説明

電流測定装置および絶縁抵抗測定装置

【課題】微少な測定対象電流であっても測定レンジ切り替えを正確に行い得る電流測定装置を提供する。
【解決手段】複数の測定レンジのうちの1つに切替制御されると共にその1つの測定レンジに応じた変換率で電流Iを電圧変換する測定レンジ切替部5と、測定レンジ切替部5に電流Iを供給するダイオード4と、ダイオード4の順方向電圧Vdを検出する電圧検出部6と、複数の測定レンジに対応させて予め設定された複数の電圧範囲のいずれに順方向電圧Vdが含まれるかを特定すると共に測定レンジ切替部5を制御することにより特定した電圧範囲に対応する測定レンジに切り替える演算制御部9とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定レンジの自動切替機能を有する電流測定装置および絶縁抵抗測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電流レンジや電圧レンジなどの測定レンジの自動切替機能は、電流や電圧などの測定値の読取精度を向上させるべく、複数の測定レンジから読取りに最適な測定レンジを自動的に選択してこの測定レンジに切り替えるものであり、多くの測定装置に搭載されている。搭載されているこの種の測定装置として、例えば特開平5−34381号公報に開示された測定装置が知られている。この測定装置では、負荷に流れる電流を電流検出抵抗での電圧降下として検出し、検出した電流量(電圧降下値)に基づいて電流レンジ切り替え動作を自動的に行っている。
【特許文献1】特開平5−34381号公報(第2頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記した従来の測定装置には、次のような問題点が存在する。すなわち、この測定装置では、電流検出抵抗を用いて負荷に流れる電流を検出している。このため、この測定装置には、絶縁抵抗測定時において測定する漏れ電流などのように微少な電流が測定対象電流のときには、電流検出抵抗での電圧降下も電流に比例して小さくなるため、測定しにくくなる結果、正確な電流レンジ切り替え動作が困難になるという問題点が存在している。
【0004】
本発明は、かかる問題点を解決するためになされたものであり、微少な測定対象電流であっても測定レンジ切り替えを正確に行い得る電流測定装置を提供することを主目的とする。また、測定対象の電流のレベルが小さいときであっても測定レンジ切り替えを正確に行うことで適切な測定レンジで測定対象の電流を正確に測定して正確な絶縁抵抗を測定し得る絶縁抵抗測定装置を提供することを他の主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成すべく請求項1記載の電流測定装置は、複数の測定レンジのうちの1つに切替制御されると共に当該1つの測定レンジに応じた変換率で測定対象電流を電圧変換する測定レンジ切替部と、前記測定レンジ切替部に前記測定対象電流を供給するダイオードと、前記ダイオードの順方向電圧を検出する電圧検出部と、前記複数の測定レンジに対応させて予め設定された複数の電圧範囲のいずれに前記順方向電圧が含まれるかを特定すると共に前記測定レンジ切替部を制御することにより前記特定した電圧範囲に対応する前記測定レンジに切り替える制御部とを備えている。
【0006】
また、請求項2記載の絶縁抵抗測定装置は、測定対象体の一端に印加する測定用電圧を生成する電圧生成部と、複数の測定レンジのうちの1つに切替制御されると共に前記測定用電圧の印加時において前記測定対象体に流れる電流を当該1つの測定レンジに応じた変換率で電圧に変換する測定レンジ切替部と、前記測定レンジ切替部に前記電流を供給するダイオードと、前記ダイオードの順方向電圧を検出する電圧検出部と、前記複数の測定レンジに対応させて予め設定された複数の電圧範囲のいずれに前記順方向電圧が含まれるかを特定すると共に前記測定レンジ切替部を制御することにより前記特定した電圧範囲に対応する前記測定レンジに切り替える制御部と、前記測定レンジ切替部で変換された前記電圧と前記測定用電圧とに基づいて前記測定対象体の絶縁抵抗を算出する演算部とを備えている。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の電流測定装置によれば、制御部が、複数の測定レンジに対応させて予め設定された複数の電圧範囲のいずれに、測定対象電流が流れることに起因してダイオードに発生する順方向電圧が含まれるかを特定して、その特定した電圧範囲に対応する測定レンジに切り替えることにより、流れる電流が小さいとき程、順方向電圧の上昇率が大きくなるというダイオードの非線形な電流/電圧特性と、十分に高速なダイオードの応答特性とを利用して、測定対象電流の電流値が小さなときであっても、より正確で、しかも迅速に測定対象電流の測定に適した測定レンジに設定することができる。
