説明

電子楽器用操作装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は電子楽器用操作装置に関する。
【0002】
【従来の技術】自然楽器としてのピアノの鍵盤は、ハンマ駆動方式である。この鍵盤のタッチを電子楽器の操作子で再現するため、操作子の押下時のタッチ(イニシャルタッチ)を検出して楽音を制御すること、操作子を押している状態で、更に操作子を強く/深く押す等のタッチ(アフタタッチ)を検出して楽音制御を行なうこと等が行なわれている。
【0003】この操作子のイニシャルタッチの検出は、たとえば操作子の下方に設けられた2メイクスイッチにより押下速度を検出することにより行なわれる。また、アフタタッチの検出は、たとえば操作子の下方回転を規制するストッパ上に設けた圧力センサにより検出している。
【0004】この場合、イニシャルタッチを検出した後、アフタタッチを検出するまでの間、演奏者により操作子に与えられる力等の演奏表現は楽音形成に用いられていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】特に擦弦楽器等から発生する持続音に関して、演奏者の表現をより細かに楽音形成に用いるためには、たとえば、操作子の上下方向の押下位置を検出する方法により、押鍵の全行程を検出可能とすることが好ましい。
【0006】本発明の目的は、演奏操作の力そのものによって楽音を制御することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明による電子楽器用操作装置は、 弾性変形可能な材料から形成され、一端付近が回転可能に支持され、他端が自由端である所定長さの操作部材と、一部が前記操作部材に当接可能であり、前記操作部材にタッチ感触を付与するために前記操作部材の操作に応じて変位する質量部材と、前記操作部材上において、前記質量部材が当接する位置より自由端側に設けられ、かつ該操作部材の長手方向の異なった2個所に設けられ、操作部材の歪量に比例する信号を発生するセンサと、上記2つのセンサの信号の差分を求め、該差分に応じて楽音を制御する制御信号を発生する楽音制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
【作用】演奏者が指で操作部材を押圧すると、各センサが歪む。このセンサの出力から、各センサの受けたモーメントM1 ,M2 を知ることができる。
【0009】また、操作部材の受ける力F、モーメントM1 ,M2 の釣合条件から、力Fは、演奏者の押圧した操作部材上の位置とは無関係に、(M2 −M1 )と比例することが分る。
【0010】このように、2つのセンサを用いることにより、押圧位置に依存せずに操作部材の受ける押圧力を得ることができる。したがって、楽音制御手段により、各センサの信号の差分に応じて楽音を制御すると、常に正確な押圧力に応じた楽音制御を行なうことができる。
【0011】演奏者が電子楽器用操作装置の鍵盤型操作子へ加えた力を検出し、その力に応じた楽音制御を行なうことにより、感覚にマッチした楽音発生を実現することができる。
【0012】この目的のため、操作部材へ歪みゲージを貼り付け、この歪みゲージの発生する信号を楽音信号発生手段へ入力して楽音信号を発生させることが可能である。この場合、歪みゲージの出力を操作子へ加えられた力に対応させて楽音信号を発生させる。
【0013】参考技術として図4に、このような歪みゲージを貼り付けた操作部材の例を模式的に示す。図において、操作体2は支点4を中心として回転可能とされた操作部材3と、支点10を中心として回転可能とされ、常態においては右端が操作部材3と当接する質量体8とを有する。操作部材3の上面には抵抗線歪みゲージGが貼り付けられている。
【0014】外力が作用しないとき、質量体8は自重で左下がりとなり、右端が操作部材3を持ち上げる。演奏者が力Fで操作部材3を押すと、操作部材3には歪みが生じ、また、応力および曲げモーメントが発生する。この歪みにより、歪みゲージGの抵抗が変化する。
【0015】一般的に曲げモーメントMは断面係数z×応力σに比例し、歪みゲージGの抵抗変化△Rと応力σとは比例する。すなわち、M=z×σσ=k×△Rただし、kは定数である。
【0016】したがって、歪みゲージGが受ける曲げモーメントをMとすると、この曲げモーメントは歪みゲージGの抵抗変化△Rから次のように求めることができる。
M=z×k×△R・・・式1ただし、zは歪みゲージGの設けられている点における操作部材3の材料の断面係数、kは定数である。
【0017】ところで、操作部材3上の演奏者の指の位置と歪みゲージG間の距離をxとすると、力の釣合条件より、M=F×xとなる。このように、同一の力Fで操作部材3を押しても、長手方向の押す位置xによって、モーメントMの大きさが異なってしまう。式1より、歪みゲージの抵抗変化△RとモーメントMとは比例するので、上述の従来例の電子楽器用操作装置の場合、同一の力Fで押しても、押す位置によって発生する楽音信号が異なることとなる。
【0018】したがって、操作体を押す位置に依存せずにその力を検出可能とすることが望まれる。
【0019】
【実施例】図1は本発明の電子楽器用操作装置の一実施例を示す図である。図において、電子楽器用操作装置は、支持フレーム1に取付けられた回転支点4を中心として回転可能な操作部材3と、同じく支持フレーム1に取付けられた支点10を中心として回転可能な質量体8とを有する。常態においては質量体8の右端が操作部材3と当接している。
【0020】操作部材3は、弾性変形可能な材料から形成される。この質量体8は、演奏者が操作部材3を押した時のタッチ感触に質感を与えて、自然楽器のピアノのキーのタッチ感触に近付けるためのものである。
【0021】支持フレーム1の左端には第1のストッパ12および第2のストッパ14が設けられている。操作部材3は左端をコの字状に切り欠いて上当接面16および下当接面18とを形成されている。上当接面16は第1のストッパ12と当接することにより操作部材3の下方回転量を制限し、下当接面18は第2のストッパ14と当接することにより、操作部材3の上方回転量を制限している。
