説明

電動機の固定子

【課題】 電動機の固定子の歯部に装着した樹脂ボビンに巻線を整列巻きし、電動機の小型化、高性能化でき品質に優れた電動機の固定子を提供する。
【解決手段】 電動機の固定子の歯部が環状に配置され、前記歯部には樹脂ボビンを装着し巻線が集中巻きされ、前記巻線の巻き回方向は隣同士の前記歯部において逆向きに巻き付けられた電動機の固定子であって、前記樹脂ボビンのスロット内側面には巻線を整列巻きにするための角部突起が設けられ、前記角部突起は隣同士の歯部に装着した樹脂ボビンの一方の歯部のスロット内歯部側面とスロット内底部側面とが交差する位置に設けられ、他方の歯部にはスロット内歯部側面とスロット開口側のスロット内開口部側面とが交差する位置とに設けることにより容易に巻線を整列巻きでき、多くの巻線を巻くことができ電動機の小型化、高性能化でき品質に優れた電動機の固定子とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定子歯部に樹脂ボビンを装着し、直接巻線を巻き付けた集中巻き方式による電動機の固定子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題等によって低電圧で駆動される電動機を搭載した電動車両が増えてきている。このような電動機の固定子は車両搭載スペースから小型化や、省エネルギーの観点から損失が少なく、高効率の電動機が要求されている。これらの要求に対して固定子に巻き付けられる巻線は、線径が太く、巻き回数の少ない仕様となっている。このような巻線仕様に対しては、固定子の歯部に直接巻線を巻き付ける集中巻き方式の巻線方法が適している。これにより固定子から飛び出す巻線の巻線高さを小さくすることができ、また巻線によって発生する銅損失を低減することができる。
【0003】
具体的な電動機の仕様としては、電圧が60V以下の場合で駆動運転領域が15000r/min以下の電動機等がある。
【0004】
このような電動機においては、特開平11−122855号公報(特許文献1参照)に示す様に樹脂ボビンの鍔部に屈曲自在に絶縁板を一体的に設けて、固定子の歯部の先端となる鍔部の内側に段差、または60度程度の角度を成す斜面を設けた絶縁用の樹脂ボビンが使用されている。これにより固定子の歯部に巻き付ける巻線を整列に巻くことができ、スロット内の占積率を上げることができる。
【0005】
【特許文献1】特開平11−122855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、このような低電圧の電動機に太い線径の巻線を樹脂ボビンに巻き付ける際、巻き太りが発生し巻線の自由度が奪われる。特に、固定子の歯部に直接巻線を巻き付ける集中巻き方式では、隣同士が異極であるためスロット内での巻き太りは隣同士の巻線が接触し絶縁不良となる。これに鑑みて、樹脂ボビンに巻線を整列巻きできるように歯部の先端となる鍔部の内側に巻線ガイド用の段差部、または60度程度の角度を成す斜面を設けた絶縁用の樹脂ボビンが使用されている。しかしながら、これらの樹脂ボビンは、隣同士の歯部の巻線の巻き回方向が同じ方向に巻き付けられた集中巻きの電動機の固定子においては有効な構造であるが、隣同士の歯部に巻き付ける巻線の巻き回方向が異なる場合においては、巻線ガイド用の段差部、または60度程度の角度を成す斜面を歯部の先端となる鍔部の内側に設けるだけでは、確実に整列巻きを実現することは困難である。
【0007】
