説明

電気機械変換素子

【課題】圧電体の上面から圧電体の外表面に沿うように配線を引き出すことなく、圧電体を挟む一方の電極を取り出して、素子としての信頼性を向上させる電気機械変換素子を提供する。
【解決手段】電気機械変換素子1は、薄膜からなる圧電体8と、圧電体8を挟む2つの電極7,9と、一方の電極(例えば上電極9)と導通する第1の電極取出層4と、他方の電極(例えば下電極7)と導通する第2の電極取出層10とを基板2上に有している。第1の電極取出層4は、圧電体8よりも基板2側に位置している。一方の電極9は、圧電体8を基板2と垂直な方向に貫通する連結部21を介して、第1の電極取出層4と連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体の圧電効果を利用して駆動される電気機械変換素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電体を基板の上に薄膜状に形成したカンチレバー(片持ち梁)構造の電気機械変換素子が知られている。この構造では、薄膜の面に沿う伸縮変形を、面に垂直な方向の変位に効率よく変換することができるため、感度の高いセンサやアクチュエータを構成することができる。しかし、梁の先端が拘束されていないため、剛性が低く、外力による変形や捩れ等が生じやすいという課題がある。
【0003】
この課題を解決するために、変位膜の両端を固定した両持ち梁構造や、変位膜の周縁を固定したダイアフラム(横隔膜)構造の電気機械変換素子が提案されている。この構造では、変位膜の剛性が高くなるため、発生圧力を大きくできる、外力に対してより安定して変形できる、変位膜の中心部を基板に平行に移動できる、密閉構造により気体や液体を輸送するポンプに活用できる、等の利点がある。
【0004】
このような電気機械変換素子は、例えばインクジェットプリンタに応用することができる。インクジェットプリンタは、液体インクを吐出する複数のチャネル(圧力室)を備えており、紙や布等の記録メディアに対して相対的に移動しながら、インクの吐出を制御することにより、二次元の画像を出力する。このようなプリンタで画像を高速に描画するには、チャネルを記録メディアの幅全体に並べて、一方向に走査するラインヘッド方式が望ましい。
【0005】
また、ラインヘッド方式で、ヘッドの低コスト化、高解像度化を図るには、チャネルをできるだけ小さくして、ヘッドに、小型のチャネルを二次元に高密度に配置することが望ましい。例えば特許文献1では、正方形のチャネルを千鳥配置することによって、チャネルを高密度に配置している。
【0006】
以下、インクジェットプリンタに応用されるダイアフラム構造の電気機械変換素子について、さらに詳細に説明する。図8は、従来のダイアフラム構造の電気機械変換素子の概略の構成を示す斜視図(一部は断面図)である。この電気機械変換素子では、基板101上に、従動膜102と、駆動膜103とがこの順で積層されている。
【0007】
基板101には、インクを収容する圧力室101aが形成されており、従動膜102は圧力室101aの上壁を構成している。駆動膜103は、下電極104と、圧電体105と、上電極106とを有している。下電極104の上面および圧電体105の側面は、絶縁膜107で覆われている。そして、下電極104は、絶縁膜107に設けられた貫通孔107aを介して、絶縁膜107の表面に引き出されている。
【0008】
圧電体105は、圧力室101aの上部に位置しており、基板101に垂直な方向(図8の矢印方向)に分極している。上電極106は、絶縁膜107の表面に沿って設けられる配線106aにより、圧電体105の上面から圧力室101aの外部に引き出されている。
【0009】
この構成では、上電極106および下電極104に電圧を印加すると、圧電体105が圧電効果により伸縮し、駆動膜103には、従動膜102との長さの違いによって曲率が生じる。これにより、駆動膜103が基板101に垂直な方向に変位する。したがって、圧力室101aにインクを充填しておけば、駆動膜103の変位によって圧力室101a内の圧力が高まるため、圧力室101aからインクを吐出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3168474号公報(請求項1、図1等参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、駆動膜の圧電体は、バルクセラミックスで構成されるものと、薄膜で構成されるものとの2種類が存在する。バルクセラミックスは、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの圧電材料の結晶粒を粒径数μmの粉末に加工し、溶剤でペースト化してシート状に焼成して作製する。この場合、形成できるシートの厚みは、最小でも50〜100μmであり、これよりもシートを薄くすると、シートに亀裂が入り、使用することができなくなる。
