電気機器の診断装置、診断方法並びに診断装置積載体
【課題】連続運転電気機器の部分放電常時監視を行ない、車両搭載機器である場合にも常時監視する。
【解決手段】電気機器近傍のセンサ出力をスペクトル分析する手段、電動機の負荷検出手段の出力と、スペクトル分析手段の出力を記憶するデータテーブル、データテーブルに記憶されたデータからスペクトル分析手段の特定周波数のスペクトルの大きさに関する複数データと、当該複数データ計測時の複数の負荷のデータから相関係数を求める第1の手段、第1の手段で求めた相関係数の大きさから、着目した特定周波数のスペクトルを、電気機器の環境電磁波スペクトルと部分放電電磁波スペクトルに分類する第2の手段とを備える。
【解決手段】電気機器近傍のセンサ出力をスペクトル分析する手段、電動機の負荷検出手段の出力と、スペクトル分析手段の出力を記憶するデータテーブル、データテーブルに記憶されたデータからスペクトル分析手段の特定周波数のスペクトルの大きさに関する複数データと、当該複数データ計測時の複数の負荷のデータから相関係数を求める第1の手段、第1の手段で求めた相関係数の大きさから、着目した特定周波数のスペクトルを、電気機器の環境電磁波スペクトルと部分放電電磁波スペクトルに分類する第2の手段とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気機器の絶縁部位で発生する部分放電に起因する電磁波を計測し、特に絶縁破壊に至るまえに、前兆現象を早期に検出する電気機器の診断装置、診断方法並びに診断装置積載体に関する。
【背景技術】
【0002】
産業や生活に密着した電動機などの電気機械や、それらの電源である発電、送電、変電設備は現代の社会を支える基盤機器である。これらの電気機器は故障すると社会活動に対する悪影響は甚大であり、高い信頼性が求められる。
【0003】
しかしながら、工業的に作られる機械である以上、製造時の不具合や長時間の使用に伴う性能の劣化は避けられない。電気機器の中で絶縁に関わる部分は破損すると致命的な損傷となるため、この部分の不具合については早期の発見と対策が求められている。
【0004】
電気機器の絶縁の不具合を検出する有効な手段として、絶縁破壊の前兆現象としての部分放電を検出することが行われている。さらに部分放電を検出する手段の一つとして、放電時に発生する電磁波を計測する方法がある。この方法は対象とする電気機器に手を加えることなく、外部のアンテナやセンサにより非接触で信号を計測するので、機器の運転中に簡便に計測できる長所がある。
【0005】
その一方で、アンテナやセンサは通信波や放送波といった環境電磁波を取り込むため、部分放電に起因する電磁波を環境電磁波から分離抽出する技術が求められる。この不具合点の改善に関連して、以下の先行技術文献での提案がある。
【0006】
特許文献1に記載された技術では、機器が設置された地域に許認可された環境電磁波の周波数スペクトルを除外して、残りをその機器から発生する電磁波として評価する方法が提案されている。
【0007】
特許文献2には、対象とする電気機器に部分放電がない時の電磁波を計測して周波数スペクトルを環境電磁波スペクトルとして記憶し、機器の運転時に観測される周波数スペクトルと、記憶しておいた環境電磁波スペクトルを比較して部分放電を検知する方法が記載されている。
【0008】
特許文献3には環境電磁波の周波数スペクトルを検出し、これらのスペクトルが少ない周波数帯域を選定して、部分放電のスペクトルを観測する方法が記載され、また特開特許文献4には周波数帯域の狭いセンサを用いて環境電磁波の小さい周波数帯域を選んで観測する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−201754号公報
【特許文献2】特開2003−43094号公報
【特許文献3】特開平10−210647号公報
【特許文献4】特開2006−329636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上述べたように、電磁波を計測して絶縁破壊の前兆現象としての部分放電を検出する場合に、環境電磁波から分離抽出すべきことに関する多くの技術が提案されているが、それぞれに問題点を有している。
【0011】
例えば、特許文献1に記載された方法では、電気機器が許認可された環境周波数が異なる地域間を移動する車両搭載機器である場合に、所在する地域が変わると変化する環境周波数に対する配慮がなされていない。
【0012】
特許文献2に記載された方法では、電気機器の運転を停止して環境電磁波スペクトルを計測しなければならず、連続して運転する電気機器に採用することは難しい。特に、車両搭載機器である場合には、計測のために車両を初期計測場所に移動する必要があり、かつ計測の間車両が使用できない。その上、次回の計測機会までの間は、電気機器の絶縁機能の状態の計測が行なえない。
【0013】
特許文献3と特許文献4に記載された方法では、これらはいずれも電気機器からの部分放電が無いか、小さい状態で計測して環境電磁波のスペクトルを識別しなければならず、連続して運転する電気機器に採用することは難しい。
【0014】
さらに上記したこれらの技術では違法無線等の一時的な電磁波を分離識別することができない。
【0015】
以上のことから本発明においては、連続運転を行なう電気機器であっても部分放電状態の常時監視を行なうことを可能とし、特に電気機器が車両搭載機器である場合にも常時監視することのできる電気機器の診断装置、診断方法並びに診断装置積載体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の電気機器の診断装置では、電気機器近傍に設置されたセンサ、センサ出力をスペクトル分析する手段、電動機の負荷検出手段、負荷検出手段の出力と、スペクトル分析手段の出力を記憶するデータテーブル、データテーブルに記憶されたデータからスペクトル分析手段の特定周波数のスペクトルに着目して、この着目したスペクトルの大きさに関する複数データと、当該複数データ計測時の複数の負荷のデータから相関係数を求める第1の手段、第1の手段で求めた相関係数の大きさから、着目した特定周波数のスペクトルを、電気機器の環境電磁波スペクトルと部分放電電磁波スペクトルに分類する第2の手段とを備える。
【0017】
また、データテーブルに記憶されたデータについて着目した特定周波数のスペクトルを逐次変更して、第1の手段と、第2の手段を繰り返し実行せしめる第3の手段を付加し、電気機器の部分放電電磁波成分を求めるのがよい。
【0018】
また、電気機器と、その診断装置が、移動体に積載されているのがよい。
【0019】
また、電気機器と、その診断装置が、回転体に積載されているのがよい。
【0020】
また、第1の手段で求めた相関係数の大きさが、1に近いものを部分放電電磁波スペクトルと判定し、0に近いものを環境電磁波スペクトルと判定するのがよい。
【0021】
また、移動体位置の検出手段と、移動体位置における地域別の許認可電磁波周波数を記憶する記憶手段と、移動体位置の検出手段の出力に応じて、当該位置における記憶手段の電磁波周波数をスペクトル分析手段の出力から差し引いて、データテーブルに記憶するのがよい。
【0022】
本発明の電気機器の診断方法では、電気機器の周囲で計測される電磁波をスペクトル分析したデータと、電気機器の負荷を取り込み、スペクトル分析したデータのうち特定のスペクトルの複数データについて、電気機器の負荷と比較し、電気機器の負荷の変動に対応して大きさが変動する特定スペクトルを電気機器の部分放電による電磁波成分と判定し、負荷変動に依存しないスペクトル成分を環境電磁波と判定する。
【0023】
また、地域別の許認可電磁波周波数情報を備え、当該地域に位置するときに当該許認可電磁波周波数をスペクトル分析したデータから除外してから、特定のスペクトルの複数データについて、電気機器の負荷と比較するのがよい。
【0024】
本発明の電気機器の診断装置積載体では、電気機器、電気機器近傍に設置されたセンサ、センサ出力をスペクトル分析する手段、電動機の負荷検出手段、負荷検出手段の出力と、スペクトル分析手段の出力を記憶するデータテーブルと、データテーブルに記憶されたデータからスペクトル分析手段の特定周波数のスペクトルに着目して、このスペクトルの大きさに関する複数データと、複数の負荷のデータから相関係数を求める第1の手段と、第1の手段で求めた相関係数の大きさから、着目した特定周波数のスペクトルを、環境電磁波スペクトルと電気機器の部分放電電磁波スペクトルに分類する第2の手段とを備える電気機器の診断装置を搭載した。
【0025】
また、積載体は、移動体であるのがよい。
【0026】
また、積載体は、回転体であるのがよい。
【0027】
また、移動体位置の検出手段と、移動体位置における地域別の許認可電磁波周波数を記憶する記憶手段と、移動体位置の検出手段の出力に応じて、当該位置における記憶手段の電磁波周波数をスペクトル分析手段の出力から差し引いて、データテーブルに記憶するのがよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、電気機械の運転を止めることなく、電気機械の部分放電に起因する電磁波を、環境電磁波から分離識別することができる。この結果、電気機器から発生する部分放電情報を常に把握できるので、電気機器の絶縁機能の状態変化を遅滞なく認識することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の電磁波スペクトルの識別方法を示すフロー図である。
