説明

電気分解電極及び電気分解装置並びに電気分解方法

【課題】電気分解の分解効率を従来よりも向上させる。
【解決手段】所定の電解液の電気分解に供される電気分解電極A1であって、電解液に浸漬される接液面1bと、気体チャンバー3aを形成する接気面と、接液面1bと接気面とを連通させ、壁面に疎液膜が設けられ、かつ、孔径がフッ素ガスを電解液に対して選択的に通過させる大きさに設定された複数の貫通孔とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気分解電極及び電気分解装置並びに電気分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1(国際公開公報)には、任意の一面から背反面に通じる多数の貫通孔を備え、電解液に浸漬される上記一面に親液性とする表面処理を施し、また電解液に浸漬しない背反面を疎液性とする表面処理を施した電極を、陽極あるいは陰極の少なくても何れか一方に用いることを特徴とする電気分解装置が開示されている。このような電気分解装置によれば、上記一面の表面で発生したガスは、一面が親液性かつ背反面が疎液性になっているので、貫通孔を通過して一面から背反面に速やか排除され、よって電気分解の効率を向上させることができる。このような電気分解装置は、フッ化カリウム(KF)とフッ化水素(HF)とが混合したKF−HF系混合溶融塩を含む溶液を電解液とし、当該電解液を電気分解することによって陽極でフッ素ガスを発生させるフッ素ガス発生装置として用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2008/132818号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来の電気分解装置は、発生ガスの排除能力が必ずしも十分なものではない。すなわち、一面を親液性かつ背反面を疎液性とすることによって、陽極の一面で発生したフッ素ガスを貫通孔を介して効果的に陽極の背反面に排除させることができないという問題がある。
また、ニッケル等の金属材料を陽極の電極材料とした場合、貫通孔壁面に対して疎液性の表面処理を行っていない場合、貫通孔内部に電解液が侵入し、貫通孔壁面を使用した電気分解により壁面からの金属溶出が生じ貫通孔の形状が変化してしまうため電極有効面積が変化し安定的な電気分解が行えなくなる、という問題点がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、以下の点を目的とするものである。
(1)発生ガスを従来よりも速やかに発生面から排除する。
(2)発生ガスの発生効率を従来よりも向上させる。
(3)電気分解の分解効率を従来よりも安定化させる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、電気分解電極に係る第1の解決手段として、所定の電解液の電気分解に供される電気分解電極であって、電解液に浸漬される接液面と、気体流路を形成する接気面と、接液面と接気面とを連通させ、壁面が電解液に対して疎液性、かつ、孔径が発生ガスを電解液に対して選択的に通過させる大きさに設定された複数の貫通孔とを備える、という手段を採用する。
【0007】
電気分解電極に係る第2の解決手段として、上記第1の手段において、接液面が親液性である、という手段を採用する。
【0008】
電気分解電極に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の手段において、相互に連結した複数の貫通孔を有する発泡体、シングルポアモノリス型構造体、ダブルポアモノリス型構造体、粉末焼結体あるいは繊維焼結体の一面を接液面としてなる、という手段を採用する。
【0009】
電気分解電極に係る第4の解決手段として、電気分解に供される電気分解電極であって、電解液に対して親液性である第1面と、電解液に対して疎液性である第2面と、第1面と第2面とを連通させ、壁面が電解液に対して疎液性である複数の貫通孔とを備える、という手段を採用する。
【0010】
また、本発明では、電気分解装置に係る第1の解決手段として、陽極電極あるいは陰極電極の何れか一方あるいは両方が上記第1〜第4の何れかの解決手段に係る電気分解電極からなる、という手段を採用する。
【0011】
電気分解装置に係る第2の解決手段として、上記第1の手段において、電解液がフッ素化合物を溶融塩とするものであり、電解液によって陽極電極でフッ素ガスを発生させる、という手段を採用する。