【0008】
請求項2記載の絶縁抵抗測定装置によれば、制御部が、複数の測定レンジに対応させて予め設定された複数の電圧範囲のいずれに、電流が流れることに起因してダイオードに発生する順方向電圧が含まれるかを特定して、その特定した電圧範囲に対応する測定レンジに切り替えることにより、流れる電流が小さいとき程、順方向電圧の上昇率が大きくなるというダイオードの非線形な電流/電圧特性と、十分に高速なダイオードの応答特性とを利用して、電流の電流値が小さなときであっても、より正確で、しかも迅速に電流の測定に適した測定レンジに設定することができる。したがって、測定対象の電流のレベルが小さいときであっても測定レンジ切り替えを正確に行うことができる結果、適切な測定レンジで測定対象の電流を正確に測定して絶縁抵抗を正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る電流測定装置および絶縁抵抗測定装置の最良の形態について説明する。一例として、測定対象体の絶縁抵抗Rを測定すると共に本発明に係る電流測定装置として測定対象体に生じる漏れ電流を測定する絶縁抵抗測定装置を例に挙げて説明する。
【0010】
最初に、絶縁抵抗測定装置1の構成について説明する。
【0011】
絶縁抵抗測定装置1は、図1に示すように、電圧生成部3、ダイオード4、測定レンジ切替部5、電圧検出部6、A/D変換部7,8、演算制御部(本発明における制御部および演算部)9、記憶部10および表示部11を備え、測定対象体2の漏れ電流I(本発明における測定対象電流および測定対象体に流れる電流。以下、電流Iともいう)および絶縁抵抗Rを測定可能に構成されている。この場合、電圧生成部3は、演算制御部9によって制御されて、測定対象体2の一方の端子(本発明における一端)2aに印加する測定用電圧V1(既知の値。例えば5000V)を生成する。ダイオード4は、測定対象体2の他方の端子2bと測定レンジ切替部5(後述する演算増幅器21の反転入力端子)との間に、他方の端子2bから測定レンジ切替部5への電流I(漏れ電流)の流れを許容するように介装されている。
【0012】
測定レンジ切替部5は、図1に示すように、演算増幅器21、第1〜第3の直列回路22,23,24、抵抗25およびコンデンサ26を備え、ダイオード4から供給される電流Iを電圧Viに変換して出力するI/V変換回路を構成し、複数の測定レンジRA1〜RA4のうちの1つに切替制御されると共に測定用電圧V1の印加時において測定対象体2に流れる電流Iをその1つの測定レンジに応じた変換率で電圧Viに変換する。この場合、第1の直列回路22は、直列に接続された抵抗27とスイッチ30とで構成されている。また、第2の直列回路23は、直列に接続された抵抗28とスイッチ31とで構成されている。また、第3の直列回路24は、直列に接続された抵抗29とスイッチ32とで構成されている。また、各直列回路22,23,24、抵抗25およびコンデンサ26は、互いに並列接続された状態で、演算増幅器21の出力端子と反転入力端子との間に、演算増幅器21の負帰還回路としてそれぞれ接続されている。また、演算増幅器21は、非反転入力端子が基準電位(グランド電位)に接続されている。また、この測定レンジ切替部5では、各スイッチ30,31,32は、演算制御部9により、いずれか一つがオンになる状態、およびすべてがオフになる状態の4つの状態のいずれかに切替制御される。本例の測定レンジ切替部5では、一例として、各抵抗25,27,28,29がこの順で抵抗値が小さくなるように設定されている。このため、演算制御部9によって各スイッチ30,31,32が共にオフに切替制御されたときに、測定レンジ切替部5は、I/V変換率(以下、変換率ともいう)が最も大きい第1の測定レンジRA1(レンジ定格電流I1。図2参照)に切り替わり、スイッチ30のみがオンに切替制御されたときに、変換率が次に大きい第2の測定レンジRA2(レンジ定格電流I2。図2参照)に切り替わり、スイッチ31のみがオンに切替制御されたときに、変換率がその次に大きい第3の測定レンジRA3(レンジ定格電流I3。図2参照)に切り替わり、スイッチ32のみがオンに切替制御されたときに、変換率が最も小さい第4の測定レンジRA4(レンジ定格電流I4。図2参照)に切り替わる。
