説明

電磁クラッチ

【目的】 回転中の入断が繰り返されても耐久性が失われないようにする。
【構成】 ソレノイド2の励磁により被着部材24に接合して出力シャフト23と駆動用プーリ19とを連結する可動部材3と、回転半径方向に移動自在に設けられ回転軸心O側の位置において可動部材3を連れ回りさせる磁力を有した永久磁石4と、永久磁石4を径方向内方に適宜付勢する圧縮スプリング5とを備える。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、回転を伝達する電磁クラッチに関するものである。
【0002】
【従来の技術】内燃機関の過給装置として単品で、或いはターボチャージャと共に組み込まれるスーパーチャージャ(機械駆動式過給機)は、通常、回転伝達機構に設けられた電磁クラッチの「ON-OFF」によって制御され、過給を必要としない回転域・負荷においては作動しないことで、不要な駆動損失を避けるようにしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら電磁クラッチの「ON-OFF」は、例えば1,000 〜2,000rpmの回転中に繰り返し行われるので、入続時の大きい衝撃が頻繁に作用し、長期使用に耐えられないという問題があった。この対策として吸入空気でスーパーチャージャを常時回転させるとしたもの(特開平3−225031号公報)や、電流制御でクラッチをスリップさせてから入続させるもの(特開昭61−291732号公報)が提案されているが、いずれも耐久性を大幅に向上させるには不充分であると考えられる。
【0004】そこで本発明は、回転中の入断が繰り返されても耐久性が失われることがない電磁クラッチを提供すべく創案されたものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、ソレノイドの励磁により被着部材に接合して駆動回転系と従動回転系とを連結する可動部材と、回転半径方向に移動自在に設けられ回転軸心側の位置において可動部材を連れ回りさせる磁力を有した永久磁石と、永久磁石を径方向内方に適宜付勢する付勢手段とを備えたものである。
【0006】
【作用】上記構成によって、可動部材は、ソレノイドが励磁されたときに被着部材に接合して駆動回転系と従動回転系とを連結させる。永久磁石は、ソレノイドが励磁されていない時に、付勢手段により回転軸心側に位置された状態では可動部材を引き付けて連れ回りさせる。駆動回転系が高速で回転している時は、その遠心力で永久磁石は径方向外方に移動し、可動部材の連れ回りを解除する。
【0007】
【実施例】以下、本発明の実施例を添付図面に従って説明する。
【0008】図1乃至図3は、本発明に係わる電磁クラッチの一実施例を示したものである。この電磁クラッチ1は、ソレノイド2の励磁により回転軸方向に移動する可動部材3と、回転半径方向に移動自在に設けられた永久磁石4と、永久磁石4を径方向内方に付勢する付勢手段たる圧縮スプリング5とにより主として構成され、内燃機関の吸気系に設けられたスクリュー式スーパーチャージャ6を適宜作動させるべく設けられている。
【0009】図3に示したように、吸気系の管路7は、ターボチャージャ8のブロワ9からスーパーチャージャ6及びインタークーラ10を経て、エンジン11の吸気マニホールド12まで延びている。またエンジン11からの排気は、排気マニホールド13により集合されて、ターボチャージャ8のタービン14を駆動した後、排出される。そしてスーパーチャージャ6の前後の管路にはバイパス路15が形成され、その途中に設けられた開閉弁16の作動により吸気をスーパーチャージャ6へ導くか、或いはバイパスさせるかを選択するようになっている。またエンジン11の出力部17には増速用のギヤボックス18が設けられ、駆動用プーリ19,20及びベルト21によりスーパーチャージャ6に回転駆動力を伝達するようになっている。そして電磁クラッチ1は、ギヤボックス18と駆動用プーリ19との間に介設され、エンジン11の運転状況(回転数NE 、負荷等)が入力されるコントローラ22により「ON-OFF」されるようになっている。
【0010】図1に示したように、ギヤボックス18の出力シャフト23の端部には径方向に張り出した被着部材24が取り付けられていると共に、駆動用プーリ19が軸受25を介して並設支持されている。被着部材24は、外縁側に凹部が形成された非磁性体の基板53と、その外周端に溶接あるいはボルト等で取り付けられた磁性体の外周板54とで成り、凹部と外周板54とにより、駆動用プーリ19の側と反対側に円環溝26が区画されている。この円環溝26に遊嵌するように、ホルダー27に収納されたソレノイド2が設けられている。ホルダー27の基端は、ギヤボックス18のハウジング28の開口縁に固定されている。可動部材3は、出力シャフト23に同軸状に設けられた磁性金属製の円環状のクラッチプレート52と、その外周に溶接あるいはボルト等で取り付けられた非磁性体のケーシング51とで成る。