説明

電流検出装置、過電流保護装置および電流検出方法

【課題】簡易な構成でより自由度高く温度特性の補正を行うことができ、精度の高い過電流保護特性を得ることができる電流検出装置、過電流保護装置および電流検出方法を提供すること。
【解決手段】電源と負荷との間に電線を介して接続したスイッチング素子と、前記電源から前記スイッチング素子を介して前記負荷に供給される負荷電流に対応する検出電流を、前記スイッチング素子の差電圧に基づいて出力する電流検出部と、を備え、前記電流検出部は、前記スイッチング素子がもつ抵抗成分の温度特性を補正する温度係数を有する温度特性補正サーミスタ素子を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流検出装置、過電流保護装置および電流検出方法に関し、特に電線や車両に搭載されている電装品を過電流から保護するための電流検出装置、過電流保護装置および電流検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されている電装品に電線を介して電力を供給する電源供給装置(一般的にはジャンクションボックスやリレーボックス等と呼ばれている。)には、スイッチング素子や、電線や電装品を過電流による焼損等から保護するために、ヒューズが設けられている。ヒューズを備えた装置では、ヒューズの交換等の整備を行う必要がある。このため、ヒューズを交換しやすい場所に設置する必要があった。また、従来からスイッチング素子としてリレーが多く用いられているが、サイズや部品発熱が大きく装置の小型化が困難といった課題があった。
さらに、電線線径やスイッチング素子は、過電流保護回路の保護特性を考慮した、適正な線径やサイズを選択する必要があるが、ヒューズとのマッチング(ラインナップ、ばらつき、経年劣化、温度特性等)によって、電線線径を太くしたり、スイッチング素子を大型化する必要があった。
【0003】
そこで、近年、ヒューズやリレーの代わりにトランジスタ素子を用いた過電流保護回路が提案されている(特許文献1参照)。この過電流保護回路は、電源と電装品との間に接続されたトランジスタ素子を備え、トランジスタ素子のソース電極とドレイン電極との間の電圧変化に基づいて過電流が発生したか否かを判定する。そして、過電流保護回路は、過電流が発生したと判定した場合、トランジスタ素子をオフすることによって電源と電装品との間の接続を遮断することにより、電装品を過電流から非破壊で保護する。このような過電流保護回路によれば、過電流が発生し、保護機能が動作した場合であってもトランジスタ素子の整備を行う必要がない。従って、トランジスタ素子を用いた過電流保護回路を備えた電源供給装置は、設置場所が限定されることもない。また、ヒューズの削減、スイッチング素子の小型・低損失化によって装置の小型化が可能になる。
さらに、従来のヒューズより保護特性のばらつきを抑制することができれば、より小さな線径の電線を選択すること、すなわち電線細径化をすることが可能となる。しいてはワイヤーハーネスの軽量化をすることができる。
【0004】
ここで、過電流発生の判定を行うためのドレイン−ソース間電圧は、通電電流値とトランジスタ素子の抵抗値によって発生するため、一定の通電電流であってもトランジスタ素子の抵抗値の温度依存特性を反映した温度依存特性を有する。
このようにドレイン−ソース間電圧が温度依存特性を有する場合、その温度依存性によって正常な電流を過電流と判定してしまうおそれがある場合、その温度依存性をも考慮した電線を選択する必要がでてくる。このことはすなわち電線線径の増大につながる。したがって、規定の過電流値に対して電線線径の増大とならない、より正確な判定をおこなうために判定の閾値電圧(過電流判定電圧)を温度に応じて変化させることが好ましい。
【0005】
そこで、特許文献2、3には、温度センサを用いてトランジスタ素子の温度を検出し、その検出温度に応じてCPU等によって過電流判定電圧を補正する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献4、5には、過電流保護のためのトランジスタ素子と同様の温度特性を有するトランジスタ素子をセンストランジスタ素子として用いて、過電流発生の判定を行うためのドレイン−ソース間電圧の温度依存性を相殺する方法が開示されている。この方法によれば、過電流判定電圧の補正を行うこと無しに、搭載温度環境が変化する場合においてもより正確な判定を行うことができる。
