電流分離器及び電流遮断装置
【課題】最小溶断電流を低く保ちつつ、高いサージ耐量を得ることができ、他の電流遮断機器との動作協調できる電流分離器を提供する。
【解決手段】分電盤150は、漏電遮断器160と雷保護装置180とを備え、雷保護装置180は、分離器100を有している。分離器100は、第1ヒューズと第1ヒューズに並列に接続されたヒューズ並列回路とにより構成され、ヒューズ並列回路は、第1ヒューズと同じ溶断時間−電流特性を有する第2ヒューズと、この第2ヒューズに直列に接続された複数直列に接続したダイオード群2つを逆向きに並列接続して構成した電圧スイッチ部とを有し、電圧スイッチ部のしきい値電圧は、異常電流を検知した際に漏電遮断器160より先に分離器100が動作する動作協調が行われるように設定されている。
【解決手段】分電盤150は、漏電遮断器160と雷保護装置180とを備え、雷保護装置180は、分離器100を有している。分離器100は、第1ヒューズと第1ヒューズに並列に接続されたヒューズ並列回路とにより構成され、ヒューズ並列回路は、第1ヒューズと同じ溶断時間−電流特性を有する第2ヒューズと、この第2ヒューズに直列に接続された複数直列に接続したダイオード群2つを逆向きに並列接続して構成した電圧スイッチ部とを有し、電圧スイッチ部のしきい値電圧は、異常電流を検知した際に漏電遮断器160より先に分離器100が動作する動作協調が行われるように設定されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流分離器及び電流遮断装置に係り、より詳しくは、複数の電流遮断部を有する電流遮断装置における、一の電流遮断部に含まれる電流分離器、及びその電流遮断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
異常電流を検知した際に電流を遮断する装置の一例として、雷保護装置用分離器がある。雷保護装置には直撃雷用と誘導雷用があり、例えば一般住宅用としては、日本電気協会の内線規程により誘導雷対策を目的として雷保護装置を分電盤に設置することが勧告されている。内線規程に示される一般住宅の分電盤の構成例は図9のとおりで、雷保護装置980は雷サージが分電盤950に侵入した時に導通する雷サージ防護素子981と、雷サージ防護素子981が短絡モードで故障した時に流れ続ける故障電流を遮断する分離器900とで構成される。このため分離器900には、雷サージ防護素子981が正常に動作して導通するピークが数kAから数10kAで短時間(数100μs以下)の雷サージに対しては遮断動作をせず、その一方、雷サージ防護素子981が短絡モードで故障した時に流れる継続的な故障電流は確実に遮断することが求められる。この故障電流の電流値は数10Aから最大5kAと広範囲であり、分離器には継続的に流れる数10A程度の比較的低い故障電流においても動作することが求められる。
【0003】
特許文献1では、分離器として、故障電流を遮断する温度ヒューズと、雷サージ防護素子の耐量を超えるサージ電流を遮断する切り離し導体とを直列接続したものを用いている。この構成では、最小動作電流は温度ヒューズの特性で、サージ耐量は切り離し導体の特性でそれぞれ決まるため、最小動作電流を低くして、サージ耐量を高めることが可能である。
【0004】
分離器として一般的に用いられるヒューズは、図10のグラフに示されるような溶断時間―電流特性を有している。この図のAの領域に示すように、ヒューズは大きな電流が流れる場合には短時間で溶断し、電流の低下とともに溶断時間は長くなる。さらにBの領域になると、最小溶断電流と呼ばれる電流値Iminで溶断するが、それ以下の電流では溶断しなくなる。これは、Aの領域では時間が短いため影響が現れないヒューズエレメントからの放熱がBの領域では影響するようになるためで、ヒューズに流れる電流による発熱と放熱とがバランスし、最小溶断電流以下では溶断に必要なエネルギーがヒューズエレメントに蓄積されなくなるためである。
【0005】
このような特性を持つヒューズを分離器に応用した場合、雷サージで溶断しないためには溶断時間―電流特性を上方に持ち上げる必要があるが、そうすると最小溶断電流も高くなり、雷サージ防護素子の故障電流が低い場合には溶断しにくくなる。一例として、最小溶断電流が50Aのヒューズではピーク電流10kA程度の誘導雷サージには耐えるが20kAには耐えられず、ピーク電流20kA程度の誘導雷サージに耐えるようにするには、最小溶断電流は50Aより高くせざるを得ない。
【0006】
最小溶断電流を低く保ちつつサージ耐量を向上する方法として、特許文献2及び特許文献3において、第1のヒューズに対して第2のヒューズとダイオードとを直列接続したものを並列接続する回路構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−288114号公報
【特許文献2】実開昭55−136149号公報
【特許文献3】実開昭58−83746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、商用電源から住宅内へと引き込む際に使用される分電盤には、図9に示されるように、配線用遮断器としての過電流保護機能付き漏電遮断器(ELCB)960などの別の保護部品も使われており、電源系や負荷となる電気・電子機器の様々な故障に応じて、遮断すべき保護部品が正しく動作する動作協調が必要となっている。例えば、単相三線のL1、L2及び中性線Nに設置された雷サージ防護素子981の3つすべてが短絡モードで故障すると、故障電流は商用電源から過電流保護機能付き漏電遮断器960を通り、さらにL1ならびにL2の分離器900と故障した雷サージ防護素子981を通った後、L1からはL2、N、集中接地端子990へ、L2からはL1、N、集中接地端子990へそれぞれの経路のインピーダンスに依存して流れる。この時、分離器900が動作して故障電流を遮断するのが正しい保護動作であるが、分離器900と過電流保護機能付き漏電遮断器960との動作特性の関係によっては過電流保護機能付き漏電遮断器960の方が先に動作する場合もあり、この場合には故障電流だけでなく、ブレーカ970を通じた住宅内への電力供給も止めてしまう。
【0009】
すなわち、雷サージ防護素子981の短絡モードでの故障時には、過電流保護機能付き漏電遮断器960よりも分離器900が常に先に動作するのが正しい動作協調である。このため、過電流保護機能付き漏電遮断器960の定格電流が50Aであれば、分離器900の定格電流は、少なくとも50A未満とすることが必要であり、さらに故障電流の最大値5kAまでの範囲において過電流保護機能付き漏電遮断器960よりも先に動作することが求められる。なお、配線用遮断器としての過電流保護機能付き漏電遮断器は、過電流や漏電が数ms程度よりも長く継続する場合にのみ動作するのが一般的であり、雷サージのような数100μs程度以下の現象では動作しない。
【0010】
このような分電盤に用いられる雷保護装置用分離器は、雷サージでは動作せず、かつ低電流で継続的な故障電流では確実に動作することが必要であると共に、さらに漏電遮断器のような他の保護部品との動作協調するために、所望の溶断時間−電流特性に変更することができることが望まれている。
【0011】
本発明は、上述の事情を鑑みて行ったものであり、複数の電流遮断部を有する電流遮断装置における、一の電流遮断部に含まれる電流分離器において、最小溶断電流を低く保ちつつ高いサージ耐量を得ることができ、他の電流遮断機器との動作協調できる電流分離器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の電流分離器は、第1電流遮断部と第2電流遮断部とを有する電流遮断装置における、前記第1電流遮断部に含まれる電流分離器であって、第1ヒューズと、前記第1ヒューズと並列に接続された第1ヒューズ並列回路と、を備え、前記第1ヒューズ並列回路は、第2ヒューズと、前記第2ヒューズに直列接続され、しきい値電圧を超える電圧が印加された場合に電流が流れる双方向性のあるスイッチ手段と、を有し、前記第1電流遮断部における電流の遮断は、前記第1ヒューズ及び前記第2ヒューズが共に溶断されることにより行われ、前記しきい値電圧は、前記第1電流遮断部及び前記第2電流遮断部の各々の最小遮断電流値を超える電流値における第1電流遮断部の動作時間が、前記電流値における第2電流遮断部の動作時間より短くなるように設定されている、電流分離器である。
【0013】
また、本発明の電流分離器は、前記双方向性のあるスイッチ手段は、複数のダイオードを互いに逆向きに並列接続することにより形成されている、とすることができる。
【0014】
また、本発明の電流分離器は、前記双方向性のあるスイッチ手段は、双方向サイリスタにより形成されている、とすることができる。
【0015】
また、本発明の電流分離器は、前記第1ヒューズ並列回路に、更に並列に接続された第2ヒューズ並列回路を更に備え、前記第2ヒューズ並列回路は、第3ヒューズと前記第3ヒューズに直列接続され、前記しきい値電圧とは異なるしきい値電圧の双方向性のあるスイッチ手段とを有する、とすることができる。
