説明

電熱線入り溶融接合継手の昇温制御装置および方法

【課題】 EF継手を用いる融着の際の条件を、現物から直接設定し、適切な融着を行う。
【解決手段】 制御手段10は、EF継手11によるPE管12,13の融着の際の通電条件を、測定手段14によって測定する抵抗値などの特性を特性入力手段17から入力し、プログラム18によってシミュレーションを行って、融着条件決定に必要な因子である界面温度などをある範囲に収まるようにして融着条件を決定する。決定された融着条件に従って、電源19から電熱線16に供給される電力が制御され、過大な加熱による劣化や過小な加熱による融着強度不足の事態を避けて適切な融着を行わせることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ポリエチレンなどの熱可塑性合成樹脂管を接続する電熱線入り溶融接合継手の昇温制御装置および方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来から、図9に示すような電熱線入り溶融接合継手を用いた接合作業が行われている。エレクトロフュージョン(以下「EF」と略称する)継手1は大略的に円筒状であり、その軸線方向の両側から挿入されるポリエチレン(以下「PE」と略称する)管2,3を接合する。PE管2,3は、地面4の下に埋設される都市ガス供給用の導管として使用され、接合は地面4に掘った掘削溝5内で行われることがある。EF継手1は図9に示すような現場施工も容易に行えるように、内部の内表面近くに電熱線6が埋込まれている。電熱線6に、接続端子7および接続導線8を介して電源9から通電すると、電熱線6が発熱しEF継手1内表面およびPE管2,3の外表面を溶融させ、接合を行うことができる。EF継手1に対する通電の条件は、予め実験等に基づいてEF継手1の品種毎に定められている。EF継手1は、結合するPE管2,3の外形に合わせて複数の製造社から複数種類が製造され、バーコードラベルやマグネットカードなどを製造時や出荷時に添付して融着条件を予めコード化している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】図9に示すように、従来のEF継手1の融着においては、融着条件をEF継手1に添付されるバーコードラベルやマグネットカードから入力している。しかしながら、添付しているバーコードラベルなどが取扱い中に紛失したり汚れて見えなくなったりすると、融着条件を適正に設定することができなくなってしまう。
【0004】本発明の目的は、エレクトロフュージョン継手の実物があれば、融着条件を自動的に設定して良好な融接を行うことができる電熱線入り溶融接合継手の昇温制御装置および方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、熱可塑性合成樹脂で形成され電熱線を継手内面付近に内蔵し、通電加熱によって継手内表面と熱可塑性の合成樹脂管の外表面とを融着させるための昇温制御装置であって、継手について、予め定める特性の測定値を入力する特性入力手段と、特性入力手段に入力された継手の特性に基づいて、予め設定される融着強度に深くかかわる因子を算出し、算出された因子が予め定める範囲内に収まるような融着条件を決定する条件決定手段と、条件決定手段によって決定された融着条件に従って昇温制御を行う昇温制御手段とを含むことを特徴とする電熱線入り溶融継手の昇温制御装置である。本発明に従えば、継手について、たとえば電熱線の抵抗値、抵抗温度係数、継手温度、継手とPE管との隙間であるクリアランス、電熱線の埋込み深さ等の特性が特性入力手段に入力される。入力された継手の特性に基づいて、融着条件決定手段は、予め設定される融着強度に深くかかわる因子、たとえば界面温度、電熱線温度、融着時間、電圧、電流などが予め定める範囲内に収まるような融着条件を決定する。決定された融着条件に従って、昇温制御を行うので、継手に通電すべき条件が不明でも良好な融着を行うことができる。