【0012】
また、本発明では、電気分解方法に係る第1の解決手段として、陽極電極に及び陰極電極に所定の電位を供給することにより所定の電解液を電気分解する電気分解方法であって、陽極電極あるいは陰極電極の何れか一方あるいは両方に、電解液に浸漬される接液面と、気体流路を形成する接気面と、接液面と接気面とを連通させ、壁面が電解液に対して疎液性、かつ、孔径が発生ガスを電解液に対して選択的に通過させる大きさに設定された複数の貫通孔と、を有するものを用いる、という手段を採用する。
【0013】
電気分解方法に係る第2の解決手段として、上記第1の手段において、接気面を親液性とする、という手段を採用する。
【0014】
電気分解方法に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の手段において、貫通孔は、相互に連結して接液面と接気面とを連通させる、という手段を採用する。
【0015】
電気分解方法に係る第4の解決手段として、陽極電極に及び陰極電極に所定の電位を供給することにより所定の電解液を電気分解する電気分解方法であって、陽極電極あるいは陰極電極の何れか一方あるいは両方に、電解液に対して親液性である第1面と、電解液に対して疎液性である第2面と、第1面と第2面とを連通させ、壁面が電解液に対して疎液性である複数の貫通孔と、を有するものを用いる、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電気分解電極が、電解液に浸漬される接液面と、気体流路を形成する接気面と、接液面と接気面とを連通させ、壁面が電解液に対して疎液性、かつ、孔径が発生ガスを選択的に通過させる大きさに設定された複数の貫通孔とを備えるので、接液面で発生した発生ガスは、接液面から効果的に排除されて貫通孔の内部に移動し、また接液面から貫通孔の内部に電解液に対して選択的に侵入して接気面に移動する。
また、本発明によれば、電気分解電極が、電解液に対して親液性である第1面と、電解液に対して疎液性である第2面と、第1面と第2面とを連通させ、壁面が電解液に対して疎液性である複数の貫通孔とを備えるので、専ら親液性である第1面で発生ガスが発生し、この発生ガスは、第1面から効果的に排除されて貫通孔の内部に移動し、また第1面から貫通孔の内部に電解液に対して選択的に侵入して第2面に移動する。
【0017】
したがって、このような本発明によれば、発生ガスを従来よりも速やかに発生面(接液面あるいは第1の面)から排除され、以って発生ガスの発生効率を従来よりも向上させることができる。
また、このような本発明によれば、発生ガスを従来よりも速やかに発生面(接液面あるいは第1の面)から排除されるので、電気分解の分解効率を従来よりも安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電極ユニットA1の構成を示すものであり、(a)は正面図、(b)は正面図におけるX1−X1線の矢視図、(c)は側面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る電極ユニットA1の多孔電極板1の構成を示すものであり、(a)は正面図、(b)は正面図におけるY1−Y1線の矢視図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る電極ユニットA1の多孔電極板1における貫通孔の変形例を示す矢視図であり、(a)は第1の変形例、(b)は第2の変形例を示す。
【図4】本発明の第1実施形態に係る電気分解装置B1の構成を示すものであり、(a)は正面図、(b)は正面図におけるZ1−Z1線の矢視図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る電極ユニットA2の構成を示すものであり、(a)は正面図、(b)は正面図におけるX2−X2線の矢視図、(c)は側面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る電気分解装置B2の構成を示すものであり、(a)は正面図、(b)は正面図におけるZ2−Z2線の矢視図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る電気分解装置B3の構成を示す矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
