説明

電気化学セル

【課題】 振動が多い場所で使用される電気化学セルであっても、参照電極が電解液から隔離されることを防止し、かつ、電気化学セルの状態を明確に検知可能とする。
【解決手段】二次電池10は、導体製のケース28、発電要素20、電解液26、および、保護シート36を備える。発電要素20はケース28に収容される。電解液26もケース28に収容される。保護シート36は発電要素20および電解液26と共にケース28に収容される。保護シート36は発電要素20を包む。二次電池10は、参照電極34をさらに備える。参照電極34はケース28に収容される。参照電極34はケース28と導通している。保護シート36がイオン通過部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、二次電池を開示する。この二次電池は、正極,負極、それらの間に存在するセパレータ、少なくとも正極と負極およびセパレータに含まれて存在する電解液、ならびに、それらを収納する電池容器を具備する。この二次電池は、参照電極をさらに有する。この参照電極は、電池容器の内面でその容器と一体化している。
【0003】
特許文献1に開示された二次電池によれば、密閉型電池などにおいて、参照電極が電解液から隔離されることを防止し、かつ、二次電池の状態を明確に検知できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−290817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された発明には、振動が少ない場所で使用される電気化学セルには適用できても、振動が多い場所で使用される電気化学セルには適用し難いという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題点を解消するためになされたものであり、その目的とするところは、振動が多い場所で使用される電気化学セルであっても、参照電極が電解液から隔離されることを防止でき、かつ、電気化学セルの状態を明確に検知できる、電気化学セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
図面を参照して本発明の電気化学セルを説明する。なお、この欄で図中の符号を使用したのは、発明の内容の理解を助けるためであって、内容を図示した範囲に限定する意図ではない。
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1にかかる発明は、導体製のケース28、発電要素20、電解液26、および、保護シート36を備える電気化学セル10にかかるものである。この発明において、発電要素20はケース28に収容される。電解液26もケース28に収容される。保護シート36はケース28と発電要素20との間に配置される。電気化学セル10は、参照電極34をさらに備える。参照電極34はケース28に収容される。参照電極34はケース28と導通している。保護シート36がイオン通過部を有する。
【0009】
請求項2にかかる発明は、請求項1にかかる発明において、上述したイオン通過部が孔あき領域70を有するものである。
【0010】
請求項3にかかる発明は、請求項2にかかる発明において、上述した孔あき領域70に複数の孔80が設けられているものである。それらの複数の孔80は参照電極34へ対向する。
【0011】
請求項4にかかる発明は、請求項1にかかる発明において、上述した参照電極34のいずれかの部分がケース28のうち保護シート36よりも底面側の領域に配置されているものである。そして、イオン通過部は、参照電極34のうち保護シート36よりも底面側の領域に配置されている部分に対向する。
【0012】
請求項5にかかる発明は、請求項4にかかる発明において、上述した底面側の領域がケース28の底面を含むものである。そして、参照電極34のうち保護シート36よりも底面側の領域に配置されている部分が板状部分を有している。参照電極34の板状部分が底面に貼付けられている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1にかかる発明によれば、電気化学セル10は保護シート36を備える。保護シート36はケース28と発電要素20との間に配置される。保護シート36が備えられているので、振動が多い場所で使用されたとしても、発電要素20が導体製のケース28に接触してショートが生じるといった不都合の心配はない。その保護シート36はイオン通過部を有する。イオン通過部は、電解液26中のイオンが発電要素20と参照電極34との間を行き来する部分である。保護シート36がイオン通過部を有するので、電解液26中のイオンが保護シート36を通過する。一方、参照電極34はケース28に収容される。参照電極34はケース28と導通している。これにより、電解液26中のイオンはイオン通過部を経て発電要素20と参照電極34との間を行き来できることとなる。電解液26中のイオンがイオン通過部を経て発電要素20と参照電極34との間を行き来できるので、保護シート36が障壁となって参照電極34が電解液26から隔離される恐れは少なくなる。その結果、振動が多い場所で使用される電気化学セルであっても、参照電極34が電解液26から隔離されることを防止でき、かつ、電気化学セル10の状態を明確に検知できる。
