説明

電極及びその製造方法並びに高圧放電ランプ

【課題】コイルを電極軸に巻回する構成の電極において、異常放電やスパッタを防止しつつも始動性を確保し、点灯中の電極温度を適切なものとし、点滅が行なわれてもそれが維持されるようにする。
【解決手段】電極軸(10)、及び電極軸の放電部(11)に巻回されたコイル(20)からなる放電ランプ用電極(30)において、コイルの前端部が放電部に溶着された第1の溶着部(41)、コイルの後端部が放電部に溶着された第2の溶着部(42)、及びコイルの巻回における少なくとも一組の隣接コイル間が溶着された溶融連結部(50)を備える構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電極及びそれを用いた高圧放電ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
高圧放電ランプにおいては、発光管内に一対の電極が配置され、両電極間に印加される電圧に応じて陰極側から陽極側に電子が放出される。例えば特許文献1には、電極軸及び電極軸に巻回されるコイルからなる電極において、コイル後端部が電極軸にその全周にわたって溶着されたものが開示されている(同文献図2及び4、特に符号222の部分を参照)。
【0003】
ランプ始動時の動作について、始動電圧が電極間に印加され、電極(陰極)が放電に十分な温度に達すると電子の放出が開始される。通常は、コイルの後端部(軸根元側)付近から電子放出が起こる。このときコイルを速やかに加熱してコイルからの電子放出を促すためにコイルには細径の線材が用いられる。このように、コイルは始動補助部材として機能する。但し、コイル端部の切り端は電子状態が不安定であるため、始動時に異常放電やスパッタを起こし易いため、コイル後端部は電極軸と溶着・一体化されることが望ましい。
【0004】
また、ランプ定常点灯時において、最も高温となるのは電極軸の先端部であるが、その熱がコイルによってコイル前端部からコイル後端部へ移送され、電極先端部の熱が電極軸後方に向けて放熱される。これにより、電極の温度が適正かつ安定に維持され、放電が安定する。このように、コイルは放熱部材としても機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−79986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のようにコイル後端部が電極軸に対して大きな接触面積をもって溶着されていると、コイル後端部付近の熱容量が大きくなることになり、始動時のコイル部分の温度上昇が遅くなってしまう。これによりコイルの始動補助部材としての機能が抑制され、始動性が低下してしまうという問題があった。
【0007】
また、特許文献1のような電極でランプの点灯/消灯を繰り返すと、タングステンからなる電極軸の熱膨張/収縮によって隣接するコイル間に次第に緩みが生じ、コイルと電極軸の間に浮きが生じてしまう。これにより、コイルと電極軸間又は隣接コイル間での接触面積が減少して熱伝導性が損なわれ、コイルによる放熱効果が失われることになる。従って、上記の構成では電極の温度が適正に維持されなくなり、放電が安定しなくなるという問題があった。
【0008】
そこで、コイルを電極軸に巻回する構成の電極において、コイルに起因する異常放電やスパッタを防止しつつも始動性を確保し、点灯中の電極温度を適切なものとし、点滅が行なわれてもそれが維持されるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の側面は、放電ランプの電極(30)であって、電極軸(10)、及び電極軸の放電部(11)に巻回されたコイル(20)からなり、コイルの前端部が放電部に溶着された第1の溶着部(41)、コイルの後端部が放電部に溶着された第2の溶着部(42)、及びコイルの巻回における少なくとも一組の隣接コイル間が溶着された溶融連結部(50)を備えた電極である。
【0010】
ここで、溶融連結部が、コイルの前端部とその隣のコイル部分の間が溶着された第1の溶融連結部(51)、及びコイルの後端部とその隣のコイル部分の間が溶着された第2の溶融連結部(52)からなるようにした。
さらに、コイルの前端部とコイルの後端部の間のいずれかの位置に設けられた溶着部(43、44、45、46、47)を設けてもよい。
またさらに、放電部に、コイルの前端部及びコイルの後端部の位置する場所の少なくとも一方に凹部(13、14)を設けてもよい。
【0011】
本発明の第2の側面は、発光管(60)、及び一対の上記第1の側面の電極(30)を発光管内に備えた高圧放電ランプ(70)である。
【0012】