【図2】本発明の電気機器の部分放電検出方法で使用する全体装置構成を示す図である。
【図3】本発明の一実施例のデータ処理過程を示す機能ブロック図である。
【図4】電磁波スペクトルの、電気機器の負荷に対する特性の一例を示す特性図である。
【図5】計測した電磁波スペクトルデータ、環境電磁波スペクトルデータ、部分放電スペクトルデータの関係を示す図である。
【図6】部分放電電磁波のときの電磁波スペクトルレベルの負荷に対する特性の一例を示す図である。
【図7】環境電磁波のときの電磁波周波数スペクトルレベルの負荷に対する特性の一例を示す図である。
【図8】負荷が時間とともに変動するときの電磁波周波数スペクトルレベルの時間変動から電磁波を区別することを説明するための図である。
【図9】移動体と環境電磁波発信基地との関係を示す概念図である。
【図10】移動体の位置に対する電磁波周波数スペクトルレベルの特性図である。
【図11】方位可動体と環境電磁波発信基地との関係を示す概念図である。
【図12】機器の方位に対する電磁波周波数スペクトルレベルの特性図である。
【図13】機器の所在地情報から環境電磁波周波数スペクトル情報を取得し、部分放電スペクトルを分離識別する方法を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例】
【0031】
まず、図2に本発明の電気機器の診断装置の全体装置構成を示す。ここでは、計測対象の電気機器1の近傍に電磁波センサ11を配置して、計測した電磁波信号をスペクトル計測器12を介して信号処理装置13に取込む。
【0032】
電磁波センサ11としては、電磁波アンテナ、電界プローブ、磁界プローブなどを用いることができる。計測器12としては、スペクトルアナライザ、周波数分析機能を有する電気信号収集装置、フィルタ装置などを用い、必要に応じて増幅機やAD変換器などを含むのがよい。
【0033】
電気機器1には連携装置2が接続され、接続電力線3を通して電気機器1との間で電気エネルギーを入出力する。電気機器1が電動機等の場合には連携装置2は電源であり、電気機器1が発電機等の場合には連携装置2は負荷である。以下、本明細書においては電気機器1に入出力する電力を負荷と呼ぶことにする。この負荷情報を信号処理装置13に取込む。
【0034】
信号処理装置13に実際に取込まれる電磁波信号には多くのスペクトルが含まれるが、本発明の原理説明の都合上、ここでは電磁波信号にAとBの2つのスペクトルを含む簡便な事例について説明する。なお、図2において、信号処理装置13の枠内左のスペクトルは、電気機器1の負荷が小さい場合のスペクトルであり、枠内右のスペクトルは、電気機器1の負荷が大きい場合のスペクトルである。
【0035】
この事例からは、スペクトルAは電気機器1の負荷が大きい時も小さい時もレベルはほぼ同じであり、スペクトルBは電気機器1の負荷が小さいときにはレベルが小さく、負荷が大きい時にはレベルが大きいということが読み取れる。このとき、スペクトルAは通信波や放送波などの外部環境からの電磁波(つまり環境電磁波)、スペクトルBは電気機器1の部分放電に起因する電磁波であると判定することができる。
【0036】
図3に、本発明におけるデータ処理の一例として、以下ではデータをデジタル処理する場合の一例を説明する。センサ11からは電磁波に対応した電圧の時間波形が出力され、計測器12に送られる。スペクトル計測器12ではA/D変換器121でデジタル変換後、例えば高速フーリエ変換のような時間周波数変換ルーチン122で周波数−レベル特性信号100に変換して信号処理装置13に取込む。ここで、信号処理装置13に取込まれた信号100は、図2の信号処理装置13の枠内に示した横軸が周波数、縦軸がレべルで表された信号である。
【0037】
一方、そのほかに、機器の負荷情報を、デジタル値信号101として信号処理装置13に取込む。この他に電気機器あるいは電気機器を搭載した設備の所在地情報102や方位情報103を参考情報として、併せて記載してある。
【0038】
そして信号処理装置13の内部のメモリ131に、計測時刻、負荷、周波数、レベル、必要に応じて所在地、方位情報を、互いに関連付けて、順次蓄積していく。メモリ131に蓄積したデータは、適時に、演算部132により必要なデータを抽出し、スペクトルレベルの負荷特性などとして分析する。
【0039】
この分析形態の一例としては、周波数iのスペクトルレベルの負荷に対する相関係数を求める方法があり、予め電気機器1の絶縁材料あるいは絶縁構成などに応じて定めた閾値との関係で、環境電磁波スペクトルか、あるいは部分放電の電磁波のスペクトルと判定する。以下、この判定について、電磁波信号レベルの一例について、図4により詳しく説明する。
【0040】
図4は、横軸に電気機器1の負荷をとり、縦軸に電磁波信号のレベルを示した図であり、この座標の上に前記の図2で説明したスペクトルAとBを表示している。まず、スペクトルAは電気機器1の負荷に依らずほぼ一定のスペクトルレベルのものであったことから、これは横軸に平行な線で表記することができ、電気機器とは無関係の環境電磁波と判断することができる。
【0041】
他方、図2で説明したスペクトルBは、負荷の大きさによって変化するスペクトルレベルのものであったが、負荷に対する変化の仕方としては、負荷に比例的に増加するタイプ(スペクトルB1)、負荷の増加に伴い飽和するタイプ(スペクトルB2)、負荷の減少に伴い飽和するタイプ(スペクトルB3)などが考えられる。いずれにせよ、これらの変化型スペクトルB1、B2、B3は、電気機器の負荷の増減に依存してレベルが変動するので、機器の部分放電の電磁波と判断することができる。
【0042】
なお、部分放電に伴う電磁波のレベルの負荷特性は、絶縁材料や絶縁構造、さらには温度や湿度の影響により様々な特性をとる。図4には3種類の特性を例示しているが、さらに負荷の増減に対してヒステリシス特性を示す場合もある。
【0043】
次に、信号処理装置13に送られたスペクトル情報と負荷情報を基に、機器の部分放電に基づく電磁波を環境電磁波から分離する方法の具体的な一例を図5により説明する。
【0044】
図5は、図3のスペクトル計測器12内の時間周波数変換ルーチン122から得られた周波数−レベル特性信号100を、メモリ131に蓄積したスペクトルデータであり、いずれも横軸に周波数、縦軸にレベルを記載している。このスペクトルデータのうち、スペクトルデータ1は、大負荷時に計測されたスペクトルデータ、スペクトルデータ2は、小負荷時に計測されたスペクトルデータである。従って、言うまでもないことであるが、これら二つのスペクトルデータ1と2は、負荷の大きさが相違する異なる計測時刻でのスペクトルデータを、メモリ131の中から抽出して得られたスペクトルデータである。
【0045】
これら二つのスペクトルデータ1と2には、スペクトルa、b、c、…jのスペクトルが観測されている。両者のスペクトルは、スペクトル位置(周波数)としては、同じ周波数で観測されているが、そのレベルは同じもの、相違するものがある。具体的には、スペクトルb、c、f、h、jは負荷の大小に依存してレベルが変化しているのに対して、スペクトルa、d、e、g、iは負荷によらずほぼ一定のレベルである。
【0046】
以上のことから、負荷によらずほぼ一定のレベルを保つスペクトルa、d、e、g、iは、電気機器1に依存しない環境電磁波であると判定することができ、これらのスペクトルa、d、e、g、iのみを抽出したスペクトルデータ3を、環境電磁波スペクトルとして、得ることができる。
【0047】
また、スペクトルデータ1と2から、環境電磁波のみのスペクトルデータ3をそれぞれ差し引くことで、大負荷時の部分放電に起因するスペクトルデータ4と、小負荷時の部分放電に起因するスペクトルデータ5とを得ることができる。スペクトルデータ4とスペクトルデータ5では、スペクトル位置(周波数)は同じであるが、レベルが相違している。
【0048】
ここで、スペクトルデータ3の環境電磁波とは、主にテレビ等の放送波および携帯電話や各種無線等の通信波であり、予め周波数が割当てられている。一方、電気機器の部分放電に伴う電磁波の周波数は主に機器の構造、寸法、材料で決まる静電容量やインダクタンス、および放射アンテナとして機能するケーブルの長さや引回し経路周辺の構造で決まる。
【0049】
以上、図5では負荷の大きさが相違する異なる計測時点での二つのスペクトルデータから、環境電磁波のスペクトルと部分放電の電磁波のスペクトルを分離する手法について説明したが、次に、環境電磁波のスペクトルと、部分放電の電磁波のスペクトルを定量的に識別する方法を図6と図7により説明する。
【0050】