【0016】
また、本発明の電流分離器は、前記第2ヒューズに、並列に接続されたカスケード並列回路を更に備え、前記カスケード並列回路は、カスケードヒューズと前記カスケードヒューズに直列接続されたカスケード電圧スイッチ手段とを有する、とすることができる。
【0017】
本発明の電流遮断装置は、異常電流を検知した際に、電流を遮断する電流遮断装置であって、第1ヒューズと、前記第1ヒューズと並列に接続された第1ヒューズ並列回路とを有する第1電流遮断部と、第2電流遮断部と、を備え、前記第1ヒューズ並列回路は、第2ヒューズと、前記第2ヒューズに直列接続されたしきい値電圧を超える電圧が印加された場合に電流が流れる双方向性のあるスイッチ手段とを有し、前記第1電流遮断部における電流の遮断は、前記第1ヒューズ及び前記第2ヒューズが共に溶断されることにより行われ、前記しきい値電圧は、前記第1電流遮断部の最小遮断電流を超え、かつ前記第2電流遮断部の最小遮断電流を超える電流値における第1電流遮断部の動作時間が、前記任意の電流値における第2電流遮断部の動作時間より短くなるように設定されている、ことを特徴とする電流遮断装置である。
【0018】
また、本発明の電流遮断装置は、前記第1電流遮断部は、雷サージ防護素子を更に備える雷保護装置であり、前記第2電流遮断部は、漏電遮断器である、とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】本発明の第1実施形態に係る雷保護装置用分離器を含む分電盤の概略図である。
【図1B】図1Aの分離器の回路を示す図である。
【図2】分離器及びヒューズの溶断時間−電流特性を示すグラフである。
【図3】分離器及び漏電遮断器の動作時間−電流特性を示すグラフである。
【図4】本発明の第2実施形態に係る分離器の構成図である。
【図5】図4の双方向サイリスタの電流−電圧特性を示すグラフである。
【図6】本発明の第3実施形態に係る分離器の構成図である。
【図7】図6の分離器の特性を示すグラフである。
【図8】本発明の第4実施形態に係る分離器の構成図である。
【図9】一般住宅の分電盤構成を示す図である。
【図10】一般的なヒューズの溶断時間−電流特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の第1実施形態乃至第4実施形態を図を用いて詳細に説明する。
【0021】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態を、図1A、図1B、図2及び図3を参照しつつ説明する。図1Aには、本発明の第1実施形態に係る雷保護回路用分離器100を含む分電盤150の構成例が示されている。分電盤150は、漏電及び過電流が検知された際に電気の供給を遮断する過電流保護機能付き漏電遮断器160と、過電流を検知した際に電気の供給を遮断するブレーカ170と、雷サージが分電盤に侵入した時に低インピーダンスとなりサージ電流を回避させる雷保護装置180と、各電気・電子機器のアース線が接続される集中接地端子190とを備えている。雷保護装置180は、雷サージが商用電源を通じて分電盤150に侵入してきた時、過電流保護機能付き漏電遮断器160からの電力線L1、L2及び中性線Nをそれぞれ集中接地端子190を介して接続させる雷サージ防護素子181と分離器100とを有している。
【0022】
図1Bには、分離器100の回路が具体的に示されている。分離器100はヒューズ110と、ヒューズ110に並列に接続されたヒューズ並列回路120とにより構成され、ヒューズ並列回路120は、ヒューズ110と同じ溶断時間−電流特性を有するヒューズ130と、ヒューズ130に接続され、複数直列に接続されたダイオード群2つを逆向きに並列に接続することにより形成された電圧スイッチ部140とを有している。
【0023】
電圧スイッチ部140は、ダイオード直列数で変化させることができるしきい値電圧を持ち、このしきい値電圧以上の電圧が加われば電流を流し、加わる電圧がしきい値電圧以下では電流を流さない。例えば、電圧スイッチ部140を構成するダイオードひとつ当りの順方向電圧と直列数をそれぞれ0.7V、2直列とすると、電圧スイッチ部140のしきい値電圧は0.7V×2=1.4Vとなる。さらに、ヒューズ110及びヒューズ130の抵抗を3mΩとすると、ヒューズ110の両端電圧が1.4Vになるのは分離器100に入る全電流が467A(=1.4V÷3mΩ)の時であり、全電流が467Aを超えるとヒューズ並列回路120にも電流が流れ始める。また、ダイオードを4直列した場合を同様に計算すると、電圧スイッチ部140のしきい値電圧は0.7V×4=2.8Vとなり、ヒューズ並列回路120に電流が流れ始めるのは、分離器100に入る全電流が933A(=2.8V÷3mΩ)からとなる。
【0024】
電圧スイッチ部140のしきい値電圧を1.4Vとし、分離器100に100A(>Imin)の故障電流が流れる場合を考える。ヒューズ110に100Aすべての電流が流れると仮定してもその電圧降下は0.3V(=100A×3mΩ)であり、電圧スイッチ部140のしきい値電圧1.4Vに満たないため、ヒューズ並列回路120には電流はほとんど流れない。このため、ヒューズ110には故障電流100Aのほぼすべてが流れ、ヒューズ110の固有の溶断時間で溶断される。引き続き、ヒューズ110が溶断されると、100Aの電流はヒューズ並列回路120を流れるようになり、ヒューズ並列回路120のヒューズ130は、ヒューズ110と同じ溶断時間−電流特性を有するため、ヒューズ110と同じ時間で溶断される。したがって、分離器100では、最小溶断電流Iminはヒューズ110のみで構成される場合と変わらないが、合計の溶断時間は2倍になるという性質を持つ。
【0025】
ここではヒューズ110の抵抗は3mΩ一定として計算したが、実際には電流による発熱でヒューズエレメント温度が上昇するとヒューズ抵抗は高くなり、溶断直前には室温での抵抗の5倍程度となる。このため、ヒューズ110の両端電圧は電流が流れ続けるにしたがって上述の計算結果よりも高くなるので、実際には上の計算結果よりも低い全電流においてヒューズ並列回路120に電流が分流され始める。
【0026】
一方、例えば20kAという高いピークのサージ電流が分離器100に入る時、全電流がヒューズ110とヒューズ並列回路120にほぼ均等に分流されると仮定すると、ヒューズ110の両端電圧は30V(=20kA/2×3mΩ)であり、これは電圧スイッチ部140のしきい値電圧1.4Vを大きく上回ることから、仮定どおりに電圧スイッチ部140はオンし、サージ電流はヒューズ110とヒューズ並列回路120に分流されることになる。ヒューズ110に流れる電流をI110とすると、ヒューズ110とヒューズ並列回路120の両端に加わる電圧は等しいことから、I110×3mΩ=(20kA−I110)×3mΩ+1.4Vとなり、ヒューズ110とヒューズ130に流れる電流はそれぞれ10.2kAと9.8kAとなる。電圧スイッチ部140のダイオードが4直列の場合についても同様に計算すると、I110×3mΩ=(20kA−I110)×3mΩ+2.8Vとなり、ヒューズ110とヒューズ130に流れる電流はそれぞれ10.5kAと9.5kAとなる。電圧スイッチ部140のしきい値電圧のため、ヒューズ110とヒューズ130への分流は完全に均等ではなく、かつしきい値電圧が大きいほど差は大きくなるが、大きなピーク値を持つサージ電流はヒューズ110とヒューズ130とにほぼ均等に分流されることになり、分離器100はヒューズ1本の時の約2倍のサージ電流を導通することができる。ただし、ダイオードの順方向電圧は電流が増加すると大きくなるため、ヒューズ並列回路120に分流される電流は、上記の計算よりもさらに小さくなる。
【0027】
図2には、分離器100で得られる溶断時間−電流特性L100(実線)をヒューズ110一本の特性L110(点線)と比較して示している。分離器100では、最小溶断電流はヒューズ110一本と変わらず、サージ耐量は約2倍になる。また、サージ耐量が約2倍の領域と最小溶断電流との間には、傾きが急峻な遷移領域がある。これは、ヒューズ並列回路120には電圧スイッチ部140のしきい値電圧で決まる電流を超えると電流が流れ始め、そこから電流が増えるにしたがって全電流に占める割合が増加していき、やがて20kA程度となるとヒューズ110とほぼ均等となるように推移するためで、ヒューズ並列回路120に流れる電流割合が増加していく部分が遷移領域となる。
【0028】
図3には分離器100についての2種類の特性L101(実線)とL102(一点鎖線)及び過電流保護機能付き漏電遮断器160の特性L160(点線)が示されている。分離器100の特性L101とL102は、電圧スイッチ部140のしきい値電圧の差によるものであり、ダイオードの直列数を増やしてしきい値電圧を高くすることにより、左側にシフトする。すなわち、ここではL101の方がL102よりもダイオード直列数が多く、しきい値電圧が高い場合である。これは、しきい値電圧を高くすればより大きな電流でなければ電圧スイッチ部140はオンせず、ヒューズ並列回路120に電流が分流されないためである。