【0012】
このように、圧電体をバルクセラミックスで構成すると、圧電体の厚みが大きいため、曲げ剛性が大きくなる。このため、必要な変位量を得るためには、圧力室の直径をmmオーダーに大きくする必要があり、チャネルを小型化することができなくなる。なお、必要な変位量とは、例えばインクジェットプリンタでは、吐出するインクの量を決める変位体積に相当する。
【0013】
一方、圧電体を薄膜で構成する場合は、PZTなどの圧電材料を、PVDやCVD、ゾルゲル法などにより、基板上に数μmの厚さで形成する。圧電体の厚みが小さいため、曲げ剛性が小さく、圧力室の直径をバルクセラミックスの1/10程度に小さくすることができる。これにより、チャネルを高密度に配置でき、低コスト、高解像度を実現することができる。
【0014】
ところが、圧電体を薄膜で構成すると、上電極の取り出し方が問題となる。すなわち、バルクセラミックスからなる圧電体は、厚くて丈夫であるため、圧電体上の電極(上電極)上に直接ワイヤーをボンディングして配線を引き出す(上電極を取り出す)ことができる。しかし、薄膜からなる圧電体は薄くて脆いため、ワイヤーボンディングにおける溶着時の圧力や超音波振動に耐えることができない。その結果、圧電体が薄膜の場合は、上電極をワイヤーボンディングによって取り出すことはできない。
【0015】
そこで、図8で示したように、下電極104の上面と圧電体105の側面とを絶縁膜107で覆い、絶縁膜107上の配線106aによって、上電極106の一部をチャネルの外へ取り出す手法が用いられる。つまり、配線106aにより、圧電体105の上面(基板101とは反対側の面)から圧電体105の外表面に沿って上電極106が引き出される。
【0016】
ところが、駆動膜103の変位方向は、基板101に垂直な上下方向であるため、図8のように、圧電体105の上面から圧電体105の外表面に沿って上電極106を引き出す構成では、上電極106と連続した最上層の配線106aが駆動膜103の上下方向の変位を阻害する。その結果、駆動膜103の上下方向の変位量が低下し、素子としての特性が低下する。また、圧力室101aの周縁部付近では、駆動膜103の変形が大きいため、その周縁部に位置する配線106aに働く応力も大きくなり、配線106aに亀裂や剥離が生じる恐れがある。このような、素子としての特性低下や配線の劣化は、電気機械変換素子としての信頼性を低下させる要因となる。
【0017】
なお、このような問題は、分極方向と電界方向とが基板に垂直となるように圧電体を配置した場合(図8参照)のみならず、分極方向と電界方向とが基板に平行となるように圧電体を配置した場合でも、圧電体の上面(基板と反対側の面)から圧電体の外表面に沿って一方の電極を取り出す場合には、同様に起こり得る。
【0018】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、圧電体の上面(基板と反対側の面)から圧電体の外表面に沿うような配線を設けることなく、圧電体を挟む一方の電極を取り出すことができ、これによって、素子としての信頼性を向上させることができる電気機械変換素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の電気機械変換素子は、薄膜からなる圧電体と、前記圧電体を挟む2つの電極と、一方の電極と導通する第1の電極取出層と、他方の電極と導通する第2の電極取出層とを基板上に有し、前記第1の電極取出層は、前記圧電体よりも前記基板側に位置しており、前記一方の電極は、前記圧電体を前記基板に垂直な方向に貫通する連結部を介して、前記第1の電極取出層と連結されていることを特徴としている。
【0020】
例えば、圧電体の分極方向および電界方向が基板に対して垂直となるように、圧電体を2つの電極で挟んで配置した場合、一方の電極(例えば上電極)は、圧電体を基板に垂直な方向に貫通する連結部を介して、圧電体よりも基板側(下方)に位置する第1の電極取出層と連結されることになる。また、例えば、圧電体をリング状に形成してその外周部および内周部に電極を配置し、圧電体の分極方向および電界方向が基板に平行となるように、圧電体を2つの電極で挟んで配置した場合でも、一方の電極(例えば内電極)は、連結部を介して、下方の第1の電極取出層と連結されることになる。
