ駆動電流検出部41は、電動オイルポンプ2の駆動力情報として駆動電流Iopを検出する。
従ってポンプ駆動電流検出部41は、本発明におけるポンプ駆動力情報検出手段に相当する。
なお電動オイルポンプ2の駆動力情報としては、ポンプ駆動電流Iopの代わりにポンプ駆動トルクなど、他のポンプ駆動力情報を用いてもよい。
【0029】
ポンプ回転速度検出部42は、電動オイルポンプ2の回転速度Nopを検出する。
なお、検出部42で検出したポンプ回転速度Nopの代わりに、選択部30からの目標ポンプ回転速度Nop_2を用いてもよいし、電動オイルポンプ2が回転速度をデューティー制御されるものである場合は、その駆動デューティー比を用いてもよいのは言うまでもない。
【0030】
目標ポンプ駆動電流演算部43は、図2に例示する予定のマップを基に、油温TEMPoilおよびポンプ回転速度Nopから、目標ポンプ回転速度Nop_2を達成するのに必要な電動オイルポンプ2の目標駆動力を得るための目標ポンプ駆動電流tIopを求める。
【0031】
ポンプ駆動トルク変化量演算部44は、目標ポンプ駆動電流tIopに対する実ポンプ駆動電流Iopの電流偏差(tIop−Iop)から、目標ポンプ駆動電流tIopに対応した目標ポンプ駆動トルクtTopと、実ポンプ駆動電流Iopに対応する実ポンプ駆動トルクTopとの偏差、つまり目標ポンプ駆動トルクtTopに対する現在のポンプ駆動トルクTopのポンプ駆動力変化量ΔTop(=tTop−Top)を演算する。
このポンプ駆動力変化量ΔTopは、実ポンプ駆動トルクTopがエアの吸い込みなどによるポンプ容積効率の低下程度に応じて変化するため、エアの吸い込みなどによるポンプ容積効率の低下程度に対応する。
【0032】
ポンプ吐出流量偏差演算部45は、ポンプ駆動力変化量ΔTopと比例常数Kとの乗算により、エアの吸い込みなどによるポンプ容積効率の低下に起因したポンプ吐出流量偏差ΔQop(=ΔTop×K)を演算する。
なお、ポンプ吐出流量偏差演算部45でポンプ吐出流量偏差ΔQopを求めるに際しては、演算部44における電流偏差(tIop−Iop)に比例常数K1を乗じてポンプ吐出流量偏差ΔQopを求めることも可能である。
【0033】
理論ポンプ吐出流量演算部46は、電動オイルポンプ2の回転速度Nopに応じた理論上のポンプ吐出流量Qop_0を、電動オイルポンプ2の流量係数Lとポンプ回転速度Nopとの乗算により求める。
【0034】
ポンプ吐出流量演算部47は、理論上のポンプ吐出流量Qop_0からポンプ吐出流量偏差ΔQopを差し引く演算により電動オイルポンプ2のポンプ吐出流量Qop(=Qop_0−ΔQop)を求めて推定する。
かようにして推定したポンプ吐出流量Qopは、ポンプ吐出流量偏差ΔQopが上記の通りエアの吸い込みなどによるポンプ容積効率の低下に起因したものであることから、エアの吸い込みなどによるポンプ容積効率の低下により減少した実際のポンプ吐出流量を表す。
【0035】
従ってポンプ吐出流量演算部47は、目標ポンプ駆動電流演算部43、ポンプ駆動トルク変化量演算部44、ポンプ吐出流量偏差演算部45および理論ポンプ吐出流量演算部46と共に、本発明におけるポンプ吐出流量演算手段に相当する。
【0036】
クラッチ温度推定部48は、上記の演算により推定したポンプ吐出流量Qopを基に、以下のごとき演算により発進クラッチの温度TEMPcl_cを推定する。
つまり、発進クラッチの摩擦による瞬間発熱量をPn[J/s]とし、発進クラッチの瞬間放熱量をCn[J/s/K]とし(実験により得られた定数Co,Qoで決まる流量比例と見なし、Cn=Co×QopQo)、発進クラッチの摩擦面温度をTEMPcl[℃]とし、油温をTEMPoil[℃]とし、推定時間をΔt[s]とし、発進クラッチの熱容量をQcl[J/K]としたとき、次式で表される発進クラッチの温度変化量ΔTEMPclを求める。
ΔTEMPcl={Pn−Cn(TEMPcl−TEMPoil)}Δt/ Qcl
次に、このクラッチの温度変化量ΔTEMPclを上記のクラッチ摩擦面温度TEMPclに加算する次式の演算により発進クラッチの温度推定値TEMPcl_cを求める。
TEMPcl_c=TEMPcl+ΔTEMPcl
【0037】
