説明

電動機用歯車装置

【課題】高速走行が可能な車両への搭載に適した電動機用歯車装置を提供する。
【解決手段】車両に搭載された電動機と組み合わされる電動機用歯車装置1において、電動機の動力を伝達する歯車列が収容される歯車箱2に、該歯車箱2の内外を結ぶブリーザ通路8を設け、そのブリーザ通路8には、歯車箱2の内圧が外圧よりも許容範囲を超えて相対的に低下したときにブリーザ通路8を閉じる閉弁機構10を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の電動機と組み合わされる歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の駆動系には、電動機の回転を減速して車軸に伝達するための歯車装置が設けられている。その歯車装置は、一般的には、台車に据え付けられる歯車箱内に電動機側の小歯車と車軸側の大歯車とが噛み合い状態で収容された構成を備えている。この種の歯車装置では、歯車箱の内外の圧力差を低減するためのブリーザ装置が設けられている。そののブリーザ装置は、歯車箱の内外を単純にブリーザ通路で結ぶだけのいわゆる開放型である(例えば特許文献1参照)。内燃機関のクランクケースにもブリーザ装置が設けられているが、そのブリーザ装置には、ブリーザ通路を必要に応じて開閉する弁機構等が設けられている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−196769号公報
【特許文献2】実公昭61−35826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関のクランクケースの場合、ピストンの往復運動によってケースの内圧に脈動が生じ、かつ燃焼室からのブローバイガスがケース内に吹き抜ける。そのため、ケース内の圧力の変化が頻繁でかつその振幅も大きい。したがって、クランクケースを単純な開放型のブリーザ通路で結ぶだけでは、潤滑油やブローバイガスの漏れが深刻化する。そのような理由から弁機構が必須とされている。これに対して、車両の電動機用歯車装置では、ピストンの往復運動やブローバイガスの流入のように、圧力を大きく変動させる要因となるものが歯車箱内に存在しない。歯車の回転速度の変化により歯車箱内の圧力が変化するとしても、回転速度の変化もさほど頻繁ではない。したがって、電動機用歯車装置では、潤滑油の漏れは深刻化せず、開放型のブリーザ通路のみで十分とされていた。しかしながら、車両の最高速度が上昇するに伴って、別の要因による問題が生じつつある。一例として、トンネル内で車両同士が高速ですれ違う場合、トンネル内の圧力が大気圧から急激に低下する。この場合、歯車箱の外圧が内圧よりも急激に低下し、それにより、歯車箱内の潤滑油が外部に漏れ出すおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、高速走行が可能な車両への搭載に適した電動機用歯車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の歯車装置は、車両に搭載された電動機と組み合わされる電動機用歯車装置であって、前記電動機の動力を伝達するための歯車列が収容される歯車箱に、該歯車箱の内外を結ぶブリーザ通路が設けられ、前記ブリーザ通路には、前記歯車箱の外圧が内圧よりも許容範囲を超えて相対的に低下したときに当該ブリーザ通路を閉じる閉弁機構が設けられたものである。
【0007】
本発明の一形態において、前記閉弁機構は、前記ブリーザ通路内に設けられた弁室と、当該弁室の内部に上下動可能に収容された弁体とを含み、前記弁体が自重で前記弁室内で降下しているときには前記弁体と前記弁室との隙間を介して前記フロート室の前後が連絡し、前記外圧が内圧よりも前記許容範囲を超えて相対的に低下したときには前記弁体が前記フロート室内で上昇して前記ブリーザ通路を閉じるように構成されてもよい。また、前記ブリーザ通路には、前記閉弁機構による閉鎖位置よりも前記歯車箱の外側に位置するようにしてフィルタが設けられてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、歯車箱の外圧が内圧よりも許容範囲を超えて相対的に低下したとき、閉弁機構によりブリーザ通路が閉じられる。そのため、高速走行中の車両同士がトンネル内ですれ違うような場合には、トンネル内の圧力低下に応答してブリーザ通路を閉弁機構で閉鎖させ、それにより、歯車箱内の潤滑油の漏れを阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一形態に係る電動機用歯車装置の要部を示す断面図。