そしてクラッチプレート52が基板53に、ケーシング51が外周板54にそれぞれ接近するように、軸方向に付勢する板バネ29を介して駆動用プーリ19に保持されている。そして図2にも示したように、ケーシング51に区画された小室30が周方向に所定の間隔で設けられ、その内部に、永久磁石4が半径方向に摺動自在に収容されている。この永久磁石4の磁力は、小室30の最も径方向内側に位置したときに、外周板54を適宜引き付けるように形成されている。圧縮スプリング5は、小室30の径方向外側の内壁と永久磁石4との間に張架され、適宜な付勢力で永久磁石4を径方向内側の内壁に押し付けている。従って、ソレノイド2が通電されて励磁すると、可動部材3のクラッチプレート52がソレノイド2に引き付けられて被着部材24に摩擦接触し、出力シャフト23の回転を駆動用プーリ19に伝達すると共に、ソレノイド2が励磁されていなくても、図示したように永久磁石4が軸心O側に位置されていれば、その磁力により被着部材24の外周板54が強く引き付けられて、出力シャフト23の回転と略同速度で連れ回りすることになる。そしてエンジン11(出力シャフト23)が高速回転に移行して、圧縮スプリング5の押付力及び磁力よりも大きな遠心力が質量体としての永久磁石4に作用すると、永久磁石4は圧縮スプリング5に抗して径方向外方に移動して被着部材24から離れることで磁力が弱まり、可動部材3の追従が抑えられるものである。
【0011】このことは、永久磁石4の磁力及び質量と圧縮スプリング5の押付力とを適宜選択することにより、スーパーチャージャ6(駆動用プーリ19)をエンジン11(出力シャフト23)に追従回転させる範囲を設定できることとなる。すなわち図4に示すように、電磁クラッチ1が「ON-OFF」される範囲(例えばNE =1,000 〜2,000rpm)の最大値を切換回転数NO として設定して(NO =2,000rpm)、ソレノイド2の励磁が解除された後も略同速で追従回転するようにし、切換回転数NO を越えたなら実質的に弱められた永久磁石4の磁力とバランスした回転速度NS (例えばNE =1,500 rpm に相当する回転速度)で駆動用プーリ19を回転させることができる。
【0012】また本実施例にあっては、コントローラ22は所定条件下でソレノイド2への通電を解除するのと同時に、バイパス路15の開閉弁16を開として、スーパーチャージャ6に吸気を導かないようにしている。従って、図4に示したように、例えばNE =600 〜1,500rpmでは開閉弁16の閉鎖によりターボチャージャ8に過給仕事を行わせるが、NE >1,500rpmではバイパス路15の開通で過給仕事を行わせないことで、スーパーチャージャ6が「空回り」の状態となるものである。
【0013】次に本実施例の作用を説明する。
【0014】車両が登坂走行或いは急増速するなど、ターボチャージャ8に加えて過給が必要となる時は、コントローラ22がソレノイド2に通電させると共に開閉弁16を閉として吸気をスーパーチャージャ6に導く。そしてソレノイド2の励磁により可動部材3は板バネ29の力に抗して図1中左方へ引き付けられ、被着部材24に接合して、出力シャフト23の回転を駆動用プーリ19に伝達する。スーパーチャージャ6はエンジン回転数NE に比例した速度NS で回転駆動され、過給仕事を行う。
【0015】中〜高速回転或いは低負荷の運転に移行すると、ソレノイド2の通電は遮断され、可動部材13は板バネ29の力によって図1中右方に引き戻され、被着部材24との接合が解除される。また開閉弁16は開となって吸気はスーパーチャージャ6を通らずにバイパスされる。エンジン回転数NE が切換回転数NO 以下では、永久磁石4は、圧縮スプリング5の力によって径方向内方に押し付けられている。従って、永久磁石4と被着部材24との距離は短く、永久磁石4の磁力によって可動部材3(駆動用プーリ19)は被着部材24(出力シャフト23)の回転と略同速で連れ回りする。即ちスーパーチャージャ6のロータを空転させる。そしてエンジン回転数NE が切換回転数NO を越えると、その連れ回りしている可動部材3の回転速度も上昇し、その遠心力で永久磁石4は径方向外方に移動し、被着部材24から離間する。従って、永久磁石4と被着部材24との距離が大きくなり、外周板54に働く磁力が弱まって、可動部材3が出力シャフト23に追従できなくなる。これにより、駆動用プーリ19の回転速度は、電磁クラッチ「OFF 」になった時点の回転速度に略保たれる。即ち、スーパーチャージャ6のロータをやや遅い速度NS で空転させる。
【0016】そして再びエンンジン11が中〜低速域に入って、回転数NE が例えば2,000回転以上から1,300 回転に低下して電磁クラッチ1が「ON」にされる際は、永久磁石4は圧縮スプリング5に押されて径方向内方に移動し、可動部材3の回転を次第に出力シャフト23の回転速度に近づけ、切換回転数NO 以下では可動部材3と被着部材24とを連れ回りさせて、ソレノイド2が励磁される前の空回り状態において、略同じ速度で回転させる。そしてソレノイド2への通電と同時に行われる開閉弁16の閉動作により吸気が導かれて、スーパーチャージャ6が過給仕事を行う。