【0022】操作部材3上には、該操作部材3と質量体8との当接点の左方に、2個の抵抗線歪みゲージG1 ,G2 が長手方向に間隔をおいて貼り付けられている。図2R>2は図1に示した実施例の模式図である。
【0023】モーメントの釣合条件より、各歪みゲージG1 ,G2 が受けるモーメントM1,M2 は、M1 =F×x・・・式2M2 =F(x+a)・・・式3と表される。
【0024】式2、3を連立して、右辺、左辺をそれぞれ引くと、M2 −M1 =F×a・・・式4F=(M2 −M1 )(1/a)・・・式5が得られる。
【0025】また、前述の式1より、モーメントM1 ,M2 は、M1 =z1 ×k1 ×△R1 ・・・式6M2 =z2 ×k2 ×△R2 ・・・式7と表される。
【0026】ただし、z1 ,z2 は歪みゲージG1 ,G2 の設けられている点における操作部材3の材料の断面係数、△R1 ,△R2 は歪みゲージG1 ,G2 の抵抗変化k1 ,k2 は定数である。
【0027】式5〜式7より F=(z2 ×k2 ×△R2 −z1 ×k1 ×△R1 )(1/a)・・・式8が得られる。
【0028】歪みゲージG1 ,G2 として、特性が同一のものを用いると、k1 =k2 、断面形状を同一とすると、z1 =z2 とおける。したがって、z1 ×k1 =z2 ×k2 =cとおくことができる。この場合、式8は、F=c×(△R2 −△R1 )(1/a)・・・式9となる。
【0029】したがって、歪みゲージG1 ,G2の出力△R1 ,△R2 を得ることにより、xに依存しないFを求めることができる。なお、図中Pは操作部材3が質量体8から受ける反力である。
【0030】図3はFを表す信号を求めるための差動増幅器(楽音制御手段)を示す図である。図において、差動増幅器20は並列回路22とオペアンプ24から構成される。並列回路22は抵抗r1 と歪みゲージG1 との直列接続および抵抗r2 と歪みゲージG2 との直列接続によりより構成されている。歪みゲージG1 と抵抗r1間および歪みゲージG2 と抵抗r2 間がそれぞれオペアンプ24の負端子および正端子へ接続され、全体としてブリッジ回路を構成している。
【0031】オペアンプ24の出力が差動増幅器20の出力となる。この出力は、(△R2−△R1 )であり、式9より、これをc/a倍することによりFが得られる。したがって本実施例を用いると、非常に簡単な構成により、操作体を押す位置に依存せずにその力を検出可能である。
【0032】差動増幅器20からの信号は、図示しない楽音信号発生手段へ入力され、該楽音発生手段で発生した楽音は、アンプおよびマイクを介して出力される。なお、力Fを求める手段(楽音制御手段)は上述のように差動増幅器を用いる場合に限らず、マイクロコンピュータを利用することもできる。この場合、各歪みゲージG1 ,G2 の出力をA/D変換し、マイクロコンピュータへ入力して演算処理によりFを求めることもできる。
【0033】以上、本発明を図面に示した実施例に基づいて説明したが、本発明はこの実施例には限定されず、例えば、図5に示すように、操作部材の上下に各々歪みゲージを設けて、ノイズ対策を行なう等、種々変形可能である。
【0034】
【発明の効果】本発明によれば、演奏操作の力そのものによって楽音を制御することができる電子楽器用操作装置が提供される。
【0035】また、本発明によれば、操作体を押す位置に依存せずにその力を検出可能な電子楽器用操作装置を提供することができる。また、質量部材を設けることにより、演奏者が操作部材を操作した時のタッチ感触に質感を与えて、自然楽器のピアノのキーのタッチ感触に近付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の電子楽器用操作装置の一実施例を示す図である。
【図2】 図1に示した実施例の模式図である。
【図3】 Fを求めるための差動増幅器を示す図である。
【図4】 従来例の電子楽器用操作装置の模式図である。
【図5】 本発明の電子楽器用操作装置の他の実施例を示す図である。
【符号の説明】
G,G1 〜G4 歪みゲージ 1 支持フレーム 3 操作部材 4 回転支点 8 質量体 10 支点 12 第1のストッパ 14 第2のストッパ 16 上当接面 18 下当接面 20 差動増幅器(楽音制御手段) 22 並列回路 24 オペアンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 弾性変形可能な材料から形成され、一端付近が回転可能に支持され、他端が自由端である所定長さの操作部材と、一部が前記操作部材に当接可能であり、前記操作部材にタッチ感触を付与するために前記操作部材の操作に応じて変位する質量部材と、前記操作部材上において、前記質量部材が当接する位置より自由端側に設けられ、かつ該操作部材の長手方向の異なった2個所に設けられ、操作部材の歪量に比例する信号を発生するセンサと、上記2つのセンサの信号の差分を求め、該差分に応じて楽音を制御する制御信号を発生する楽音制御手段と、を備えることを特徴とする、電子楽器用操作装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【特許番号】第2906861号
【登録日】平成11年(1999)4月2日
【発行日】平成11年(1999)6月21日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−255623
【出願日】平成4年(1992)8月31日
【公開番号】特開平6−83351
【公開日】平成6年(1994)3月25日
【審査請求日】平成8年(1996)3月14日
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【参考文献】
【文献】特開 平3−80297(JP,A)