説明

電気的な多層構成部材及び層スタック

【課題】電気的な多層構成部材を改善して、内側電極における亀裂発生のおそれを簡単に避けること。
【解決手段】本発明は、電気的な多層構成部材に関し、該構成部材が1つの縦軸線に沿って配置して互いに重ねられた複数のセラミック性の層及び、該層間に位置する電極層を備えており、この場合に、前記縦軸線の少なくとも1つの箇所で2つのセラミック層間に1つのセラミック性の目標破断層を設けてあり、該目標破断層は縦軸線方向の引っ張り応力に対して、前記セラミック層に比べて低い安定性を有している。さらに本発明は、多層構成部材の製造に適した層スタックに関する。目標破断層の低くされた安定性によって、構成部材内の亀裂の不都合な発生が避けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的な多層構成部材であって、互いに重ねられた複数のセラミック層及び、該セラミック層間に位置する電極層を備えている形式のものに関する。さらに本発明は層スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
公知の圧電アクチュエータにおいては、1つのスタック内に、互いに重ねられた圧電セラミック性の層を配置してある。セラミック性の層間には内側電極を配置してある。重ねられた各2つの電極層への電圧の印加で発生する電界によってセラミック性の層は、圧電効果に基づき微小なひずみを生ぜしめる。互いに重ねられたセラミック性の層のひずみは、スタックの長手方向で合計される。
【0003】
圧電アクチュエータにおいて内側電極の外側接触を簡単な手段で行うために、通常は圧電アクチュエータの縁部でいわゆる不活性の1つの領域には、同じ電極に属する内側電極のみを重ねてある。別の電極に所属する内側電極は、前記領域でアクチュエータの縁部までは延びておらず、即ちアクチュエータの内部の区分内に限定されている。活性の領域、即ち両方の電極の電極層を互いに重ねてある中央の領域とは異なって、不活性領域では圧電性の層は電圧の印加に際してほとんどひずみを生ぜしめず、その結果、アクチュエータの縁部の不活性領域は、活性領域のひずみに起因する引っ張り応力にさらされることになる。重ねられた圧電性の層の数並びに印加される電圧の大きさに応じて、不活性領域の縁に発生する引っ張り応力も大きくなる。
【0004】
このような引っ張り応力は、圧電アクチュエータの作動に際し若しくは圧電性層内の分極に際して圧電アクチュエータの縁部領域に亀裂を生ぜしめてしまうことになる。亀裂は圧電アクチュエータの運転時間の経過に伴って圧電アクチュエータの内部へ進行して、活性領域で内側電極を裂断してしまう。このような裂断は構成部材内で電流遮断、若しくは焼損、或いは内部短絡を生ぜしめてしまう。内側電極内での亀裂を避けることは試みられている。
【0005】
亀裂の回避のために特許文献1に記載の手段では、圧電アクチュエータを複数の部分アクチュエータに区分けしてあり、この場合に部分アクチュエータは該部分アクチュエータの製造の後に互いに積み重ねられて、接着によって互いに結合されるようになっている。不活性領域の内側の境界に生じる引っ張り応力は、もはやアクチュエータの全高さにわたって合計されることはなくなっている。各個別の部分アクチュエータ内でのみ作用する引っ張り応力は、部分アクチュエータの重ねられた層の数が少ないので小さい。
【0006】
前記特許文献1に記載の手段においては欠点として、複数の部分アクチュエータを互いに積み重ねた状態での寸法精度が極めて低い。さらに、複数の部分アクチュエータの相互の積み重ねは追加的な製造工程を必要とし、その結果、追加的な費用が生じる。
【0007】
圧電アクチュエータの内側電極内の亀裂を避けるために、さらに特許文献2に記載の手段では、不活性領域を互いに90°ずらした積み重ねによって圧電アクチュエータの全周にわたって分配するようになっている。このような構成においては欠点として、外側接続が煩雑であり、即ち圧電アクチュエータは4つのすべての側面で接続されなければならない。
【0008】
さらに特許文献3に記載の手段においては、不活性領域の箇所における内側電極層の厚さを不活性領域内に付加的に設けられた絶縁性補償層によって補償するようになっている。このような手段は、圧電アクチュエータの製造過程を煩雑にして不都合である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】ドイツ連邦共和国特許出願公開第19928178号明細書
【特許文献2】ドイツ連邦共和国特許出願公開第19802302号明細書