なお、電線の限界電流値(電線発煙特性)も温度特性を有し、温度によって変化する。また、負荷の中には、正常な負荷電流にも温度依存性を有するものがある(デフォッガ、ヒーター等)。したがって、上記場合は、過電流保護特性について、電線、負荷の温度特性を考慮したうえで、温度特性を任意に設定することで、より正確な過電流判定をすることができる場合もある。それによって電線細径化やトランジスタ素子の小型化を実現できる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−142146号公報
【特許文献2】特開2000−299631号公報
【特許文献3】特開2003−61392号公報
【特許文献4】特開平10−32476号公報
【特許文献5】特開平3−151670号公報
【特許文献6】特許第4471314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、CPU等によって過電流判定電圧を補正する方法は、回路構成が複雑化し、装置の大型化やコストUPのおそれがあるという問題がある。また、センストランジスタ素子を用いる方法は、そのセンストランジスタ自身が、電流検出を目的として特別に製作されたものであり、汎用的に使用できるもの(汎用品、標準部品)とはいえず、従来のトランジスタより、構造が複雑で、装置の大型化やコストUPを招くものである。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、簡易な構成でより好適に過電流保護特性の温度特性の補正を行うことができ、精度の高い過電流保護特性を得ることができる電流検出装置、過電流保護装置および電流検出方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、電線の許容電流値や負荷電流の温度特性にあわせて、保護特性の温度特性を設定することができ、電線の細径化やスイッチング素子の小型化をすることができる電流検出装置、過電流保護装置および電流検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る電流検出装置は、電源と負荷との間に電線を介して接続したスイッチング素子と、前記電源から前記スイッチング素子を介して前記負荷に供給される負荷電流に対応する検出電流を、前記スイッチング素子の差電圧に基づいて出力する電流検出部と、を備え、前記電流検出部は、前記スイッチング素子がもつ抵抗成分の温度特性を補正する温度係数を有する温度特性補正サーミスタ素子を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る過電流保護装置は、上記発明の電流検出装置と、前記検出電流をもとに、前記スイッチング素子に過電流が流れたと判定した場合に前記スイッチング素子をオフ状態にするスイッチング素子制御部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る電流検出方法は、電源から電線とスイッチング素子とを介して負荷に供給される負荷電流に対応する検出電流を、前記スイッチング素子の差電圧に基づいて出力する電流検出工程を含み、前記電流検出工程は、所定の温度係数を有するサーミスタ素子によって前記検出電流の温度特性を補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡易な構成でより好適に過電流保護特性の温度特性の補正を行うことができ、精度の高い過電流保護特性を得ることができ、電線の許容電流値や負荷電流の温度特性にあわせて、最適な保護特性の温度特性を設定することができ、電線の細径化やスイッチング素子の小型化をすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施の形態に係る過電流保護装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】図2は、図1に示すスイッチング素子およびPTCサーミスタ素子の配置を示す模式図である。
【図3】図3は、図1に示す電流検出部が出力する検出電流Isの温度特性の例を示す図である。
【図4】図4は、図1に示す過電流保護装置によって実現される温度相当電圧VTjの例を示す図である。
