説明

電気転てつ機

【課題】メンテナンス性に優れ、転換力性能と異物検知性能が両立するようにトルク設定できるクラッチを持つ電気転てつ機を実現する。
【解決手段】電気転てつ機の伝達トルクをマグネットクラッチと電磁クラッチを併用し、マグネットクラッチが基礎トルク分のトルクを伝達し、電磁クラッチが追加トルク分の伝達をし、電磁クラッチの伝達トルクを可変することで、転換不能を起こさせないよう、かつ、異物介在検知ができるように分岐器の状態に適したトルクに設定できるトルク設定機能を持つク非接触型ラッチを電気転てつ機に搭載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道用線路の分岐器を定位/反位に転換させる電気転てつ機に関する。
【背景技術】
【0002】
分岐器の転換に要する動力源としてモータを搭載した電気転てつ機が知られている。電気転てつ機は、モータで発生させた回転動力をクラッチで減速歯車機構へ伝達し、減速歯車機構によって転換機構並びに鎖錠機構を駆動させるのに適切なトルクに変換して分岐器を転換させる。
【0003】
電気転てつ機用クラッチは電気転てつ機が転換不能を起こさない転換力の確保と、基本レールと可動レールを接着させる時、可動レールに異物の介在があった場合に転換不能となって異常を検知する重要な構成要素である。この転換力性能と異常検知性能は、転換不能を防ぐために転換力を上げると異常検知性能は低下し、異物検知性能を上げると転換力性能が低下する相反関係にある。
【0004】
電気転てつ機の負荷である分岐器には多数の種類や大きさがあり、分岐器の床板給油状態やトングレールと床板の接触状態等の保守状態も関係して、電気転てつ機から見る負荷の大きさは分岐器毎に様々であるので、それぞれの分岐器状態に合わせた転換力性能と異物介在検知性能を両立させるクラッチトルク調整が重要となる。
【0005】
従来、摩擦クラッチは、摩擦板を積層し、それをばねで圧力を加えて摩擦力を発生させ、ばね圧を可変することでクラッチが滑り始めるトルクを調節し、転換力性能と異物検知性能が両立するようにトルク調整を行っていた。しかし、摩擦クラッチは、温度による伝達トルク特性の変化が大きいため季節の変化に応じてクラッチ性能を調整する必要があり定期検査に係わる工数が多くなりメンテナンス性に好ましくない点があった。
【0006】
そのため、摩擦クラッチよりも温度による伝達トルク特性の変化が小さいマグネットクラッチが主流になりつつある。マグネットクラッチは、永久磁石の磁力を利用して非接触でトルク伝達するもので永久磁石の磁力が必要となるが、開発された当時は希土類磁石と言えども磁力がまだ小さく、摩擦クラッチ取り付け位置で機内に収まり摩擦クラッチに置き換え可能なマグネットクラッチを作ることができなかった。
【0007】
そこで、モータのローター軸に回転円板を取り付け、回転円板上に相互に磁極の異なる永久磁石を並べて配置し、マグネットクラッチの出力側軸のヒステリシス材を取り付けて永久磁石と対向させ、永久磁石の回転に伴ってうず電流を発生させ、そのうず電流による回転トルクで伝達トルクを発生させるようにして回転が高速になるほど伝達トルクが増えるようにした。これによって、電気転てつ機の最大転換力を得ることが可能となり、季節の変化時に行っていたクラッチトルクの調整が不要とすることができた。(例えば、特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開平1−120501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、マグネットクラッチはモータと減速歯車間に直結しているためにトルク調整機構を設けることが構造上難しい。通常の負荷では転換不能を起こさず、かつ、異物介在があると転換不能を起こして異物介在検知ができるように、接続される分岐器の状態に適したトルクを自在に設定できるクラッチを持つ電気転てつ機の出現が望まれていた。
【0010】