具体的には、樹脂ボビンに巻線を巻く場合、すべての固定子の歯部に巻かれる巻線の巻き回方向が一定の場合は、巻線の1段目から2段目への移動が段差部分または60度程度の角度を成す斜面部分によりスムーズな移動が行え整列巻きに巻き回することができるが、隣同士の歯部によって巻線の巻き回方向が違う場合は、一方の歯部の巻線の巻き回方向では、先に説明したように巻線の1段目から2段目への移動は、歯部の先端となる鍔部の内側に巻線ガイド用の段差部分または60度程度の角度を成す斜面部分により巻線のスムーズな移動でき整列巻きすることができるが、巻き回方向が逆向きとなる他方の歯部においては、歯部の先端となる鍔部の内側に巻線ガイド用の段差部分または60度程度の角度を成す斜面部分を設けただけでは巻線の移動がスムーズに行えず乱巻きとなり巻き太りとなってしまう。従って、隣同士が異極となる歯部に巻かれた巻線が接触し絶縁不良となったり、固定子のスロット内に巻かれる巻線の占積率を上げることができなかったりする。また、コイルエンドの高さも高くなり電動機の小型化、高性能を達成することが難しくなっている。
【0008】
また、巻線を無理に小さく巻き付けようとすると巻線の線径が太く可とう性が悪いため、巻線を強く引張り固定子の歯部に巻き付けることになり巻線自体が傷ついたり、破損したりして絶縁不良の原因となってしまう。更には巻線を強く引張ることにより樹脂ボビン自体が破損したり、引いては積層コアの変形が発生することになる。
【0009】
本発明は、これに鑑みて、特に低電圧の線径の太い巻線を用いた電動機の固定子であって、巻線の巻き回方向が隣同士の歯部において逆向きに巻き付けられた電動機の固定子において、巻線を固定子の歯部に整列に巻き付け少しでも多くの巻線を巻き付けることができ、また巻線を小さく巻き付け銅損失を低減できる樹脂ボビンを使用した電動機の固定子としている。また、巻線間の接触がなく、巻線への傷、破損が少なく、引いては絶縁用ボビン及び積層コア等の破損、変形の少ない品質を向上した電動機の固定子とすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
課題を解決するための本発明は、電動機の固定子の歯部が環状に配置され、歯部には樹脂ボビンを装着し、樹脂ボビンの上には巻線を集中巻し、前記巻線の巻き回方向は隣同士の前記歯部において逆向きに巻き付けられた電動機の固定子において、前記樹脂ボビンのスロット内側面に巻線を整列巻きにするための角部突起を設けた電動機の固定子としている。
【0011】
特に、前記角部突起が隣同士の歯部に装着した樹脂ボビンの一方の歯部のスロット内歯部側面とスロット内底部側面とが交差する位置に設けられ、他方の歯部にはスロット内歯部側面とスロット開口側のスロット内開口部側面とが交差する位置とに設けることにより、隣同士の歯部に巻き回された巻線の断面形状を凹凸形状とすることができ、互いに干渉することなく巻線を整列巻きすることができ絶縁距離を保ちながら近接させることができる電動機の固定子としている。
【0012】
尚、前記電動機の固定子が分割された固定子コアを環状に配置した電動機の固定子に用いることにより、隣同士の歯部に巻き回された巻線を容易に整列巻きすることができ、隣同士の歯部に巻き付けられた巻線間の絶縁距離を最低限保ちながら多くの巻線を巻くことができる電動機の固定子である。
【0013】
また、環状に配置された固定子のスロット数をN(Nは偶数)スロットとした場合、固定子の巻線によって発生する磁極数がN−2とした場合、隣同士の歯部に巻き付けた巻線の巻き回方向を逆向きに巻き付けた電動機の固定子としている。例えば、固定子のスロット数が12スロット、固定子の巻線によって発生する磁極数10極(回転子の磁極数としてはN±2となり、10極または14極となる)、或いは、固定子のスロット数が18スロット、固定子の巻線によって発生する磁極数16極(回転子の磁極数としてはN±2となり、16極または20極となる)がある。
【0014】
更に、本発明の電動機の固定子に巻き付けられる巻線の線径がφ0.85〜φ2.5の太い線径を整列巻きすることができ電動機の品質、性能を向上した電動機の固定子とすることができる。
【0015】