【図5】図5は、スイッチング素子およびPTCサーミスタ素子の配置の別の態様を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照して本発明に係る電流検出装置、過電流保護装置および電流検出方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。なお、図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。
【0016】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る過電流保護装置の構成を模式的に示す図である。図1に示すように、電源供給装置100は、スイッチング素子10と、電流検出部20と、電流演算部30と、温度模擬部40と、スイッチング素子制御部50と、を備えている。なお、スイッチング素子10と電流検出部20とが電流検出装置を構成している。
【0017】
スイッチング素子10は、寄生ダイオード10aを有するnチャネル型のMOSFETである。スイッチング素子10は、ドレイン端子側が電源Pと接続し、ソース端子側が負荷Lと接続するように、電線Wを介して電源Pと負荷Lとの間に接続している。また、スイッチング素子10のゲート端子はスイッチング素子制御部50に接続している。
【0018】
電流検出部20は、PTC(Positive Temperature Coefficient)サーミスタ素子21と、オペアンプ22と、スイッチング素子23とを備えている。PTCサーミスタ素子21は、温度の上昇に対して電気抵抗値が増大するサーミスタ素子であり、スイッチング素子23と並列接続している。オペアンプ22は、その反転入力端子がPTCサーミスタ素子21を介して電源Pに接続し、非反転入力端子がスイッチング素子10と負荷Lとの間の電線Wに接続している。スイッチング素子23は、pチャネル型のMOSFETで構成され、寄生ダイオード23aを有する。スイッチング素子10のドレイン端子はPTCサーミスタ素子21を介して電源Pに接続し、ゲート端子はオペアンプ22の出力端子に接続している。
【0019】
図2は、図1に示すスイッチング素子10およびPTCサーミスタ素子21の配置を示す模式図である。図2に示すように、スイッチング素子10は、MOSFETのチップが収容されたケース11と、ドレイン端子12と、ゲート端子13と、ソース端子14とを備えている。スイッチング素子10は、放熱板としての機能も有するドレイン端子12を介して基板15に実装されている。なお、基板15上には、熱伝導体である銅パターンからなるヒートスプレッダ15aが形成されており、ドレイン端子12はヒートスプレッダ15a上に位置している。
【0020】
PTCサーミスタ素子21は、基板15のヒートスプレッダ15aに一方の端子が接続するように実装され、かつスイッチング素子10の近傍に配置されている。したがって、PTCサーミスタ素子21は、ヒートスプレッダ15aを介してスイッチング素子10と電気的に接続し、かつ熱的に結合している。また、PTCサーミスタ素子21のもう一方の端子は、基板15上に形成された幅の細い配線パターン15bを介してオペアンプ22の反転入力端子と接続している。また、スイッチング素子10およびPTCサーミスタ素子21は、絶縁性および熱伝導性を有する被覆材料Aにて覆われている。被覆材料Aはたとえば樹脂材料に熱伝導性フィラーを配合したものである。
【0021】
図1に戻って、電流演算部30は、その入力側が電流検出部20のスイッチング素子23のソース端子に接続している。電流演算部30は、入力された電流を2乗した演算電流を出力する。なお、電流演算部30は、トランスリニア回路を用いたアナログ回路で構成することができる。
【0022】
温度模擬部40は、電流源41と、熱等価回路部42とを備えている。電流源41は、入力側が電流演算部30の出力側に接続し、出力側が熱等価回路部42に接続している。熱等価回路部42は、オン状態でスイッチング素子10に流れる負荷電流Iloadによる消費電力に相当する発熱の時間的な変化を模擬するための電気的等価回路であり、スイッチング素子10における過渡的な熱変動を表現するように構成されている。熱等価回路部42は、並列接続したコンデンサ42aと抵抗42bとからなるCR時定数回路として構成されている。なお、熱等価回路部42は図1に示したものに限らず、特許文献1に開示された種々の構成を適用することができる。