本発明は、こうした事情を鑑みてなされたものであり、メンテナンス性に優れ、転換力性能と異物検知性能が両立するようにトルク設定できるクラッチを持つ電気転てつ機を実現することを目的とする。望むらくは更に、より多くの分岐器に対応できる高い汎用性を持たせることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための第1の形態は、クラッチ部を介してモータの回転動力を減速機構部に伝達して分岐器を転換・鎖錠する電気転てつ機であって、
前記クラッチ部は、マグネットクラッチ部と電磁クラッチ部とを有し、伝達トルクを分担して前記回転動力を前記減速機構部に伝達する構造をなす電気転てつ機である。
【0012】
より好適には、第2の形態として、更に前記マグネットクラッチ部が、前記モータから前記減速機構部への動力伝達に要するトルクのうちの基礎トルクを分担して伝達し、前記電磁クラッチ部が、前記基礎トルクに上乗せするトルクを分担し、前記モータから前記減速機構部への動力伝達の上限を制限して当該動力を伝達する、第1の形態の電気転てつ機を構成することができる。
【0013】
ここで言う「基礎トルク」とは、接続が想定される分岐器において、想定される使用条件(例えば、温度状態や可動部への給油状態などのメンテナンス状況)の変化から、当該電気転てつ機が備えるべきと考えられる必要最低限のトルクである。例えば、接続が要求される分岐器で想定される最小の要求転換力(想定される最も機械的摩擦負荷の小さい状況で要求される転換力)を生み出す最小トルクや、当該最小トルクに適当と考える安全率を乗じたトルクとすることができる。
【0014】
さらにより好適には、第3の形態として、前記電磁クラッチ部のトルクを設定変更可能に構成した第2の形態の電気転てつ機を構成することができる。
【0015】
また、クラッチ部の構成に関連して、第4の形態として、前記クラッチ部が、前記モータに連繋する駆動軸に固定されて当該駆動軸と一体で回転し、マグネットクラッチ部を構成する第1部位(例えば、図2の永久磁石36)及び電磁クラッチ部を構成する第2部位(例えば、図2のアンカーリング32)を有する第1回転子と、
前記減速機構部に連繋する出力軸に固定されて当該出力軸と一体で回転し、マグネットクラッチ部を構成する第1部位(例えば、図2のヒステリシス磁化材35)及び電磁クラッチ部を構成する第2部位(例えば、図2のインダクター31)を有する第2回転子と、を備え、
前記第1部位同士が近接対向位置に配置構成されて前記マグネットクラッチ部を構成し、前記第2部位同士が近接対向位置に配置構成されるとともに、前記第2回転子の第2部位を挟んで、前記第1回転子の第2部位の反対側の固定部部分に励磁コイル部(例えば、図2の励磁コイル33)が設けられて前記電磁クラッチ部を構成してなる第1〜第3の何れかの形態の電気転てつ機を構成することができる。
【0016】
更には、マグネットクラッチ部の構成に関して、第5の形態として、前記第1回転子の第1部位及び前記第2回転子の第1部位のうちの一方を永久磁石、他方を磁化材料で構成してなる第4の形態の電気転てつ機を構成することができる。
【0017】
また、電磁コイル部に関連して、第6の形態として、前記励磁コイル部への供給電流を調整する調整部(例えば、図1の電流調整器118、図4の電流調整部285)を更に備え、前記電磁クラッチ部が、前記調整部の調整によって、前記モータから前記減速機構部への動力伝達の上限を制限するトルクに調整可能に構成されてなる第4又は第5の形態の電気転てつ機を構成することができる。
【0018】
また更には、第7の形態として、前記第1回転子が中央に開口部を設けた蓋部(例えば、図6のヨーク盤223)を有する断面C字状の有底筒状の形態を有し、
前記第2回転子が前記第1回転子の内側に同軸上に内挿された筒状の形態と、前記第1回転子の前記蓋部外側に鍔部(例えば、図6のインダクタロータ225)とを有し、
前記マグネットクラッチ部を構成する前記第1回転子の第1部位及び前記第2回転子の第1部位は、対向する前記第1回転子の筒状側部と前記第2回転子の筒状側部とにそれぞれ設けられ、
前記電磁クラッチ部を構成する前記第1回転子の第2部位は前記蓋部の一部又は全部を構成してなり、前記第2回転子の第2部位は前記鍔部の一部又は全部を構成してなり、