【0017】このように、駆動用プーリ19に支持された可動部材3に圧縮スプリング5で付勢された永久磁石4を設けて、ソレノイド2が励磁されていない回転域においても回転させるようにしたので、クラッチ入続時の衝撃は大幅に緩和され、被着部材24の摩耗を防ぐことができ、耐久性向上が達成される。そして永久磁石4を遠心力により径方向外方に離れるようにしたので、高速回転域ではエンジン回転NE に相当する速度以下で回転し、軸受25の負担が大きくなることがない。またソレノイド2が励磁されていない回転域ではスーパーチャージャ6を空回りさせるようにしたので、駆動損失が抑えられると共に、速度を落として過給運転に移る際は、実質的にクラッチ入続された後に過給仕事開始によるトルクがかかることとなり、大きなトルクショックは発生せず、トラックなどの大型車両においても耐久性に支障ない。なお被着部材24は、磁性体により一体成形するとしてもよいが、本実施例のように基板53を非磁性体とすることで、ソレノイド2とクラッチプレート52との間に発生する磁力線に悪影響を与えることがない。
【0018】図5は本発明の他の実施例を示したもので、永久磁石4を非磁性金属製の被着部材31に内蔵させたものである。被着部材31にはソレノイド2のための円環溝32のほかに、出力シャフト23の表面に沿う細溝33が形成され、断面L字状に形成された可動部材34の軸部35が挿入されている。可動部材34の半径方向の面部36はソレノイド2に対向する位置まで延び、被着部材31に近接されている。そして永久磁石4は、ソレノイド2と可動部材34の軸部35との間に位置されている。この構成では、永久磁石4は出力シャフト23と一体に常時回転されることになる。また可動部材34を支える板バネ37は、比較的小さいものでよい。このほかの構成及び作用効果は前記実施例と同様である。
【0019】なおスーパーチャージャ6を空回りさせるためには、開閉弁16による吸気制御のほか、図6に示すようにスーパーチャージャ48のハウジング41を構成してもよい。すなわちロータ42,43を囲繞するハウジング41を上下に分割すると共に、吐出口44を有した上部ハウジング45をその外側の外部ハウジング46に対して上下に摺動自在とし、コントローラ22により駆動されるシリンダー47を備えるものとする。すなわちソレノイドの「OFF 」時にシリンダー47を縮退させることでスーパーチャージャ48の内部を開放して、圧縮仕事をさせないようにするものである。この構成では前記実施例よりもさらに駆動損失をなくすることができる。
【0020】また以上の実施例ではスーパーチャージャ6,48としてスクリュー式(リショルム)圧縮機を示したが、本発明はこれに限らず、スクロール式やルーツブロワにおいても同様の作用効果が得られる。すなわち吸気の制御でスーパーチャージャを空回りさせる従来技術(特開平3−225031号公報)のものでは、内部圧縮のないルーツブロワに限られるが、本発明ではいずれのスーパーチャージャにも適用できるものである。さらに本発明はスーパーチャージャに限らず、所定回転までしか回せない回転系を回転途中で入断制御するもの等に広く適用できるものである。
【0021】
【発明の効果】以上要するに本発明によれば、ソレノイドが励磁されない回転域においても従動回転系を適宜回転させることができ、クラッチ入続時の衝撃は大幅に緩和されると共に、軸受の負担が過大になることがなく、耐久性の向上が達成されるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わる電磁クラッチの一実施例を示した側断面図である。
【図2】図1のA−A線矢視断面図である。
【図3】図1の全体を示した側面図である。
【図4】図1の作用を説明するためのスーパーチャージャのロータ回転速度とエンジン回転数との関係図である。
【図5】本発明の他の実施例を示した側断面図である。
【図6】図3のスーパーチャージャの他の実施例を示した正面断面図である。
【符号の説明】
1 電磁クラッチ
2 ソレノイド
3 可動部材
4 永久磁石
5 圧縮スプリング(付勢手段)
19 駆動用プーリ(従動回転系)
23 出力シャフト(駆動回転系)
24 被着部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ソレノイドの励磁により被着部材に接合して駆動回転系と従動回転系とを連結する可動部材と、回転半径方向に移動自在に設けられ回転軸心側の位置において上記可動部材を連れ回りさせる磁力を有した永久磁石と、該永久磁石を径方向内方に適宜付勢する付勢手段とを備えたことを特徴とする電磁クラッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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