【0029】
分離器100と過電流保護機能付き漏電遮断器160の特性の関係を見ると、分離器100の特性がL101の場合はL160と交わらず、L102の場合はL160と交わる。L101とL160のように交わらずL101が常に下に位置する場合、雷サージ防護素子181の故障電流の大きさに関わらず分離器100が過電流保護機能付き漏電遮断器160より先に動作するので、雷サージ防護素子181の故障電流で過電流保護機能付き漏電遮断器160が動作することはない。一方、特性が交わるL102の場合、L160のカーブがL102よりも下になる領域が存在し、雷サージ防護素子181の故障電流がその範囲になった場合、分離器100よりも過電流保護機能付き漏電遮断器160が先に動作してしまう。過電流保護機能付き漏電遮断器160が動作すると、ブレーカ170を通じた負荷側への電力供給も止めてしまうので、雷サージ防護素子181の故障電流では常に分離器100が過電流保護機能付き漏電遮断器160よりも先に動作することが正しい動作協調となる。つまり、分離器100のしきい値電圧は、L101の特性を持つように設定される。しきい値電圧の設定においては、上述のヒューズエレメント温度上昇に伴うヒューズ110の抵抗増加も見込むことが必要である。
【0030】
したがって、分離器100においては、最小溶断電流を低く保ちつつ高いサージ電流耐量を得ることができ、また、分離器100の動作時間を、漏電遮断器160の動作時間より短くなるように設定しているため、雷サージで不要に溶断することなく、低く継続的な故障電流を確実に遮断し、かつ漏電遮断器160との動作協調を実現することが可能である。
【0031】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態を、図4〜5を参照しつつ説明する。
【0032】
図4には、本発明の第2実施形態に係る雷保護装置用分離器200が示されている。この分離器200は、上述の第1実施形態で示された分電盤150の雷保護装置180と同様の装置に設置されるものであり、これらの装置についての説明は、第1実施形態と同様であるため、省略する。分離器200はヒューズ110と、ヒューズ110に並列に接続されたヒューズ並列回路220とにより構成され、ヒューズ並列回路220は、ヒューズ110と同じ溶断時間−電流特性を有するヒューズ230と、ヒューズ230に接続され、双方向サイリスタを用いた電圧スイッチ部240とを有している。電圧スイッチ部240の電流−電圧特性は図5に示すようなものであり、スイッチング電圧(±Vbr)までは電流を流さない高抵抗特性で、スイッチング電圧に達すると低抵抗特性にスイッチする。したがって、電圧スイッチ部240は、第1実施形態の電圧スイッチ部140におけるしきい値電圧をスイッチング電圧としたものと同様の機能を持つものとして使用することができる。さらに電圧スイッチ部240は、導通した際にはその両端電圧が0Vに近くなるため、第1実施形態のダイオードの直列接続を用いた電圧スイッチ部140の場合よりも、ヒューズ110とヒューズ並列回路220との間での電流の分流をより均等に近くすることができる。
【0033】
したがって、分離器200においても、最小溶断電流を低く保ちつつ高いサージ電流耐量を得ることができ、また、分離器200の動作時間を、漏電遮断器の動作時間より短くなるように設定できるため、雷サージで不要に溶断することなく、低く継続的な故障電流を確実に遮断し、かつ漏電遮断器との動作協調を実現することが可能である。
【0034】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態を、図6〜7を参照しつつ説明する。
【0035】
図6には、本発明の第3実施形態に係る雷保護装置用分離器300が示されている。この分離器300は、上述の第1実施形態で示された分電盤150の雷保護装置180と同様の装置に設置されるものであり、これらの装置についての説明は、第1実施形態と同様であるため、省略する。分離器300は第1実施形態に係る分離器100と同様に、ヒューズ110とヒューズ110に並列に接続されたヒューズ並列回路120を備えるとともに、さらにヒューズ110に並列に接続されたヒューズ並列回路320を備えている。ヒューズ並列回路320は、ヒューズ110及びヒューズ130と同じ溶断時間−電流特性を有するヒューズ330と電圧スイッチ部340とを有している。電圧スイッチ部340はヒューズ並列回路120の電圧スイッチ部140と基本的構成は同じであるが、ダイオードの直列数を変えて異なるしきい値電圧を持つようにしている。
【0036】
電圧スイッチ部140と電圧スイッチ部340のしきい値電圧をそれぞれ1.4Vと2.8V、ヒューズ110、ヒューズ130、ヒューズ330の抵抗をすべて3mΩとし、分離器300に100A(>Imin)の故障電流が流れる場合を考える。ヒューズ110に100Aすべての電流が流れると仮定してもその電圧降下は0.3V(=100A×3mΩ)であり、電圧スイッチ部140及び電圧スイッチ部340のしきい値電圧1.4V及び2.8Vに満たないため、ヒューズ並列回路120及びヒューズ並列回路320には電流はほとんど流れない。このため、ヒューズ110には故障電流100Aのほぼすべてが流れ、ヒューズ110の固有の溶断時間で溶断される。引き続き、ヒューズ110が溶断された後、ヒューズ並列回路120に100Aすべての電流が流れると仮定してもその電圧降下は1.7V(=100A×3mΩ+1.4V)であり、電圧スイッチ部340のしきい値電圧2.8Vに満たないため、ヒューズ並列回路320には電流はほとんど流れない。このため、ヒューズ130には故障電流100Aのほぼすべてが流れ、ヒューズ130はヒューズ110と同じ溶断時間−電流特性を有するため、ヒューズ110と同じ時間で溶断される。引き続き、ヒューズ130が溶断されると、100Aの電流はヒューズ並列回路320を流れるようになり、ヒューズ並列回路320のヒューズ330は、ヒューズ110及びヒューズ130と同じ溶断時間−電流特性を有するため、ヒューズ110及びヒューズ130と同じ時間で溶断される。したがって、分離器300では、最小溶断電流Iminはヒューズ110のみで構成される場合と変わらないが、合計の溶断時間は3倍になるという性質を持つ。
【0037】
一方、例えば20kAという高いピークのサージ電流が分離器300に入る時、全電流がヒューズ110とヒューズ並列回路120及びヒューズ並列回路320にほぼ均等に分流されると仮定すると、ヒューズ110の両端電圧は20V(=20kA/3×3mΩ)であり、これは電圧スイッチ部140及び電圧スイッチ部340のそれぞれのしきい値電圧1.4Vと2.8Vを大きく上回ることから、仮定どおり電圧スイッチ部140及び電圧スイッチ部340は両方ともオンし、サージ電流はヒューズ110とヒューズ並列回路120及びヒューズ並列回路320に分流されることになる。サージ電流をIとすると、ヒューズ110、ヒューズ並列回路120、ヒューズ並列回路320に流れる電流はそれぞれ(I/3+467)A、(I/3)A、(I/3−467)Aと計算され、サージ電流が20kAであればそれぞれ7.13kA、6.67kA、6.20kAとなる。電圧スイッチ部140及び電圧スイッチ部340のしきい値電圧のため、ヒューズ110、ヒューズ130、ヒューズ330への分流は完全に均等ではないが、大きなピーク値を持つサージ電流はヒューズ110、ヒューズ130、ヒューズ330にほぼ均等に分流されることになり、分離器300はヒューズ1本の時の約3倍のサージ電流を導通することができる。ただし、ダイオードの順方向電圧は電流が増加すると大きくなるため、ヒューズ並列回路120及びヒューズ並列回路320に分流される電流は、上記の計算よりもさらに小さくなる。
【0038】
図7には、分離器300で得られる溶断時間−電流特性L300(実線)が示されている。比較のため、第1実施形態で得られるL101(点線)及びヒューズ110を3並列した場合の特性L110−3(一点鎖線)も合わせて示した。L300をL101とを比較すると、ヒューズ並列回路を増やしたことにより、短時間側のサージ耐量はさらに高くなり、かつ最小溶断電流は同一である。しかし、L300では配線用遮断器との動作協調に関わる領域もL101よりもカーブが上であり、動作協調に関してはL101の方がより好ましい。ただし、通常のヒューズでサージ耐量が同等となるL110−3と比較すると、最小溶断電流が低く、かつ動作協調も実現し易い特性である。
【0039】
したがって、分離器300においても、最小溶断電流を低く保ちつつ高いサージ電流耐量を得ることができ、また、分離器300の動作時間を、漏電遮断器の動作時間より短くなるように設定できるため、雷サージで不要に溶断することなく、低く継続的な故障電流を確実に遮断し、かつ漏電遮断器との動作協調を実現することが可能である。