最初に、第1実施形態について説明する。本第1実施形態に係る電極ユニットA1は、図1に示すように、多孔電極板1、導線2、電極ホルダ3、気体導管4、電極カバー5及び締結ネジ6から構成されている。詳細は後述するが、この電極ユニットA1は、電気分解装置B1の陽極電極あるいは陰極電極として用いられる。
【0020】
多孔電極板1は、図2に示されているように、正方形かつ一定厚の導体板1aの接液面1bと接気面1cとの間に、当該接液面1bと接気面1cとを連通させる多数の貫通孔1dが形成されたものである。上記導体板1aは、所定の金属、例えばニッケル(Ni)を材料とする平板である。
【0021】
この貫通孔1dは、図示するように、壁面に疎液性の被膜1e(疎液膜)が形成されたものであり、また断面形状が互いに平行な接液面1bと接気面1cとに直交すると共に一定の断面積となるように形成されている。貫通孔1dの直径は、例えば500μm以下であり、より好ましくは10μm〜500μmである。このような貫通孔1dの直径は、以下に詳説するように電解液が貫通孔1dの内部に浸入しないように最適化されている。
【0022】
また、貫通孔1dの配列ピッチは、特に制限がないが、10μm〜500μm程度が好ましい。すなわち、貫通孔1dの配列ピッチは、貫通孔1dの孔径と同程度が好ましい。
なお、図2の多孔電極板1は、貫通孔1dが碁盤の目のように配置された状態に形成されているが、貫通孔1dの配置態様はこれに限定されるものではなく、例えば千鳥格子状あるいは規則性のない配列状態であっても良い。
【0023】
また、上記貫通孔1dについては、図3に示すような断面形状の変形例が考えられる。図3(a)に示す第1の変形例は、貫通孔1fの中心軸線は接液面1b及び接気面1cに直交するものの、断面積が接液面1b及び接気面1cから遠ざかるに従って徐々に小さくなり、接液面1b及び接気面1cで最も小さくなるような形状である。このような断面形状の貫通孔1fの壁面には疎液膜1gが全面的に設けられている。
【0024】
図3(b)に示す第2の変形例は、貫通孔1hの中心軸線は接液面1b及び接気面1cに直交するものの、断面積が接液面1bから接気面1cに向けて徐々に大きくなる形状である。この貫通孔1hの壁面には疎液膜1iが全面的に設けられている。このような第1、第2の変形例に係る貫通孔1f、1hは、導体板1aを例えばレーザ加工することによって容易に形成することができる。
【0025】
また、上記多孔電極板1の接液面1bは、電解液に対して親液性となるよう表面処理されている。多孔電極板1は、導体板1aを母材として形成されているが、各貫通孔1dの壁面は、導電性材料の表面に電解液に対して疎液性の被膜である疎液膜1eが全面的に形成されている。このような各被膜は、例えばスプレーコーティング、フローコーティング、スピンコーティング、ディップコーティング、ロールコーティング、加圧コーティング等の各種コーティング方法によって疎液性材料を塗布することによって形成される。
【0026】
ここで、「親液性」とは、一定量の液滴が固体表面に置かれた状態において液滴の気液界面と固液界面がなす角度(接触角)が90°より小さくなる状態のことであり、また「疎液性」とは、上記接触角が90°より大きくなる状態のことである。上記接触角として接液面1b(親液面)及び各貫通孔1dの疎液膜1e(疎液面)を見た場合、上記接液面1b(親液面)の電解液に対する接触角α(α<90°)及び疎液膜1e(疎液面)の電解液に対する接触角β(90°<β)は、以下の関係式(1)を満足する。すなわち、接液面1bの接触角αは、各貫通孔1dの疎液膜1eの接触角βよりも小さく設定されている。
α<90°<β (1)
【0027】
すなわち、多孔電極板1は、貫通孔1dの直径が500μm以下に設定され、かつ、接液面1b(親液面)及び各貫通孔1dの疎液膜1e(疎液面)の各接触角α、βが上記関係式(1)を満足するように構成されている。また、各接触角α、βについては、上記関係式(1)に代えて、α+10°<90°<βの条件あるいはα+25°<90°<βの条件を満足することがより好ましい。なお、接気面1cの接触角については特に限定しないが、90°よりも大きく(つまり疎液性とし)設定することが好ましい。
【0028】