前記励磁コイル部は当該クラッチ部ボディの前記鍔部の対向位置に設けられてなる
第4〜第6の何れかの形態の電気転てつ機を構成するとしても良い。
【発明の効果】
【0019】
本発明の形態によれば、次の効果を得ることができる。
第1に、摩擦クラッチのようにばね圧を機械的に調整する機構と異なり、電磁クラッチは電磁コイルに流す電流を例えばボリューム調整することで微妙な伝達トルクの調整ができるので、お互いに相反する転換力性能と異物検知性能を確保できるトルクに調整が迅速かつ容易に行える。
第2に、マグネットクラッチと電磁クラッチの伝達トルクは摩擦クラッチに比べ外気温度の影響を受け難いので季節変化毎の調整は不要となる。
第3に、マグネットクラッチで電気転てつ機の転換力に見合う伝達トルクを得るには、できるだけ磁力の強力な希土類磁石を使用することになり、高価な上、更に磁力が均一なものを選択する必要があり、磁力が高いだけにクラッチに組み込むのも容易ではなかった。しかし、電気転てつ機の転換力に見合う伝達トルクを電磁クラッチに分担させるのでマグネットクラッチの伝達トルクを軽減することができ、磁力がより小さな磁石で済むので原価低減ができ、扱いが容易となるので組み込む時間が短縮できる。
第4に、電磁クラッチで電気転てつ機の転換力に見合う伝達力を得るには、電磁クラッチ用電源容量が大きいので電磁クラッチ付きの電気転てつ機に取り替えるには電気転てつ機に供給する電源ケーブルを電流容量の大きなケーブルに取り替えなければならなかったが、電気転てつ機の転換力に見合う伝達力を基本的にはマグネットクラッチに分担させ、転換力調整分の伝達トルクを電磁クラッチに分担させるので電磁クラッチの電流は小さくて済むのでモータ電源の余裕分を利用することで電気転てつ機に供給する電源ケーブルを取り替える必要が無くなる。
【0020】
より詳細には、上述した第1の形態によれば、クラッチ部をマグネットクラッチ部と電磁クラッチ部の2種類のクラッチで構成することで、要求される伝達トルクをマグネットクラッチ部と電磁クラッチ部とに分散して受け持ちさせることができる。電磁クラッチ部を併用することにより、自在なトルク設定が可能になる。また、マグネットクラッチ部と電磁クラッチ部の何れかのタイプのみでクラッチを実現する構成に比べて、消費電力や製造コスト、重量の面でバランス良い電気転てつ機を実現できる。勿論、いずれのタイプのクラッチ部も摩擦クラッチに比べて温度変化による伝達トルク特性の変化が小さく、また接触部の交換が不要であることからメンテナンス性にも優れる。
【0021】
また、第2の形態によれば、マグネットクラッチ部が最低限必要と考えられる基礎トルクを担うようにして、それ以外の変動トルク分(気温やメンテナンス状況により変動し、基礎トルクに上乗せされる分のトルク)を電磁クラッチで担うようにできる。
よって、基礎トルクを適当に設定することで、クラッチ部をマグネットクラッチ部或いは電磁クラッチ部の単独で構成する場合に必要となる強力な永久磁石や高性能な磁性材料ほどの部材を必要とせず、比較的安価で小型な仕様のマグネットクラッチ部と、消費電力を低減できるとともに比較的安価で小型な仕様の電磁クラッチ部とで構成できる。
【0022】
また、第3の形態によれば、電磁クラッチ部のトルクが設定変更可能であるため、製造時やメンテナンス時における電磁クラッチ部の伝達上限トルクの調整が容易となる。
【0023】
また、第6の形態によれば、電磁クラッチ部が担うトルク分を容易に変更できるようになる。よって、現場設置時の調整や、定期検査時の調整が容易となる。また、マグネットクラッチ部が担うトルクを、当該転てつ機に接続が想定される様々な種類の分岐器のうち、要求転換力が最も小さい分岐器に合わせて設定し、それよりも大きな分岐器を転換するのに要求される増加分を電磁クラッチ部で受け持ちさせるならば、同一仕様の転てつ機で多種の分岐器に対応可能となり、汎用性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1実施形態における電気転てつ機の使用形態を説明するための鉄道線路用ポイントの周辺を示す平面図。
