説明

電機子冷却構造

【課題】 モータにおける磁石の減磁を防止することである。
【解決手段】 モータMの電機子1,2と磁石4との間に電機子1,2を密閉可能であって少なくとも磁石4に対向する面が断熱材で形成される隔壁部材10を設け、該隔壁部材10と電機子1,2との間に熱伝導性物質15を充填して、フレームFを介しての電機子1,2の熱熱放散することに加えて、隔壁部材10の断熱効果によりモータM内部の温度上昇を防止し、磁石4の減磁を防止した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータにおける電機子冷却構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にモータに使用される磁石は、温度上昇に伴って磁束密度が減少する特性を有しており、特に、ネオジウム磁石等の希土類磁石にあっては、高温下において元の磁力まで回復できない不可逆減磁を生じることが知られている。
【0003】
そして、上述のように磁石の温度上昇による減磁は、モータの出力トルクの低下という性能劣化に繋がるため、上記減磁を防止する提案がなされるに至っている。
【0004】
この提案では、電機子たるステータを樹脂ケースで覆うとともにこのケース内に熱放散性の樹脂材を充填するもの(たとえば、特許文献1参照)が知られている。
【0005】
そして、この提案では、ステータの巻線が発生する熱を巻線の周辺に配在された熱放散性の樹脂材を介して樹脂ケース側に伝達し、さらに、この樹脂ケースを介して熱を外部に放散するとしている。
【特許文献1】特開平7−147748号公報(作用欄,図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記した提案にあっては、たしかに樹脂ケースを介してモータ駆動中の巻線が発する熱が放散されるので、モータが高温となることを防止できると言い得るが、以下の点で不具合があると指摘される恐れがある。
【0007】
すなわち、上記提案ではケースを介して熱放散するが、その過程で当然ケースに巻線が発生する熱が伝達されることになり、当該ケースはモータ内にある気体の温度上昇、すなわち、モータ内部の温度上昇を防止することはできない。
【0008】
すると、モータ内部の温度上昇により磁石に伝達される熱で、磁石は減磁することになるから、特に継続駆動中や高回転域では、トルクの減少や場合によっては不可逆減磁を生じてモータの性能が劣化してしまう恐れがある。
【0009】
そこで、本発明は上記不具合を解消するために創案されたものであって、その目的とするところは、モータにおける磁石の減磁を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するため、本発明の課題解決手段における電機子冷却構造は、モータの電機子と磁石との間に電機子を密閉可能であって少なくとも磁石に対向する面が断熱材で形成される隔壁部材を設け、該隔壁部材と電機子との間に熱伝導性物質を充填したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
各請求項の発明によれば、隔壁部材によって電機子の熱の磁石への伝達が防止されるとともに、電機子の熱は、熱伝導性物質によりモータの外部へ速やかに放散されるから、モータ内部の温度上昇が防止されて磁石の温度上昇が防止され、磁石の減磁を防止することができる。
【0012】
すなわち、モータを長時間駆動しても、磁石が高温となってしまうことが防止されるので、モータの耐久性が向上するとともに、モータの性能が劣化することもなく、モータは長時間駆動を行っても安定的なトルクの発生が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を図に基づき説明する。図1は、本発明の一実施の形態における電機子冷却構造が具現化されたモータの縦断面図である。図2は、他実施の形態における電機子冷却構造が具現化されたステータの斜視図である。
【0014】
図1に示すように、一実施の形態における電機子冷却構造が具現化されたモータMは、ロータRと、電機子たるステータSと、フレームFとを備え、いわゆるブラシレスモータとして構成されている。
【0015】
以下、各部につき詳細に説明すると、電機子たるステータSは、筒状のフレームFの内周に装着された筒状のステータコア1と、ステータコア1に巻装された巻線2とで構成されている。
【0016】
他方、ロータRは、シャフト3と、シャフト3の外周に装着された磁石たる永久磁石4とで構成され、シャフト3の両端側は、フレームF内に嵌着されたボールベアリング5,6に回転自在に軸支され、永久磁石4はステータSに対向させている。
【0017】
そして、このモータM内には上記ステータSを覆う隔壁部材10が設けられており、この隔壁部材10は、ロータRに対向する筒部11と、筒部11の各開口端、すなわち、図1中上下端から延設される一対の環状部12,13とを備え、上記各環状部12,13の外周側がモータMのフレームF内周に装着され、この隔壁部材10によりステータSが密封状態とされている。
【0018】
また、この隔壁部材10は、断熱材で形成されており、ステータSの巻線2の通電時に巻線2が発生する熱がこの隔壁部材10によりロータR側に伝達されることが防止されている。
【0019】
さらに、この隔壁部材10とステータSとの間には、熱伝導性物質15が充填されている。すなわち、磁束変化等によるステータコア1の発する熱や通電時の巻線2の発する熱は、上記熱伝導性物質15に速やかに伝達されることとなり、さらに、熱伝導性物質15に伝達された熱は、上述のように隔壁部材10が断熱材で形成されているので、モータMの内部側には熱が伝達されにくく、フレームF表面を介して外部空気中に放散されることとなる。
