説明

電動機

【課題】
電動機の固定子に巻線したコイルエンド部の層間における絶縁不良を低減し、絶縁材料の使用量を低減した電動機を提供する。
【解決手段】
固定子鉄心の軸方向に貫通したスロットが設けられ、前記スロットには分布巻方式による巻線を挿入し、前記巻線は前記固定子鉄心の両端面から固定子軸方向に飛び出したコイルエンド部を形成し前記コイルエンド部の各層間を絶縁する層間絶縁を有した電動機において、前記層間絶縁はコイルエンド部を絶縁する第1の絶縁部と、第1の絶縁部とは反対側のコイルエンド部を絶縁する第2の絶縁部とを繋ぐ脚部とを備え、第1の絶縁部及び第2の絶縁部の周方向両端部は、両端部同士が重なるように装着させ、各層の内側に挿入される次層の巻線の分かれ目両端部に位置するスロットには前記層間絶縁の脚部を挿入したことを特徴とする電動機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定子鉄心のスロットに分布巻方式の巻線を施し、コイルエンド部の各層間に層間絶縁を施した電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような電動機は、特許文献1(特開2006−87153号公報)に示すような電動機がある。
特許文献1では固定子鉄心の軸方向に貫通したスロットに巻線が挿入され、巻線は固定子鉄心の軸方向端部から飛び出したコイルエンド部分の異層間を絶縁する絶縁部と、前記絶縁部を連結する複数の脚部を備えた層間絶縁において、絶縁部材の端部の脚部を同一スロット内で重なるように挿入している。これにより、コイルエンド成形時に絶縁部材が移動し異なる層と接触し絶縁不良が発生するのを低減している。
【0003】
【特許文献1】特開2006−87153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のような三相電動機の層間絶縁は、外層コイルを挿入後、中層コイルが挿入し易いように、外層コイルのコイルエンド部を固定子外径方向に押し広げるように成形を施し、次にコイルエンド部の内周に沿うように層間絶縁を配置し中層コイルを挿入する。中層コイルを挿入する際、巻線の挿入圧力により、外層コイルと中層コイルの間に配置させた層間絶縁が巻き込まれ、外層コイルと中層コイルの巻線同士が接触し絶縁不良となっている。
【0005】
同様に、中層コイルを挿入後、内層コイルが挿入し易いように、外層コイル及び中層コイルのコイルエンド部を固定子外径方向に押し広げるように成形を施し、次にコイルエンド部の内周に沿うように層間絶縁を配置し内層コイルを挿入する。内層コイルを挿入する際、巻線の挿入圧力により、中層コイルと内層コイルの間に配置させた層間絶縁が巻き込まれ、中層コイルと内層コイルの巻線同士が接触し絶縁不良となっている。
【0006】
また、外層コイルを挿入後に層間絶縁を配置させ中層コイルを挿入した後、更に、内層コイルが挿入し易いように外層、中層コイルのコイルエンド部を固定子外径方向に押し広げて成形を施す際に層間絶縁の脚部とコイルエンド部分の絶縁部材との繋ぎ部分が引っ張られ切れてしまい絶縁不良になることが多い。
【0007】
同様に、固定子鉄心に外層コイルと中層コイルを挿入後、層間絶縁を配置し、内層コイルを挿入し前記同様の成形を施す際にも、層間絶縁の脚部とコイルエンド部分の絶縁部材との繋ぎ部分が引っ張られ切れてしまい絶縁不良となることが多い。
【0008】
また、逆に層間絶縁不良を気にするあまりコイルエンド部の大きな層間絶縁を用いると、層間絶縁の余分な部分がコイルエンド部から飛び出し、コイルエンド部成形後に除去しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、三相電動機または単相電動機の固定子鉄心の軸方向に貫通したスロットに、巻線が分布巻方式によって挿入された電動機において、前記巻線は固定子鉄心の両端面から軸方向に飛び出したコイルエンド部を有し、前記コイルエンド部には三相電動機または単相電動機の各層間を絶縁する層間絶縁が施された電動機において、
前記層間絶縁は固定子鉄心の両端面から固定子軸方向に飛び出たコイルエンド部を絶縁する第1の絶縁部と、
前記絶縁部とは反対の固定子鉄心の端面から固定子軸方向に飛び出たコイルエンド部を絶縁する第2の絶縁部と、