【0006】さらに本発明は、熱可塑性合成樹脂で形成され電熱線を継手内面付近に内蔵し、通電加熱によって継手内表面と熱可塑性の合成樹脂管の外表面とを融着させるための昇温制御方法であって、継手について、予め定める特性を測定し、測定された継手の特性に基づいて、予め設定される融着強度に深くかかわる因子を算出し、算出された因子が予め定める範囲内に収まるような融着条件を決定し、決定された融着条件に従って昇温制御を行うことを特徴とする。本発明に従えば、継手の抵抗値などの特性を測定し、測定された特性に基づいて融着強度に深くかかわる因子である界面温度や融着時間、電圧、電流などの因子が、予め定める範囲内に収まるように融着条件を決定し、決定された融着条件に従って継手の電熱線に通電し、熱融着を行う。測定された継手の特性に基づいて融着条件を決定することができるので、継手の現物があれば良好な条件で融着接合を行うことができる。
【0007】
【発明の実施の形態】図1は、本発明の実施の一形態の概略的な構成を示す。制御手段であるコントローラ10は、ワークステーション、ミニコンピュータあるいは高性能なパーソナルコンピュータなどによって実現される。コントローラ10は、EF継手11を用いてPE管12,13を接合するための融着条件を算出し、算出された融着条件に従って昇温制御を行うことができる。EF継手11の特性は、測定手段14によって測定される。特性のうちたとえば抵抗値は、測定手段14として電気抵抗測定装置を用いて測定する。特性のうちの抵抗温度係数は、温度と抵抗値との関係を求めて導出する。特性のうちの継手温度は、EF継手11の表面温度を検出して相対的に求める。特性のうちEF継手11の内表面とPE管12,13の外表面との間の隙間であるクリアランスは、EF継手11の内径とPE管12,13の外径との差、あるいは隙間ゲージなどを用いて計測する。EF継手11内での電熱線16の埋込み深さは、断面をX線で透視したり、超音波で表面からの深さを探索したりして計測する。
【0008】測定手段14によって測定された特性は、コントローラ10に設けられる特性入力手段17であるキーボードなどから入力される。測定手段14の測定値を電気的信号として直接入力することもできる。コントローラ10内では、予め設定されるプログラム18に従うシミュレーションによって融着条件決定に必要な因子である界面温度、電熱線温度、融着時間、電圧、電流などがある範囲に収まるように融着条件が決定される。融着条件が決定されると、電源19を介してEF継手11の昇温制御が行われる。
【0009】図2は、図1の構成を用いる昇温制御の動作を示す。ステップa1から動作を開始し、ステップa2ではEF継手11の特性を測定する。ステップa3では特性入力手段15に測定した特性を入力する。ステップa4では、入力された特性に基づいてシミュレーションを行う。ステップa5ではシミュレーションによって求められた因子が予め設定される範囲内であるか否かを判断する。範囲内ではないと判断されるときにはステップa4に戻り、異なる因子の組合わせについてのシミュレーションを行う。
【0010】ステップa5で融着強度に深くかかわる因子が設定範囲内であると判断されるときには、ステップa6で融着条件決定を行う。ステップa7では決定された融着条件に従ってEF継手11の昇温制御を行い、ステップa8で動作を終了する。
【0011】融着条件決定に必要な因子として、たとえば界面温度は、ポリエチレンを材料とする場合には180〜210℃が適切である。高すぎると材料が熱劣化し、低すぎると融着強度が不足する。電熱線温度は、界面温度に密接に関係し、EF継手11の内表面までの樹脂の厚み分を伝熱させるに必要なだけ、界面温度よりも高くなる。電熱線温度が高くなりすぎると、周囲の樹脂が劣化してしまう。融着時間は、長すぎると樹脂が溶融しすぎ、継手部が熱変形を起こしたりしやすい。また接合に長時間を必要とし、生産効率が低下する。融着時間が短すぎると、十分な接合が得られない。電圧および電流は電熱線の抵抗値と抵抗の温度係数に基づいて適切な条件を設定する。
【0012】図3は、EF継手11について電熱線16に通電した後での温度と変位量の時間変化を測定するための構成を示す。EF継手11とPE管12との間には、すきま20が設けられる。温度履歴を測定するために、EF継手11の外表面、電熱線16の近傍のPE内、電熱線16の位置、EF継手11内表面、PE管12外表面、PE管内部、PE管内表面にそれぞれ熱伝対21〜26を配置し、通電開始後の温度変化を測定する。また、EF継手11外表面、すきま20、およびPE管12の内表面に変位測定器27,28,29をそれぞれ配置し、変位履歴を測定する。
【0013】図4は、図3の温度履歴測定結果を示す。測定結果は破線で示し、実線はシミュレーション結果を示す。シミュレーションは、プラスチック成形加工学会誌「成形加工」第8巻第2号(平成8年2月20日発行)の第80頁〜第85頁に報告されているようなプログラム「EPOK」を使用して行っている。