【特許文献3】ドイツ連邦共和国特許出願公開第10016428号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って本発明の課題は、電気的な多層構成部材を改善して、内側電極における亀裂発生のおそれを簡単に避けることができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題は、請求項1に記載の電気的な多層構成部材によって解決される。多層構成部材の有利な実施態様が従属請求項に記載してある。層スタックを別の請求項に記載してある。
【0012】
本発明に基づく電気的な多層構成部材は、重ねられた複数のセラミック性の層(セラミック層)を有している。セラミック層は構成部材の縦軸線に沿って配置されている。セラミック層間に電極層を配置してある。さらに縦軸線の少なくとも1つの箇所でセラミック層間にセラミック質の1つの目標破断層(目標裂断層)を設けてあり、該目標破断層は縦軸線方向の引っ張り応力に対して、セラミック層に比べて低い安定性若しくは低い強度を有している。
【0013】
前記構造の多層構成部材においては利点として、構成部材内で縦軸線に対して垂直に発生する亀裂は目標破断層に生ぜしめられ、それというのは目標破断層の、引っ張り応力に対する安定性は最小になっているからである。亀裂の広がり若しくは進行は目標破断層に沿ってのみ行われ、その結果、電極層の亀裂を確実に避けている。
【0014】
電気的な構成部材の実施態様では、目標破断層の低い安定性は、目標破断層がセラミック層に比べて高い多孔性を有していることによって達成される。
【0015】
有利には構成部材は、互いに重ねられたセラミック性のグリーンシート及び該グリーンシート間に配置された電極層から成るスタックの焼結によって製造される。このようなスタックから成るモノリシック(一体式)の構成部材は、簡単かつ安価に製造可能でありかつ後続の処理過程にとって十分な機械的な安定性を有している。
【0016】
構成部材の、縦軸線の方向に作用する引っ張り応力に起因する最大負荷をさらに減少させるために、縦軸線の複数の箇所に目標破断層を設けてある。これによって構成部材は目標破断層を介して複数の部分・構成部材に区分けされ、この場合に各部分・構成部材は引っ張り応力による負荷に関して互いに分離されたもの若しくは独立したものと見なされる。即ち、構成部材の全長にわたって引っ張り応力が合計されることはなく、従って構成部材内に不都合な亀裂を生ぜしめることにならない。
【0017】
セラミック性の多層構成部材の多孔性の層は、特に外部から構成部材の微小孔内に侵入する液体及びガスに関連して電位的に弱い箇所を成すものである。従って有利には、目標破断層を構成部材の作動時の電場から遠ざけて、不都合なマイグレーション効果(migration effect)を避けるようになっている。このことを達成するために、目標破断層に最も近く隣接する両方の電極層は構成部材の同一の電極に所属して配置されている。これによって、電場は目標破断層上にはほとんど生ぜしめられない。
【0018】
構成部材の実施態様では、目標破断層の多孔性はセラミック層の多孔性に比べて1.2乃至3倍高くなっている。多孔性のこのような比若しくは増大値は次のような方法によって得られる。即ち、構成部材は縦方向研磨面で考察される。セラミック層内にも目標破断層内にも現れる微小孔は、微小孔の周囲のセラミック材料の色若しくは明暗・コントラストによって異なっている。各種の層にとって、即ちセラミック層及び目標破断層にとって単位面積当たりの微小孔の面積割合を求める。微小孔の両方の面積割合の商値(quotient)は、多孔性の増大値若しくは割増量を表している。
【0019】
多孔性は理論的に可能な密度の比で表されてもよい。この場合にはセラミック層は理論的な密度のほぼ97〜98%の密度を有しており、目標破断層は理論的な密度の90〜95%の密度を有している。
【0020】
さらに有利には、目標破断層はセラミック層と同一の材料で形成されている。これによって構成部材の材料の種類を少なくでき、その結果、構成部材の製造のための後続の過程、例えば結合剤除去並びに焼結を簡単に実施できて有利である。
【0021】
本発明に基づく電気的な多層構成部材は圧電アクチュエータとして有利に用いられる。圧電アクチュエータは作動に際して活性領域と不活性領域との間の境界面に引っ張り応力を発生させるものの、該引っ張り応力は目標破断層によって補償され、その結果、セラミック層内の内側電極の亀裂若しくは裂断を避けることができる。
【0022】
さらに、本発明に基づく前述の多層構成部材の製造のために適した層スタックを提供する。このような層スタックは、互いに積み重ねられたセラミック性のグリーンシートを有しており、該グリーンシートはセラミック粉末及び有機質の結合剤を含んでいる。該グリーンシートのうちの少なくとも1つは、残りのグリーンシートに比べて結合材の高められた体積含有率を有している。
