電動歯ブラシおよびそのブラシ体、並びにその製造方法
【課題】導電部材との電気的な接続を安定して得ることができ、且つ有効成分を適切な部位に集中的に供給することのできる芯鞘フィラメントを備えたブラシ体、およびそのブラシ体の製造方法、並びに同ブラシ体を備えた電動歯ブラシを提供する。
【解決手段】複数本のフィラメント40により構成されたブリッスル束30は、その長手方向の中間部分にて折り返されて、この折り返し部31において平線32により植毛台22の挿入孔23に圧入固定されている。フィラメント40は、導電性材料を含む芯部41とこの芯部41を被覆する絶縁性の鞘部42とを備えている。フィラメント40の両端には、鞘部42から芯部41が露出した先端露出部41Aが形成されている。また、フィラメント40の長手方向の中間部分では、鞘部42から芯部41が露出した中間露出部41Bが形成されている。
【解決手段】複数本のフィラメント40により構成されたブリッスル束30は、その長手方向の中間部分にて折り返されて、この折り返し部31において平線32により植毛台22の挿入孔23に圧入固定されている。フィラメント40は、導電性材料を含む芯部41とこの芯部41を被覆する絶縁性の鞘部42とを備えている。フィラメント40の両端には、鞘部42から芯部41が露出した先端露出部41Aが形成されている。また、フィラメント40の長手方向の中間部分では、鞘部42から芯部41が露出した中間露出部41Bが形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性材料を含む芯部とこの芯部を被覆する絶縁性の鞘部とを備えるフィラメントが複数本用いられて構成されたブリッスル束を備え、このブリッスル束がその長手方向の中間部分にて折り返されて、この折り返し部において固定部材により植毛台の挿入孔に圧入固定されるとともに、フィラメントの両端の少なくとも一方において鞘部から芯部が露出しているブラシ体およびその製造方法、並びに同ブラシ体を備えた電動歯ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内殺菌の殺菌機能を有する歯ブラシは、従来から種々提案されている。例えば特許文献1および2に記載の歯ブラシでは、複数のフィラメントで構成されたブリッスル束(ブラシ毛)が固定されたヘッド部に一対の電極が設けられている。そして、歯ブラシ使用時に上述した一対の電極が通電されることにより、口腔内液に含まれる塩化物イオンから電気分解により塩素が生成され、この生成された塩素にて口腔内殺菌の殺菌が行われる。なお、これら特許文献1および2には、ブラシ毛全体を導電性材料で形成する例もそれぞれ記載されている。
【0003】
上述したようなブリッスル束をヘッド部に固定する方法としては、上記特許文献3の図7に、ブリッスル束をその長手方向の中間部分にて折り返すとともにこの折り返し部において平線により植毛台の挿入孔に圧入固定する平線植毛法が開示されている。
【0004】
また、平線を使用しないアンカーレス植毛法(無平線植毛法)として、特許文献4には、ブリッスル束の基端部に、1束単位で一括溶融固化させた溶解塊を形成し、この溶解塊をブラシ体の植毛台内に埋設固定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−102095号公報
【特許文献2】特開2006−180953号公報
【特許文献3】特開平6−90824号公報
【特許文献4】特開2003−9947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、通常の歯ブラシのブラッシングでは、歯と歯茎との間や、歯と歯との間といった細かな隙間における完全な歯垢の除去が困難であるため、こうした細かな隙間において口腔内細菌が繁殖しやすい。したがって、上述したような口腔内殺菌の殺菌機能を有する歯ブラシでは、こうした細かな隙間部分を中心に殺菌を行うことが効果的である。
【0007】
口腔内細菌を殺菌するためには、上記特許文献1および2に記載されるように塩素を生成させて殺菌する方法の他、CPC(塩化セチルピリジニウム)等の殺菌に有効な薬効成分を含む歯磨剤や洗口剤を使用する方法も考えられる。こうした塩素や薬効成分は、それら有効成分を必要とする上述した細かな隙間や、炎症部位および疾病部位等、適切な部位に集中的に供給されることが好ましい。
【0008】
そのため、口腔内の所望の部位に直接接触するブラシ毛(フィラメント)が導電性を有し、このフィラメントに通電するように構成されることが望ましい。しかし、上記特許文献1および2に記載されるようにブラシ毛全体を導電性材料で形成すると、その全体から有効成分が生成されるため、上記の適切な部位に有効成分を集中的に供給する点において好ましくない。
【0009】
そこで、適切な部位に有効成分を集中的に供給すべく、導電性を有する芯部とこの芯部を被覆する絶縁性の鞘部とを備えた芯鞘構造をなすフィラメント(いわゆる芯鞘フィラメント)で構成されたブリッスル束を用いることが考えられる。詳しくは、芯鞘フィラメントの長手方向の全長にわたって芯部を鞘部により被覆する。そして、このフィラメントの両端の少なくとも一方において鞘部から芯部を露出させる。これにより、歯磨き中において、この露出した芯部を口腔内の所望の部位またはその部位近傍に接触させることができるため、人体および口腔内液を通じた電気回路が形成されて、口腔内に接触した芯部から有効成分を発生させることができる。また、芯鞘フィラメントにおいて鞘部に被覆された部分からの有効成分の発生は抑えられるため、芯部が接触した口腔内の部位に有効成分を集中的に供給することができる。
【0010】
ここで、こうした芯鞘フィラメントで構成されたブリッスル束の長手方向の中間部分は、芯鞘フィラメントの長手方向の中間部分、すなわち芯部が鞘部で被覆された部分に相当するため、導電性を有さない。したがって、このブリッスル束を上記特許文献3に記載された平線植毛法によりブラシ体のヘッド部に固定した場合には、歯ブラシ使用時において人体および口腔内液を通じた電気回路が形成されず、フィラメントに通電させることができない。
【0011】
一方、上記特許文献4に記載されたアンカーレス植毛法において、芯鞘フィラメントで構成されたブリッスル束の基端部を溶解させると、溶解塊は芯部と鞘部との混合物となるため、ブリッスル束において所望の導電性が得られないおそれがある。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、導電部材との電気的な接続を安定して得ることができ、且つ有効成分を適切な部位に集中的に供給することのできる芯鞘フィラメントを備えたブラシ体を提供すること、およびそのブラシ体の製造方法を提供すること、並びに同ブラシ体を備えた電動歯ブラシを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下、上記目的を達成するための手段について記載する。
・本発明のブラシ体は、導電性材料を含む芯部とこの芯部を被覆する絶縁性の鞘部とを備えるフィラメントが複数本用いられて構成されたブリッスル束を備え、このブリッスル束がその長手方向の中間部分にて折り返されて、この折り返し部において固定部材により植毛台の挿入孔に圧入固定されるとともに、前記フィラメントの両端の少なくとも一方において前記鞘部から前記芯部が露出しているブラシ体において、前記ブリッスル束の少なくとも一部のフィラメントにおいて、前記中間部分で前記鞘部から前記芯部が露出した中間露出部が形成されていることを特徴としている。
【0014】
・このブラシ体においては、前記芯部の材料の硬度が前記鞘部の材料の硬度よりも高いことが好ましい。
・このブラシ体においては、前記中間露出部は、前記ブリッスル束の少なくとも一部のフィラメントにおいて、その長手方向の中間部分の全周で前記鞘部から前記芯部が露出することにより形成されていることが好ましい。
【0015】
・このブラシ体においては、前記植毛台が、導電性材料で形成されていることが好ましい。
・このブラシ体においては、前記ブリッスル束は前記植毛台を貫通する態様で前記挿入孔に圧入固定されているとともに、前記植毛台において前記ブリッスル束の両端が配置された側の面とは反対側の面から前記中間露出部の少なくとも一部が露出していることが好ましい。
【0016】
・このブラシ体においては、前記中間露出部と接触する導電部材をさらに備え、前記中間露出部と前記植毛台と導電部材とが一体化されていることが好ましい。
・本発明の電動歯ブラシは、上記ブラシ体を備えることを特徴とする。
【0017】
・この電動歯ブラシにおいては、前記ブラシ体を振動させる振動アクチュエータをさらに備えることが好ましい。
・本発明のブラシ体の製造方法は、前記ブリッスル束を前記挿入孔に圧入固定する工程において、前記鞘部に生じる応力を利用して前記鞘部を除去することにより前記中間露出部を形成することを特徴とする。
【0018】
・本発明のブラシ体の製造方法は、前記ブリッスル束が前記植毛台を貫通する態様で前記ブリッスル束を前記挿入孔に圧入固定した後、前記折り返し部における前記フィラメントの前記鞘部を、前記植毛台において前記ブリッスル束の両端が配置された側の面とは反対側の面から除去することにより前記中間露出部を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、導電部材との電気的な接続を安定して得ることができ、且つ有効成分を適切な部位に集中的に供給することのできる芯鞘フィラメントを備えたブラシ体、およびそのブラシ体の製造方法、並びに同ブラシ体を備えた電動歯ブラシを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態の電動歯ブラシについて、その全体の断面構造を示す断面図。
【図2】同実施形態の電動歯ブラシの回路構成を示すブロック図。
【図3】同実施形態の電動歯ブラシについて、(a)はそのブラシ体の一部の断面構造を示す拡大断面図、(b)はフィラメントの正面図。
【図4】同実施形態のブラシ体について、(a)はそのフィラメントの製造工程を示すフローチャート、(b)〜(d)は各工程におけるフィラメントの模式図。
【図5】同実施形態のブラシ体について、(a)〜(d)はそのブラシ体の製造工程を示す斜視図。
【図6】同実施形態のブラシ体について、(a)はそのブラシ体の斜視図、(b)は(a)のA−A線に沿う断面構造を示す断面図。
【図7】本発明の第2実施形態の電動歯ブラシについて、(a)はそのブラシ体の斜視図、(b)は(a)のB−B線に沿う断面構造を示す断面図。
【図8】同実施形態のブラシ体を分解した状態を示す斜視図。
【図9】本発明の第3実施形態の電動歯ブラシについて、(a)〜(c)はそのブラシ体の製造工程を示す断面図。
【図10】本発明の第4実施形態の電動歯ブラシについて、(a)はそのブラシ体の斜視図、(b)は(a)のC−C線に沿う断面構造を示す断面図。
【図11】同実施形態のブラシ体について、(a)〜(c)はそのブラシ体の製造工程を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施形態)
図1〜図6を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。
図1に示すように、歯ブラシ1は、使用者が把持可能な把持本体部10にブラシ体20を着脱可能に装着することができる。
【0022】
把持本体部10は、使用者の把持等を考慮した略円柱状に形成されている。把持本体部10の外側表面には、把持されることにより使用者の手と接触する把持電極11と、使用者により操作されるスイッチ16とが設けられている。
【0023】
把持本体部10の内部には、ブラシ体20に振動を供給する振動アクチュエータ14と、振動アクチュエータ14に電力を供給する電源部12と、振動アクチュエータ14への電力の供給等を制御する回路部13とが設けられている。
【0024】
図2に示すように、上述した回路部13は、把持電極11と電気的に接続された制御回路13Aと、電源部12に電力を供給する充電回路13Bと、電源部12から電力の供給を受ける電源回路13Cとを備えている。これら制御回路13A、充電回路13B、および電源回路13Cは電気的に互いに接続されている。
【0025】
