説明

電子レンジ又はオーブン調理用油ちょう済フライ食品およびそれに用いる衣材

【目的】 電子レンジ又はオーブン加熱によっても衣のクリスピー感が損なわれない油ちょう済フライ食品を得る。
【構成】 具材に、油脂(油溶性物質)5〜50重量%、小麦粉類(水和性難溶高分子)40〜85重量%、ガム類(増粘性可溶高分子)0.8〜10.0重量%を原料として含むバッター組成物を被覆した後、170〜220℃の油で1〜3分加熱した後、衣部に直径0.1〜5mmの孔を開けた後冷凍する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、電子レンジ又はオーブン調理後、喫食する油ちょう済フライ食品およびそれに用いる衣材に関する。本技術は、喫食に当り、油揚げ調理をすることなく電子レンジ又はオーブン調理するだけで、フライ食品を得る技術であり、特に、油ちょう済の冷凍、冷蔵食品類に利用できるものである。
【0002】
【従来の技術】食生活の多様化、簡便化に伴い、油揚げ調理をすることなく、電子レンジやオーブン調理でフライ様の食品を手軽に供卓できる調理済食品類に対する需要が高まっている。例えば、具材に衣材としてバッターとパン粉を付着させ油ちょう後、冷凍した電子レンジ調理対応の油ちょう済食品が多種上市されている。これらの食品は簡便性という点に関しては極めて優れた食品であるが、電子レンジ加熱により調理するため加熱中に具材等より発生する水蒸気により衣が湿り、サクッとした食感を保持することが困難で、さらに具材からの水蒸気の圧力で衣が調理中にパンクし、食感のみならず、外観においても商品性が著しく低下する。
【0003】フライ食品の特徴であるサックリとした食感及び外観を損なった食品はもはやフライ食品ではなく、単に電子レンジで加熱した衣付食品にすぎない。このため、フライ食品の食感、外観をできるだけ保持しつつ電子レンジ調理を可能とする食品加工技術が従来から研究されてきた。例えば、コーングリッツ等の難水和性粒状物質をコーティング材に含有させプリフライ後凍結し、唐揚げとしての食感の改良をねらったもの(特開昭63−233751号公報)や、熱凝固性を有する起泡剤で含気させた小麦粉等を含むバッター及びパン粉により衣材を形成しプリフライ後凍結し、フライ食品としての食感の改良をねらったもの(特開昭64−60334号公報)等が知られている。
【0004】しかし、唐揚用のコーティング材をパン粉等を用いた衣付フライ食品に適用することはできない。又、含気バッターを用いた衣付フライ食品では電子レンジ加熱により衣が塊状、ゴム状になることを抑制することができても電子レンジ加熱により吸湿しやすくフライ食品特有のサックリとした食感を実現することは困難であり、又、調理中衣がパンクしやすい。一方、パンクを抑えようとすれば衣を強固にする必要があり、ゴム状となり、サックリさが失われる。
【0005】電子レンジ加熱により具材等から発生する水蒸気により衣材が湿り、軟化するという問題は、電子レンジ調理がマイクロ波による誘電加熱であり、マイクロ波が集中する食品の内部からの加熱であることに起因する本質的問題である。油揚げ処理では高い熱伝達による外部加熱であり、表面から水分が油と置換し脱水しつつ、内部へ熱が伝導していくので、衣はサックリとした食感となる。電子レンジ加熱で具材から発生する水蒸気により衣が湿るのは当然のことであり、回避し得ない現象である。従来技術が電子レンジ加熱によってもフライ食品らしい特徴を食品に付与するという課題の解決を試みたものであっても本質的解決ではなく、あくまでも劣化の程度を若干抑制するにとどまっているのは上記加熱メカニズムの相違に理由がある。このため、従来上市されている冷凍フライ食品類は電子レンジ対応とうたっているものの専らオーブン調理との併用品に限られていた。オーブン調理では、電子レンジ調理に比べ、衣材の吸湿、軟化を抑制することが可能である。それは、オーブン加熱が輻射熱、熱伝導等による外部加熱であり、食品の表面から加熱されるため食品の被覆材である衣が脱水し易い状態にさらされていることによる。しかし、オーブン加熱では油揚げ加熱に比べれば熱伝達が著しく低く、かつ、水と置換し得る媒体である油が存在しないため、衣の乾燥(脱水)が促進されず、具材からの水蒸気発生が多い場合は、衣は吸湿し、軟化する。更にオーブン中で食品の裏(下面)には具材からのドリップがたまり易い一方、食品の上面には具材からの水蒸気がこもり易い。
