説明

電磁燃料ポンプの制御装置

【課題】電磁燃料ポンプの駆動制御について、ポンプの耐久性低下を伴うことなく燃焼装置の様々な使用状況に対応して的確なポンプ吐出流量を確保できるようにする。
【解決手段】電磁コイル5への周期的な通電による磁力の変動により燃料加圧室6の一部を構成する部材を往復動作させて燃料を燃焼装置に向かって圧送する電磁燃料ポンプの制御装置において、所定の検知手段で検知した前記燃焼装置の運転状態に応じて各通電周期のOnDuty時間の長さを調整することにより吐出行程の幅を変化させてポンプ吐出流量を前記燃焼装置の要求燃料流量の変動に追従して適合させる方向に制御を行うことにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁燃料ポンプの制御装置に関し、殊に、電磁力で往復動作する部材で燃料を加圧して燃焼装置に送出する電磁燃料ポンプの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用エンジンのガソリン噴射システムに配設される燃料ポンプは、DCモータを用いた円周流式のものが一般的であり、例えば特開2006−220049号公報に記載されているように、エンジン要求燃料流量の変化に追従して最適なポンプ吐出流量を確保しながら、リターン燃料を少なくする方向で制御を実行する方式が知られている。しかし、この方式では車両における電気的負荷の変動が生じた際にポンプ吐出流量が変動してしまうため、精度の高い燃料噴射制御を実施しにくくなるという難点がある。
【0003】
一方、石油ヒータや汎用エンジン等の燃焼装置の燃料送出手段として、例えば特開平5−79452号公報や特開2002−39067号公報に記載されているように、往復直動式の電磁燃料ポンプが広く普及している。この電磁燃料ポンプでは、プランジャにかかる電磁力を変化させることで往復摺動させてシリンダ内の燃料を加圧するプランジャ式のものが一般的であり、これにより燃料の安定的な送出及び吐出流量制御を実行しやすいものとしている。
【0004】
例えば、ガソリンエンジン等の燃焼装置に用いられるプランジャ式の電磁燃料ポンプは、図1(A)の縦断面図に示すような構成を有しており、シリンダ4内に摺動可能に配設した磁性体素材からなるプランジャ7を、図1(B)に示すように電磁コイル5への通電による起磁力でリターンスプリング8の付勢力に抗して後退させ、プランジャ7先端側に設けた逆止弁9を開弁させてプランジャ7前方に形成した加圧室6内に燃料を導入する。
【0005】
そして、電磁コイル5への通電を減少または停止させることで、今度はリターンスプリング8の付勢力が優位となってプランジャ7が前進し、加圧室6内の閉切り容積分の充填燃料を加圧して、加圧室6下流側の逆止弁10を開弁させて押し出す。この動作を繰り返すことにより燃料を燃焼装置に向けて連続的に送出するものであるが、ポンプの脈動による燃料吐出圧力の変動を小さくするために、駆動電流の周波数を高めに設定している場合が多い。
【0006】
このような構成の電磁燃料ポンプは、吸い上げ揚程が高いことから燃料タンク外部にも装着可能であり、配置場所の制約を受けにくいという利点を有している。しかし、プランジャ式・膜式のものに関わらず、一般に駆動周波数及びOnDuty時間を一定にして駆動させるため、燃焼装置の負荷状態に関係なく吐出流量は常に一定となる。
【0007】
そのため、燃焼装置の低負荷運転時などの要求燃料流量が少ない場合において燃料を過剰に吐出することになり、極めて非効率なポンプ駆動を行うことになり、このことが装置の耐久性低下の原因の一つとなっている。また、吐出された燃料の過剰分がリターン路を通って燃料タンクに戻る量が増加することで、高温のエンジン付近を通って加熱されたリターン燃料でタンク内燃料温度が上昇するため、燃料の気化が促進されてエバポ対策上不利な状況となってしまう。さらに、バッテリ等の供給電源による印加電圧が低下した場合にポンプ吐出流量の低下を招くため、精度の高い制御をさらに困難なものとしている。
【0008】
これに対し、出力しているポンプ駆動電流の周波数を、燃焼装置の運転状況に応じて適宜調整してポンプ吐出流量を変動させる場合には、リターン燃料の量を減少させることが可能となる。しかしながら、この手段を採用した場合には、制御装置の性能確保に伴うコストアップに加え、ポンプ駆動電流の周波数を上げて対応することにより耐久性低下の問題が一層顕著になり、且つ、騒音の増大を招きやすいものとなる。