【0013】
電圧検出部6は、一例としてボルテージフォロワであって、その非反転入力端子がダイオード4のアノード側に接続された演算増幅器で構成されている。本例では、演算増幅器21の非反転入力端子が基準電位(グランド電位)に接続されているため、ダイオード4のカソード端子の電位がグランド電位となっている。したがって、電圧検出部6は、ダイオード4の順方向電圧Vdを検出して低インピーダンスで出力する。A/D変換部7は、測定レンジ切替部5から出力される電圧Viの値をディジタルデータDiに変換して演算制御部9に出力する。一方、A/D変換部8は、電圧検出部6から出力される順方向電圧Vdの値をディジタルデータDdに変換して演算制御部9に出力する。
【0014】
演算制御部9は、CPUなどで構成されて、電圧生成部3を制御する。また、演算制御部9は、ディジタルデータDd,Diに基づいて測定レンジ切替部5を制御することにより、測定レンジの切替処理を実行する。具体的には、演算制御部9は、ディジタルデータDdに基づいて、測定レンジの1次切替処理を最初に実行し、その後は、ディジタルデータDiに基づいて、具体的にはこのディジタルデータDiを用いて算出した電流Iの値に基づいて、測定レンジの2次切替処理を連続して実行する。また、演算制御部9は、ディジタルデータDiに基づいて電流Iの値を算出すると共に、算出した電流Iの値と測定用電圧V1とに基づいて測定対象体2の絶縁抵抗Rの値を算出する算出処理を実行する。また、演算制御部9は、算出した電流Iおよび絶縁抵抗Rを表示部11に表示させる。
【0015】
記憶部10には、上記した1次測定レンジ切替処理において、ディジタルデータDdと比較するための1次レンジ特定用データが、測定レンジ切替部5の測定レンジ数と同数予め記憶されている。具体的には、図2に示すように、各測定レンジRA1〜RA4に対応する各電圧Vd1,Vd2,Vd3,Vd4(本発明における各電圧範囲を規定するための電圧)を示す各レンジデータDd1,Dd2,Dd3,Dd4が、1次レンジ特定用データとして記憶されている。また、記憶部10には、各測定レンジRA1〜RA4についての各レンジ定格電流I1〜I4が予め記憶されている。なお、レンジ定格電流I4は、絶縁抵抗測定装置1の最大定格電流を意味する。表示部11は、液晶パネル等で構成されている。
【0016】
次に、絶縁抵抗測定装置1についての電流Iおよび絶縁抵抗Rの測定動作について、測定レンジの切替処理を中心に説明する。
【0017】
まず、不図示のプローブを使用して、図1に示すように、電圧生成部3を測定対象体2の一方の端子2aに接続すると共に、ダイオード4のアノード端子を測定対象体2の他方の端子2bに接続し、次いで、絶縁抵抗測定装置1を作動させる。
【0018】
絶縁抵抗測定装置1では、まず、演算制御部9が、測定レンジ切替部5の各スイッチ30,31,32のオン・オフ状態を初期状態に切替制御する(イニシャライズ処理)。一例として、演算制御部9は、各スイッチ30,31,32をすべてオフ状態に制御することにより、変換率が最も大きい第1の測定レンジRA1に測定レンジ切替部5を切り替える。続いて、演算制御部9は、電圧生成部3を制御して、測定対象体2に対する測定用電圧V1の印加を開始させる。この場合、測定用電圧V1の印加に起因して測定対象体2に電流Iが流れ、この電流Iは、ダイオード4を介して測定レンジ切替部5に供給される。その際に、ダイオード4のアノードには、電流Iの電流値に対応した順方向電圧Vdが瞬時に現れる。このため、電圧検出部6はこの順方向電圧Vdを検出してA/D変換部8に出力し、A/D変換部8はこの順方向電圧VdをディジタルデータDdに変換して演算制御部9に出力する。
【0019】
次いで、演算制御部9は、入力したディジタルデータDdに基づいて、電流Iについての測定レンジの1次切替処理を実行する。この測定レンジの1次切替処理では、演算制御部9は、ディジタルデータDdと、記憶部10に記憶されている各レンジデータDd1,Dd2,Dd3,Dd4とを比較することにより、現在の電流Iが各測定レンジRA1〜RA4のいずれに含まれるかを特定するレンジ特定処理と、特定した測定レンジになるように測定レンジ切替部5の各スイッチ30〜32を切替制御する切替処理とを実行する。
【0020】