【0023】
スイッチング素子制御部50は、制御信号入力端子51を備えている。スイッチング素子制御部50は、温度模擬部40の熱等価回路部42とスイッチング素子10のゲート端子とに接続している。
【0024】
つぎに、この電源供給装置100の動作について、負荷Lを操作するための操作スイッチをオフにしている場合と、操作スイッチをオンにした場合とに分けて説明する。
【0025】
(負荷Lを操作するための操作スイッチをオフにしている場合)
この場合、スイッチング素子制御部50には制御信号入力端子53からLowレベルの制御信号が入力される。このとき、スイッチング素子制御部50は駆動電圧信号をスイッチング素子10のゲート端子に出力しない。その結果、スイッチング素子10はオフ状態に維持される。したがって、電源Pから負荷Lに電流は供給されないので、負荷Lは駆動しない。
【0026】
(負荷Lを操作するための操作スイッチをオンにした場合)
この場合、スイッチング素子制御部50には制御信号入力端子53からHighレベルの制御信号が入力される。これによって、スイッチング素子制御部50は駆動電圧信号をスイッチング素子10のゲート端子に出力する。これによって、スイッチング素子10はオン状態になる。その結果、スイッチング素子10のドレイン−ソース間には電流が流れ、電源Pから負荷Lに電線Wを介して負荷電流Iloadが供給され、負荷Lは駆動する。
【0027】
このとき、電流検出部20では、スイッチング素子10の差電圧であるドレイン−ソース間電圧VdsとPTCサーミスタ素子21の端子間電圧Vsとが等しくなるように、オペアンプ22の出力でスイッチング素子23のゲート電位を制御している。これによって、PTCサーミスタ素子21には、電線Wに流れる負荷電流Iloadに比例した値の検出電流Isが流れるようになっている。ここで、Is=Iload×Ron/Rsで表される。Ronは所定の温度でのスイッチング素子10のオン抵抗であり、Rsは所定の温度でのPTCサーミスタ素子21の電気抵抗値である。電流検出部20は、この検出電流Isを、負荷電流Iloadに対応する電流として出力する。
【0028】
ここで、Ron、Rs、Isについて具体的に説明する。まず、Ronは、スイッチング素子10のMOSFETのジャンクション温度でのオン抵抗である。Rsは、PTCサーミスタ素子21の温度での電気抵抗値である。図2に示すように、PTCサーミスタ素子21は、スイッチング素子10の近傍に配置され、かつヒートスプレッダ15aを介してスイッチング素子10と熱的に結合している。その結果、MOSFETのジャンクション温度とPTCサーミスタ素子21の温度とは近い値になるので、PTCサーミスタ素子21は過電流から保護すべきスイッチング素子10のMOSFETの温度をより正確に検出することができる。
【0029】
また、図2に示すように、PTCサーミスタ素子21のもう一方の端子は、幅の細い配線パターン15bを介してオペアンプ22の反転入力端子と電気的に接続している。配線パターン15bは、幅が細く、ヒートスプレッダ15aよりも熱抵抗が大きいため、ヒートスプレッダ15aから配線パターン15b側には熱が放出されにくくなっている。このような熱の放出を抑制することによって、MOSFETのジャンクション温度とPTCサーミスタ素子21の温度とがさらに近い値になり、さらに正確な温度検出が可能になる。
【0030】
また、電流検出部20では、PTCサーミスタ素子21を使用しているため、その電気抵抗値Rsの値を自由度高く選択して使用できる。したがって、検出電流Isも自由度高く設定できるので、電流検出部20およびその下流に位置する電流演算部30、温度模擬部40、およびスイッチング素子制御部50を自由度高く、たとえば小型化、低コスト化、または低消費電力化を実現するように構成することができる。
【0031】
また、PTCサーミスタ素子21の温度係数を適宜に設定することによって、簡易な構成でありながら検出電流Isの温度特性を自由度高く設定することができる。
【0032】