導線2は、このような多孔電極板1の接気面1cに一端が接続されると共に他端が外部の電源(図示略)の出力端に接続された電線であり、電源から出力された電気分解用の電位を多孔電極板1に供給するためのものである。電極ホルダ3は、内部に窪み部が形成された立方体状の非導電性部材である。図示するように、この電極ホルダ3には窪み部を一方から塞ぐような状態で上述した平板状の多孔電極板1が装着されている。なお、電極ホルダ3の窪み部と多孔電極板1とによって囲まれた空洞は気体チャンバー3aである。このような気体チャンバー3aは、図示するように接気面1cと電極ホルダ3の窪み部とによって形成された気体流路であり、複数の貫通孔1dを介して接液面1bに連通する。
【0029】
気体導管4は、一端が電極ホルダ3の上部に固定された中空円筒状の非導電性部材であり、内部空洞は上記気体チャンバー3aに連通する気体チャネル4aである。図示していないが、気体導管4の他端は気体回収装置に接続されている。電極カバー5は、中心部に正方形の開口5aが形成された正方形状の非導電性部材である。この電極カバー5は、接液面1bが開口5aを介して外部に露出するように多孔電極板1を電極ホルダ3の一部に保持するためのものである。締結ネジ6は、このような電極カバー5を電極ホルダ3に締結固定するためのものであり、電極カバー5の各丁部近傍にそれぞれ設けられている。
【0030】
このように構成された電極ユニットA1は、図4に示すように、電解槽7、電解液8及び電源9とともに電気分解装置B1を構成する。すなわち、電極ユニットA1は、電解槽7内に貯留された電解液8に一対として浸漬され、かつ電源9に接続されて電気分解に供される。電源9の正極端子に接続される電極ユニットA1は陽極電極ユニットA1pであり、電源9の負極端子に接続される電極ユニットA1は陰極電極ユニットA1mである。このような陽極電極ユニットA1pと陰極電極ユニットA1mとは、図示するように、お互いの多孔電極板1の接液面1bが平行に対向するように電解液8に浸漬される。
【0031】
電解槽7は、上端が解放されると共に内部に電解液8が貯留された箱型の容器である。電解液8は、所定の化合物(電気分解対象物)を含有した溶融塩である。この電解液8は、電気分解装置B1の目的、つまりどのような気体(ガス)を電気分解によって発生・回収するかによって種々のものが選定される。例えば、フッ素ガス(F)の生成・回収を目的とする場合には、電解液8として、フッ化カリウム(KF)とフッ化水素(HF)とが混合したものを溶融塩(KF・nHF(1≦n≦3))とするものが選定される。電源9は、正極性の電位を出力するための正極端子と負極性の電位を出力するための負極端子を備えた直流電源である。
【0032】
次に、このように構成された電極ユニットA1(陽極電極ユニットA1p、陰極電極ユニットA1m)及び電気分解装置B1の作用について詳しく説明する。
【0033】
なお、以下の説明では、フッ素ガス(F)を生成・回収するために、フッ素化合物、例えばフッ化カリウム(KF)とフッ化水素(HF)とが混合したものを溶融塩(KF・nHF(1≦n≦3))とする電解液8を電気分解する場合について説明する。この場合、陽極電極ユニットA1pの多孔電極板1(導体板1a)の材料として、好ましくはニッケル(Ni)が選定される。なお、陰極電極ユニットA1mの多孔電極板1(導体板1a)の材料については特に制限はないが、本実施形態では陽極電極ユニットA1pと同様にニッケル(Ni)が選定される。
【0034】
電気分解装置B1を用いて上記溶融塩の電解液8を電気分解すると、当該電解液8と接触する陽極電極ユニットA1pの多孔電極板1の接液面1bでは、以下の反応式(2)に示す化学反応が生じ、フッ素ガス(F)が気泡として発生する。また、陰極電極ユニットA1mの多孔電極板1の接液面1bでは、以下の反応式(3)に示す化学反応が生じ、水素ガス(H)が気泡として発生する。
陽極 : 2F → F+2e (2)
陰極 : 2H+2e → H (3)
【0035】
ここで、陽極電極ユニットA1pの接液面1bは、親液性のため電解液8と馴染みが良く、よってフッ素ガス(F)が効率良く生成される。また、このような接液面1bは、気泡(気体)であるフッ素ガス(F)との馴染みが悪い。一方、このような接液面1bに多数形成された貫通孔1dの疎液膜1eは、疎液性の被膜で覆われているので、電解液8との馴染みは悪いが、気泡(気体)であるフッ素ガス(F)との馴染みが良い。
【0036】
すなわち、陽極電極ユニットA1pの多孔電極板1では、接液面1bの接触角αと貫通孔1dの疎液膜1eの接触角βとの間に関係式(1)が成立しているので、陽極電極ユニットA1pの接液面1bにおいて貫通孔1d近傍で発生したフッ素ガス(F)の気泡は、接液面1b(親液面)から排除されて貫通孔1dの疎液膜1e(疎液面)に移動する。そして、接液面1bにおいて貫通孔1d近傍で発生したフッ素ガス(F)の気泡は、この力の作用によって、接液面1bから貫通孔1dに移動する。