クラッチ温度判定部49は、クラッチの温度推定値TEMPcl_cを、発進クラッチの許容上限温度である保証温度TEMPcl_sと対比し、TEMPcl_c≦TEMPcl_sであれば基準目標ポンプ回転速度演算部20に対し、前記したように演算した基準目標ポンプ回転速度Nop_1をそのまま出力するよう指令し、TEMPcl_c>TEMPcl_sであれば基準目標ポンプ回転速度演算部20に対し、前記したように演算した基準目標ポンプ回転速度Nop_1を、エアの吸い込みなどによるポンプ容積効率の低下で減少したポンプ吐出流量の低下分が解消されるよう増大補正して出力するよう指令する。
【0038】
<実施例の作用・効果>
上記した本実施例によるポンプ吐出流量推定装置の作用・効果を、図3(a),(b)に基づき以下に説明する。
図3(a),(b)はいずれも、瞬時t1に発進クラッチが締結を開始して、クラッチ入力トルク立ち上がると共に、クラッチ出力回転速度がクラッチ入力回転速度に向け上昇している最中の瞬時t2に、発進クラッチの発熱によりその冷却(電動オイルポンプ2の作動)が必要になったことで、オイルポンプ作動要否信号SopがOFFからONに切り替わり、
電動オイルポンプ2からの吐出オイルによる発進クラッチの冷却で瞬時t3に、発進クラッチの冷却(電動オイルポンプ2の作動)が不要になって、オイルポンプ作動要否信号SopがONからOFFに切り替わった場合の動作タイムチャートである。
【0039】
瞬時t2〜t3におけるSop=ONに呼応した電動オイルポンプ2の回転速度制御(吐出流量制御)に際し、電動オイルポンプ2は図1のオイルポンプ作動要否判定部10、基準目標ポンプ回転速度演算部20および目標ポンプ回転速度選択部30によって、回転速度Nopが図3(a),(b)に示す通り、基準の目標ポンプ回転速度Nop_1となるよう制御される。
【0040】
電動オイルポンプ2が、エアを吸い込まない(容積効率を低下されない)作動条件下であれば、電動オイルポンプ2の駆動負荷が変化しないため、ポンプ駆動電流Iop(ポンプ駆動トルクTop)は変化することなく、図3(a)に実線で示すように、破線で示す目標ポンプ駆動電流tIop(目標ポンプ駆動トルクtTop)と同じままである。
このため図1の演算部44で求めるポンプ駆動トルク変化量ΔTopが0であり、また演算部45で求めるポンプ吐出流量偏差ΔQopも0であり、演算部47で求めるポンプ吐出流量推定値Qopは図3(a)に実線で示すように、演算部46で求めた同図に破線で示す理論ポンプ吐出流量Qop_0と同じになる。
【0041】
ところでエアを吸い込まない(容積効率を低下されない)図3(a)の作動条件下では、実際のポンプ吐出流量が理論ポンプ吐出流量Qop_0に一致しており、ポンプ吐出流量推定値Qopは実際のポンプ吐出流量から乖離することなく、これに良く一致する。
従って、図1の推定部48で求めたクラッチ温度推定値TEMPcl_cが、図3(a)に実線で示すように、破線で示す実際のクラッチ温度TEMPclに一致する。
【0042】
なお、エアを吸い込まない(容積効率を低下されない)図3(a)の作動条件下では、ポンプ吐出流量Qopが容積効率の低下による減量を受けないことから、発進クラッチへ要求通りの量のオイルを供給することができる。
よってクラッチ温度TEMPclを、図3(a)に実線で示すとおり保証温度TEMPcl_s以下に保つことができ、発進クラッチの耐久性が低下するという問題や、発進クラッチが焼損するという問題を生ずることがない。
【0043】
図1のクラッチ温度判定部49は、図3(a)に示すごとく実際のクラッチ温度TEMPclに一致するクラッチの温度推定値TEMPcl_cと、発進クラッチの許容上限温度である保証温度TEMPcl_sとの対比結果が、TEMPcl_c≦TEMPcl_sであるため、基準目標ポンプ回転速度演算部20に対し、基準目標ポンプ回転速度Nop_1をそのまま出力するよう指令する。
【0044】
以上により、上記の通り発進クラッチの耐久性が低下するという問題や、発進クラッチが焼損するという問題を生ずることがないのに、基準目標ポンプ回転速度Nop_1が、ポンプ吐出流量推定値Qop(クラッチ温度推定値TEMPcl_c)の誤推定によって、無駄に補正される弊害を防止することができる。
【0045】