【0023】
前記層スタックにおいては利点として、層スタックの1つ若しくは複数のグリーンシート内の結合剤の割合を高めることによって、多孔性の高いセラミック質の層の成形が可能である。結合剤は焼結の前に脱炭過程によって除去され、層内の高い割合の結合剤の存在する箇所に微小孔が形成される。
【0024】
結合材の体積含有率は1.5乃至3倍高められていると有利である。これにより、セラミック層内にセラミック粉末の少なすぎる箇所が存在するというおそれは避けられ、その結果、焼結の後には1つのモノリシックの構成部材ではなく、すでに作動前に若しくは使用前に個別の部分・構成部材に区分けされた1つの構成部材が得られる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、亀裂の広がり若しくは進行は目標破断層に沿ってのみ行われ、その結果、電極層の亀裂を確実に避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に基づく構成部材の斜視図。
【図2】図1の構成部材の部分縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に本発明を図示の実施例に基づき詳細に説明する。図面において、図1は本発明に基づく多層構成部材の実施例の斜視図であり、図2は図1の構成部材の部分縦断面図である。
【0028】
図1及び図2には圧電式のアクチュエータを示してあり、アクチュエータは複数のセラミック層1を仮想の1つの縦軸線3に沿って互いに上下に積層することによって形成されている。セラミック層1のためのセラミック材料としては特に、例えばPb096Cu002Nd002(Zr054Ti046)O3の組成のPZT-セラミックを用いるとよい。
【0029】
さらに電極層2a,2bを設けてあり、電極層はそれぞれ隣接の2つのセラミック層1間に配置されている。この場合に電極層2aは、電気的な構成部材の一方の電極に対応して配置されており、電極層2bは電気的な構成部材の他方の電極に対応して配置されている。電気的な構成部材の右側の縁部まで達している電極層2bは、外側接点部材51によって互いに導電接続されており、かつ外側接点部材51は電圧源の1つの電極の印加を可能にしている。
【0030】
電気的な構成部材の左側の縁部まで達している電極層2aは、該構成部材の左側に配置されているものの図1では見えない外側接点部材52によって互いに導電接続されている。外側接点部材52に、電圧源の別の電極を接続するようになっている。
【0031】
不活性領域7の範囲では、電極層2a,2bは互いにオーバーラップされておらず、即ち1つの極の電極層、例えば電極層2a(図2、参照)のみが、不活性領域7に存在している。不活性領域7の内側の縁に生じる引っ張り応力(矢印8で示す)が圧電アクチュエータの内部へ不都合に伝播するのを防止するために、圧電アクチュエータの縦軸線3に沿って分配された目標破断層4を設けてあり、該目標破断層(目標裂断層)においては多孔性をセラミック層1に比べて増してある。従って亀裂6は、目標破断層4内に存在する微小孔を伝って広がりやすくなっており、このことは亀裂6を目標破断層4に沿って切り開く、即ち進行させ若しくは導くことにつながる。その結果、亀裂6が上方へ若しくは下方へそれて電極層2a又は2bを破断して損傷させてしまうというようなおそれは避けられる。
【0032】
目標破断層4を圧電アクチュエータの作動時にもできるだけ電場なしに保つために、図2に示してあるように、目標破断層4に隣接の電極層2aは圧電アクチュエータの同じ電極に対応して配置されている。
【0033】
縦軸線3に沿った目標破断層4の分配は次のように行われており、即ち、目標破断層によって区分けされて成る各部分アクチュエータ9は、通常の作動時に若しくは圧電アクチュエータの分極の際に発生する引っ張り応力がアクチュエータ内に亀裂を生ぜしめ得ないような低い高さで形成されている。
【0034】
例えば30mmの高さの圧電アクチュエータにおいては、該圧電アクチュエータを9つの目標破断層4によって10個の部分アクチュエータ9に区分けしてあり、各部分アクチュエータは3mmの高さを有している。3mmの高さは、本発明の実施例ではセラミック層1の37枚の数に相当する。
【0035】
電極層2a,2bの材料としては、例えば銀及びパラジウムから成る混合物が考えられ、これは圧電活性作用のセラミック層と一緒の焼結に適している。さらに、銅を含む若しくは完全に銅から成る電極層2a,2bも使用可能である。
【0036】