図6と、図7は、横軸に負荷率、縦軸にスペクトルレベル相対値を示している。このグラフを作成するために、図3のメモリ131に蓄積されたデータの中から、特定のスペクトル(特定の周波数成分)のみを複数個(100個程度)抽出する。例えば、図6は、図5のスペクトルbを100個、メモリ131から取り出して作成したものであり、図7は、図5のスペクトルaを100個、メモリ131から取り出して作成したものである。従って、それぞれ100個の、個々のスペクトルaとbは、一般には計測時刻が相違し、かつ負荷の大きさも相違するスペクトルの集合である。
【0051】
図6と、図7は、取り出したスペクトルのいずれかを基準値(相対値の大きさを1に定める)とし、全てのスペクトルを基準値との相対値として、横軸の負荷と縦軸のレベルのグラフ上にプロットしたものである。プロットされた各点は、図6の△、図7の○で表記されている。さらに、プロットされた各点が示す方向(傾向)を近似線で表すと、図6ではMbのように、右肩上がりの傾向のあることが見えてくる。同様に、図7ではMaのように、負荷に左右されないという傾向のあることがわかる。
【0052】
この傾向を数値として把握する統計的手法として、良く知られた相関係数を利用する。具体的に、この図6の特性例について負荷率とスペクトルレベルについての相関係数を求めると図中にRで記したように0.85が得られた。一方、環境電磁波のスペクトル、例えば図5のスペクトルaについて同様に機器の負荷率に対する特性を見ると図7のようになり、この例の相関係数は0.07であった。このように相関係数を判定指標として環境電磁波と部分放電による電磁波を識別することができる。
【0053】
なお、相関係数としては、ピアソンの積率相関係数を利用することができる。この係数は原則、単位は無く、-1から1 の間の実数値をとり、1に近いときは2つの確率変数には正の相関があるといい、-1 に近ければ負の相関があるという。0 に近いときはもとの確率変数の相関は弱いことになる。図6の事例では、相関係数が1に近い0.85という数値であることから、正の相関があり、図7の事例では、相関係数が0に近い0.07という数値であることから、相関が弱いということになる。
【0054】
このようにして相関係数を求めるわけであるが、算出されたこの係数をもって環境電磁波と判断するのか、部分放電の電磁波と判断するのかを識別するためには、相関係数による判定の閾値として、1つあるいは2つの値を設定するのが適当である。例えば閾値をαとして、α以上を部分放電による電磁波、α未満を部分放電に起因する電磁波ではない、と判定する方法がある。また、閾値をαとβの2つの値(β<α)に設定し、α以上を部分放電による電磁波、β未満を環境電磁波、α未満β以上は部分放電でも環境電磁波でもない、と判定する方法がある。ここで閾値αとβは電気機器毎に予め決めておくことになる。
【0055】
以上に述べた部分放電電磁波と環境電磁波の識別方法の流れを図1にまとめて示す。この処理フローは、2つのルーチンから構成され、その1つは、図3の装置構成に対比して説明すると、スペクトル計測器12あるいはメモリー131の記憶処理に相当する準備段階であるデータ取得ルーチンである。2つめは、後段の演算部132内の判定ルーチンである。
【0056】
データ取得ルーチンでは、まずステップS100において、センサ11からの電磁波を一定間隔で取得し、ステップS101においてスペクトル分析し、ステップS103においてデータテーブルに格納する。また、ステップS102においてスペクトル取得と同期して電気機器の負荷情報も取り込む。これら一連の処理は、終了指令がされるまで、繰り返し実行される。
【0057】
ステップS103においてデータテーブルにある程度のデータが集積された時点で、後段の判定ルーチンが起動される。判定ルーチンでは、まずステップS104において図5に例示したように複数存在するスペクトルの中から判定対象とするスペクトルのデータ、ここではi番目のデータを選択、読み込む。つまり、例えば最初にi番目のデータとして、特定周波数のスペクトルとして「a」に着目し、ステップS103のデータテーブルから、スペクトルaに関するデータを例えば100個選択する。以降のステップS104からステップS110までの処理は、このスペクトルaに関するデータをもとにして遂行される。
【0058】
次に、ステップS105において、図6あるいは図7に例示したように負荷特性を分析する。つまり、概念的には横軸を負荷率とし、縦軸を相対値でのスペクトルレベルとするときに、先の100個のスペクトルaに関するデータをこの座標上にプロットする処理を実行する。
【0059】
ステップS106では、例えばピアソンの積率相関係数を利用して相関係数Rを算出する。また、ステップS107からステップS110において、求められた相関係数Rからスペクトルaが、環境電磁波か、部分放電の電磁波かを判断する。この識別のために、判定閾値αと判定閾値βが予め保有(β<α)されている。なお、判定閾値αと判定閾値βは、電気機器ごとに設定されるが、通常はそれぞれ、0.7と0.3程度の値である。
【0060】
この判定は、まずステップS107において、相関係数Rを電気機器毎に予め定めた判定閾値αと比較し、閾値αより大きければ、この電磁波スペクトルは部分放電に起因する電磁波スペクトルであると判定(ステップS109)する。小さい場合には、ステップS108において、相関係数Rを予め定めた他の判定閾値βと比較し、閾値βよりも小さければこれは環境電磁波スペクトルであると判定(ステップS110)する。なお、スペクトルデータによっては部分放電スペクトルとも環境スペクトルとも判別できない場合もあり得る。
【0061】
最後に、一つのスペクトルaについての判定が終了したら、ステップS111において、次に判定するべきスペクトルに進んでさらに判定ルーチンを繰り返す。例えば、次には図5のスペクトルbを選択して、同様の処理を繰り返す。この結果として、最終的には図5の最後のスペクトルjまでが環境電磁波か、部分放電の電磁波かを判断される。なお、全てのスペクトルについて連続的に判定する場合にはn=1である。
【0062】
このようにして、各スペクトルごとに、このスペクトルが環境電磁波か、部分放電の電磁波かを区分されるので、最終的には図5の環境電磁波のスペクトルデータ3、大負荷時部分放電電磁波のスペクトルデータ4、小負荷時部分放電電磁波のスペクトルデータ5として把握することができる。
【0063】
本発明は、図1の手法により環境電磁波か、部分放電の電磁波かを区分することができるが、この場合に時間要素の影響について図8を参照して説明する。ここでは、電気機器の負荷が時間とともに変動するときの環境電磁波、部分放電の電磁波の各スペクトルの時間応動結果を示している。
【0064】
横軸に時間、縦軸に負荷あるいは電磁波レベルを示す図8の事例によれば、負荷は、時間経過に伴い増加、減少後再度増加する。この時、図4のBに示した部分放電電磁波のスペクトルは、負荷の増減に応じて増減する特性を有するので、
負荷の時間変化とともに、レベルが同方向に変動するスペクトルSP1は部分放電で生じる電磁波と判定することができる。また図4のAで示した環境電磁波は、負荷の増減に影響されない特性を有するので、負荷が変わってもほぼ一定のスペクトルSP2は、放送波や通信波の環境電磁波である。
【0065】
なお、時間経過と共に変動するスペクトルとしては、負荷の変動とは相間がないスペクトルSP3があり得る。これは例えば移動体から発信される違法電磁波や、対象とする電気機器とは異なる、近辺で運転される機器から発生する電磁波である。
【0066】
本発明の図1の実施例では、ステップS106において相関係数を求めているが、スペクトルSP1は、判定閾値αよりも大きいとされたものであり、スペクトルSP2は判定閾値βよりも小さいとされたものである。しからば、スペクトルSP3はどうかというと、これも結局は電気機器の負荷変動との相間が小さいことから、判定閾値βよりも小さいと判断される。図8の結果は、本発明装置の評価結果が、時間要素の影響を受けないことを意味している。
【0067】
なお、一時的電磁波の中には例えば上空を通過する航空機、近くを走行する列車の無線、パトカー等の無線なども含まれる。これらはその地域で使用することが認められた合法的な電磁波であり、本発明の後の実施例で識別手法について説明するが、電気機器の所在地情報を基にした識別により、電気機器の部分放電に伴う電磁波ではないと判断できる。
【0068】
次に、本発明装置を移動体に積載して使用する場合に、移動体位置が、本発明装置の評価結果に及ぼす影響について検討する。
【0069】
図9に示す使用状態においては、電気機器1は移動体25に搭載されている。このため、電気機器から生じる電磁波以外に、移動に伴う各種の環境電磁波の影響を受ける。この事例では、列車や自動車等の移動体25に搭載された電気機器1から発生する電磁波を、移動体に搭載されたセンサ11とスペクトル計測器12を用いて計測するわけであるが、このときにセンサ11で感知してしまう環境電磁波発信基地22から発信される電磁波と識別する必要がある。なお、この図で、25は移動体積載機器を示している。
【0070】