図1に示す振動アクチュエータ14は、導電性を有する出力シャフト15を備えている。この出力シャフト15は、電源部12と電気的に接続されているとともに、把持本体部10からブラシ体20に向けて突出して設けられている。出力シャフト15は、把持本体部10にブラシ体20が装着されることにより、ブラシ体20の内部に挿入される。
【0026】
ブラシ体20は、把持本体部10に装着されるブラシ柄20Aと、ブラシ柄20Aと一体に形成されたヘッド部20Bとを備えている。ブラシ柄20Aの内部には、導電性を有する金属部材からなるリード板21が設けられている。このリード板21は、把持本体部10とブラシ体20とが装着されることにより出力シャフト15と電気的に接続される。
【0027】
図3(a)に示すように、ヘッド部20Bには、複数のブリッスル束30が、外方に突出する態様で固定されている。ヘッド部20Bの内部には、導電性材料で形成された植毛台22が設けられている。植毛台22は、導電性材料が混合された樹脂で形成される。例えば繊維状カーボンが混合されたABS(アクリルブチルスチレン)樹脂が採用される。
【0028】
植毛台22には、上述した導電性を有するリード板21が挿入固定されている。また、植毛台22における貫通孔20Cに対応する位置には、ブリッスル束30が圧入固定される挿入孔23がそれぞれ形成されている。これら貫通孔20Cの口径と挿入孔23の口径は、ブリッスル束30が挿入されていない状態においてほぼ同一に設定されている。
【0029】
1つのブリッスル束30は、細い糸状のフィラメント40が複数本(例えば20〜30本)束ねられて構成されている。このブリッスル束30は、その長手方向の中間部分で折り返されて折り返し部31が形成され、これによりU字状をなしている。ブリッスル束30は、折り返し部31において平線32により植毛台22の挿入孔23に圧入固定されている。平線32は、ブリッスル束30を植毛台22の挿入孔23に圧入固定する固定部材として機能する。
【0030】
平線32としては、金属製の小片が採用されている。平線32の幅Wは、ブリッスル束30が挿入されていない状態の挿入孔23の口径よりも長く設定されている。例えば、平線32の幅Wは、挿入孔23の口径よりも0.5〜2mm長く設定されている。この幅Wについては、植毛台22の樹脂硬度、平線32の植毛台22への固定強度、および作業効率等を考慮して好適な大きさに設定される。そして、平線32が、上述した挿入孔23において楔となってブリッスル束30とともに固定されている。
【0031】
図3(b)に示すように、フィラメント40は、長手方向の長さがL(例えば30mm)に切断された1本の細い糸状のモノフィラメントであって、導電性材料を含む芯部41とこの芯部41を被覆する絶縁性の鞘部42とからなる芯鞘構造を有する、いわゆる芯鞘フィラメントである。この芯鞘フィラメントは、その径方向の断面積における面積比率が芯部/鞘部=15/85〜50/50の範囲にあることが好ましい。なお、芯部41の比率が15%に満たない場合には、十分な導電性を発揮することが困難になるおそれがある。一方、芯部41の比率が50%を超える場合には、紡糸安定性および延伸性が低下するため実用上十分な繊維性能を得ることが困難になるおそれがある。本実施形態では、フィラメント40の芯部41の外径は0.06mmに設定されている。一方、鞘部42の外径は0.17mmに設定されている。
【0032】
芯部41は、導電性材料が含有された樹脂からなる。導電性材料としては、カーボン粒子、カーボン長繊維・短繊維、金属粒子(銀粒子等)等があげられる。また、樹脂としては、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂等があげられる。詳しくは、JIS−K7215のプラスチックのデュロメータ硬さ試験法で測定したデュロメータータイプD硬さがHDD60以上であることが望ましい。また、芯部41における導電性材料の含有率は、20〜60質量%の範囲にあることが好ましい。なお、芯部41における導電性材料の含有率が20質量%に満たない場合には、十分な導電性能を発揮することが困難になるおそれがある。一方、芯部41における導電性材料の含有率が60質量%を超える場合には、芯部41の原液中でカーボン粒子の十分な分散性を得ることが困難になるおそれがある。本実施形態では、芯部41におけるカーボン粒子の含有率が30質量%になるように、カーボン粒子がナイロン6に混練されたものが用いられている。
【0033】
一方、鞘部42は、絶縁性の熱可塑性エラストマー樹脂からなる。すなわち、鞘部42は、カーボン粒子等の導電性材料を含まない。具体的には、熱可塑性エラストマーとして、ナイロンエラストマー、ポリエステルエラストマー、スチレンエラストマー、ウレタンエラストマー、およびオレフィンエラストマー等があげられる。なお、作業効率の点においてナイロンエラストマーまたはポリエステルエラストマーが好適である。詳しくは、JIS−K7215のプラスチックのデュロメータ硬さ試験法で測定したデュロメータータイプD硬さがHDD40〜80であることが望ましい。こうした硬さ特性に加え、上述した芯部41の硬度が鞘部42の硬度よりも高くなるように、これら芯部41および鞘部42の各材料を選択する。これにより、芯部41の硬度が鞘部42の硬度よりも高いフィラメント40が形成されている。
【0034】
また、芯部41は鞘部42よりも高い導電性を有する。具体的には、芯部41の体積固有抵抗値は、1×102〜1×106(Ω・cm)である。一方、鞘部42の体積固有抵抗値は、1×107〜1×1013(Ω・cm)である。なお、体積固有抵抗値とは、物体の体積固有抵抗を示す値である。また、体積固有抵抗とは、物体の表面における電気抵抗率ではなく、物体の内部における電気抵抗率を示す。
【0035】
フィラメント40の両端には、芯部41が鞘部42から露出した先端露出部41Aがそれぞれ形成されている。この先端露出部41Aは、歯ブラシ1の使用時に歯や義歯の表面に対して直接的に接触する。また、フィラメント40の長手方向の中間部分には、その全周において芯部41が鞘部42から露出した中間露出部41Bが形成されている。この中間露出部41Bは、上述したブリッスル束30の折り返し部31に対応する部分に形成されている。これにより、植毛台22に圧入固定されたブリッスル束30において、鞘部42から露出した芯部41が植毛台22に接触する。なお、中間露出部41Bの長手方向の長さは、2〜10mmであることが好ましい。中間露出部41Bの長さが2mmに満たない場合には、中間露出部41Bと植毛台22との接触面積が小さくなるため、導電性が低下するおそれがある。一方、中間露出部41Bの長さが10mmを超える場合には、植毛台22の外部、すなわちヘッド部20Bの外部にまで中間露出部41Bが達するおそれがある。これにより、歯ブラシ1の使用時において先端露出部41Aに加えて、ヘッド部20Bの外部にある中間露出部41Bからも有効成分が生成されるおそれがある。
【0036】
図4〜図6を参照して、ブラシ体20の製造工程について説明する。
図4(a)に示すフィラメント40の製造工程では、溶融・混練工程において、まず、芯部41の紡糸原液、および鞘部42の紡糸原液を別々に調製する。次に、溶融物押出工程において、これら調製した2種の紡糸原液を芯鞘複合紡糸ノズルにより押し出し、冷却固化工程、延伸工程、熱セット工程を経て、長い糸状のフィラメント43(以下、「長フィラメント43」とする)を形成する(図4(b)参照)。この長フィラメント43は、芯部41が鞘部42に被覆された芯鞘構造を有している。
【0037】
次いで、鞘部除去工程において、長フィラメント43の鞘部42を所定の間隔で除去して芯部41を露出させる(図4(c)参照)。本実施形態では、長フィラメント43において、その全周の鞘部42を30mmごとに5mmずつ除去する。こうして露出した芯部41が、上述した中間露出部41Bに相当する。鞘部42の除去は、例えばサンドブラストやウォータージェットなどの微細研削方法により実行する。この際における噴射圧力、噴射時間、噴射角度等の各種条件は、鞘部42の除去が効率よく実行できるとともに芯部41の除去を抑えることのできる好適な条件に調整される。また、長フィラメント43を回転させつつサンドブラストやウォータージェットなどによる微細研削を実行することにより、長フィラメント43の全周における鞘部42の除去をより効率よく実行することができる。
【0038】
次いで、巻取り工程において、長フィラメント43を筒状の巻に巻き取り、長フィラメント43の巻物を得る。
次いで、フィラメント切断工程において、芯部41の中間露出部41Bが長手方向の中間部分に位置するように長フィラメント43を30mmごとに切断する(図4(d)参照)。さらに、こうして形成された長さ30mmの短いフィラメントにおいて、その両端の鞘部42をフィラメントの端から2mmずつ除去して芯部41の先端露出部41Aを形成する。これにより、先の図3(b)および図5(a)に示すフィラメント40が形成される。
【0039】
次に、こうして得られたフィラメント40を複数本(例えば20〜30本)束ねることにより、図5(b)に示すブリッスル束30を形成する。
次いで、図5(c)に示すように、ブリッスル束30をその長手方向の中間部分において折り返し、この折り返し部31で平線32を挟みこむ。その後、挟み込まれた平線32をブリッスル束30とともに植毛台22の挿入孔23に植毛機で打ち込むことにより、平線32が楔となってブリッスル束30が植毛台22に対して圧入固定される。これにより、図5(d)および図6に示すブラシ体20が形成される。なお、植毛台22は、その挿入孔23の位置と貫通孔20Cの位置とが一致するように、ヘッド部20Bの内部に予め固定されている。こうして得られたブラシ体20は、図6(b)および先の図3(a)に示すように、ブリッスル束30の折り返し部31が植毛台22の内部に挿入されて固定されている。
【0040】
製造されたブラシ体20が把持本体部10に装着された歯ブラシ1の使用時において、スイッチ16が使用者により操作されると、把持本体部10に内蔵された振動アクチュエータ14は、電源部12から供給される電力を駆動力として出力シャフト15を振動させる。これによりブラシ体20が振動し、ブリッスル束30によるブラッシングが行われる。また、この歯磨き時には、電源部12、把持電極11、使用者の手、使用者の歯茎等の組織、ブリッスル束30、植毛台22、リード板21、出力シャフト15の順に接続された閉回路である電気回路が形成される。こうして電気回路が形成されると、フィラメント40、すなわちブリッスル束30に通電されることにより、芯部41の先端露出部41Aに電流が供給される。これにより、口腔内細菌の殺菌に対する有効成分が先端露出部41Aから発生する。
【0041】
本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)ブラシ体20では、フィラメント40の長手方向の中間部分で鞘部42から芯部41が露出することにより中間露出部41Bが形成されている。すなわち、好適な導電性が得られるべく構成された芯部41が露出しているため、この芯部41(中間露出部41B)を通じて、フィラメント40は、安定して導電部材(植毛台22)と電気的に接続することができる。これにより、フィラメント40(ブリッスル束30)において所望の導電性を得ることができる。これに対し、例えばアンカー植毛法によりブリッスル束30を植毛台22に固定する場合には、ブリッスル束30の基端部を溶解させて溶解塊を形成する必要がある。この溶解塊は、芯部41と鞘部42との混合物となるため、ブリッスル束30において所望の導電性を得られないおそれがある。
【0042】
(2)フィラメント40の両端において、鞘部42から芯部41が露出して先端露出部41Aが形成されているため、歯ブラシ1の使用時において口腔内の適切な部位およびその部位近傍に芯部41が直接的に接触することができる。さらに、先端露出部41Aおよび中間露出部41Bを除く芯部41は絶縁性の鞘部42で被覆されているため、歯ブラシ1の使用時にフィラメント40に通電されたときに、フィラメント40全体、すなわちブリッスル束30全体から有効成分が発生することが抑えられる。したがって、歯ブラシ1の使用時において、先端露出部41Aを通じて口腔内の適切な部位およびその部位近傍に集中的に有効成分を供給することができる。
【0043】
