説明

電磁波遮蔽積層体およびこれを用いたディスプレイ装置

透明な基材(2)上に電磁波遮蔽膜(100)が設けられた電磁波遮蔽積層体(1)であって、前記電磁波遮蔽膜(2)が、前記基材(2)側から順に、屈折率が2.0以上である物質からなる第1の高屈折率層(31)、酸化亜鉛を主成分とする第1の酸化物層(32)、銀を主成分とする導電層(33)および屈折率が2.0以上である物質からなる第2の高屈折率層(35)を有することを特徴とする電磁波遮蔽積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に複数の層を積層させた電磁波遮蔽積層体および該電磁波遮蔽積層体を備えたディスプレイ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネル(PDP)の発光面からは電磁波が放射される。この電磁波は近くにある電子機器へ影響を及ぼし、誤作動を起こすことがある。このため、従来から、電磁波を遮蔽する目的でガラス等の基材上に透明導電膜を被覆したものを発光面の前面に設置することが知られている。
【0003】
例えば、基材側から、1種以上の金属を含有する酸化亜鉛(ZnO)を主成分とする酸化物層と銀(Ag)を主成分とする金属層とが交互に、計(2n+1、nは正の整数)層積層された多層の導電膜が被覆されたPDP用保護板や、チタン酸化物と金属層とが交互に積層された積層体等が提案されている(特許文献1および2参照。)。
【0004】
このような電磁波遮蔽膜には、一般に高い可視光透過率と低い抵抗値が要求される。酸化物層と金属層とを交互に積層した電磁波遮蔽膜では、抵抗値を下げるためには、金属層の積層数を増やすか、または、金属層を厚くすることが一般に知られている。
【特許文献1】国際公開第98/13850号パンフレット
【特許文献2】特開2000−246831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に係わる従来技術では、銀の耐湿性を改良するために銀層にパラジウムを添加している。そのため抵抗値が大きくなるという問題があった。また、抵抗値を下げるために金属層の積層数を増していくと可視光透過率が下がってしまうという問題があった。
【0006】
また、特許文献2に係る従来技術では、酸化物層として屈折率の高い材料である酸化チタンを使用している。酸化チタンのように屈折率の高い材料を使用すると、積層数が増えても透過率の低下が少ないという利点を有する。しかし、酸化チタンと銀とが交互に積層された積層体は、耐湿性が悪い問題があった。銀にパラジウムを添加することにより、耐湿性を向上させられるが、パラジウムを添加することにより抵抗値が大きくなる問題があった。
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、高い可視光透過率と共に、低い抵抗値、高い耐湿性を有する低コストの電磁波遮蔽積層体およびこれを用いたディスプレイ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、透明な基材上に電磁波遮蔽膜が設けられた電磁波遮蔽積層体であって、前記電磁波遮蔽膜が、前記基材側から順に、屈折率が2.0以上である物質からなる第1の高屈折率層、酸化亜鉛を主成分とする第1の酸化物層、銀を主成分とする導電層および屈折率が2.0以上である物質からなる第2の高屈折率層を有することを特徴とする電磁波遮蔽積層体を提供する。
【0009】
本発明は、透明な基材上に電磁波遮蔽膜が2以上積層された電磁波遮蔽積層体であって、前記電磁波遮蔽膜が、前記基材側から順に、屈折率が2.0以上である物質からなる第1の高屈折率層、酸化亜鉛を主成分とする第1の酸化物層、銀を主成分とする導電層および屈折率が2.0以上である物質からなる第2の高屈折率層を有し、前記電磁波遮蔽膜間で直接接する前記第1の高屈折率層と前記第2の高屈折率層が一括して成膜された1つの層からなることを特徴とする電磁波遮蔽積層体を提供する。
【0010】
