説明

電気銅めっき用含リン銅アノード、その製造方法および電気銅めっき方法

【課題】スライム起因のめっき不良を低減することができる電気銅メッキ用含リン銅アノード、その製造方法、これを用いた電気銅めっき方法を提供する。
【解決手段】電気めっき用含リン銅に加工を施して加工歪みを与えた後、再結晶化熱処理を行うことにより、アノード表面の銅結晶粒の結晶粒界の全粒界長さLを単位面積1mm当たりに換算した単位全粒界長さLと、特殊粒界の全特殊粒界長さLσを単位面積1mm当たりに換算した単位全特殊粒界長さLσとの特殊粒界長比率Lσ/Lが、0.4以上となる結晶粒界組織を有せしめ、電気銅めっき初期にブラックフィルムを均一に形成し、ブラックフィルムの脱落を防止することでめっき不良の低減を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、半導体ウエハ等への電気銅めっきを行う際に、含リン銅アノード電極から生じるアノードスライムの発生を抑制するとともに、半導体ウエハ等からなるカソード表面の汚染、突起等のめっき欠陥の発生を防止する電気銅めっき用含リン銅アノード、該含リン銅アノードの製造方法およびこの含リン銅アノード電極を用いた電気銅めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電気銅めっきのアノード電極として電気銅や無酸素銅を用いた電気銅めっきが行われているが、多量のアノードスライムが発生しやすく、また、これを原因として被処理材にめっき欠陥が発生しやすいという問題点があった。
そして、これを解決するために、含リン銅をアノード電極として用いた電気銅めっきが行われるようになってきている。
含リン銅アノードを用いた電気銅めっきによれば、電解時にアノード表面に亜酸化銅や銅粉等を主成分とするブラックフィルムが形成されるため、アノードスライムの発生は低減され、その結果として、めっき欠陥の発生も減少するようになってきたが、例えば、半導体ウエハ等への精緻な銅配線を形成する場合には、含リン銅をアノードとして用いた電気銅めっきによっても、半導体ウエハ表面の汚染、突起等のめっき欠陥発生防止が十分に行われているとはいえない。
【0003】
そこで、最近では、アノードに含有される酸素含有量を規定するとともに、アノード電極の結晶粒度を規定した純銅アノードを用いた電気銅めっき(特許文献1参照)、あるいは、アノードに含有されるリン含有量を規定するとともに、アノード電極の結晶粒径を規定した含リン銅アノードを用いた電気銅めっき(特許文献2,3参照)が開発され、アノードスライムの発生低減およびめっき欠陥の発生防止が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4011336号明細書
【特許文献2】特許第4034095号明細書
【特許文献3】特許第4076751号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の含リン銅アノードを用いた電気銅めっきにおいては、電解の進行とともに、含リン銅アノード表面に、銅粉、亜酸化銅、リン化銅、塩化銅等を主成分とするブラックフィルムが形成されるが、電解がさらに進行しブラックフィルムが厚く成長すると、これが含リン銅アノード表面から脱落しアノードスライム発生の原因となったり、あるいは、めっき浴中に拡散することにより被めっき材表面(カソード表面)に付着し、半導体ウエハ等の被めっき材表面の汚染、突起等のめっき欠陥発生の原因となったりしていた。
そこで、本発明は、電気銅めっきにより、例えば、半導体ウエハ等への精緻な銅配線を形成する場合にも、アノードスライムの発生を抑制するとともに、半導体ウエハ等の被めっき材表面における汚染、突起等のめっき欠陥の発生防止を図ることができる電気銅めっき用の含リン銅アノードを提供することを一つの目的とする。
また、アノードスライムの発生を低減し、被めっき材表面における汚染、突起等のめっき欠陥の発生防止を図ることができる前記電気銅めっき用の含リン銅アノードの新たな製造方法を提供することを他の目的とする。
さらに、前記電気銅めっき用の含リン銅アノードを用いることによって、アノードスライムの発生低減を図ると同時に、例えば、半導体ウエハ等の被めっき材表面における汚染、突起等のめっき欠陥の発生防止を図ることができる電気銅めっき方法を提供することを、更に他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、電気銅めっき時における、含リン銅アノードの結晶粒界の形態とアノードスライムの発生、めっき欠陥の関連性について鋭意研究を行った結果、以下の知見を得た。
