説明

電子顕微鏡の引っ張り・圧縮ホルダ機構

【課題】本発明は電子顕微鏡の引っ張り・圧縮ホルダ機構に関し、像観察中に引っ張り方向が変わらず、引っ張り力を精度よく検出することができる電子顕微鏡の引っ張り・圧縮ホルダ機構を提供することを目的としている。
【解決手段】粗動機構5と微動機構5cを備えた引っ張り・圧縮試料ホルダにおいて、引っ張り軸と引っ張り作用点、又は圧縮軸と圧縮作用点を同軸上に存在させ、複数のアクチュエータ5の作用点が一点になるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子顕微鏡の引っ張り・圧縮ホルダ機構に関し、更に詳しくは試料に引っ張り荷重又は圧縮荷重をかけて試料の歪の状態を観察することができるようにした電子顕微鏡の引っ張り・圧縮機構に関する。更には引っ張り荷重又は圧縮荷重を検出することもできるようにした電子顕微鏡の引っ張り・圧縮機構に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は引っ張り試験機構の従来構成例を示す図で、平面図を示している。この引っ張り機構40は、試験片1を保持するチャック部30,30’を備えており、この上面には試験片1の孔部に係合する突状部31,31’を具備している。このチャック部30,30’は電子顕微鏡の試料ステージ部の機能を含むものである。
【0003】
32,32’は、この試験片1Aにチャック部30を介して引っ張り荷重を負荷するための圧電素子アクチュエータで、チャック部30に超微動を与える微動用アクチュエータ32と、大きく移動させる粗動用アクチュエータ32’であり、試験片1Aの力学特性によって又は測定目的に応じて微動用アクチュエータ32と粗動用アクチュエータ32’を使い分ける。即ち、強度が高い試験片1Aを測定する際には粗動用アクチュエータ32’を、強度が低い試験片1Aを測定する際には微動用アクチュエータ32を用いる。
【0004】
33は試験片1のブリッジ部への引っ張り荷重Pを検出するロードセルであって、34は作動変位計である。この引っ張り試験機構40を使用する際には、突状部31,31’に試験片1の孔部を係合し、アクチュエータ32,32’を操作することにより、チャック部30が移動してブリッジ部を軸方向に引っ張る。
【0005】
従来のこの種の装置としては、走査型プローブ顕微鏡の試料ステージ部に、微小試験片に対して引っ張り又は圧縮荷重を負荷するためのアクチュエータと、これによる微小試験片への負荷を検出する手段とを備えた微小引っ張り・圧縮試験機を装備し、引張り又は圧縮負荷による試験片の微小歪みを走査型プローブ顕微鏡の試料表面観測系を利用して測定する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
また、電子顕微鏡において、ゴニオメータで試料を3次元方向に移動させ、且つ試料ステージに載置された試料を所定方向に押圧できる構成とした電子顕微鏡が知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−207432号公報(段落0010〜0019、図1)
【特許文献2】特開2000−315471号公報(段落0019〜0020、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
複数のアクチュエータの作用点が異なると、作用点の剛性やモーメントのかかり方により意図しない方向(引っ張り方向以外の方向)に力が発生しやすい機構となる。また、それぞれのアクチュエータの設置の仕方も引っ張り方向に寄与する。これらは高倍率で観察する透過型電子顕微鏡においては、アクチュエータの違いにより移動方向に角度を持って観察される(理想は0°)ことにつながる。極端な場合では、視野が逃げてしまうこともある。また、伝達シャフトを介して荷重検出をする場合には検出誤差の原因となる。
【0009】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、像観察中に引っ張り方向が変わらず、引っ張り力又は圧縮力を精度よく検出することができる電子顕微鏡の引っ張り・圧縮ホルダ機構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の問題を解決するために、本発明は以下のような構成をとっている。
【0011】