【0006】これらの問題点は、加熱調理対象が冷凍品の場合は更に深刻となる。冷凍処理、冷凍保存中により生成した氷結晶が水蒸気の集中を生じ、かつクッキング時間を長くするからである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の従来技術の実情に鑑み、電子レンジ又はオーブンで加熱調理しても、衣が吸湿、軟化することがなく、かつ衣のパンクも生じずフライ食品特有の食感及び外観を保持する油ちょう済フライ食品を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】かかる目的を達成する本発明は、具材をバッターで少なくとも被覆し、油ちょうした食品の少なくとも衣部に径0.1〜5mmの開孔を有する電子レンジ又はオーブン調理用油ちょう済フライ食品である。又、本発明は、具材を、油溶性物質5〜50重量%と、水和性難溶高分子類40〜85重量%と、増粘性可溶高分子0.8〜10重量%とを含有する衣材よりなるバッターで少なくとも被覆し、油ちょうした食品の少なくとも衣部に径0.1〜5mmの開孔を有する冷凍又は冷蔵状態の電子レンジ又はオーブン調理用油ちょう済フライ食品であり、又、好ましい態様では上記バッター被覆の上にパン粉類を被覆させ油ちょうした、電子レンジ又はオーブン調理用油ちょう済フライ食品である。又、本発明はかかる衣材自体であって、油溶性物質5〜50重量%と、水和性難溶性高分子40〜85重量%と、増粘性可溶高分子0.8〜10重量%とを含有する、電子レンジ又はオーブン調理用油ちょう済フライ食品用の衣材である。
【0009】電子レンジ調理では前述したように誘電加熱によるいわゆる内部加熱であるため、フライ食品の衣のみを選択的に加熱することは不可能である。従って、電子レンジ対応のフライ食品を実現するための課題は、具材が加熱され発生する水蒸気からいかに衣を保護するかである。即ち、この衣は電子レンジ加熱前に実施するプリフライ処理によって、実際に油揚げされて形成されたものであって、電子レンジ加熱により揚げ色等が付与されるものではなく、電子レンジ加熱によっては衣はフライ食品らしさを喪失する方向で劣化するのみである。従って、この劣化程度を最小限に抑えるとともに、劣化を考慮に入れて、予めプリフライ時に比較的硬く強固な構造を構築しておくことが重要となる。
【0010】従来のフライ用バッターでは澱粉が主体であったためフライにより衣組織がポーラス状となり、又水分と油脂との置換による脱水程度が充分でないため、具材から発生する蒸気からの吸湿を阻止できなかった。一方、衣の軟化を防ぐべく衣を厚くすればゴム状の食感となり、又、電子レンジ調理中のパンクの問題も生ずる。
【0011】本発明の好ましい態様による衣では、プリフライ処理中に、増粘性可溶高分子によりバッターの固化促進、即ち脱水促進を図り、かつ油溶性物質を併存させることで、ポーラス状でなく薄層状の構造を形成し、衣の水分を油脂と置換して脱水を促進し衣組織を疎水性化する。衣のボディは水和性難溶高分子により形成するが、増粘性可溶高分子の作用により薄層状の構造となるため食感が比較的軽く、又疎水性化傾向を有するため吸湿しにくい。
【0012】電子レンジ処理前の段階では、食感上若干硬いが、電子レンジ処理を経ることでフライ食品のサクッと軽い食感に変わる。更に本発明に係る衣には開孔処理が施されており、この孔を介して具材からの蒸気を効果的に外部へ排出し、内部へたまるのを防止することができるので、電子レンジ処理中の衣のパンクも大幅に低減し得る。又、この衣はオーブン調理にも対応できるものである。
【0013】前述、本発明に係る衣材の必須成分はいずれも公知のものを用い得るので特に特殊な成分を必要とするものでないが、各成分を特定配合比で混合することにより、電子レンジ加熱によってもクリスピー感を保持することがはじめて可能となる。
【0014】以下、本発明の好ましい態様について詳述する。
【0015】まず、本発明の対象であるフライ食品とは鳥獣肉類、魚介類、野菜類等の食品素材を具材とし、これに衣材としてバッターをつけ油ちょうしたものであればよく、フライ食品の大きさ、形状等の形態は問わない。又、衣材はバッター一層でもよいし、バッターにパン粉類を被覆したものであってもよく、更にプレバッター、打粉等による衣下地層等を設け多層構造としたものでもよい。
【0016】例えば、クリームコロッケ、ポテトコロッケ等のコロッケ類、エビフライ、トンカツ、チキンカツ、メンチカツ等のフライ・カツ類、エビ天ぷら、あじ天ぷら、野菜天ぷら等の天ぷら類、チキンナゲット等の、ナゲット類等が包含される。この他、はるさめやビーフンを付着させた変り揚げ等も含まれる。
