説明

電気集塵機用の電極、および、電気集塵機

【課題】厨房排気の中の粉塵を、問題を生じることなく、効率よく捕集する。
【解決手段】厨房の排気ダクト1の途中に、ガス中の粉塵に電荷を与える荷電部10と、高圧電極21と低圧電極22とを交互に配し電気力により粉塵を捕集する集塵部20とを備えた電気集塵機2を装備する。集塵部20の高圧電極21として、不燃性を有すると共に体積抵抗値が10〜1013Ω・cmの特性を有するスレート等の基材に、不燃性と撥水性を有するシリカ系などのコーティング材をコーティングをすることにより、吸水率を6%以下に抑えた電極を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロナ放電を利用して含塵ガス中の粉塵に電荷を与え、この電荷を与えられた粉塵を高圧電極と低圧電極との間に発生する静電気力によって捕集する電気集塵機に用いられる電極、および、その電極を利用した電気集塵機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の電気集塵機は、含塵ガス中の粉塵に電荷を与える荷電部と、荷電部の下流において荷電された粉塵を電気力により捕集する集塵部とを備えている。荷電部には、コロナ放電を発生させるイオン化線および対向電極が設けられ、集塵部には、電界を発生させるための高圧電極および低圧電極(接地電極ともいう)が交互に配列されて設けられている。
【0003】
集塵部の電極の形式としては平行平板型が広く用いられており、高圧電極としては、一般にアルミニウム等の導電性の金属電極、あるいは、非金属電極が用いられている。非金属電極の例としては、ベークライトやエポキシ等の樹脂、あるいは、ボール紙、セメントシート等が挙げられる。また、特許文献1には、高圧電極として、体積抵抗値が1010〜1013Ω・mの半絶縁性樹脂電極を用いる例が示されている。
【特許文献1】特開平7−289940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、従来では、各種の材料よりなる高圧電極が提供されている。ところが、厨房の排気設備にこの種の電気集塵機を装備しようとした場合、次のような課題があることが分かった。
【0005】
即ち、厨房の排気設備に電気集塵機を装備する場合、厨房の排気ダクト内に設置する必要があるが、厨房の排気ダクト内はかなりの高温になるので、樹脂電極やその他の可燃材料製の電極を用いることができない。従って、厨房排気ダクト内に電気集塵機を設置する場合は、全ての電極を不燃物で構成しなければならない。
【0006】
そこで、アルミニウム等の金属電極について検討してみた。金属電極を使用した場合、不燃性の点では問題はないが、厨房の排気中には多くの水蒸気が含まれるため、水蒸気の付着により、スパークを発生することがあり、最悪の場合、スパークにより排気に含まれる油分に火が着いて、火災を引き起こす恐れがあることが懸念された。
【0007】
また、その他の非金属電極についても検討してみたところ、従来の非金属の電極材料はいずれも、水分の吸収によって、アルミニウム等の金属電極と同様の問題を起こすおそれがあることが分かった。例えば、ボール紙やセメント系の材料の場合は、大きな吸湿性があるため、吸湿により抵抗値が下がり、スパーク発生の恐れがあった。
【0008】
本発明は、上記事情を考慮し、厨房排気設備に使用した場合にも、問題なく運転することのできる電気集塵機用の電極、および、その電極を使用した電気集塵機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明の電気集塵機用の電極は、体積抵抗値が10〜1013Ω・cmの特性を有すると共に、不燃性を有し、且つ、吸水率の低い材料よりなることを特徴としている。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の電気集塵機用の電極であって、不燃性を有すると共に体積抵抗値が10〜1013Ω・cmの特性を有する基材に、不燃性と撥水性を有する材料をコーティングをすることにより、吸水率を6%以下に抑えたことを特徴としている。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2に記載の電気集塵機用の電極であって、前記基材としてスレートまたはセメント系ボードを用い、該スレートまたはセメント系ボードに前記撥水性を有する材料をコーティングして含浸させたことを特徴としている。
【0012】