【0014】
請求項2にかかる発明によれば、電解液26中のイオンが孔あき領域70を通過することとなる。孔あき領域70を設けることにより電解液26中のイオンが保護シート36を通過できるようにすることは、その他の構造によって電解液26中のイオンが保護シート36を通過できるようにすることに比べ、容易に実現できることである。その結果、参照電極34が電解液26から隔離されることを容易に防止でき、かつ、電気化学セル10の状態を明確に検知できる。
【0015】
請求項3にかかる発明によれば、孔あき領域70には複数の孔80が設けられる。それらの孔80は参照電極34に対向する。一方、上述したとおり、保護シート36はケース28と発電要素20との間に配置される。これにより、発電要素20と参照電極34とが複数の孔80を介して対向することになる。その結果、孔80が参照電極34に対向していない場合に比べて電解液26中のイオンが行き来する経路の平均距離は短くなる。平均距離が短くなるので、その途中にイオンの行き来を遮る障害が発生する可能性は低くなる。障害が発生する可能性が低くなる分、参照電極34が何らかの原因で電解液26から隔離される恐れは低くなる。その結果、参照電極34が何らかの原因で電解液26から隔離される可能性を低くでき、かつ、電気化学セル10の状態を明確に検知できる。
【0016】
請求項4にかかる発明によれば、参照電極34のいずれかの部分がケース28のうち保護シート36よりも底面側の領域に配置されている。多くの場合において、電解液26はケース28の底にたまる。これにより、参照電極34のいずれかの部分が電解液26に浸る可能性は、ケース28のうち保護シート36よりも天板側の領域に参照電極34全体が配置されている場合に比べて、高くなる。参照電極34のいずれかの部分が電解液26に浸る可能性が高くなるので、参照電極34が何らかの原因で電解液26から隔離される恐れは低くなる。その結果、参照電極34が何らかの原因で電解液26から隔離される可能性を低くでき、かつ、電気化学セル10の状態を明確に検知できる。
【0017】
請求項5にかかる発明によれば、参照電極34の板状部分がケース28の底面に貼付けられている。これにより、参照電極34の板状部分が電解液26に浸る可能性は、ケース28のうち保護シート36よりも天板側の領域に参照電極34全体が配置されている場合に比べて、高くなる。しかもイオン通過部がその板状部分に対向することとなる。参照電極34の板状部分が電解液26に浸っている状態でイオン通過部がその板状部分に対向していると、そうでない場合に比べ、イオンの行き来が安定して行われる可能性が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態にかかる二次電池の斜視図である。
【図2】本発明の実施形態にかかる絶縁袋の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0020】
[構造の説明]
本実施形態にかかる二次電池10は、リチウムイオン二次電池である。二次電池10は、図1に示すように、発電要素20と、正極集電体22と、負極集電体24と、電解液26とを、ケース28内部に収容したものである。
【0021】
発電要素20は、アルミ製の正極箔(図示省略)と銅製の負極箔(図示省略)とそれらの間に設けられる二枚のセパレータ(図示省略)とを渦巻状に巻回したものである。正極箔の端部は、アルミまたはアルミ合金製の正極集電体22に導通接合されている。負極箔の端部は、銅または銅合金製の負極集電体24に導通接合されている。
【0022】
ケース28は、無蓋箱状の本体ケース部50と天板52とをレーザー溶接などによって一体化したものである。ケース28には、アルミ製の正極端子30と銅製の負極端子32とが設けられている。正極端子30と負極端子32とは天板52に取付けられている。正極端子30は正極集電体22に導通接続される。負極端子32は負極集電体24に導通接続される。ちなみに、ケース28の素材は導体である。ケース28の素材として、導体のうち、アルミ合金およびステンレス合金が好ましい。
【0023】
本体ケース部50には、参照電極34も収容されている。図1に示すように、本実施形態の場合、参照電極34は板状である。本実施形態の場合、参照電極34は本体ケース部50の底面に貼付けられている。参照電極34は本体ケース部50に導通している。参照電極34の材質としては、例えば、リチウム金属、リチウム合金、白金、金、炭素材料、または金属酸化物を採用することができる。
【0024】