【0014】図5は、図3に示すすきま20が、昇温の過程で閉塞する状態を示す。図5(a)では、通電開始後50秒であり、すきま20は残存している。(b)に示すように、通電開始後100秒経過すると、すきま20は消失し、EF継手11の内表面とPE管12の外表面とは密着した状態となる。図5(c)に示すように、200秒通電すると界面温度は十分に上昇し、融着が健全に行われることが判る。
【0015】図6は、図3の変位測定器27,28,29による測定値の時間変化に基づく変位履歴検証結果を示す。EF継手11の肉厚は、たとえば16.4mmであり、PE管12の肉厚は8.5mmである。EF継手11の方が肉厚が厚く、剛性が高いので、変位測定器27による測定結果でも、EF継手11の外表面は通電中にわずかに内側に変位し、通電停止後は少し外側に変位するだけであることが判る。すきま20は、通電開始後急激に内側に変位する。PE管12の内表面は融着界面の体積膨張などの影響を受け、通電中大きく内側に変位し、通電停止後はEF継手11に引寄せられ外側に変位する。このような変化は、破線で示す実測値も、実線で示すシミュレーション結果も基本的には同等であるけれども、通電中の差は比較的大きい。
【0016】通電中のシミュレーションと実測との変位履歴検証結果の差の原因は、溶融時に界面付近のポリエチレンが大きく体積膨張すること、EF継手11の成型時に、電熱線16付近に発生した初期残留圧縮応力が溶融時に解放されることによって生じる継手界面半径方向内面側の変位などが考えられる。
【0017】図7は、電圧と通電時間とを変えた場合の温度と、その温度条件で接合した試験片による機械的強度測定結果とに基づく適正融着条件範囲を示す。○印は引っ張りクリープ試験によって破断までの時間が最大値を取る点を示す。△印は引っ張りクリープ試験によって破断までの時間が100時間以上を示す点を示す。▽印は引っ張り時間による降伏値が最大降伏値の80%を取る点を示す。×印は電熱線近傍からの破断が発生する点を示す。継手の接合は、5種類の設定電圧をパラメータにして、個々の電圧に対して数種類の通電時間で口径50mmEF継手を融着し、その融着部から9mm角の短冊片を切出し、融着界面に全周1.5mm深さのノッチを入れ、環境温度23℃中で200mm/minの速度で引っ張り試験を行う。また環境温度80℃中で3.9MPaの応力の引っ張りクリープ試験を行う。通電時間と融着単位面積当たりの供給電力量との関係を求め、適正融着条件範囲には斜線を施して示す。適正融着条件は、引っ張り試験による降伏値が最も適切な融着条件で行った場合の降伏値の80%を超えるラインを1つの境界とし、引っ張りクリープ試験による破断までの時間が100時間を超える強度発現ラインを他方の境界とする。この境界は、融着条件範囲の最下限と考えられ、そのときの融着界面温度は実測値もシミュレーションによる計算値も約150℃となる。引っ張りクリープ試験による破断までの時間が最大値を取る条件は、融着界面温度の実測値もシミュレーションよる計算値も約200℃となる。電熱線近傍から破断が発生する条件は、シミュレーションによる電熱線近傍樹脂温度は約330℃であり、ポリエチレンの酸化劣化開始温度とよく一致する。
【0018】口径50mmのPE管12,13についてのシミュレーションは、実験とよく一致しており、「EPOK」によるシミュレーションを他の口径に適用しても、同様の精度を期待することができる。
【0019】図8は、シミュレーションプログラム「EPOK」プログラムの概要を示す。プリプロセッサでは、制御データ30およびメッシュデータ31を作成する。制御データ30としては、物性値、通電条件、電熱線特性、雰囲気温度、初期残留応力、出力条件などを用意する。メッシュデータ31は、汎用プリプロセッサPATRANもしくはI−DEASによって作成する。つぎに非定常非線形伝熱/応力連成プログラムである「EPOK」32に制御データ30およびメッシュデータ31を投入し、シミュレーションによる解析を実行する。計算結果33として得られた解析結果は、インタフェイスプログラムによってデータ変換34を行い、ポストプロセッサによる結果表示35を行う。結果表示35としては、任意時刻の温度分布図や、温度、すきま、変位などの様々な履歴試験図として表示することができる。
【0020】EPOK32を用いると、次のような効果を得ることができる。