【特許文献1】特開2006−220049号公報
【特許文献2】特開平5−79452号公報
【特許文献3】特開2002−39067号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであり、電磁燃料ポンプの駆動制御について、ポンプの耐久性低下を伴うことなく燃焼装置の様々な使用状況に対応して、的確なポンプ吐出流量を確保できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明は、電磁コイルへの周期的な通電による磁力の変動により燃料加圧室の一部を構成する部材を往復動作させて燃料を燃焼装置に向かって圧送する電磁燃料ポンプの制御装置において、所定の検知手段で検知した前記燃焼装置の運転状態に応じて各通電周期のOnDuty時間の長さを調整することにより吐出行程の幅を変化させてポンプ吐出流量を前記燃焼装置の要求燃料流量の変動に追従して適合させる方向に制御を行うことにした。
【0011】
このような構成にしたことにより、比較的容易な処理手順でポンプ吐出流量を変更しながら無駄なポンプ駆動を回避して、燃焼装置の要求燃料流量の変動に追従した的確なポンプ吐出流量を実現しやすくすることができる。
【0012】
また、この場合、その通電周期の周波数は固定されておりOnDuty時間のみを変動させて制御を実行すれば、ポンプの耐久性低下を伴うことなく、また制御における処理負担を過大にすることなく精度の高い駆動制御を行いやすい。
【0013】
さらに、上述した電磁燃料ポンプの制御装置において、供給電源の電圧を検知して、電圧の低下レベルに応じて見込まれるポンプ吐出流量の減少分について、所定のタイミングでOnDuty時間を延長することにより修正することにすれば、供給電圧が低下した場合でもポンプ吐出流量の誤差を軽減しやすいものとなり、この場合、OnDuty時間の延長は、電圧とOnDuty時間との積分値を用いてポンプ吐出流量を算出しながら実行するものとすれば、安易な手順で予定のポンプ吐出流量確保可能となる。
【0014】
さらにまた、その電磁燃料ポンプは、基端側をリターンスプリングで付勢されたプランジャを、シリンダ内で往復摺動させてプランジャ先端側に形成した燃料加圧室内の燃料を圧送する、プランジャ式の電磁燃料ポンプとすれば、さらに耐久性に優れるとともに精度の高い駆動制御を行いやすい。
【発明の効果】
【0015】
燃焼装置の運転状態に応じて各通電周期のOnDuty時間を調整することにより、ポンプ吐出流量を要求燃料流量の変動に追従させるものとした本発明によると、燃焼装置の様々な使用状況に対応して的確なポンプ吐出流量を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0017】
図1(A)は、本実施の形態における電磁燃料ポンプの制御装置が駆動制御を行う対象である、電磁燃料ポンプ2の縦断面図を示している。この電磁燃料ポンプ2は、ガソリンエンジン等の燃焼装置の燃料供給システムにおいて、図示しない燃料タンクに貯留した燃料を加圧室内に導入・加圧して燃料配管を介して燃料噴射弁等から燃焼装置に送出する場合に使用されることを想定している。尚、その構成及び機能は上述した従来例と共通しているため、詳細な説明は省略する。
【0018】
この電磁燃料ポンプ2を駆動制御する制御装置である電子制御ユニットは、ハード的には従来例と共通した汎用のものでもよいことから、その図示及びハード構成の説明は省略するものとし、本発明の特徴部分であるその制御内容、即ち、記憶手段に記憶された制御プログラムにより実行される電磁燃料ポンプ2の制御方法について、以下に詳細に説明する。
【0019】
本電子制御ユニットは、以下に詳述する電磁燃料ポンプ2の駆動制御機能の他に、種々のセンサ類からの出力信号を受信して燃焼装置の運転状態を検知し、これに基づいて燃料噴射弁等を開閉操作する燃料供給制御機能を備えたものであってもよい。また、本実施の形態においては、バッテリ等の供給電源の電圧の状態を連続的に検出するセンサ手段に接続されており、その電圧を検知する電圧検知手段を備えている。
【0020】