(3)芯部41の材料の硬度は鞘部42の材料の硬度よりも高いため、鞘部42を除去して芯部41を露出する鞘部除去工程において、芯部41が除去されることが抑えられる。そのため、この鞘部除去工程での各種条件を幅広く設定できるようになる。したがって、サンドブラストやウォータージェットなどの微細研削方法により、簡便に鞘部42を除去することができる。また、フィラメント40の歩留まりを向上させることができる。
【0044】
(4)フィラメント40の長手方向の中間部分の全周において、芯部41が鞘部42から露出した中間露出部41Bが形成されている。そのため、このフィラメント40により構成されたブリッスル束30の周まわりにおいて、いずれの部分でも中間露出部41Bと導電部材(植毛台22)とが接触することができる。したがって、フィラメント40によりブリッスル束30を形成する際に、フィラメント40の周まわりでの中間露出部41Bの位置を考慮することなく中間露出部41Bと植毛台22とを接触させることができる。これに対し、フィラメントの長手方向の中間部分において、周まわりの一部のみで芯部が露出して中間露出部が形成された構成では、このフィラメントによりブリッスル束を形成する際に、中間露出部と植毛台22とを接触させるべく中間露出部の周まわりでの位置を考慮することが必要である。これは、中間露出部と植毛台22とを接触させるためには、ブリッスル束の外側に中間露出部が配置されている必要があるためである。換言すると、ブリッスル束の折り返し部において内側のみに中間露出部が配置された場合には、この中間露出部と植毛台22とを接触させることができなくなるからである。この点、本実施形態によれば、フィラメント40の周まわりの一部のみで芯部が露出した上述した構成と比較して、中間露出部41Bと植毛台22との電気接続が簡便になるとともに、ブリッスル束30における各フィラメント40の芯部41同士の電気接続も簡便になる。
【0045】
(5)植毛台22が導電性材料で形成されているため、植毛台22の挿入孔23にブリッスル束30を圧入固定することにより、導電部材である植毛台22と中間露出部41Bとを接触させることができる。したがって、ブリッスル束30を植毛台22に圧入固定した後に中間露出部41Bと導電部材とを接触させる構成と比較して、部品点数を減らすことができ、簡便な構成にすることができる。
【0046】
(6)ブリッスル束30は、平線32により植毛台22に圧入固定されている(平線植毛法)。これに対し、例えばアンカーレス植毛法によりブリッスル束30を植毛台22に固定する場合には、ブリッスル束30の基端部を溶解させて溶解塊を形成する工程が必要であるため、溶解塊の形成に高度な制御と管理が必要である。そのため、本実施形態のように平線植毛法で製造されたブラシ体20と比較して、アンカーレス植毛法で製造されたブラシ体の製造コストは高くなる傾向にある。この点、本実施形態の製造方法によれば、製造コストを抑制しつつ、ブラシ体20を提供することができる。
【0047】
(7)歯ブラシ1は、ブラシ体20を備えているため、この歯ブラシ1の使用時において、中間露出部41Bを通じてフィラメント40に通電させることができる。そのため、口腔内殺菌の殺菌効果を得ることができる。
【0048】
(8)歯ブラシ1は、ブラシ体20を振動させる振動アクチュエータ14を備えている。そのため、口腔内細菌の殺菌効果に加えて擦掃性を向上させることができ、さらに歯茎へのマッサージもすることができる。
【0049】
(第2実施形態)
図7および図8を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。
本実施形態のブラシ体20は、第1実施形態のブラシ体20の一部を次のように変更したものとして構成されている。すなわち、図7(b)に示すように、本実施形態のブラシ体20では、第1実施形態の植毛台22に替えて、植毛台52および導電部材54が設けられている。また、ブリッスル束30は、植毛台52を貫通する態様でこの植毛台52に固定されている。
【0050】
以下、この変更された部分についての詳細を示す。なお、その他の点については第1実施形態と同様の構成が採用されているため、共通する構成については同一の符号を付してその説明の一部または全部を適宜省略する。
【0051】
図7(b)に示すように、植毛台52の挿入孔53は、植毛台52を貫通して設けられている。植毛台52は、例えばABS(アクリルブチルスチレン)樹脂といった、導電性を有さない樹脂で形成されている。また、植毛台52の厚みは、植毛台22の厚みよりも小さく、本実施形態では植毛台22の1/2の厚さに設定されている。
【0052】
ブリッスル束30は、その長手方向の中間部分で折り返されて折り返し部31が形成されている。そして、ブリッスル束30は、ヘッド部20Bの貫通孔20Cおよび植毛台52を貫通する態様で、植毛台52の挿入孔53に対して平線32により圧入固定されている。これにより、図7(b)および図8に示すように、植毛台52において、ブリッスル束30の両端(先端露出部41A)が配置された側の面52Aとは反対側の面52Bからフィラメント40の中間露出部41Bが外方に突出している。中間露出部41Bは、上記第1実施形態と同様の方法で形成される。そして、中間露出部41Bを有するフィラメント40が複数本(例えば20〜30本)束ねられることによりブリッスル束30が構成されている。なお、以下の説明では、植毛台52においてブリッスル束30の両端(先端露出部41A)が配置された側の面52Aを「植毛面52A」とし、この植毛面52Aとは反対側の面52Bを「背面52B」とする。
【0053】
導電部材54は、植毛台52の背面52Bおよび中間露出部41Bに接触して設けられている。導電部材54は、導電性を有する金属部材で形成されている。この導電部材54には、中間露出部41Bに対応する位置に複数のリブ54Aが設けられている。
【0054】
また、導電部材54は、同じく導電性を有する金属部材からなるリード板51と一体形成されている(図8参照)。リード板51は、上記第1実施形態におけるリード板21と同様に、把持本体部10とブラシ体20とが装着されることにより出力シャフト15と電気的に接続される。
【0055】
押さえ部材55は、例えばスポンジにより形成された弾性体である。この押さえ部材55で導電部材54が植毛台52に対して押さえつけられることにより、導電部材54のリブ54Aと中間露出部41Bとが密着する。
【0056】
上述した中間露出部41B、導電部材54、および押さえ部材55は、ブラシ柄20Aおよびヘッド部20Bに設けられたカバー56により覆われている。カバー56は、ブラシ柄20Aおよびヘッド部20Bから取れないように、水密的に固定されている。
【0057】
本実施形態によれば、上記第1実施形態の(1)〜(4)および(6)〜(8)に示した各効果の他、以下の効果が得られる。
(9)フィラメント40の中間露出部41Bが、植毛台52の背面52B側から露出している。そのため、ブリッスル束30を植毛台52に圧入固定した後に、中間露出部41Bと導電部材54との電気接続を背面52B側から簡便に行うことができる。
【0058】
(第3実施形態)
図9を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。
本実施形態では、上記第2実施形態と次の点において異なる。すなわち、上記第2実施形態では、フィラメント40の中間露出部41Bを形成した後に、このフィラメント40によりブリッスル束30を構成し、このブリッスル束30を植毛台52に固定している。これに対し、本実施形態では、ブリッスル束60を植毛台52に固定した後に、フィラメント70の中間露出部71Bを形成する。
【0059】
また、上記第2実施形態では、リブ54Aが予め設けられた導電部材54を、植毛台52および中間露出部41Bに静置した後、これら植毛台52、中間露出部41B、および導電部材54を押さえ部材55により密着させている。これに対し、本実施形態では、導電部材54と中間露出部71Bと植毛台52とが一体化するように固定する。以下、この変更された部分についての詳細を示す。
【0060】
図9を参照して、本実施形態のブラシ体20の製造工程を説明する。
図9(a)に示すように、まず、中間露出部71Bが形成されていない状態のフィラメント70によりブリッスル束60を形成し、このブリッスル束60を、ヘッド部20Bの貫通孔20Cおよび植毛台52を貫通する態様で平線32により挿入孔53に対して圧入固定する。これにより、ブリッスル束60の折り返し部61は、植毛台52の背面52Bから外方に突出する。なお、フィラメント70は、先の図4(a)に示すフィラメントの製造工程において、鞘部除去工程を省略することにより製造する。フィラメント70の両端には、芯部71が鞘部72から露出した先端露出部71Aが形成されている。
【0061】
次いで、植毛台52の背面52Bから、折り返し部61における鞘部72を除去して芯部71を露出させる。これにより、図9(b)に示すように、フィラメント70の長手方向の中間部分に中間露出部71Bが形成される。この鞘部72の除去は、例えばサンドブラストやウォータージェットのような微細研削加工により実行することができる。
【0062】
次いで、導電性を有するペースト状の樹脂を植毛台52の背面52Bに積層した後この樹脂を固化することにより、導電部材54を形成する。これにより、図9(c)に示すように、中間露出部71Bと植毛台52と導電部材54が一体化するように固定される。なお、導電性を有するペースト状の樹脂により導電部材54を形成する本工程において、導電性を有する金属部材からなるリード板51を同時に導電部材54に対して固定する(図示略)。このリード板51は、上記第2実施形態におけるリード板51と同様に、把持本体部10とブラシ体20とが装着されることにより出力シャフト15と電気的に接続される。
【0063】
その後、上記第2実施形態と同様に、押さえ部材55およびカバー56を設けることにより、先の図7に示したブラシ体20と同様の構造であって、リブ54Aが形成されていない導電部材54を有するブラシ体20が形成される。
【0064】
本実施形態によれば、上記第1実施形態の(1)〜(3)、(6)〜(8)、および上記第2実施形態の(9)に示した各効果の他、以下の効果が得られる。
(10)ブリッスル束60を植毛台52に圧入固定した後に中間露出部71Bを形成するため、導電部材54との接触に必要な部位を中心にして鞘部72を除去することができる。すなわち、ブリッスル束60における折り返し部61の内側については、導電部材54との接触に寄与することが少ない。そのため、こうした内側に位置する鞘部72の除去は省略しつつ、導電部材54との接触に寄与する部分を中心に鞘部72を除去することができるため、中間露出部71Bの形成における作業効率を向上させることができる。
【0065】
(11)中間露出部71Bと植毛台52と導電部材54が一体化するように固定されているため、中間露出部71Bと導電部材54との電気的な接続がより安定したものになる。また、中間露出部71Bと植毛台52と導電部材54とが固定されることにより、ブリッスル束60の植毛台52に対する固定強度を補強することもできる。
【0066】
(第4実施形態)
図10および図11を参照して、本発明の第4実施形態について説明する。
本実施形態では、上記第3実施形態と次の点において異なる。すなわち、上記第3実施形態では、ブリッスル束60を植毛台52に固定した後に、中間露出部71Bを形成している。これに対し、本実施形態では、ブリッスル束90を植毛台82に挿入する工程において中間露出部101Bを形成する。以下、この変更された部分についての詳細を示す。
【0067】
図10(b)に示すように、ブリッスル束90は、フィラメント100が複数本(例えば20〜30本)束ねられて構成されるとともに、その長手方向の中間部分で折り返されて折り返し部91が形成されている。フィラメント100の両端には、芯部101が鞘部102から露出した先端露出部101Aが形成されている。また、フィラメント100の長手方向の中間部分には、芯部101が鞘部102から露出した中間露出部101Bが形成されている。また、ブリッスル束90は、ヘッド部20Bの貫通孔20Cおよび植毛台82を貫通する態様で、植毛台82の挿入孔83に対して平線32により圧入固定されている。すなわち、ブリッスル束90の折り返し部91、および中間露出部101Bが、植毛台52の背面82Bから外方に突出している。
【0068】