また、本発明の電動機の固定子を低電圧の車両搭載用電動機に用いることにより固定子の巻線が整列巻きされ多くの巻線を巻き付けることができ電動機性能を向上することができる。また、巻線に傷、破損がなく、引いては絶縁用ボビン及び積層コア等の破損、変形のない品質を向上した電動機の固定子とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、電動機の固定子の歯部が環状に配置され、歯部には樹脂ボビンを装着し、樹脂ボビンの上には巻線を集中巻し、巻線の巻き回方向が隣同士の歯部において逆向きに巻き付けられた電動機の固定子において、前記樹脂ボビンのスロット内側面に角部突起を設けられた樹脂ボビンを電動機の固定子に装着することにより巻線を整列巻きすることができる。また、角部突起により樹脂ボビンの歯部に巻き付けた一方の歯部の巻線の断面形状を凹形状とすることができ、他方の歯部に巻き付けた巻線の断面形状を凸形状とすることができるため、隣同士の歯部に巻き回された巻線の断面形状を凹凸形状とすることができ、互いに干渉することなく巻線を整列巻きすることができ絶縁距離を保ちながら近接させることができる。
【0017】
また、特に樹脂ボビンにおける前記角部突起の位置が、隣同士の歯部に装着した樹脂ボビンの一方の歯部のスロット内歯部側面とスロット内底部側面とが交差する位置に設けられ、他方の歯部にはスロット内歯部側面とスロット開口側のスロット内開口部側面とが交差する位置とに設けることにより、樹脂ボビンの一方の歯部に巻き付けた巻線の断面形状を容易に凹形状とすることができ、他方の歯部に巻き付けた巻線の断面形状を容易に凸形状とすることができる。これにより隣同士の歯部に巻き回された巻線の断面形状が凹凸形状となり互いに干渉することなく、巻線を整列巻きすることができ絶縁距離を保ちながら近接させることができる。
【0018】
尚、電動機の固定子が分割された固定子コアを環状に配置した電動機の固定子に用いることにより、隣同士の歯部に巻き付けられた巻線を容易に整列巻きすることができ、隣同士の歯部に巻き付けられた巻線間の絶縁距離を最低限保ちながら多くの巻線を巻き付けることができる電動機の固定子とすることができる。
【0019】
また、環状に配置された固定子のスロット数をN(Nは偶数)スロットとし、固定子の巻線によって発生する磁極数がN−2とした場合、隣同士の歯部に巻き付けた巻線の巻き回方向が互いに逆向きに巻き付けた電動機の固定子では、一方の歯部に巻き付けた巻線の断面形状を凹形状とし、他方の歯部に巻き付けた巻線の断面形状を凸形状とすることができる。これにより隣同士の歯部に巻き回された巻線の断面形状が凹凸形状となり互いに干渉することなく、巻線を整列巻きすることができ絶縁距離を保ちながら近接させることができる。
【0020】
この様な電動機の固定子の巻線の線径がφ0.85〜φ2.5の太い線径を使用する場合でも、巻線の巻き太りがなく固定子の歯部に装着した樹脂ボビンに容易に整列巻きすることができ、巻線を小さく巻き付け銅損失を低減した電動機の固定子とすることができる。また、引いては巻線への傷、破損が少なく、絶縁用ボビン及び積層コア等の破損、変形のない品質を向上した電動機の固定子とすることができる。
【0021】
特に、低電圧で駆動される車両搭載用の電動機の固定子に用いることにより線径の太い巻線を固定子のスロットに整列に巻き付け少しでも多くの巻線を巻き付けることができる。具体的には、電圧が60V以下の場合で駆動運転領域が15000r/min以下の電動機の固定子に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施例について図面を用いて説明する。図1は、環状に配置された電動機の固定子1の歯部A、Bに樹脂ボビンA1、B1が装着され、樹脂ボビンA1、B1の上から巻線3が直接巻き付けられた集中巻き方式における電動機の固定子1の歯部拡大図である。この固定子1の歯部A、Bには、隣同士の歯部A、Bにおける巻線3の巻き回方向が逆向きに巻き付けられている。
【0023】