【図2】第1実施形態における電気転てつ機の駆動機構部の構成例を説明するための部分断面表示した側面図。
【図3】図2のA−A断面図。
【図4】第1実施形態における駆動機構部の機能構成の例を示す機能ブロック図。
【図5】電磁クラッチとマグネットクラッチの伝達トルクの配分の考え方を示す図。
【図6】第2実施形態における電気転てつ機の駆動機構部の構成例を説明するための部分断面表示した側面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
〔第1実施形態〕
図1は、本実施形態における電気転てつ機の使用形態を説明するための鉄道線路用ポイントの周辺を示す平面図である。本実施形態における電気転てつ機100は、鉄道用線路のポイント2の分岐器4に対して所定位置に固定され、分岐器4に接続して使用される。
【0026】
分岐器4は、連結板8により一体に連結された可動レール10を、基本レール6の間で、枕木12に固定した床板14の上で枕木長手方向に横スライド自在に支持している。可動レール10の先端部付近の枕木は、通常の枕木12よりも長尺な転てつ機用枕木12Bとされ、基本レール6の外側に延びた部分には床板14に連結された鉄製の敷板18が設置されている。
【0027】
電気転てつ機100は、この敷板18に固定され、動作桿102には転てつ棒16を介して連結板8が連結され、鎖錠桿104には接続桿20を介して可動レール10の先端部が連結される。そして、モータ250が発生させた回転動力を、内蔵する転換機構部でもって動作桿102の直線運動に変換して分岐器4を定位/反位に転換動作させるとともに、内蔵する鎖錠機構部によって固定することで可動レール10の定位/反位の状態を固定し、鉄道車両通過時の外力により分岐器4の状態が変わらないようにする。
【0028】
電気転てつ機100は、開閉式のケース101内に、回路制御器110と、制御リレー112と、外部端子板114と、電磁クラッチ制御器116と、不図示の減速機構部、転換機構部及び鎖錠機構部の各機構部を内蔵する。そして、ケース101の側部には、ブレーキ260、モータ250、クラッチ部210の3つを一体化した駆動機構部200を備える。
【0029】
電源や外部装置(例えば連動装置等)との信号に必要なケーブル類は一端外部端子板114に集約されたのちケーブル束109としてケース101から纏めて引き出される。
連動装置から転換指令信号を受信すると、制御リレー112からモータ250に電力供給され、モータ250の回転力がクラッチ、減速歯車、転換機構と伝わり、転換機構によって電気転てつ機100の解錠、転換、鎖錠の一連動作が行われる。そして、転換終了付近で回路制御器110がモータ電源を遮断すると共に鎖錠機構部の鎖錠状態を確認し、転換完了信号を連動装置に送信する。
【0030】
[駆動機構部について]
図2は、本実施形態における電気転てつ機100の駆動機構部200の構成例を説明するための部分断面を示した側面図である。図3は、図2のA−A断面図である。
これらの図に示すように、駆動機構部200は、出力軸202の軸に沿って、出力軸202の突出側から順にクラッチ部210、モータ250、ブレーキ部260が直状一体に連結されてなる。
【0031】
モータ250は、電気転てつ機100の駆動源であって、公知の電気転てつ機に使用されるモータと同様にして実現される。
【0032】
ブレーキ部260は、転換時に可動レール10が基本レール6に衝突する力を緩和するための手段であって、モータ250の回転軸252に連結されている。ブレーキ部260は、例えば公知の電気転てつ機に搭載されるマグネットブレーキと同様にして実現される。設計上不要となる場合にはブレーキ部260を省略できることは勿論である。
【0033】
クラッチ部210は、モータ250の回転軸252の回転駆動力を所定の上限トルクで出力軸202へ伝達する手段である。本実施形態のクラッチ部210は、マグネットクラッチ230と、電磁クラッチ220との2種類のクラッチで構成される。回転軸252と出力軸202は、同中心軸上に位置し、それぞれはボールベアリング或いは軸受で支えられている。
【0034】
先ず、マグネットクラッチ230に係る構成について詳細に説明する。