■すきま20の閉塞を考慮した非定常解析を精度よく行うことができる。非定常現象を解析する最小の時間幅の1ステップ毎に伝熱解析と応力解析とを連成させて解くことによって、EF継手11とPE管12との間のすきま20が閉塞する過程を、精度よく解析することができる。
■計算速度が速い。固相から液相への相変化の取扱いに工夫を凝らして、伝熱解析の計算速度を向上させることができる。
■非線形解析ができる。様々な物性値は、温度および時間に対する任意の値として与えることができる。
■パラメータスタディを簡単に行うことができる。EF継手11の設定評価のための数値である、通電条件、電熱線特性、気温などをそのまま入力することができる。
■プログラム容量が小さい。EF継手11の設定評価のために特別に開発したプログラムであるので、冗長なルーチンはすべて排除し、全体のプログラム容量は1MBでこの種のシミュレーションプログラムとしては非常に小さくすることができる。
【0021】
【発明の効果】以上のように本発明によれば、実際の継手の特性を測定して特性入力手段に入力すれば、条件決定手段によって融着条件が決定され、昇温制御手段によって融着条件に従う昇温制御が行われる。継手に添付されるバーコードラベルなどから融着条件を読取る必要がないので、確実に適切な条件で接合を行うことができる。
【0022】さらに本発明によれば、継手の物性を測定し、測定された物性に従って融着強度に深くかかわる因子を算出し、算出された因子が予め定める範囲内に収まるような融着条件を決定して、決定された融着条件に従って昇温を制御する。継手に添付される融着条件が喪失しても適切な融着を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の一形態の概略的な構成を示すブロック図である。
【図2】図1の実施形態の動作を示すフローチャートである。
【図3】図1のプログラム18と実測値との比較のための物性測定の方法を示す簡略化した断面図である。
【図4】図3によって測定される温度履歴とプログラムによるシミュレーション結果との比較を示すグラフである。
【図5】シミュレーションプログラムに基づいてEF継手11とPE管12との間のすきま20が閉塞する過程を温度分布とともに示す部分的な断面図である。
【図6】図3の実験によって得られる変位測定結果の時間変化とシミュレーション結果による変位履歴検証結果を示すグラフである。
【図7】電圧と通電時間とを変えた場合の適正融着条件範囲を示すグラフである。
【図8】図1の実施形態で用いるシミュレーションプログラムの構成とデータの流れを示すフローチャートである。
【図9】従来からのEF継手を用いるPE管の接合作業を示す断面図である。
【符号の説明】
11 EF継手
12,13 PE管
14 測定手段
16 電熱線
17 特性入力手段
18 プログラム
19 電源
20 すきま
21〜26 熱電対
27〜29 変位測定器
32 EPOK

【特許請求の範囲】
【請求項1】 熱可塑性合成樹脂で形成され電熱線を継手内面付近に内蔵し、通電加熱によって継手内表面と熱可塑性の合成樹脂管の外表面とを融着させるための昇温制御装置であって、継手について、予め定める特性の測定値を入力する特性入力手段と、特性入力手段に入力された継手の特性に基づいて、予め設定される融着強度に深くかかわる因子を算出し、算出された因子が予め定める範囲内に収まるような融着条件を決定する条件決定手段と、条件決定手段によって決定された融着条件に従って昇温制御を行う昇温制御手段とを含むことを特徴とする電熱線入り溶融継手の昇温制御装置。
【請求項2】 熱可塑性合成樹脂で形成され電熱線を継手内面付近に内蔵し、通電加熱によって継手内表面と熱可塑性の合成樹脂管の外表面とを融着させるための昇温制御方法であって、継手について、予め定める特性を測定し、測定された継手の特性に基づいて、予め設定される融着強度に深くかかわる因子を算出し、算出された因子が予め定める範囲内に収まるような融着条件を決定し、決定された融着条件に従って昇温制御を行うことを特徴とする電熱線入り溶融継手の昇温制御方法。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【図6】
image rotate


【図7】
image rotate


【図8】
image rotate


【図9】
image rotate