【0037】
電解液8の表面張力γ[N/m]、接液面1bの電解液8に対する接触角α[deg]、貫通孔1dの半径r[m]とした場合、電解液8が貫通孔1dの内部に入り込むために必要な圧力(ヤング・ラプラス圧力)ΔPは、下式(4)のように表される。
ΔP=−2γ(cosα)/r (4)
したがって、貫通孔1dの入口における電解液8の圧力(電解液8に対する貫通孔1dの深さや電解液8の入った電解槽7内部の圧力に依存する)が上記ヤング・ラプラス圧力ΔPを超えなければ、電解液8は貫通孔1dの内部に浸入することができない。
【0038】
このように、陽極電極ユニットA1pの多孔電極板1では、電解液8が内部に浸入できない大きさ、つまり発生ガス(気体)であるフッ素ガス(F)を選択的に通過させる大きさ(上述した500μmm以下の直径)となるように貫通孔1dの孔径が設定されると共に、貫通孔1dの壁面に接液面1bの接触角αよりも大きな接触角βを有する疎液膜1eが設けられているので、接液面1bで発生したフッ素ガス(F)の気泡は、接液面1bから効果的に排除されて貫通孔1dの内部に移動し、また接液面1bから貫通孔1dの内部に電解液8に対して選択的に侵入して接気面1cに移動する。
【0039】
すなわち、本電気分解装置B1の陽極電極ユニットA1pでは、気泡(気体)であるフッ素ガス(F)が液体である電解液8から効果的に分離されて、電解液8は貫通孔1dを通過することなく、このような電解液8に対して選択的に貫通孔1dを通過して気体チャンバー3a内に収集される。そして、気体チャンバー3a内のフッ素ガス(F)は、気体導管4によって形成される気体チャネル4aを介して外部に回収される。
【0040】
なお、このような陽極電極ユニットA1pにおける作用は、当該陽極電極ユニットA1pと対をなす陰極電極ユニットA1mについても同様である。すなわち、陰極電極ユニットA1mの多孔電極板1において、接液面1bで気泡として発生する水素ガス(H)は、電解液8に対して選択的に貫通孔1dを通過して気体チャンバー3a内に収集される。そして、気体チャンバー3a内のフッ素ガス(F)は、気体導管4によって形成される気体チャネル4aを介して外部に回収される。
【0041】
このような第1実施形態によれば、陽極電極ユニットA1pの多孔電極板1の接液面1bで発生するフッ素ガス(F)及び陰極電極ユニットA1mの多孔電極板1の接液面1bで発生する水素ガス(H)は、接液面1bから貫通孔1dの内部に効果的に排除されると共に電解液8に対して選択的に貫通孔1dの内部に侵入して気体チャンバー3aに収集される。
【0042】
したがって、第1実施形態によれば、フッ素ガス(F)や水素ガス(H)が接液面1bで滞留する時間を従来よりも短縮することができるので、電源9から陽極電極ユニットA1p及び陰極電極ユニットA1mに供給する電力の電流密度を従来よりも高めることが可能であり、よって電気分解の分解効率、つまり発生ガスであるフッ素ガス(F)及び水素ガス(H)の発生効率を従来よりも向上させることができる。
【0043】
また、第1実施形態によれば、陽極電極ユニットA1pにおける電気分解の分解効率、つまりフッ素ガス(F)発生効率を従来よりも安定化させることができる。
【0044】
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態について説明する。なお、図5では、図1と同一の構成要素には同一符合を付している。以下では、図1と同一の構成要素については、重複するので説明を省略する。
【0045】
本第2実施形態に係る電極ユニットA2は、図5に示すように、多孔電極板1C、導線2、電極ホルダ3A、気体導管4、電極カバー5A及び締結ネジ6から構成されている。多孔電極板1Cは、上述した第1実施形態の多孔電極板1のように多数の貫通孔1dが互いに独立しているのではなく、相互に連結した複数の貫通孔1jを有する平板状の導電性部材である。このような多孔電極板1Cは、例えば発泡金属、シングルポアモノリス型構造体、ダブルポアモノリス型構造体、粉末焼結貴金属、繊維焼結体等から形成されている。
【0046】