図10に、移動体25の所在位置に対する電気機器1の負荷と、移動体25に搭載されたセンサ11で計測される電磁波レベルの関係を示す。電気機器1の部分放電スペクトルSP1のレベルは負荷とともに変動するのに対して、発信基地22から放射される環境電磁波のレベルSP2は機器の負荷とは無関係に、移動体が発信基地22の直近を通過する時をピークに前後は低下する特性となる。この特性の相違から環境電磁波のスペクトルと部分放電に起因する電磁波のスペクトルを分離することができる。
【0071】
本発明の図1の実施例では、ステップS106において相関係数を求めているが、スペクトルSP1は、判定閾値αよりも大きいとされるが、スペクトルSP2は、負荷との相関が低いために、判定閾値βよりも小さいとされ、結果的には位置の移動に伴い、スペクトルSP1の抽出に悪影響を与えることはない。このため、本発明装置を移動体に積載して使用することができることを意味する。
【0072】
次に、本発明装置を回転体に積載して使用する場合に、回転体位置が、本発明装置の評価結果に及ぼす影響について検討する。
【0073】
図11に示す使用状態においては、電気機器1は方位可動体23に搭載されている。このため、電気機器から生じる電磁波以外に、回転に伴う各種の環境電磁波の影響を受ける。この事例では、方位可動体23に搭載された電気機器1で生じる部分放電による電磁波スペクトルと環境電磁波との関係について説明する。方位可動体23は、例えば風力発電装置であり、この場合の電気機器1は発電機である。風力発電装置は風向に応じて方位が回転する。一方環境電磁波の発信基地22は固定されている。
【0074】
図12に方位可動体23の方位に対する、搭載されたセンサ11と計測器12により観測される電磁波レベルの特性の一例を示す。部分放電スペクトルのレベルは電気機器1の負荷に依存して変動するのに対して、環境電磁波は発信基地22の方向で最大に観測される。センサ21の種類によっては発信基地22と180度の位置で第2のピークを示す場合もある。このように計測される電磁波スペクトルレベルの負荷および方位特性から環境電磁波と部分放電の電磁波を識別することができる。
【0075】
図12の事例によれば、負荷は、電気機器の方位変更に伴い増加、減少後再度増加する。この時、方位変更に対する負荷の変化とともに、レベルが同方向に変動するスペクトルSP1は部分放電で生じる電磁波と判定することができる。また方位が変わったときに、ある位置でピークとなりその前後で減少するスペクトルSP2は、固定発信基地22の放送波や通信波の環境電磁波であると捉えることができる。
【0076】
本発明の図1の実施例では、ステップS106において相関係数を求めているが、スペクトルSP1は、判定閾値αよりも大きいとされるが、スペクトルSP2は、負荷との相関が低いために、判定閾値βよりも小さいとされ、結果的には方位可動に伴い、スペクトルSP1の抽出に悪影響を与えることはない。このため、本発明装置を方位可動体23に積載して使用することができることを意味する。
【0077】
図13に本発明の他の実施例として、移動体に搭載された電気機器の部分放電を検出するシステムおよび方法を示す。移動体21に搭載された電気機器1の近傍に設置したセンサ11と計測器12により電磁波スペクトル情報Aを取得し、信号処理装置13に取込む。
【0078】
一方、移動体21にはGPSアンテナ31を搭載し、GPS衛星32からの信号を受けて、位置情報検出器33により、移動体21の所在地情報を取得する。移動体21には地域別電磁波周波数テーブル34を備えており、このテーブルには地域毎に利用することを許可された電磁波周波数が記載されている。
【0079】
位置情報検出器33と地域別電磁波周波数テーブル34の情報を受けて、環境電磁波抽出ルーチン35により、移動体が所在する地域における環境電磁波スペクトル情報Bを取得し、信号処理装置13に取込む。信号処理装置13では図4に記載したようにAとBの差分を求め、これを電気機器1の部分放電で生じる電磁波スペクトルであると認識する。
【0080】
本実施例における移動体の一例には数百kmの長距離を高速無停車で走行する列車があり、電磁波の利用許可周波数が異なる地域をいくつもまたがって走行する場合でも常に列車が所在する地域の環境電磁波を詳しく把握できるので、搭載されているモータや変換器等の電気機器の部分放電で発生する電磁波を見逃す確率を低減できる効果がある。また移動体の他の一例は高速道路を走行する、電気動力を駆動源とする自動車があり、常に所在地の環境電磁波と内部に搭載された電気機器で生じる部分放電の電磁波を的確に分離識別することができる。
【0081】
なお、図13の信号処理装置13では、地域ごとに特有の利用許可周波数が予め判明していることから、この成分Bを除外すべきことを示しているが、このようにしてもなおセンサ11は各種の環境電磁波を捕らえてしまうので、前記した各種の分離手法を組み合わせて実施することが有効であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、電気機器の劣化状態を連続的に計測することができ、特に移動体の場合にも部分放電状況が把握できるので、多くの電気機器に適用される。
【符号の説明】
【0083】
1…電気機器
2…連携装置
3…接続電力線
11…センサ
12…スペクトル計測器
13…信号処理装置
21…移動体
22…環境電磁波発信基地
23…方位可動体
25…移動体積載機器
31…GPSアンテナ
32…GPS衛星
33…位置情報検出器
34…地域別電磁波周波数テーブル
35…環境電磁波抽出ルーチン
100…周波数−レベル特性信号
101…負荷信号
102…所在地情報
103…方位情報
121…A/D変換器
122…時間周波数変換ルーチン
131…メモリ
132…演算部。
【技術分野】
【0001】
本発明は電気機器の絶縁部位で発生する部分放電に起因する電磁波を計測し、特に絶縁破壊に至るまえに、前兆現象を早期に検出する電気機器の診断装置、診断方法並びに診断装置積載体に関する。
【背景技術】
【0002】
産業や生活に密着した電動機などの電気機械や、それらの電源である発電、送電、変電設備は現代の社会を支える基盤機器である。これらの電気機器は故障すると社会活動に対する悪影響は甚大であり、高い信頼性が求められる。
【0003】
しかしながら、工業的に作られる機械である以上、製造時の不具合や長時間の使用に伴う性能の劣化は避けられない。電気機器の中で絶縁に関わる部分は破損すると致命的な損傷となるため、この部分の不具合については早期の発見と対策が求められている。
【0004】
電気機器の絶縁の不具合を検出する有効な手段として、絶縁破壊の前兆現象としての部分放電を検出することが行われている。さらに部分放電を検出する手段の一つとして、放電時に発生する電磁波を計測する方法がある。この方法は対象とする電気機器に手を加えることなく、外部のアンテナやセンサにより非接触で信号を計測するので、機器の運転中に簡便に計測できる長所がある。
【0005】
その一方で、アンテナやセンサは通信波や放送波といった環境電磁波を取り込むため、部分放電に起因する電磁波を環境電磁波から分離抽出する技術が求められる。この不具合点の改善に関連して、以下の先行技術文献での提案がある。
【0006】
特許文献1に記載された技術では、機器が設置された地域に許認可された環境電磁波の周波数スペクトルを除外して、残りをその機器から発生する電磁波として評価する方法が提案されている。
【0007】
特許文献2には、対象とする電気機器に部分放電がない時の電磁波を計測して周波数スペクトルを環境電磁波スペクトルとして記憶し、機器の運転時に観測される周波数スペクトルと、記憶しておいた環境電磁波スペクトルを比較して部分放電を検知する方法が記載されている。
【0008】
特許文献3には環境電磁波の周波数スペクトルを検出し、これらのスペクトルが少ない周波数帯域を選定して、部分放電のスペクトルを観測する方法が記載され、また特開特許文献4には周波数帯域の狭いセンサを用いて環境電磁波の小さい周波数帯域を選んで観測する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−201754号公報
【特許文献2】特開2003−43094号公報
【特許文献3】特開平10−210647号公報
【特許文献4】特開2006−329636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上述べたように、電磁波を計測して絶縁破壊の前兆現象としての部分放電を検出する場合に、環境電磁波から分離抽出すべきことに関する多くの技術が提案されているが、それぞれに問題点を有している。
【0011】
例えば、特許文献1に記載された方法では、電気機器が許認可された環境周波数が異なる地域間を移動する車両搭載機器である場合に、所在する地域が変わると変化する環境周波数に対する配慮がなされていない。
【0012】
特許文献2に記載された方法では、電気機器の運転を停止して環境電磁波スペクトルを計測しなければならず、連続して運転する電気機器に採用することは難しい。特に、車両搭載機器である場合には、計測のために車両を初期計測場所に移動する必要があり、かつ計測の間車両が使用できない。その上、次回の計測機会までの間は、電気機器の絶縁機能の状態の計測が行なえない。
【0013】