また、本発明は、画像を表示するためのディスプレイ画面と、該ディスプレイ画面の視認側に設けられた本発明の電磁波遮蔽積層体とを備えることを特徴とするディスプレイ装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電磁波遮蔽積層体およびディスプレイ装置は、高い可視光透過率と共に、低い抵抗値、高い耐湿性を有する低コストの電磁波遮蔽積層体およびこれを用いたディスプレイ装置である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の電磁波遮蔽積層体の一実施形態に係る概略断面図である。
【符号の説明】
【0013】
1 電磁波遮蔽積層体
2 基材
31 第1の高屈折率層
32 第1の酸化物層
33 導電層
34 第2の酸化物層
35 第2の高屈折率層
100 電磁波遮蔽膜
200 一括して成膜した高屈折率層
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<電磁波遮蔽積層体>
以下、本発明の実施の形態に係る電磁波遮蔽積層体の例を図面に示し、詳細に説明する。
【0015】
[第1の実施形態]
図1に、本発明の第1の実施形態に係る電磁波遮蔽積層体1を示す。なお、図1における各寸法比は、説明の便宜上実際と異なるものとなっている。この電磁波遮蔽積層体1は、透明な基材2上に電磁波遮蔽膜100、・、・、・が設けられている。
本実施形態では、電磁波遮蔽膜100が4積層された構成となっている。
【0016】
(基材)
基材2の材質としては、平滑透明で、可視光線を透過し得るものであればよい。例えば、プラスチックガラス等が挙げられる。
プラスチックとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、ポリエーテルスルホン、ポリメチルメタクリレート等を挙げることができる。
基材2の厚さは用途に応じて適宜選定される。例えば、フィルムでもよいし、板状でもよい。また、基材2は、単一の層で構成してもよいし、複数層の積層体としてもよい。
基材2は、別のガラス板、プラスチック板等に粘着剤等で貼り付けて使用してもよい。例えば、薄いフィルム状のプラスチックの基材2を別のプラスチック板、ガラス板等に貼り付けてもよいし、ガラス板の基材2を別のガラス板、プラスチック板等に貼り付けてもよい。
【0017】
(電磁波遮蔽膜)
基材2の上に設けられる電磁波遮蔽膜100、・、・、・は、各々第1の高屈折率層31と、第1の高屈折率層31上に設けた第1の酸化物層32と、第1の酸化物層32上に設けた導電層33と、導電層33上に設けた第2の高屈折率層35とから基本的に構成されている。本実施形態では、さらに導電層33と第2の高屈折率層35との間に、第2の酸化物層34が設けられ、各々第1の高屈折率層31と、第1の酸化物層32と、導電層33と、第2の酸化物層34と、第2の高屈折率層35とから電磁波遮蔽膜100、・、・、・が構成されている。
【0018】
(高屈折率層)
第1の高屈折率層31、・、・、・と第2の高屈折率層35、・、・、・は、屈折率が2.0以上である物質によって構成されている。該屈折率は、2.0以上、2.7以下であることが好ましい。第1の高屈折率層31、・、・、・または第2の高屈折率層35、・、・、・の屈折率を2.0以上とすることにより、電磁波遮蔽膜100、・、・、・の積層数を増やしても可視光透過率を高く維持することができる。
なお、本明細書における屈折率(n)とは、波長550nmにおける屈折率をいう。
【0019】
第1の高屈折率層31、・、・、・または第2の高屈折率層35、・、・、・の材料としては、例えば、酸化ニオブ(n:2.35)、酸化チタン(n:2.45)、酸化タンタル(n:2.1〜2.2)等が挙げられるが、そのなかでも酸化ニオブ、酸化チタンが好ましく、酸化ニオブがより好ましい。第1の高屈折率層31、・、・、・または第2の高屈折率層35、・、・、・を酸化ニオブを主成分とする層とすることにより、水の浸透量が減り、電磁波遮蔽膜100、・、・、・の耐湿性を向上させることができる。特に、第1の高屈折率層31、・、・、・または第2の高屈折率層35、・、・、・が、酸化ニオブを主成分とする層であることが、上記効果が大きいことからも好ましい。