前記第1の絶縁部と前記第2の絶縁部を繋ぐ脚部とを備え、
前記層間絶縁の第1の絶縁部及び第2の絶縁部の周方向両端部は、両端部同士が重なるように固定子鉄心に装着させ、
スロットに挿入された各層の内側に挿入される次層の巻線の分かれ目両端部に位置するスロットには前記層間絶縁の脚部を必ず挿入した電動機としている。
【0010】
また、前記層間絶縁の第1の絶縁部と第2の絶縁部とを繋ぐ脚部は固定子鉄心の積厚に対して10±5mmとしている。
【0011】
または前記層間絶縁の第1の絶縁部と第2の絶縁部とを繋ぐ脚部とで囲まれた空間部に面する第1の絶縁部の辺と第2の絶縁部の辺は絶縁部側に切り欠いた段付き形状としている。この絶縁部を切り欠いた段付き形状は、前記層間絶縁の第1の絶縁部と第2の絶縁部とを繋ぐ脚部に対して直角に伸びた第1の絶縁部の辺及び第2の絶縁部の辺に設けられ、前記第1の絶縁部の辺と第2の絶縁部の辺と脚部とで囲まれた空間部側へ固定子のスロットピッチで略1スロットピッチ程度内側に入り込んだ位置から絶縁部側に切り欠いた段付き形状としている。
【0012】
そして、前記層間絶縁の第1の絶縁部と第2の絶縁部との周方向端部の一方端は周方向に飛び出た耳部が設けられ、他方端には耳部が設けられていない形状となっている。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、分布巻き方式で巻線をスロットに挿入した三相電動機及び単相電動機に用いることにより各層間での巻線の接触を防ぎ絶縁不良を低減することができる。特に、巻線を固定子鉄心のスロットに挿入する際の挿入圧力により層間絶縁が巻き込まれ巻線同士の接触を防ぐことができる。また、固定子鉄心のスロットに挿入する挿入圧力により層間絶縁の脚部が切れて巻線同士が接触することもない。
【0014】
そして、前記層間絶縁の第1の絶縁部と第2の絶縁部とを繋ぐ脚部を固定子鉄心の積厚に対して10±5mmとすることにより、各層のスロットに挿入した巻線の立ち上がり部での接触を防ぐことができ、固定子鉄心のスロットに層間絶縁の脚部を容易に挿入することができる。
【0015】
また、層間絶縁の第1の絶縁部と第2の絶縁部とを繋ぐ脚部とで囲まれた空間部に面する第1の絶縁部の辺と第2の絶縁部の辺は絶縁部側に切り欠いた段付き形状とすることにより、前記同様に各層間での接触を防ぐことができ、作業性を向上させることができる。
【0016】
尚、段付き形状の切り欠き部分は、層間絶縁の第1の絶縁部と第2の絶縁部とを繋ぐ脚部とで囲まれた空間部側へ固定子のスロットピッチの略1スロットピッチ程度内側に入り込んだ位置から絶縁部側に切り欠いた段付き形状とすることにより、各層の巻線を固定子のスロットに挿入し固定子の外径側に大きく成形しても層間絶縁の脚部の根元部において略1スロットピッチ程度内側に入り込んだ位置から絶縁部側に切り欠いた段付き形状としているので、この段付き形状により次層に挿入される巻線のスロット根元部分における巻線同士の接触を低減し絶縁不良を低減することができる。また、絶縁部側に切り欠いた段付き形状としているので、巻線を固定子の外径側に大きく成形しても固定子内径側に層間絶縁が飛び出ることもない。
【0017】
また、層間絶縁の第1の絶縁部と第2の絶縁部との周方向端部の一方端は周方向に飛び出した耳部が設けられ、他方端には耳部が設けられていない形状とすることにより、耳部が設けられていない側は、巻線と巻線の境目である分かれ目部分において層間絶縁部の端部が固定子内径側もしくは固定子外径側に飛び出すのを防止することができ、尚且つ絶縁材料の使用量を低減することができる。逆に耳部を設けている側は、固定子鉄心のスロットに層間絶縁の脚部を挿入する際、耳部を引っ張りながら脚部を挿入できるので作業性が向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施形態を図面を用いて説明する。図1は本発明の実施形態の電動機の固定子30である。図2は図1に示した電動機の固定子30の矢視方向Fから見た図である。尚、図1及び図2では図を解りやすくするためにコイルエンド部32及び33を固定する固定紐及び、層間絶縁40,50の図示を省略している。
【0019】