図3は、電流検出部20が出力する検出電流Isの温度特性の例を示す図である。なお、図3に示す温度特性は、スイッチング素子10を構成するMOSFETとしてオン抵抗Ronの温度係数が約4500ppm/℃のものを使用し、Iload=15Aとして計算している。図3において、線L1は、PTCサーミスタ素子21の電気抵抗値Rsの温度係数を1000ppm/℃に設定した場合の検出電流Isの温度特性を示している。同様に、線L2、L3は、PTCサーミスタ素子21の電気抵抗値Rsの温度係数をそれぞれ2700ppm/℃、4200ppm/℃に設定した場合の検出電流Isの温度特性を示している。
【0033】
線L1の場合、Isの温度係数は約4500ppm/℃となり、MOSFETの抵抗成分であるオン抵抗と同等の温度係数となる。また、線L2の場合、Isの温度係数は約1500ppm/℃となり、従来車両に搭載されている電源供給装置において通常使用されているヒューズの温度特性(たとえば約−1500ppm/℃)の逆特性と同等の温度係数となる。線L3の場合、Isの温度係数は略0ppm/℃となり、温度依存性がほとんど無い特性となり、Isの温度依存性をキャンセルすることができる。また、PTCサーミスタ素子21の温度係数の設定によっては、Isの温度特性を、負荷Lの温度特性と同等、電線Wの温度特性と同等、もしくは負荷Lの温度特性と電線Wの温度特性との間の温度特性に補正することもできる。このように、PTCサーミスタ素子21の温度係数を適宜に設定することによって、検出電流Isの温度特性を自由度高く設定することができる。
【0034】
なお、電流検出部20では、PTCサーミスタ素子21からの電流は差動増幅器であるオペアンプ22の反転入力端子に入力し、スイッチング素子10からの電流はオペアンプ22の非反転入力端子に入力する。その結果、スイッチング素子10を構成するMOSFETのオン抵抗Ronの温度係数と、PTCサーミスタ素子21の電気抵抗値Rsの温度係数とがいずれも正値であっても、検出電流Isは両値の差分的な特性を示す。
【0035】
つぎに、電流演算部30では、入力された検出電流Isを2乗演算した演算電流Iout(=Is)を出力する。
【0036】
つぎに、温度模擬部40では、演算電流Ioutが入力されて、スイッチング素子10の温度を示す温度相当電圧を出力する。温度模擬部40では、まず、電流源41が、電流演算部30が出力する演算電流Ioutを熱等価回路部42に流す。
【0037】
熱等価回路部42では、コンデンサ42aと抵抗42bとの接続点の電位であり、スイッチング素子10の温度に相当する温度相当値を、スイッチング素子10の温度を示す温度相当電圧VTjとして出力する。
【0038】
つぎに、スイッチング素子制御部50は、スイッチング素子10に過電流が流れたかどうかを判定する。この判定は、たとえばスイッチング素子制御部50が比較器を備えることによって実現される。判定を比較器によって実現する場合を以下に説明する。まず、比較器の非反転入力端子から温度相当電圧VTjが入力され、反転入力端子には過電流判定電圧Vrefが入力される。過電流判定電圧Vrefは、スイッチング素子10の過電流限界特性に基づいて、スイッチング素子10が焼損等に到らない温度に対応する電圧に設定することが好ましい。スイッチング素子10が焼損等に到らない温度とは、たとえば、スイッチング素子10を構成するMOSFETの接合温度である150℃または175℃より小さい温度である。なお、電線Wが焼損等に到らない温度とは、電線Wの発煙温度および被覆の溶解温度である150℃〜160℃より小さい温度である。
【0039】
ここで、温度相当電圧VTjは、温度模擬部40が、入力された演算電流Iout(=Is)に基づいて出力したものである。したがって、温度相当電圧VTjは、電流検出部20において設定された検出電流Isの温度特性に相当する温度特性を有するものである。
【0040】
すなわち、この電源供給装置100では、過電流判定電圧Vrefを補正する代わりに、過電流判定電圧Vrefと比較すべき温度相当電圧VTjのほうに所望の温度特性を持たせて、スイッチング素子10の温度特性の補正を行っている。その結果、電源供給装置100は、CPU等を用いる複雑な回路構成無しに、簡易な構成で、かつ自由度高く、所望の温度特性の補正を実現することができる。また、電源供給装置100は、このような簡易な構成で温度特性の補正を行うので、その補正精度を高くすることができる。
【0041】
以下、過電流の判定について、温度相当電圧VTjが過電流判定電圧Vref以下の場合と、温度相当電圧VTjが過電流判定電圧Vrefを超えた場合とに分けて説明する。