請求項4の発明の電気集塵機は、ガス中の粉塵に電荷を与える荷電部と、高圧電極と低圧電極とを交互に配し、それら高圧電極と低圧電極の間に発生する電気力により前記荷電部にて電荷を与えられた粉塵を捕集する集塵部と、を備えた電気集塵機において、前記高圧電極として請求項1〜3のいずれか1項に記載の電極を用いたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明の電極によれば、不燃性と非吸水性を有すると共に体積抵抗値が10〜1013Ω・cmであるから、これを集塵部の高圧電極として利用することにより、厨房排気のように高温で水蒸気を多く含む排気であっても、その排気中の粉塵を、不具合を来さずに長時間にわたり、効率よく捕集することができる。
【0014】
請求項2の発明の電極によれば、基材自体に吸水性があっても、撥水性を有する材料をコーティングすることによって、吸水率を大幅に制限することができるので、厨房排気の集塵用高圧電極として有効に利用することができる。
【0015】
請求項3の発明の電極によれば、直接使用すると水分を吸収しやすいスレートやセメント系ボードを基材として用いながら、それに撥水性を有する材料をコーティングして含浸させることにより、吸水率を制限しているので、安価な材料を用いつつ、不燃性と非吸水性と体積抵抗値10〜1013Ω・cmの特性を維持することができ、厨房排気の集塵用高圧電極として有効に利用することができる。
【0016】
請求項4の発明の電気集塵機によれば、高圧電極として、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電極を用いているので、厨房排気のように高温で水蒸気を多く含む排気中の粉塵を、不具合を来さずに長時間にわたり、効率よく捕集することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0018】
図1は厨房排気装置の概略構成を示す説明図、図2は電気集塵機の構成を示す外観斜視図、図3は電気集塵機の集塵部の正面図である。
【0019】
図1に示すように、この厨房排気装置は、排気ダクト1のガス流れ方向(白抜き矢印の方向)の途中に電気集塵機2を装備し、その下流側に脱臭装置3を装備し、その更に下流側に送風ファン4を装備したものである。
【0020】
電気集塵機2は、筐体内の上流側に荷電部(アイオナイザー)10を配置し、下流側に集塵部(コレクタ)20を配置したもので、荷電部10は、コロナ放電を発生させるイオン化線11および対向電極12とで構成され、集塵部20は、電界を発生させるために交互に配列された高圧電極21および低圧電極(接地電極ともいう)22とで構成されている。
【0021】
図2を用いてより具体的に述べると、電気集塵機2は、前面に矢印Aのようにガスの流れ込む入口41aを有すると共に後面に矢印Bのようにガスの出て行く出口41bを有する直方体形状の筐体41と、その筐体41の内部に備えられた荷電部10および集塵部20とを備えている。筐体41の側面には、荷電部10及び集塵部20を取り付けるための取付口41cが設けられ、取付口41cにはドア42が開閉自在に設けられている。そして、このドア42を閉じることにより、ドア42側の高圧供給部15、16と、荷電部10のイオン化線11に繋がる高圧給電部(図示略)および集塵部20の高圧電極21に繋がる高圧給電部24とがそれぞれ接続されるようになっている。
【0022】
図3に示すように、集塵部20の外形は、上下のガイドプレート43、44および左右のサイドプレート45、46に囲まれた長方形状とされており、内部に平板状の多数の高圧電極21および低圧電極22が交互に対向するように所定の間隔で並設されている。低圧電極22は、高導電性を有する鉄、アルミニウム、ステンレススチール等の金属材料から構成され、電源の負極側に接地されている。
【0023】
一方の高圧電極21は、形状的には、図4(a),(b)に示すように、概略長方形板状に形成され、給電シャフトを貫通させる給電部として2つの孔21aが設けられている。
【0024】
この場合の高圧電極21は、不燃性を有すると共に体積抵抗値が10〜1013Ω・cmの特性を有するスレートなどを基材とし、その基材に不燃性と撥水性を有するシリカ系などのコーティング材料をコーティングして含浸させることによって構成されている。このようにコーティングすることにより、吸水率が6%以下に抑えられている。なお、給電用の孔21aの内部はコーティングしていない。
【0025】
基材の具体的な例としては、ノンアスフレキシブルボード(繊維強化セメント板)やグランデックス(主原料:ケイ酸マグネシウム)などの不燃材料が挙げられる。また、コーティング材としては、撥水性、防水防湿性を有するシリカ系コーティング材(ヒートレスグラス、テリオスコートなど)やオルガノシロキサン系塗料、あるいはシリカ・シリコンハイブリッド塗料などが挙げられる。
【0026】
例えば、基材として用いるスレートの体積抵抗率は、図5に示すように、使用する湿度範囲(相対湿度30〜90%)で、10〜1013Ω・cmを満たすことが確認された。また、スレートの体積抵抗率は、図6に示すように、使用を想定する印加電圧の範囲(10〜1000V)で、10〜1013Ω・cmを満たすことが確認された。従って、スレートを基材として使用することにより、常に10〜1013Ω・cmの体積抵抗値を維持することができる。
