説明

電極箔型フィルムコンデンサ

【課題】電極箔型フィルムコンデンサの電極箔と引出電極との接合強度、通電電流特性を向上させ、環境対応にも適したものとする。
【解決手段】アルミニウム電極箔と誘電体フィルムとを、前記アルミニウム電極箔が前記誘電体フィルムに対して突出するように重ね合わせて巻回したコンデンサ素子の巻回端部に、引出電極を形成した電極箔型フィルムコンデンサにおいて、
前記引出電極は、前記コンデンサ素子の巻回端部上に形成される第1電極層と、該第1電極層上に形成される第2電極層とを有し、
前記第1電極層は、錫79.0〜81.0wt%、亜鉛17.5〜19.5wt%、アンチモン0.5〜1.5wt%、銅0.3〜0.7wt%を含む合金からなり、
前記第2電極層は、錫89.5〜91.5wt%、亜鉛7.0〜9.0wt%、アンチモン0.5〜1.5wt%、銅0.3〜0.7wt%を含む合金からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業機器用油浸フィルタ用コンデンサに関するもので、特に大電流フィルタ回路に使用するフィルタ用コンデンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
フィルムを使用したコンデンサは大別すると、プラスチックフィルムに蒸着電極を形成した金属化フィルムを巻回した金属化フィルムコンデンサと、ポリプロピレンフィルム等の誘電体フィルムとアルミニウム電極箔とを巻回した電極箔型フィルムコンデンサとがある。
【0003】
金属化フィルムコンデンサは、蒸着電極厚さが極薄であり、誘電体破壊時には前記蒸着電極が飛散して瞬時に絶縁回復するため、高電位傾度設計によりコンデンサの小形化が可能である。
これに対して、電極箔型フィルムコンデンサは、金属化フィルムコンデンサのような自己回復性がないため、誘電体破壊時はコンデンサ自体が破壊するので、コンデンサの小形化には限界がある。
ここで、金属化フィルムコンデンサの引出電極は、蒸着電極に接触するメタリコン電極材料で形成されるが、電極箔型フィルムコンデンサの引出電極はアルミニウム電極箔に接合される低融点はんだで形成される。このため、通電電流が小さい時は自己保安型の金属化フィルムコンデンサが、通電電流が大きい時は大電流対応型の電極箔型コンデンサが使用されている。
【0004】
大電流通電用のフィルタ用コンデンサの引出電極に使用するはんだには、誘電体がポリプロピレンフィルムの場合、はんだ接合時における誘電体の熱的劣化を防止するために低融点はんだを用いている。そして、この低融点はんだには、従来、鉛含有品が用いられていた。しかし、鉛は環境的に有害な物質であり、鉛を含まない無鉛合金が各種開発されるようになってきている。
【0005】
上記の無鉛合金として、錫、亜鉛、銅、アンチモンからなる合金が提示されており(例えば、特許文献1)、また、上記合金を2層とした構成も紹介されている(例えば、特許文献2)。
しかしながら、上記合金の組成は、プラスチックフィルムに蒸着電極を形成した金属化フィルムを巻回した金属化フィルムコンデンサを対象とするものであり、誘電体フィルムとアルミニウム電極箔とを巻回した電極箔型フィルムコンデンサに対して、電極箔と引出電極との接合強度を向上させ、通電電流特性を向上させるのに十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−58370
【特許文献2】特開2001−259885
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した点に鑑みてなされたものであり、その目的は、誘電体フィルムとアルミニウム電極箔とを巻回した電極箔型フィルムコンデンサに対して、無鉛で電極箔との接合の良好な低融点はんだを用いて、電極箔と引出電極との接合強度を十分向上させ、通電電流特性を十分向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために発明されたもので、アルミニウム電極箔と誘電体フィルムとを、前記アルミニウム電極箔が前記誘電体フィルムに対して突出するように重ね合わせて巻回したコンデンサ素子の巻回端部に、引出電極を形成した電極箔型フィルムコンデンサにおいて、
前記引出電極は、前記コンデンサ素子の巻回端部上に形成される第1電極層と、該第1電極層上に形成される第2電極層とを有し、
前記第1電極層は、錫79.0〜81.0wt%、亜鉛17.5〜19.5wt%、アンチモン0.5〜1.5wt%、銅0.3〜0.7wt%を含む合金からなり、