(1)請求項1記載の発明は、粗動機構と微動機構を備えた引っ張り・圧縮試料ホルダにおいて、引っ張り軸と引っ張り作用点、又は圧縮軸と圧縮作用点を同軸上に存在させ、複数のアクチュエータの作用点が一点になるように構成したことを特徴とする。
【0012】
(2)請求項2記載の発明は、前記粗動機構としてモータを用いた回転/直線変換機構を用い、前記微動機構として圧電素子を用いた直線移動機構を用いたことを特徴とする。
【0013】
(3)請求項3記載の発明は、前記アクチュエータ群と作用点との間に少なくとも1個のテコを用いてアクチュエータ群の設置方向を変え、変位の比率を変えるように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以下に示すような効果を奏する。
【0015】
(1)請求項1記載の発明によれば、複数のアクチュエータの作用点が一点になるように構成しているので、引っ張り又は圧縮の時に試料を一軸方向にのみ引っ張り又は圧縮することができ、引っ張り力を精度よく検出することができ、また引っ張り又は圧縮による試料の応力を正確に測定することができる。
【0016】
(2)請求項2記載の発明によれば、粗動機構としてモータの回転/直線変換機構と、微動機構として圧電素子を用いた直線移動機構を用いているので、最初は試料を粗動機構により引っ張り又は圧縮し、微調整領域になったら微動機構を用いて引っ張り又は圧縮するので、試料の応力を効率よく測定することができる。
【0017】
(3)請求項3記載の発明によれば、アクチュエータ群と作用点との間に少なくとも1個のテコを介することで、アクチュエータ群の設置方向を変え、変異の比率を変えることができ、より応用範囲の広い応力測定を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明が適用される透過型電子顕微鏡の断面図である。
【図2】本発明の第1の実施例を示す構成図である。
【図3】本発明による引っ張り変位の説明図である。
【図4】本発明の第2の実施例を示す構成図である。
【図5】引っ張り試験機構の従来構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例について図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明が適用される透過型電子顕微鏡の断面図である。図において、透過型電子顕微鏡01は、内部を真空に保持された鏡筒02を有し、鏡筒02上端に電子銃03が設けられている。前記電子銃03から出射される荷電粒子ビームの中心線に沿ってZ軸が設けられている。鏡筒02の下端部には観察窓04及び実線で示す観察位置と二点鎖線で示す退避位置との間で移動可能な蛍光板05が設けられている。
【0020】
また、前記蛍光板05の下方には電子顕微鏡画像を撮影するためのフィルムFを撮影位置に配置するための装置が配置されている。前記電子銃03の下方には電子線集束用の集束レンズ07が配置され、前記蛍光板05の上方には拡大結像用の結像レンズ08が配置されている。そして、前記集束レンズ07及び結像レンズ08の間にはゴニオメータステージGS、ゴニオメータGM及び試料ホルダHが設けられている。本発明はこの試料ホルダHに係るものである。
(実施例1)
図2は本発明の第1の実施例を示す構成図である。(a)は斜視図、(b)は側面図である。(a)において、仮想線は、試料ホルダを挿入する時に手で保持するグリップ部分であり、各種アクチュエータのカバーを兼ねている。パイプ1aの外面は試料ホルダがゴニオメータと接触する部材であり、図示しないOリングにより真空が保たれている。パイプ1aの内面は、真空を保ちつつ引っ張り機構を達成するためにOリング2を介して引っ張りシャフト3aを保持している。
【0021】
該引っ張りシャフト3aの先端部には、試料クランプ部3bが設けられており、パイプ1aの先端には試料固定部1bが設けられている。4は試料であり、例えば半導体チップ等が用いられる。試料4の試料クランプ部3bが引っかかる部分は、長穴形状などになっており、試料クランプ3bとの間に隙間を設け、試料4に力がかからないようになっている。
【0022】
パイプ1aとベース1cは接合されている。ベース1cの上には、アクチュエータ群5が図に示されるように設けられている。なおベース1cは固定されており、動かないようになされている。この時、引っ張りシャフト3aの軸延長線上にはアクチュエータ群5の作用点5aがある。作用点とは、力が加わる部分をいう。作用点5aにはバネ7により常にフレーム6が当接している状態である。