多孔電極板1Cの上部は、図示するように、電極ホルダ3Aの窪み部に収容された状態で電極ホルダ3Aと電極ホルダ3Aとによって挟持されている。このような多孔電極板1Cの上表面と電極ホルダ3Aと電極カバー5Aとによって囲まれた空洞は、気体チャンバー3bを形成している。また、上記多孔電極板1Cにおいて、電極ホルダ3Aと電極ホルダ3Aとによって囲まれていない表面、つまり下表面及び側表面は接液面1kである。このような多孔電極板1Cの接液面1kは、複数の貫通孔1jを介して気体チャンバー3bに連通している。
【0047】
また、上記多孔電極板1Cにおける接液面1kは親液性に表面処理されており、また各貫通孔1jの壁面には疎液性の被膜である疎液膜1mが設けられている。すなわち、多孔電極板1Cにおいて、接液面1kと疎液膜1mとの間には、電解液8に対する接触角について上述した関係式(1)が成立している。また、貫通孔1jの孔径(直径)は、上述した第1実施形態の多孔電極板1と同様に、貫通孔1jの入口における電解液8の圧力がヤング・ラプラス圧力ΔPを超えない孔径、つまり電解液8が内部に浸入できない孔径(例えば500μmm以下)に設定されている。
【0048】
電極ホルダ3Aは、窪み部が形成された箱型の非導電性部材である。電極カバー5Aは、図示するように平板(窓有り)の非導電性部材である。電極カバー5Aは、両端近傍に各々設けられた締結ネジ6が設けられている。このような電極ホルダ3Aと電極カバー5Aとは、電極カバー5Aが締結ネジ6によって電極ホルダ3Aに固定されることによって、多孔電極板1Cの上部を挟持する。
【0049】
このように構成された電極ユニットA2は、図6に示すように、電解槽7内に貯留された電解液8に一対として浸漬され、かつ電源9に接続されて電気分解に供される。電源9の正極端子に接続される電極ユニットA2は陽極電極ユニットA2pであり、電源9の負極端子に接続される電極ユニットA2は陰極電極ユニットA2mであり、図示するようにお互いの多孔電極板1Cが並行状態で対峙するように電解液8に浸漬される。
【0050】
このような電気分解装置B2を用いて上記溶融塩の電解液8を電気分解すると、当該電解液8と接触する陽極電極ユニットA2pの多孔電極板1Cの接液面1kでは反応(2)に基づいてフッ素ガス(F)の気泡が発生し一方、陰極電極ユニットA2mの多孔電極板1Cの接液面1kでは反応式(3)に基づいて水素ガス(H)の気泡が発生する。
【0051】
そして、陽極電極ユニットA2pの多孔電極板1Cでは、接液面1kが親液性、貫通孔1jの疎液膜1mが疎液性、また貫通孔1jの孔径が電解液8が内部に浸入できない孔径に設定されているので、接液面1kで発生したフッ素ガス(F)の気泡は、接液面1kから貫通孔1jに効果的に排除されて貫通孔1jの内部に選択的に侵入し、陽極電極ユニットA2pの気体チャンバー3bに収集される。
【0052】
一方、陰極電極ユニットA2mの多孔電極板1Cでは、接液面1kが親液性、貫通孔1jの疎液膜1mが疎液性、また貫通孔1jの孔径が電解液8が内部に浸入できない孔径に設定されているので、接液面1kで発生した水素ガス(H)の気泡は、接液面1kから貫通孔1jに効果的に排除されて貫通孔1jの内部に選択的に侵入し、陰極電極ユニットA2mの気体チャンバー3bに収集される。したがって、第2実施形態によれば、上述した第1実施形態と全く同様な効果を得ることができる。
【0053】
また、第2実施形態によれば、上述した第1実施形態よりも接液面1kの面積を大きくすることが容易なので、電気分解の分解効率を第1実施形態よりも向上させることが可能であり、この結果として発生ガスの発生効率を第1実施形態よりも向上させることが可能である。
【0054】
〔第3実施形態〕
次に、図7を参照して第3実施形態について説明する。なお、図7では、図2、図4に示した構成要素と同一の構成要素には同一符合を付している。以下では、これら図2、図4と同一の構成要素については、重複するので説明を省略する。
【0055】
第3実施形態に係る電気分解装置B3は、図4に示した陽極電極ユニットA1p及び陰極電極ユニットA1mに代えて、陽極電極A3p及び陰極電極A3mを用いたものである。これら陽極電極A3p及び陰極電極A3mは、図2に示した多孔電極板1の接気面1cを疎液性の接気面1c’とした多孔電極板である。すなわち、本電気分解装置B3における陽極電極A3p及び陰極電極A3mは、接液面1b(第1の面)が親液性であり、また貫通孔1dの疎液膜1eと接気面1c’(第2の面)とが疎液性に設定されたものである。
【0056】