ケース28には、保護シート36も収容されている。保護シート36は、発電要素20、正極集電体22、および、負極集電体24と共にケース28に収容される。保護シート36はケース28と発電要素20との間に配置されていればよいものであるが、これにとどまらず、本実施形態における保護シート36は、発電要素20、正極集電体22、および、負極集電体24を包むものである。このため、発電要素20と参照電極34との間は、図1に示すように、保護シート36によって仕切られていることとなる。
【0025】
図2に示すように、保護シート36の形状は蓋のない箱状である。保護シート36は例えば薄膜状の合成樹脂で形成されている。保護シート36の素材の例には、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートがある。保護シート36は、前後の大側壁60,60と、左右の小側壁62,62と、底壁64とを備える。
【0026】
保護シート36の底壁64には孔あき領域70が設けられている。これが本実施形態におけるイオン通過部である。したがって、電解液26中のイオンは孔あき領域70を通って発電要素20と参照電極34との間を行き来する。本実施形態における孔あき領域70には、7つの貫通孔80が一列に並ぶよう設けられている。これらの貫通孔80によって、保護シート36の内側と外側とが連通している。また、図1および図2から明らかなように、本実施形態においては、貫通孔80は、参照電極34に対向するように設けられている。なお、貫通孔80の直径は1〜2mm程度が好ましい。貫通孔80の直径が大き過ぎると保護シート36が裂け易くなるためである。保護シート36が裂け易くなるのは、貫通孔80の直径が大き過ぎると保護シート36の強度が低下するためである。
【0027】
なお、発電要素20の具体的な構造、正極集電体22および負極集電体24の具体的な構造、正極端子30および負極端子32の具体的な構造、正極箔の端部と正極集電体22との接合部の具体的な構造、負極箔の端部と負極集電体24との接合部の具体的な構造、正極集電体22と正極端子30との接合部の具体的な構造、ならびに、負極集電体24と負極端子32との接合部の具体的な構造は周知である。したがって、ここではそれらの詳細な説明は繰返さない。
【0028】
[使用方法の説明]
ユーザは、本実施形態にかかる二次電池10が充電と放電とを所定の回数繰返した後(二次電池10が所定の期間放置されていた後であってもよい)にその二次電池10の電位を測定する。測定される電位は、負極端子32に対する正極端子30の電位ではなく、参照電極34に対する正極端子30の電位、および、参照電極34に対する負極端子32の電位である。ユーザは、これらの電位に基づいて、二次電池10の劣化具合を判断する。正極端子30、および、負極端子32のうち少なくとも一方の電位差がほとんどない場合、その電位差がほとんどない方の電極は劣化している。なお、充電された本実施形態にかかる二次電池10の使用方法そのものは周知のリチウムイオン二次電池と同様である。したがって、ここではその詳細な説明は繰返さない。
【0029】
[効果の説明]
以上のようにして、本実施形態にかかる二次電池10は、電極の劣化状況を容易に把握することができる。しかも、本実施形態にかかる二次電池10によれば、正極側が劣化しているのか、負極側が劣化しているのか、容易に判断できる。
【0030】
その上、電解液26中のイオンはイオン通過部を経て発電要素20と参照電極34との間を行き来できる。電解液26中のイオンがイオン通過部を経て発電要素20と参照電極34との間を行き来できるので、保護シート36が障壁となって参照電極34が電解液26から隔離される恐れは少なくなる。その恐れが少なくなるので、参照電極34に対する正極端子30の電位、および、参照電極34に対する負極端子32の電位についての、安定した測定値が得られる。
【0031】
また、本実施形態にかかる二次電池10において、参照電極34は、ケース28の底面に設けられている。多くの場合において、電解液26はケース28の底にたまる。しかも、イオン通過部はその参照電極34と対向するように設けられている。これにより、発電要素20と参照電極34との間を電解液26中のイオンが行き来しやすくなる。イオンが行き来しやすいので、参照電極34に対する正極端子30の電位、および、参照電極34に対する負極端子32の電位についての、安定した測定値が得られる。
【0032】
また、孔あき領域70が本実施形態におけるイオン通過部である。孔あき領域を設けることは、その他の構造のイオン通過部を設けることに比べて容易に実現できる。したがって、本実施形態にかかる二次電池10によれば、容易に安定した測定値が得られることとなる。
【0033】