【0023】
フレーム6は引っ張りシャフト3aと接続されており、試料4へ引っ張り力を伝達するようになっている。更にフレーム6には図示しないスライドレールなどにより摩擦抵抗が少ない状態でベース1cに保持されている。アクチュエータ群5は制御電源9に接続され、それら電源9は更にCPU8によりシステム制御が可能なようになっている。10は圧電素子5cに電圧を印加するための制御電源であり、CPU8から出力制御を受けるようになっている。引っ張りシャフト3aとフレーム6との間には必要に応じて荷重計が組み込まれることがある。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0024】
パイプ1aと試料固定部1bとベース1cは図示しないゴニオメータにより保持され、試料ホルダ単体では固定部をなしている。それに対して、引っ張りシャフト3aと試料クランプ部3bは引っ張り駆動部となる。作用点5aが後述のように変位することにより、フレーム6が−X方向に移動する。
【0025】
フレーム6はバネ7により部材1から常に力を受けているので、作用点5aとフレーム6は当接し、結果的にフレーム6が−X方向に移動すると、引っ張りシャフト3aと試料クランプ部3bを引っ張ることになる。
【0026】
また、図に示す装置は2つのアクチュエータ(モータ5と圧電素子5c)からなる系である。粗動の時にはモータ5を用い、微動の場合には圧電素子5cを用いる。モータ駆動の場合、CPU8より制御電源9の電圧又は電流を制御し、モータ5bの回転をギア5dと送りネジ5eにより直線方向の移動に変換する。そして、圧電素子5cを部材の一部として作用点5aを−X方向に押す。この時圧電素子には電源10からの電圧は印加されていない。
【0027】
次に圧電素子駆動の場合について説明する。CPU8は電源10に印加している電圧を増加していき、電源10から所定の電圧を圧電素子5cに印加し、圧電素子そのものを伸ばして作用点5aを−X方向に押し、引っ張りシャフト3aとフレーム6を介して試料4を−X方向に引っ張る。
【0028】
これらは最終的に作用点5aを押しているので、同じ方向に力が加わりアクチュエータの切り替えによる差異は発生しない。部材3(3aと3b)の軸上を引っ張っているので、部材3にモーメントがかからず試料4が回転することはない。従って、加重計を構成した場合には従来よりも荷重検出の精度がよくなる。
【0029】
図3は本発明による引っ張り変位の説明図である。横軸はアクチュエータ信号、縦軸は試料引っ張り変位である。K1点は試料4のモータによる引っ張り動作が開始した点である。その後、アクチュエータ信号が増加するにつれて試料変位が増大していく。K2点でモータによる駆動から圧電素子の駆動に駆動力が切り替えられる。更に圧電素子を駆動すると、試料4の変位は更に増大していき、K3点にくると破断する。このような試料の変位を透過型電子顕微鏡で観測すると、試料4の応力による物理的性質を観測することができる。
【0030】
上述の説明では、試料4を引っ張った場合について説明したが、試料4を圧縮する場合も同様に適用することができる。
【0031】
このように、本発明によれば複数のアクチュエータの作用点が一点になるように構成しているので、引っ張り又は圧縮の時に試料を一軸方向にのみ引っ張り又は圧縮することができ、引っ張り力を精度よく検出することができ、また引っ張り又は圧縮による試料の応力を正確に測定することができる。
(実施例2)
図4は本発明の第2の実施例を示す構成図である。図2と同一のものは、同一の符号を付して示す。この実施例はアクチュエータ群5と作用点5aとの間にテコ11を介しているのが異なるのみで、他の構成は同じである。なお、図ではテコ11が1個の場合を示しているが、テコは必要に応じて2個以上設けるようにしてもよい。また、図ではモータによるアクチュエータ部が図2に示す実施例と比較して最外端部に設けられている。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0032】
テコを用いることにより、アクチュエータ群5の設置方向を変えたり、変位の比率を変えることができる。即ちモータ駆動の場合には、CPU8より制御電源9の電圧又は電流を制御し、モータ5bの回転をギア5dと送りネジ5eを介して直線運動に変換する。そして、圧電素子5cを部材の一部として作用点5aを+X方向に押す。この実施例の場合、テコ11を介しているので、アクチュエータ5の変位方向は試料引っ張りと反対の向きとなる。