従来の含リン銅アノードを用いた電気銅めっきにおいては、電解の進行とともにブラックフィルムが厚く成長し脱落するのは、一価銅の不均一化反応、例えば、
2Cu→Cu(粉)+Cu2+
により、金属銅や亜酸化銅が生成するためであるが、電解初期に形成されるブラックフィルムの性状は、後々まで影響を及ぼすことから、電解初期に均一で一価銅イオン(Cu)の発生の少ないブラックフィルムを形成することが重要であるとの観点から、電解初期に均一で一価銅イオン(Cu)の発生の少ないブラックフィルムを形成する諸条件について検討したところ、含リン銅アノードの結晶粒界の形態が、電解初期に形成されるブラックフィルムの性状に大きな影響を与えることを見出した。
【0007】
即ち、本発明者らは、電気銅めっき用の含リン銅アノードにおいて、該含リン銅アノード表面の結晶粒の粒界のうち、所謂、特殊粒界の形成割合を高め、特殊粒界の全特殊粒界長さLσを単位面積1mm当たりに換算した単位全特殊粒界長さLσが、全結晶粒の全粒界長さLを単位面積1mm当たりに換算した単位全粒界長さLに対して特定の値以上になった場合(Lσ/L≧0.4)に、電解初期段階でアノード全体に、均一にブラックフィルムを形成することができ、その結果として、ブラックフィルムの脱落を防止することができ、また、アノードスライムに起因するめっき不良を大幅に低減し得ることを見出したのである。
ここで、特殊粒界とは、「Trans.Met.Soc.AIME,185,501(1949)」に基づき定義されるΣ値で3≦Σ≦29に属する対応粒界であって、かつ、「Acta.Metallurgica.Vol.14,p.1479,(1966)」で述べられている当該対応粒界における固有対応部位格子方位欠陥Dqが、Dq≦15°/Σ1/2を満たす結晶粒界であるとして定義される。
【0008】
また、本発明者らは、電気銅めっき用の含リン銅アノードの製造に際し、所定の冷間加工、熱間加工を施して加工歪みを与えた後、所定の温度範囲(350〜900℃)で再結晶化熱処理を行うことによって、銅アノードの表面に存在する結晶粒界のうちの、所謂、特殊粒界の形成割合の高い(Lσ/L≧0.4)電気銅めっき用の含リン銅アノードを製造し得ることを見出したのである。
【0009】
さらに、本発明者らは、特殊粒界の形成割合の高い(Lσ/L≧0.4)含リン銅アノードを使用し、例えば、半導体ウエハ等に銅めっきした場合には、半導体ウエハ表面に汚染、突起等のめっき欠陥のない精緻な銅配線を形成し得ることを見出したのである。
【0010】
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであって、
「(1) 電気めっき用含リン銅アノードにおいて、
(a)走査型電子顕微鏡を用いて、アノード表面の個々の結晶粒に電子線を照射し、隣接する結晶粒相互の配向方位差が15°以上の結晶粒の界面を結晶粒界とし、測定範囲における結晶粒界の全粒界長さLを測定し、これを単位面積1mm当たりに換算した単位全粒界長さLを求め
(b)また、同じく走査型電子顕微鏡を用いて、アノード表面の個々の結晶粒に電子線を照射し、相互に隣接する結晶粒の界面が特殊粒界を構成する結晶粒界の位置を決定するとともに、特殊粒界の全特殊粒界長さLσを測定し、これを単位面積1mm当たりに換算して単位全特殊粒界長さLσを求めた場合、
(c)前記測定した結晶粒界の単位全粒界長さLと、同じく前記測定した特殊粒界の単位全特殊粒界長さLσとの特殊粒界長比率Lσ/Lが、
Lσ/L≧0.4
の関係を満足する結晶粒界組織を有することを特徴とする電気めっき用含リン銅アノード。
(2) 質量%で、100〜800ppmのリンを含有する前記(1)に記載の電気めっき用含リン銅アノード。
(3) 平均結晶粒径が3〜1000μmである前記(1)または(2)に記載の電気めっき用含リン銅アノード。
(4) 電気めっき用含リン銅に加工を施して加工歪みを与えた後、350〜900℃で再結晶化熱処理を行うことにより、特殊粒界長比率Lσ/Lを0.4以上とすることを特徴とする前記(1)乃至(3)の何れかに記載の電気めっき用含リン銅アノードの製造方法。