具体的には、図1での歯部Aは固定子1の内径から見た場合(矢印方向から見た場合)、巻線3の巻き回方向は反時計方向に巻き回されており、歯部Bを固定子1の内径から見た場合(矢印方向から見た場合)、巻線3の巻き回方向は時計方向に巻き回されている。歯部Aと歯部Bは渡り線3bにより繋がれている。歯部Aの巻き始め線の1ターン目から反時計方向に巻き回され11ターン目まで巻き回された後(図2(b)参照)、渡り線3bにより隣の歯部Bへ渡っている。歯部Bでは、歯部Aからの渡り線3bの1ターン目から時計方向に巻き回され最終線の11ターン目まで巻き回されている(図3(b)参照)。本実施形態では歯部Aと歯部Bとは渡り線3bにより繋がれ1セットとなっている。
【0024】
尚、図1に示した電動機の固定子の巻線方法を図6に示している。また結線図を図7に示している。図6の実施形態では歯部A、歯部Bが交互に配置され、隣同士の歯部において巻線3の巻き回方向が逆向きに巻き付けられている。図6では、スロットNO.1〜12に巻線3が装着され、2Y結線された12スロット10極に集中巻きされた電動機の固定子を示している。
【0025】
固定子1の歯部A、Bに装着された樹脂ボビンA1、B1により、固定子1のスロット4内の絶縁を形成している。樹脂ボビンA1、B1は固定子1のスロット4の形状にならった形状であり、スロット4内での主要部分の樹脂ボビンの厚さはt0.3〜t0.8程度になっている。樹脂ボビンの材質としては、PPS、PBT、PET、液晶ポリマー等を使用している。
【0026】
図2には、図1の実施形態における電動機の固定子の歯部Aに装着した樹脂ボビンA1の各断面図を示している。図2(a)は、歯部Aに装着した樹脂ボビンA1の巻線引出し側における樹脂ボビンA1の軸方向断面図である。図2(b)は、歯部Aに装着した樹脂ボビンA1の横断面図。図2(c)は、歯部Aに装着した樹脂ボビンA1の反巻線引出し側における樹脂ボビンA1の軸方向断面図である。また、図4には、図2に示した樹脂ボビンA1の巻線引出し側における部分斜視図を示している。
【0027】
図2(b)及び図4からも解るように樹脂ボビンA1には、固定子1の歯部Aにならった樹脂ボビンA1のスロット内歯部側面A11と樹脂ボビンA1のスロット内底部A12との交差する位置に樹脂ボビンA1をスロット4内に突出した角部突起A20を設けている。
【0028】
この樹脂ボビンA1のスロット内歯部側面A11には、スロット4内に突出した角部突起A20の横から巻線3の巻き始め線3aの1ターン目が、固定子1の内径から見た場合反時計方向に巻き付けられている。これにより、巻線3の巻き始め位置が巻線3の線径のほぼ1/2ピッチ分、巻き始めがスロット内開口部側面A13側にずれることになる。これにより巻線3は隙間なく容易に俵積みし整列巻きすることができる。
【0029】
これにより図2(b)の実施形態では1段目の巻線3は1ターン目から5ターン目までは固定子1のスロット内底部A12からスロット内開口部側面A13まで整列巻きでき、その後、巻き回作業は2段目に折り返しスロット内開口部側面A13からスロット内底部A12に向い6ターン目から順次9ターン目まで整列に巻き回し、次に3段目に折り返しスロット内底部A12からスロット内開口部側面A13に向い10ターン目、11ターン目と、巻線3がずれることなく俵積みし確実に整列巻きすることができる。
【0030】
ここで2段目、3段目の折り返しは、固定子1のスロット4の中央線60(スロット内開口部中央とスロット内底部中央を結んだ線)より若干飛び出している(凸形状となっている)。図1の実施形態においては、1段目から2段目に折り返す際、1段目の3ターン目と4ターン目の巻線3の間に2段目の6ターン目が位置している。更に2段目と3段目の折り返す際は、2段目の8ターン目と9ターン目の巻線3の間に10ターン目が位置するようにしている。
【0031】
これにより巻き回する歯部Aにおける最終ターンの11ターンが若干スロット中央線60から飛び出している(凸形状となっている)が巻線3をほぼ隙間なく密着させて整列巻きすることができる。尚、1段目の3ターン目と4ターン目の巻線3の間に2段目の6ターン目を位置させることや、2段目の8ターン目と9ターン目の巻線3の間に10ターン目を位置させることは、巻線機の制御により容易に決定することができる。