【0017】又、本発明のフライ食品は喫食に際し、フライ処理ではなく電子レンジやオーブンで加熱調理されることから、簡便性、即席性が重視されるので、フライ食品の形態としては一口大のものが好適である。又、一口大であれば加熱調理に時間を要さないので、具材からの水蒸気発生量が過剰となったり、又集中することもない。このため衣部を通過する蒸気量も少なく、衣のクリスピー感の保持に有効である。次に油ちょう済とは、フライ食品がほぼ可食状態となるまで油揚げ処理により加熱されていることをいうが、この油ちょうはいわゆるプリフライであり、少なくとも衣材が固化する程度から具材に火が通る程度までの油揚げをいう。尚完全に具材に火が通ったものに限られない。
【0018】電子レンジ又はオーブン調理用とは、喫食に際して、油揚げすることなく、電子レンジ又はオーブンで加熱調理することをいう。電子レンジは一般に家庭で用いられる小型レンジや、業務用大型レンジを含み、又オーブンはガスオーブン、電気オーブン、グリル、オーブントースター等を含む。この他、電子レンジとオーブンの両機能を具備するオーブンも当然に含まれる。このような手段により調理される前のフライ食品は冷凍又は冷蔵状態である。冷凍は氷点下から冷凍食品の品温である−18℃以下の温度、冷蔵は一般にチルドといわれる温度帯である。プリフライされたフライ食品の衣の良好な食感、外観を保存中にも、有効に保持できるという点では、−18℃以下の冷凍品が好ましい。チルドでの長期間保存は困難であり、又保存中に具材からの水分移行により衣が吸湿軟化し易いので、場合により採用されない。
【0019】次に本発明に係る衣材について説明する。
【0020】衣材とはバッターを調製する前の衣原料、即ちバッターから水を除いた残りをいい、本発明において特に好ましいものでは油溶性物質5〜50重量%、水和性難溶高分子40〜85重量%、増粘性可溶性高分子0.8〜10重量%を含有する。尚、衣材はミックスの形態とするものに限らず、バッター調製前に別個に用意したものであってもよい。この衣材の特徴は増粘性可溶性高分子と油溶性物質の配合比が公知のフライ用のバッター原料に比べ大きいことであり、その主たる目的は、バッター粘度調整と加熱時のバッター脱水固化(構造化)の機能を増粘性可溶性高分子に果たさせることにより薄層類似構造を構築するとともに、増粘性可溶高分子により形成される本来含気が少なく密な構造の連続相が塊化するのを防ぎ、薄層化を促進し、水と油の置換を更に促進する機能を油溶性物質に果させることにある。
【0021】これにより電子レンジ又はオーブン加熱に対する耐性を大幅に強化でき、衣の吸湿、軟化を著しく抑制し、フライ食品としての官能特性の保持が可能となる。この衣材を用いて通常のフライ食品を作ると衣が硬く、クリスピー感に乏しいフライ食品となるので、従来、上記の知見に基づく衣が構成されたことはない。通常、フライ用に用いられるバッター原料は澱粉が主体であり、これに増粘剤や蛋白質を添加しているものが多い。澱粉主体のバッターでは加熱時固化は澱粉により達成され、又、粘度調整にも澱粉は大きく関与する。
【0022】澱粉主体のバッターはフライ処理によりポーラス状の構造となり易く、ソフトな食感を与えるのに効果がある。その一方、ポーラス状の構造であるためフライ後に吸湿し易く、特に電子レンジ調理により吸湿、軟化が著しくなり、電子レンジ対応フライ食品への適用には問題がある。
【0023】増粘性可溶高分子と油溶性物質を衣の構造化に大きく関与させることで、はじめて電子レンジ対応が可能となる。但し、増粘性可溶高分子と油溶性物質だけでは衣のボディーが形成できないため、水和性難溶高分子を併用する。増粘性可溶高分子は水溶性であって、バッター中で分散する水和性難溶高分子と均一に接触し、系全体に連続相として存在しているが、バッターが固化する際、即ちフライ中に水和性難溶高分子が糊化し、脱水(油と置換)し、衣のボディーを形成していく際に増粘性可溶高分子の存在により脱水が急激に進行し、その過程で衣の構造を薄層化していく。脱水、水油置換の急激さがフィルム状の構造を形成する。この作用は構造性のない非増粘性可溶高分子や増粘性でも不溶性高分子では達成されない。従って、増粘性可溶高分子によるバッターの固化を達成するには増粘性可溶高分子の溶解した液相が連続的にバッター内に存在する量が必要であるが、量的に衣材の主原料が増粘性可溶高分子になることはなく、衣材中0.8〜10重量%の含有率が適当であり、好ましくは2〜6重量%である。