(5) 前記加工は、冷間加工または熱間加工の内の少なくとも何れかにより行う前記(4)に記載の電気めっき用含リン銅アノードの製造方法。
(6) 冷間加工と再結晶化熱処理、あるいは、熱間加工と再結晶化熱処理、またはこれらを組み合わせた処理を、特殊粒界長比率Lσ/Lが0.4以上となるまで繰り返し行う前記(4)または(5)に記載の電気めっき用含リン銅アノードの製造方法。
(7) 400〜900℃の温度範囲で圧下率5〜80%の熱間加工を施し、その後、3〜300秒間、前記加工歪みを与えずに静的に保持し、再結晶化熱処理を行う前記(4)に記載の電気めっき用含リン銅アノードの製造方法。
(8) 圧下率5〜80%の冷間加工を施し、その後、350〜900℃の温度範囲に加熱し、5分〜5時間、前記加工歪みを与えずに静的に保持し、再結晶化熱処理を行う前記(4)に記載の電気めっき用含リン銅アノードの製造方法。
(9) 前記(1)乃至(3)の何れかに記載の電気めっき用含リン銅アノードを用いた電気銅めっき方法。」
を特徴とするものである。
【0011】
つぎに、本発明について詳細に説明する。
【0012】
まず、本発明者らは、電気銅めっきにおける含リン銅アノード表面の溶解進行状況について調査したところ、以下の知見を得た。
図1(a)〜(d)の模式図に示すように、電解が開始された初期状態(a)では、アノード表面に大きな変化は生じないが、電解開始後、一定の時間経過した(b)では、アノード表面の結晶粒は、粒内に比べ化学的に不安定な粒界から選択的な溶解が開始し、さらに電解が進行した時点(c)では、粒界が選択的に溶解される結果、形状因子による電流密度の不均一化が生じ、そのため、さらに加速度的に粒界が選択溶解を起こすようになり、さらに電解が進行した時点(d)では、粒界の溶解が進むため、アノード表面に形成されたブラックフィルム(表面酸化皮膜)とともに、未溶解の結晶粒が剥離・剥落を生じるようになり、アノードスライムの発生原因となり、また、これがめっき不良発生原因ともなる。また、未溶解の結晶粒が剥離・剥落したアノード部分には新生面が生成し、電圧変動が発生するようになり、安定した電解操業を行うことが次第に困難となる。
【0013】
本発明者らは、前記知見をもとに、電気銅めっき用の含リン銅アノードとして、電解時間の経過とともに、粒界からの選択的溶解(不均一溶解)を生じないようなアノードについてさらに研究したところ、含リン銅アノードにおける前記定義したところの特殊粒界(Σ値で3≦Σ≦29に属する対応粒界であって、かつ、当該対応粒界における固有対応部位格子方位欠陥Dqが、Dq≦15°/Σ1/2を満たす結晶粒界)の全特殊粒界長さLσを単位面積1mm当たりに換算した単位全特殊粒界長さLσと、含リン銅アノードにおける結晶粒界の全結晶粒界長さLを単位面積1mm当たりに換算した単位全粒界長さLとの特殊粒界長比率Lσ/Lが、Lσ/L≧0.4の関係を満足する結晶粒界組織を有する場合には、結晶構造的に安定、かつ、化学的にも安定である特殊粒界の割合が増加するため、粒界の前記選択的溶解が生じにくくなり、その結果として、未溶解の結晶粒の剥離・剥落が抑制されて均一なブラックフィルムが形成されるようになり、アノードスライムの発生が低減され、同時に、スライム起因のめっき欠陥の発生も低減されるようになることを見出して本発明に至ったのである。
ここで、全結晶粒界長さLは、走査型電子顕微鏡を用いてアノード表面の個々の結晶粒に電子線を照射し、得られた後方散乱電子回折パターンから求めた結晶の配向データを基に隣接する結晶粒相互の配向方位差が15°以上の結晶粒の界面を結晶粒界として、測定範囲における結晶粒界の全粒界長さLを測定することによって求めることができる。
特殊粒界長比率Lσ/Lが、Lσ/L<0.4では、電解時の結晶粒界の選択溶解を抑えることができず、均一なブラックフィルムの形成、アノードスライムの発生低減、スライム起因のめっき欠陥の発生低減を図ることができないので、特殊粒界長比率Lσ/Lを、Lσ/L≧0.4と定めた。
【0014】
本発明の含リン銅アノードは、質量%で、100〜800ppmのリンを含有していることが望ましく、リン含有量がこの範囲から外れると安定したブラックフィルムが形成されずアノードスライムが発生する。
また、本発明の含リン銅アノードの平均結晶粒径(双晶も結晶粒としてカウント)は、3〜1000μmであることが望ましく、平均結晶粒径がこの範囲から外れるとアノードスライムがより多く発生する。
【0015】