また、本実施形態にかかる孔あき領域70には参照電極34と対向する複数の貫通孔80が設けられている。これにより、貫通孔80が参照電極34に対向していない場合に比べて電解液26中のイオンが行き来する経路の平均距離は短くなる。平均距離が短くなるので、その途中にイオンの行き来を遮る障害が発生する可能性は低くなる。障害が発生する可能性が低くなる分、発電要素20と参照電極34との間を電解液26中のイオンが行き来しやすくなる。イオンが行き来しやすいので、参照電極34に対する正極端子30の電位、および、参照電極34に対する負極端子32の電位についての、安定した測定値が得られる。なお、ここでいう「平均距離」とは、次の手順を経て算出される値のことである。まず、参照電極34上のある点について、その点から発電要素20上のある点までの、電解液26中のイオンの最短経路の距離を求める。距離が求められたら、参照電極34上の上述した点から発電要素20上の他の点までの、電解液26中のイオンの最短経路の距離を求める。これを繰返すことにより、参照電極34上の上述した点から発電要素20上のあらゆる点までの、イオンの最短経路の距離が求められたことになる。次に、参照電極34上の他の点について、同様にして距離を求める。これを繰返すことにより、参照電極34上の任意の点から発電要素20上の任意の点までのイオンの最短経路の距離が求められることになる。そのようにして距離が求められたら、その距離の和をその最短経路の数で除算する。このようにして算出された値が、上述した平均距離である。
【0034】
[変形例の説明]
今回開示された実施形態はすべての点で例示である。本発明の範囲は上述した実施形態に基づいて制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更をしてもよいのはもちろんである。
【0035】
たとえば、イオン通過部の具体的な構造は、電解液26中のイオンが発電要素20と参照電極34との間を行き来できるものであれば特に限定されない。イオン通過部の位置は、保護シート36の底壁64に限定されない。
【0036】
また、貫通孔80の数、貫通孔80の内径、貫通孔80の分布は特に限定されるものではない。ただし、参照電極34全体にわたり均等に分布することが望ましい。
【0037】
参照電極34の位置は、本体ケース部50の底面に限定されない。ただし、参照電極34は、本体ケース部50のうち保護シート36よりも底面側の領域に配置されることが望ましい。イオン通過部は参照電極34に対向することが望ましい。多くの場合、電解液26は本体ケース部50の底部にたまる。このため、本体ケース部50のうち保護シート36よりも底面側の領域に参照電極34が配置されていると、参照電極34が電解液26に浸りやすいためである。イオン通過部が参照電極34に対向していると、電解液26中のイオンが発電要素20と参照電極34との間を行き来しやすくなる。これらが、本体ケース部50のうち保護シート36よりも底面側の領域に参照電極34が配置されることが望ましく、イオン通過部が参照電極34に対向することが望ましい理由である。
【符号の説明】
【0038】
10…二次電池、
20…発電要素、
22…正極集電体、
24…負極集電体、
26…電解液
28…ケース、
30…正極端子、
32…負極端子、
34…参照電極、
36…保護シート、
50…本体ケース部、
52…天板、
60…大側壁、
62…小側壁、
64…底壁、
70…孔あき領域、
80…貫通孔、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体製のケース、前記ケースに収容される発電要素、前記ケースに収容される電解液、および、前記ケースと前記発電要素との間に配置される保護シートを備える電気化学セルであって、
前記電気化学セルは、前記ケースに収容され前記ケースと導通している参照電極をさらに備えており、
前記保護シートがイオン通過部を有することを特徴とする電気化学セル。
【請求項2】
前記イオン通過部が孔あき領域を有することを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記孔あき領域に、前記参照電極へ対向する複数の孔が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記参照電極のいずれかの部分が前記ケースのうち前記保護シートよりも底面側の領域に配置されており、
前記イオン通過部が、前記参照電極のうち前記保護シートよりも底面側の領域に配置されている部分に対向することを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記底面側の領域が前記ケースの底面を含み、
前記参照電極のうち前記保護シートよりも底面側の領域に配置されている部分が板状部分を有しており、
前記参照電極の前記板状部分が前記底面に貼付けられていることを特徴とする請求項4に記載の電気化学セル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−30302(P2013−30302A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164112(P2011−164112)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】