前記第2電極層は、錫89.5〜91.5wt%、亜鉛7.0〜9.0wt%、アンチモン0.5〜1.5wt%、銅0.3〜0.7wt%を含む合金からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、誘電体フィルムとアルミニウム電極箔とを巻回した電極箔型フィルムコンデンサに対して、無鉛で電極箔との接合の良好な第1および第2電極層からなる引出電極を用いているので、電極箔と引出電極との接合強度を十分向上させ、通電電流特性を十分向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例による、アルミニウム電極箔、粗面化ポリプロピレンフィルムの構成図である。
【図2】本発明の実施例による、電極箔型フィルムコンデンサのコンデンサ素子を示す側面図である。
【図3】本発明の実施例による、電極箔型フィルムコンデンサのコンデンサユニットを示す側面図である。
【図4】電極箔型フィルムコンデンサの概略を示す断面図である。
【図5】比較例の電極箔型フィルムコンデンサのコンデンサ素子を示す側面図である。
【図6】本発明の実施例と比較例による、電極箔型フィルムコンデンサの短絡放電試験でのtanδ特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
本実施形態の電極箔型フィルムコンデンサが備えるコンデンサ素子は、図1に示すように、一組のアルミニウム電極箔1(厚さ7μm)と、片面が粗面化されたポリプロピレンフィルム(誘電体フィルム)2(2枚、厚さ13μm)とを有する。2枚のポリプロピレ
ンフィルム2は粗面化された表面が同じ方向を向くように重ねられ、そのように重ねられたポリプロピレンフィルム2(以下「フィルム積層体」という)を間に挟んで一組のアルミニウム電極箔1が配置される。
一組のアルミニウム電極箔1のうち、一方のアルミニウム電極箔1はその端部がフィルム積層体から突出し、他方のアルミニウム電極箔1はその端部が一方のアルミニウム電極箔1の突出方向とは反対方向に突出している。
【0012】
そして、このように重ね合わされたアルミニウム電極箔1と、ポリプロピレンフィルム2とが巻回され、巻回されたコンデンサ素子4(巻回体)の外周を絶縁紙または絶縁フィルム(図示せず)で外巻きした後、加圧して偏平形状に加工する。
その後、図2に示すようにコンデンサ素子4の巻回端部(電極箔の突出端部)に第1および第2引出電極層6、7を形成するための低融点はんだを溶射して引出電極5を形成する。
引出電極5は、図2に示すように、2層の引出電極層で構成され、コンデンサ素子の巻回端部上に形成される第1電極層6の組成は、錫79.0〜81.0wt%、亜鉛17.5〜19.5wt%、アンチモン0.5〜1.5wt%、銅0.3〜0.7wt%を含む合金からなり、第1電極層6上に形成される第2電極層7は、錫89.5〜91.5wt%、亜鉛7.0〜9.0wt%、アンチモン0.5〜1.5wt%、銅0.3〜0.7wt%を含む合金からなる。
【0013】
前記コンデンサ素子4を複数個作成し、図3に示すように、締付板8とバンド9で締付けて固定し、前記引出電極5同士をリード線10で接続して、コンデンサユニット11を構成する。そして、図4に示すように、コンデンサユニット11を金属ケース13に収納し、前記リード線10を外部端子12に接続して真空乾燥後、絶縁油としてジアリールアルカンを含浸し、4.5μFの電極箔型フィルムコンデンサを完成させる。
なお、第1電極層が、錫79.0〜81.0wt%、亜鉛17.5〜19.5wt%、第2電極層が、錫89.5〜91.5wt%、亜鉛7.0〜9.0wt%となるように組成を変えているのは、第2電極層の錫に対する亜鉛含有率を第1電極層より減らすことにより、融点を下げて、はんだ付けしやすい構造とするとともに、電極箔と引出電極との接合強度を向上させるためである。
【0014】
[実施例] 第1および第2電極層の組成検討
表1に示すように、コンデンサ素子の巻回端部上に形成される第1電極層6の組成を、錫80.0wt%、亜鉛18.5wt%、アンチモン1.0wt%、銅0.5wt%に設定し、第1電極層6上に形成される第2電極層7の組成を、錫90.5wt%、亜鉛8.0wt%、アンチモン1.0wt%、銅0.5wt%に設定し、上述した仕様、組立条件にて、電極箔型フィルムコンデンサを作製した。
【0015】
(比較例1)
図5に比較例に係る電極箔型フィルムコンデンサのコンデンサ素子を示す。
表1に示すように、電極箔の突出端部上に形成される引出電極15の組成を、錫60.