【0021】
このように、一方の電極(上電極、内電極)が、圧電体を貫通する連結部を介して、下方の第1の電極取出層と連結されることにより、素子表面に、圧電体の上面(基板と反対側の面)から圧電体の外表面に沿うような配線を設けることなく、一方の電極を取り出すことができる。したがって、上記配線を設けることによる問題(特性の低下や配線の劣化)が生じることはなく、信頼性の高い電気機械変換素子を実現することができる。
【0022】
本発明の電気機械変換素子において、前記圧電体は、分極方向および電界方向が前記基板に対して垂直となるように、前記2つの電極で挟まれて配置されていてもよい。
【0023】
圧電体の分極方向および電界方向が基板に対して垂直の場合、分極方向(電界方向)に垂直な方向(d31方向)の圧電体の変形(d31変形)を利用して、電気機械変換素子を駆動することができる。
【0024】
本発明の電気機械変換素子において、前記一方の電極は、前記圧電体に対して前記基板とは反対側に位置する上電極で構成されており、前記他方の電極は、前記圧電体に対して前記基板側に位置する下電極で構成されていてもよい。
【0025】
上電極が、圧電体を貫通する連結部を介して、圧電体よりも下方の第1の電極取出層と連結されているので、素子表面に上電極の取り出し用の配線を設けることなく、上電極を取り出すことができる。これにより、圧電体のd31変形を利用した電気機械変換素子において、上記配線による圧電体の変位量の低下を回避して、特性の低下を回避することができる。
【0026】
本発明の電気機械変換素子において、前記圧電体は、分極方向および電界方向が前記基板に平行となるように、前記2つの電極で挟まれて配置されていてもよい。
【0027】
圧電体の分極方向および電界方向が基板に平行な場合、分極方向(電界方向)に平行な方向(d33方向)の圧電体の変形(d33変形)を利用して、電気機械変換素子を駆動することができる。また、同じ条件(例えば同じ駆動電界)では、d33方向の圧電体の変位量は、d31方向の圧電体の変位量よりも大きいため、電気機械変換素子としての出力や感度を増大させることができる。
【0028】
本発明の電気機械変換素子において、前記圧電体には、前記連結部が挿通される貫通孔が形成されており、前記一方の電極は、前記圧電体の前記貫通孔に位置して、前記連結部の一部を兼ねる内電極で構成されており、前記他方の電極は、前記内電極と前記圧電体を介して対向する外電極で構成されていてもよい。
【0029】
圧電体の貫通孔に位置する内電極が、連結部を介して、圧電体よりも下方の第1の電極取出層と連結されているので、素子表面に内電極の取り出し用の配線を設けることなく、内電極を取り出すことができる。これにより、圧電体のd33変形を利用した電気機械変換素子において、上記配線による圧電体の変位量の低下を回避して、特性の低下を回避することができる。また、内電極が連結部の一部を兼ねているので、素子の構成を簡素化することができる。
【0030】
本発明の電気機械変換素子において、前記他方の電極は、前記連結部と非接触で配置されていることが望ましい。
【0031】
この場合、一方の電極を、連結部を介して、他方の電極と接触させることなく第1の電極取出層と導通させることができ、一方の電極と他方の電極との絶縁性を確保することができる。
【0032】
本発明の電気機械変換素子において、前記第2の電極取出層は、前記他方の電極の少なくとも一部と同層に設けられていてもよい。
【0033】
他方の電極の形成(成膜)の際に、第2の電極取出層を同時に形成することができ、製造工程を簡略化することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、一方の電極が、圧電体を貫通する連結部を介して、圧電体下方の第1の電極取出層と連結されているので、素子表面に圧電体の上面から圧電体の外表面に沿う配線を設けることなく、一方の電極を取り出すことができる。したがって、上記配線を設けることによる特性の低下や上記配線の劣化の問題が生じることはなく、信頼性の高い電気機械変換素子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態1の電気機械変換素子の概略の構成を示す斜視図(一部は断面図)である。
【図2】(a)〜(d)は、上記電気機械変換素子の製造工程を示す断面図である。
【図3】(a)〜(c)は、上記電気機械変換素子の製造工程を示す断面図である。