【0020】
また、第1の高屈折率層31、・、・、・または第2の高屈折率層35、・、・、・は、結晶質であっても構わないし、アモルファス状態であっても構わない。そのなかでも、アモルファス状態が好ましい。第1の高屈折率層31、・、・、・または第2の高屈折率層35、・、・、・をアモルファス状態とすることにより、結晶粒界を介しての水の浸透が減少し、電磁波遮蔽膜100、・、・、・の耐湿性をさらに向上させることができる。
【0021】
第1の高屈折率層31、・、・、・の幾何学的膜厚は、20〜50nmが好ましく、30〜40nmがより好ましい。また、第2の高屈折率層35、・、・、・の幾何学的膜厚は、20〜50nmが好ましく、30〜40nmがより好ましい。
【0022】
なお、本実施形態では、透明な基材2上に電磁波遮蔽膜100が4積層された構成となっているため、1積層目の電磁波遮蔽膜100における第2の高屈折率層35の上に、2積層目の電磁波遮蔽膜100における第1の高屈折率層31が直接積層されている。この場合、第2の高屈折率層35と第1の高屈折率層31とは、互いに同じ組成を有するものである。図1では、各々第2の高屈折率層35と第1の高屈折率層31とを合わせて、一括して成膜した高屈折率層200、・、・、・として示している。また、必要に応じて、第1の高屈折率層31と第2の高屈折率層35を2回以上の操作で成膜してもよい。
【0023】
可視光反射率を低減し、また低反射率が得られる波長帯域を拡げる観点から、1積層目の第1の高屈折率層31と最終積層目の第2の高屈折率層35の各膜厚は、高屈折率層200、・、・、・の膜厚より薄い(1/2程度の厚さ)ことが好ましい。また、それぞれの層の膜厚は、基材を含めた全体の光学特性を調整するために、適宜調整される。
【0024】
第1の高屈折率層31、・、・、・または第2の高屈折率層35、・、・、・の形成方法としては、例えば、金属酸化物の還元性のターゲットを用いてスパッタリング法により形成する方法、イオンプレーティング法、蒸着法、CVD法等が挙げられる。これらの中でも、酸化ニオブの還元性のターゲットを用いて、スパッタリング法により形成する方法は、酸化ニオブ層を導電層33、・、・、・上に形成する際の導電層33、・、・、・の酸化を防止でき、高速かつ大面積に均一に形成できる点で有利である。
【0025】
なお、ここで使った酸化ニオブの還元性ターゲットとは、酸化ニオブの化学量論的組成に対して酸素が欠乏しているターゲットである。具体的には、Nb(0<X<5)の式で表される組成を有するもので、導電性を有しており直流スパッタリング法により放電、成膜できるものがより好ましい。また、金属ニオブをターゲットとして、酸素雰囲気下でスパッタリングする方法を採用することもできる。
【0026】
還元性のターゲットを用いる場合には、スパッタガスとして、5〜20体積%の酸化性ガスを含む不活性ガスを用いるのが好ましい。酸化性ガスとしては、酸素ガスが一般的に用いることができるが、一酸化窒素、二酸化窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、オゾン等を用いることもできる。
【0027】
(酸化物層)
<第1の酸化物層>
第1の酸化物層32、・、・、・は、酸化亜鉛を主成分とする物質によって構成されている。酸化亜鉛を主成分とする物質は、その結晶構造が、導電層33、・、・、・を構成する銀の結晶構造と近い。従って、酸化亜鉛を主成分とする材料からなる酸化物層の上に銀を積層すると結晶性の良い銀が得られる。結晶性の良い銀はマイグレーションの発生が低減できると考えられる。以上から、第1の酸化物層32、・、・、・を酸化亜鉛を主成分とする材料にすることにより、銀のマイグレーションが抑制され、第1の酸化物層32、・、・、・と導電層33、・、・、・との密着性を維持することができる。密着性を維持できることにより、界面への水分の侵入を抑えることができ、銀の耐湿性が良好になる。本発明における電磁波遮蔽膜100、・、・、・が(酸化亜鉛を主成分とする材料からなる)第2の酸化物層を含む場合、結晶性の良い銀からなる導電層33、・、・、・と(酸化亜鉛を主成分とする材料からなる)第2の酸化物層34、・、・、・との界面でも、同様に密着性を維持することができ、耐湿性がさらに良好になる。