図1及び図2に示した電動機の固定子30は、複数の薄板電磁鋼板を積層した固定子鉄心31であり、ヨーク31bから固定子内径方向に突出しているティース31aによってスロット34を構成している。スロット34には、スロット絶縁35が施され分布巻方式による巻線36が挿入されている。本実施形態の固定子30のスロット数は24スロットであり、図2及び図3に示す様に巻線36は外層コイル36aが固定子鉄心31のスロットNO.1と6、7と12、13と18、19と24に挿入され、次に中層コイル36bが固定子鉄心31のスロットNO.3と8、9と14、15と20、21と2に挿入され、最後に内層コイル36cが固定子鉄心31のスロットNO.5と10、11と16、17と22、23と4に挿入した三相4極の電動機である。尚、この場合の外層コイル36aはU相,V相、W相のどれか1つを構成する外相コイルであり、中層コイル36bはU相,V相、W相のどれか1つを構成する中相コイルであり、内層コイル36cはU相,V相、W相のどれか1つを構成する内相コイルとなっており各層間は各相間となっている。
【0020】
本実施形態の電動機の巻線36は、1スロット1コイルであり固定子鉄心31のスロット34には巻線機で同心巻きに巻かれた巻線36を、インサータと称される巻線挿入装置によりスロット34内に挿入している。巻線挿入装置は巻線36を挿入する際、挿入された巻線束が固定子内径側に開口しているスロット開口部側からこぼれて絶縁不良とならないようにクサビを同時に挿入している。
【0021】
固定子鉄心31のスロット34に巻線36を挿入する手順は、固定子鉄心31のスロット34にスロット絶縁35が配置され、その上から外層コイル36aを挿入している。次に、中層コイル36bが挿入し易いように外層コイル36aの固定子鉄心31の端面から飛び出しているコイルエンド部32、33を固定子30の外径側に大きく開くように成形している。その後、次に挿入される巻線36(この場合は中層コイル36b)と接触して絶縁不良とならないように外層コイル36aと中層コイル36bとの間に層間絶縁40を挿入している。
【0022】
同様に中層コイル36bが挿入され、次に内層コイル36cが挿入し易いように中層コイル36bの固定子鉄心31の端面から飛び出しているコイルエンド部32、33を固定子30の外径側に大きく開くように成形している。その後、挿入される巻線36(この場合は内層コイル36c)と接触して絶縁不良とならないように中層コイル36bと内層コイル36cとの間に層間絶縁50が挿入されている。そして最後に内層コイル36cが挿入される。
【0023】
本実施形態の層間絶縁40は固定子鉄心31の両端面から固定子軸方向に飛び出たコイルエンド部32を絶縁する第1の絶縁部40aと、この第1の絶縁部40aと反対側の固定子鉄心31の端面から固定子軸方向に飛び出たコイルエンド部33を絶縁する第2の絶縁部40bと、第1の絶縁部40aと第2の絶縁部40bを繋ぐ脚部40Xとを備えている。脚部40Xは固定子鉄心31のスロット34内に装着し、固定子鉄心31から飛び出したコイルエンド部32を絶縁する第1の絶縁部40aと第2の絶縁部40bとを繋いでいる。
【0024】
この層間絶縁40は図4で示す様に1枚で構成している。これとは逆に各層間を複数枚で絶縁する場合は巻線同士が接触しないように層間絶縁のコイルエンド部分に位置する第1の絶縁部と第2の絶縁部の周方向端部から飛び出した耳部の重なりを多くしなければならないため絶縁材料の使用量が多くなってしまうが、本実施形態の層間絶縁40は1枚で構成しているので層間絶縁40の重なり部が1ヶ所となり絶縁材料の使用量を大幅に削減できる。また、各層間での巻線同士の接触も少なくなり絶縁不良も低減することができる。
【0025】
更に、本実施形態では層間絶縁40の重なりを極力低減し材料費を削減するために層間絶縁40のコイルエンド部分32,33における第1の絶縁部と第2の絶縁部の周方向両端部から飛び出した耳部40aa、40bbの片方をなくし反対側の一方の耳部40aa、40bbのみとしている。これにより層間絶縁40の材料の使用量を削減ができ巻線間同士の接触も防ぐことができる。また、この耳部40aa、40bbの片方がないことによりコイルエンド部32、33からの層間絶縁40の余分な飛び出しを除去する手間を低減することができる。
【0026】