【図4】(a)〜(c)は、上記電気機械変換素子の製造工程を示す断面図である。
【図5】上記電気機械変換素子の他の構成を示す斜視図(一部は断面図)である。
【図6】本発明の実施の形態2の電気機械変換素子の概略の構成を示す斜視図(一部は断面図)である。
【図7】上記電気機械変換素子の他の構成を示す斜視図(一部は断面図)である。
【図8】従来の電気機械変換素子の概略の構成を示す斜視図(一部は断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
〔実施の形態1〕
本発明の実施の一形態について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0037】
(電気機械変換素子の構成)
図1は、本実施形態の電気機械変換素子1の概略の構成を示す斜視図(一部は断面図)である。電気機械変換素子1は、基板2上に、第1の絶縁層3と、第1の電極取出層4と、第2の絶縁層5と、駆動膜6とをこの順で積層して構成されている。駆動膜6は、基板2側から、下電極7と、圧電体8と、上電極9とを有している。
【0038】
基板2は、酸化膜を介して2枚のSi基板11・12が接合されたSOI(Silicon on Insulator)基板で構成されている。一方のSi基板11には、断面円形の圧力室11aが形成されており、ここに例えばインクが充填される。他方のSi基板12は、圧力室11aの上壁を構成しているとともに、駆動膜6の変位に伴って変位する従動膜を構成している。なお、基板2は、1枚のSi基板を所定形状に加工することにより、圧力室11aおよび従動膜を有する基板として構成されてもよい。第1の絶縁層3は、Si基板12と第1の電極取出層4とを絶縁する目的で設けられている。
【0039】
第1の電極取出層4は、駆動膜6の圧電体8を挟む2つの電極の一方(ここでは上電極9)と導通する層である。この第1の電極取出層4は、圧電体8および後述する第2の電極取出層10よりも下方、すなわち、基板2側に位置している。第1の電極取出層4は、第2の絶縁層5の開口部5bから突出する突出部4aを有しており、この突出部4aを介して、第1の電極取出層4に対して電気信号の入出力が行われる。
【0040】
第2の絶縁層5は、第1の電極取出層4と、下電極7、圧電体8および第2の電極取出層10とを絶縁する目的で設けられている。上記した開口部5bは、第2の絶縁層5において、圧力室11aの外側に形成されている。
【0041】
圧電体8は、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電材料を薄膜で形成したものである。この圧電体8は、圧力室11aの上方に位置しており、上電極9(一方の電極)および下電極7(他方の電極)で挟まれている。上電極9は、圧電体8に対して基板2とは反対側に位置しており、下電極7は、圧電体8に対して基板2側に位置している。したがって、圧電体8の電界方向(電圧印加方向)は、基板2に対して垂直方向となる。
【0042】
また、図1の構成では、圧電体8は、基板2に垂直な方向(基板面に垂直な方向)に分極されている。なお、図1における矢印は、圧電体8の分極方向を示している。よって、圧電体8は、分極方向および電界方向が両方とも基板2に垂直となるように、上電極9および下電極7で挟まれて配置されていると言うことができる。
【0043】
第2の絶縁層5上には、第2の電極取出層10が設けられている。第2の電極取出層10は、下電極7と同層で設けられて、下電極7と導通している。下電極7に対する電気信号の入出力は、第2の電極取出層10を介して行われる。
【0044】
上記した上電極9、圧電体8および第2の絶縁層5には、基板2に垂直な上下方向に貫通する貫通孔9a・8a・5aがそれぞれ形成されている。そして、これらの貫通孔9a・8a・5aには、貫通方向に伸びる棒状の連結部21が設けられている。したがって、連結部21は、圧電体8を基板2に垂直な方向に貫通して設けられていることになる。この連結部21により、上電極9と第1の電極取出層4とが連結され、電気的に導通している。連結部21は、例えば上電極9と同じ金属材料で構成される。
【0045】
なお、貫通孔9a・8a・5aの直径(連結部21の直径)は、使用する電圧、電流、電極材料の充填性などにより決定されるが、例えば5〜10μmである。
【0046】
なお、上電極9に貫通孔9aを形成せずに、連結部21の上面と上電極9の下面とを当接させる構成であってもよい。また、上電極9と連結部21とは一体化されていてもよい。
【0047】