【0028】
ここで、銀のマイグレーションとは、銀が拡散し凝集することを意味する。銀が凝集すると耐湿性が不良になると同時に、凝集した部分が白化し外観が不良となる。
【0029】
酸化亜鉛を主成分とする物質とは、酸化亜鉛が80原子%以上、好ましくは90原子%以上含まれることを意味する。具体的には、実質的に酸化亜鉛(ZnO)のみからなるものであってもよいし、酸化亜鉛を主成分とし、酸化アルミニウム(Al)を含有する酸化物(以下、AZOという。)、酸化亜鉛を主成分とし、酸化ガリウム(Ga)を含有する酸化物(以下、GZOという。)等が挙げられる。そのなかでもAZO、GZOが酸化物層の耐久性の点で好ましく、AZOが銀の結晶構造とより近いことから、最も好ましい。
【0030】
成膜したAZOに含まれるアルミニウムは、酸化アルミニウムと酸化亜鉛との総量に対して1〜10原子%であることが好ましく、2〜6原子%であることがより好ましい。一般に、酸化亜鉛単体から形成される膜は内部応力が大きい。内部応力が大きいと、第1の酸化物層32、・、・、・に割れが生じ易く、この部分を介して水分が浸入しやすくなる。
【0031】
酸化アルミニウム含有量を1原子%以上にすることにより、第1の酸化物層32、・、・、・の内部応力を低減することができ、割れが生じる可能性を小さくすることができる。酸化アルミニウム含有量を10原子%以下にすることにより、酸化亜鉛の結晶構造を保つことができる。
【0032】
第1の酸化物層32、・、・、・の幾何学的膜厚は、2nm以上10nm以下であることが好ましく、3nm以上6nm以下であることがより好ましい。第1の酸化物層32、・、・、・の幾何学膜厚を10nm以下とすることで、隣接する第1の高屈折率層31、・、・、・の効果を損なうことがないので好ましい。
【0033】
導電層33、・、・、・において、結晶性の良い銀を得るためには下地の影響が大きいため、第1の酸化物層32、・、・、・の幾何学的膜厚は、大きいことが好ましい。本発明の電磁波遮蔽積層体が、第2の酸化物層を有する場合、第1の酸化物層32、・、・、・の幾何学的膜厚は、第2の酸化物層34、・、・、・の幾何学的膜厚より大きいことが好ましい。
【0034】
第1の酸化物層32、・、・、・の形成方法としては、真空蒸着法、反応性蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相折出法、プラズマCVD法等の化学気相折出法等が挙げられる。そのなかでも、DCスパッタリング法は、膜厚の制御が比較的容易であること、低温基材上に形成しても実用的な膜強度が得られること、大面積化が容易なこと、いわゆるインライン型の設備を用いれば積層膜の形成が容易なこと等の点から好ましい。
【0035】
<第2の酸化物層>
第2の酸化物層34、・、・、・は、金属酸化物を主成分とする物質によって構成されている。金属酸化物としては、酸化亜鉛を主成分とする物質、酸化チタンを主成分とする物質、酸化インジウムを主成分とする物質等が好ましく挙げられる。酸化亜鉛を主成分とする物質を第2の酸化物層34、・、・、・に用いた場合、第1の酸化物層と銀からなる導電層33、・、・、・との界面の場合と同様に、結晶性の良い銀からなる導電層33、・、・、・と酸化亜鉛を主成分とする材料からなる第2の酸化物層34、・、・、・との界面では、密着性を維持することができ、耐湿性がさらに良好になるので好ましい。
【0036】
第2の酸化物層34、・、・、・としては、酸化チタン、AZO、GZO、酸化インジウムを主成分とし酸化スズ(SnO)を含有する酸化物がより好ましく挙げられる。そのなかでも、AZO、GZOが酸化物層の耐久性の点で好ましく、AZOが銀の結晶構造とより近いことから、最も好ましい。
【0037】
成膜したAZOに含まれるアルミニウムは、酸化アルミニウムと酸化亜鉛との総量に対して1〜10原子%であることが好ましく、2〜6原子%であることがより好ましい。一般に、酸化亜鉛単体から形成される膜は内部応力が大きい。内部応力が大きいと、第2の酸化物層34、・、・、・に割れが生じ易く、この部分を介して水分が浸入しやすくなる。