増粘性可溶高分子が0.8重量%より少ないと増粘性可溶高分子による構造化が達せられず、衣の吸湿を阻止できない。10重量%を越えれば増粘性可溶高分子による構造化が進みすぎ衣が硬くなり、クリスピー感を損う。又、バッター調製時にバッターの粘度が高くなりすぎ、具材への付着量が過剰となるか、あるいは、バッターを適正粘度とすればバッター中の固形分量が減り具材への付着量が不充分となる。従来から、増粘性可溶高分子としてのガム質は場合によりフライ用食品のバッターに添加されていたが、その目的は専らバッターの粘度付けであり、従ってその量は極めて少なく、特殊な場合でも衣材中高々1〜2%重量%程度に限定される。ガム質が過剰となればフライ食品の衣がかりかりした硬いものとなるからである。本発明においても場合により、増粘性可溶高分子1〜2重量%で足りることがあるが、その場合でも従来のフライ用食品の衣材とは全体として全く相違している。つまり、本発明における増粘性可溶高分子の機能はバッターの粘度付けばかりでなく、バッターの脱水構造化においても重要であり、この点において相違する。従来の衣材では澱粉が主体であるため、ガム質が過剰であればポーラス状の衣構造が潰れて、硬くゴム状になる可能性があるためガム質によるバッターの固化作用を発揮させる程、ガム質を添加できないのに対し、本発明における衣材では油溶性物質が衣の構造化を促進し過度に衣が硬化するのを防止することができるため、増粘性可溶高分子にバッター固化作用を発揮させる程添加しても弊害はないばかりか、更に添加量を増加することが好ましい。
【0024】この観点から本発明においては衣材中、油溶性物質/増粘性可溶高分子(重量比)=5〜13、好ましくは8〜10、油溶性物質+増粘性可溶高分子(重量和)=25〜45重量%、好ましくは30〜40重量%程度であると、増粘性可溶高分子機能を有効に発揮させることができる。
【0025】本発明において用いることのできる増粘性可溶高分子(以下、増粘材という)としては、グアーガム、キサンタンガム、カラギーナン、アルギン酸ソーダ、ローカストビーンガム、アラビアガム、トラガントガム、カラヤガム等のガム質等、水溶性高分子のうち、増粘性を有するものであり、これらの1種又は2種以上を用いることができる。増粘材自体がゲル化能を有するかどうかは問わない。又増粘性としては1%溶液(20℃)で100〜300cP程度のものがよい。増粘性の他に乳化安定性を有する例えば、キサンタンガムやアラビアガム等を用いると衣材中の乳化剤の添加を低減し得るが、いずれにせよ乳化剤は通常添加されるので増粘材自体の乳化安定を問題とする必要はない。
【0026】次に、衣材に含まれる油溶性物質は衣材中、5〜50重量%、好ましくは15〜40重量%である。油溶性物質は衣組織のゴム状化を防止し衣の吸湿性を低減させる効果がある。バッターが固化する際には、溶解した増粘材が水和した水和性難溶高分子にからみ合った状態で脱水固化が進行し比較的硬い衣組織を形成するが、油溶性物質の存在により、衣組織の薄層状化が促進され組織の圧縮化、ゴム化を防ぐことができる。又、衣組織の脱水(水と油脂との置換)を促進するため、衣の組織の疎水性化を図ることができ、衣の吸湿性を低減させる。油溶性物質が少なければ上記の効果が少なく、多過ぎれば衣が脆弱化し、又フライ中に形崩れを起こすことがある。
【0027】本発明で用いることのできる油溶性物質(以下、油溶物という)としては、粉末油脂、液状半固形油脂等の油脂が代表的であり、油脂の原料由来や加工法、構成油脂等を問わない。又半固形〜固形油脂であってもバッター調製中に均一に分散し得るものであれば制限なく用い得る。衣材のミックスとして水和性難溶高分子に練り込めるものであれば、均一に油脂が分散してバッターを調製できるため問題はない。逆に衣材ミックスの状態からこれに加水し、バッターを調製する場合は、液状油脂であればミックスが塊となり易いので、半固形油脂等の方が好ましい。又、フライ処理後の衣の安定性は融点の高い油脂を用いる程高くなるため、半固形油脂等が好適である。油脂含量が高くなれば練り込める油脂には限界があるので、粉末油脂を一部又は全部用いるとよい。
【0028】粉末油脂は融点が室温以上であり、安定性も高いので衣の安定性に寄与する。尚、粉末油脂には油脂のみを粉末化したもので加熱により完全溶解するも、賦形剤とともに粉末化され加熱しても完全溶解しないものがあるが、前述した油脂の効果を発揮させるためには完全溶解形のものが好ましい。又油溶性物質にはHLBの低い乳化剤も包含される。