また、下電極7にも貫通孔7aが形成されており、この貫通孔7aに圧電体8が入り込んでいる。下電極7の貫通孔7aは、圧電体8の貫通孔8aおよび貫通孔8aを通る連結部21よりも大径で形成されており、下電極7は、連結部21と非接触で配置されている。したがって、上電極9を、連結部21を介して、下電極7と接触させることなく第1の電極取出層4と導通させることができ、上電極9と下電極7との絶縁性を確保することができる。
【0048】
なお、貫通孔7aの直径は、上電極9と下電極7との絶縁性により決定されるが、例えば20〜50μm程度である。
【0049】
(電気機械変換素子の製造方法)
次に、上記した構成の電気機械変換素子1の製造方法について説明する。図2(a)〜図2(d)、図3(a)〜図3(c)、図4(a)〜図4(c)は、電気機械変換素子1の製造工程を示す断面図である。
【0050】
まず、図2(a)に示すように、基板2として、例えばMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の分野でよく利用されているSOI基板を用意する。なお、SOI基板は、上述したように、酸化膜を介して2枚のSi基板11・12を接合したものである。
【0051】
次に、図2(b)に示すように、基板2を加熱炉に入れて1000℃程度で所定時間保持し、基板2の表面に、厚さが100nm程度の熱酸化膜(石英:SiO)からなる第1の絶縁層3を形成する。
【0052】
続いて、図2(c)に示すように、基板2を300℃程度に加熱して、スパッタ法でTi/Pt層を100nm程度の厚さで形成し、第1の絶縁層3上に第1の電極取出層4を形成する。
【0053】
次に、図2(d)に示すように、基板2を600℃程度に加熱し、スパッタ法でMgOやSrOを100nm程度の厚さで成膜し、第1の電極取出層4上に第2の絶縁層5を形成する。
【0054】
続いて、図3(a)に示すように、基板2を300℃程度に加熱し、スパッタ法でTi/Pt層を100nm程度の厚さで形成し、第2の絶縁層5上に下電極7およびこれと導通する第2の電極取出層10を同時に形成する。なお、第2の絶縁層5としてのMgOやSrO、下電極7および第2の電極取出層10としてのPtは、格子定数がPZTと近いため、PZTの結晶成長を促進する役割も果たす。
【0055】
次に、図3(b)に示すように、下電極7の中心にウェットエッチング法で直径50μmの穴を開けて、貫通孔7aを形成する。その後、基板2を600℃程度に加熱し、スパッタ法でチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を3μm程度の厚さで成膜し、下電極7の貫通孔7a内と、下電極7および第2の電極取出層10上に、圧電体8を形成する。
【0056】
続いて、図3(c)に示すように、圧電体8の中心および第2の絶縁層5の中心にウェットエッチング法で直径10μmの穴を開けて、貫通孔8a・5aをそれぞれ形成する。
【0057】
その後、図4(a)に示すように、基板2を300℃程度に加熱し、貫通孔8a・5a内にスパッタ法でTiからなる連結部21を形成する。そして、連結部21および圧電体8の上に、Ti/Au層を100nm程度の厚さで成膜し、上電極9を形成する。
【0058】
次に、図4(b)に示すように、圧電体8と上電極9とをウェットエッチング法で外径が100μmとなるように加工する。その後、図4(c)に示すように、Si基板11の中心に反応性イオンエッチング法で直径120μmの穴を開けて、圧力室11aを形成する。
【0059】
最後に、図示はしないが、第2の絶縁層5における圧力室11aの外側の位置に開口部5b(図1参照)を形成し、この開口部5b内に第1の電極取出層4と同じ金属材料(例えばPt)をスパッタし、第1の電極取出層4と導通する突出部4aを形成する。これにより、電気機械変換素子1が完成する。なお、開口部5bの上方に位置する下電極7および第2の電極取出層10については、エッチングによって予め除去しておけばよい。
【0060】
(動作について)
次に、上記した電気機械変換素子1の動作について説明する。図1において、駆動膜6の圧電体8は、分極方向および電界方向が両方とも基板2に垂直となるように、上電極9および下電極7で挟まれて配置されている。この構成では、駆動膜6の上電極9と下電極7との間に電圧を印加すると、圧電体8が圧電効果により、基板2に垂直な方向、つまり、分極方向および電界方向に平行なd33方向に伸縮するとともに、基板2に平行な方向、つまり、分極方向および電界方向に垂直なd31方向に伸縮する。
【0061】