植毛台82の挿入孔83は、植毛台82を貫通して設けられている。なお、植毛台82は、上記第3実施形態の植毛台52と同一材料により形成されているとともに、その厚みは植毛台52の厚みと同一である。
【0069】
ここで、植毛台82の植毛面82Aにおける挿入孔83の開口を植毛面開口83Aとし、背面82Bにおける挿入孔83の開口を背面開口83Cとする。この場合、植毛面開口83Aの口径R1は、背面開口83Cの口径R2よりも大きく設定されている(R1>R2)。詳しくは、背面開口83Cの口径R2は、ブリッスル束90の外径R3よりも小さく設定されている(R2<R3)。また、平線32が楔となってブリッスル束90が挿入孔83に対して圧入固定されるべく、背面開口83Cの口径R2は平線32の幅W(図3(a)参照)よりも小さく設定されている(R2<W)。また、挿入孔83の中間には、植毛面82A側から背面82B側に向かって口径が小さくなるようにテーパ部83Bが設けられている。
【0070】
図10を参照して、ブラシ体20の製造工程について説明する。
図11(a)に示すように、本実施形態では、上記第3実施形態と同様に、中間露出部101Bが形成されていない状態のフィラメント100を製造する。そして、このフィラメント100を複数本束ねてブリッスル束90を形成し、このブリッスル束90の折り返し部91において平線32を挟みこむ。
【0071】
次いで、図11(b)および(c)に示すように、折り返し部91において平線32を挟み込んだ状態で、ブリッスル束90を植毛面82A側から植毛台82に挿入し、平線32によりブリッスル束90を植毛台82に圧入固定する。上述したように、背面開口83Cの口径R2は、ブリッスル束90の外径R3よりも小さく設定されているため、ブリッスル束90がテーパ部83Bの内部を通過する際に、鞘部102とテーパ部83Bとの摩擦により、鞘部102において応力が生じる。この応力により、折り返し部91の鞘部102が破断して除去されることにより、フィラメント100の長手方向の中間部分で芯部101が露出して中間露出部101Bが形成される。なお、植毛面開口83Aの口径R1の大きさ、背面開口83Cの口径R2の大きさ、およびテーパ部83Bの傾きや長さといった形状については、鞘部102の除去効率を考慮してそれぞれ設定されている。
【0072】
その後、上記第3実施形態と同様に、導電部材54、押さえ部材55およびカバー56を設けることにより、先の図10に示したブラシ体20を得る。
本実施形態によれば、上記第1実施形態の(1)、(2)、(6)〜(8)、上記第2実施形態の(9)、および上記第3実施形態の(11)に示した各効果の他、以下の効果が得られる。
【0073】
(12)ブリッスル束90を植毛台82に圧入固定する工程において、鞘部102に乗じる応力を利用して芯部101を露出させて中間露出部101Bを形成している。そのため、サンドブラストやウォータージェットなどの微細研削方法により鞘部102を除去する構成と比較して、簡便に中間露出部101Bを形成することができ、ブラシ体20の製造工程を簡略化することができる。
【0074】
(13)芯部41の材料の硬度は鞘部42の材料の硬度よりも高いため、応力により鞘部102を除去する際において、芯部101が除去されることを抑えることができる。
(その他の実施形態)
なお、本発明の実施態様は上記各実施形態に例示した態様に限られるものではなく、これを例えば以下に示すように変更して実施することもできる。また、以下の各変形例は、上記各実施形態についてのみ適用されるものではなく、異なる変形例同士を互いに組み合わせて実施することもできる。
【0075】
・上記第1実施形態で示したフィラメント40の製造工程は一例であって、適宜変更することができる。例えば、熱セット工程に続いて巻取り工程を実行し、その後、鞘部除去工程を別途実行してもよい。
【0076】
・上記第2〜第4実施形態では、植毛台52は導電性を有さない樹脂で形成される例を示したが、これら植毛台52は、導電性材料で形成されていてもよい。この場合であっても、中間露出部41B,71B,101Bが導電部材と接するべく導電部材54を設ければよい。
【0077】
・上記第3実施形態では、ブリッスル束60の折り返し部61において、植毛台52の背面52Bから外方に突出していない部分、すなわち挿入孔53の内側にある部分まで鞘部72が除去されて中間露出部71Bが形成されている例を示した。これに対し、植毛台52の背面52Bから外方に突出している折り返し部61であってその外側の部分、すなわち導電部材54に接する部分に対応する鞘部72のみ除去してもよい。この場合には、例えばサンドブラストやウォータージェットのような微細研削加工により鞘部72を除去する際の条件を適宜変更すればよい。そして、形成された中間露出部71Bと導電部材54とを接触させることにより、上述した各効果を得ることができる。
【0078】
・上記第4実施形態において、鞘部102の除去をより簡便にすべく、鞘部102に予め傷を付与した後にブリッスル束90を挿入孔83に挿入するようにしてもよい。
・上記各実施形態では、芯部41の材料としてナイロン樹脂を使用する一方、鞘部42の材料として熱可塑性エラストマー樹脂を使用する例を示したが、これら材料については適宜変更してもよい。例えば、芯部41および鞘部42をいずれもナイロン樹脂により形成したり、ゴム弾性体により形成したりしてもよい。ただし、上述したように、鞘部除去工程での作業効率を向上させるという点を考慮すると、芯部41の硬度と鞘部42との硬度の差は大きく、且つ芯部41の硬度の方が高くなることが望ましい。
【0079】
・ブラシ体20を構成するヘッド部20B、リード板21,51、植毛台22,52,82、および押さえ部材55等を形成する材料も、上記各実施形態に記載した例に限られず、適宜変更してもよい。
【0080】
・上記各実施形態では、ブリッスル束30,60,90を構成するすべてのフィラメント40,70,100において、中間露出部41B,71B,101Bを形成する例を示した。これに対し、ブリッスル束30,60,90を構成する一部のフィラメント40,70,100において中間露出部41B,71B,101Bを形成してもよい。
【0081】
・上記各実施形態では、フィラメント40,70,100の両端に先端露出部41A,71A,101Aをそれぞれ形成する例を示した。これに対し、フィラメント40,70,100の両端のいずれか一方のみに先端露出部41A,71A,101Aを形成してもよい。また、先端露出部41A,71A,101Aを両端の双方に形成したフィラメントと、両端のいずれか一方のみに先端露出部41A,71A,101Aを形成したフィラメントを組み合わせてブリッスル束を形成してもよい。
【0082】
・上記各実施形態では、フィラメント40,70,100の両端において、芯部41,71,101(先端露出部41A,71A,101A)が鞘部42,72,102から外方に突出している例を示した。しかし、フィラメント40,70,100の端部において、芯部41,71,101が鞘部42,72,102から露出していればよく、芯部41,71,101が外方に突出していることは要しない。要するにフィラメント40,70,100の端部において芯部41,71,101が歯や義歯等に接触可能な構成であればよい。
【0083】
・また、中間露出部41B,71B,101Bについても、背面52B,82Bから突出していることを要しない。要するに、中間露出部41B,71B,101Bが導電部材と接触可能な構成であればよい。
【0084】
・上記第1実施形態では、フィラメント40の全周において鞘部42を除去して中間露出部41Bを形成する例を示した。これに対し、フィラメント40の周まわりの一部において中間露出部41Bを形成してもよい。この場合には、中間露出部41Bと弾性部材(植毛台22)とが接触すべくブリッスル束30および折り返し部31を形成すればよい。
【0085】
・上記各実施形態では、金属製の小片である平線32によりブリッスル束30,60,90を植毛台22,52,82に圧入固定する例を示した。しかし、ブリッスル束30,60,90を植毛台22,52,82に対して圧入固定することのできる固定部材であれば、その材料や形状については上述した例に限られない。例えば、硬度の高い樹脂によって固定部材を形成してもよい。
【0086】
・上記各実施形態では、ブラシ体20がブラシ柄20Aおよびヘッド部20Bを備えている例を示した。これに対し、ブラシ体をヘッド部20Bのみで構成してもよい。この場合には、ヘッド部20Bと把持本体部10とを装着することにより、導電性を有する植毛台22または導電部材54が把持本体部10から延びる導電部材(例えば出力シャフト15)と接触可能になるように構成すればよい。
【0087】
・上記各実施形態では、ブラシ体20が把持本体部10に対して着脱可能であったが、ブラシ体20と把持本体部10とが一体的に設けられた歯ブラシに対して本発明を適用することもできる。
【0088】
・上記各実施形態の歯ブラシ1は、そのブラシ体20のヘッド部20Bが振動する機能を有していたが、ブラシ体20を振動させる機能が省略された歯ブラシに対して本発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0089】
1…電動歯ブラシ、14…振動アクチュエータ、20…ブラシ体、22,52,82…植毛台、23,53,83…挿入孔、30,60,90…ブリッスル束、31,61,91…折り返し部、32…平線(固定部材)、40,70,100…フィラメント、41,71,101…芯部、41A,71A,101A…先端露出部、41B,71B,101B…中間露出部、42,72,102…鞘部、54…導電部材、83B…テーパ部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性材料を含む芯部とこの芯部を被覆する絶縁性の鞘部とを備えるフィラメントが複数本用いられて構成されたブリッスル束を備え、このブリッスル束がその長手方向の中間部分にて折り返されて、この折り返し部において固定部材により植毛台の挿入孔に圧入固定されるとともに、フィラメントの両端の少なくとも一方において鞘部から芯部が露出しているブラシ体およびその製造方法、並びに同ブラシ体を備えた電動歯ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内殺菌の殺菌機能を有する歯ブラシは、従来から種々提案されている。例えば特許文献1および2に記載の歯ブラシでは、複数のフィラメントで構成されたブリッスル束(ブラシ毛)が固定されたヘッド部に一対の電極が設けられている。そして、歯ブラシ使用時に上述した一対の電極が通電されることにより、口腔内液に含まれる塩化物イオンから電気分解により塩素が生成され、この生成された塩素にて口腔内殺菌の殺菌が行われる。なお、これら特許文献1および2には、ブラシ毛全体を導電性材料で形成する例もそれぞれ記載されている。
【0003】
上述したようなブリッスル束をヘッド部に固定する方法としては、上記特許文献3の図7に、ブリッスル束をその長手方向の中間部分にて折り返すとともにこの折り返し部において平線により植毛台の挿入孔に圧入固定する平線植毛法が開示されている。
【0004】
また、平線を使用しないアンカーレス植毛法(無平線植毛法)として、特許文献4には、ブリッスル束の基端部に、1束単位で一括溶融固化させた溶解塊を形成し、この溶解塊をブラシ体の植毛台内に埋設固定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−102095号公報
【特許文献2】特開2006−180953号公報
【特許文献3】特開平6−90824号公報
【特許文献4】特開2003−9947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、通常の歯ブラシのブラッシングでは、歯と歯茎との間や、歯と歯との間といった細かな隙間における完全な歯垢の除去が困難であるため、こうした細かな隙間において口腔内細菌が繁殖しやすい。したがって、上述したような口腔内殺菌の殺菌機能を有する歯ブラシでは、こうした細かな隙間部分を中心に殺菌を行うことが効果的である。
【0007】