また、一方の耳部40aa、40bbがあることにより、固定子鉄心31のスロット34に層間絶縁40の脚部40Xを挿入する際、この層間絶縁40の周方向端部の耳部40aa、40bbを引っ張りながら挿入することができ層間絶縁40の脚部40Xが挿入し易くなっている。層間絶縁40の脚部40Xを固定子鉄心31のスロット34に挿入する順番は層間絶縁40の耳部40aa、40bbがない側の脚部40XのNO.1から順にNO.10が挿入され最後の脚部40XのNO.10を挿入する際、この層間絶縁40の周方向端部の耳部40aa、40bbが突出して飛び出していることによりこの耳部40aa、40bbを引っ張りながら挿入することができ層間絶縁40の脚部40Xが挿入し易く作業性が向上できる。
【0027】
層間絶縁40の脚部40Xは、固定子30のスロット34に外層コイル36aが挿入された後、次に挿入される中層コイル36bの巻線36の分かれ目両端部に位置するスロット34に挿入している。図3では、外層コイル36aのA1、B1、C1、D1が挿入された後に、次に挿入される中層コイル36bの巻線36の分かれ目両端部に位置するスロット34のNO.8,9に脚部40XのNO.1,2、スロット34のNO.14,15に脚部40XのNO.3,4、スロット34のNO.20,21に脚部40XのNO.5,6、スロット34のNO2,3に脚部40XのNO.7,8及びスロット34のNO.8,9に脚部40XのNO.9,10が重なるように挿入されている。
【0028】
次に、中層コイル36bのA2、B2、C2、D2が挿入される。脚部40XのNO.1,2及びNO.9,10が挿入された固定子30のスロット34のNO.8,9には中層コイル36bの分かれ目部の巻線束D2b、A2aが挿入され、脚部40XのNO.3,4が挿入された固定子30のスロット34のNO.14,15には中層コイル36bの分かれ目部の巻線束A2b、B2aが挿入され、脚部40XのNO.5,6が挿入された固定子30のスロット34のNO.20,21には中層コイル36bの分かれ目部の巻線束B2b、C2aが挿入され、脚部40XのNO.7,8が挿入された固定子30のスロット34のNO.2,3には中層コイル36bの分かれ目部の巻線束C2b、D2aが挿入されている。
【0029】
このようにスロット34に挿入された外層コイル36aの内側に挿入される中層コイル36bの巻線36の分かれ目両端部に位置するスロット34に層間絶縁40の脚部40Xを必ず挿入することにより、中層コイル36bをスロット34に挿入する際の挿入圧力により層間絶縁40が持ち上げられ(巻き込まれ)外層コイル36aと中層コイル36bが接触し絶縁不良となることもない。また、分かれ目両端部に位置するスロット34に脚部40Xを挿入することにより中層コイル36bをスロット34に挿入する挿入圧力により層間絶縁40の脚部40Xが切れて接触することもない。
【0030】
また、同様に層間絶縁50の脚部50Xは、固定子30のスロット34に中層コイル36bが挿入された後、次に挿入される内層コイル36cの巻線36の分かれ目両端部に位置するスロット34に挿入している。図3では、中層コイル36bのA2、B2、C2、D2が挿入された後に、次に挿入される内層コイル36cの巻線36の分かれ目両端部に位置するスロット34のNO.10,11に脚部50XのNO.11,12、スロット34のNO.16,17に脚部50XのNO.13,14、スロット34のNO.22,23に脚部50XのNO.15,16、スロット34のNO4,5に脚部50XのNO.17,18及びスロット34のNO.10,11に脚部50XのNO.19,20が重なるように挿入されている。
【0031】
次に、内層コイル36cのA3、B3、C3、D3が挿入される。脚部50XのNO.11,12及びNO.19,20が挿入された固定子30のスロット34のNO.10,11には内層コイル36cの分かれ目部の巻線束D3b、A3aが挿入され、脚部50XのNO.13,14が挿入された固定子30のスロット34のNO.16,17には内層コイル36cの分かれ目部の巻線束A3b、B3aが挿入され、脚部50XのNO.15,16が挿入された固定子30のスロット34のNO.22,23には内層コイル36cの分かれ目部の巻線束B3b、C3aが挿入され、脚部50XのNO.17,18が挿入された固定子30のスロット34のNO.4,5には内層コイル36cの分かれ目部の巻線束C3b、D3aが挿入されている。