このように圧電体8が伸縮すると、従動膜であるSi基板12との長さの違いによって、駆動膜6に曲率が生じ、駆動膜6が基板2に垂直な方向に変位する。これにより、圧力室11a内の圧力を高めて、圧力室11aから図示しないノズルを介してインクを吐出させることができる。
【0062】
ここで、本実施形態では、第1の電極取出層4は、圧電体8よりも下方、つまり、基板2側に位置している。そして、上電極9は、圧電体8の内部を貫通する連結部21を介して、第1の電極取出層4と連結されている。これにより、従来のように、素子表面に、圧電体8の上面(基板2と反対側の面)から圧電体8の外表面に沿うような配線を設けることなく、上電極9を取り出すことができる。つまり、圧電体8を貫通する連結部21、および圧電体8の下方に位置する第1の電極取出層4を介して、上電極9に電圧を印加することが可能となる。
【0063】
したがって、素子表面に設けられる上記配線に起因するような特性劣化や上記配線の劣化の問題が生じることはなく、信頼性の高い電気機械変換素子1を実現することができる。
【0064】
また、本実施形態では、上電極9を取り出すための第1の電極取出層4が、駆動膜6に対して従動膜側(基板2側)に設けられており、変位する駆動膜6(下電極7よりも基板2と反対側)には設けられていない。これにより、上電極9を取り出すべく、第1の電極取出層4を設ける構成としても、その第1の電極取出層4が駆動膜6の変位を阻害することはない。したがって、第1の電極取出層4を設けることによって、素子の特性が低下することはない。
【0065】
なお、圧電体8の中心付近の変形は少ないため、圧電体8の中心付近を通る連結部21は、圧電体8の変形の妨げにはならず、連結部21を設けることによる特性の低下は生じない。また、圧電体8の変形時に連結部21に働く力も小さいため、連結部21の劣化(破損、剥離、亀裂など)が生じることもない。
【0066】
また、圧電体8は、分極方向および電界方向が基板2に対して垂直となるように、上電極9および下電極7で挟まれて配置されているので、分極方向に垂直な方向(基板2に平行な方向)の圧電体8のd31変形を利用して、電気機械変換素子1を駆動することができる。
【0067】
しかも、圧電体8を挟む2つの電極のうち、圧電体8に対して基板2とは反対側に位置する上電極9が、連結部21を介して第1の電極取出層4と連結されているので、素子表面に上電極9の取り出し用の配線を設けることなく、上電極9を取り出して、圧電体8のd31変形による駆動を実現することができる。
【0068】
また、圧電体8を挟む2つの電極のうち、圧電体8に対して基板2側に位置する下電極7は、第2の電極取出層10と導通している。この第2の電極取出層10は、下電極7と同層で設けられているので、下電極7の形成の際に、第2の電極取出層10を同時に形成することができ、製造工程を簡略化することができる。
【0069】
ところで、図5は、本実施形態の電気機械変換素子1の他の構成を示す斜視図(一部は断面図)である。同図のように、第2の電極取出層10は、下電極7よりも下方(基板2側)に設けられていてもよい。この場合、下電極7は、第2の電極取出層10の上に第3の絶縁層13を介して形成され、第2の電極取出層10は、第3の絶縁層13を貫通する連結部22を介して下電極7と導通する。また、第2の電極取出層10には、第3の絶縁層13を貫通して外部に突出する突出部10aが形成されており、この突出部10aを介して、第2の電極取出層10に対する電気信号の入出力が行われる。
【0070】
このように、下電極7と第2の電極取出層10とが同層で設けられていなくても、上電極9が連結部21を介して第1の電極取出層4と連結されている限り、上述した本実施形態の効果を得ることができる。
【0071】
なお、図示はしないが、第1の電極取出層4は、圧電体8よりも下方(基板2側)に設けられるのであれば、第2の電極取出層10よりも上方に設けられていてもよい。この場合でも、上電極9が連結部21を介して第1の電極取出層4と連結されている限り、上述した本実施形態の効果を得ることができる。
【0072】
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施の形態について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、説明の便宜上、実施の形態1と同一の構成には同一の部材番号を付記し、その説明を省略する。
【0073】