【0029】次に、水和性難溶高分子であるが、衣材中40〜85重量%、好ましくは50〜70重量%含有させる。水和性難溶高分子は衣のボディーを構成するものであり、量的には主原料となるものである。
【0030】水和性難溶高分子(以下構造材という)としては、水和性の難溶及び不溶の高分子で糊化能のあるもので、用い得るものとしては穀粉類、澱粉類が代表的であるが、蛋白質類も包含される。澱粉類としては、焙焼小麦粉、薄力小麦粉、中力小麦粉、強力小麦粉、大麦粉、ライ麦粉、米粉、とうもろこし、じゃがいも等の穀類系の澱粉等の1種又は2種以上が挙げられる。蛋白質類としては粉末植物性蛋白等である。本発明においてはバッターの粘度付けと固化作用を増粘材の機能として構成しているので、増粘性をそれほど考慮する必要はない。又、穀粉類として、蛋白質含量の高いものを用いれば衣のサクさが劣化し易いので、焙焼小麦粉等が好ましい。一方、ポテトスターチ等の澱粉のみを用いれば衣のまとまりが悪くなる。
【0031】構造材の含有量が少なければ衣のボディーが形成されにくく、フライ中に形崩れを起こしたり、衣が脆弱化する。一方含有量が多過ぎれば衣構造がポーラス状となり、吸湿し易くなり電子レンジ対応が困難となる。
【0032】本発明に係る材料は、以上説明した油溶物、構造材、増粘材の3成分を必須とするが、この他必要によりグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤や炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム等の食感改良を目的とした製造用剤、調味料等を添加してもよい。
【0033】乳化剤は衣材当り1〜5重量%程度、食感改良を目的とした製造用剤は衣材当り1〜5重量%程度でよい。乳化剤は衣材中の油脂量が多い場合は特に有効であり、又フライ中の油の衣組織への浸透等を促進する。
【0034】この衣材は電子レンジ又はオーブン調理用油ちょう済フライ食品に好適である。フライ食品は冷凍、冷蔵に限らず広く適用できる。
【0035】次に、この衣材を用いた油ちょう済フライ食品の製造方法を説明する。
【0036】まず、衣材に水を加えバッターを調製する。水の他にも牛乳やスープ等も用い得る。バッターの粘度はB型粘度計で3500〜6000cP好ましくは4500〜5000cP(ローター3、12rpm、20℃)が標準であるが、目的とするフライ食品の種類等により適宜調製する。加水量は衣材重量の4〜8倍程度が普通であるが、衣材の配合等により適宜調製する具材に付着するバッター量は製品重量(油ちょう済)の20〜30重量%が目安となるが、具材の大きさ、形状等により適宜調製する。バッター粘度が低いと具材への付着量が少なくなり、充分な衣を形成できず、又、粘度が高すぎれば付着量が過剰となり、厚くなった衣はゴム状となり易い。
【0037】バッターの調製は、常法に基づき実施が可能である。要は衣材中の油脂成分がバッター中で均一に分散されればよい。
【0038】粉末油脂や、衣材ミックスを用いた場合は油脂の分散が容易である。液状油脂を用いた場合は、ホモゲナイザーで油脂を乳化し、水中油滴型の乳化物を調製する。ここで、バッター中の油脂粒子の大きさは小さい方が油脂の組織中への分散が促進されるので好ましい。
【0039】具材はまず所望の形状に成型し、上記のバッターを全面に付着させる。ここで、具材に直接バッターを付着させてもよいが、具材と衣の剥離防止、均一な衣の形成、フライ時の揚げむら防止、又衣の吸湿による軟化を抑制するために、バッターの付着前に具材全面に打粉を施すとよい。特に、具材に含水率の高いものを用いた場合は有効である。打粉としては小麦粉、澱粉等を用い得るが、好ましくはパン粉類が良い。小麦粉等を用いると粘着性を呈するので製品にした時の口当たりにサックリさが失われることがある。パン粉類の粒度は20〜40M程度がよい。ここで、打ち粉の付着量を確保するため打ち粉の前にプレバッターを全面に付着させるとよい。プレバッターには上記バッターと同じ衣材を用いることができる。但し、粘度はB型粘度計で250〜1200cP、好ましくは800〜1000cP(ローター2、6rpm、20℃)程度がよく、加水は衣材の8〜12倍量が適当である。又、プレバッターとして上記衣材の他、従来のフライ用バッターを用いることもできるが、電子レンジ調理時のフライ食品としての食感、外観の保持という観点からすれば、前述衣材を用いてプレバッターを調製することが好ましい。