【0020】
したがって、フレームFを介しての熱放散に加えて、隔壁部材10の断熱効果によりモータM内部の気体の温度上昇が防止されることにより永久磁石4の温度上昇が防止され、結果的に永久磁石4の減磁が防止されることとなる。
【0021】
すなわち、モータMを長時間駆動しても、永久磁石4が高温となってしまうことが防止されるので、モータMの耐久性が向上するとともに、モータMの性能が劣化することもなく、モータMは長時間駆動を行っても安定的なトルクの発生が可能となる。
【0022】
また、電機子は速やかに冷却されるので巻線2の温度上昇が抑制されるから、巻線2を形成する導線の絶縁被膜の化学変化等により絶縁性が劣化して漏電等を生じてモータM自体が損傷するという危惧もない。
【0023】
なお、断熱材としては、熱伝導率が小さい材質、たとえば、フェノール系樹脂等を用いることができ、また、本実施の形態のように隔壁部材10全部を断熱材とすることが望ましく減磁防止効果が高いが、断熱材で形成する部分を隔壁部材10の筒部11、すなわち、ロータRに対向する面のみとしても、永久磁石4への熱伝達を防止可能である。
【0024】
また、上述したところでは、隔壁部材10そのものが断熱材で構成されているが、隔壁部材10の外側面、すなわち、ロータR側を向く面に断熱塗料を塗布したり断熱材で形成される層を形成したりとしてもよく、この場合においても、モータM内の温度上昇を防止でき永久磁石4の減磁を防止可能である。
【0025】
さらに、熱伝導性物質15としては、高熱伝導性の樹脂等の固体だけでなく液体、たとえば、油等を使用してもよい。
【0026】
つづいて、図2に示した他の実施の形態における電機子冷却構造について説明する。この電機子冷却構造にあっては、隔壁部材20が、上述の一実施の形態と同様のステータコア1と巻線2とで構成される筒状のステータSの内周側と外周側とにそれぞれ配置される一対の筒部21,22と、各筒部21,22の各開口端から延設され内部を密閉する一対の環状部23,24とで構成されるとともに、この隔壁部材20内にステータSを密封状態下に設置し、さらに、この隔壁部材20とステータSとの間に一実施の形態と同様に熱伝導性物質15を充填しているものである。
【0027】
そして、より詳しくは、上記隔壁部材20の筒部22の内周側にステータSのステータコア1が装着され、上記筒部22は高熱伝導性樹脂で形成され、さらに、筒部22以外の隔壁部材20の各部、すなわち筒部21、環状部23,24は断熱材で形成されている。
【0028】
このように構成された隔壁部材20およびステータSは、図示しないモータのフレーム内周側に固定され、筒部21の内周側が図示しないロータに対向するように設置されることとなり、やはり上記した一実施の形態の電機子冷却構造のように、巻線2やステータコア1の発する熱がモータ内部に伝達されることを防止できるようになっている。
【0029】
この場合には、上述の一実施の形態と同様の作用効果を奏すると同時に、ステータS側を完全に別構造とすることが可能となるので、モータを組み立てやすくなりコスト削減が可能となる。
【0030】
また、上記した各実施の形態においては、電機子冷却構造が円筒電機子に適用された場合について説明しているが、円板電機子にも適用可能であることは勿論で、さらに、ロータ側に電機子を備えたモータにも適用可能であるが、その場合には、隔壁部材をロータ側に設けて電機子を密閉し、当該隔壁部材の磁石に対向する面を断熱材で形成するか、上記磁石に対向する面に断熱材で形成する層を設けておくとすれば、やはり、モータの内部の温度上昇を防止でき、また、ロータのシャフトを介して熱を外部に放散することがででき、磁石の減磁を防止することができる。
【0031】
また、電機子の熱の外部への放散効率を高めるために、電機子が連結されるモータのフレームやロータに複数フィンを設けるとしてもよい。
【0032】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施の形態における電機子冷却構造が具現化されたモータの縦断面図である。
【図2】他実施の形態における電機子冷却構造が具現化されたステータの斜視図である。
【符号の説明】
【0034】
1 ステータコア
2 巻線
3 シャフト
4 磁石たる永久磁石
5,6 ボールベアリング
10,20 隔壁部材
11,21,22 筒部
12,13,23,24 環状部
15 熱伝導性物質
F フレーム
M モータ
R ロータ
S ステータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの電機子と磁石との間に電機子を密閉可能であって少なくとも磁石に対向する面が断熱材で形成される隔壁部材を設け、該隔壁部材と電機子との間に熱伝導性物質を充填したことを特徴とする電機子冷却構造。
【請求項2】
隔壁部材が磁石に対向する筒部と、筒部の各開口端から延設される一対の環状部とを備え、上記各環状部がモータのフレーム内周もしくはロータの外周に装着されてなることを特徴とする請求項1に記載の電機子冷却構造。
【請求項3】
隔壁部材が筒状の電機子の内周側と外周側とにそれぞれ配置される一対の筒部と、各筒部の各開口端から延設され内部を密閉する一対の環状部とを備えてなる請求項1に記載の電機子冷却構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−42507(P2006−42507A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−219548(P2004−219548)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】