【0040】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態を、図8を参照しつつ説明する。
【0041】
図8には、本発明の第4実施形態に係る雷保護装置用分離器400が示されている。この分離器400は、上述の第1実施形態で示された分電盤150の雷保護装置180と同様の装置に設置されるものであり、これらの装置についての説明は、第1実施形態と同様であるため、省略する。分離器400は第1実施形態に係る分離器100と同様に、ヒューズ110とヒューズ110に並列に接続されたヒューズ並列回路120を備えるとともに、さらにヒューズ130に並列に接続されたカスケード並列回路420を備えている。カスケード並列回路420は、ヒューズ110及びヒューズ130と同じ溶断時間−電流特性を有するヒューズ430と電圧スイッチ部440とを有している。電圧スイッチ部440はヒューズ並列回路120の電圧スイッチ部140と基本的構成は同じであるが、電圧スイッチ部140には電圧スイッチ部440よりも高い電流容量を持たせている。
【0042】
電圧スイッチ部140と電圧スイッチ部440のしきい値電圧をいずれも1.4V、ヒューズ110、ヒューズ130、ヒューズ430の抵抗をすべて3mΩとし、分離器400に100A(>Imin)の故障電流が流れる場合を考える。ヒューズ110に100Aすべての電流が流れると仮定してもその電圧降下は0.3V(=100A×3mΩ)であり、電圧スイッチ部140のしきい値電圧1.4Vに満たないため、ヒューズ並列回路120には電流はほとんど流れない。さらに、ヒューズ130に電流がほとんど流れないのでヒューズ130の電圧降下はほぼ0Vで電圧スイッチ部440のしきい値1.4Vに満たないため、カスケード並列回路420にも電流はほとんど流れない。このため、ヒューズ110には故障電流100Aのほぼすべてが流れ、ヒューズ110の固有の溶断時間で溶断される。引き続き、ヒューズ110が溶断された後、ヒューズ並列回路120に100Aすべての電流が流れると仮定してもヒューズ130の電圧降下は0.3V(=100A×3mΩ)であり、電圧スイッチ部440のしきい値電圧1.4Vに満たないため、カスケード並列回路420には電流はほとんど流れない。このため、ヒューズ130には故障電流100Aのほぼすべてが流れ、ヒューズ130はヒューズ110と同じ溶断時間−電流特性を有するため、ヒューズ110と同じ時間で溶断される。引き続き、ヒューズ130が溶断されると、100Aの電流はカスケード並列回路420を流れるようになり、カスケード並列回路420のヒューズ430は、ヒューズ110及びヒューズ130と同じ溶断時間−電流特性を有するため、ヒューズ110及びヒューズ130と同じ時間で溶断される。したがって、分離器400では、最小溶断電流Iminはヒューズ110のみで構成される場合と変わらないが、合計の溶断時間は3倍になるという性質を持つ。
【0043】
一方、例えば20kAという高いピークのサージ電流が分離器400に入る時、全電流がヒューズ110とヒューズ並列回路120及びカスケード並列回路420にほぼ均等に分流されると仮定すると、ヒューズ110の両端電圧は20V(=20kA/3×3mΩ)であり、これは電圧スイッチ部140のしきい値電圧1.4Vを大きく上回り、さらにヒューズ130の両端電圧は18.6V(=20kA/3×3mΩ−1.4V)であり、これは電圧スイッチ部440のしきい値電圧1.4Vを大きく上回ることから、仮定どおり電圧スイッチ部140及び電圧スイッチ部440は両方ともオンし、サージ電流はヒューズ110とヒューズ並列回路120及びカスケード並列回路420に分流されることになる。サージ電流をIとすると、ヒューズ110、ヒューズ並列回路120、カスケード並列回路420に流れる電流はそれぞれ(I/3+467)A、(I/3)A、(I/3−467)Aと計算され、サージ電流が20kAであればそれぞれ7.13kA、6.67kA、6.20kAとなる。電圧スイッチ部140及び電圧スイッチ部440のしきい値電圧のため、ヒューズ110、ヒューズ130、ヒューズ430への分流は完全に均等ではないが、大きなピーク値を持つサージ電流はヒューズ110、ヒューズ130、ヒューズ430にほぼ均等に分流されることになり、分離器400はヒューズ1本の時の約3倍のサージ電流を導通することができる。ただし、ダイオードの順方向電圧は電流が増加すると大きくなるため、ヒューズ並列回路120及びカスケード並列回路420に分流される電流は、上記の計算よりもさらに小さくなる。第4実施形態によって得られる特性は、図7に示した第3実施形態によって得られる特性と同一である。
【0044】
したがって、分離器400においても、最小溶断電流を低く保ちつつ高いサージ電流耐量を得ることができ、また、分離器400の動作時間を、漏電遮断器の動作時間より短くなるように設定できるため、雷サージで不要に溶断することなく、低く継続的な故障電流を確実に遮断し、かつ漏電遮断器との動作協調を実現することが可能である。
【0045】
なお、上述の各実施形態においては、各ヒューズの特性は同一であるとしたが、最小溶断電流が同じであれば、溶断時間が異なる等他の特性が異なっているヒューズを用いても、本発明の技術的思想を変更するものではない。
【0046】
また、上述の各実施形態においては、電圧スイッチ部に使用する素子として、ダイオードもしくは双方向サイリスタとしたが、しきい値電圧を超える電圧が印加された場合に電流が流れるバリスタ等その他の素子を用いてもよい。さらに、異なる特性の素子を組合わせて使用してもよい。
【0047】
また、上述の各実施形態においては、分電盤内の雷保護装置に含まれる分離器としたが、複数の電流遮断部を有する電流遮断装置において、いずれかの電流遮断部に含まれる電流分離器であればよい。
【符号の説明】
【0048】
100,200,300,400 分離器、110,130,230,330,430 ヒューズ、120,220,320 ヒューズ並列回路、140,240,340,440 電圧スイッチ部、150 分電盤、160 過電流保護機能付き漏電遮断器、170 ブレーカ、180 雷保護装置、181 雷サージ防護素子、190 集中接地端子、420 カスケード並列回路。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流分離器及び電流遮断装置に係り、より詳しくは、複数の電流遮断部を有する電流遮断装置における、一の電流遮断部に含まれる電流分離器、及びその電流遮断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
異常電流を検知した際に電流を遮断する装置の一例として、雷保護装置用分離器がある。雷保護装置には直撃雷用と誘導雷用があり、例えば一般住宅用としては、日本電気協会の内線規程により誘導雷対策を目的として雷保護装置を分電盤に設置することが勧告されている。内線規程に示される一般住宅の分電盤の構成例は図9のとおりで、雷保護装置980は雷サージが分電盤950に侵入した時に導通する雷サージ防護素子981と、雷サージ防護素子981が短絡モードで故障した時に流れ続ける故障電流を遮断する分離器900とで構成される。このため分離器900には、雷サージ防護素子981が正常に動作して導通するピークが数kAから数10kAで短時間(数100μs以下)の雷サージに対しては遮断動作をせず、その一方、雷サージ防護素子981が短絡モードで故障した時に流れる継続的な故障電流は確実に遮断することが求められる。この故障電流の電流値は数10Aから最大5kAと広範囲であり、分離器には継続的に流れる数10A程度の比較的低い故障電流においても動作することが求められる。
【0003】
特許文献1では、分離器として、故障電流を遮断する温度ヒューズと、雷サージ防護素子の耐量を超えるサージ電流を遮断する切り離し導体とを直列接続したものを用いている。この構成では、最小動作電流は温度ヒューズの特性で、サージ耐量は切り離し導体の特性でそれぞれ決まるため、最小動作電流を低くして、サージ耐量を高めることが可能である。
【0004】
分離器として一般的に用いられるヒューズは、図10のグラフに示されるような溶断時間―電流特性を有している。この図のAの領域に示すように、ヒューズは大きな電流が流れる場合には短時間で溶断し、電流の低下とともに溶断時間は長くなる。さらにBの領域になると、最小溶断電流と呼ばれる電流値Iminで溶断するが、それ以下の電流では溶断しなくなる。これは、Aの領域では時間が短いため影響が現れないヒューズエレメントからの放熱がBの領域では影響するようになるためで、ヒューズに流れる電流による発熱と放熱とがバランスし、最小溶断電流以下では溶断に必要なエネルギーがヒューズエレメントに蓄積されなくなるためである。
【0005】