モータ250の回転軸252の先端(クラッチ210側の先端)には、永久磁石取付円板37が固定される。この永久磁石取付円板37のクラッチ側を向いた面には、マグネットクラッチ230の一部を構成する複数の扇型の永久磁石36が固定されている。より具体的には、クラッチ側向きに現れる磁極が隣接するもの同士で対極となるように(S極,N極,S極,N極,・・・)、円板の中心の周りに周設されている。尚、永久磁石36の固定方法は、接着でも良いし、永久磁石取付円板37のクラッチ側を向いた側面に多数の空隙を設けて、この空隙部分に永久磁石36を埋め込んだ構成としても良い。
【0035】
出力軸202のモータ側の端部には、アンカーリング32の内径より小径のヒステリシス磁化材取付円板34が固定されている。ヒステリシス磁化材取付円板34のモータ側を向いた面(図2に向かって左側の面)には、扇型の半硬磁性材料からなるヒステリシス磁化材35が、出力軸202を取り巻くように配置・固定されている。そして、ヒステリシス磁化材35は、それぞれ永久磁石36と対向しつつ、僅かに隙間を設けるようにして固定されている。尚、ヒステリシス磁化材35は、ヒステリシス磁化材取付円板34に接着固定されるとしても良いが、ヒステリシス磁化材取付円板34に多数の空隙を設けて、この空隙部分にヒステリシス磁化材35を埋め込んだ構成としても良いのは勿論である。
従って、ヒステリシス磁化材35と永久磁石36がマグネットカップリングを形成し、マグネットクラッチ230として機能する。
【0036】
次に、電磁クラッチ220に係る構成について詳細に説明する。
先ず、永久磁石取付円板37の外周部に、円筒状のアンカーリング32が固定されている。アンカーリング32は、開口部を出力軸202の突出方向(図2の右側向き)に向け、且つ円筒軸が出力軸202と同軸となるようにして固定されている。出力軸202は、モータ側がアンカーリング32の内側に入り込むようにして、クラッチケース204及び当該ケースに固定された電磁コイル取付台30に対してベアリング等で枢支されている。
ヒステリシス磁化材取付円板34の出力軸202の突出方向側の面(図2に向かって右側の面)には、円筒状のインダクター31が固定されている。インダクター31は、開口部を出力軸202の突出方向に向け、且つ円筒軸が出力軸202と同軸となるようにして固定されていて、その外周面とアンカーリング32の内周面との間には、僅かに隙間が出来るように設定されている。
【0037】
出力軸202を、クラッチケース204とともに枢支する電磁コイル取付台30は、中心に出力軸202を挿通する挿通孔を備えた円筒部材であって、インダクター31の更に内側に入り込むようにしてクラッチケース204に対して固定されている。
【0038】
この電磁コイル取付台30は、軟磁性材により形成され、その外周には電磁クラッチ制御器116(図1参照)により通電制御される励磁コイル33が巻回されている。
【0039】
電磁クラッチ制御器116は、例えば、ボリュームやデジタルスイッチなどにより実現される電流調整器118(図1参照)を備えるとともに、電流調整器118の設定に応じた電流を励磁コイル33へ供給することができる回路を搭載する。そして、電磁クラッチ制御器116は、モータ250の駆動に伴って励磁コイル33へ通電・励磁させる。
励磁コイル33を励磁させることにより、励磁コイル33を含む電磁コイル取付台30と、インダクター31と、アンカーリング32とが、電磁クラッチ220としての機能を果たす。
【0040】
電磁クラッチ220へ電力を供給する電源ケーブル38は適宜クラッチケース204を挿通させ、電磁クラッチ制御器116に接続されるものとする。
【0041】
図4は、本実施形態における駆動機構部の機能ブロックの例を示す図である。
同図に示すように、本実施形態では、電源部284から電力の供給を受けるモータ制御回路部282によって、モータ250への電力供給並びに駆動制御を行う。
【0042】