【0038】
酸化アルミニウム含有量を1原子%以上にすることにより、第2の酸化物層34、・、・、・の内部応力を低減することができ、割れが生じる可能性を小さくすることができる。酸化アルミニウム含有量を10原子%以下にすることにより、酸化亜鉛の結晶構造を保つことができる。
【0039】
第2の酸化物層34、・、・、・の幾何学的膜厚は、1nm以上6nm以下であることが好ましく、2nm以上4nm以下であることがより好ましい。
【0040】
第2の酸化物層34、・、・、・の形成方法としては、真空蒸着法、反応性蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相折出法、プラズマCVD法等の化学気相折出法等が挙げられる。そのなかでも、DCスパッタリング法は、膜厚の制御が比較的容易であること、低温基材上に形成しても実用的な膜強度が得られること、大面積化が容易なこと、いわゆるインライン型の設備を用いれば積層膜の形成が容易なこと等の点から好ましい。
【0041】
(導電層)
導電層33、・、・、・は、銀を主成分とする物質によって構成されている。ここで、銀を主成分とする物質とは、該物質に含まれる全金属に対して、銀の含有量が99.8原子%以上であることを意味する。銀を主成分とする物質としては、銀単体、銀にパラジウム、白金、金、イリジウム、ロジウム、銅およびビスマスから選ばれる少なくとも一種の金属が混入されている合金が挙げられる。銀の含有量が99.8原子%以上であることにより、導電層33、・、・、・の膜厚を薄くしても電磁波遮蔽積層体1の抵抗値を低くすることができる。さらに、電磁波遮蔽膜100、・、・、・の積層数が少なくても抵抗値を低くできるため、抵抗値が低く、かつ、可視光透過率が高い電磁波遮蔽積層体1を得ることができる。
【0042】
導電層33、・、・、・における銀の含有量は99.8原子%以上であることが好ましく、さらに99.9原子%以上の銀単体であることがコスト面からも最も好ましい。
導電層33、・、・、・の幾何学的膜厚は5〜20nmが好ましい。各導電層33の幾何学的膜厚は同じであっても異なっていてもよい。
導電層33、・、・、・の形成は、スパッタリング法、蒸着法等の各種の方法にしたがって行うことができる。特に、成膜速度が速く、かつ大面積に均一な厚さで均一な質の層を形成することができる点から、直流スパッタリング法によって形成するのが好ましい。
【0043】
基材2上に積層される電磁波遮蔽膜100の積層数は、充分な電磁波遮蔽能を有するために2以上とすることが好ましい。2以上とすることにより充分な電磁波遮蔽性能を得ることができる。さらに、3以上積層されていることが好ましい。また、高い可視光透明性を維持することができることから、電磁波遮蔽膜100の積層数は8以下であることが好ましい。上記の観点から、特に積層数が3以上6以下であることが最も好ましい。
【0044】
<ディスプレイ装置>
以下、本発明の実施の形態に係るディスプレイ装置について、詳細に説明する。
【0045】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係るディスプレイ装置は、画像を表示するためのディスプレイ画面と、ディスプレイ画面の視認側に設けられた電磁波遮蔽積層体とを備えている。
ディスプレイ装置としては、プラズマディスプレイパネル(PDP)、液晶表示装置(LCD)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)、陰極管表示装置(CRT)等が挙げられる。
【0046】
画像を表示するためのディスプレイ画面の視認側は、一般に、ガラス基板、プラスチック基板等の透明基板で構成されている。電磁波遮蔽積層体としては、本発明の電磁波遮蔽積層体であれば特に制限はないが、例えば、第1の実施形態の電磁波遮蔽積層体1を用いることができる。
【0047】