本発明の第3の側面は、放電ランプの電極の製造方法であって、(S105)電極軸の放電部にコイルを巻回するステップ、(S110)コイルの少なくともコイル前端部及びコイル後端部を放電部に溶着するステップ、及び(S115)コイルの少なくとも一組の隣接するコイル間を溶着するステップを備える製造方法である。
ここで、ステップ(S115)は、コイルの前端部とその隣のコイル部分の間を溶着し、コイルの後端部とその隣のコイル部分の間を溶着することを含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の概略を説明する図である。
【図2A】本発明の電極を示す図である。
【図2B】本発明の電極を説明する図である。
【図3A】本発明の電極を説明する図である。
【図3B】本発明の電極を説明する図である。
【図3C】本発明の電極を説明する図である。
【図3D】本発明の電極を説明する図である。
【図4】本発明の電極の変形例を示す図である。
【図5】本発明の高圧放電ランプを示す図である。
【図6】本発明の電極の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<本発明の概略>
図1に本発明の概略を示す。本発明は、電極軸10、及び電極軸10の放電部11に巻回されたコイル20からなる電極30において、コイル20の前端部が放電部11に溶着された溶着部41、コイル20の後端部が放電部11に溶着された溶着部42、及びコイル20の巻回における任意の隣接するコイル間が溶着された溶融連結部50を備える。
【0015】
<実施例>
図2Aに本発明の実施例による電極30を示す。図2Bは図2Aの電極30を側方から見た概略断面図である。電極軸10は放電太径部11(以下、「放電部11」ともいう)及び細径部12からなり、コイル20は放電部11に巻回されている。なお、本実施例では、最も好適な例として電極軸10が放電太径部と細径部からなるものを示すが、特許文献1のように径が一定の電極軸にも本実施例は適用できる。
【0016】
図1と同様に、電極30は、コイル20の前端部が放電部11に溶着された溶着部41及びコイル20の後端部が放電部11に溶着された溶着部42を有する。
また、図1に示した任意の溶融連結部50は、本実施例ではコイル20の前端部及びその隣のコイル部分の間が溶着された溶融連結部51及びコイル20の後端部及びその隣のコイル部分の間が溶着された溶融連結部52からなる。
各溶着は従来技術と同様にレーザー照射等を用いて行なうことができる。
【0017】
図2A及び2Bにおいては、溶着部をコイル前端部及びコイル後端部に設けているが、図3A、3B及び3Dに示すように、コイル前端部及びコイル後端部以外の場所に設けてもよく、溶着箇所はこれらに限定されない。
ここで、図3Aの溶着部41、42、43及び44のように溶着箇所をまばらにした場合、少ない溶着部によって(即ち、少ない溶着工程によって)放電部11とコイル20の結合を確保できる。
また、図3Bのように溶接箇所を一直線上又は略同一平面上に配置すると、溶接工程中の電極30と溶着用レーザーとの相対位置の移動が少なくて済み、溶着工程を簡単なものとすることができる。
【0018】
また、図2A及び2Bでは、コイル間の溶融連結部50を、コイル前端部を含む部分(51)及びコイル後端部を含む部分(52)に設けているが、図3C及び3Dに示すように、コイル前端部又はコイル後端部を含まない部分に溶融連結部を設けてもよい。このように、溶融連結部の場所は任意であるが、コイル端部を含む部分において溶融連結部51及び52と溶着部41及び42とを一体とすることによってレーザー照射の回数を最少化できる。
【0019】
上記の溶着部の構成によって、コイル後端部と電極軸が必要最小限の接触面積で溶着されるので、コイル後端部(切り端)からの異常放電やスパッタを防ぎつつも、コイル後端部と電極軸との溶着部の熱容量をよりも小さくすることができ、始動性を改善することができる。
【0020】
また、上記の溶融連結部及び溶着部の構成によって、放電とその停止を繰り返すことにより熱的なストレスが加わってもコイルが緩むことがない。従って、溶着部を介した電極軸からコイルへの熱伝導性が維持されるとともに、コイル自体による熱移送性も維持され、コイルによる放熱効果が向上する。
【0021】
図4に本発明における電極軸10の変形例を示す。図4において、放電部11は凹部13及び14を有し、凹部13及び14はそれぞれ、コイル前端部及びコイル後端部に相当する位置に設けられる。なお、凹部13又は凹部14のどちらか一方だけが設けられてもよい。
これにより、凹部13及び14にコイル20の各端部が溶着されるため、この溶着部の塗れ性が向上し、放電部11とコイル20の接合強度を高めることができる。
【0022】