特許文献3と特許文献4に記載された方法では、これらはいずれも電気機器からの部分放電が無いか、小さい状態で計測して環境電磁波のスペクトルを識別しなければならず、連続して運転する電気機器に採用することは難しい。
【0014】
さらに上記したこれらの技術では違法無線等の一時的な電磁波を分離識別することができない。
【0015】
以上のことから本発明においては、連続運転を行なう電気機器であっても部分放電状態の常時監視を行なうことを可能とし、特に電気機器が車両搭載機器である場合にも常時監視することのできる電気機器の診断装置、診断方法並びに診断装置積載体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の電気機器の診断装置では、電気機器近傍に設置されたセンサ、センサ出力をスペクトル分析する手段、電動機の負荷検出手段、負荷検出手段の出力と、スペクトル分析手段の出力を記憶するデータテーブル、データテーブルに記憶されたデータからスペクトル分析手段の特定周波数のスペクトルに着目して、この着目したスペクトルの大きさに関する複数データと、当該複数データ計測時の複数の負荷のデータから相関係数を求める第1の手段、第1の手段で求めた相関係数の大きさから、着目した特定周波数のスペクトルを、電気機器の環境電磁波スペクトルと部分放電電磁波スペクトルに分類する第2の手段とを備える。
【0017】
また、データテーブルに記憶されたデータについて着目した特定周波数のスペクトルを逐次変更して、第1の手段と、第2の手段を繰り返し実行せしめる第3の手段を付加し、電気機器の部分放電電磁波成分を求めるのがよい。
【0018】
また、電気機器と、その診断装置が、移動体に積載されているのがよい。
【0019】
また、電気機器と、その診断装置が、回転体に積載されているのがよい。
【0020】
また、第1の手段で求めた相関係数の大きさが、1に近いものを部分放電電磁波スペクトルと判定し、0に近いものを環境電磁波スペクトルと判定するのがよい。
【0021】
また、移動体位置の検出手段と、移動体位置における地域別の許認可電磁波周波数を記憶する記憶手段と、移動体位置の検出手段の出力に応じて、当該位置における記憶手段の電磁波周波数をスペクトル分析手段の出力から差し引いて、データテーブルに記憶するのがよい。
【0022】
本発明の電気機器の診断方法では、電気機器の周囲で計測される電磁波をスペクトル分析したデータと、電気機器の負荷を取り込み、スペクトル分析したデータのうち特定のスペクトルの複数データについて、電気機器の負荷と比較し、電気機器の負荷の変動に対応して大きさが変動する特定スペクトルを電気機器の部分放電による電磁波成分と判定し、負荷変動に依存しないスペクトル成分を環境電磁波と判定する。
【0023】
また、地域別の許認可電磁波周波数情報を備え、当該地域に位置するときに当該許認可電磁波周波数をスペクトル分析したデータから除外してから、特定のスペクトルの複数データについて、電気機器の負荷と比較するのがよい。
【0024】
本発明の電気機器の診断装置積載体では、電気機器、電気機器近傍に設置されたセンサ、センサ出力をスペクトル分析する手段、電動機の負荷検出手段、負荷検出手段の出力と、スペクトル分析手段の出力を記憶するデータテーブルと、データテーブルに記憶されたデータからスペクトル分析手段の特定周波数のスペクトルに着目して、このスペクトルの大きさに関する複数データと、複数の負荷のデータから相関係数を求める第1の手段と、第1の手段で求めた相関係数の大きさから、着目した特定周波数のスペクトルを、環境電磁波スペクトルと電気機器の部分放電電磁波スペクトルに分類する第2の手段とを備える電気機器の診断装置を搭載した。
【0025】
また、積載体は、移動体であるのがよい。
【0026】
また、積載体は、回転体であるのがよい。
【0027】
また、移動体位置の検出手段と、移動体位置における地域別の許認可電磁波周波数を記憶する記憶手段と、移動体位置の検出手段の出力に応じて、当該位置における記憶手段の電磁波周波数をスペクトル分析手段の出力から差し引いて、データテーブルに記憶するのがよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、電気機械の運転を止めることなく、電気機械の部分放電に起因する電磁波を、環境電磁波から分離識別することができる。この結果、電気機器から発生する部分放電情報を常に把握できるので、電気機器の絶縁機能の状態変化を遅滞なく認識することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の電磁波スペクトルの識別方法を示すフロー図である。
【図2】本発明の電気機器の部分放電検出方法で使用する全体装置構成を示す図である。
【図3】本発明の一実施例のデータ処理過程を示す機能ブロック図である。
【図4】電磁波スペクトルの、電気機器の負荷に対する特性の一例を示す特性図である。
【図5】計測した電磁波スペクトルデータ、環境電磁波スペクトルデータ、部分放電スペクトルデータの関係を示す図である。
【図6】部分放電電磁波のときの電磁波スペクトルレベルの負荷に対する特性の一例を示す図である。
【図7】環境電磁波のときの電磁波周波数スペクトルレベルの負荷に対する特性の一例を示す図である。
【図8】負荷が時間とともに変動するときの電磁波周波数スペクトルレベルの時間変動から電磁波を区別することを説明するための図である。
【図9】移動体と環境電磁波発信基地との関係を示す概念図である。
【図10】移動体の位置に対する電磁波周波数スペクトルレベルの特性図である。
【図11】方位可動体と環境電磁波発信基地との関係を示す概念図である。
【図12】機器の方位に対する電磁波周波数スペクトルレベルの特性図である。
【図13】機器の所在地情報から環境電磁波周波数スペクトル情報を取得し、部分放電スペクトルを分離識別する方法を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例】
【0031】
まず、図2に本発明の電気機器の診断装置の全体装置構成を示す。ここでは、計測対象の電気機器1の近傍に電磁波センサ11を配置して、計測した電磁波信号をスペクトル計測器12を介して信号処理装置13に取込む。
【0032】
電磁波センサ11としては、電磁波アンテナ、電界プローブ、磁界プローブなどを用いることができる。計測器12としては、スペクトルアナライザ、周波数分析機能を有する電気信号収集装置、フィルタ装置などを用い、必要に応じて増幅機やAD変換器などを含むのがよい。
【0033】
電気機器1には連携装置2が接続され、接続電力線3を通して電気機器1との間で電気エネルギーを入出力する。電気機器1が電動機等の場合には連携装置2は電源であり、電気機器1が発電機等の場合には連携装置2は負荷である。以下、本明細書においては電気機器1に入出力する電力を負荷と呼ぶことにする。この負荷情報を信号処理装置13に取込む。
【0034】
信号処理装置13に実際に取込まれる電磁波信号には多くのスペクトルが含まれるが、本発明の原理説明の都合上、ここでは電磁波信号にAとBの2つのスペクトルを含む簡便な事例について説明する。なお、図2において、信号処理装置13の枠内左のスペクトルは、電気機器1の負荷が小さい場合のスペクトルであり、枠内右のスペクトルは、電気機器1の負荷が大きい場合のスペクトルである。
【0035】
この事例からは、スペクトルAは電気機器1の負荷が大きい時も小さい時もレベルはほぼ同じであり、スペクトルBは電気機器1の負荷が小さいときにはレベルが小さく、負荷が大きい時にはレベルが大きいということが読み取れる。このとき、スペクトルAは通信波や放送波などの外部環境からの電磁波(つまり環境電磁波)、スペクトルBは電気機器1の部分放電に起因する電磁波であると判定することができる。
【0036】
図3に、本発明におけるデータ処理の一例として、以下ではデータをデジタル処理する場合の一例を説明する。センサ11からは電磁波に対応した電圧の時間波形が出力され、計測器12に送られる。スペクトル計測器12ではA/D変換器121でデジタル変換後、例えば高速フーリエ変換のような時間周波数変換ルーチン122で周波数−レベル特性信号100に変換して信号処理装置13に取込む。ここで、信号処理装置13に取込まれた信号100は、図2の信号処理装置13の枠内に示した横軸が周波数、縦軸がレべルで表された信号である。
【0037】
一方、そのほかに、機器の負荷情報を、デジタル値信号101として信号処理装置13に取込む。この他に電気機器あるいは電気機器を搭載した設備の所在地情報102や方位情報103を参考情報として、併せて記載してある。
【0038】
そして信号処理装置13の内部のメモリ131に、計測時刻、負荷、周波数、レベル、必要に応じて所在地、方位情報を、互いに関連付けて、順次蓄積していく。メモリ131に蓄積したデータは、適時に、演算部132により必要なデータを抽出し、スペクトルレベルの負荷特性などとして分析する。
【0039】
この分析形態の一例としては、周波数iのスペクトルレベルの負荷に対する相関係数を求める方法があり、予め電気機器1の絶縁材料あるいは絶縁構成などに応じて定めた閾値との関係で、環境電磁波スペクトルか、あるいは部分放電の電磁波のスペクトルと判定する。以下、この判定について、電磁波信号レベルの一例について、図4により詳しく説明する。