口腔内細菌を殺菌するためには、上記特許文献1および2に記載されるように塩素を生成させて殺菌する方法の他、CPC(塩化セチルピリジニウム)等の殺菌に有効な薬効成分を含む歯磨剤や洗口剤を使用する方法も考えられる。こうした塩素や薬効成分は、それら有効成分を必要とする上述した細かな隙間や、炎症部位および疾病部位等、適切な部位に集中的に供給されることが好ましい。
【0008】
そのため、口腔内の所望の部位に直接接触するブラシ毛(フィラメント)が導電性を有し、このフィラメントに通電するように構成されることが望ましい。しかし、上記特許文献1および2に記載されるようにブラシ毛全体を導電性材料で形成すると、その全体から有効成分が生成されるため、上記の適切な部位に有効成分を集中的に供給する点において好ましくない。
【0009】
そこで、適切な部位に有効成分を集中的に供給すべく、導電性を有する芯部とこの芯部を被覆する絶縁性の鞘部とを備えた芯鞘構造をなすフィラメント(いわゆる芯鞘フィラメント)で構成されたブリッスル束を用いることが考えられる。詳しくは、芯鞘フィラメントの長手方向の全長にわたって芯部を鞘部により被覆する。そして、このフィラメントの両端の少なくとも一方において鞘部から芯部を露出させる。これにより、歯磨き中において、この露出した芯部を口腔内の所望の部位またはその部位近傍に接触させることができるため、人体および口腔内液を通じた電気回路が形成されて、口腔内に接触した芯部から有効成分を発生させることができる。また、芯鞘フィラメントにおいて鞘部に被覆された部分からの有効成分の発生は抑えられるため、芯部が接触した口腔内の部位に有効成分を集中的に供給することができる。
【0010】
ここで、こうした芯鞘フィラメントで構成されたブリッスル束の長手方向の中間部分は、芯鞘フィラメントの長手方向の中間部分、すなわち芯部が鞘部で被覆された部分に相当するため、導電性を有さない。したがって、このブリッスル束を上記特許文献3に記載された平線植毛法によりブラシ体のヘッド部に固定した場合には、歯ブラシ使用時において人体および口腔内液を通じた電気回路が形成されず、フィラメントに通電させることができない。
【0011】
一方、上記特許文献4に記載されたアンカーレス植毛法において、芯鞘フィラメントで構成されたブリッスル束の基端部を溶解させると、溶解塊は芯部と鞘部との混合物となるため、ブリッスル束において所望の導電性が得られないおそれがある。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、導電部材との電気的な接続を安定して得ることができ、且つ有効成分を適切な部位に集中的に供給することのできる芯鞘フィラメントを備えたブラシ体を提供すること、およびそのブラシ体の製造方法を提供すること、並びに同ブラシ体を備えた電動歯ブラシを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下、上記目的を達成するための手段について記載する。
・本発明のブラシ体は、導電性材料を含む芯部とこの芯部を被覆する絶縁性の鞘部とを備えるフィラメントが複数本用いられて構成されたブリッスル束を備え、このブリッスル束がその長手方向の中間部分にて折り返されて、この折り返し部において固定部材により植毛台の挿入孔に圧入固定されるとともに、前記フィラメントの両端の少なくとも一方において前記鞘部から前記芯部が露出しているブラシ体において、前記ブリッスル束の少なくとも一部のフィラメントにおいて、前記中間部分で前記鞘部から前記芯部が露出した中間露出部が形成されていることを特徴としている。
【0014】
・このブラシ体においては、前記芯部の材料の硬度が前記鞘部の材料の硬度よりも高いことが好ましい。
・このブラシ体においては、前記中間露出部は、前記ブリッスル束の少なくとも一部のフィラメントにおいて、その長手方向の中間部分の全周で前記鞘部から前記芯部が露出することにより形成されていることが好ましい。
【0015】
・このブラシ体においては、前記植毛台が、導電性材料で形成されていることが好ましい。
・このブラシ体においては、前記ブリッスル束は前記植毛台を貫通する態様で前記挿入孔に圧入固定されているとともに、前記植毛台において前記ブリッスル束の両端が配置された側の面とは反対側の面から前記中間露出部の少なくとも一部が露出していることが好ましい。
【0016】
・このブラシ体においては、前記中間露出部と接触する導電部材をさらに備え、前記中間露出部と前記植毛台と導電部材とが一体化されていることが好ましい。
・本発明の電動歯ブラシは、上記ブラシ体を備えることを特徴とする。
【0017】
・この電動歯ブラシにおいては、前記ブラシ体を振動させる振動アクチュエータをさらに備えることが好ましい。
・本発明のブラシ体の製造方法は、前記ブリッスル束を前記挿入孔に圧入固定する工程において、前記鞘部に生じる応力を利用して前記鞘部を除去することにより前記中間露出部を形成することを特徴とする。
【0018】
・本発明のブラシ体の製造方法は、前記ブリッスル束が前記植毛台を貫通する態様で前記ブリッスル束を前記挿入孔に圧入固定した後、前記折り返し部における前記フィラメントの前記鞘部を、前記植毛台において前記ブリッスル束の両端が配置された側の面とは反対側の面から除去することにより前記中間露出部を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、導電部材との電気的な接続を安定して得ることができ、且つ有効成分を適切な部位に集中的に供給することのできる芯鞘フィラメントを備えたブラシ体、およびそのブラシ体の製造方法、並びに同ブラシ体を備えた電動歯ブラシを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態の電動歯ブラシについて、その全体の断面構造を示す断面図。
【図2】同実施形態の電動歯ブラシの回路構成を示すブロック図。
【図3】同実施形態の電動歯ブラシについて、(a)はそのブラシ体の一部の断面構造を示す拡大断面図、(b)はフィラメントの正面図。
【図4】同実施形態のブラシ体について、(a)はそのフィラメントの製造工程を示すフローチャート、(b)〜(d)は各工程におけるフィラメントの模式図。
【図5】同実施形態のブラシ体について、(a)〜(d)はそのブラシ体の製造工程を示す斜視図。
【図6】同実施形態のブラシ体について、(a)はそのブラシ体の斜視図、(b)は(a)のA−A線に沿う断面構造を示す断面図。
【図7】本発明の第2実施形態の電動歯ブラシについて、(a)はそのブラシ体の斜視図、(b)は(a)のB−B線に沿う断面構造を示す断面図。
【図8】同実施形態のブラシ体を分解した状態を示す斜視図。
【図9】本発明の第3実施形態の電動歯ブラシについて、(a)〜(c)はそのブラシ体の製造工程を示す断面図。
【図10】本発明の第4実施形態の電動歯ブラシについて、(a)はそのブラシ体の斜視図、(b)は(a)のC−C線に沿う断面構造を示す断面図。
【図11】同実施形態のブラシ体について、(a)〜(c)はそのブラシ体の製造工程を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施形態)
図1〜図6を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。
図1に示すように、歯ブラシ1は、使用者が把持可能な把持本体部10にブラシ体20を着脱可能に装着することができる。
【0022】
把持本体部10は、使用者の把持等を考慮した略円柱状に形成されている。把持本体部10の外側表面には、把持されることにより使用者の手と接触する把持電極11と、使用者により操作されるスイッチ16とが設けられている。
【0023】
把持本体部10の内部には、ブラシ体20に振動を供給する振動アクチュエータ14と、振動アクチュエータ14に電力を供給する電源部12と、振動アクチュエータ14への電力の供給等を制御する回路部13とが設けられている。
【0024】
図2に示すように、上述した回路部13は、把持電極11と電気的に接続された制御回路13Aと、電源部12に電力を供給する充電回路13Bと、電源部12から電力の供給を受ける電源回路13Cとを備えている。これら制御回路13A、充電回路13B、および電源回路13Cは電気的に互いに接続されている。
【0025】
図1に示す振動アクチュエータ14は、導電性を有する出力シャフト15を備えている。この出力シャフト15は、電源部12と電気的に接続されているとともに、把持本体部10からブラシ体20に向けて突出して設けられている。出力シャフト15は、把持本体部10にブラシ体20が装着されることにより、ブラシ体20の内部に挿入される。
【0026】
ブラシ体20は、把持本体部10に装着されるブラシ柄20Aと、ブラシ柄20Aと一体に形成されたヘッド部20Bとを備えている。ブラシ柄20Aの内部には、導電性を有する金属部材からなるリード板21が設けられている。このリード板21は、把持本体部10とブラシ体20とが装着されることにより出力シャフト15と電気的に接続される。
【0027】
図3(a)に示すように、ヘッド部20Bには、複数のブリッスル束30が、外方に突出する態様で固定されている。ヘッド部20Bの内部には、導電性材料で形成された植毛台22が設けられている。植毛台22は、導電性材料が混合された樹脂で形成される。例えば繊維状カーボンが混合されたABS(アクリルブチルスチレン)樹脂が採用される。
【0028】
植毛台22には、上述した導電性を有するリード板21が挿入固定されている。また、植毛台22における貫通孔20Cに対応する位置には、ブリッスル束30が圧入固定される挿入孔23がそれぞれ形成されている。これら貫通孔20Cの口径と挿入孔23の口径は、ブリッスル束30が挿入されていない状態においてほぼ同一に設定されている。
【0029】
1つのブリッスル束30は、細い糸状のフィラメント40が複数本(例えば20〜30本)束ねられて構成されている。このブリッスル束30は、その長手方向の中間部分で折り返されて折り返し部31が形成され、これによりU字状をなしている。ブリッスル束30は、折り返し部31において平線32により植毛台22の挿入孔23に圧入固定されている。平線32は、ブリッスル束30を植毛台22の挿入孔23に圧入固定する固定部材として機能する。
【0030】
平線32としては、金属製の小片が採用されている。平線32の幅Wは、ブリッスル束30が挿入されていない状態の挿入孔23の口径よりも長く設定されている。例えば、平線32の幅Wは、挿入孔23の口径よりも0.5〜2mm長く設定されている。この幅Wについては、植毛台22の樹脂硬度、平線32の植毛台22への固定強度、および作業効率等を考慮して好適な大きさに設定される。そして、平線32が、上述した挿入孔23において楔となってブリッスル束30とともに固定されている。
【0031】
図3(b)に示すように、フィラメント40は、長手方向の長さがL(例えば30mm)に切断された1本の細い糸状のモノフィラメントであって、導電性材料を含む芯部41とこの芯部41を被覆する絶縁性の鞘部42とからなる芯鞘構造を有する、いわゆる芯鞘フィラメントである。この芯鞘フィラメントは、その径方向の断面積における面積比率が芯部/鞘部=15/85〜50/50の範囲にあることが好ましい。なお、芯部41の比率が15%に満たない場合には、十分な導電性を発揮することが困難になるおそれがある。一方、芯部41の比率が50%を超える場合には、紡糸安定性および延伸性が低下するため実用上十分な繊維性能を得ることが困難になるおそれがある。本実施形態では、フィラメント40の芯部41の外径は0.06mmに設定されている。一方、鞘部42の外径は0.17mmに設定されている。
【0032】
芯部41は、導電性材料が含有された樹脂からなる。導電性材料としては、カーボン粒子、カーボン長繊維・短繊維、金属粒子(銀粒子等)等があげられる。また、樹脂としては、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂等があげられる。詳しくは、JIS−K7215のプラスチックのデュロメータ硬さ試験法で測定したデュロメータータイプD硬さがHDD60以上であることが望ましい。また、芯部41における導電性材料の含有率は、20〜60質量%の範囲にあることが好ましい。なお、芯部41における導電性材料の含有率が20質量%に満たない場合には、十分な導電性能を発揮することが困難になるおそれがある。一方、芯部41における導電性材料の含有率が60質量%を超える場合には、芯部41の原液中でカーボン粒子の十分な分散性を得ることが困難になるおそれがある。本実施形態では、芯部41におけるカーボン粒子の含有率が30質量%になるように、カーボン粒子がナイロン6に混練されたものが用いられている。