【図2】閉弁機構が開いている状態を示す部分拡大図。
【図3】閉弁機構が閉じている状態を示す部分拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の一形態に係る電動機用歯車装置(以下、単に歯車装置と呼ぶことがある。)の要部を示している。この歯車装置1は、鉄道車両の駆動用原動機としての電動機の回転を減速して車軸に伝達するものである。歯車装置1は、歯車箱2を有している。歯車箱2は鉄道車両の台車に据え付けられる。据え付け時の上下方向は図1の上下方向と概ね一致する。歯車箱2は、本体と蓋材とを組み合わせた構成を有しているが、図1では蓋材部分のみが示されている。歯車箱2の内部のギア室3には、不図示の歯車列が収容されている。歯車列は、一例として、電動機側に接続される小歯車と車軸側に接続される大歯車とを噛み合わせた構成である。歯車箱2には、電動機からの回転を小歯車に伝える入力軸と、大歯車と同軸的に組み合わされる車軸とが、本体を貫くようにしてそれぞれ装着されるが、それらの図示は省略した。なお、これらの軸部材が歯車箱2を貫通する部分は適宜にシールされる。ギア室3には、歯車列に対する潤滑油が供給される。
【0011】
歯車箱2の上部には、ギア室3から側方に伸びるように空洞部2aが設けられ、その空洞部2aの上方にはブリーザ装置5が設けられている。ブリーザ装置5は、歯車箱2の上部に一体形成された台座部6と、その台座部6に固定されるブリーザキャップ7と、台座部6及びブリーザキャップ7を貫くように延ばされて一端が空洞部2aに、他端がブリーザキャップ7の外部にそれぞれ開口するブリーザ通路8とを備えている。ブリーザ通路8は、台座部6に設けられた上下方向の第1通路8aと、ブリーザキャップ7に設けられた上下方向の第2通路8bと、第2通路8bの上端から水平方向に延ばされた第3通路8cとを含む。ただし、ブリーザ通路8の形状は一例であり、その流路構成は適宜に変形してよい。
【0012】
台座部6とブリーザキャップ7との接合面間はパッキン9にてシールされている。パッキン9の内側には、閉弁機構10が設けられている。閉弁機構10は、フロート室(弁室)11と、そのフロート室11に収容されたフロート(弁体)12とを含んでいる。フロート室11は、第1通路8aの上端側の拡大部8dと、及び第2通路8bの下端側の拡大部8eを組み合わせて形成されている。
【0013】
図2に拡大して示すように、フロート12は、拡大部8dに入り込むフロート軸12aと、そのフロート軸12aの上端から半径方向外側に拡大するよう設けられたフランジ12bとを有している。フロート軸12aの外径は拡大部8dの内径よりも小さい。フランジ12bは、台座部6の上面と密着可能であり、その下面には通気溝12cが形成されている。フランジ12bの外径は拡大部8eの内径よりも小さく、かつフランジ12bの上下方向の厚さは拡大部8eの上下方向の深さよりも小さい。
【0014】
図1に戻って、第2通路8bのフロート12よりも上方、すなわち、歯車箱2の内部からみてフロート12よりも外側の位置にはフィルタ14が設けられている。フィルタ14は、ギア室3からの気流に含まれている潤滑油のミスト成分をキャッチしてその流出を抑えるために設けられている。
【0015】
以上のような歯車装置1においては、歯車箱2の内外の圧力が等しい場合、フロート12がその自重で降下する。これにより、図2に示すように、フロート12のフランジ12bが台座部6と密着する。その状態では、第1通路8aと第2通路8bとは、フロート12とフロート室11との間の隙間、具体的には、フロート軸12aの外周の隙間、通気溝12c、フランジ12bの外周側及び上面側の隙間を介して互いに通じている。したがって、歯車箱2の内部と外部との間では、ブリーザ通路8を介して通気が可能である。歯車箱2の外圧が内圧よりも低下すると、フロート12にはその内外の圧力差に応じてこれを引き上げる力(浮力と呼ぶ。)が発生する。しかし、その浮力がフロート12の自重を超えない範囲では、フロート12が図2の位置に保持される。この状態では、ブリーザ通路8を介した歯車箱2の内外の圧力差の低減機能が維持される。一方、フロート12に作用する浮力が、自重による下向きの力を超えると、図3に矢印で示すようにフロート12が上昇する。これにより、フランジ12bの上面が第2通路8bの拡大部8eの上面(フロート室11の上面)と密着する。これにより、第1通路8aと第2通路8bとの間でブリーザ通路8が閉鎖され、歯車箱2の内部から外部への圧力の抜けが阻止される。したがって、歯車箱2内の潤滑油のミスト成分が、ブリーザ通路8を介して歯車箱2の外部へ漏れ出すおそれがなくなる。