【0027】
また、いくつかのサンプルについて、水中に没した浸漬時間(H)による吸水率(%)の変化を調べる試験を行った。その結果を図7に示す。
【0028】
サンプルとしては、
(1)スレートそのままのもの(無処理)
(2)スレートをシリカ系のコーティング材(ヒートレスグラス:日興株式会社製)の液中に10秒漬けて、コーティング材をスレートに含浸させたもの(10秒含浸)
(3)スレートをシリカ系のコーティング材(ヒートレスグラス:日興株式会社製)の液中に30秒漬けて、コーティング材をスレートに含浸させたもの(30秒含浸)
(4)従来の半絶縁性樹脂電極(比較基準品)
の4種類を用意し、水中に浸漬させた。その結果、無処理のものは使用不可であるが、10秒以上含浸させたものは、従来の半絶縁性樹脂電極と同等レベルの低い吸水性を発揮できるので、使用可能であることが分かった。
【0029】
以上の構成の高圧電極を使用することにより、厨房排気のように高温で水蒸気を多く含む排気であっても、その排気中の粉塵を、不具合を来さずに長時間にわたり、効率よく捕集することができる。
【0030】
特に、スレートのように吸水性の高い材料を使用しながらも、その上に撥水性を有する材料をコーティングすることによって、吸水率を大幅に制限することができるので、安価な材料を用いつつ、不燃性と所定の体積抵抗率を維持することができ、厨房排気の集塵用高圧電極として有効に利用することができる。
【0031】
図8は、上述のスレートを基材とした高圧電極を集塵部に組み込んだ電気集塵機と、従来の半絶縁樹脂電極を集塵部の高圧電極として組み込んだ電気集塵機の集塵性能を比較して示す図である。その結果、本発明の実施形態の集塵機の方が比較例に比し集塵効率が優れていることが分かった。
【0032】
なお、上記実施形態では、スレートを基材として使用した場合を示したが、基材としてセメント系ボードを用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態の厨房排気装置の概略構成を示す説明図である。
【図2】同厨房排気装置に組み込まれた電気集塵機の構成を示す外観斜視図である。
【図3】同電気集塵機の集塵部の正面図である。
【図4】(a)は同集塵部を構成する高圧電極の形状を示す平面図、(b)は同高圧電極の側断面図(b)である。
【図5】高圧電極の基材として用いるスレートの湿度が変化した場合の体積抵抗率の変化を示すグラフである。
【図6】同スレートの印加電圧と体積抵抗率の関係を示すグラフである。
【図7】いくつかのサンプルの吸水率の違いを示すグラフである。
【図8】比較例に対する本発明の実施形態の集塵性能の違いを示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1 排気ダクト
2 電気集塵機
10 荷電部
20 集塵部
21 高圧電極
22 低圧電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積抵抗値が10〜1013Ω・cmの特性を有すると共に、不燃性を有し、且つ、吸水率の低い材料よりなることを特徴とする電気集塵機用の電極。
【請求項2】
請求項1に記載の電気集塵機用の電極であって、
不燃性を有すると共に体積抵抗値が10〜1013Ω・cmの特性を有する基材に、不燃性と撥水性を有する材料をコーティングをすることにより、吸水率を6%以下に抑えたことを特徴とする電気集塵機用の電極。
【請求項3】
請求項2に記載の電気集塵機用の電極であって、
前記基材としてスレートまたはセメント系ボードを用い、該スレートまたはセメント系ボードに前記撥水性を有する材料をコーティングして含浸させたことを特徴とする電気集塵機用の電極。
【請求項4】
ガス中の粉塵に電荷を与える荷電部と、高圧電極と低圧電極とを交互に配し、それら高圧電極と低圧電極の間に発生する電気力により前記荷電部にて電荷を与えられた粉塵を捕集する集塵部と、を備えた電気集塵機において、
前記高圧電極として請求項1〜3のいずれか1項に記載の電極を用いたことを特徴とする電気集塵機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−119903(P2010−119903A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293007(P2008−293007)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(391009372)ミドリ安全株式会社 (201)
【Fターム(参考)】