0wt%、亜鉛15.0wt%、アンチモン1.5wt%、鉛23.5wt%に設定し、上述した実施例と同じ仕様、組立条件にて、電極箔型フィルムコンデンサを作製した。
【0016】
(比較例2)
表1に示すように、図5に示される電極箔の突出端部上に形成される引出電極15の組成を、錫70.0wt%、亜鉛30.0wt%に設定し、上述した実施例と同じ仕様、組立条件にて、電極箔型フィルムコンデンサを作製した。
【0017】
[引張強度試験]
上記の実施例、比較例1、2について、各5個のコンデンサ試料の引出電極に、直径1mmの錫メッキ銅単線の一方の先端5mm部分をL字形に折り曲げ、試料と同じはんだで直径10mmの面積ではんだ付けを行い、錫メッキ銅単線の他端は直径20mm程度のリング状とし、端部をはんだ付けして引張部分とし、プッシュ・プルゲージで引張強度を測定し、比較した。その結果を表1に示す。表1の引張強度はコンデンサ試料5個の平均値を記載している。
【0018】
[短絡放電試験]
上記の実施例、比較例1、2について、各5個のコンデンサ試料の外部端子間に直流定格電圧4000Vを印加して2回/分、周波数100kHz、ピーク電流25kAの短絡放電を10000回まで行い、tanδの経時変化を比較した。その結果を表1、図6に示す。
表1のtanδはコンデンサ試料5個の平均値を記載している。
【0019】
【表1】

【0020】
[第1および第2電極層の組成検討]
表1、図6より明らかなように、実施例で、第1電極層6の組成を、錫80.0wt%、亜鉛18.5wt%、アンチモン1.0wt%、銅0.5wt%とし、かつ、第2電極層6の組成を、錫90.5wt%、亜鉛8.0wt%、アンチモン1.0wt%、銅0.5wt%としたことにより、比較例1、2と比較して、電極箔と引出電極との接合強度を十分向上させることができ、また、短絡放電10000回でもtanδ変化が安定した特性となり、通電電流特性を十分向上させることができた。
ここで、第1電極層6の組成が、錫79.0〜81.0wt%、亜鉛17.5〜19.5wt%、アンチモン0.5〜1.5wt%、銅0.3〜0.7wt%の範囲を外れた場合、および/または、第2電極層7の組成が、錫89.5〜91.5wt%、亜鉛7.0〜9.0wt%、アンチモン0.5〜1.5wt%、銅0.3〜0.7wt%の範囲を外れた場合には、電極箔と引出電極との接合強度の向上が不十分であり、また、短絡放電試験において、tanδ増大を十分に抑えることができず、通電電流特性を満足させることができなかった。
【0021】
以上の試験結果より、引出電極を構成する第1電極層が、錫79.0〜81.0wt%、亜鉛17.5〜19.5wt%、アンチモン0.5〜1.5wt%、銅0.3〜0.7wt%を含む合金からなり、かつ、第2電極層が、錫89.5〜91.5wt%、亜鉛7.0〜9.0wt%、アンチモン0.5〜1.5wt%、銅0.3〜0.7wt%を含む合金からなる、本発明の電極箔型コンデンサは、電極箔と引出電極との接合強度を十分向上させることができ、また、通電電流特性を十分向上させることができる。しかも、環境対応も十分可能であり、工業的価値大である。
【符号の説明】
【0022】
1 アルミニウム電極箔
2 片側粗面化ポリプロピレンフィルム
3 電極箔突出部
4 本発明のコンデンサ素子
5 引出電極
6 第1の引出電極
7 第2の引出電極
8 締付板
9 バンド
10 リード線
11 本発明のコンデンサユニット
12 外部端子
13 ケース
14 絶縁油
15 引出電極(従来)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム電極箔と誘電体フィルムとを、前記アルミニウム電極箔が前記誘電体フィルムに対して突出するように重ね合わせて巻回したコンデンサ素子の巻回端部に、引出電極を形成した電極箔型フィルムコンデンサにおいて、
前記引出電極は、前記コンデンサ素子の巻回端部上に形成される第1電極層と、該第1電極層上に形成される第2電極層とを有し、
前記第1電極層は、錫79.0〜81.0wt%、亜鉛17.5〜19.5wt%、アンチモン0.5〜1.5wt%、銅0.3〜0.7wt%を含む合金からなり、
前記第2電極層は、錫89.5〜91.5wt%、亜鉛7.0〜9.0wt%、アンチモン0.5〜1.5wt%、銅0.3〜0.7wt%を含む合金からなることを特徴とする電極箔型フィルムコンデンサ。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−44618(P2011−44618A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192639(P2009−192639)
【出願日】平成21年8月22日(2009.8.22)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)
【Fターム(参考)】