【0032】
先に述べたのと同様にスロット34に挿入された中層コイル36bの内側に挿入される内層コイル36cの巻線36の分かれ目両端部に位置するスロット34に層間絶縁50の脚部50Xを必ず挿入することにより、内層コイル36cをスロット34に挿入する際の挿入圧力により層間絶縁50が持ち上げられ(巻き込まれ)中層コイル36bと内層コイル36cが接触し絶縁不良となることもない。また、分かれ目両端部に位置するスロット34に脚部50Xを挿入することにより内層コイル36bをスロット34に挿入する挿入圧力により層間絶縁50の脚部50Xが切れて接触することもない。
【0033】
また、層間絶縁40、50は第1の絶縁部40a、50aと第2の絶縁部40b、50bとを繋ぐ脚部40X、50Xは固定子鉄心31の積厚に対して10±5mmとしている。5mmより層間絶縁40、50の脚部40X、50Xが短い場合、固定子鉄心31のスロット34に脚部40X、50Xが挿入しずらくなり作業性を悪化させてしまう。逆に15mmより脚部40X、50Xが長い場合、固定子30の端部から飛び出しているコイルエンド部32、33の巻線36の各層間における絶縁部40a、50aがズレて十分に絶縁を行うことができなくなります。尚、脚部40X、50Xの長さが固定子鉄心31の積厚に対して10±5mmは、固定子30の片方の端面から第1の絶縁部40a、50aもしくは第2の絶縁部40b、50bまでの長さが2.5mmから7.5mmの範囲とするのが好ましい。
【0034】
また、層間絶縁40の第1の絶縁部40a、50aと第2の絶縁部40b、50bとを繋ぐ脚部40X,50Xとで囲まれた空間部に面する第1の絶縁部40a、50aの辺と第2の絶縁部40b、50bの辺には絶縁部側に切り欠いた切り欠き部40d、50dの段付き形状40c、50cとしている。これによりコイルエンド部32,33成形時に固定子30の内径側に余分な絶縁紙の飛び出しをなくし、更にスロット34からの巻線36の立ち上がり部における各層間での接触を防ぐことができ、作業性を向上させることができる。
【0035】
この段付き形状40c、50cの切り欠き部分40d、50dは、層間絶縁40,50の第1の絶縁部40a、50aと第2の絶縁部40b、40bとを繋ぐ脚部40X、50Xとで囲まれた空間部側へ固定子30のスロットピッチの略1スロットピッチ程度内側に入り込んだ位置から絶縁部側に切り欠いた切り欠き部分40d、50dを設けた段付き形状40c、50cとしている。切り欠き部分は、円弧状の切り欠き部分40dや、凹状の切り欠き部分50d等で構成されている。また、切り欠き部分40d、50dは第1の絶縁部40a、50a及び第2の絶縁部40b、50bの両方に設けても良いが、どちらか一方に設けてもよい。
【0036】
この層間絶縁40、50の切り欠き部分40d、50dは、固定子鉄心31の端部のスロット34に巻線36が挿入された部分の根元部から絶縁部側にすぐに切り欠きを設けず、この層間絶縁40、50の第1の絶縁部40a、50aと第2の絶縁部40b、50bとを繋ぐ脚部40X、50Xとで囲まれた空間部側へ固定子30のスロットピッチの略1スロットピッチ程度内側に入り込んだ位置から絶縁部側に切り欠いた切り欠き部分40d、50dを設けた段付き形状40c、50cとしているので、固定子鉄心31の端部のスロット34から立ち上がる巻線36の根元部での接触が無くなり、特に各層の巻線36を固定子30のスロット34に挿入し固定子30の外径側に大きく成形した際の層間絶縁40,50の脚部40X、50Xの根元部における各層間同士の接触による絶縁不良を低減することができる。
【0037】
略1スロットピッチ程度内側に入り込んだ位置から絶縁部側に切り欠いた切り欠き部分40d、50dを設けた段付き形状40c、50cとしているので、この段付き形状40c、50cにより次層に挿入される巻線36のスロット34の根元部分において層間の絶縁をすることができ絶縁不良を低減することができる。更に、絶縁部側に切り欠いた切り欠き部分40d、50dを設けた段付き形状40c、50cとしているので、巻線36を固定子30の外径側に大きく成形した際に固定子内径側に層間絶縁40、50の一部が飛び出ることもない。