このような特性を持つヒューズを分離器に応用した場合、雷サージで溶断しないためには溶断時間―電流特性を上方に持ち上げる必要があるが、そうすると最小溶断電流も高くなり、雷サージ防護素子の故障電流が低い場合には溶断しにくくなる。一例として、最小溶断電流が50Aのヒューズではピーク電流10kA程度の誘導雷サージには耐えるが20kAには耐えられず、ピーク電流20kA程度の誘導雷サージに耐えるようにするには、最小溶断電流は50Aより高くせざるを得ない。
【0006】
最小溶断電流を低く保ちつつサージ耐量を向上する方法として、特許文献2及び特許文献3において、第1のヒューズに対して第2のヒューズとダイオードとを直列接続したものを並列接続する回路構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−288114号公報
【特許文献2】実開昭55−136149号公報
【特許文献3】実開昭58−83746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、商用電源から住宅内へと引き込む際に使用される分電盤には、図9に示されるように、配線用遮断器としての過電流保護機能付き漏電遮断器(ELCB)960などの別の保護部品も使われており、電源系や負荷となる電気・電子機器の様々な故障に応じて、遮断すべき保護部品が正しく動作する動作協調が必要となっている。例えば、単相三線のL1、L2及び中性線Nに設置された雷サージ防護素子981の3つすべてが短絡モードで故障すると、故障電流は商用電源から過電流保護機能付き漏電遮断器960を通り、さらにL1ならびにL2の分離器900と故障した雷サージ防護素子981を通った後、L1からはL2、N、集中接地端子990へ、L2からはL1、N、集中接地端子990へそれぞれの経路のインピーダンスに依存して流れる。この時、分離器900が動作して故障電流を遮断するのが正しい保護動作であるが、分離器900と過電流保護機能付き漏電遮断器960との動作特性の関係によっては過電流保護機能付き漏電遮断器960の方が先に動作する場合もあり、この場合には故障電流だけでなく、ブレーカ970を通じた住宅内への電力供給も止めてしまう。
【0009】
すなわち、雷サージ防護素子981の短絡モードでの故障時には、過電流保護機能付き漏電遮断器960よりも分離器900が常に先に動作するのが正しい動作協調である。このため、過電流保護機能付き漏電遮断器960の定格電流が50Aであれば、分離器900の定格電流は、少なくとも50A未満とすることが必要であり、さらに故障電流の最大値5kAまでの範囲において過電流保護機能付き漏電遮断器960よりも先に動作することが求められる。なお、配線用遮断器としての過電流保護機能付き漏電遮断器は、過電流や漏電が数ms程度よりも長く継続する場合にのみ動作するのが一般的であり、雷サージのような数100μs程度以下の現象では動作しない。
【0010】
このような分電盤に用いられる雷保護装置用分離器は、雷サージでは動作せず、かつ低電流で継続的な故障電流では確実に動作することが必要であると共に、さらに漏電遮断器のような他の保護部品との動作協調するために、所望の溶断時間−電流特性に変更することができることが望まれている。
【0011】
本発明は、上述の事情を鑑みて行ったものであり、複数の電流遮断部を有する電流遮断装置における、一の電流遮断部に含まれる電流分離器において、最小溶断電流を低く保ちつつ高いサージ耐量を得ることができ、他の電流遮断機器との動作協調できる電流分離器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の電流分離器は、第1電流遮断部と第2電流遮断部とを有する電流遮断装置における、前記第1電流遮断部に含まれる電流分離器であって、第1ヒューズと、前記第1ヒューズと並列に接続された第1ヒューズ並列回路と、を備え、前記第1ヒューズ並列回路は、第2ヒューズと、前記第2ヒューズに直列接続され、しきい値電圧を超える電圧が印加された場合に電流が流れる双方向性のあるスイッチ手段と、を有し、前記第1電流遮断部における電流の遮断は、前記第1ヒューズ及び前記第2ヒューズが共に溶断されることにより行われ、前記しきい値電圧は、前記第1電流遮断部及び前記第2電流遮断部の各々の最小遮断電流値を超える電流値における第1電流遮断部の動作時間が、前記電流値における第2電流遮断部の動作時間より短くなるように設定されている、電流分離器である。
【0013】
また、本発明の電流分離器は、前記双方向性のあるスイッチ手段は、複数のダイオードを互いに逆向きに並列接続することにより形成されている、とすることができる。
【0014】
また、本発明の電流分離器は、前記双方向性のあるスイッチ手段は、双方向サイリスタにより形成されている、とすることができる。
【0015】
また、本発明の電流分離器は、前記第1ヒューズ並列回路に、更に並列に接続された第2ヒューズ並列回路を更に備え、前記第2ヒューズ並列回路は、第3ヒューズと前記第3ヒューズに直列接続され、前記しきい値電圧とは異なるしきい値電圧の双方向性のあるスイッチ手段とを有する、とすることができる。
【0016】
また、本発明の電流分離器は、前記第2ヒューズに、並列に接続されたカスケード並列回路を更に備え、前記カスケード並列回路は、カスケードヒューズと前記カスケードヒューズに直列接続されたカスケード電圧スイッチ手段とを有する、とすることができる。
【0017】
本発明の電流遮断装置は、異常電流を検知した際に、電流を遮断する電流遮断装置であって、第1ヒューズと、前記第1ヒューズと並列に接続された第1ヒューズ並列回路とを有する第1電流遮断部と、第2電流遮断部と、を備え、前記第1ヒューズ並列回路は、第2ヒューズと、前記第2ヒューズに直列接続されたしきい値電圧を超える電圧が印加された場合に電流が流れる双方向性のあるスイッチ手段とを有し、前記第1電流遮断部における電流の遮断は、前記第1ヒューズ及び前記第2ヒューズが共に溶断されることにより行われ、前記しきい値電圧は、前記第1電流遮断部の最小遮断電流を超え、かつ前記第2電流遮断部の最小遮断電流を超える電流値における第1電流遮断部の動作時間が、前記任意の電流値における第2電流遮断部の動作時間より短くなるように設定されている、ことを特徴とする電流遮断装置である。
【0018】
また、本発明の電流遮断装置は、前記第1電流遮断部は、雷サージ防護素子を更に備える雷保護装置であり、前記第2電流遮断部は、漏電遮断器である、とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】本発明の第1実施形態に係る雷保護装置用分離器を含む分電盤の概略図である。
【図1B】図1Aの分離器の回路を示す図である。
【図2】分離器及びヒューズの溶断時間−電流特性を示すグラフである。
【図3】分離器及び漏電遮断器の動作時間−電流特性を示すグラフである。
【図4】本発明の第2実施形態に係る分離器の構成図である。
【図5】図4の双方向サイリスタの電流−電圧特性を示すグラフである。
【図6】本発明の第3実施形態に係る分離器の構成図である。
【図7】図6の分離器の特性を示すグラフである。
【図8】本発明の第4実施形態に係る分離器の構成図である。
【図9】一般住宅の分電盤構成を示す図である。
【図10】一般的なヒューズの溶断時間−電流特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の第1実施形態乃至第4実施形態を図を用いて詳細に説明する。
【0021】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態を、図1A、図1B、図2及び図3を参照しつつ説明する。図1Aには、本発明の第1実施形態に係る雷保護回路用分離器100を含む分電盤150の構成例が示されている。分電盤150は、漏電及び過電流が検知された際に電気の供給を遮断する過電流保護機能付き漏電遮断器160と、過電流を検知した際に電気の供給を遮断するブレーカ170と、雷サージが分電盤に侵入した時に低インピーダンスとなりサージ電流を回避させる雷保護装置180と、各電気・電子機器のアース線が接続される集中接地端子190とを備えている。雷保護装置180は、雷サージが商用電源を通じて分電盤150に侵入してきた時、過電流保護機能付き漏電遮断器160からの電力線L1、L2及び中性線Nをそれぞれ集中接地端子190を介して接続させる雷サージ防護素子181と分離器100とを有している。
【0022】
図1Bには、分離器100の回路が具体的に示されている。分離器100はヒューズ110と、ヒューズ110に並列に接続されたヒューズ並列回路120とにより構成され、ヒューズ並列回路120は、ヒューズ110と同じ溶断時間−電流特性を有するヒューズ130と、ヒューズ130に接続され、複数直列に接続されたダイオード群2つを逆向きに並列に接続することにより形成された電圧スイッチ部140とを有している。
【0023】