【0042】
(温度相当電圧VTjが過電流判定電圧Vref以下の場合)
この場合は、スイッチング素子10には過電流が流れていないと判定する場合である。このとき、スイッチング素子制御部50は、駆動電圧信号をスイッチング素子10のゲート端子に出力し続ける。したがって、この場合はスイッチング素子10はオン状態のままであり、電源Pから負荷Lに電線Wを介して負荷電流Iloadが供給され続け、負荷Lは駆動を続ける。
【0043】
(温度相当電圧VTjが過電流判定電圧Vrefを超えた場合)
この場合は、過電流が発生し、スイッチング素子10に過電流が流れると判定する場合である。温度相当電圧VTjが過電流判定電圧Vrefを超えると、スイッチング素子制御部50は、駆動電圧信号をスイッチング素子10のゲート端子に印加することを停止する。これによって、スイッチング素子10はオン状態からオフ状態にスイッチングされる。したがって、電源Pから負荷Lへの電流の供給が遮断され、負荷Lの駆動が停止される。その結果、スイッチング素子10は過電流から保護される。
【0044】
以上のようにして、この電源供給装置100では、簡易な構成で自由度高く温度特性の補正をすることができるので、スイッチング素子10を過電流からより適切に保護することができる。
【0045】
つぎに、電源供給装置100によって実現される過電流保護特性の例を説明する。図4は、電源供給装置100によって実現される過電流保護特性の例を示す図である。
【0046】
図4において、横軸は電源供給装置100の環境温度Ta[℃]を示し、縦軸は負荷電流Iload[A]を示している。また、線L4は、電線Wが断面積0.5sqのCHFUSである場合の、発煙が発生する負荷電流Iloadでの温度特性の一例を示している。線L5は、低背ヒューズ(定格電流10A)の溶断が発生する負荷電流Iloadの値の温度特性の一例を示している。線L6は、負荷Lがリアガラスのくもりを取るためのデフォッガである場合の、熱飽和領域における負荷電流Iloadの温度特性の一例を示している。なお、図示していないが、スイッチング素子10が破壊する負荷電流Iloadの値の温度特性も、線L4と同様の曲線で示される。
【0047】
線L7は、PTCサーミスタ素子21の電気抵抗値の温度係数を4200ppm/℃に設定した場合の過電流保護特性であって、温度相当電圧VTjが過電流判定電圧Vrefを超えて供給が遮断されるときの負荷電流Iloadの値の温度特性の一例を示している。また、線L8は、PTCサーミスタ素子21の電気抵抗値の温度係数を2700ppm/℃に設定した場合の過電流保護特性であって、温度相当電圧VTjが過電流判定電圧Vrefを超えて供給が遮断されるときの負荷電流Iloadの値の温度特性の一例を示している。
【0048】
図4に示すように、この電源供給装置100では、PTCサーミスタ素子21の電気抵抗値の温度係数を変更することによって、簡単な構成で過電流保護特性の温度特性を補正することができる。そして、たとえば、過電流保護特性は、線L8で示されるような温度特性とすることによって、線L4で示される保護すべき電線Wの発煙の温度特性、またはスイッチング素子10の破壊の温度特性などの、過電流限界特性と同等の温度特性に近づけることができる。
【0049】
このように、過電流保護特性を、保護すべき対象の過電流限界特性に近づけることによって、保護対象の設計が同一であっても、より一層大きい電流を保護対象に流すことができる。換言すれば、同じ大きさの電流を流す場合であっても、スイッチング素子10の場合は従来よりも放熱構造を小型、簡略化でき、電線Wの場合は従来よりも細径化できる。したがって、この電源供給装置100を使用すれば、従来と同じ大きさの電流を流す場合であっても、スイッチング素子10および電線Wの小型化等が容易になる。
【0050】
また、過電流保護特性は、線L5で示されるような温度特性とすることによって、ヒューズの溶断特性の温度特性に近づけた温度特性とすることができる。このように、電源供給装置100の過電流保護特性をヒューズの特性に近づけると、ヒューズを使用した従来の電源供給装置に置き換えて電源供給装置100を使用することが一層容易になる。なお、線L7、L8で示す温度特性は、過電流判定電圧Vrefを縦軸方向にシフトすることによって、線L4、L5により一層近づけることができる。