【0033】
一方、鞘部42は、絶縁性の熱可塑性エラストマー樹脂からなる。すなわち、鞘部42は、カーボン粒子等の導電性材料を含まない。具体的には、熱可塑性エラストマーとして、ナイロンエラストマー、ポリエステルエラストマー、スチレンエラストマー、ウレタンエラストマー、およびオレフィンエラストマー等があげられる。なお、作業効率の点においてナイロンエラストマーまたはポリエステルエラストマーが好適である。詳しくは、JIS−K7215のプラスチックのデュロメータ硬さ試験法で測定したデュロメータータイプD硬さがHDD40〜80であることが望ましい。こうした硬さ特性に加え、上述した芯部41の硬度が鞘部42の硬度よりも高くなるように、これら芯部41および鞘部42の各材料を選択する。これにより、芯部41の硬度が鞘部42の硬度よりも高いフィラメント40が形成されている。
【0034】
また、芯部41は鞘部42よりも高い導電性を有する。具体的には、芯部41の体積固有抵抗値は、1×102〜1×106(Ω・cm)である。一方、鞘部42の体積固有抵抗値は、1×107〜1×1013(Ω・cm)である。なお、体積固有抵抗値とは、物体の体積固有抵抗を示す値である。また、体積固有抵抗とは、物体の表面における電気抵抗率ではなく、物体の内部における電気抵抗率を示す。
【0035】
フィラメント40の両端には、芯部41が鞘部42から露出した先端露出部41Aがそれぞれ形成されている。この先端露出部41Aは、歯ブラシ1の使用時に歯や義歯の表面に対して直接的に接触する。また、フィラメント40の長手方向の中間部分には、その全周において芯部41が鞘部42から露出した中間露出部41Bが形成されている。この中間露出部41Bは、上述したブリッスル束30の折り返し部31に対応する部分に形成されている。これにより、植毛台22に圧入固定されたブリッスル束30において、鞘部42から露出した芯部41が植毛台22に接触する。なお、中間露出部41Bの長手方向の長さは、2〜10mmであることが好ましい。中間露出部41Bの長さが2mmに満たない場合には、中間露出部41Bと植毛台22との接触面積が小さくなるため、導電性が低下するおそれがある。一方、中間露出部41Bの長さが10mmを超える場合には、植毛台22の外部、すなわちヘッド部20Bの外部にまで中間露出部41Bが達するおそれがある。これにより、歯ブラシ1の使用時において先端露出部41Aに加えて、ヘッド部20Bの外部にある中間露出部41Bからも有効成分が生成されるおそれがある。
【0036】
図4〜図6を参照して、ブラシ体20の製造工程について説明する。
図4(a)に示すフィラメント40の製造工程では、溶融・混練工程において、まず、芯部41の紡糸原液、および鞘部42の紡糸原液を別々に調製する。次に、溶融物押出工程において、これら調製した2種の紡糸原液を芯鞘複合紡糸ノズルにより押し出し、冷却固化工程、延伸工程、熱セット工程を経て、長い糸状のフィラメント43(以下、「長フィラメント43」とする)を形成する(図4(b)参照)。この長フィラメント43は、芯部41が鞘部42に被覆された芯鞘構造を有している。
【0037】
次いで、鞘部除去工程において、長フィラメント43の鞘部42を所定の間隔で除去して芯部41を露出させる(図4(c)参照)。本実施形態では、長フィラメント43において、その全周の鞘部42を30mmごとに5mmずつ除去する。こうして露出した芯部41が、上述した中間露出部41Bに相当する。鞘部42の除去は、例えばサンドブラストやウォータージェットなどの微細研削方法により実行する。この際における噴射圧力、噴射時間、噴射角度等の各種条件は、鞘部42の除去が効率よく実行できるとともに芯部41の除去を抑えることのできる好適な条件に調整される。また、長フィラメント43を回転させつつサンドブラストやウォータージェットなどによる微細研削を実行することにより、長フィラメント43の全周における鞘部42の除去をより効率よく実行することができる。
【0038】
次いで、巻取り工程において、長フィラメント43を筒状の巻に巻き取り、長フィラメント43の巻物を得る。
次いで、フィラメント切断工程において、芯部41の中間露出部41Bが長手方向の中間部分に位置するように長フィラメント43を30mmごとに切断する(図4(d)参照)。さらに、こうして形成された長さ30mmの短いフィラメントにおいて、その両端の鞘部42をフィラメントの端から2mmずつ除去して芯部41の先端露出部41Aを形成する。これにより、先の図3(b)および図5(a)に示すフィラメント40が形成される。
【0039】
次に、こうして得られたフィラメント40を複数本(例えば20〜30本)束ねることにより、図5(b)に示すブリッスル束30を形成する。
次いで、図5(c)に示すように、ブリッスル束30をその長手方向の中間部分において折り返し、この折り返し部31で平線32を挟みこむ。その後、挟み込まれた平線32をブリッスル束30とともに植毛台22の挿入孔23に植毛機で打ち込むことにより、平線32が楔となってブリッスル束30が植毛台22に対して圧入固定される。これにより、図5(d)および図6に示すブラシ体20が形成される。なお、植毛台22は、その挿入孔23の位置と貫通孔20Cの位置とが一致するように、ヘッド部20Bの内部に予め固定されている。こうして得られたブラシ体20は、図6(b)および先の図3(a)に示すように、ブリッスル束30の折り返し部31が植毛台22の内部に挿入されて固定されている。
【0040】
製造されたブラシ体20が把持本体部10に装着された歯ブラシ1の使用時において、スイッチ16が使用者により操作されると、把持本体部10に内蔵された振動アクチュエータ14は、電源部12から供給される電力を駆動力として出力シャフト15を振動させる。これによりブラシ体20が振動し、ブリッスル束30によるブラッシングが行われる。また、この歯磨き時には、電源部12、把持電極11、使用者の手、使用者の歯茎等の組織、ブリッスル束30、植毛台22、リード板21、出力シャフト15の順に接続された閉回路である電気回路が形成される。こうして電気回路が形成されると、フィラメント40、すなわちブリッスル束30に通電されることにより、芯部41の先端露出部41Aに電流が供給される。これにより、口腔内細菌の殺菌に対する有効成分が先端露出部41Aから発生する。
【0041】
本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)ブラシ体20では、フィラメント40の長手方向の中間部分で鞘部42から芯部41が露出することにより中間露出部41Bが形成されている。すなわち、好適な導電性が得られるべく構成された芯部41が露出しているため、この芯部41(中間露出部41B)を通じて、フィラメント40は、安定して導電部材(植毛台22)と電気的に接続することができる。これにより、フィラメント40(ブリッスル束30)において所望の導電性を得ることができる。これに対し、例えばアンカー植毛法によりブリッスル束30を植毛台22に固定する場合には、ブリッスル束30の基端部を溶解させて溶解塊を形成する必要がある。この溶解塊は、芯部41と鞘部42との混合物となるため、ブリッスル束30において所望の導電性を得られないおそれがある。
【0042】
(2)フィラメント40の両端において、鞘部42から芯部41が露出して先端露出部41Aが形成されているため、歯ブラシ1の使用時において口腔内の適切な部位およびその部位近傍に芯部41が直接的に接触することができる。さらに、先端露出部41Aおよび中間露出部41Bを除く芯部41は絶縁性の鞘部42で被覆されているため、歯ブラシ1の使用時にフィラメント40に通電されたときに、フィラメント40全体、すなわちブリッスル束30全体から有効成分が発生することが抑えられる。したがって、歯ブラシ1の使用時において、先端露出部41Aを通じて口腔内の適切な部位およびその部位近傍に集中的に有効成分を供給することができる。
【0043】
(3)芯部41の材料の硬度は鞘部42の材料の硬度よりも高いため、鞘部42を除去して芯部41を露出する鞘部除去工程において、芯部41が除去されることが抑えられる。そのため、この鞘部除去工程での各種条件を幅広く設定できるようになる。したがって、サンドブラストやウォータージェットなどの微細研削方法により、簡便に鞘部42を除去することができる。また、フィラメント40の歩留まりを向上させることができる。
【0044】
(4)フィラメント40の長手方向の中間部分の全周において、芯部41が鞘部42から露出した中間露出部41Bが形成されている。そのため、このフィラメント40により構成されたブリッスル束30の周まわりにおいて、いずれの部分でも中間露出部41Bと導電部材(植毛台22)とが接触することができる。したがって、フィラメント40によりブリッスル束30を形成する際に、フィラメント40の周まわりでの中間露出部41Bの位置を考慮することなく中間露出部41Bと植毛台22とを接触させることができる。これに対し、フィラメントの長手方向の中間部分において、周まわりの一部のみで芯部が露出して中間露出部が形成された構成では、このフィラメントによりブリッスル束を形成する際に、中間露出部と植毛台22とを接触させるべく中間露出部の周まわりでの位置を考慮することが必要である。これは、中間露出部と植毛台22とを接触させるためには、ブリッスル束の外側に中間露出部が配置されている必要があるためである。換言すると、ブリッスル束の折り返し部において内側のみに中間露出部が配置された場合には、この中間露出部と植毛台22とを接触させることができなくなるからである。この点、本実施形態によれば、フィラメント40の周まわりの一部のみで芯部が露出した上述した構成と比較して、中間露出部41Bと植毛台22との電気接続が簡便になるとともに、ブリッスル束30における各フィラメント40の芯部41同士の電気接続も簡便になる。
【0045】
(5)植毛台22が導電性材料で形成されているため、植毛台22の挿入孔23にブリッスル束30を圧入固定することにより、導電部材である植毛台22と中間露出部41Bとを接触させることができる。したがって、ブリッスル束30を植毛台22に圧入固定した後に中間露出部41Bと導電部材とを接触させる構成と比較して、部品点数を減らすことができ、簡便な構成にすることができる。
【0046】
(6)ブリッスル束30は、平線32により植毛台22に圧入固定されている(平線植毛法)。これに対し、例えばアンカーレス植毛法によりブリッスル束30を植毛台22に固定する場合には、ブリッスル束30の基端部を溶解させて溶解塊を形成する工程が必要であるため、溶解塊の形成に高度な制御と管理が必要である。そのため、本実施形態のように平線植毛法で製造されたブラシ体20と比較して、アンカーレス植毛法で製造されたブラシ体の製造コストは高くなる傾向にある。この点、本実施形態の製造方法によれば、製造コストを抑制しつつ、ブラシ体20を提供することができる。
【0047】
(7)歯ブラシ1は、ブラシ体20を備えているため、この歯ブラシ1の使用時において、中間露出部41Bを通じてフィラメント40に通電させることができる。そのため、口腔内殺菌の殺菌効果を得ることができる。
【0048】
(8)歯ブラシ1は、ブラシ体20を振動させる振動アクチュエータ14を備えている。そのため、口腔内細菌の殺菌効果に加えて擦掃性を向上させることができ、さらに歯茎へのマッサージもすることができる。
【0049】
(第2実施形態)
図7および図8を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。
本実施形態のブラシ体20は、第1実施形態のブラシ体20の一部を次のように変更したものとして構成されている。すなわち、図7(b)に示すように、本実施形態のブラシ体20では、第1実施形態の植毛台22に替えて、植毛台52および導電部材54が設けられている。また、ブリッスル束30は、植毛台52を貫通する態様でこの植毛台52に固定されている。
【0050】
以下、この変更された部分についての詳細を示す。なお、その他の点については第1実施形態と同様の構成が採用されているため、共通する構成については同一の符号を付してその説明の一部または全部を適宜省略する。