電圧スイッチ部140は、ダイオード直列数で変化させることができるしきい値電圧を持ち、このしきい値電圧以上の電圧が加われば電流を流し、加わる電圧がしきい値電圧以下では電流を流さない。例えば、電圧スイッチ部140を構成するダイオードひとつ当りの順方向電圧と直列数をそれぞれ0.7V、2直列とすると、電圧スイッチ部140のしきい値電圧は0.7V×2=1.4Vとなる。さらに、ヒューズ110及びヒューズ130の抵抗を3mΩとすると、ヒューズ110の両端電圧が1.4Vになるのは分離器100に入る全電流が467A(=1.4V÷3mΩ)の時であり、全電流が467Aを超えるとヒューズ並列回路120にも電流が流れ始める。また、ダイオードを4直列した場合を同様に計算すると、電圧スイッチ部140のしきい値電圧は0.7V×4=2.8Vとなり、ヒューズ並列回路120に電流が流れ始めるのは、分離器100に入る全電流が933A(=2.8V÷3mΩ)からとなる。
【0024】
電圧スイッチ部140のしきい値電圧を1.4Vとし、分離器100に100A(>Imin)の故障電流が流れる場合を考える。ヒューズ110に100Aすべての電流が流れると仮定してもその電圧降下は0.3V(=100A×3mΩ)であり、電圧スイッチ部140のしきい値電圧1.4Vに満たないため、ヒューズ並列回路120には電流はほとんど流れない。このため、ヒューズ110には故障電流100Aのほぼすべてが流れ、ヒューズ110の固有の溶断時間で溶断される。引き続き、ヒューズ110が溶断されると、100Aの電流はヒューズ並列回路120を流れるようになり、ヒューズ並列回路120のヒューズ130は、ヒューズ110と同じ溶断時間−電流特性を有するため、ヒューズ110と同じ時間で溶断される。したがって、分離器100では、最小溶断電流Iminはヒューズ110のみで構成される場合と変わらないが、合計の溶断時間は2倍になるという性質を持つ。
【0025】
ここではヒューズ110の抵抗は3mΩ一定として計算したが、実際には電流による発熱でヒューズエレメント温度が上昇するとヒューズ抵抗は高くなり、溶断直前には室温での抵抗の5倍程度となる。このため、ヒューズ110の両端電圧は電流が流れ続けるにしたがって上述の計算結果よりも高くなるので、実際には上の計算結果よりも低い全電流においてヒューズ並列回路120に電流が分流され始める。
【0026】
一方、例えば20kAという高いピークのサージ電流が分離器100に入る時、全電流がヒューズ110とヒューズ並列回路120にほぼ均等に分流されると仮定すると、ヒューズ110の両端電圧は30V(=20kA/2×3mΩ)であり、これは電圧スイッチ部140のしきい値電圧1.4Vを大きく上回ることから、仮定どおりに電圧スイッチ部140はオンし、サージ電流はヒューズ110とヒューズ並列回路120に分流されることになる。ヒューズ110に流れる電流をI110とすると、ヒューズ110とヒューズ並列回路120の両端に加わる電圧は等しいことから、I110×3mΩ=(20kA−I110)×3mΩ+1.4Vとなり、ヒューズ110とヒューズ130に流れる電流はそれぞれ10.2kAと9.8kAとなる。電圧スイッチ部140のダイオードが4直列の場合についても同様に計算すると、I110×3mΩ=(20kA−I110)×3mΩ+2.8Vとなり、ヒューズ110とヒューズ130に流れる電流はそれぞれ10.5kAと9.5kAとなる。電圧スイッチ部140のしきい値電圧のため、ヒューズ110とヒューズ130への分流は完全に均等ではなく、かつしきい値電圧が大きいほど差は大きくなるが、大きなピーク値を持つサージ電流はヒューズ110とヒューズ130とにほぼ均等に分流されることになり、分離器100はヒューズ1本の時の約2倍のサージ電流を導通することができる。ただし、ダイオードの順方向電圧は電流が増加すると大きくなるため、ヒューズ並列回路120に分流される電流は、上記の計算よりもさらに小さくなる。
【0027】
図2には、分離器100で得られる溶断時間−電流特性L100(実線)をヒューズ110一本の特性L110(点線)と比較して示している。分離器100では、最小溶断電流はヒューズ110一本と変わらず、サージ耐量は約2倍になる。また、サージ耐量が約2倍の領域と最小溶断電流との間には、傾きが急峻な遷移領域がある。これは、ヒューズ並列回路120には電圧スイッチ部140のしきい値電圧で決まる電流を超えると電流が流れ始め、そこから電流が増えるにしたがって全電流に占める割合が増加していき、やがて20kA程度となるとヒューズ110とほぼ均等となるように推移するためで、ヒューズ並列回路120に流れる電流割合が増加していく部分が遷移領域となる。
【0028】
図3には分離器100についての2種類の特性L101(実線)とL102(一点鎖線)及び過電流保護機能付き漏電遮断器160の特性L160(点線)が示されている。分離器100の特性L101とL102は、電圧スイッチ部140のしきい値電圧の差によるものであり、ダイオードの直列数を増やしてしきい値電圧を高くすることにより、左側にシフトする。すなわち、ここではL101の方がL102よりもダイオード直列数が多く、しきい値電圧が高い場合である。これは、しきい値電圧を高くすればより大きな電流でなければ電圧スイッチ部140はオンせず、ヒューズ並列回路120に電流が分流されないためである。
【0029】
分離器100と過電流保護機能付き漏電遮断器160の特性の関係を見ると、分離器100の特性がL101の場合はL160と交わらず、L102の場合はL160と交わる。L101とL160のように交わらずL101が常に下に位置する場合、雷サージ防護素子181の故障電流の大きさに関わらず分離器100が過電流保護機能付き漏電遮断器160より先に動作するので、雷サージ防護素子181の故障電流で過電流保護機能付き漏電遮断器160が動作することはない。一方、特性が交わるL102の場合、L160のカーブがL102よりも下になる領域が存在し、雷サージ防護素子181の故障電流がその範囲になった場合、分離器100よりも過電流保護機能付き漏電遮断器160が先に動作してしまう。過電流保護機能付き漏電遮断器160が動作すると、ブレーカ170を通じた負荷側への電力供給も止めてしまうので、雷サージ防護素子181の故障電流では常に分離器100が過電流保護機能付き漏電遮断器160よりも先に動作することが正しい動作協調となる。つまり、分離器100のしきい値電圧は、L101の特性を持つように設定される。しきい値電圧の設定においては、上述のヒューズエレメント温度上昇に伴うヒューズ110の抵抗増加も見込むことが必要である。
【0030】
したがって、分離器100においては、最小溶断電流を低く保ちつつ高いサージ電流耐量を得ることができ、また、分離器100の動作時間を、漏電遮断器160の動作時間より短くなるように設定しているため、雷サージで不要に溶断することなく、低く継続的な故障電流を確実に遮断し、かつ漏電遮断器160との動作協調を実現することが可能である。
【0031】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態を、図4〜5を参照しつつ説明する。
【0032】
図4には、本発明の第2実施形態に係る雷保護装置用分離器200が示されている。この分離器200は、上述の第1実施形態で示された分電盤150の雷保護装置180と同様の装置に設置されるものであり、これらの装置についての説明は、第1実施形態と同様であるため、省略する。分離器200はヒューズ110と、ヒューズ110に並列に接続されたヒューズ並列回路220とにより構成され、ヒューズ並列回路220は、ヒューズ110と同じ溶断時間−電流特性を有するヒューズ230と、ヒューズ230に接続され、双方向サイリスタを用いた電圧スイッチ部240とを有している。電圧スイッチ部240の電流−電圧特性は図5に示すようなものであり、スイッチング電圧(±Vbr)までは電流を流さない高抵抗特性で、スイッチング電圧に達すると低抵抗特性にスイッチする。したがって、電圧スイッチ部240は、第1実施形態の電圧スイッチ部140におけるしきい値電圧をスイッチング電圧としたものと同様の機能を持つものとして使用することができる。さらに電圧スイッチ部240は、導通した際にはその両端電圧が0Vに近くなるため、第1実施形態のダイオードの直列接続を用いた電圧スイッチ部140の場合よりも、ヒューズ110とヒューズ並列回路220との間での電流の分流をより均等に近くすることができる。
【0033】
したがって、分離器200においても、最小溶断電流を低く保ちつつ高いサージ電流耐量を得ることができ、また、分離器200の動作時間を、漏電遮断器の動作時間より短くなるように設定できるため、雷サージで不要に溶断することなく、低く継続的な故障電流を確実に遮断し、かつ漏電遮断器との動作協調を実現することが可能である。
【0034】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態を、図6〜7を参照しつつ説明する。
【0035】