特殊粒界の全特殊粒界長さLσを単位面積1mm当たりに換算した単位全特殊粒界長さLσと、結晶粒界の全結晶粒界長さLを単位面積1mm当たりに換算した単位全粒界長さLとの特殊粒界長比率Lσ/Lが、Lσ/L≧0.4の関係を満足する結晶粒界組織を有する含リン銅アノードは、電気めっき用含リン銅の製造に際し、加工(冷間加工及び/又は熱間加工)を施して加工歪みを与えた後、350〜900℃で再結晶化熱処理を行うことにより、製造することができる。
具体的な製造例としては、例えば、
(イ)400〜900℃の温度範囲で、電気めっき用含リン銅に圧下率5〜80%の熱間加工を施した後、3〜300秒間、前記加工歪みを与えずに静的に保持し、再結晶化熱処理を行うことによって、Lσ/L≧0.4の関係を満足する結晶粒界組織を有する電気めっき用の含リン銅アノードの製造方法、
また、他の製造例としては、
(ロ)圧下率5〜80%の冷間加工を施した後、350〜900℃の温度範囲に加熱し、5分〜5時間、前記加工歪みを与えずに静的に保持し、再結晶化熱処理を行うことによって、Lσ/L≧0.4の関係を満足する結晶粒界組織を有する電気めっき用の含リン銅アノードの製造方法、
を挙げることができる。
前記(イ)、(ロ)の特定の圧下率の熱間加工、冷間加工により歪みを与えた後、再結晶化温度範囲で、歪みを付与せず静的に保持した状態で再結晶させることによって、特殊粒界の形成が促進され、単位全特殊粒界長さLσの比率を高め、特殊粒界長比率Lσ/Lの値を0.4以上とすることができる。
また、前記熱間加工、冷間加工および再結晶化熱処理を、何度か繰り返し行うことによりLσ/L≧0.4となる結晶粒界組織を得ることも何ら差し支えない。
【0016】
特殊粒界の単位全特殊粒界長さLσと、結晶粒界の単位全粒界長さLとの特殊粒界長比率Lσ/Lが、Lσ/L≧0.4の関係を満足する結晶粒界組織を有する含リン銅アノードを電気めっき用のアノードとして用いて電気銅めっきを行うことにより、アノードスライムの発生低減を図ることができ、さらに、例えば、半導体ウエハ等の被めっき材表面に銅めっきした場合には、半導体ウエハ表面に汚染、突起等のめっき欠陥のない精緻な銅配線を形成することが可能となる。
【0017】
含リン銅アノードの結晶粒界の特定と単位全粒界長さLの測定は、走査型電子顕微鏡を用いてアノード表面の個々の結晶粒に電子線を照射し、得られた後方散乱電子回折パターンから求めた結晶の配向データを基に隣接する結晶粒相互の配向方位差が15°以上の結晶粒の界面を結晶粒界として、測定範囲における結晶粒界の全粒界長さLを測定、これを測定面積で除算し、単位面積1mm当たりの単位全粒界長さに換算することにより行う。また、特殊粒界の特定と単位全特殊粒界長さLσの測定は、同じく電界放出型走査電子顕微鏡を用いて、アノード表面の個々の結晶粒に電子線を照射し、相互に隣接する結晶粒の界面が特殊粒界を構成する粒界の位置を決定するとともに、特殊粒界の全特殊粒界長さLσを測定、これを測定面積で除算し、単位面積1mm当たりの単位全特殊粒界長さに換算することにより行う。
具体的には、電界放出型走査電子顕微鏡を用いたEBSD測定装置(HITACHI社製 S4300−SE,EDAX/TSL社製 OIM Data Collection)と、解析ソフト(EDAX/TSL社製 OIM Data Analysis ver.5.2)によって、結晶粒界、特殊粒界を特定し、その長さを算出することにより行うことができる。
また、含リン銅アノードの平均結晶粒径(双晶も結晶粒としてカウントする)の測定は、前記EBSD測定装置と解析ソフトによって得られた結果から結晶粒界を決定し、観察エリア内の結晶粒子数を算出し、エリア面積を結晶粒子数で割って結晶粒子面積を算出し、それを円換算することにより平均結晶粒径(直径)を求めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の電気銅めっき用の含リン銅アノード、その製造方法および電気銅めっき方法によれば、例えば、電気銅めっきにより、半導体ウエハ等への精緻な銅配線を形成する場合にも、アノードスライムの発生を抑制するとともに、半導体ウエハ等の被めっき材表面におけるスライムに起因する汚染、突起等のめっき欠陥の発生防止を図ることができる