【0051】
また、図4に示すように、電源供給装置100の過電流保護特性を線L7と線L8との間の特性に設定し、線L6で示される負荷Lの特性と交差しないようにすることによって、負荷Lの正常な動作を阻害すること無しに、適切な過電流保護特性を実現することができる。また、さらには、図3の線L3で示す場合と同様に、PTCサーミスタ素子21の電気抵抗値の温度係数の適宜の設定によって、過電流保護特性の温度依存性をキャンセルすることもできる。
【0052】
なお、上記実施の形態では、図2に示すように、スイッチング素子10およびPTCサーミスタ素子21とは、基板15の同一面側に実装されているが、スイッチング素子10の実装面の裏面にPTCサーミスタ素子21を実装してもよい。
【0053】
図5は、スイッチング素子10およびPTCサーミスタ素子21の配置の別の態様を示す模式図である。図5は、スイッチング素子10を実装した基板16を、スイッチング素子10の実装面の裏面側から見た図である。基板16の、スイッチング素子10の実装面の裏面側には、ヒートスプレッダ16aが形成されている。スイッチング素子10のドレイン端子12とヒートスプレッダ16aとは多数のスルーホール16cで電気的に接続し、かつ熱的に結合している。
【0054】
PTCサーミスタ素子21は、ヒートスプレッダ16aに一方の端子が接続するように実装され、スイッチング素子10のドレイン端子12の直ぐ裏側に配置されている。また、ヒートスプレッダ16a上には、たとえば半田材のような熱伝導性が高い熱接合材16dがPTCサーミスタ素子21を3方から囲むように形成されている。したがって、PTCサーミスタ素子21は、ヒートスプレッダ16a、スルーホール16c、および熱接合材16dを介してスイッチング素子10と電気的に接続し、かつ熱的に結合している。また、PTCサーミスタ素子21のもう一方の端子は、基板16上に形成された幅の細い配線パターン16bを介してオペアンプ22の反転入力端子と接続している。したがって、図2の場合と同様に、スイッチング素子10のMOSFETのジャンクション温度とPTCサーミスタ素子21の温度とが近い値になり、正確な温度検出が可能になる。
【0055】
なお、上記実施の形態では、電流演算部が検出電流に基づく2乗演算を行った演算電流を温度模擬部に出力している。しかしながら、電流演算部を設けずに、電流検出部が検出電流を温度模擬部に直接入力し、温度模擬部はこの検出電流をもとに温度相当電圧を出力するようにしてもよい。また、スイッチング素子制御部は、電流検出部からの検出電流を直接入力し、この検出電流をもとに過電流判定を行うように構成してもよい。この場合、電流演算部および温度模擬部を設けなくてもよい。
【0056】
また、上記実施の形態では、電流検出部に設けられた電流検出用抵抗素子として、温度特性補正サーミスタ素子であるPTCサーミスタ素子を備えている。しかしながら、温度特性補正サーミスタ素子は温度模擬部に備えられてもよい。なお、使用する温度特性補正サーミスタ素子としては、設ける場所に応じてPTCサーミスタ素子またはNTC(Negative Temperature Coefficient)サーミスタ素子を適宜選択して、その電気抵抗値および温度係数を設定して所望の温度特性の補正を実現すればよい。たとえば、図1に示す温度模擬部40が備える抵抗42aをNTCサーミスタ素子に置き換えて、所望の温度特性の補正を実現してもよい。
【0057】
また、熱等価回路部は、スイッチング素子等の保護対象の温度環境や温度特性等に応じて、熱等価部の数や構成を適宜設定することが好ましい。
【0058】
また、上記実施の形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。その他、上記実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
10、23 スイッチング素子
10a、23a 寄生ダイオード
11 ケース
12 ドレイン端子
13 ゲート端子
14 ソース端子
15、16 基板
15a、16a ヒートスプレッダ
15b、16b 配線パターン
16c スルーホール
16d 熱接合材
20 電流検出部
21 PTCサーミスタ素子
22 オペアンプ
30 電流演算部
40 温度模擬部
41 電流源
42熱等価回路部