図6には、本発明の第3実施形態に係る雷保護装置用分離器300が示されている。この分離器300は、上述の第1実施形態で示された分電盤150の雷保護装置180と同様の装置に設置されるものであり、これらの装置についての説明は、第1実施形態と同様であるため、省略する。分離器300は第1実施形態に係る分離器100と同様に、ヒューズ110とヒューズ110に並列に接続されたヒューズ並列回路120を備えるとともに、さらにヒューズ110に並列に接続されたヒューズ並列回路320を備えている。ヒューズ並列回路320は、ヒューズ110及びヒューズ130と同じ溶断時間−電流特性を有するヒューズ330と電圧スイッチ部340とを有している。電圧スイッチ部340はヒューズ並列回路120の電圧スイッチ部140と基本的構成は同じであるが、ダイオードの直列数を変えて異なるしきい値電圧を持つようにしている。
【0036】
電圧スイッチ部140と電圧スイッチ部340のしきい値電圧をそれぞれ1.4Vと2.8V、ヒューズ110、ヒューズ130、ヒューズ330の抵抗をすべて3mΩとし、分離器300に100A(>Imin)の故障電流が流れる場合を考える。ヒューズ110に100Aすべての電流が流れると仮定してもその電圧降下は0.3V(=100A×3mΩ)であり、電圧スイッチ部140及び電圧スイッチ部340のしきい値電圧1.4V及び2.8Vに満たないため、ヒューズ並列回路120及びヒューズ並列回路320には電流はほとんど流れない。このため、ヒューズ110には故障電流100Aのほぼすべてが流れ、ヒューズ110の固有の溶断時間で溶断される。引き続き、ヒューズ110が溶断された後、ヒューズ並列回路120に100Aすべての電流が流れると仮定してもその電圧降下は1.7V(=100A×3mΩ+1.4V)であり、電圧スイッチ部340のしきい値電圧2.8Vに満たないため、ヒューズ並列回路320には電流はほとんど流れない。このため、ヒューズ130には故障電流100Aのほぼすべてが流れ、ヒューズ130はヒューズ110と同じ溶断時間−電流特性を有するため、ヒューズ110と同じ時間で溶断される。引き続き、ヒューズ130が溶断されると、100Aの電流はヒューズ並列回路320を流れるようになり、ヒューズ並列回路320のヒューズ330は、ヒューズ110及びヒューズ130と同じ溶断時間−電流特性を有するため、ヒューズ110及びヒューズ130と同じ時間で溶断される。したがって、分離器300では、最小溶断電流Iminはヒューズ110のみで構成される場合と変わらないが、合計の溶断時間は3倍になるという性質を持つ。
【0037】
一方、例えば20kAという高いピークのサージ電流が分離器300に入る時、全電流がヒューズ110とヒューズ並列回路120及びヒューズ並列回路320にほぼ均等に分流されると仮定すると、ヒューズ110の両端電圧は20V(=20kA/3×3mΩ)であり、これは電圧スイッチ部140及び電圧スイッチ部340のそれぞれのしきい値電圧1.4Vと2.8Vを大きく上回ることから、仮定どおり電圧スイッチ部140及び電圧スイッチ部340は両方ともオンし、サージ電流はヒューズ110とヒューズ並列回路120及びヒューズ並列回路320に分流されることになる。サージ電流をIとすると、ヒューズ110、ヒューズ並列回路120、ヒューズ並列回路320に流れる電流はそれぞれ(I/3+467)A、(I/3)A、(I/3−467)Aと計算され、サージ電流が20kAであればそれぞれ7.13kA、6.67kA、6.20kAとなる。電圧スイッチ部140及び電圧スイッチ部340のしきい値電圧のため、ヒューズ110、ヒューズ130、ヒューズ330への分流は完全に均等ではないが、大きなピーク値を持つサージ電流はヒューズ110、ヒューズ130、ヒューズ330にほぼ均等に分流されることになり、分離器300はヒューズ1本の時の約3倍のサージ電流を導通することができる。ただし、ダイオードの順方向電圧は電流が増加すると大きくなるため、ヒューズ並列回路120及びヒューズ並列回路320に分流される電流は、上記の計算よりもさらに小さくなる。
【0038】
図7には、分離器300で得られる溶断時間−電流特性L300(実線)が示されている。比較のため、第1実施形態で得られるL101(点線)及びヒューズ110を3並列した場合の特性L110−3(一点鎖線)も合わせて示した。L300をL101とを比較すると、ヒューズ並列回路を増やしたことにより、短時間側のサージ耐量はさらに高くなり、かつ最小溶断電流は同一である。しかし、L300では配線用遮断器との動作協調に関わる領域もL101よりもカーブが上であり、動作協調に関してはL101の方がより好ましい。ただし、通常のヒューズでサージ耐量が同等となるL110−3と比較すると、最小溶断電流が低く、かつ動作協調も実現し易い特性である。
【0039】
したがって、分離器300においても、最小溶断電流を低く保ちつつ高いサージ電流耐量を得ることができ、また、分離器300の動作時間を、漏電遮断器の動作時間より短くなるように設定できるため、雷サージで不要に溶断することなく、低く継続的な故障電流を確実に遮断し、かつ漏電遮断器との動作協調を実現することが可能である。
【0040】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態を、図8を参照しつつ説明する。
【0041】
図8には、本発明の第4実施形態に係る雷保護装置用分離器400が示されている。この分離器400は、上述の第1実施形態で示された分電盤150の雷保護装置180と同様の装置に設置されるものであり、これらの装置についての説明は、第1実施形態と同様であるため、省略する。分離器400は第1実施形態に係る分離器100と同様に、ヒューズ110とヒューズ110に並列に接続されたヒューズ並列回路120を備えるとともに、さらにヒューズ130に並列に接続されたカスケード並列回路420を備えている。カスケード並列回路420は、ヒューズ110及びヒューズ130と同じ溶断時間−電流特性を有するヒューズ430と電圧スイッチ部440とを有している。電圧スイッチ部440はヒューズ並列回路120の電圧スイッチ部140と基本的構成は同じであるが、電圧スイッチ部140には電圧スイッチ部440よりも高い電流容量を持たせている。
【0042】
電圧スイッチ部140と電圧スイッチ部440のしきい値電圧をいずれも1.4V、ヒューズ110、ヒューズ130、ヒューズ430の抵抗をすべて3mΩとし、分離器400に100A(>Imin)の故障電流が流れる場合を考える。ヒューズ110に100Aすべての電流が流れると仮定してもその電圧降下は0.3V(=100A×3mΩ)であり、電圧スイッチ部140のしきい値電圧1.4Vに満たないため、ヒューズ並列回路120には電流はほとんど流れない。さらに、ヒューズ130に電流がほとんど流れないのでヒューズ130の電圧降下はほぼ0Vで電圧スイッチ部440のしきい値1.4Vに満たないため、カスケード並列回路420にも電流はほとんど流れない。このため、ヒューズ110には故障電流100Aのほぼすべてが流れ、ヒューズ110の固有の溶断時間で溶断される。引き続き、ヒューズ110が溶断された後、ヒューズ並列回路120に100Aすべての電流が流れると仮定してもヒューズ130の電圧降下は0.3V(=100A×3mΩ)であり、電圧スイッチ部440のしきい値電圧1.4Vに満たないため、カスケード並列回路420には電流はほとんど流れない。このため、ヒューズ130には故障電流100Aのほぼすべてが流れ、ヒューズ130はヒューズ110と同じ溶断時間−電流特性を有するため、ヒューズ110と同じ時間で溶断される。引き続き、ヒューズ130が溶断されると、100Aの電流はカスケード並列回路420を流れるようになり、カスケード並列回路420のヒューズ430は、ヒューズ110及びヒューズ130と同じ溶断時間−電流特性を有するため、ヒューズ110及びヒューズ130と同じ時間で溶断される。したがって、分離器400では、最小溶断電流Iminはヒューズ110のみで構成される場合と変わらないが、合計の溶断時間は3倍になるという性質を持つ。
【0043】
一方、例えば20kAという高いピークのサージ電流が分離器400に入る時、全電流がヒューズ110とヒューズ並列回路120及びカスケード並列回路420にほぼ均等に分流されると仮定すると、ヒューズ110の両端電圧は20V(=20kA/3×3mΩ)であり、これは電圧スイッチ部140のしきい値電圧1.4Vを大きく上回り、さらにヒューズ130の両端電圧は18.6V(=20kA/3×3mΩ−1.4V)であり、これは電圧スイッチ部440のしきい値電圧1.4Vを大きく上回ることから、仮定どおり電圧スイッチ部140及び電圧スイッチ部440は両方ともオンし、サージ電流はヒューズ110とヒューズ並列回路120及びカスケード並列回路420に分流されることになる。サージ電流をIとすると、ヒューズ110、ヒューズ並列回路120、カスケード並列回路420に流れる電流はそれぞれ(I/3+467)A、(I/3)A、(I/3−467)Aと計算され、サージ電流が20kAであればそれぞれ7.13kA、6.67kA、6.20kAとなる。電圧スイッチ部140及び電圧スイッチ部440のしきい値電圧のため、ヒューズ110、ヒューズ130、ヒューズ430への分流は完全に均等ではないが、大きなピーク値を持つサージ電流はヒューズ110、ヒューズ130、ヒューズ430にほぼ均等に分流されることになり、分離器400はヒューズ1本の時の約3倍のサージ電流を導通することができる。ただし、ダイオードの順方向電圧は電流が増加すると大きくなるため、ヒューズ並列回路120及びカスケード並列回路420に分流される電流は、上記の計算よりもさらに小さくなる。第4実施形態によって得られる特性は、図7に示した第3実施形態によって得られる特性と同一である。