まず、レンジ特定処理では、演算制御部9は、各測定レンジRA1〜RA4に対応させて予め設定された複数の電圧範囲のいずれに順方向電圧Vdが含まれるかを特定する。具体的には、演算制御部9は、順方向電圧Vdの値を示すディジタルデータDdがレンジデータDd1以下のとき(つまり、順方向電圧Vdが図2中の電圧範囲W(電圧Vd1以下)に含まれるとき)には、第1の測定レンジRA1を測定レンジとして特定し、ディジタルデータDdがレンジデータDd1を超えレンジデータDd2以下のとき(つまり、順方向電圧Vdが図2中の電圧範囲X(電圧Vd1を超え電圧Vd2以下)に含まれるとき)には、第2の測定レンジRA2を測定レンジとして特定し、ディジタルデータDdがレンジデータDd2を超えレンジデータDd3以下のとき(つまり、順方向電圧Vdが図2中の電圧範囲Y(電圧Vd2を超え電圧Vd3以下)に含まれるとき)には、第3の測定レンジRA3を測定レンジとして特定し、ディジタルデータDdがレンジデータDd3を超えレンジデータDd4以下のとき(つまり、順方向電圧Vdが図2中の電圧範囲Z(電圧Vd3を超え電圧Vd4以下)に含まれるとき)には、第4の測定レンジRA4を測定レンジとして特定する。
【0021】
この場合、ダイオード4の電流Iに対する順方向電圧Vdの特性(電流/電圧変換特性)は、図2の実線で示すように、ダイオード4を抵抗で置き換えたときの電流/電圧変換特性(同図中の一点鎖線で示す特性)と比較して、電流Iの増加に伴って順方向電圧Vdも上昇するという点では共通するが、電流Iが小さいとき程、順方向電圧Vdの上昇率が大きいという非線形特性を示す点で相違している。このため、同図に示すように、第4の測定レンジR4のレンジ定格電流I4が流れたときに検出される電圧がダイオード4の電流/電圧変換特性(実線)での電圧に一致するように抵抗値を設定したときの抵抗の電流/電圧変換特性(一点鎖線)と、ダイオード4の電流/電圧変換特性とを比較したときに、電流Iが小さくノイズなどの影響を受け易い電流領域において、ダイオード4を用いたときの方が、検出される電圧が大きくなる。例えば、電流Iの電流値が値I1,I2,I3のときに検出される電圧は、抵抗による電流/電圧変換では電圧Vr1,Vr2,Vr3となるのに対して、ダイオード4による電流/電圧変換では電圧Vr1,Vr2,Vr3よりもそれぞれ大きい値の電圧Vd1,Vd2,Vd3となる。したがって、ダイオード4を使用して電流Iを検出することにより、演算制御部9は、漏れ電流のように電流値が非常に小さい電流Iをノイズなどの影響の少ない状態で検出することができるため、各測定レンジRA1〜RA4のいずれに切り替えるべきかをより正確に特定することができる。
【0022】
続いて、切替処理では、演算制御部9は、特定した測定レンジが第1の測定レンジRA1のときには、各スイッチ30,31,32を共にオフにする。また、演算制御部9は、特定した測定レンジが第2の測定レンジRA2のときにはスイッチ30のみをオンにし、特定した測定レンジが第3の測定レンジRA3のときにはスイッチ31のみをオンにし、特定した測定レンジが第4の測定レンジRA4のときにはスイッチ32のみをオンにする。演算制御部9が上記の1次切替処理を実行することにより、測定レンジ切替部5は、電流Iの電流量にほぼ対応する測定レンジ(最適な測定レンジまたはその前後の測定レンジ)に切り替えられる。したがって、測定レンジ切替部5は、A/D変換部7の定格入力電圧範囲を有効に使用可能なレベルの電圧Viとなるように電流Iを変換してA/D変換部7に出力する。したがって、A/D変換部7は、精度良く電圧ViをディジタルデータDiに変換して演算制御部9に出力する。
【0023】
次いで、演算制御部9は、入力したディジタルデータDi(つまり電流Iの電流値)に基づいて、電流Iの値を算出すると共に、算出した電流Iの値と測定用電圧V1とに基づいて測定対象体2の絶縁抵抗Rの値を算出し(算出処理)、算出した電流Iおよび絶縁抵抗Rを表示部11に表示させる。また、演算制御部9は、電流Iの値を算出する都度(または所定回数毎に)、電流Iについての測定レンジの2次切替処理を実行する。この測定レンジの2次切替処理では、演算制御部9は、記憶部10に記憶されている各測定レンジRA1〜RA4の各レンジ定格電流I1〜I4に基づき各測定レンジRA1〜RA4毎の下限値および上限値(測定レンジを切り替える目安とする電流値)を算出すると共に、算出した各測定レンジRA1〜RA4毎の下限値および上限値と、電流Iの値とを比較することにより、電流Iの値がその下限値から上限値までの間に入るような最適な測定レンジを特定し、特定した測定レンジになるように測定レンジ切替部5の各スイッチ30〜32のオン・オフを切替制御する。