図6は、本実施形態の電気機械変換素子1の概略の構成を示す斜視図(一部は断面図)である。本実施形態の電気機械変換素子1は、基板2上に、第1の絶縁層3と、第1の電極取出層4と、第2の絶縁層5と、駆動膜6とをこの順で積層して構成されている。ただし、本実施形態では、駆動膜6の圧電体は、分極方向および電界方向が基板2に平行となるように、2つの電極で挟まれて配置されている。
【0074】
具体的には、駆動膜6は、内電極31(一方の電極)と、圧電体32と、外電極33(他方の電極)とを有している。圧電体32はリング状に形成されて、第2の絶縁層5上に設けられている。本実施形態では、圧電体32の分極方向は、図6の矢印で示すように、基板2に平行となっている。
【0075】
内電極31は、圧電体32の内周部、すなわち、圧電体32の貫通孔32aに位置しており、貫通孔32aの内面と接触してリング状に形成されている。
【0076】
外電極33は、圧電体32の外周部、すなわち、内電極31と圧電体32を介して対向する位置に形成されており、圧電体32の外周面と接触してリング状に形成されている。外電極33は、第2の絶縁層5上に設けられた第2の電極取出層10と導通しており、一部は第2の電極取出層10と同層で設けられている。また、外電極33は、連結部21よりも大径で構成されて、連結部21とは非接触で配置されている。
【0077】
第1の電極取出層4は、圧電体32よりも基板2側に位置している。第1の電極取出層4には、貫通孔4bが形成されており、連結部21が、圧電体32の貫通孔32a、第2の絶縁層5の貫通孔5aおよび第1の電極取出層4の貫通孔4bを通ってこれらの内面と接触するように筒状に設けられている。したがって、連結部21は、圧電体32を基板2に垂直な方向に貫通している。この構成により、内電極31と第1の電極取出層4とが連結部21を介して連結されている。なお、第1の電極取出層4に貫通孔4bを形成せずに、第1の電極取出層4の上面に連結部21が当接する構成となっていてもよい。
【0078】
本実施形態では、連結部21は、内電極31と同一の金属材料で形成されており、連結部21の一部が内電極31を兼ねている。このため、圧電体32の内径(連結部21の外径)を例えば20〜30μmに広げて、連結部21と圧電体32との接触面積(内電極31と圧電体32との接触面積)を増やしている。
【0079】
上記の構成において、駆動膜6の圧電体32は、分極方向および電界方向が両方とも基板2に平行となるように、内電極31および外電極33で挟まれて配置されている。この構成では、駆動膜6の内電極31および外電極33との間に電圧を印加すると、圧電体32が圧電効果により、基板2に垂直な方向、つまり、分極方向および電界方向に垂直なd31方向に伸縮するとともに、基板2に平行な方向、つまり、分極方向および電界方向に平行なd33方向に伸縮する。
【0080】
このように圧電体32が伸縮すると、従動膜であるSi基板12との長さの違いによって、駆動膜6に曲率が生じ、駆動膜6が基板2に垂直な方向(上下方向)に変位する。これにより、圧力室11a内の圧力を高めて、圧力室11aから図示しないノズルを介してインクを吐出させることができる。
【0081】
本実施形態では、第1の電極取出層4は、圧電体32よりも下方、つまり、基板2側に位置している。そして、内電極31は、圧電体32を貫通する連結部21を介して、第1の電極取出層4と連結されている。これにより、素子表面に、圧電体32の上面(基板2と反対側の面)から圧電体32の外表面に沿うような配線を設けることなく、内電極31を取り出すことができる。つまり、連結部21および第1の電極取出層4を介して、内電極31に電圧を印加することが可能となる。
【0082】
したがって、上記配線に起因するような特性劣化や上記配線の劣化の問題が生じることはなく、信頼性の高い電気機械変換素子1を実現することができる。
【0083】
また、圧電体に対する駆動電界(電圧)を一定とした場合、圧電体のd31方向の変位は、d33方向の変位の1/3〜1/2と小さい。したがって、分極方向および電界方向が基板2と平行になるように圧電体32を配置して、d33方向の変位を利用して駆動膜6を上下方向に変位させることにより、実施の形態1のように、分極方向および電界方向が基板2と垂直となるように圧電体8を配置して、d31方向の変位を利用して駆動膜6を上下方向に変位させる構成に比べて、駆動膜6を上下方向に大きく変位させることができる。これにより、電気機械変換素子1としての出力や感度を増大させることができる。
【0084】