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)〜(d)は、電解によるアノード表面の溶解進行状況を示す模式図であり、(a)は電解が開始された初期状態、(b)は電解を開始し一定時間経過時点での粒界の選択的溶解が始まった状態、(c)は粒界の選択的溶解の結果、形状因子による電流密度の不均一化が生じ、そのため、さらに加速度的な粒界の選択溶解が起こっている状態、(d)は粒界の溶解によって、アノード表面に形成されたブラックフィルム(表面酸化皮膜)とともに、未溶解の結晶粒が剥離・剥落を生じる状態、をそれぞれ示す。
【図2】本発明3のEBSD解析結果を示し、太い線が特殊粒界、細い線が一般粒界を示す(図3〜9についても同じ)。
【図3】本発明7のEBSD解析結果を示す。
【図4】本発明11のEBSD解析結果を示す。
【図5】本発明13のEBSD解析結果を示す。
【図6】本発明21のEBSD解析結果を示す。
【図7】本発明27のEBSD解析結果を示す。
【図8】比較例4のEBSD解析結果を示す。
【図9】比較例6のEBSD解析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
つぎに、本発明について、実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0021】
表1に示す所定量のP(リン)を含有し、不可避不純物としてのPb,Fe,Sn,Zn,Mn,Ni,Agの合計含有量が0.002質量%以下である含リン銅の再結晶材あるいは鋳造材に、同じく表1に示す条件で熱間加工(温度、加工法、加工率)、冷間加工(加工法、加工率)、再結晶化熱処理(温度、時間)を施し、あるいは、これらを繰り返し行い、再結晶化熱処理後に水冷し、表3に示す所定サイズの本発明の含リン銅アノード(本発明アノードという)1〜28を製造した。
なお、表1中の実施例としては、熱間加工―再結晶化熱処理,冷間加工―再結晶化熱処理あるいはこれらを所要回数繰り返し行う場合に、同一条件での繰り返しのみを挙げているが、必ずしも同一条件で繰り返す必要はなく、特許請求の範囲の各請求項で規定された条件の範囲内であれば、異なる条件(加工温度、加工法,加工率,保持温度,保持時間)での繰り返しを行うことは勿論可能である。
【0022】
前記で製造した本発明アノードについて、前記EBSD測定装置(HITACHI社製 S4300−SE,EDAX/TSL社製 OIM Data Collection)と、解析ソフト(EDAX/TSL社製 OIM Data Analysis ver.5.2)によって、結晶粒界、特殊粒界を特定し、単位全粒界長さLおよび単位全特殊粒界長さLσを求めた。
表3に、L、Lσ及び特殊粒界長比率Lσ/Lを示す。
前記EBSD測定装置と解析ソフトによって得た結果から求めた平均結晶粒径の値も表3に示す。
また、図2〜7に、それぞれ、本発明アノード3,7,11,13,21,27のEBSD解析結果を示す。
【0023】
比較のため、前記で作製した含リン銅アノード素材に対して、表2に示す条件(少なくとも一つの条件は本発明範囲外の条件である)で、熱間加工(温度、加工法、加工率)、冷間加工(加工法、加工率)、再結晶化熱処理(温度、時間)を行い、表4に示す比較例の含リン銅アノード(比較例アノードという)1〜8を製造した。
また、前記で製造した比較例アノードについても、本発明と同様にして、単位全粒界長さL、単位全特殊粒界長さLσ、特殊粒界長比率Lσ/Lおよび平均結晶粒径を求めた。
この値を表4に示す。
また、図8、9には、それぞれ、比較例アノード4,6のEBSD解析結果を示す。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
【表4】

【0028】
前記の本発明アノード1〜28、比較例アノード1〜8(いずれも、アノード表面積は530cm)を用い、半導体ウエハをカソードとして、5枚の半導体ウエハに対して、以下の条件で電気銅めっきを行った。
めっき液:CuSO・5HO 200g/L,
SO 50g/L,
Cl 50ppm,
添加剤 ポリエチレングリコール:400ppm(分子量6000)
めっき条件:液温25°C、
カソード電流密度 2A/dm
めっき時間 1時間/枚、
【0029】
前記の本発明アノード1〜28、比較例アノード1〜8について、電気銅めっき開始から5枚目のウエハの電気銅めっき完了(5時間)後までに発生したアノードスライム発生量を測定した。
また、めっき後の半導体ウエハ表面を、光学顕微鏡で観察し、ウエハ表面に形成されている高さ5μm以上の突起を欠陥とみなして、突起欠陥数をカウントした。