電磁波遮蔽積層体は、ディスプレイ画面の視認側表面に粘着剤等を用いて直接貼着してもよいし、ディスプレイ画面との間に隙間を置いて設置してもよい。
【0048】
また、ディスプレイ画面の視認側に、新たにガラス、プラスチック等からなる前面板を設置し、前面板の視認側またはディスプレイ側に電磁波遮蔽積層体を直接貼着してもよい。また、前面板の視認側またはディスプレイ側に、前面板との間に隙間を置いて電磁波遮蔽積層体を設置してもよい。
【0049】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態に係るディスプレイ装置は、画像を表示するためのディスプレイ画面と、ディスプレイ画面の視認側の面上に設けられた電磁波遮蔽膜とから構成されている。
【0050】
このようなディスプレイ装置としては、例えば、
(1)電磁波遮蔽膜が、ディスプレイ画面の視認側の面上から順に、屈折率が2.0以上である物質からなる第1の高屈折率層、酸化亜鉛を主成分とする第1の酸化物層、銀を主成分とする導電層および屈折率が2.0以上である物質からなる第2の高屈折率層を有するディスプレイ装置や、
(2)該電磁波遮蔽膜が、導電層と第2の高屈折率層との間に、第2の酸化物層を有するディスプレイ装置や、
(3)該電磁波遮蔽膜の第1または第2の高屈折率層が酸化ニオブを主成分とする層であるディスプレイ装置や、
(4)該電磁波遮蔽膜の導電層における銀の含有量が99.8原子%以上であるディスプレイ装置や、
(5)該電磁波遮蔽膜が、基材側から3以上積層されたディスプレイ装置などが挙げられる。
この場合、ディスプレイ画面の視認側は、一般に、ガラス基板、プラスチック基板等の透明基板で構成されている。
【0051】
また、電磁波遮蔽膜としては、例えば、第1の実施形態の電磁波遮蔽膜100、・、・、・を用いることができる。この場合、ディスプレイ画面の視認側の面上に、第1の高屈折率層31、第1の酸化物層32、導電層33、第2の酸化物層34、第2の高屈折率層35の順番で積層する。
電磁波遮蔽膜は、蒸着法、スパッタリング法などにより、直接ディスプレイ画面の視認側表面上に形成することができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。
【0053】
[実施例1]
透明基材として、高透過の光学用途向けフィルムであるポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETという。厚さ100μm)を使用した。
スパッタ成膜には、Web coater成膜装置(平野光音(株)社)を用いた。ターゲットのサイズは50mm×195mmで、基材の搬送は長巻のフィルム基材を送り出し、ガイドロールを介し、キャンロール位置でスパッタして、ガイドロールを介し再び巻き取るロール・ツー・ロール方式で行った。スパッタ電源は、DC放電(AE社MDX−10K、ENI社RPG−100)で成膜を行った。
【0054】
フィルム基材上に基材側から、高屈折率層(1)/酸化物層(1)/導電層/酸化物層(2)/高屈折率層(2)/酸化物層(1)/導電層/酸化物層(2)/高屈折率層(2)/酸化物層(1)/導電層/酸化物層(2)/高屈折率層(2)/酸化物層(1)/導電層/酸化物層(2)/高屈折率層(1)の順に、電磁波遮蔽膜を4積層成膜させた。詳しい成膜条件は表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
高屈折率層(1)および高屈折率層(2)は、酸化ニオブ(旭硝子セラミックス社製NS−NBO)をターゲットとしてDC放電で成膜した。酸化物層(1)および酸化物層(2)は、酸化亜鉛に酸化アルミニウムを3質量%添加したもの(旭硝子セラミックス社製)をターゲットとしてDC放電で成膜した。また、導電層は、純度99.9原子%の銀をターゲットに用いてDC放電で成膜した。
【0057】
なお、得られた電磁波遮蔽積層体の酸化物層中の亜鉛とアルミニウムの含有率は、ターゲット中に含まれる亜鉛とアルミニウムの含有率とほぼ同じとなる。
【0058】