また、本実施形態では、特に、内電極31が連結部21を介して第1の電極取出層4と連結されているので、素子表面に内電極31の取り出し用の配線を設けることなく、内電極31を取り出して、圧電体32のd33変形を利用した駆動を実現することができる。
【0085】
また、連結部21の一部は内電極31を兼ねているので、連結部21と内電極31とを別々に構成する場合に比べて、素子の構成を簡素化することができる。
【0086】
ところで、図7は、本実施形態の電気機械変換素子1の他の構成を示す斜視図(一部は断面図)である。同図のように、連結部21は筒状ではなく、棒状に形成されていてもよい。したがって、連結部21の一部を構成する内電極31は、リング状ではなく、棒状に形成されていてもよい。この場合でも、内電極31が連結部21を介して第1の電極取出層4と連結されている限り、上述した本実施形態の効果を得ることができる。
【0087】
なお、上述した各実施の形態では、電気機械変換素子1をインクジェットプリンタのアクチュエータとして用いた例について説明したが、電気機械変換素子1をセンサとして用いることもできる。つまり、電気機械変換素子1の駆動膜6に対して外部から圧力が加わると、駆動膜6に曲率が生じて応力が働き、圧電効果によって駆動膜6に電界が生じる。したがって、駆動膜6に生じた電界の振幅、周期、位相を、駆動膜6の2つの電極を介して検出することにより、電気機械変換素子1を圧力、振動、音波などを検知するセンサとしても用いることができる。このように、電気機械変換素子1をセンサとして用いる場合でも、圧電体の上面から外表面に沿う配線を設けなくても済むので、上記配線による特性低下を回避して、素子の信頼性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の電気機械変換素子は、例えば、インクジェットプリンタのアクチュエータや各種のセンサに利用可能である。
【符号の説明】
【0089】
1 電気機械変換素子
2 基板
4 第1の電極取出層
7 下電極(他方の電極)
8 圧電体
8a 貫通孔
9 上電極(一方の電極)
10 第2の電極取出層
21 連結部
31 内電極(一方の電極)
32 圧電体
32a 貫通孔
33 外電極(他方の電極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜からなる圧電体と、
前記圧電体を挟む2つの電極と、
一方の電極と導通する第1の電極取出層と、
他方の電極と導通する第2の電極取出層とを基板上に有し、
前記第1の電極取出層は、前記圧電体よりも前記基板側に位置しており、
前記一方の電極は、前記圧電体を前記基板に垂直な方向に貫通する連結部を介して、前記第1の電極取出層と連結されていることを特徴とする電気機械変換素子。
【請求項2】
前記圧電体は、分極方向および電界方向が前記基板に対して垂直となるように、前記2つの電極で挟まれて配置されていることを特徴とする請求項1に記載の電気機械変換素子。
【請求項3】
前記一方の電極は、前記圧電体に対して前記基板とは反対側に位置する上電極で構成されており、
前記他方の電極は、前記圧電体に対して前記基板側に位置する下電極で構成されていることを特徴とする請求項2に記載の電気機械変換素子。
【請求項4】
前記圧電体は、分極方向および電界方向が前記基板に平行となるように、前記2つの電極で挟まれて配置されていることを特徴とする請求項1に記載の電気機械変換素子。
【請求項5】
前記圧電体には、前記連結部が挿通される貫通孔が形成されており、
前記一方の電極は、前記圧電体の前記貫通孔に位置して、前記連結部の一部を兼ねる内電極で構成されており、
前記他方の電極は、前記内電極と前記圧電体を介して対向する外電極で構成されていることを特徴とする請求項4に記載の電気機械変換素子。
【請求項6】
前記他方の電極は、前記連結部と非接触で配置されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の電気機械変換素子。
【請求項7】
前記第2の電極取出層は、前記他方の電極の少なくとも一部と同層に設けられていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の電気機械変換素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−33783(P2013−33783A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167937(P2011−167937)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】