【0038】
図6には別の実施形態を示す。図6は固定子70の固定子鉄心71のスロット74にスロット絶縁75を施し巻線76を挿入した三相4極の電動機である。スロット数は12スロットである。巻線76は外層コイル76aが固定子鉄心71のスロットNO.1と4、5と8、9と12に挿入され、次に内層コイル76cが固定子鉄心71のスロットNO.3と6、7と10、11と2に挿入した三相4極の電動機である。尚、本実施形態における電動機の固定子70の外観形状は図1とほぼ同じ形態(外観形状は図1を参照)となる。尚、固定子70の巻線76は分布巻方式による省略巻きを用いている。この場合、外層コイル76aにU相,V相、W相を構成し、内層コイル76cのU相,V相、W相の巻線が対向配置されている。
【0039】
本実施形態の電動機の巻線76は、1スロット1コイルであり固定子鉄心71のスロット74には巻線機で同心巻きに巻かれた巻線76を、インサータと称される巻線挿入装置によりスロット74内に挿入している。巻線挿入装置で巻線76を挿入する際、挿入された巻線束が固定子内径側に開口しているスロット開口部側からこぼれて絶縁不良とならないようにクサビを同時に挿入している。
【0040】
固定子鉄心71のスロット74に巻線76を挿入する手順は、固定子鉄心71のスロット74にスロット絶縁75を配置し、その上から外層コイル76aを挿入している。次に、内層コイル76cが挿入し易いように外層コイル76aの固定子鉄心71の端面から飛び出しているコイルエンド部72、73を固定子70の外径側に大きく開くように成形している。その後、次に挿入される巻線76(この場合は内層コイル76c)と接触して絶縁不良とならないように外層コイル76aと内層コイル76cとの間に層間絶縁60を挿入している。そして最後に内層コイル76cを挿入している。
【0041】
図6の層間絶縁60の脚部NO.61〜68は、固定子70のスロット74に外層コイル76aが挿入された後に、次に挿入される内層コイル76cの巻線76の分かれ目両端部に位置するスロット74のNO.2,3に脚部NO.61、62、スロット74のNO.6,7に脚部NO.63,64、スロット74のNO.10,11に脚部NO.65,66及びスロット74のNO2,3に脚部NO.67,68が脚部NO.61,62と重なるようにそれぞれ挿入されている。
【0042】
このようにスロット74に挿入された外層コイル76aの内側に挿入される内層コイル76cの巻線76の分かれ目両端部に位置するスロット74(NO.2、3、6、7,10、11)に層間絶縁60の脚部NO.61〜68を必ず挿入することにより、内層コイル76cをスロット74に挿入する際の挿入圧力により層間絶縁60が持ち上げられ(巻き込まれ)外層コイル76aと内層コイル76cが接触し絶縁不良となることもない。また、分かれ目両端部に位置するスロット74(NO.2、3、6、7,10、11)に脚部NO.61〜68を挿入することにより内層コイル76cをスロット74に挿入する挿入圧力により層間絶縁60の脚部NO.61〜68が切れて接触することもない。
【0043】
また本実施の層間絶縁40、50の第1の絶縁部40a、50aと第2の絶縁部40b、50bとの周方向端部の一方端は周方向に飛び出した耳部40aa、50aa、40bb、50bbが設けられ、他方端には耳部40aa、50aa、40bb、50bbが設けられていない形状としている。
【0044】
また、層間絶縁40,50の第1の絶縁部40a、50aと第2の絶縁部40b、50bとの周方向端部の一方端は周方向に飛び出した耳部40aa、50aa、40bb、50bbが設けられ、他方端には耳部40aa、50aa、40bb、50bbが設けられていない形状とすることにより、層間絶縁40,50の端部である耳部40aa、50aa、40bb、50bbが設けられていない側は、巻線36と巻線36の境目である分かれ目部分において層間絶縁40,50の端部の固定子内径側もしくは固定子外径側に飛び出すのを防止し、逆に層間絶縁40,50の耳部40aa、50aa、40bb、50bbを設けている側は、固定子鉄心31のスロット34に層間絶縁40,50の耳部40aa、50aa、40bb、50bbを引っ張って脚部40X、50Xを挿入し易くしている。また、層間絶縁40,50の端部である耳部40aa、50aa、40bb、50bbの片方のみとすることにより必要最小限の絶縁材料とすることができ、絶縁材料の使用量を減らすこともできる。