【0051】
図7(b)に示すように、植毛台52の挿入孔53は、植毛台52を貫通して設けられている。植毛台52は、例えばABS(アクリルブチルスチレン)樹脂といった、導電性を有さない樹脂で形成されている。また、植毛台52の厚みは、植毛台22の厚みよりも小さく、本実施形態では植毛台22の1/2の厚さに設定されている。
【0052】
ブリッスル束30は、その長手方向の中間部分で折り返されて折り返し部31が形成されている。そして、ブリッスル束30は、ヘッド部20Bの貫通孔20Cおよび植毛台52を貫通する態様で、植毛台52の挿入孔53に対して平線32により圧入固定されている。これにより、図7(b)および図8に示すように、植毛台52において、ブリッスル束30の両端(先端露出部41A)が配置された側の面52Aとは反対側の面52Bからフィラメント40の中間露出部41Bが外方に突出している。中間露出部41Bは、上記第1実施形態と同様の方法で形成される。そして、中間露出部41Bを有するフィラメント40が複数本(例えば20〜30本)束ねられることによりブリッスル束30が構成されている。なお、以下の説明では、植毛台52においてブリッスル束30の両端(先端露出部41A)が配置された側の面52Aを「植毛面52A」とし、この植毛面52Aとは反対側の面52Bを「背面52B」とする。
【0053】
導電部材54は、植毛台52の背面52Bおよび中間露出部41Bに接触して設けられている。導電部材54は、導電性を有する金属部材で形成されている。この導電部材54には、中間露出部41Bに対応する位置に複数のリブ54Aが設けられている。
【0054】
また、導電部材54は、同じく導電性を有する金属部材からなるリード板51と一体形成されている(図8参照)。リード板51は、上記第1実施形態におけるリード板21と同様に、把持本体部10とブラシ体20とが装着されることにより出力シャフト15と電気的に接続される。
【0055】
押さえ部材55は、例えばスポンジにより形成された弾性体である。この押さえ部材55で導電部材54が植毛台52に対して押さえつけられることにより、導電部材54のリブ54Aと中間露出部41Bとが密着する。
【0056】
上述した中間露出部41B、導電部材54、および押さえ部材55は、ブラシ柄20Aおよびヘッド部20Bに設けられたカバー56により覆われている。カバー56は、ブラシ柄20Aおよびヘッド部20Bから取れないように、水密的に固定されている。
【0057】
本実施形態によれば、上記第1実施形態の(1)〜(4)および(6)〜(8)に示した各効果の他、以下の効果が得られる。
(9)フィラメント40の中間露出部41Bが、植毛台52の背面52B側から露出している。そのため、ブリッスル束30を植毛台52に圧入固定した後に、中間露出部41Bと導電部材54との電気接続を背面52B側から簡便に行うことができる。
【0058】
(第3実施形態)
図9を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。
本実施形態では、上記第2実施形態と次の点において異なる。すなわち、上記第2実施形態では、フィラメント40の中間露出部41Bを形成した後に、このフィラメント40によりブリッスル束30を構成し、このブリッスル束30を植毛台52に固定している。これに対し、本実施形態では、ブリッスル束60を植毛台52に固定した後に、フィラメント70の中間露出部71Bを形成する。
【0059】
また、上記第2実施形態では、リブ54Aが予め設けられた導電部材54を、植毛台52および中間露出部41Bに静置した後、これら植毛台52、中間露出部41B、および導電部材54を押さえ部材55により密着させている。これに対し、本実施形態では、導電部材54と中間露出部71Bと植毛台52とが一体化するように固定する。以下、この変更された部分についての詳細を示す。
【0060】
図9を参照して、本実施形態のブラシ体20の製造工程を説明する。
図9(a)に示すように、まず、中間露出部71Bが形成されていない状態のフィラメント70によりブリッスル束60を形成し、このブリッスル束60を、ヘッド部20Bの貫通孔20Cおよび植毛台52を貫通する態様で平線32により挿入孔53に対して圧入固定する。これにより、ブリッスル束60の折り返し部61は、植毛台52の背面52Bから外方に突出する。なお、フィラメント70は、先の図4(a)に示すフィラメントの製造工程において、鞘部除去工程を省略することにより製造する。フィラメント70の両端には、芯部71が鞘部72から露出した先端露出部71Aが形成されている。
【0061】
次いで、植毛台52の背面52Bから、折り返し部61における鞘部72を除去して芯部71を露出させる。これにより、図9(b)に示すように、フィラメント70の長手方向の中間部分に中間露出部71Bが形成される。この鞘部72の除去は、例えばサンドブラストやウォータージェットのような微細研削加工により実行することができる。
【0062】
次いで、導電性を有するペースト状の樹脂を植毛台52の背面52Bに積層した後この樹脂を固化することにより、導電部材54を形成する。これにより、図9(c)に示すように、中間露出部71Bと植毛台52と導電部材54が一体化するように固定される。なお、導電性を有するペースト状の樹脂により導電部材54を形成する本工程において、導電性を有する金属部材からなるリード板51を同時に導電部材54に対して固定する(図示略)。このリード板51は、上記第2実施形態におけるリード板51と同様に、把持本体部10とブラシ体20とが装着されることにより出力シャフト15と電気的に接続される。
【0063】
その後、上記第2実施形態と同様に、押さえ部材55およびカバー56を設けることにより、先の図7に示したブラシ体20と同様の構造であって、リブ54Aが形成されていない導電部材54を有するブラシ体20が形成される。
【0064】
本実施形態によれば、上記第1実施形態の(1)〜(3)、(6)〜(8)、および上記第2実施形態の(9)に示した各効果の他、以下の効果が得られる。
(10)ブリッスル束60を植毛台52に圧入固定した後に中間露出部71Bを形成するため、導電部材54との接触に必要な部位を中心にして鞘部72を除去することができる。すなわち、ブリッスル束60における折り返し部61の内側については、導電部材54との接触に寄与することが少ない。そのため、こうした内側に位置する鞘部72の除去は省略しつつ、導電部材54との接触に寄与する部分を中心に鞘部72を除去することができるため、中間露出部71Bの形成における作業効率を向上させることができる。
【0065】
(11)中間露出部71Bと植毛台52と導電部材54が一体化するように固定されているため、中間露出部71Bと導電部材54との電気的な接続がより安定したものになる。また、中間露出部71Bと植毛台52と導電部材54とが固定されることにより、ブリッスル束60の植毛台52に対する固定強度を補強することもできる。
【0066】
(第4実施形態)
図10および図11を参照して、本発明の第4実施形態について説明する。
本実施形態では、上記第3実施形態と次の点において異なる。すなわち、上記第3実施形態では、ブリッスル束60を植毛台52に固定した後に、中間露出部71Bを形成している。これに対し、本実施形態では、ブリッスル束90を植毛台82に挿入する工程において中間露出部101Bを形成する。以下、この変更された部分についての詳細を示す。
【0067】
図10(b)に示すように、ブリッスル束90は、フィラメント100が複数本(例えば20〜30本)束ねられて構成されるとともに、その長手方向の中間部分で折り返されて折り返し部91が形成されている。フィラメント100の両端には、芯部101が鞘部102から露出した先端露出部101Aが形成されている。また、フィラメント100の長手方向の中間部分には、芯部101が鞘部102から露出した中間露出部101Bが形成されている。また、ブリッスル束90は、ヘッド部20Bの貫通孔20Cおよび植毛台82を貫通する態様で、植毛台82の挿入孔83に対して平線32により圧入固定されている。すなわち、ブリッスル束90の折り返し部91、および中間露出部101Bが、植毛台52の背面82Bから外方に突出している。
【0068】
植毛台82の挿入孔83は、植毛台82を貫通して設けられている。なお、植毛台82は、上記第3実施形態の植毛台52と同一材料により形成されているとともに、その厚みは植毛台52の厚みと同一である。
【0069】
ここで、植毛台82の植毛面82Aにおける挿入孔83の開口を植毛面開口83Aとし、背面82Bにおける挿入孔83の開口を背面開口83Cとする。この場合、植毛面開口83Aの口径R1は、背面開口83Cの口径R2よりも大きく設定されている(R1>R2)。詳しくは、背面開口83Cの口径R2は、ブリッスル束90の外径R3よりも小さく設定されている(R2<R3)。また、平線32が楔となってブリッスル束90が挿入孔83に対して圧入固定されるべく、背面開口83Cの口径R2は平線32の幅W(図3(a)参照)よりも小さく設定されている(R2<W)。また、挿入孔83の中間には、植毛面82A側から背面82B側に向かって口径が小さくなるようにテーパ部83Bが設けられている。
【0070】
図10を参照して、ブラシ体20の製造工程について説明する。
図11(a)に示すように、本実施形態では、上記第3実施形態と同様に、中間露出部101Bが形成されていない状態のフィラメント100を製造する。そして、このフィラメント100を複数本束ねてブリッスル束90を形成し、このブリッスル束90の折り返し部91において平線32を挟みこむ。
【0071】
次いで、図11(b)および(c)に示すように、折り返し部91において平線32を挟み込んだ状態で、ブリッスル束90を植毛面82A側から植毛台82に挿入し、平線32によりブリッスル束90を植毛台82に圧入固定する。上述したように、背面開口83Cの口径R2は、ブリッスル束90の外径R3よりも小さく設定されているため、ブリッスル束90がテーパ部83Bの内部を通過する際に、鞘部102とテーパ部83Bとの摩擦により、鞘部102において応力が生じる。この応力により、折り返し部91の鞘部102が破断して除去されることにより、フィラメント100の長手方向の中間部分で芯部101が露出して中間露出部101Bが形成される。なお、植毛面開口83Aの口径R1の大きさ、背面開口83Cの口径R2の大きさ、およびテーパ部83Bの傾きや長さといった形状については、鞘部102の除去効率を考慮してそれぞれ設定されている。
【0072】
その後、上記第3実施形態と同様に、導電部材54、押さえ部材55およびカバー56を設けることにより、先の図10に示したブラシ体20を得る。
本実施形態によれば、上記第1実施形態の(1)、(2)、(6)〜(8)、上記第2実施形態の(9)、および上記第3実施形態の(11)に示した各効果の他、以下の効果が得られる。
【0073】
(12)ブリッスル束90を植毛台82に圧入固定する工程において、鞘部102に乗じる応力を利用して芯部101を露出させて中間露出部101Bを形成している。そのため、サンドブラストやウォータージェットなどの微細研削方法により鞘部102を除去する構成と比較して、簡便に中間露出部101Bを形成することができ、ブラシ体20の製造工程を簡略化することができる。
【0074】
(13)芯部41の材料の硬度は鞘部42の材料の硬度よりも高いため、応力により鞘部102を除去する際において、芯部101が除去されることを抑えることができる。
(その他の実施形態)
なお、本発明の実施態様は上記各実施形態に例示した態様に限られるものではなく、これを例えば以下に示すように変更して実施することもできる。また、以下の各変形例は、上記各実施形態についてのみ適用されるものではなく、異なる変形例同士を互いに組み合わせて実施することもできる。
【0075】
・上記第1実施形態で示したフィラメント40の製造工程は一例であって、適宜変更することができる。例えば、熱セット工程に続いて巻取り工程を実行し、その後、鞘部除去工程を別途実行してもよい。
【0076】
・上記第2〜第4実施形態では、植毛台52は導電性を有さない樹脂で形成される例を示したが、これら植毛台52は、導電性材料で形成されていてもよい。この場合であっても、中間露出部41B,71B,101Bが導電部材と接するべく導電部材54を設ければよい。