図3(b)は、図3(a)と同じ条件のもと、電動オイルポンプ2が、エアを吸い込む(容積効率を低下される)場合の動作タイムチャートである。
電動オイルポンプ2が、エアを吸い込みにより容積効率を低下されると、電動オイルポンプ2の駆動負荷が変化(低下)するため、ポンプ駆動電流Iop(ポンプ駆動トルクTop)が図3(b)に実線で示すように、破線で示す目標ポンプ駆動電流tIop(目標ポンプ駆動トルクtTop)よりも、エア吸い込み程度(容積効率の低下量)に応じた分だけ小さな値へと低下する。
【0046】
このため図1の演算部44で求めるポンプ駆動トルク変化量ΔTopが、目標ポンプ駆動電流tIop(目標ポンプ駆動トルクtTop)に対するポンプ駆動電流Iop(ポンプ駆動トルクTop)の乖離量となり、また演算部45で求めるポンプ吐出流量偏差ΔQopも図3(b)に示すごとく当該乖離量に対応したものとなる。
よって、図1の演算部47で求めるポンプ吐出流量推定値Qopは図3(b)に実線で示すように、演算部46で求めた同図に破線で示す理論ポンプ吐出流量Qop_0よりも、上記のポンプ吐出流量偏差ΔQopだけ小さな値となる。
【0047】
エアを吸い込む(容積効率を低下された)図3(b)のもとでは、かようにポンプ吐出流量(推定値Qop)が容積効率の低下による減量を受けて理論ポンプ吐出流量Qop_0よりもΔQopだけ小さくなるため、発進クラッチへ要求通りの量のオイルを供給することができない。
よってクラッチ温度TEMPclが、図3(b)に実線で示すとおり保証温度TEMPcl_sよりも高くなって、発進クラッチの耐久性が低下するという問題や、発進クラッチが焼損するという問題を生じ、これに対する何らかの対策が必要である。
【0048】
ところで従来は、上記したポンプ駆動トルク変化量ΔTop(ポンプ吐出流量偏差ΔQop)に基づいてクラッチ温度の推定を行うものでないため、クラッチ温度推定値が図3(b)に一点鎖線で示すごとく、エアを吸い込まない(容積効率を低下されない)図3(a)の場合と同じものとなる。
よって、クラッチ温度TEMPclが、図3(b)に実線で示すとおり保証温度TEMPcl_sよりも高くなるのを検知することができず、発進クラッチの耐久性が低下するという問題や、発進クラッチが焼損するという問題に対する対策を行い得ない。
【0049】
しかるに本実施例では、ポンプ駆動トルク変化量ΔTopからポンプ吐出流量偏差ΔQopを求め、このポンプ吐出流量偏差ΔQopに基づいてポンプ吐出流量推定値Qopを演算するため、
エアを吸い込む(容積効率を低下された)図3(b)の場合でも、ポンプ吐出流量推定値Qopを同図に実線で示すごとく実際のポンプ吐出流量に一致させることができる。
【0050】
よって、ポンプ吐出流量推定値Qopから演算したクラッチ温度推定値TEMPcl_cが図3(b)に破線で示すごとく、同図に実線で示す実際のクラッチ温度TEMPclに一致し、エアを吸い込む(容積効率を低下された)図3(b)の場合においても、クラッチ温度の推定を正確に行うことができる。
【0051】
このため、図3(b)の場合において前記の通りクラッチ温度TEMPclが保証温度TEMPcl_sよりも高くなったのを、図1のクラッチ温度判定部49がTEMPcl_c>TEMPcl_sにより確実に判定することができ、
この判定結果に基づき基準目標ポンプ回転速度演算部20に対し、基準目標ポンプ回転速度Nop_1を、エアの吸い込みなどによるポンプ容積効率の低下で減少したポンプ吐出流量の低下分が補償されるよう増大補正して出力するよう指令し得る。
この対策によって、エアを吸い込む(容積効率を低下された)図3(b)の場合においても、この図では示していないが、ポンプ吐出流量を要求通りのものにすることができ、発進クラッチが冷却不足に陥るのを防止して、発進クラッチが耐久性を低下されたり、焼損されるという上記の問題を回避することができる。
【0052】
ところで本実施例においては、電動オイルポンプ2の駆動力情報としてポンプ駆動電流Iopを用いるため、ポンプ駆動力(ポンプ駆動トルク)を検出する高価なセンサが不要であってコスト的に有利であると共に、ポンプ駆動力(ポンプ駆動トルク)よりも高精度な検出が可能なポンプ駆動電流Iopに基づきポンプ吐出流量Qopを推定することから、ポンプ吐出流量推定値Qopの精度が高くて、上記の作用・効果を更に顕著なものにすることができる。