【0032】
次に、図1の実施形態から解るように歯部Aの最終ターンの11ターン目を巻き終えた後、渡り線3bにより、隣の歯部Bへ巻線3が引き廻されている。
【0033】
図3には、図1の実施形態における電動機の固定子の歯部Bに装着した樹脂ボビンB1の各断面図を示している。図3(a)は、歯部Bに装着した樹脂ボビンB1の巻線引出し側における樹脂ボビンB1の軸方向断面図である。図3(b)は、歯部Bに装着した樹脂ボビンB1の横断面図。図3(c)は、歯部Bに装着した樹脂ボビンB1の反巻線引出し側における樹脂ボビンB1の軸方向断面図である。また、図5には、図3に示した樹脂ボビンB1の巻線引出し側における部分斜視図を示している。
【0034】
図3(b)及び図5からも解るように樹脂ボビンB1には、固定子1の歯部Bにならった樹脂ボビンB1のスロット内歯部側面B11と樹脂ボビンB1のスロット内開口部側面B13との交差する位置に樹脂ボビンB1をスロット4内に突出した角部突起B30を設けている。
【0035】
この樹脂ボビンB1のスロット内歯部側面B11には、1段目の巻線3が固定子内径から見た場合、時計方向に巻き回されている。歯部Bにおける巻線3の1ターン目から5ターン目までは固定子1のスロット内底部B12からスロット内開口部側面B13まで整列巻きされているが、1段目の最終ターンである6ターン目を樹脂ボビンB1のスロット内歯部側面B11に密着させ巻き付けることができないため、樹脂ボビンB1のスロット内歯部側面B11とスロット内開口部側面B13とが交差する位置に樹脂ボビンB1をスロット4内に突出した角部突起B30を設け巻線3を整列巻きし、巻線3が崩れない様にしている。
【0036】
これにより、巻線3の1段目の最終ターンである6ターン目は、巻線3の線径のほぼ1/2ピッチ分スロット内歯部側面B11よりスロット4の中央線60側にずれることになる。これにより巻線3が隙間なく容易に俵積みし整列巻きすることができる。
【0037】
尚、この角部突起B30は、2段目に巻線3が折り返す際、巻線3のガイド溝の役目も兼ねており、角部突起B30が仮にないと巻線3をスロット内歯部側面B11に密着させて巻き付けることができなかったり、巻線3を整列巻きすることができずに巻き太りを発生してしまう。
【0038】
その後、巻き回作業は2段目に折り返しスロット内開口部側面B13からスロット内底部B12に向い7ターン目から順次10ターン目まで整列に巻き回し、次に3段目に折り返しスロット内底部B12からスロット内開口部側面B13に向い最終線3Cの11ターン目の巻線3がずれることなく俵積みし確実に整列巻きすることができる。
【0039】
ここで2段目、3段目の折り返しは、固定子1のスロット4の中央線60(スロット内開口部中央とスロット内底部中央を結んだ線)よりほぼ飛び出さないようにしている(凹形状となっている)。従って、図1の実施形態においては、1段目から2段目に折り返す際、1段目の4ターン目と5ターン目の巻線3の間に2段目の7ターン目が位置している。更に2段目と3段目の折り返す際は、2段目の10ターン目とスロット内底部側面B12との間に最終線3Cの11ターン目の巻線3が位置するようにしている。
【0040】
また、このことからもわかる様に、歯部Aと歯部Bとに巻き付けた巻線3は、確実に密着させ正確に整列巻きすることができ、歯部Aの樹脂ボビンA1に巻き付けられた巻線3の1ターン目から11ターン目の総断面形状は、固定子1のスロット4の中央線60(スロット内開口部中央とスロット内底部中央を結んだ線)より若干飛び出した凸形状となっており、逆に、歯部Bの樹脂ボビンB1に巻き付けられた巻線3の1ターン目から11ターン目の総断面形状は、固定子1のスロット4の中央線60(スロット内開口部中央とスロット内底部中央を結んだ線)より飛び出さないような凹形状となっている。これにより、歯部Aと歯部Bに巻き付けた隣同士の巻線3の断面形状が凹凸形状となり最低限の絶縁距離を確保しながら、隣同士の巻線3が干渉することなく多くの巻線3を巻くことができる。