成膜速度の調整は、基材の搬送速度で行い、成膜速度の遅い材料の場合は数回の往復成膜を繰り返して、所望の膜厚にした。膜厚は、触針式膜厚計(Dektak3stULVAC社代理店)を用いて測定した。得られた膜厚の結果を表1に示す。
【0059】
<評価>
(1)可視光透過率
得られた電磁波遮蔽積層体の可視光透過率は、朝日分光社製のModel304型透過率計を用いて測定した。可視光透過率の測定結果を下記表2に示す。
(2)抵抗値
得られた電磁波遮蔽積層体の抵抗値は、DELCOM社製717conductance monitorを用いて測定した。抵抗値の測定結果を下記表2に示す。
(3)耐湿性
耐湿性評価にはNaCl試験を用いた。まず、2質量%NaCl水溶液1μリットルを電磁波遮蔽積層体の電磁波遮蔽膜上に滴下した後、乾燥させた。その後、電磁波遮蔽膜上に粘着材(ポラテクノ社製ADC2または有沢製作所社製PTR2500、厚さ25μm)付きPETフィルム(厚さ100μm)を張り合わせ、温度60℃相対湿度95%の恒温恒湿槽に100時間保存した後、取り出してPETフィルムを剥した。劣化して剥離した部分の面積をノギスで測定した。劣化面積の測定結果を下記表2に示す。
【0060】
[比較例1]
高屈折率層(1)の上に酸化物層(1)を形成させることなく、高屈折率層(1)の上に直接導電層を実施例1と同様の成膜条件で形成させた。それ以外は、実施例1と同様にして電磁波遮蔽積層体を作製した。
得られた電磁波遮蔽積層体について、実施例1と同様の方法で、可視光透過率、抵抗値、耐湿性の評価を行った。可視光透過率、抵抗値、耐湿性の測定結果を下記表2に示す。
【0061】
[比較例2]
酸化物層(1)および酸化物層(2)を形成させることなく、高屈折率層(1)と高屈折率層(2)との間に直接導電層を実施例1と同様の成膜条件で形成させた。それ以外は、実施例1と同様にして電磁波遮蔽積層体を作製した。
得られた電磁波遮蔽積層体について、実施例1と同様の方法で、可視光透過率、抵抗値、耐湿性の評価を行った。可視光透過率、抵抗値、耐湿性の測定結果を下記表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
実施例1と比較例1の結果を比較すると、実施例1は、可視光透過率、抵抗値が比較例1とほぼ同等であり、良好な電磁波遮蔽積層体であることが確認された。また、NaCl試験による劣化面積について、実施例1の劣化面積は比較例1の劣化面積の1/6であり、実施例1は耐湿性に優れていることが確認された。また、この結果から、高屈折率層(1)と導電層との間に酸化物層(1)を形成させることで、電磁波遮蔽膜の耐湿性が向上することが確認された。
【0064】
次に、実施例1と比較例2の結果を比較すると、実施例1は、可視光透過率、抵抗値が比較例2とほぼ同等であったが、NaCl試験による劣化面積については、実施例1の劣化面積は比較例2の劣化面積の1/38であり、実施例1は耐湿性に優れていることが確認された。この結果から、酸化物層(1)および酸化物層(2)の存在が、電磁波遮蔽膜の耐湿性の向上に大きく寄与することが確認された。
【0065】
以上の結果から、実施例1で得られた電磁波遮蔽積層体は、可視光透過率が高く、抵抗値も低く、また、耐湿性にも優れた電磁波遮蔽積層体であることが確認された。
【0066】
[実施例2]
成膜条件を表3に示す条件とする以外は、実施例1と同様にして電磁波遮蔽積層体を作製した。
得られた電磁波遮蔽積層体について、実施例1と同様の方法で、耐湿性の評価を行った。耐湿性の測定結果を表6に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
[実施例3]
成膜条件を表4に示す条件とする以外は、実施例1と同様にして電磁波遮蔽積層体を作製した。
高屈折率層(1)および(2)は、還元型酸化チタン(TXO)ターゲット(旭硝子セラミックス社製)を用いDC放電で成膜した。
得られた電磁波遮蔽積層体について、実施例1と同様の方法で、耐湿性の評価を行った。耐湿性の測定結果を表6に示す。
【0069】
【表4】

【0070】
[比較例3]
成膜条件を表5に示す条件とし、高屈折率層(1)および(2)に代えてAZO層(屈折率:1.93)(1)および(2)とする以外は、実施例1と同様にして電磁波遮蔽積層体を作成した。