【0033】
圧電素子5c駆動の場合には、CPU8より制御電源9の電圧を減圧していき、更に制御電源10に電圧を印加していき圧電素子5cそのものを伸ばして作用点5aを+X方向に押し、部材3とフレーム6とテコ11を介してバネ7が試料4を引っ張る。これらは最終的に作用点5aを押しているので、同じ方向に力が加わり、アクチュエータ5の切り替えによる差異が発生しない。更には部材3の軸上を引っ張っているので、部材3にモーメントがかからず、荷重計を接続した場合にも荷重検出の精度を向上させることができる。
【0034】
実施例2によれば、アクチュエータ群と作用点との間に少なくとも1個のテコを介することで、アクチュエータ群の設置方向を変え、変異の比率を変えることができ、より応用範囲の広い応力測定を行なうことができる。
(実施例3)
実施例3の構成は、図面は図2を用いる。アクチュエータ群5が複数のモータ5bを構成している場合もでも実施可能としたものである。引っ張り速度などの理由により、規格や5dに示すギアの比率が異なるものが設置される場合が考えられる。なお、本実施例のは場合、5cは圧電素子であっても単なるシャフトであってもかまわない。ここでは、シャフトを用いた場合について述べる。
【0035】
モータ5bのギア5dはそれぞれ引っ張りシャフト3aのギア5dの周囲に配置される。CPU8により制御電源9の電圧又は電流を制御し、モータ5bの回転をギア5dと送りネジ5eを介して直線運動に変換する。その変位はシャフト5cを介して作用点5aを−X方向に押す。
【0036】
各モータは最終的に作用点5aを押しているので、同じ方向に力が加わり、アクチュエータの切り替えによる差異が発生しない。更には、部材3の軸を引っ張っているので回転方向の力が発生せず、荷重計を接続した場合には荷重検出の精度がよくなる。
【0037】
なお、上述の実施例では引っ張り応力の場合のみについて説明したが、本発明はこれに限るものではなく、圧縮の場合にも同様に適用可能である。力の加わり方が逆方向になるだけである。
【0038】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば以下のような効果が得られる。
【0039】
複数のアクチュエータの作用点を一点にし、引っ張り部材を共通にすることにより、以下のような効果がある。
1)伝達部材の剛性の違いなどを考慮する必要がないので、引っ張り荷重検出においても誤差が生じない。
2)引っ張り方向も粗動、微動で同一なので、透過型電子顕微鏡のその場観察においても像が一方向に観察される。
【符号の説明】
【0040】
1 部材
1a パイプ内面
1b 試料固定部
1c ベース
2 Oリング
3 部材
3a 引っ張りシャフト
3b 試料クランプ部
4 試料
5 アクチュエータ
5a 作用点
5b モータ
5c 圧電素子
5d ギア
5e 送りネジ
6 フレーム
7 バネ
8 CPU
9 制御電源
10 制御電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗動機構と微動機構を備えた引っ張り・圧縮試料ホルダにおいて、
引っ張り軸と引っ張り作用点、又は圧縮軸と圧縮作用点を同軸上に存在させ、
複数のアクチュエータの作用点が一点になるように構成したことを特徴とする電子顕微鏡の引っ張り・圧縮ホルダ機構。
【請求項2】
前記粗動機構としてモータを用いた回転/直線変換機構を用い、前記微動機構として圧電素子を用いた直線移動機構を用いたことを特徴とする請求項1記載の電子顕微鏡の引っ張り・圧縮ホルダ機構。
【請求項3】
前記アクチュエータ群と作用点との間に少なくとも1個のテコを用いてアクチュエータ群の設置方向を変え、変位の比率を変えるように構成したことを特徴とする請求項1又は2記載の電子顕微鏡の引っ張り・圧縮ホルダ機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−38676(P2012−38676A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180062(P2010−180062)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】