【0040】プレバッターを用いた構成では、この上に被覆したバッター(プレバッターに対しメインバッターという)を含め2層構造の衣となる。2層構造とすることで電子レンジ加熱時に具材より発生する水蒸気の影響を受けにくくすることができ、衣のクリスピー感を効果的に保持可能となる。同様にして場合により、3層構造以上とすることも可能である。
【0041】いずれの場合も、衣の最外層はパン粉類で構成するとよい。即ち、バッター(又はメインバッター)の上面には好ましくはパン粉類等を全面に付着するとよい。本発明に係るバッターは油溶物と増粘材の比率が相対的に高いため、該バッターを被覆しそのままフライ処理すれば、付着しているバッターがフライ油中へ飛散したり、衣の形崩れを起し、又フライ油を汚すことになるからである。従って、パン粉類でバッターを覆いバッターを保護するとよく、又、パン粉類はバッターの外層として形成されているので、フライ後はバッターによる衣によりパン粉類が具材からブロックされるためパン粉類によるクリスピー感、サクッとした口当たりが保持されやすく成る。最外層のパン粉類の付着量は2層構造(プレバッター及びメインバッター使用)で製品重量(油ちょう済)の10〜20重量%が好ましい。最外層のパン粉類の粒度は3〜10M程度と、打粉として用いる内層のパン粉類より大きい方が一般的フライ食品には適するが、微粉パン粉を用いても技術的には問題ない。
【0042】パン粉類としては、針状、球状等形状を問わず、乾燥パン粉、生パン粉を好適に用いることができるが、この他はるさめ、ビーフン、短冊状にした乾麺、コーングリッツ等も用いることができる。
【0043】ナゲットタイプや天ぷらタイプのフライ食品を調製するには、上記のパン粉類層の上に更に、適当なバッター層を設ければよい。この場合はパン粉類層のパン粉類の粒度は比較的小さい方がよい。
【0044】衣付けが終了したら油ちょうを行う。これは衣が固化し具材にも完全に又は一部火が通るまでの油揚げ処理をいい、喫食直前の調理ではないのでプリフライと称する。プリフライの温度は通常170〜220℃でフライ時間は具材の種類、多きさ等により異なるが通常1〜3分間程度が普通である。
【0045】この処理により衣は脱水、固化しフライ食品特有の外観を呈することとなる。プリフライ直後の衣は相当にガリガリする食感であり、そのままではフライ食品として良好なものではない。喫食前の電子レンジ等でする加熱を経ることで、良好なフライ食品の特性が発現する。尚プリフライでなくこれを最終フライとしたものは、長時間衣が吸湿、軟化しないので、店頭での提供に好適であり、そのままで商品となる。
【0046】次に、得られたプリフライ品の衣部に径0.1〜5mm、好ましくは径0.5〜2.0mmの孔を開ける。開孔は衣部を貫通するように行う必要がある。具材の表面部分にまで孔が達しても問題はなく、衣の完全な貫通のため具材に食い込む程度の深さで孔を設けるか、具材を貫通してもよい。この孔は、電子レンジ又はオーブン調理時に具材から発生する水蒸気を外部へ排出する作用効果がある。この結果、調理中に衣部がパンクするのを有効に防止することができる。又、水蒸気が効率的に排出されることから、衣の内部に蒸気がこもることがなく、従って衣の吸湿程度を大幅に低減することができる。開孔することなく電子レンジ等の調理をすると衣内側の内圧が上昇し、衣の弱いところでパンクするが、1ヶ所でも開孔部があれば、そこで圧力が解放されるのでパンクしない。又、衣部と具材の境界面は通常、密着しておらず、相当に空隙が生じているが、この空隙を通じて具材から発生した水蒸気が流動し、開孔部から抜けていく。このため、開孔部から極めて効果的に蒸気を排除可能となる。
【0047】孔の数は具材から発生する水蒸気量に応じて適宜設定すればよく、通常一口大の製品では1〜20個程度でよいが特に制限はない。孔の大きさが小さいと上記効果が少なく、又大きすぎれば外観上識別されることとなり商品性が低下する。又大きな孔を1つ設けるよりは小さな孔を多く設ける方が、効果が大きいため、孔を大きくしすぎるのは効果的でない。孔の数が多すぎた場合は、孔の径にもよるが、衣自体が脆弱化する。