例えばエンジンシステムの場合においては、スロットル開度やエンジン回転速度等を検知することによりエンジン運転状態を検知して、エンジンの要求する燃料流量を算出し、これに適合するポンプ吐出流量を実現するための駆動電力を算出して、燃焼装置の運転状態に応じた駆動信号(駆動電力)を所定の出力ユニットを介し電磁燃料ポンプに出力(通電)するものである。
【0021】
そして、その燃焼装置の運転状態に応じたポンプ吐出流量を実現するための駆動信号の出力において、その通電周期は一定(周波数固定)としながら、その各周期におけるOnDuty時間の長さを適宜変更することにより、要求燃料流量に見合った的確なポンプ吐出流量を確保するようになっている。
【0022】
即ち、電磁コイル5に電流を印加している間は、プランジャ7がリターンスプリング8を圧縮した状態で保持することができ、電流の印加を解除するとリターンプリング8の弾性反発力でプランジャ7は吐出側に移動する。この吐出行程におけるプランジャ7の移動速度はリターンスプリング8により支配されているため、基本的に一定の速度で移動して急激な速度変化はないものとなっている。
【0023】
従って、そのOnDuty時間を制御することで、プランジャ7を吸着している時間を制御することにより有効ストロークを制限して、ポンプ吐出流量を制御することができる。尚、プランジャを吸引する速度は、電力により決定されることから供給電圧とOnDuty時間の積分値とリターンスプリングのバネ荷重値とからシミュレーションすることにより算出することができる。
【0024】
また、燃焼装置を安定して駆動させるためには、要求燃料流量に対しポンプ吐出流量を常に多くする必要があることから、本実施の形態による駆動制御を精密に実行しようとする場合、プランジャ変位量を電流値等から推定して閉ループによる制御を実行する必要がある。尚、このプランジャ変位量の演算方法については、例えばリニアソレノイドの制御において周知である。
【0025】
また、これ以外に、供給電圧と要求燃料流量等のデータから予めマップを作成しておき、このマップを電子制御ユニットの記憶手段に記憶させておくことにより、開ループによる制御も可能である。さらに、燃料ポンプは上述のようなプランジャ式に限らず、総ての電磁式往復ポンプの駆動制御において適用することができる。
【0026】
次に、本実施の形態による作用について、図2〜図6を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
図2は、所定の要求燃料流量における電磁燃料ポンプの駆動状態(プランジャ変位量)と駆動信号の電圧と電流の状態の波形図を示すものであり、図2から通電による電流の立ち上がりに僅かに遅れてプランジャ7の吸着が開始され、所定時間の吸着状態の維持の後、電流の立ち下がりによりリターンスプリング8の弾性反発力で燃料を吐出しており、この動作を周期的に連続して燃料を供給していることが分かる。
【0028】
また、図3の波形図によると、例えばエンジンの低速運転時の場合のように燃焼装置の要求燃料流量が減少すると、電子制御ユニットは通電周期(周波数)を固定したまま、各周期のOnDuty時間(幅)を拡大させる方向に駆動信号を変更することによりプランジャ7の吸着時間は延長され、その分、吐出行程が短くなっていることが確認される。
【0029】
即ち、図2に示した波形と図3に示した波形を比較した図4の波形図に示すように、各周期幅は変動しないのに対し、OnDuty時間の幅が拡大した分だけプランジャ8の移動幅が減少するため、ポンプ吐出流量は減少して低下した要求燃料流量に見合ったものとなる。このようにしたことで、過剰な燃料吐出を回避できるとともに、電磁燃料ポンプ2の無駄な駆動を回避してその耐久性を向上させることができる。
【0030】
図5は、駆動電圧とポンプ吐出流量の関係を示すグラフである。このグラフから、OnDuty時間の幅が小さい場合には最大吐出流量が多く、最低作動電圧が高いことが分かる。一方、OnDuty時間の幅が大きい場合は、幅が小さい場合と比べて低い電圧から駆動して燃料を吐出することができる。
【0031】
但し、この場合には、有効ストロークが短くなるため最大吐出力は減少することになる。即ち、例えば駆動電圧X[V]の場合に、OnDuty時間の幅を大から小に変更することにより低い電圧からでも駆動することができ、且つ、比較的大きな吐出流量を確保することが可能となる。