【0053】
<その他の実施例>
なお上記した実施例では、電動オイルポンプ2がトランスミッション1内の発進クラッチを冷却するためのものであることとして説明したが、電動オイルポンプ2は、トランスミッション1内の他のクラッチを冷却するためのものであってもよいし、トランスミッションに限らず、任意の対象物を冷却するためのものであってもよい。
また、吐出流量制御の対象である電動ポンプは、電動オイルポンプに限られず、オイル以外の液体を吐出するものであってもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 トランスミッション
2 電動オイルポンプ(電動ポンプ)
10 オイルポンプ作動要否判定部
20 補正済目標ポンプ回転速度演算部
30 目標ポンプ回転速度選択部
41 ポンプ駆動電流検出部(ポンプ駆動力情報検出手段)
42 ポンプ回転速度検出部
43 目標ポンプ駆動電流演算部(ポンプ吐出流量演算手段)
44 ポンプ駆動トルク変化量演算部(ポンプ吐出流量演算手段)
45 ポンプ吐出流量偏差演算部(ポンプ吐出流量演算手段)
46 理論ポンプ吐出流量演算部(ポンプ吐出流量演算手段)
47 ポンプ吐出流量演算部(ポンプ吐出流量演算手段)
48 クラッチ温度推定部
49 クラッチ温度判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ回転速度が目標ポンプ回転速度となるよう制御される電動ポンプの吐出流量を推定するための装置において、
前記電動ポンプの駆動力に係わるポンプ駆動力情報を検出するポンプ駆動力情報検出手段と、
該手段で検出したポンプ駆動力情報から得られるポンプ駆動力の変化を基に電動ポンプの吐出流量を演算するポンプ吐出流量演算手段と
を具備してなることを特徴とする電動ポンプの吐出流量推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載された、電動ポンプの吐出流量推定装置において、
前記ポンプ駆動力情報検出手段は、前記電動ポンプの駆動トルクまたは駆動電流をポンプ駆動力情報として検出するものであることを特徴とする電動ポンプの吐出流量推定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載された、電動ポンプの吐出流量推定装置において、
前記ポンプ吐出流量演算手段は、前記目標ポンプ回転速度を実現するための目標ポンプ駆動力と、前記検出したポンプ駆動力情報から得られるポンプ駆動力とのポンプ駆動力偏差を前記ポンプ駆動力の変化として、前記ポンプ吐出流量の演算に資するものであることを特徴とする電動ポンプの吐出流量推定装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載された、電動ポンプの吐出流量推定装置において、
前記ポンプ吐出流量演算手段は、前記ポンプ駆動力の変化からポンプ吐出流量の変化分を求め、該変化分と、前記ポンプ回転速度または目標ポンプ回転速度から得られる理論ポンプ吐出流量との和値を前記ポンプ吐出流量の推定値とするものであることを特徴とする電動ポンプの吐出流量推定装置。
【請求項5】
前記電動ポンプの吐出液が冷却に用いられるものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載された、電動ポンプの吐出流量推定装置において、
前記推定したポンプ吐出流量から、前記冷却すべき対象物の放熱量を演算して、該対象物の熱的負荷変化の演算に供し、該熱的負荷変化を前記目標ポンプ回転速度の補正に用いるよう構成したことを特徴とする電動ポンプの吐出流量推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−113288(P2013−113288A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263348(P2011−263348)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】