【0040】
図4は、横軸に電気機器1の負荷をとり、縦軸に電磁波信号のレベルを示した図であり、この座標の上に前記の図2で説明したスペクトルAとBを表示している。まず、スペクトルAは電気機器1の負荷に依らずほぼ一定のスペクトルレベルのものであったことから、これは横軸に平行な線で表記することができ、電気機器とは無関係の環境電磁波と判断することができる。
【0041】
他方、図2で説明したスペクトルBは、負荷の大きさによって変化するスペクトルレベルのものであったが、負荷に対する変化の仕方としては、負荷に比例的に増加するタイプ(スペクトルB1)、負荷の増加に伴い飽和するタイプ(スペクトルB2)、負荷の減少に伴い飽和するタイプ(スペクトルB3)などが考えられる。いずれにせよ、これらの変化型スペクトルB1、B2、B3は、電気機器の負荷の増減に依存してレベルが変動するので、機器の部分放電の電磁波と判断することができる。
【0042】
なお、部分放電に伴う電磁波のレベルの負荷特性は、絶縁材料や絶縁構造、さらには温度や湿度の影響により様々な特性をとる。図4には3種類の特性を例示しているが、さらに負荷の増減に対してヒステリシス特性を示す場合もある。
【0043】
次に、信号処理装置13に送られたスペクトル情報と負荷情報を基に、機器の部分放電に基づく電磁波を環境電磁波から分離する方法の具体的な一例を図5により説明する。
【0044】
図5は、図3のスペクトル計測器12内の時間周波数変換ルーチン122から得られた周波数−レベル特性信号100を、メモリ131に蓄積したスペクトルデータであり、いずれも横軸に周波数、縦軸にレベルを記載している。このスペクトルデータのうち、スペクトルデータ1は、大負荷時に計測されたスペクトルデータ、スペクトルデータ2は、小負荷時に計測されたスペクトルデータである。従って、言うまでもないことであるが、これら二つのスペクトルデータ1と2は、負荷の大きさが相違する異なる計測時刻でのスペクトルデータを、メモリ131の中から抽出して得られたスペクトルデータである。
【0045】
これら二つのスペクトルデータ1と2には、スペクトルa、b、c、…jのスペクトルが観測されている。両者のスペクトルは、スペクトル位置(周波数)としては、同じ周波数で観測されているが、そのレベルは同じもの、相違するものがある。具体的には、スペクトルb、c、f、h、jは負荷の大小に依存してレベルが変化しているのに対して、スペクトルa、d、e、g、iは負荷によらずほぼ一定のレベルである。
【0046】
以上のことから、負荷によらずほぼ一定のレベルを保つスペクトルa、d、e、g、iは、電気機器1に依存しない環境電磁波であると判定することができ、これらのスペクトルa、d、e、g、iのみを抽出したスペクトルデータ3を、環境電磁波スペクトルとして、得ることができる。
【0047】
また、スペクトルデータ1と2から、環境電磁波のみのスペクトルデータ3をそれぞれ差し引くことで、大負荷時の部分放電に起因するスペクトルデータ4と、小負荷時の部分放電に起因するスペクトルデータ5とを得ることができる。スペクトルデータ4とスペクトルデータ5では、スペクトル位置(周波数)は同じであるが、レベルが相違している。
【0048】
ここで、スペクトルデータ3の環境電磁波とは、主にテレビ等の放送波および携帯電話や各種無線等の通信波であり、予め周波数が割当てられている。一方、電気機器の部分放電に伴う電磁波の周波数は主に機器の構造、寸法、材料で決まる静電容量やインダクタンス、および放射アンテナとして機能するケーブルの長さや引回し経路周辺の構造で決まる。
【0049】
以上、図5では負荷の大きさが相違する異なる計測時点での二つのスペクトルデータから、環境電磁波のスペクトルと部分放電の電磁波のスペクトルを分離する手法について説明したが、次に、環境電磁波のスペクトルと、部分放電の電磁波のスペクトルを定量的に識別する方法を図6と図7により説明する。
【0050】
図6と、図7は、横軸に負荷率、縦軸にスペクトルレベル相対値を示している。このグラフを作成するために、図3のメモリ131に蓄積されたデータの中から、特定のスペクトル(特定の周波数成分)のみを複数個(100個程度)抽出する。例えば、図6は、図5のスペクトルbを100個、メモリ131から取り出して作成したものであり、図7は、図5のスペクトルaを100個、メモリ131から取り出して作成したものである。従って、それぞれ100個の、個々のスペクトルaとbは、一般には計測時刻が相違し、かつ負荷の大きさも相違するスペクトルの集合である。
【0051】
図6と、図7は、取り出したスペクトルのいずれかを基準値(相対値の大きさを1に定める)とし、全てのスペクトルを基準値との相対値として、横軸の負荷と縦軸のレベルのグラフ上にプロットしたものである。プロットされた各点は、図6の△、図7の○で表記されている。さらに、プロットされた各点が示す方向(傾向)を近似線で表すと、図6ではMbのように、右肩上がりの傾向のあることが見えてくる。同様に、図7ではMaのように、負荷に左右されないという傾向のあることがわかる。
【0052】
この傾向を数値として把握する統計的手法として、良く知られた相関係数を利用する。具体的に、この図6の特性例について負荷率とスペクトルレベルについての相関係数を求めると図中にRで記したように0.85が得られた。一方、環境電磁波のスペクトル、例えば図5のスペクトルaについて同様に機器の負荷率に対する特性を見ると図7のようになり、この例の相関係数は0.07であった。このように相関係数を判定指標として環境電磁波と部分放電による電磁波を識別することができる。
【0053】
なお、相関係数としては、ピアソンの積率相関係数を利用することができる。この係数は原則、単位は無く、-1から1 の間の実数値をとり、1に近いときは2つの確率変数には正の相関があるといい、-1 に近ければ負の相関があるという。0 に近いときはもとの確率変数の相関は弱いことになる。図6の事例では、相関係数が1に近い0.85という数値であることから、正の相関があり、図7の事例では、相関係数が0に近い0.07という数値であることから、相関が弱いということになる。
【0054】
このようにして相関係数を求めるわけであるが、算出されたこの係数をもって環境電磁波と判断するのか、部分放電の電磁波と判断するのかを識別するためには、相関係数による判定の閾値として、1つあるいは2つの値を設定するのが適当である。例えば閾値をαとして、α以上を部分放電による電磁波、α未満を部分放電に起因する電磁波ではない、と判定する方法がある。また、閾値をαとβの2つの値(β<α)に設定し、α以上を部分放電による電磁波、β未満を環境電磁波、α未満β以上は部分放電でも環境電磁波でもない、と判定する方法がある。ここで閾値αとβは電気機器毎に予め決めておくことになる。
【0055】
以上に述べた部分放電電磁波と環境電磁波の識別方法の流れを図1にまとめて示す。この処理フローは、2つのルーチンから構成され、その1つは、図3の装置構成に対比して説明すると、スペクトル計測器12あるいはメモリー131の記憶処理に相当する準備段階であるデータ取得ルーチンである。2つめは、後段の演算部132内の判定ルーチンである。
【0056】
データ取得ルーチンでは、まずステップS100において、センサ11からの電磁波を一定間隔で取得し、ステップS101においてスペクトル分析し、ステップS103においてデータテーブルに格納する。また、ステップS102においてスペクトル取得と同期して電気機器の負荷情報も取り込む。これら一連の処理は、終了指令がされるまで、繰り返し実行される。
【0057】
ステップS103においてデータテーブルにある程度のデータが集積された時点で、後段の判定ルーチンが起動される。判定ルーチンでは、まずステップS104において図5に例示したように複数存在するスペクトルの中から判定対象とするスペクトルのデータ、ここではi番目のデータを選択、読み込む。つまり、例えば最初にi番目のデータとして、特定周波数のスペクトルとして「a」に着目し、ステップS103のデータテーブルから、スペクトルaに関するデータを例えば100個選択する。以降のステップS104からステップS110までの処理は、このスペクトルaに関するデータをもとにして遂行される。
【0058】
次に、ステップS105において、図6あるいは図7に例示したように負荷特性を分析する。つまり、概念的には横軸を負荷率とし、縦軸を相対値でのスペクトルレベルとするときに、先の100個のスペクトルaに関するデータをこの座標上にプロットする処理を実行する。
【0059】
ステップS106では、例えばピアソンの積率相関係数を利用して相関係数Rを算出する。また、ステップS107からステップS110において、求められた相関係数Rからスペクトルaが、環境電磁波か、部分放電の電磁波かを判断する。この識別のために、判定閾値αと判定閾値βが予め保有(β<α)されている。なお、判定閾値αと判定閾値βは、電気機器ごとに設定されるが、通常はそれぞれ、0.7と0.3程度の値である。
【0060】