【0048】開孔手段は特に限定されることなく、単に針を刺して開孔する程度で足りる。次に、開孔した油ちょう済フライ食品を凍結後、包装すれば電子レンジ又はオーブン調理可能な冷凍食品が得られる。凍結温度は通常の冷凍食品の温度である品温−18℃以下になるような温度であるが、凍結が急速であればある程、衣内の水分移行及び具材から衣への水分移行を抑制できるので、フライ食品の食感を保持しやすい。又場合により冷蔵も可能であるが冷蔵では保存中、具材から衣への水分移行が著しく、衣の吸湿、軟化を招きやすい。
【0049】喫食に際しては、必要により電子レンジ又はオーブンを用いて加熱する。一口大の冷凍品では電子レンジ(500〜600W)で数個につき40秒〜数分間程度である。オーブンでも喫食状態となるまで加熱すればよい。電子レンジを用いて加熱したものは、フライ処理のみの食品と、外観、食感とも差異は認められない程である。オーブン加熱のものでは電子レンジ加熱のものより若干、食感上硬くなる傾向はあるが、フライ食品に比べ遜色ない。又、調理後も長時間、衣が吸湿、軟化しないので、店頭における提供にも好適である。
【0050】尚、本発明に係る衣を用いずに従来のフライ用バッターを用いたものに開孔した場合は上述の効果は少なくなるが、開孔しないものに比べ開孔による効果は有意である。従来バッターは澱粉主体であり、フライによりポーラス化するため、吸湿傾向が強く、又、組織は依然、親水性傾向が強く、衣の吸湿、軟化を阻止できない。
【0051】
【実施例】以下、本発明の実施例を説明する。
実施例1(具材調製)次に示す具材配合により2種類のフライ食品用具材を調製し、各18gのたわら型に成型した。
【0052】
【表1】
・カニクリーミーコロッケ────────────────────────────── マーガリン・サラダ油 9.5% 小麦粉 9.5% 乳製品(濃縮乳、脱粉、チーズ) 12.0% カニ 13.0% 調味料(ブイヨン、食塩、カニエキスなど) 1.5% パン粉 5.0% 水 49.5%────────────────────────────── 合 計 100.0%(重量)
【0053】
【表2】
・ツナフライ────────────────────────────── ツナフレーク 30.0% じゃがいも 35.0% 野菜(玉ねぎ、人参、コーン、グリンピース) 20.0% 調味料(マヨネーズ、食塩、カツオエキスなど) 7.0% マッシュポテト 5.0% サラダ油 3.0%────────────────────────────── 合 計 100.0%(重量)
(バッターの調製)次に示す衣材配合によりミックスを調製し、該配合のミックスを水でのばし、プレバッターは粘度1000cP(B型粘度計、ローター2、6rpm、20℃)、メインバッターは粘度4500cP(B型粘度計、ローター3、6rpm、20℃)に調製して使用した。4500cPに調製するには、ミックスと水をおよそ2:8の割合で混合する。1000cPに調製するには、およそ1:9で混合する。
【0054】
【表3】
・電子レンジ調理用衣材────────────────────────────── 焙焼小麦粉 60.5% 粉末油脂 30.0% グリセリン脂肪酸エステル 3.0% 炭酸カルシウム 3.0% グアーガム 1.8% キサンタンガム 1.7%────────────────────────────── 合 計 100.0%
【0055】
【表4】
・澱粉主体衣材(従来例)
────────────────────────────── 小麦粉 87.0% 植物油脂 11.0% 食塩 0.8% 卵 0.8% グアーガム 0.4%────────────────────────────── 合 計 100.0%(油ちょう済フライ食品の調製)試験サンプルは次の5つである。
実施例A1ガム類を多く使用したバッターを用い、プリフライ後、衣に開孔して凍結し、電子レンジ調理したもの。
実施例A2澱粉主体のバッターを用い、プリフライ後、衣に開孔して凍結し、電子レンジ調理した物。
比較例B澱粉主体のバッターを用い、製品を凍結し、ディープフライ調理した物。(従来フライ品)
比較例C澱粉主体のバッターを用い、プリフライ後、衣に開孔しないで凍結し、電子レンジ調理した物。
比較例Dガム類を多く使用したバッターを用い、製品を凍結し、ディープフライ調理した物。
比較例Eガム類を多く使用したバッターを用い、プリフライ後、衣に開孔しないで凍結し、電子レンジ調理した物。
【0056】尚、電子レンジ調理した物は、あらかじめ、凍結前にプリフライしてある。
【0057】実施例Aの調製工程を次に示す。