AZO層(1)および(2)は、酸化亜鉛に酸化アルミニウムを3質量%添加したもの(旭硝子セラミックス社製)をターゲットとしてDC放電で成膜した。
なお、得られた電磁波遮蔽積層体の酸化物層中の亜鉛とアルミニウムの含有率は、ターゲット中に含まれる亜鉛とアルミニウムの含有率とほぼ同じとなる。
得られた電磁波遮蔽積層体について、実施例1と同様の方法で、耐湿性の評価を行った。耐湿性の測定結果を表6に示す。
【0071】
【表5】

【0072】
【表6】

【0073】
高屈折率層の材料として酸化ニオブを用いた実施例2と高屈折率層の材料として酸化チタンを用いた実施例3では、NaClを滴下した周辺のみが劣化していて、劣化面積が小さかった。酸化二オブと、酸化チタンとを比較すると、劣化面積は酸化ニオブの方が小さく、耐久性がより優れていた。高屈折率層に代えてAZO層とした比較例3では、NaClを滴下した周辺が劣化するだけでなく、滴下部分から成膜面の広い領域にわたってクラックが発生し、劣化面積が大きくなった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の電磁波遮蔽積層体は、ディスプレイ装置用等のフィルタとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な基材上に電磁波遮蔽膜が設けられた電磁波遮蔽積層体であって、
前記電磁波遮蔽膜が、前記基材側から順に、屈折率が2.0以上である物質からなる第1の高屈折率層、
酸化亜鉛を主成分とする第1の酸化物層、
銀を主成分とする導電層
および屈折率が2.0以上である物質からなる第2の高屈折率層を有することを特徴とする電磁波遮蔽積層体。
【請求項2】
前記電磁波遮蔽膜が、前記導電層と前記第2の高屈折率層との間に、
第2の酸化物層を有する請求項1に記載の電磁波遮蔽積層体。
【請求項3】
前記第1または第2の高屈折率層が酸化ニオブを主成分とする層である請求項1または2に記載の電磁波遮蔽積層体。
【請求項4】
前記導電層における銀の含有量が99.8原子%以上である請求項1、2または3に記載の電磁波遮蔽積層体。
【請求項5】
前記第2の酸化物層が酸化亜鉛を主成分とする酸化物層である請求項2〜4いずれか一項に記載の電磁波遮蔽積層体。
【請求項6】
前記電磁波遮蔽膜が、前記基材側から3以上積層された請求項1〜5のいずれか一項に記載の電磁波遮蔽積層体。
【請求項7】
透明な基材上に電磁波遮蔽膜が2以上積層された電磁波遮蔽積層体であって、
前記電磁波遮蔽膜が、前記基材側から順に、屈折率が2.0以上である物質からなる第1の高屈折率層、
酸化亜鉛を主成分とする第1の酸化物層、
銀を主成分とする導電層
および屈折率が2.0以上である物質からなる第2の高屈折率層
を有し、前記電磁波遮蔽膜間で直接接する前記第1の高屈折率層と前記第2の高屈折率層が一括して成膜された1つの層からなることを特徴とする電磁波遮蔽積層体。
【請求項8】
前記各電磁波遮蔽膜が、前記導電層と前記第2の高屈折率層との間に、
第2の酸化物層を有する請求項7に記載の電磁波遮蔽積層体。
【請求項9】
前記第1または第2の高屈折率層が酸化ニオブを主成分とする層である請求項7または8に記載の電磁波遮蔽積層体。
【請求項10】
画像を表示するためのディスプレイ画面と、
該ディスプレイ画面の視認側に設けられた請求項1〜9のいずれか一項に記載の電磁波遮蔽積層体とを備えることを特徴とするディスプレイ装置。

【図1】
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【国際公開番号】WO2005/020655
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513310(P2005−513310)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012014
【国際出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】