【0024】
具体的には、演算制御部9は、現在の測定レンジ切替部5の測定レンジについてのレンジ定格電流を記憶部10から読み出すと共に、このレンジ定格電流の9%および100%に相当する電流値をそれぞれ算出して、現在の測定レンジについての下限値および上限値とする。次いで、演算制御部9は、現在の電流Iの値が現在の測定レンジの下限値を下回るか、または現在の測定レンジの上限値を上回るかを判別する。この判別の結果、電流Iの値が下限値を下回るときには、演算制御部9は、現在の測定レンジよりも下の測定レンジがあるか否かを判別し、下の測定レンジがあるときには、測定レンジ切替部5の各スイッチ30〜32を制御することにより、現在の測定レンジから1つ下の測定レンジにレンジダウンさせ、下の測定レンジがないときにはその測定レンジを維持させる。一方、電流Iの値が上限値を上回るときには、演算制御部9は、現在の測定レンジよりも上の測定レンジがあるか否かを判別し、上の測定レンジがあるときには、測定レンジ切替部5の各スイッチ30〜32を制御することにより、現在の測定レンジから1つ上の測定レンジにレンジアップさせ、上の測定レンジがないときにはその測定レンジを維持させる。
【0025】
この測定レンジの2次切替処理を実行することにより、実際に測定される電流Iの値に基づいて、測定レンジ切替部5が最適な測定レンジに切替制御される。したがって、演算制御部9は、電流Iの値を正確に測定することができ、その結果、絶縁抵抗Rを正確に算出することができる。また、測定レンジの2次切替処理に先立って、演算制御部9が測定レンジの1次切替処理を実行しているため、測定レンジの2次切替処理を開始し始めたときの測定レンジは、この2次切替処理によって特定される最適な測定レンジと同じか、若しくは最適な測定レンジの前後の測定レンジに既に設定されている。したがって、測定レンジの2次切替処理における測定レンジの切替動作が1回となる。この場合、測定レンジの2次切替処理において、演算制御部9が各スイッチ30〜32を制御して測定レンジを切り替えたときには、コンデンサ26が負帰還回路の一部を構成しているために、測定レンジ切替後において、電圧Viは、この測定レンジ切替後に演算増幅器21の負帰還回路を構成している抵抗(抵抗27〜29のいずれかと抵抗25)の合成抵抗値と、コンデンサ26の静電容量値とで決定される応答時間だけ遅れて正規な値に到達する。このため、測定レンジの1次切替処理を行わずに、最初から測定レンジの2次切替処理を繰り返して、最適な測定レンジに切り替える構成では、最大で3回、測定レンジの2次切替処理を繰り返す必要がある。例えば、第4の測定レンジRA4で測定すべき電流Iを第1の測定レンジRA1で測定し始めた場合では、測定レンジRA1〜RA4のそれぞれの応答時間の和が絶縁抵抗値Rを測定するまでに要する時間となる。この場合、一般的に、微少な電流を測定する測定装置では、S/N比を大きくとるために抵抗27〜29および抵抗25を大きな値に規定し、かつ、定常状態での測定値のふらつきを小さくするためにコンデンサ26の静電容量を大きく規定する必要がある。したがって、1次切替処理を行わないときには、測定レンジRA1〜RA4の各応答時間は、ダイオード4のアノードに現れる順方向電圧VdをディジタルデータDdに変換するのに要する時間と比べて長くなるため、現在の測定レンジを最適な測定レンジに切り替えるまでに要する時間が長くなる。この点、この絶縁抵抗測定装置1では、上記したように、長い時間を要する測定レンジの2次切替処理を1回行えばよいため、短時間で最適な測定レンジに切り替わる。
【0026】
以後、演算制御部9は、電流Iおよび絶縁抵抗Rの算出処理と、測定レンジについての2次切替処理とを繰り返し実行する。これにより、絶縁抵抗測定装置1では、電流Iの値に応じた最適な測定レンジで測定された電流Iと、この電流Iに基づいて算出された絶縁抵抗Rとが表示部11にリアルタイムで表示される。
【0027】