【0044】
したがって、分離器400においても、最小溶断電流を低く保ちつつ高いサージ電流耐量を得ることができ、また、分離器400の動作時間を、漏電遮断器の動作時間より短くなるように設定できるため、雷サージで不要に溶断することなく、低く継続的な故障電流を確実に遮断し、かつ漏電遮断器との動作協調を実現することが可能である。
【0045】
なお、上述の各実施形態においては、各ヒューズの特性は同一であるとしたが、最小溶断電流が同じであれば、溶断時間が異なる等他の特性が異なっているヒューズを用いても、本発明の技術的思想を変更するものではない。
【0046】
また、上述の各実施形態においては、電圧スイッチ部に使用する素子として、ダイオードもしくは双方向サイリスタとしたが、しきい値電圧を超える電圧が印加された場合に電流が流れるバリスタ等その他の素子を用いてもよい。さらに、異なる特性の素子を組合わせて使用してもよい。
【0047】
また、上述の各実施形態においては、分電盤内の雷保護装置に含まれる分離器としたが、複数の電流遮断部を有する電流遮断装置において、いずれかの電流遮断部に含まれる電流分離器であればよい。
【符号の説明】
【0048】
100,200,300,400 分離器、110,130,230,330,430 ヒューズ、120,220,320 ヒューズ並列回路、140,240,340,440 電圧スイッチ部、150 分電盤、160 過電流保護機能付き漏電遮断器、170 ブレーカ、180 雷保護装置、181 雷サージ防護素子、190 集中接地端子、420 カスケード並列回路。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電流遮断部と第2電流遮断部とを有する電流遮断装置における、前記第1電流遮断部に含まれる電流分離器であって、
第1ヒューズと、
前記第1ヒューズと並列に接続された第1ヒューズ並列回路と、を備え、
前記第1ヒューズ並列回路は、
第2ヒューズと、
前記第2ヒューズに直列接続され、しきい値電圧を超える電圧が印加された場合に電流が流れる双方向性のあるスイッチ手段と、を有し、
前記第1電流遮断部における電流の遮断は、前記第1ヒューズ及び前記第2ヒューズが共に溶断されることにより行われ、
前記しきい値電圧は、前記第1電流遮断部及び前記第2電流遮断部の各々の最小遮断電流値を超える電流値における第1電流遮断部の動作時間が、前記電流値における第2電流遮断部の動作時間より短くなるように設定されている、電流分離器。
【請求項2】
前記双方向性のあるスイッチ手段は、複数のダイオードを互いに逆向きに並列接続することにより形成されている、ことを特徴とする請求項1の電流分離器。
【請求項3】
前記双方向性のあるスイッチ手段は、双方向サイリスタにより形成されていることを特徴とする請求項1の電流分離器。
【請求項4】
前記第1ヒューズ並列回路に、更に並列に接続された第2ヒューズ並列回路を更に備え、
前記第2ヒューズ並列回路は、第3ヒューズと前記第3ヒューズに直列接続され、前記しきい値電圧とは異なるしきい値電圧の双方向性のあるスイッチ手段とを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電流分離器。
【請求項5】
前記第2ヒューズに、並列に接続されたカスケード並列回路を更に備え、
前記カスケード並列回路は、カスケードヒューズと前記カスケードヒューズに直列接続されたカスケード電圧スイッチ手段とを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電流分離器。
【請求項6】
異常電流を検知した際に、電流を遮断する電流遮断装置であって、
第1ヒューズと、前記第1ヒューズと並列に接続された第1ヒューズ並列回路とを有する第1電流遮断部と、
第2電流遮断部と、を備え、
前記第1ヒューズ並列回路は、第2ヒューズと、前記第2ヒューズに直列接続されたしきい値電圧を超える電圧が印加された場合に電流が流れる双方向性のあるスイッチ手段とを有し、
前記第1電流遮断部における電流の遮断は、前記第1ヒューズ及び前記第2ヒューズが共に溶断されることにより行われ、
前記しきい値電圧は、前記第1電流遮断部の最小遮断電流を超え、かつ前記第2電流遮断部の最小遮断電流を超える電流値における第1電流遮断部の動作時間が、前記任意の電流値における第2電流遮断部の動作時間より短くなるように設定されている、ことを特徴とする電流遮断装置。
【請求項7】
前記第1電流遮断部は、雷サージ防護素子を更に備える雷保護装置であり、
前記第2電流遮断部は、漏電遮断器である、ことを特徴とする請求項6に記載の電流遮断装置。
【請求項1】
第1電流遮断部と第2電流遮断部とを有する電流遮断装置における、前記第1電流遮断部に含まれる電流分離器であって、
第1ヒューズと、
前記第1ヒューズと並列に接続された第1ヒューズ並列回路と、を備え、
前記第1ヒューズ並列回路は、
第2ヒューズと、
前記第2ヒューズに直列接続され、しきい値電圧を超える電圧が印加された場合に電流が流れる双方向性のあるスイッチ手段と、を有し、
前記第1電流遮断部における電流の遮断は、前記第1ヒューズ及び前記第2ヒューズが共に溶断されることにより行われ、
前記しきい値電圧は、前記第1電流遮断部及び前記第2電流遮断部の各々の最小遮断電流値を超える電流値における第1電流遮断部の動作時間が、前記電流値における第2電流遮断部の動作時間より短くなるように設定されている、電流分離器。
【請求項2】
前記双方向性のあるスイッチ手段は、複数のダイオードを互いに逆向きに並列接続することにより形成されている、ことを特徴とする請求項1の電流分離器。
【請求項3】
前記双方向性のあるスイッチ手段は、双方向サイリスタにより形成されていることを特徴とする請求項1の電流分離器。
【請求項4】
前記第1ヒューズ並列回路に、更に並列に接続された第2ヒューズ並列回路を更に備え、
前記第2ヒューズ並列回路は、第3ヒューズと前記第3ヒューズに直列接続され、前記しきい値電圧とは異なるしきい値電圧の双方向性のあるスイッチ手段とを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電流分離器。
【請求項5】
前記第2ヒューズに、並列に接続されたカスケード並列回路を更に備え、
前記カスケード並列回路は、カスケードヒューズと前記カスケードヒューズに直列接続されたカスケード電圧スイッチ手段とを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電流分離器。
【請求項6】
異常電流を検知した際に、電流を遮断する電流遮断装置であって、
第1ヒューズと、前記第1ヒューズと並列に接続された第1ヒューズ並列回路とを有する第1電流遮断部と、
第2電流遮断部と、を備え、
前記第1ヒューズ並列回路は、第2ヒューズと、前記第2ヒューズに直列接続されたしきい値電圧を超える電圧が印加された場合に電流が流れる双方向性のあるスイッチ手段とを有し、
前記第1電流遮断部における電流の遮断は、前記第1ヒューズ及び前記第2ヒューズが共に溶断されることにより行われ、
前記しきい値電圧は、前記第1電流遮断部の最小遮断電流を超え、かつ前記第2電流遮断部の最小遮断電流を超える電流値における第1電流遮断部の動作時間が、前記任意の電流値における第2電流遮断部の動作時間より短くなるように設定されている、ことを特徴とする電流遮断装置。
【請求項7】
前記第1電流遮断部は、雷サージ防護素子を更に備える雷保護装置であり、
前記第2電流遮断部は、漏電遮断器である、ことを特徴とする請求項6に記載の電流遮断装置。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−10483(P2011−10483A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152383(P2009−152383)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000102429)エス・オー・シー株式会社 (6)
【出願人】(593063161)株式会社NTTファシリティーズ (475)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000102429)エス・オー・シー株式会社 (6)
【出願人】(593063161)株式会社NTTファシリティーズ (475)
【Fターム(参考)】
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