【0041】
尚、樹脂ボビンA1のスロット内歯部側面A11及び、樹脂ボビンB1のスロット内歯部側面B11には、巻線3を巻き付けるためのガイド溝50を設けている。ガイド溝50は巻線3を整列巻きする際、巻線3の整列巻きがずれないように巻線3の線径が確実に凹溝に収まるように波型形状の凹凸溝としている。このガイド溝50により太い線径の巻線でも比較的容易に樹脂ボビンA1、B1のスロット内歯部側面A11、B11に巻線3が乱れることなく整列巻きさせることができ、本実施形態との相乗効果により、よりよい効果を得ることができる。
【0042】
また、図1〜図4に示した実施形態を用いる場合、歯部を環状に配置させた固定子1の構造であれば、隣同士の歯部Aと歯部Bは、分割した固定子コア片とすることが好ましい。これにより、歯部A及び歯部Bに巻線3を巻き付ける際に巻線機等のノズルが通過する隙間を考慮することなく巻線3を巻き付けることが可能となり、歯部A、Bに多くの巻線3を巻き付けることができ電動機の性能を向上させることができる。従って、先に説明したように歯部Aと歯部Bの巻線間の隙間を最低限の絶縁距離のみ考慮するだけで巻線3を巻き付けることができる。
【0043】
図1〜図4に示した実施形態においては、固定子1の内径中心として歯部毎に径方向に分割した固定子コア片を固定子1の円周方向に環状に配置させ結合している。結合方法は、結合部分をレーザ等で溶接しても良いが、固定子コア片の歯部を環状に付け合せたのみでケース等に圧入、焼きバメ等により保持、固定しても良い。この場合、レーザ等による溶接を行わないため固定子コア片を形成している薄板鉄板の積層間に溶接の溶け込みが無く、薄板鉄板間の短絡がなくなり鉄損失を増やすこともない。尚、歯部を環状に配置させた固定子1の分割方法は、この方法に限定されるものではなく、例えば、固定子の歯部分とヨーク部分との2分割の固定子コア片としてもよい。
【0044】
また、環状に配置された固定子1のスロット数がN(Nは偶数)スロットの時、固定子1の巻線3によって発生する磁極数がN−2とした場合、隣同士の歯部A、Bに巻き付けた巻線3の巻き回方向が逆向きに巻き付けた電動機の固定子となるため、歯部Aと歯部Bに巻き付けた巻線3の巻き回方向の違いにより巻線3の総断面形状を変えることができる。例えば、歯部Aでは巻き付けた巻線3の総断面形状を凸形状とした場合、歯部Bでは巻き付けた巻線3の総断面形状を凹形状とすることができ、歯部Aと歯部Bに巻き付けた巻線3の総断面形状は凸凹形状が若干の隙間をおいて対峙した形状となる。これにより歯部Aと歯部Bの巻線間の絶縁距離を最低限考慮するだけで巻線3を歯部に多く巻き付けることができ、電動機の性能を向上させることができる。
【0045】
尚、特に電動機のシャフトにかかる磁気バランスの均衡を考慮した場合、固定子のスロット数が12スロットの場合は、固定子の巻線によって発生する磁極数としては10極(回転子の磁極数としてはN±2となり、10極または14極となる。)、或いは、固定子のスロット数が18スロットの場合は、固定子の巻線によって発生する磁極数16極(回転子の磁極数としてはN±2となり、16極または20極となる。)が好ましい。
【0046】
また、図1〜図4に示した実施形態の電動機の固定子の樹脂ボビンA1、B1の角部突起A20、B30は、歯部A、Bに巻き付けられた巻線3の線径がφ0.85未満の場合においては、歯部A、Bに巻線3を巻き付ける際、巻線3が歯部A、Bに馴染み整列巻きや、巻き太りを考慮しなくても巻線3を比較的容易に巻き付けることができる。逆に、歯部A、Bに巻き付けられた巻線3の線径がφ2.6以上の場合においては、樹脂ボビンA1、B1に角部突起A20、B30を設けても、巻線3の線径が太過ぎるため巻き回する自由度が少なく角部突起A20、B30を設けた効果を十分に得ることができない。従って、おもに歯部Aと歯部Bに巻き付けられる巻線3の線径がφ0.85〜φ2.5を用いた場合において樹脂ボビンA1、B1の角部突起A20、B30の効果を最大限に発揮することができる。