このような電気分解装置B3では、電源9によって正極電圧の電位が陽極電極A3pに印加され、また同じく電源9によって負極電圧の電位が陰極電極A3mに印加される。この結果、最も相対距離が短くなり陽極電極A3pの接液面1bと陰極電極A3mの接液面1bとの間の溶液抵抗が接液面の任意の点において均一となる最も強い電界が発生する。また、陽極電極A3pについて見ると、接液面1bが親液性であり、かつ、接気面1cが疎液性なので、当該疎液性である接気面1cでは上述した反応式(2)に示す電子の授受は発生せず、親液性である接液面1bとフッ素イオン(F)との間で専ら反応式(2)に示す電子の授受が行われ、フッ素ガス(F)が気泡として発生する。
【0057】
このようにして陽極電極A3pの接液面1bで発生したフッ素ガス(F)の気泡は、上述した各電気分解装置B1、B2と同様に、接液面1bが親液性、貫通孔1dの疎液膜1eが疎液性、また貫通孔1dの孔径が電解液8が内部に浸入できない孔径に設定されているので、貫通孔1dを通過して接気面1c’に移動し、浮力によって電解液8中を上昇して回収される。
【0058】
ここで、上述した陽極電極A3p及び陰極電極A3mに代えて、図3(b)に示した多孔電極板1Bの貫通孔1hのように、接液面1bから接気面1c’に向かって内径が徐々に大きくなるようにした場合、接液面1bで発生したフッ素ガス(F)の気泡あるいは水素ガス(H)の気泡は、電解液8の表面張力によって内径がより大きい方に移動する力が作用するので、接液面1bからのフッ素ガス(F)の除去がより促進される。
【0059】
一方、陰極電極A3mについて見ると、接液面1bが親液性であり、接気面1cが疎液性なので、当該疎液性である接気面1cでは上述した反応式(3)に示す反応は発生せず、親液性である接液面1bと水素イオン(H)との間で専ら反応式(3)に示す電子の授受が行われて水素ガス(H)が気泡として発生する。そして、この水素ガス(H)の気泡は、接液面1bが親液性、貫通孔1dの疎液膜1eが疎液性、また貫通孔1dの孔径が電解液8が内部に浸入できない孔径に設定されているので、貫通孔1dを通過して接気面1c’に移動し、浮力によって電解液8中を上昇して回収される。
【0060】
このような第3実施形態によっても、上述した第1、第2実施形態と同様な効果を得ることができる。また、この第3実施形態によれば、陽極電極A3p及び陰極電極A3mの構成が極めて単純なので、装置の低コスト化を実現することができる。
【0061】
なお、本発明は、上記各実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記第1実施形態では、接液面1bを親液性としたが、本願発明はこれに限定されない。接液面1bを親液性とすることなく、つまり親液性でも疎液性でもない状態として貫通孔1dの壁面を疎液性とすることによっても、本願発明の目的を達成することが可能である。
(2)上記各実施形態では、電極ユニットA1あるいは電極ユニットA2を陽極と陰極の両方に採用したが、本発明はこれに限定されない。陰極については、従来の電極を採用しても良い。
【0062】
(3)上記各実施形態では、第1電極ユニットA1pの多孔電極板1(金属板1a)の材料としてニッケル(Ni)を選定したが、本願発明はこれに限定されない。ニッケル(Ni)に代えて以下の材料を用いても良い。すなわち、金属電極としては、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pb)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、タングステン(W)の単体、またはこれらを主成分とする合金もしくはニッケル(Ni)−銅(Cu)合金、ニッケル(Ni)−クロム(Cr)−鉄(Fe)合金、ニッケル(Ni)−モリブデン(Mo)合金、ニッケル(Ni)−クロム(Cr)−モリブデン(Mo)合金、等々を用いても良い。
【0063】
また、炭素電極としては、グラッシーカーボン、パイロリティックグラファイト、ベーサルプレインパイロリティックグラファイト、カーボンペースト、HOPG(Highly Oriented Pyrolytic Graphite)、炭素繊維、導電性ダイヤモンド、BDD(Boron Doped Diamond)、導電性DLC(Diamond Like Carbon)電極等を用いてもよい。また、透明電極として、Nesa(アンチモン(Sb)をドープした酸化錫(SnO))、Nesatoron(錫(Sn)をドープした酸化インジウム(In))等を用いても良い。酸化物電極としては、酸化チタン(TiO)、酸化マンガン(MnO),二酸化鉛(PbO)、ペロブスカイト酸化物、ブロンズ酸化物等を用いても良い。