図1及び図2に示す圧電アクチュエータの製造は、層スタック(layer stack)を用いて行われ、層スタックの外観は図1及び図2に示す構成部材とほぼ同じであり、層スタックには外側接点部材51,52も亀裂6も存在していない。セラミック層、電極層及び目標破断層から成る構造は、1つの層スタックの構造に相当しており、セラミック層は前段階ではセラミック粉末及び有機質の結合剤を含むグリーンシートとして形成されている。電極層は金属粉末含有のペーストとして形成されている。目標破断層は、セラミック層と同様にグリーンシートとして形成されており、後に目標破断層として処理されるべき層の有機質の結合剤の割合は、残りのセラミック性の層に比べて高くなっている。例として、セラミック性の層のために用いられるグリーンシートは、有機質の結合剤の30%の体積含有率を有している。層スタックの特定の層の体積含有率を高めるために、特定の層の体積含有率は50乃至60%に高められてよい。有機質の結合剤のこのような体積含有率においては、シート成形に際してセラミック粉末が集塊するというような問題は生じない。
【0037】
構成部材は、層スタック内に存在する複数の層を一緒に焼結することによって成形される。焼結成形は唯一の製造工程で行われる。
【0038】
前述の電気的な多層構成部材は、前記セラミック材料に限定されるものではない。圧電効果を有するあらゆるセラミック材料を用いることが可能である。さらに構成部材は圧電アクチュエータに限定されるものではない。電気的な機能を生ぜしめるあらゆるセラミック材料と用いることも可能である。該構成部材は特に、縦方向若しくは長手方向の引っ張り負荷にさらされる箇所に用いられ得るものである。
【符号の説明】
【0039】
1 セラミック層、 2a,2b 電極層、 3 縦軸線、 4 目標破断層、 9 部分構成部材、 51,52 外側接点部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的な多層構成部材であって、
1つの縦軸線(3)に沿って配置して互いに重ねられた複数のセラミック層(1)及び、
前記セラミック層間に位置する電極層(2a,2b)を備えており、
前記縦軸線(3)の少なくとも1つの箇所で2つのセラミック層(1)間にセラミック性の目標破断層(4)を設けてあり、該目標破断層は縦軸線方向の引っ張り応力(8)に対して、前記セラミック層(1)に比べて低い安定性を有していることを特徴とする多層構成部材。
【請求項2】
目標破断層(4)はセラミック層(1)よりも高い多孔性を有している請求項1に記載の構成部材。
【請求項3】
焼結によって製造可能なモノリシックの構成部材として形成してある請求項1又は2に記載の構成部材。
【請求項4】
多層構成部材の縦軸線(3)の複数の箇所に目標破断層(4)を設けてある請求項1から3のいずれか1項に記載の構成部材。
【請求項5】
各1つの目標破断層(4)に隣接の電極層(2a,2b)は、構成部材の同じ電極に所属して配置されている請求項1から4のいずれか1項に記載の構成部材。
【請求項6】
目標破断層(4)の多孔性は、セラミック層(1)に比べて1.2乃至3倍高くなっている請求項1から5のいずれか1項に記載の構成部材。
【請求項7】
目標破断層(4)はセラミック層(1)と同じセラミック材料から成形されている請求項1から6のいずれか1項に記載の構成部材。
【請求項8】
圧電式のアクチュエータとして形成してある請求項1から7のいずれか1項に記載の構成部材。
【請求項9】
層スタックであって、互いに積み重ねられたセラミック性のグリーンシートを有しており、グリーンシートはセラミック粉末及び有機質の結合剤を含んでおり、グリーンシートのうちの少なくとも1つは、残りのグリーンシートに比べて結合剤の割合の高められた体積含有率を有していることを特徴とする層スタック。
【請求項10】
結合剤の体積含有率は1.5乃至3倍高められている請求項9に記載の層スタック。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−216874(P2012−216874A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−168808(P2012−168808)
【出願日】平成24年7月30日(2012.7.30)
【分割の表示】特願2006−501507(P2006−501507)の分割
【原出願日】平成16年2月19日(2004.2.19)
【出願人】(300002160)エプコス アクチエンゲゼルシャフト (318)
【氏名又は名称原語表記】EPCOS  AG
【住所又は居所原語表記】St.−Martin−Strasse 53, D−81669 Muenchen, Germany