【0047】
また、この様な電動機の固定子を低電圧で駆動される車両搭載用の電動機の固定子に用いることにより線径の太い巻線を固定子のスロットに整列に巻き付け、少しでも多くの巻線を巻き付けることができる。更に、巻線を小さく巻くことができるため銅損失を低減することができ電動機性能が向上することができる。特に、車両駆動用の電動機の固定子や、電動用パワーステアリングの電動機の固定子とすることにより性能を向上させることができる。また、巻線への傷、破損が少なく、絶縁用ボビン及び積層コア等の破損、変形のない品質を向上した電動機の固定子とすることができる。具体的には、電圧が60V以下の場合で駆動運転領域が15000r/min以下の電動機の固定子に適している。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施形態による電動機の固定子の歯部拡大図。
【図2】図1の実施形態による電動機の固定子の歯部Aに装着した樹脂ボビンA1の各断面図。
【図3】図1の実施形態による電動機の固定子の歯部Bに装着した樹脂ボビンB1の各断面図。
【図4】図2の実施形態の歯部Aに装着した樹脂ボビンA1における部分斜視図。
【図5】図3の実施形態の歯部Bに装着した樹脂ボビンB1における部分斜視図。
【図6】図1の実施形態における各歯部に巻き付けた巻線方法。
【図7】図6の巻線方法による電動機の固定子の結線図。
【符号の説明】
【0049】
1・・・固定子、2・・・ヨーク、3・・・巻線、3a・・・巻き始め線、3b・・・渡り線、3c・・・最終線、4・・・スロット、A,B・・・歯部、A1,B1・・・樹脂ボビン、A11,B11・・・スロット内歯部側面、A12,B12・・・スロット内底部側面、A13,B13・・・スロット内開口部側面、A20,B30・・・角部突起、50・・・ガイド溝、60・・・固定子のスロットの中央線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機の固定子の歯部が環状に配置され、前記歯部には樹脂ボビンを装着し巻線が集中巻きされ、前記巻線の巻き回方向は隣同士の前記歯部において逆向きに巻き付けられた電動機の固定子であって、
前記樹脂ボビンのスロット内側面には巻線を整列巻きにするための角部突起が設けられたことを特徴とする電動機の固定子。
【請求項2】
前記角部突起は、隣同士の前記歯部に装着した樹脂ボビンの一方の歯部のスロット内歯部側面とスロット内底部側面とが交差する位置に設けられ、他方の歯部にはスロット内歯部側面とスロット開口側のスロット内開口部側面とが交差する位置とに設けられたことを特徴とする請求項1に記載の電動機の固定子。
【請求項3】
前記電動機の固定子は分割された固定子コアで、環状に配置されたことを特徴とする請求項1項または請求項2項に記載の電動機の固定子。
【請求項4】
前記電動機の固定子に巻線を巻き付けるためのスロット数はN(Nは偶数)スロットを有し、前記固定子の巻線によって発生する磁極数はN−2であることを特徴とする請求項1項及至請求項3項いずれかに記載の電動機の固定子。
【請求項5】
前記電動機の固定子の歯部に巻き付けられた線径は、φ0.85〜φ2.5であることを特徴とする請求項1項及至請求項4項いずれかに記載の電動機の固定子。
【請求項6】
前記固定子を、車両搭載用電動機に用いたことを特徴とする請求項1項及至請求項5項いずれかに記載の電動機の固定子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−296146(P2006−296146A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−116596(P2005−116596)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(000100872)アイチエレック株式会社 (58)
【Fターム(参考)】