このように、この絶縁抵抗測定装置1によれば、演算制御部9が、複数の測定レンジRA1〜RA4に対応させて予め設定された複数の電圧範囲W〜Zのいずれに、電流Iが流れることに起因してダイオード4に発生する順方向電圧Vdが含まれるかを特定して、その特定した電圧範囲W〜Zのいずれに対応する測定レンジRA1〜RA4のいずれかに切り替えることにより、電流Iが小さいとき程、順方向電圧Vdの上昇率が大きくなるというダイオード4の非線形な電流/電圧特性と、抵抗(抵抗25など)およびコンデンサ26が負帰還回路を構成している演算増幅器21と比較して十分に高速なダイオード4の応答特性とを利用して、電流Iの電流値が小さなときであっても、より正確で、しかも迅速に電流Iの測定に適した測定レンジに設定することができる。したがって、電流Iのレベルが小さいときであっても測定レンジ切り替えを正確に行うことができる結果、適切な測定レンジで電流Iを正確に測定して絶縁抵抗Rを正確に測定することができる。また、その後に行う測定レンジの2次切替処理に要する時間を短縮することができる結果、電流Iおよび絶縁抵抗Rの値を迅速に測定することができ、これにより、絶縁抵抗測定装置1全体としての応答性を十分に向上させることができる。
【0028】
なお、本発明は、上記の構成に限定されない。例えば、ダイオード4を使用した構成について上記したが、バイポーラ型トランジスタを使用してそのダイオード特性を利用することもできるし、電界効果型トランジスタを使用してその寄生(内部)ダイオードのダイオード特性を利用することもできる。また、ボルテージフォロワの演算増幅器で電圧検出部6を構成したが、これに限らず、順方向電圧Vdを所定の増幅率で増幅してA/D変換部8に出力する各種の構成を採用することもできる。また、演算制御部9が測定対象体2の電流Iのみを測定するように適宜変更を加えることにより、絶縁抵抗測定装置1を電流測定装置として構成することもできる。また、絶縁抵抗測定装置1では、電圧Viおよび順方向電圧Vdを専用のA/D変換部7,8でディジタルデータDi,Ddに変換する構成が採用されているが、A/D変換部を1つにすると共にスキャナを追加し、このスキャナで電圧Viおよび順方向電圧Vdを切り替えて1つのA/D変換部に入力する構成を採用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】絶縁抵抗測定装置1の構成を示すブロック図である。
【図2】各測定レンジRA1〜RA4と、各測定レンジRA1〜RA4を特定するため順方向電圧Vdと比較される各電圧Vd1〜Dd4(電圧範囲を規定する電圧)との関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1 絶縁抵抗測定装置
2 測定対象体
2a 測定対象体の一端
3 電圧生成部
4 ダイオード
5 測定レンジ切替部
6 電圧検出部
9 演算制御部
I1 電流
R 絶縁抵抗
RA1〜RA4 測定レンジ
V1 測定用電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の測定レンジのうちの1つに切替制御されると共に当該1つの測定レンジに応じた変換率で測定対象電流を電圧変換する測定レンジ切替部と、
前記測定レンジ切替部に前記測定対象電流を供給するダイオードと、
前記ダイオードの順方向電圧を検出する電圧検出部と、
前記複数の測定レンジに対応させて予め設定された複数の電圧範囲のいずれに前記順方向電圧が含まれるかを特定すると共に前記測定レンジ切替部を制御することにより前記特定した電圧範囲に対応する前記測定レンジに切り替える制御部とを備えている電流測定装置。
【請求項2】
測定対象体の一端に印加する測定用電圧を生成する電圧生成部と、
複数の測定レンジのうちの1つに切替制御されると共に前記測定用電圧の印加時において前記測定対象体に流れる電流を当該1つの測定レンジに応じた変換率で電圧に変換する測定レンジ切替部と、
前記測定レンジ切替部に前記電流を供給するダイオードと、
前記ダイオードの順方向電圧を検出する電圧検出部と、
前記複数の測定レンジに対応させて予め設定された複数の電圧範囲のいずれに前記順方向電圧が含まれるかを特定すると共に前記測定レンジ切替部を制御することにより前記特定した電圧範囲に対応する前記測定レンジに切り替える制御部と、
前記測定レンジ切替部で変換された前記電圧と前記測定用電圧とに基づいて前記測定対象体の絶縁抵抗を算出する演算部とを備えている絶縁抵抗測定装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−250831(P2006−250831A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70180(P2005−70180)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】