具材調合→成型:18g/個(たわら型)→プレバッター:粘度1000cP(B型粘度計、ローター2、6rpm、20℃)→微粉付け:微粉パン粉(40M)→メインバッター:粘度4500cP(B型粘度計、ローター3、6rpm、20℃)→パン粉付け:乾燥パン粉(8M)→プリフライ:190℃、2分30秒(製品重量30g/個:衣率40%)→開孔:直径1.5mm、たわら型の上面、下面のそれぞれに6個の孔を開ける。→凍結:−18℃(製品温度)→包装→電子レンジ調理:600W、40秒比較例B〜Eは具材調合からパン粉付けまでは実施例Aと同じ条件で実施し、それ以降の操作をそれぞれ次の通りとした。
比較例B、D凍結:−18℃(製品温度)→包装→ディープフライ:175℃、3分比較例C、Eプリフライ:190℃、2分30秒→凍結:−18℃(製品温度)→包装→電子レンジ調理:600W、40秒(官能評価)調理後2分維持した時点で衣について実施した評価結果を次に示す(パネラー20人による5点評価法)
【0058】
【表5】


上記表に示したように、ガム質、油脂の多いバッターを用い開孔し、電子レンジ調理したものでは、具材から蒸発した水分は、衣に開けた孔から外部に出てゆき、衣の湿りも、パンクも発生せず、衣はサクッとしており、大変良い食感であった。Bのディープフライの物と同じような食感であった。
【0059】開孔しないで冷凍した後、電子レンジで調理したEでは、クリスピー性がでるが、衣がパンクして外観が悪かった。又、同じ衣で、ディープフライしたDでは衣が硬く、クリスピー性がでないので食感が悪かった。澱粉主体バッターを用いたものでは、衣が湿ってクリスピー性がでない傾向があるが、開孔したことによる改良効果は認められた。
実施例2実施例1と同じ要領で、具材として豚肉(トンカツ用)を用い、凍結した具材に下記の配合からなる2種類のバッター(メインバッター)を用いて衣付けし、190℃3分間プリフライ後、電子レンジ調理対応衣材を用いたものには直径1.0mmの孔を上下面のそれぞれに4個開けて凍結した。
【0060】尚、バッターの加水は衣材100に対して水700程度とし、バッター粘度は実施例1とほぼ同じに調整した。
【0061】
【表6】
・電子レンジ調理対応衣材────────────────────────────── 小麦粉 32.0% タピオカ澱粉 26.0% 粉末植物性蛋白 9.0% 植物油脂 27.5% ローカストビーンガム 2.5% グァーガム 2.0% カラギナン 1.0%────────────────────────────── 合 計 100.0%
【0062】
【表7】
・従来トンカツ用衣材────────────────────────────── 小麦粉 85.0% ベーキングパウダー 3.5% 植物油脂 4.5% 卵 7.0%────────────────────────────── 合 計 100.0%得られた調製品を実施例1と同様の要領で評価したところ、電子レンジ調理対応衣材を用いたものは、外観、衣の食感、風味とも良好で、クリスピー性があり、大変良い食感であった。一方トンカツ用衣材を用いたものでは衣が湿ってクリスピー性がなく、食感が悪かった。
【0063】
【発明の効果】以上説明したように、食感の良い衣として特に、増粘材、油溶物主体のバッター(主体とは作用効果上の主体)を用い、かつ、衣に開孔することにより、電子レンジで加熱すると具材から蒸発した水分は、衣に開けた孔から外部に出ていき衣の湿りも、パンクも発生せず衣はサクッとした良い食感を維持することができる。又、この衣はオーブン加熱にも対応するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 具材をバッターで少なくとも被覆し、油ちょうした食品の少なくとも衣部に径0.1〜5mmの開孔を有する電子レンジ又はオーブン調理用油ちょう済フライ食品。
【請求項2】 具材を、油溶性物質5〜50重量%と、水和性難溶高分子40〜85重量%と、増粘性可溶高分子0.8〜10重量%とを含有する衣材よりなるバッターで少なくとも被覆し、油ちょうした食品の少なくとも衣部に径0.1〜5mmの開孔を有する冷凍又は冷蔵状態の電子レンジ又はオーブン調理用油ちょう済フライ食品。
【請求項3】 油溶性物質5〜50重量%と、水和性難溶高分子40〜85重量%と、増粘性可溶高分子0.8〜10重量%とを含有する、電子レンジ又はオーブン調理用油ちょう済フライ食品用の衣材。