この判定は、まずステップS107において、相関係数Rを電気機器毎に予め定めた判定閾値αと比較し、閾値αより大きければ、この電磁波スペクトルは部分放電に起因する電磁波スペクトルであると判定(ステップS109)する。小さい場合には、ステップS108において、相関係数Rを予め定めた他の判定閾値βと比較し、閾値βよりも小さければこれは環境電磁波スペクトルであると判定(ステップS110)する。なお、スペクトルデータによっては部分放電スペクトルとも環境スペクトルとも判別できない場合もあり得る。
【0061】
最後に、一つのスペクトルaについての判定が終了したら、ステップS111において、次に判定するべきスペクトルに進んでさらに判定ルーチンを繰り返す。例えば、次には図5のスペクトルbを選択して、同様の処理を繰り返す。この結果として、最終的には図5の最後のスペクトルjまでが環境電磁波か、部分放電の電磁波かを判断される。なお、全てのスペクトルについて連続的に判定する場合にはn=1である。
【0062】
このようにして、各スペクトルごとに、このスペクトルが環境電磁波か、部分放電の電磁波かを区分されるので、最終的には図5の環境電磁波のスペクトルデータ3、大負荷時部分放電電磁波のスペクトルデータ4、小負荷時部分放電電磁波のスペクトルデータ5として把握することができる。
【0063】
本発明は、図1の手法により環境電磁波か、部分放電の電磁波かを区分することができるが、この場合に時間要素の影響について図8を参照して説明する。ここでは、電気機器の負荷が時間とともに変動するときの環境電磁波、部分放電の電磁波の各スペクトルの時間応動結果を示している。
【0064】
横軸に時間、縦軸に負荷あるいは電磁波レベルを示す図8の事例によれば、負荷は、時間経過に伴い増加、減少後再度増加する。この時、図4のBに示した部分放電電磁波のスペクトルは、負荷の増減に応じて増減する特性を有するので、
負荷の時間変化とともに、レベルが同方向に変動するスペクトルSP1は部分放電で生じる電磁波と判定することができる。また図4のAで示した環境電磁波は、負荷の増減に影響されない特性を有するので、負荷が変わってもほぼ一定のスペクトルSP2は、放送波や通信波の環境電磁波である。
【0065】
なお、時間経過と共に変動するスペクトルとしては、負荷の変動とは相間がないスペクトルSP3があり得る。これは例えば移動体から発信される違法電磁波や、対象とする電気機器とは異なる、近辺で運転される機器から発生する電磁波である。
【0066】
本発明の図1の実施例では、ステップS106において相関係数を求めているが、スペクトルSP1は、判定閾値αよりも大きいとされたものであり、スペクトルSP2は判定閾値βよりも小さいとされたものである。しからば、スペクトルSP3はどうかというと、これも結局は電気機器の負荷変動との相間が小さいことから、判定閾値βよりも小さいと判断される。図8の結果は、本発明装置の評価結果が、時間要素の影響を受けないことを意味している。
【0067】
なお、一時的電磁波の中には例えば上空を通過する航空機、近くを走行する列車の無線、パトカー等の無線なども含まれる。これらはその地域で使用することが認められた合法的な電磁波であり、本発明の後の実施例で識別手法について説明するが、電気機器の所在地情報を基にした識別により、電気機器の部分放電に伴う電磁波ではないと判断できる。
【0068】
次に、本発明装置を移動体に積載して使用する場合に、移動体位置が、本発明装置の評価結果に及ぼす影響について検討する。
【0069】
図9に示す使用状態においては、電気機器1は移動体25に搭載されている。このため、電気機器から生じる電磁波以外に、移動に伴う各種の環境電磁波の影響を受ける。この事例では、列車や自動車等の移動体25に搭載された電気機器1から発生する電磁波を、移動体に搭載されたセンサ11とスペクトル計測器12を用いて計測するわけであるが、このときにセンサ11で感知してしまう環境電磁波発信基地22から発信される電磁波と識別する必要がある。なお、この図で、25は移動体積載機器を示している。
【0070】
図10に、移動体25の所在位置に対する電気機器1の負荷と、移動体25に搭載されたセンサ11で計測される電磁波レベルの関係を示す。電気機器1の部分放電スペクトルSP1のレベルは負荷とともに変動するのに対して、発信基地22から放射される環境電磁波のレベルSP2は機器の負荷とは無関係に、移動体が発信基地22の直近を通過する時をピークに前後は低下する特性となる。この特性の相違から環境電磁波のスペクトルと部分放電に起因する電磁波のスペクトルを分離することができる。
【0071】
本発明の図1の実施例では、ステップS106において相関係数を求めているが、スペクトルSP1は、判定閾値αよりも大きいとされるが、スペクトルSP2は、負荷との相関が低いために、判定閾値βよりも小さいとされ、結果的には位置の移動に伴い、スペクトルSP1の抽出に悪影響を与えることはない。このため、本発明装置を移動体に積載して使用することができることを意味する。
【0072】
次に、本発明装置を回転体に積載して使用する場合に、回転体位置が、本発明装置の評価結果に及ぼす影響について検討する。
【0073】
図11に示す使用状態においては、電気機器1は方位可動体23に搭載されている。このため、電気機器から生じる電磁波以外に、回転に伴う各種の環境電磁波の影響を受ける。この事例では、方位可動体23に搭載された電気機器1で生じる部分放電による電磁波スペクトルと環境電磁波との関係について説明する。方位可動体23は、例えば風力発電装置であり、この場合の電気機器1は発電機である。風力発電装置は風向に応じて方位が回転する。一方環境電磁波の発信基地22は固定されている。
【0074】
図12に方位可動体23の方位に対する、搭載されたセンサ11と計測器12により観測される電磁波レベルの特性の一例を示す。部分放電スペクトルのレベルは電気機器1の負荷に依存して変動するのに対して、環境電磁波は発信基地22の方向で最大に観測される。センサ21の種類によっては発信基地22と180度の位置で第2のピークを示す場合もある。このように計測される電磁波スペクトルレベルの負荷および方位特性から環境電磁波と部分放電の電磁波を識別することができる。
【0075】
図12の事例によれば、負荷は、電気機器の方位変更に伴い増加、減少後再度増加する。この時、方位変更に対する負荷の変化とともに、レベルが同方向に変動するスペクトルSP1は部分放電で生じる電磁波と判定することができる。また方位が変わったときに、ある位置でピークとなりその前後で減少するスペクトルSP2は、固定発信基地22の放送波や通信波の環境電磁波であると捉えることができる。
【0076】
本発明の図1の実施例では、ステップS106において相関係数を求めているが、スペクトルSP1は、判定閾値αよりも大きいとされるが、スペクトルSP2は、負荷との相関が低いために、判定閾値βよりも小さいとされ、結果的には方位可動に伴い、スペクトルSP1の抽出に悪影響を与えることはない。このため、本発明装置を方位可動体23に積載して使用することができることを意味する。
【0077】
図13に本発明の他の実施例として、移動体に搭載された電気機器の部分放電を検出するシステムおよび方法を示す。移動体21に搭載された電気機器1の近傍に設置したセンサ11と計測器12により電磁波スペクトル情報Aを取得し、信号処理装置13に取込む。
【0078】
一方、移動体21にはGPSアンテナ31を搭載し、GPS衛星32からの信号を受けて、位置情報検出器33により、移動体21の所在地情報を取得する。移動体21には地域別電磁波周波数テーブル34を備えており、このテーブルには地域毎に利用することを許可された電磁波周波数が記載されている。
【0079】
位置情報検出器33と地域別電磁波周波数テーブル34の情報を受けて、環境電磁波抽出ルーチン35により、移動体が所在する地域における環境電磁波スペクトル情報Bを取得し、信号処理装置13に取込む。信号処理装置13では図4に記載したようにAとBの差分を求め、これを電気機器1の部分放電で生じる電磁波スペクトルであると認識する。
【0080】
本実施例における移動体の一例には数百kmの長距離を高速無停車で走行する列車があり、電磁波の利用許可周波数が異なる地域をいくつもまたがって走行する場合でも常に列車が所在する地域の環境電磁波を詳しく把握できるので、搭載されているモータや変換器等の電気機器の部分放電で発生する電磁波を見逃す確率を低減できる効果がある。また移動体の他の一例は高速道路を走行する、電気動力を駆動源とする自動車があり、常に所在地の環境電磁波と内部に搭載された電気機器で生じる部分放電の電磁波を的確に分離識別することができる。
【0081】
なお、図13の信号処理装置13では、地域ごとに特有の利用許可周波数が予め判明していることから、この成分Bを除外すべきことを示しているが、このようにしてもなおセンサ11は各種の環境電磁波を捕らえてしまうので、前記した各種の分離手法を組み合わせて実施することが有効であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、電気機器の劣化状態を連続的に計測することができ、特に移動体の場合にも部分放電状況が把握できるので、多くの電気機器に適用される。