【0045】
以上のように本実施形態の電動機の固定子30は各層間における巻線36の接触不良を低減することができるので信頼性を向上させることができ、高品質の電動機として用いることができる。特に、冷蔵庫やエアコン等の室外機の圧縮機内に搭載する電動機や、或いは車両用途の電動機として用いることができる。
【0046】
尚、本実施形態で用いた電動機の層間絶縁40、50、60の材質としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等が用いられている。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本実施形態における電動機の固定子の図。
【図2】図1の矢視方向Fから見た図。
【図3】本実施形態のコイル配置と層間絶縁の脚部の配置図。
【図4】本実施形態における外中層間絶縁。
【図5】本実施形態における中内層間絶縁。
【図6】別の実施形態のコイル配置と層間絶縁の脚部の配置図。
【符号の説明】
【0048】
40X、1〜10・・・層間絶縁40の脚部
50X、11〜20・・・層間絶縁50の脚部
30、70・・・固定子
31、71・・・固定子鉄心
31a・・・ティース
31b・・・ヨーク
32・・・コイルエンド部
33・・・コイルエンド部
34、74・・・スロット
35、75・・・スロット絶縁
36、76・・・巻線
36a、76a・・・外層コイル
36b・・・中層コイル
36c、76c・・・内層コイル
A1〜D1・・・外層コイル
A2〜D2・・・中層コイル
A3〜D3・・・内層コイル
A1a〜D1a、A1b〜D1b、A2a〜D2a、A2b〜D2b、A3a〜D3a、A3b〜D3b・・・巻線
40・・・層間絶縁
40a・・・第1の絶縁部
40aa・・・耳部
40b・・・第2の絶縁部
40bb・・・耳部
40c・・・段付き部
40d・・・切り欠き部
50・・・層間絶縁
50a・・・第1の絶縁部
50aa・・・耳部
50b・・・第2の絶縁部
50bb・・・耳部
50c・・・段付き部
50d・・・切り欠き部
60・・・層間絶縁
61〜68・・・層間絶縁60の脚部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子鉄心の軸方向に貫通したスロットが設けられ、前記スロットには分布巻方式による巻線を挿入し、
前記巻線は前記固定子鉄心の両端面から固定子軸方向に飛び出したコイルエンド部を形成し前記コイルエンド部の各層間を絶縁する層間絶縁を有した電動機において、
前記層間絶縁は、前記固定子鉄心の両端面から固定子軸方向に飛び出たコイルエンド部を絶縁する第1の絶縁部と、
前記絶縁部とは反対の固定子鉄心の端面から固定子軸方向に飛び出たコイルエンド部を絶縁する第2の絶縁部と、
前記第1の絶縁部と前記第2の絶縁部を繋ぐ脚部とを備え、
前記層間絶縁の第1の絶縁部及び第2の絶縁部の周方向両端部は、両端部同士が重なるように固定子鉄心に装着させ、
各層の内側に挿入される次層の巻線の分かれ目両端部に位置するスロットには前記層間絶縁の脚部を挿入したことを特徴とする電動機。
【請求項2】
前記層間絶縁の第1の絶縁部と第2の絶縁部とを繋ぐ脚部は固定子鉄心の積厚に対して10±5mmとしたことを特徴とする請求項1項記載の電動機。
【請求項3】
前記層間絶縁の第1の絶縁部と第2の絶縁部とを繋ぐ脚部とで囲まれた空間部に面する第1の絶縁部の辺と第2の絶縁部の辺は絶縁部側に切り欠いた段付き形状としたことを特徴とする請求項1項または請求項2項に記載の電動機。
【請求項4】
前記層間絶縁の第1の絶縁部と第2の絶縁部との周方向端部の一方端は周方向に飛び出した耳部が設けられ、他方端には耳部が設けられていない形状としたことを特徴とする請求項1項及至請求項3項のいずれか記載の電動機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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