【0016】
フロート12がブリーザ通路8を閉鎖するときの圧力差(フロート12の動作圧力)は適宜に設定してよいが、歯車箱2の内外の圧力差が許容範囲にある限りブリーザ通路8を介した通気が可能な状態が維持され、圧力差が許容範囲を超えて拡大したとき、すなわち、外圧が内圧よりも許容範囲を超えて低下したときにフロート12が上昇してブリーザ通路8を閉じるように設定すればよい。一例として、歯車装置1を搭載した車両が所定限度を超える高速域(一例として300km/h以上)で走行中にトンネル内ですれ違うときの潤滑油の漏れを阻止するためには、そのすれ違い時に発生するトンネル内の圧力の降下量を実測又は推定し、その圧力降下に伴って発生し得る歯車箱2の内外の圧力差よりも小さい圧力差でフロート12がブリーザ通路8を閉鎖するように、フロート12の動作圧力を設定すればよい。
【0017】
上記の歯車装置1によれば、フロート12によるブリーザ通路8の閉鎖位置、つまりフランジ12bと拡大部8eの上面との接触位置よりもフィルタ14が歯車箱2の外側に位置している。したがって、歯車箱2の外圧が内圧よりも急激に低下して歯車箱2内の潤滑油のミスト成分がブリーザ通路8に吸い込まれても、フロート12によりブリーザ通路8が閉鎖されることにより、フィルタ14が大量のミスト成分に晒されるおそれはない。これにより、フィルタ14の目詰まりの進行が抑えられる。よって、フィルタ14のメンテナンスや交換の周期を長時間化することができる。
【0018】
本発明は上述した形態に限定されず、種々の形態にて実施してよい。例えば、フィルタ14は必ずしもこれを装着することを必要としない。閉弁機構10は、台座部6又はブリーザキャップ7のいずれか一方にその全体が収容される構成でもよい。通気溝12cに代えて、又は加えて台座部6の上面に通気溝が形成されてもよい。閉弁機構10は弁体としてのフロート12を圧力差で駆動する例に限らない。ブリーザ通路8に配置された弁体をばね等の弾性部材で開弁方向(図1では下方向)に押え付け、歯車箱2の内圧が外圧よりも許容範囲を超えて上昇したときにその弁体を閉弁方向(図1では上方向)に動作させる構成でもよい。その他にも、リード弁のような弾性材料製の弁体をブリーザ通路の途中に設け、弁体の弾性力を利用してブリーザ通路の開放及び閉鎖を圧力差に応じて切り替えるようにしてもよい。本発明の歯車装置が搭載される車両は高速鉄道車両に限定されず、自動車その他の車両であっても、高速走行に伴って本発明と同様の課題が生じる限りにおいて適宜にこれを適用してよい。
【符号の説明】
【0019】
1 電動機用歯車装置
2 歯車箱
5 ブリーザ装置
6 台座部
7 ブリーザキャップ
8 ブリーザ通路
10 閉弁機構
11 フロート室(弁室)
12 フロート(弁体)
14 フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された電動機と組み合わされる電動機用歯車装置であって、前記電動機の動力を伝達するための歯車列が収容される歯車箱に、該歯車箱の内外を結ぶブリーザ通路が設けられ、前記ブリーザ通路には、前記歯車箱の外圧が内圧よりも許容範囲を超えて相対的に低下したときに当該ブリーザ通路を閉じる閉弁機構が設けられている電動機用歯車装置。
【請求項2】
前記閉弁機構は、前記ブリーザ通路内に設けられた弁室と、当該弁室の内部に上下動可能に収容された弁体とを含み、前記弁体が自重で前記弁室内で降下しているときには前記弁体と前記弁室との隙間を介して前記フロート室の前後が連絡し、前記外圧が内圧よりも前記許容範囲を超えて相対的に低下したときには前記弁体が前記フロート室内で上昇して前記ブリーザ通路を閉じるように構成されている請求項1に記載の電動機用歯車装置。
【請求項3】
前記ブリーザ通路には、前記閉弁機構による閉鎖位置よりも前記歯車箱の外側に位置するようにしてフィルタが設けられている請求項1又は2に記載の電動機用歯車装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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