図5に上記実施例の電極を用いた高圧放電ランプ70を示す。高圧放電ランプ70は発光管60、及び発光管60内に対向配置された一対の上記電極30を備える。また、発光管60は各電極30に接続されたモリブデン箔61及びリード62を備える。各リード62は点灯装置(不図示)に接続され、これにより電圧が印加される。
上記の高圧放電ランプによると、始動動作に起因する異常放電やスパッタが抑制され、かつ、始動性が改善された信頼性の高い高圧放電ランプを得ることができる。また、安定した点灯特性及び点滅耐性の高圧放電ランプを得ることができる。
【0023】
図6は本発明の電極の製造方法を示すフローチャートである。
S100において、電極軸10が作製される。電極軸10は電極軸用の芯棒材料から放電太径部11の部分を残して細径部12を切削加工して形成してもよいし、個別に作製された放電太径部11と細径部12を溶着して形成してもよい。
ステップS105において、コイル20が放電部11に巻回される。
ステップS110において、レーザー照射等によりコイル20の少なくとも前端部及び後端部が放電部11にスポット的に溶着され、複数の溶着部が形成される。
ステップS115において、コイル20の少なくとも一組の隣接するコイル間が溶着されて溶融連結部が形成される。
【0024】
上記では、ステップS110の後にステップS115を行なうように記載したが、順序はこの逆でもよいし、両ステップの間を行き来してもよい。
例えば、図2Aの電極30を製造する場合、(1)ステップS110で溶着部41及び42を形成し、その後ステップS115で溶融連結部51及び52を形成してもよいし、(2)ステップS115で溶融連結部51及び52を形成し、その後ステップS110で溶着部41及び42を形成してもよいし、又は(3)ステップS110で溶着部41を形成し、ステップS115で溶融連結部51を形成し、ステップS115で溶融連結部52を形成し、ステップS110で溶着部42を形成する(又はこの逆)等、ステップS110とS115の間を行き来してもよい。特に(3)の場合はレーザー照射の作業効率が良い。
【符号の説明】
【0025】
10.電極軸
11.放電(太径)部
12.細径部
13、14.凹部
20.コイル
30.電極
41〜47.溶着部
50〜52.溶融連結部
60.発光管
70.高圧放電ランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電ランプの電極(30)であって、
電極軸(10)、及び該電極軸の放電部(11)に巻回されたコイル(20)からなり、
前記コイルの前端部が前記放電部に溶着された第1の溶着部(41)、
前記コイルの後端部が前記放電部に溶着された第2の溶着部(42)、及び
前記コイルの巻回における少なくとも一組の隣接コイル間が溶着された溶融連結部(50)
を備えた電極。
【請求項2】
請求項1の電極において、前記溶融連結部が、前記コイルの前端部とその隣のコイル部分の間が溶着された第1の溶融連結部(51)、及び前記コイルの後端部とその隣のコイル部分の間が溶着された第2の溶融連結部(52)からなる電極。
【請求項3】
請求項1の電極であって、さらに、前記コイルの前端部と前記コイルの後端部の間のいずれかの位置に設けられた溶着部(43、44、45、46、47)を有する電極。
【請求項4】
請求項1の電極において、前記放電部が、前記コイルの前端部及び前記コイルの後端部の位置する場所の少なくとも一方に凹部(13、14)を有する電極。
【請求項5】
発光管(60)、及び一対の請求項1記載の電極(30)を該発光管内に備えた高圧放電ランプ(70)。
【請求項6】
放電ランプの電極の製造方法であって、
(S105)電極軸の放電部にコイルを巻回するステップ、
(S110)前記コイルの少なくともコイル前端部及びコイル後端部を前記放電部に溶着するステップ、及び
(S115)前記コイルの少なくとも一組の隣接するコイル間を溶着するステップ
を備える製造方法。
【請求項7】
請求項6の製造方法において、前記ステップ(S115)が、前記コイルの前端部とその隣のコイル部分の間を溶着し、前記コイルの後端部とその隣のコイル部分の間を溶着することを含む製造方法。

【図1】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2A】
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【公開番号】特開2011−60527(P2011−60527A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207692(P2009−207692)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)
【Fターム(参考)】