42a コンデンサ
42b 抵抗
50 スイッチング素子制御部
51 制御信号入力端子
100 電源供給装置
A 被覆材料
L 負荷
L1〜L8 線
P 電源
W 電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源と負荷との間に電線を介して接続したスイッチング素子と、
前記電源から前記スイッチング素子を介して前記負荷に供給される負荷電流に対応する検出電流を、前記スイッチング素子の差電圧に基づいて出力する電流検出部と、
を備え、前記電流検出部は、前記スイッチング素子がもつ抵抗成分の温度特性を補正する温度係数を有する温度特性補正サーミスタ素子を備えることを特徴とする電流検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電流検出装置と、
前記検出電流をもとに、前記スイッチング素子に過電流が流れたと判定した場合に前記スイッチング素子をオフ状態にするスイッチング素子制御部と、
を備えることを特徴とする過電流保護装置。
【請求項3】
前記温度特性補正サーミスタ素子の温度係数は、
前記スイッチング素子の抵抗成分の温度係数と同等であることを特徴とする請求項2に記載の過電流保護装置。
【請求項4】
前記温度特性補正サーミスタ素子の温度係数は、
前記検出電流の温度特性が、ヒューズ溶断特性の温度特性の逆特性と同等となるように設定されていることを特徴とする請求項2に記載の過電流保護装置。
【請求項5】
前記温度特性補正サーミスタ素子の温度係数は、
前記検出電流の温度特性が、前記スイッチング素子の過電流限界特性と同等の温度特性に補正するように設定されていることを特徴とする請求項2に記載の過電流保護装置。
【請求項6】
前記温度特性補正サーミスタ素子の温度係数は、
前記検出電流の温度特性が、前記負荷の温度特性と同等、前記電線の温度特性と同等、もしくは前記負荷の温度特性と前記電線の温度特性との間の温度特性に補正するように設定されていることを特徴とする請求項2に記載の過電流保護装置。
【請求項7】
前記温度特性補正サーミスタ素子は、前記スイッチング素子の近傍に配置されていることを特徴とする請求項2〜6のいずれか一つに記載の過電流保護装置。
【請求項8】
前記温度特性補正サーミスタ素子は、熱伝導体を介して前記スイッチング素子と熱的に結合していることを特徴とする請求項2〜7のいずれか一つに記載の過電流保護装置。
【請求項9】
前記熱伝導体は、ヒートスプレッダであることを特徴とする請求項8に記載の過電流保護装置。
【請求項10】
前記電流検出部は、差動増幅器を備え、前記温度特性補正サーミスタ素子は、前記差動増幅器の入力側に接続されることを特徴とする請求項請求項2〜9のいずれか一つに記載の過電流保護装置。
【請求項11】
前記温度特性補正サーミスタ素子は、前記熱伝導体よりも熱抵抗が大きい電気的配線によって、前記電流検出部内の他の素子に接続していることを特徴とする請求項8または9に記載の過電流保護装置。
【請求項12】
前記スイッチング素子と前記温度特性補正サーミスタ素子とが、絶縁性および熱伝導性を有する被覆材料にて覆われていることを特徴とする請求項2〜11のいずれか一つに記載の過電流保護装置。
【請求項13】
前記検出電流をもとに、前記スイッチング素子の温度を示す温度相当電圧を出力する温度模擬部を備え、
前記スイッチング素子制御部は、前記温度相当電圧が入力され、前記温度相当電圧が過電流判定電圧を超えた場合に前記スイッチング素子をオフ状態にすることを特徴とする請求項2〜12のいずれか一つに記載の過電流保護装置。
【請求項14】
電源から電線とスイッチング素子とを介して負荷に供給される負荷電流に対応する検出電流を、前記スイッチング素子の差電圧に基づいて出力する電流検出工程を含み、前記電流検出工程は、所定の温度係数を有するサーミスタ素子によって前記検出電流の温度特性を補正することを特徴とする電流検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−207976(P2012−207976A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72834(P2011−72834)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】