【0032】
また、本実施の形態においては、検知している電圧が低下した場合に、電圧低下により見込まれるポンプ吐出流量の減少分を、所定のタイミングでOnDuty時間を調整することにより修正するものとしている。この場合、検知している電圧が所定のしきい値を下回った場合に、OnDuty時間を所定量増加させてプランジャ吸引力を補うことで安定した作動を確保するようにしてもよい。また、従来技術においてOnDuty時間固定であったのに対し、本実施の形態によりその定格時のOnDuty時間を短縮させることもできるため、燃料ポンプ駆動のための消費電力を低減することもできる。
【0033】
図6は、OnDuty時間とポンプ吐出流量の関係を示すグラフである。グラフから、OnDuty時間を延ばすことでプランジャの有効ストロークを短くして、ポンプ吐出流量を低減させることが可能であることが分かる。これを利用して、燃焼装置における燃料噴射量の増減に対応して燃料ポンプのポンプ吐出流量を調整することにより、リターン燃料の量を調整して最小限に抑えることができる。
【0034】
従って、高温の燃焼装置に曝されたリターン燃料が燃料タンクに多量に流入して内部の燃料温度が過剰に上昇してしまうことを回避できる。即ち、燃料タンク内の温度が低い程、エバポ(燃料蒸気)が少ないことは公知であり、チャコールキャニスタの小型化に加え環境悪化の要因を低減することが可能となる。
【0035】
以上、述べたように、電磁燃料ポンプの駆動制御について、本発明によりポンプの耐久性低下を伴うことなく燃焼装置の様々な使用状況に対応して、要求燃料流量に見合った的確なポンプ吐出流量を確保できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】(A)本発明の実施の形態及び従来例に共通した電磁燃料ポンプの燃料吐出時の状態を示す縦断面図、(B)は(A)の電磁燃料ポンプの燃料吸入時の状態を示す縦断面図。
【図2】本発明の実施の形態による駆動信号とポンプ動作との関係を示す波形図。
【図3】本発明の実施の形態による低負荷時の駆動信号とポンプ動作との関係を示す波形図。
【図4】図2の波形と図3の波形とを比較するための波形図。
【図5】駆動電圧とポンプ吐出流量との関係図。
【図6】OnDuty時間とポンプ吐出流量との関係図。
【符号の説明】
【0037】
2 電磁燃料ポンプ、4 シリンダ、5 電磁コイル、6 加圧室、7 プランジャ、8 リターンスプリング、9,10 逆止弁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁コイルへの周期的な通電による磁力の変動により燃料加圧室の一部を構成する部材を往復動作させて燃料を燃焼装置に向かって圧送する電磁燃料ポンプの制御装置において、所定の検知手段で検知した前記燃焼装置の運転状態に応じて各通電周期のOnDuty時間の長さを調整することにより吐出行程の幅を変化させてポンプ吐出流量を前記燃焼装置の要求燃料流量の変動に追従して適合させる方向に制御を行うことを特徴とする電磁燃料ポンプの制御装置。
【請求項2】
前記通電の周波数が固定されており前記OnDuty時間のみを変動させて制御を実行することを特徴とする請求項1に記載した電磁燃料ポンプの制御装置。
【請求項3】
前記電磁コイルへの供給電源の電圧を連続的に検知して、前記電圧の低下レベルに応じて見込まれるポンプ吐出流量の減少分について、所定のタイミングで前記OnDuty時間を延長することにより修正することを特徴とする請求項1または2に記載した電磁燃料ポンプの制御装置。
【請求項4】
前記OnDuty時間の延長を、前記電圧と前記OnDuty時間との積分値を用いてポンプ吐出流量を算出しながら実行することを特徴とする請求項3に記載した電磁燃料ポンプの制御装置。
【請求項5】
前記電磁燃料ポンプが、基端側をリターンスプリングで付勢されたプランジャをシリンダ内で往復摺動させて前記プランジャ先端側に形成した前記燃料加圧室内の燃料を圧送するプランジャ式のものであることを特徴とする請求項1,2,3または4に記載した電磁燃料ポンプの制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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