【0064】
また、半導体電極としては、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、酸化亜鉛(ZnO)、硫化カドニウム(CdS)、ガリウムヒ素(GaAs)、酸化チタン(TiO)等を用いても良い。また、高分子固体電解質電極を用いても良い。さらには、陽極電極と陰極電極との組み合わせとして、上述した各材料単一あるいは2つ以上の材料の組み合わせを採用しても良い。
【0065】
(3)第3実施形態では、図2あるいは図3(b)に示した多孔電極板1、1Bの接気面1cを疎液性の接気面1c’としたものを陽極電極A3pあるいは陰極電極A3mとしたが、本発明はこれに限定されない。図3(a)に示した多孔電極板1Bの接気面1cを疎液性の接気面としたもの、または図5に示した多孔電極板1Cの一面を疎液性の面としたものを用いても良い。
【符号の説明】
【0066】
A1、A2…電極ユニット、A1p、A2p…陽極電極ユニット、A1m、A2m…陰極電極ユニット、A3p…陽極電極、A3m…陰極電極、B1〜B3…電気分解装置、1…多孔電極板、1a…導体板、1b…接液面、1c…接気面、1d…貫通孔、1e…疎液膜、2…導線、3…電極ホルダ、4…気体導管、5…電極カバー、6…締結ネジ、7…電解槽、8…電解液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の電解液の電気分解に供される電気分解電極であって、
電解液に浸漬される接液面と、
気体流路を形成する接気面と、
接液面と接気面とを連通させ、壁面が電解液に対して疎液性、かつ、孔径が発生ガスを電解液に対して選択的に通過させる大きさに設定された複数の貫通孔と
を備えることを特徴とする電気分解電極。
【請求項2】
接液面は親液性であることを特徴とする請求項1記載の電気分解電極。
【請求項3】
相互に連結した複数の貫通孔を有する発泡体、シングルポアモノリス型構造体、ダブルポアモノリス型構造体、粉末焼結体あるいは繊維焼結体の一面を接液面としてなることを特徴とする請求項1または2記載の電気分解電極。
【請求項4】
電気分解に供される電気分解電極であって、
電解液に対して親液性である第1面と、
電解液に対して疎液性である第2面と、
第1面と第2面とを連通させ、壁面が電解液に対して疎液性である複数の貫通孔と
を備えることを特徴とする電気分解電極。
【請求項5】
陽極電極あるいは陰極電極の何れか一方あるいは両方が前記請求項1〜4のいずれか一項に記載の電気分解電極からなることを特徴とする電気分解装置。
【請求項6】
電解液がフッ素化合物を溶融塩とするものであり、陽極電極でフッ素ガスを発生させることを特徴とする請求項5記載の電気分解装置。
【請求項7】
陽極電極に及び陰極電極に所定の電位を供給することにより所定の電解液を電気分解する電気分解方法であって、
陽極電極あるいは陰極電極の何れか一方あるいは両方に、電解液に浸漬される接液面と、気体流路を形成する接気面と、接液面と接気面とを連通させ、壁面が電解液に対して疎液性、かつ、孔径が発生ガスを電解液に対して選択的に通過させる大きさに設定された複数の貫通孔と、を有するものを用いることを特徴とする電気分解方法。
【請求項8】
接気面を親液性とすることを特徴とする請求項7記載の電気分解方法。
【請求項9】
貫通孔は、相互に連結して接液面と接気面とを連通させることを特徴とする請求項7または8記載の電気分解方法。
【請求項10】
陽極電極に及び陰極電極に所定の電位を供給することにより所定の電解液を電気分解する電気分解方法であって、
陽極電極あるいは陰極電極の何れか一方あるいは両方に、電解液に対して親液性である第1面と、電解液に対して疎液性である第2面と、第1面と第2面とを連通させ、壁面が電解液に対して疎液性である複数の貫通孔と、を有するものを用いることを特徴とする電気分解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−38144(P2011−38144A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185784(P2009−185784)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】