電源部284は、既存の電気転てつ機に搭載されているモータに電力を供給するための電源であり、通常、電気転てつ機のモータの要求よりも十分大きい電力供給能力を有している。本実施形態では、その余力分を電磁クラッチ220へ供給する構成となっている。勿論、電磁クラッチ220への電力供給用として別途に電源部を設ける構成としても良い。
【0043】
モータ制御回路部282は、モータ250の回転を制御する手段であり、例えば回路制御器110や制御リレー112がこれに該当する(図1参照)。モータ250の形式に応じて適宜公知技術を用いることで実現できる。
【0044】
一方、電磁クラッチ220は、クラッチ制御部280を介して電力供給並びに駆動制御が行われる。クラッチ制御部280は、電磁クラッチ220への電力を制御し、発生される励磁力を制御する手段である。例えば、電磁クラッチ制御器116(図1参照)がこれに該当する。クラッチ制御部280には、電圧調整部281と、整流部283と、電流調整部285とが含まれる。
【0045】
具体的には、モータ制御回路部282からモータ250へ電力が供給されるとともに、クラッチ制御部280へも供給される。クラッチ制御部280へ供給された電力は、電圧調整部281にて適切な電圧に調整され、整流部283で電流を整流し、電流調整部285で電磁クラッチ220に供給する電流を制限する。この電流調整部285には、例えば、電流調整器118(図1参照)が該当する。
【0046】
尚、クラッチ制御部280がCPU(中央演算装置)を搭載し、プログラムを実行して制御機能を実現する構成の場合には、電流調整部285を、設定値を記憶するICメモリなどにより実現するとしても良い。その場合、ICメモリは、電気転てつ機100のケース101内に内蔵されているとしても良いし、外部装置内に設けてケーブル束109を介して読み込み可能な構成としても良い。
【0047】
図5は、本実施形態における電磁クラッチ220とマグネットクラッチ230の伝達トルクの配分の考え方を示す図である。
マグネットクラッチ230に分担される伝達トルクは、電気転てつ機100に接続が予定される最も小型の分岐器4において、温度条件やメンテナンス条件を考慮した上で想定される最低限必要とされる転換力に基づいて設定される「基礎トルク」である。
尚、ヒステリシス材を用いたマグネットクラッチの場合は、モータが回転しない状態では伝達トルクはゼロであるが、磁石側の回転とヒステリシス材側の回転差でうず電流が発生し、前述したように磁石側の回転数が上がるに伴ってうず電流が増加し、やがて所定の回転数に達すると、うず電流が飽和状態となって所定の伝達トルクで安定する。図5のマグネットクラッチによる一定トルクは十分な回転差を得たときの所定の伝達トルクに達している状態で表している。
【0048】
そして、電気転てつ機100を小型の分岐器4に対応させるのであれば、電磁クラッチ220が、温度条件やメンテナンス条件により変化する転換時の抵抗の上昇分を担保する伝達トルクを生むように、電流調整部285によって励磁電流を調整すると良い。より大型の分岐器に対応させるのであれば、電磁クラッチ220が、最小の分岐器に比べて増加する機械的抵抗分と、予想される温度条件やメンテナンス条件により変化する転換時の抵抗の上昇分とを担保する伝達トルクを生むように、電流調整部285によって励磁電流を調整すると良い。
【0049】
尚、「基礎トルク」を、最小の分岐器4の転換力に基づいて設定することとしたが、これは一例である。例えば、各種の分岐器4の転換力のうち、最小の転換力に基づいて設定したり、最小から順に所定数の分岐器4の平均転換力に基づいて設定することとしてもよい。
【0050】
〔第2実施形態〕
次に、本発明を適用した第2実施形態について説明する。本実施形態は、基本的に第1実施形態と同様の構成を有するが、クラッチ部の構成が異なる。ここでは、主に第1実施形態と異なる点について説明することとし、第1実施形態と同様の構成要素については同じ符合を付与して説明は省略するものとする。
【0051】