【0077】
・上記第3実施形態では、ブリッスル束60の折り返し部61において、植毛台52の背面52Bから外方に突出していない部分、すなわち挿入孔53の内側にある部分まで鞘部72が除去されて中間露出部71Bが形成されている例を示した。これに対し、植毛台52の背面52Bから外方に突出している折り返し部61であってその外側の部分、すなわち導電部材54に接する部分に対応する鞘部72のみ除去してもよい。この場合には、例えばサンドブラストやウォータージェットのような微細研削加工により鞘部72を除去する際の条件を適宜変更すればよい。そして、形成された中間露出部71Bと導電部材54とを接触させることにより、上述した各効果を得ることができる。
【0078】
・上記第4実施形態において、鞘部102の除去をより簡便にすべく、鞘部102に予め傷を付与した後にブリッスル束90を挿入孔83に挿入するようにしてもよい。
・上記各実施形態では、芯部41の材料としてナイロン樹脂を使用する一方、鞘部42の材料として熱可塑性エラストマー樹脂を使用する例を示したが、これら材料については適宜変更してもよい。例えば、芯部41および鞘部42をいずれもナイロン樹脂により形成したり、ゴム弾性体により形成したりしてもよい。ただし、上述したように、鞘部除去工程での作業効率を向上させるという点を考慮すると、芯部41の硬度と鞘部42との硬度の差は大きく、且つ芯部41の硬度の方が高くなることが望ましい。
【0079】
・ブラシ体20を構成するヘッド部20B、リード板21,51、植毛台22,52,82、および押さえ部材55等を形成する材料も、上記各実施形態に記載した例に限られず、適宜変更してもよい。
【0080】
・上記各実施形態では、ブリッスル束30,60,90を構成するすべてのフィラメント40,70,100において、中間露出部41B,71B,101Bを形成する例を示した。これに対し、ブリッスル束30,60,90を構成する一部のフィラメント40,70,100において中間露出部41B,71B,101Bを形成してもよい。
【0081】
・上記各実施形態では、フィラメント40,70,100の両端に先端露出部41A,71A,101Aをそれぞれ形成する例を示した。これに対し、フィラメント40,70,100の両端のいずれか一方のみに先端露出部41A,71A,101Aを形成してもよい。また、先端露出部41A,71A,101Aを両端の双方に形成したフィラメントと、両端のいずれか一方のみに先端露出部41A,71A,101Aを形成したフィラメントを組み合わせてブリッスル束を形成してもよい。
【0082】
・上記各実施形態では、フィラメント40,70,100の両端において、芯部41,71,101(先端露出部41A,71A,101A)が鞘部42,72,102から外方に突出している例を示した。しかし、フィラメント40,70,100の端部において、芯部41,71,101が鞘部42,72,102から露出していればよく、芯部41,71,101が外方に突出していることは要しない。要するにフィラメント40,70,100の端部において芯部41,71,101が歯や義歯等に接触可能な構成であればよい。
【0083】
・また、中間露出部41B,71B,101Bについても、背面52B,82Bから突出していることを要しない。要するに、中間露出部41B,71B,101Bが導電部材と接触可能な構成であればよい。
【0084】
・上記第1実施形態では、フィラメント40の全周において鞘部42を除去して中間露出部41Bを形成する例を示した。これに対し、フィラメント40の周まわりの一部において中間露出部41Bを形成してもよい。この場合には、中間露出部41Bと弾性部材(植毛台22)とが接触すべくブリッスル束30および折り返し部31を形成すればよい。
【0085】
・上記各実施形態では、金属製の小片である平線32によりブリッスル束30,60,90を植毛台22,52,82に圧入固定する例を示した。しかし、ブリッスル束30,60,90を植毛台22,52,82に対して圧入固定することのできる固定部材であれば、その材料や形状については上述した例に限られない。例えば、硬度の高い樹脂によって固定部材を形成してもよい。
【0086】
・上記各実施形態では、ブラシ体20がブラシ柄20Aおよびヘッド部20Bを備えている例を示した。これに対し、ブラシ体をヘッド部20Bのみで構成してもよい。この場合には、ヘッド部20Bと把持本体部10とを装着することにより、導電性を有する植毛台22または導電部材54が把持本体部10から延びる導電部材(例えば出力シャフト15)と接触可能になるように構成すればよい。
【0087】
・上記各実施形態では、ブラシ体20が把持本体部10に対して着脱可能であったが、ブラシ体20と把持本体部10とが一体的に設けられた歯ブラシに対して本発明を適用することもできる。
【0088】
・上記各実施形態の歯ブラシ1は、そのブラシ体20のヘッド部20Bが振動する機能を有していたが、ブラシ体20を振動させる機能が省略された歯ブラシに対して本発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0089】
1…電動歯ブラシ、14…振動アクチュエータ、20…ブラシ体、22,52,82…植毛台、23,53,83…挿入孔、30,60,90…ブリッスル束、31,61,91…折り返し部、32…平線(固定部材)、40,70,100…フィラメント、41,71,101…芯部、41A,71A,101A…先端露出部、41B,71B,101B…中間露出部、42,72,102…鞘部、54…導電部材、83B…テーパ部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性材料を含む芯部とこの芯部を被覆する絶縁性の鞘部とを備えるフィラメントが複数本用いられて構成されたブリッスル束を備え、このブリッスル束がその長手方向の中間部分にて折り返されて、この折り返し部において固定部材により植毛台の挿入孔に圧入固定されるとともに、前記フィラメントの両端の少なくとも一方において前記鞘部から前記芯部が露出しているブラシ体において、
前記ブリッスル束の少なくとも一部のフィラメントにおいて、前記中間部分で前記鞘部から前記芯部が露出した中間露出部が形成されている
ことを特徴とするブラシ体。
【請求項2】
請求項1に記載のブラシ体において、
前記芯部の材料の硬度が前記鞘部の材料の硬度よりも高い
ことを特徴とするブラシ体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のブラシ体において、
前記中間露出部は、前記ブリッスル束の少なくとも一部のフィラメントにおいて、その長手方向の中間部分の全周で前記鞘部から前記芯部が露出することにより形成されている
ことを特徴とするブラシ体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のブラシ体において、
前記植毛台が導電性材料で形成されている
ことを特徴とするブラシ体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のブラシ体において、
前記ブリッスル束は前記植毛台を貫通する態様で前記挿入孔に圧入固定されているとともに、前記植毛台において前記ブリッスル束の両端が配置された側の面とは反対側の面から前記中間露出部の少なくとも一部が露出している
ことを特徴とするブラシ体。
【請求項6】
請求項5に記載のブラシ体において、
前記中間露出部と接触する導電部材をさらに備え、
前記中間露出部と前記植毛台と前記導電部材とが一体化されている
ことを特徴とするブラシ体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のブラシ体を備える
ことを特徴とする電動歯ブラシ。
【請求項8】
請求項7に記載の電動歯ブラシにおいて、
前記ブラシ体を振動させる振動アクチュエータをさらに備える
ことを特徴とする電動歯ブラシ。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のブラシ体の製造方法であって、
前記ブリッスル束を前記挿入孔に圧入固定する工程において、前記鞘部に生じる応力を利用して前記鞘部を除去することにより前記中間露出部を形成する
ことを特徴とするブラシ体の製造方法。
【請求項10】
請求項5または6に記載のブラシ体の製造方法であって、
前記ブリッスル束が前記植毛台を貫通する態様で前記ブリッスル束を前記挿入孔に圧入固定した後、前記折り返し部における前記フィラメントの前記鞘部を、前記植毛台において前記ブリッスル束の両端が配置された側の面とは反対側の面から除去することにより前記中間露出部を形成する
ことを特徴とするブラシ体の製造方法。
【請求項1】
導電性材料を含む芯部とこの芯部を被覆する絶縁性の鞘部とを備えるフィラメントが複数本用いられて構成されたブリッスル束を備え、このブリッスル束がその長手方向の中間部分にて折り返されて、この折り返し部において固定部材により植毛台の挿入孔に圧入固定されるとともに、前記フィラメントの両端の少なくとも一方において前記鞘部から前記芯部が露出しているブラシ体において、
前記ブリッスル束の少なくとも一部のフィラメントにおいて、前記中間部分で前記鞘部から前記芯部が露出した中間露出部が形成されている
ことを特徴とするブラシ体。
【請求項2】
請求項1に記載のブラシ体において、
前記芯部の材料の硬度が前記鞘部の材料の硬度よりも高い
ことを特徴とするブラシ体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のブラシ体において、
前記中間露出部は、前記ブリッスル束の少なくとも一部のフィラメントにおいて、その長手方向の中間部分の全周で前記鞘部から前記芯部が露出することにより形成されている
ことを特徴とするブラシ体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のブラシ体において、
前記植毛台が導電性材料で形成されている
ことを特徴とするブラシ体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のブラシ体において、
前記ブリッスル束は前記植毛台を貫通する態様で前記挿入孔に圧入固定されているとともに、前記植毛台において前記ブリッスル束の両端が配置された側の面とは反対側の面から前記中間露出部の少なくとも一部が露出している
ことを特徴とするブラシ体。
【請求項6】
請求項5に記載のブラシ体において、
前記中間露出部と接触する導電部材をさらに備え、
前記中間露出部と前記植毛台と前記導電部材とが一体化されている
ことを特徴とするブラシ体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のブラシ体を備える
ことを特徴とする電動歯ブラシ。
【請求項8】
請求項7に記載の電動歯ブラシにおいて、
前記ブラシ体を振動させる振動アクチュエータをさらに備える
ことを特徴とする電動歯ブラシ。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のブラシ体の製造方法であって、
前記ブリッスル束を前記挿入孔に圧入固定する工程において、前記鞘部に生じる応力を利用して前記鞘部を除去することにより前記中間露出部を形成する
ことを特徴とするブラシ体の製造方法。
【請求項10】
請求項5または6に記載のブラシ体の製造方法であって、
前記ブリッスル束が前記植毛台を貫通する態様で前記ブリッスル束を前記挿入孔に圧入固定した後、前記折り返し部における前記フィラメントの前記鞘部を、前記植毛台において前記ブリッスル束の両端が配置された側の面とは反対側の面から除去することにより前記中間露出部を形成する
ことを特徴とするブラシ体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−100938(P2012−100938A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253058(P2010−253058)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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