【符号の説明】
【0083】
1…電気機器
2…連携装置
3…接続電力線
11…センサ
12…スペクトル計測器
13…信号処理装置
21…移動体
22…環境電磁波発信基地
23…方位可動体
25…移動体積載機器
31…GPSアンテナ
32…GPS衛星
33…位置情報検出器
34…地域別電磁波周波数テーブル
35…環境電磁波抽出ルーチン
100…周波数−レベル特性信号
101…負荷信号
102…所在地情報
103…方位情報
121…A/D変換器
122…時間周波数変換ルーチン
131…メモリ
132…演算部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器近傍に設置されたセンサ、該センサ出力をスペクトル分析する手段、前記電動機の負荷検出手段、該負荷検出手段の出力と、前記スペクトル分析手段の出力を記憶するデータテーブル、該データテーブルに記憶されたデータから前記スペクトル分析手段の特定周波数のスペクトルに着目して、この着目したスペクトルの大きさに関する複数データと、当該複数データ計測時の複数の負荷のデータから相関係数を求める第1の手段、該第1の手段で求めた相関係数の大きさから、前記着目した特定周波数のスペクトルを、前記電気機器の環境電磁波スペクトルと部分放電電磁波スペクトルに分類する第2の手段とを備えることを特徴とする電気機器の診断装置。
【請求項2】
前記データテーブルに記憶されたデータについて着目した特定周波数のスペクトルを逐次変更して、前記第1の手段と、第2の手段を繰り返し実行せしめる第3の手段を付加し、前記電気機器の部分放電電磁波成分を求めることを特徴とする請求項1記載の電気機器の診断装置。
【請求項3】
前記電気機器と、その診断装置が、移動体に積載されていることを特徴とする請求項1記載の電気機器の診断装置。
【請求項4】
前記電気機器と、その診断装置が、回転体に積載されていることを特徴とする請求項1記載の電気機器の診断装置。
【請求項5】
前記第1の手段で求めた相関係数の大きさが、1に近いものを部分放電電磁波スペクトルと判定し、0に近いものを環境電磁波スペクトルと判定することを特徴とする請求項1記載の電気機器の診断装置。
【請求項6】
移動体位置の検出手段と、移動体位置における地域別の許認可電磁波周波数を記憶する記憶手段と、前記移動体位置の検出手段の出力に応じて、当該位置における前記記憶手段の電磁波周波数を前記スペクトル分析手段の出力から差し引いて、前記データテーブルに記憶することを特徴とする請求項3記載の電気機器の診断装置。
【請求項7】
電気機器の周囲で計測される電磁波をスペクトル分析したデータと、前記電気機器の負荷を取り込み、前記スペクトル分析したデータのうち特定のスペクトルの複数データについて、前記電気機器の負荷と比較し、前記電気機器の負荷の変動に対応して大きさが変動する前記特定スペクトルを前記電気機器の部分放電による電磁波成分と判定し、負荷変動に依存しないスペクトル成分を環境電磁波と判定することを特徴とする電気機器の診断方法。
【請求項8】
地域別の許認可電磁波周波数情報を備え、当該地域に位置するときに当該許認可電磁波周波数を前記のスペクトル分析したデータから除外してから、特定のスペクトルの複数データについて、前記電気機器の負荷と比較することを特徴とする請求項7記載の電気機器の診断方法。
【請求項9】
電気機器、該電気機器近傍に設置されたセンサ、該センサ出力をスペクトル分析する手段、前記電動機の負荷検出手段、該負荷検出手段の出力と、前記スペクトル分析手段の出力を記憶するデータテーブルと、該データテーブルに記憶されたデータから前記スペクトル分析手段の特定周波数のスペクトルに着目して、このスペクトルの大きさに関する複数データと、複数の前記負荷のデータから相関係数を求める第1の手段と、該第1の手段で求めた相関係数の大きさから、前記着目した特定周波数のスペクトルを、環境電磁波スペクトルと電気機器の部分放電電磁波スペクトルに分類する第2の手段とを備える電気機器の診断装置を搭載した電気機器の診断装置積載体。
【請求項10】
積載体は、移動体であることを特徴とする請求項9記載の電気機器の診断装置積載体。
【請求項11】
積載体は、回転体であることを特徴とする請求項9記載の電気機器の診断装置積載体。
【請求項12】
移動体位置の検出手段と、移動体位置における地域別の許認可電磁波周波数を記憶する記憶手段と、前記移動体位置の検出手段の出力に応じて、当該位置における前記記憶手段の電磁波周波数を前記スペクトル分析手段の出力から差し引いて、前記データテーブルに記憶することを特徴とする請求項3記載の電気機器の診断装置積載体。
【請求項1】
電気機器近傍に設置されたセンサ、該センサ出力をスペクトル分析する手段、前記電動機の負荷検出手段、該負荷検出手段の出力と、前記スペクトル分析手段の出力を記憶するデータテーブル、該データテーブルに記憶されたデータから前記スペクトル分析手段の特定周波数のスペクトルに着目して、この着目したスペクトルの大きさに関する複数データと、当該複数データ計測時の複数の負荷のデータから相関係数を求める第1の手段、該第1の手段で求めた相関係数の大きさから、前記着目した特定周波数のスペクトルを、前記電気機器の環境電磁波スペクトルと部分放電電磁波スペクトルに分類する第2の手段とを備えることを特徴とする電気機器の診断装置。
【請求項2】
前記データテーブルに記憶されたデータについて着目した特定周波数のスペクトルを逐次変更して、前記第1の手段と、第2の手段を繰り返し実行せしめる第3の手段を付加し、前記電気機器の部分放電電磁波成分を求めることを特徴とする請求項1記載の電気機器の診断装置。
【請求項3】
前記電気機器と、その診断装置が、移動体に積載されていることを特徴とする請求項1記載の電気機器の診断装置。
【請求項4】
前記電気機器と、その診断装置が、回転体に積載されていることを特徴とする請求項1記載の電気機器の診断装置。
【請求項5】
前記第1の手段で求めた相関係数の大きさが、1に近いものを部分放電電磁波スペクトルと判定し、0に近いものを環境電磁波スペクトルと判定することを特徴とする請求項1記載の電気機器の診断装置。
【請求項6】
移動体位置の検出手段と、移動体位置における地域別の許認可電磁波周波数を記憶する記憶手段と、前記移動体位置の検出手段の出力に応じて、当該位置における前記記憶手段の電磁波周波数を前記スペクトル分析手段の出力から差し引いて、前記データテーブルに記憶することを特徴とする請求項3記載の電気機器の診断装置。
【請求項7】
電気機器の周囲で計測される電磁波をスペクトル分析したデータと、前記電気機器の負荷を取り込み、前記スペクトル分析したデータのうち特定のスペクトルの複数データについて、前記電気機器の負荷と比較し、前記電気機器の負荷の変動に対応して大きさが変動する前記特定スペクトルを前記電気機器の部分放電による電磁波成分と判定し、負荷変動に依存しないスペクトル成分を環境電磁波と判定することを特徴とする電気機器の診断方法。
【請求項8】
地域別の許認可電磁波周波数情報を備え、当該地域に位置するときに当該許認可電磁波周波数を前記のスペクトル分析したデータから除外してから、特定のスペクトルの複数データについて、前記電気機器の負荷と比較することを特徴とする請求項7記載の電気機器の診断方法。
【請求項9】
電気機器、該電気機器近傍に設置されたセンサ、該センサ出力をスペクトル分析する手段、前記電動機の負荷検出手段、該負荷検出手段の出力と、前記スペクトル分析手段の出力を記憶するデータテーブルと、該データテーブルに記憶されたデータから前記スペクトル分析手段の特定周波数のスペクトルに着目して、このスペクトルの大きさに関する複数データと、複数の前記負荷のデータから相関係数を求める第1の手段と、該第1の手段で求めた相関係数の大きさから、前記着目した特定周波数のスペクトルを、環境電磁波スペクトルと電気機器の部分放電電磁波スペクトルに分類する第2の手段とを備える電気機器の診断装置を搭載した電気機器の診断装置積載体。
【請求項10】
積載体は、移動体であることを特徴とする請求項9記載の電気機器の診断装置積載体。
【請求項11】
積載体は、回転体であることを特徴とする請求項9記載の電気機器の診断装置積載体。
【請求項12】
移動体位置の検出手段と、移動体位置における地域別の許認可電磁波周波数を記憶する記憶手段と、前記移動体位置の検出手段の出力に応じて、当該位置における前記記憶手段の電磁波周波数を前記スペクトル分析手段の出力から差し引いて、前記データテーブルに記憶することを特徴とする請求項3記載の電気機器の診断装置積載体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−153840(P2011−153840A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13992(P2010−13992)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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