図6は、本実施形態における電気転てつ機の駆動機構部の構成例を示す部分断面図(側面図)である。本実施形態の駆動機構部200のクラッチ部210Cは、モータ250の回転軸252のクラッチ側の先端に、有底円筒状の第1回転子232が固定されている。具体的には、開口部を出力軸202の突出方向(図6の右側向き)に向け、且つ円筒軸が出力軸202と同軸となるようにして底面中心で固定されている。そして、第1回転子232の円筒部分232cの筒状側部の内周面には、複数の短冊状の永久磁石236Cが周設・固定されている(勿論、筒状側部に多数の空隙部を設け、この空隙部に永久磁石236Cを埋設する構成としてもよい)。この永久磁石236Cは、第1実施形態のそれと同様に、隣接する永久磁石236Cの同士で内向きの磁極が対極となるように設定されている。
【0052】
出力軸202は、第1実施形態と同様にモータ側が第1回転子232の内側に入り込むようにして枢支されおり、その入り込んだ側の端部にはプーリ型の第2回転子222Cが固定されている。そして、第2回転子222Cの筒状側部の外周面には、第1回転子232の永久磁石236Cと対向するようにして複数のヒステリシス磁化材234Cが周設・固定されている(勿論、筒状側部に多数の空隙部を設け、この空隙部にヒステリシス磁化材234Cを埋設する構成としてもよい)。
すなわち、第1回転子232の永久磁石236Cと、第2回転子222Cのヒステリシス磁化材234Cとで、マグネットカップリングを形成し、マグネットクラッチ230Cとして機能する。
【0053】
また、本実施形態の第1回転子232は、その開口端に、中央に出力軸202を挿通することのできる開口部を有したドーナツ型のヨーク盤223を、あたかも第1回転子232の蓋であるかのように備える。換言すれば、本実施形態の第1回転子232とヨーク盤223は、中央に開口部を設けた蓋部を有する断面C字状の有底筒状の形態を成すと言える。
【0054】
ヨーク盤223は、軟磁性材料により形成される。図6の例では、ヨーク盤223と第1回転子232とを別体としてボルト等により固定されることを想定して図示しているが、最初から一体として形成するとしても良い。
【0055】
また、ヨーク盤223の外側(出力軸202の突出側;図6の右側)には、ヨーク盤223に対向するようにして硬磁性材料からなる円盤型のインダクタロータ225が出力軸202に対して固定され、更にその外側にはインダクタローラ225をヨーク盤223と挟むようにして励磁コイル228が出力軸202の周りに周設されている。つまり、ヨーク盤223と、インダクタロータ225と、励磁コイル228とにより、電磁クラッチ220Cが構成される。
【0056】
尚、図6の例では、インダクタロータ225は、第2回転子222Cの鍔部として形成する例を示しているが、出力軸202に直接固定される構成としても良い。
また、図6の例では、ヨーク盤223及びインダクタロータ225はそれぞれ全体が電磁クラッチとして機能する構成としたが、各々一部のみを軟磁性材料や硬磁性材料で構成し、一部のみ電磁クラッチとして機能する構成としても良いのは勿論である。
【0057】
〔変形例〕
以上、本発明を適用した実施形態について説明したが、本発明の適用形態はこれらに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない限りにおいて適宜構成要素の追加・省略・変更を施すことができる。
【0058】
例えば、クラッチ部210の構成は、電磁クラッチ220,220B,220Cの何れかとマグネットクラッチ230との2種類を含むものであれば、上記実施形態のレイアウトに適宜変更を施して構成することができる。
【0059】
また、上記第2実施形態では、上限トルクが可変なクラッチとしてヒステリシスクラッチを用いたが、パウダークラッチなどの他のタイプの電磁クラッチを用いることもできる。
【0060】
また、上記実施形態のクラッチ部210は、電磁クラッチ220,220B,220Cの何れかとマグネットクラッチ230とをそれぞれ1つずつ含む構成としたが、クラッチの数を適宜変更することができる。例えば、マグネットクラッチ230を2段以上の構成としてもよい。
【符号の説明】
【0061】
2 ポイント
4 分岐器
16 転てつ棒
20 接続桿
30 電磁コイル取付台
31 インダクター
32 アンカーリング
34 ヒステリシス磁化材取付円板
35 ヒステリシス磁化材