これらの測定結果を表5、表6に示す。
【0030】
【表5】

【0031】
【表6】

【0032】
表5、表6に示される結果から、本発明の電気銅めっき用の含リン銅アノード、電気銅めっき用の含リン銅アノードの製造方法および電気銅めっき方法によれば、例えば、半導体ウエハ等への精緻な銅配線を形成する場合にも、アノードスライムの発生を抑制するとともに、半導体ウエハ等の被めっき材表面における汚染、突起等のめっき欠陥の発生防止を図ることができる。
しかるに、特殊粒界長比率Lσ/Lが0.4未満である比較例アノードでは、アノードスライム発生量が多いばかりか、スライム起因のめっき欠陥が多発していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上のとおり、本発明は、電気銅めっきに際して、アノードスライムの発生を抑制でき、被めっき材表面におけるめっき欠陥の発生を防止し得るという優れた効果を有し、特に、半導体ウエハ等への精緻な銅配線形成に適用された場合には、半導体ウエハ上への汚染、突起等の欠陥が発生を防止することができるため、工業的な有用性が極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気めっき用含リン銅アノードにおいて、
(a)走査型電子顕微鏡を用いて、アノード表面の個々の結晶粒に電子線を照射し、隣接する結晶粒相互の配向方位差が15°以上の結晶粒の界面を結晶粒界とし、測定範囲における結晶粒界の全粒界長さLを測定し、これを単位面積1mm当たりに換算した単位全粒界長さLNを求め
(b)また、同じく走査型電子顕微鏡を用いて、アノード表面の個々の結晶粒に電子線を照射し、相互に隣接する結晶粒の界面が特殊粒界を構成する結晶粒界の位置を決定するとともに、特殊粒界の全特殊粒界長さLσを測定し、これを単位面積1mm当たりに換算して単位全特殊粒界長さLσNを求めた場合、
(c)前記測定した結晶粒界の単位全粒界長さLNと、同じく前記測定した特殊粒界の単位全特殊粒界長さLσNとの特殊粒界長比率LσN/LNが、
LσN/LN≧0.4
の関係を満足する結晶粒界組織を有することを特徴とする電気めっき用含リン銅アノード。
【請求項2】
質量%で、100〜800ppmのリンを含有する請求項1に記載の電気めっき用含リン銅アノード。
【請求項3】
平均結晶粒径が3〜1000μmである請求項1または2に記載の電気めっき用含リン銅アノード。
【請求項4】
電気めっき用含リン銅に加工を施して加工歪みを与えた後、350〜900℃で再結晶化熱処理を行うことにより、特殊粒界長比率LσN/LNを0.4以上とすることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の電気めっき用含リン銅アノードの製造方法。
【請求項5】
前記加工は、冷間加工または熱間加工の内の少なくとも何れかにより行う請求項4に記載の電気めっき用含リン銅アノードの製造方法。
【請求項6】
冷間加工と再結晶化熱処理、あるいは、熱間加工と再結晶化熱処理、またはこれらを組み合わせた処理を、特殊粒界長比率LσN/LNが0.4以上となるまで繰り返し行う請求項4または5に記載の電気めっき用含リン銅アノードの製造方法。
【請求項7】
400〜900℃の温度範囲で圧下率5〜80%の熱間加工を施し、その後、3〜300秒間、前記加工歪みを与えずに静的に保持し、再結晶化熱処理を行う請求項4に記載の電気めっき用含リン銅アノードの製造方法。
【請求項8】
圧下率5〜80%の冷間加工を施し、その後、350〜900℃の温度範囲に加熱し、5分〜5時間、前記加工歪みを与えずに静的に保持し、再結晶化熱処理を行う請求項4に記載の電気めっき用含リン銅アノードの製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の電気めっき用含リン銅アノードを用いた電気銅めっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−162875(P2011−162875A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141721(P2010−141721)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)