36 永久磁石
37 永久磁石取付円板
100 電気転てつ機
102 動作桿
104 鎖錠桿
110 回路制御器
112 制御リレー
116 電磁クラッチ制御器
118 電流調節器
120 減速機構部
140 転換機構部
150 鎖錠機構部
200 駆動機構部
210 クラッチ部
220 電磁クラッチ
222C 第2回転子
224 ステータヨーク
226 クローポール
228 励磁コイル
230 マグネットクラッチ
232 第1回転子
234C ヒステリシス磁化材
236C 永久磁石
280 クラッチ制御部
281 電圧調整部
282 モータ制御回路部
283 整流部
284 電源部
285 電流調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッチ部を介してモータの回転動力を減速機構部に伝達して分岐器を転換・鎖錠する電気転てつ機であって、
前記クラッチ部は、マグネットクラッチ部と電磁クラッチ部とを有し、伝達トルクを分担して前記回転動力を前記減速機構部に伝達する構造をなす、
電気転てつ機。
【請求項2】
前記マグネットクラッチ部は、前記モータから前記減速機構部への動力伝達に要するトルクのうちの基礎トルクを分担して伝達し、
前記電磁クラッチ部は、前記基礎トルクに上乗せするトルクを分担し、前記モータから前記減速機構部への動力伝達の上限を制限して当該動力を伝達する、
請求項1に記載の電気転てつ機。
【請求項3】
前記電磁クラッチ部のトルクを設定変更可能に構成した、
請求項2に記載の電気転てつ機。
【請求項4】
前記クラッチ部は、
前記モータに連繋する駆動軸に固定されて当該駆動軸と一体で回転し、マグネットクラッチ部を構成する第1部位及び電磁クラッチ部を構成する第2部位を有する第1回転子と、
前記減速機構部に連繋する出力軸に固定されて当該出力軸と一体で回転し、マグネットクラッチ部を構成する第1部位及び電磁クラッチ部を構成する第2部位を有する第2回転子と、
を備え、
前記第1部位同士が近接対向位置に配置構成されて前記マグネットクラッチ部を構成し、
前記第2部位同士が近接対向位置に配置構成されるとともに、前記第2回転子の第2部位を挟んで、前記第1回転子の第2部位の反対側の固定部部分に励磁コイル部が設けられて前記電磁クラッチ部を構成してなる
請求項1〜3の何れか一項に記載の電気転てつ機。
【請求項5】
前記マグネットクラッチ部は、前記第1回転子の第1部位及び前記第2回転子の第1部位のうちの一方を永久磁石、他方を磁化材料で構成してる
請求項4に記載の電気転てつ機。
【請求項6】
前記励磁コイル部への供給電流を調整する調整部を更に備え、
前記電磁クラッチ部は、前記調整部の調整によって、前記モータから前記減速機構部への動力伝達の上限を制限するトルクに調整可能に構成されてなる
請求項4又は5に記載の電気転てつ機。
【請求項7】
前記第1回転子は中央に開口部を設けた蓋部を有する断面C字状の有底筒状の形態を有し、
前記第2回転子は前記第1回転子の内側に同軸上に内挿された筒状の形態と、前記第1回転子の前記蓋部外側に鍔部とを有し、
前記マグネットクラッチ部を構成する前記第1回転子の第1部位及び前記第2回転子の第1部位は、対向する前記第1回転子の筒状側部と前記第2回転子の筒状側部とにそれぞれ設けられ、
前記電磁クラッチ部を構成する前記第1回転子の第2部位は前記蓋部の一部又は全部を構成してなり、前記第2回転子の第2部位は前記鍔部の一部又は全部を構成してなり、
前記励磁コイル部は当該クラッチ部ボディの前記鍔部の対向位置に設けられてなる
請求項4〜6の何れか一項に記載の電気転てつ機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−102560(P2012−102560A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252655(P2010−252655)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000001292)株式会社京三製作所 (324)
【Fターム(参考)】