説明

電解コンデンサの駆動用電解液および電解コンデンサ

【課題】長期的に高温寿命特性が安定で、かつ、低温特性も良好な電解コンデンサおよびこの電解コンデンサに用いられる駆動用電解液を提供する。
【解決手段】アルキルアニソールを含有する溶媒に溶質として有機カルボン酸および/またはその塩を溶解してなる電解コンデンサの駆動用電解液であって、前記アルキルアニソールとして、エチルアニソール、メチルアニソール、プロピルアニソール、ブチルアニソールおよびt−ブチルアニソールからなる群から選択されるものを使用することにより、電解コンデンサの高温寿命特性および低温特性を良好とする。電解液中における前記アルキルアニソールの含有量は5.0〜60.0wt%が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電解コンデンサ駆動用電解液および当該電解液を用いた電解コンデンサに関するものであり、特に長期にわたる高温寿命特性が安定で、かつ、低温特性も良好な電解コンデンサを実現できる電解液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサとは、アルミニウム、タンタル、ニオブ等の弁金属と呼ばれる金属を電極に使用し、陽極酸化して得られる酸化皮膜を誘電体として利用するコンデンサのことである。
【0003】
アルミニウム電解コンデンサは、一般には、図1、2に示すような構造からなるエッチング処理および酸化皮膜形成処理をした陽極箔1と、エッチング処理をした陰極箔2とをセパレータ3を介して巻回してコンデンサ素子6を形成し、該コンデンサ素子を電解液に含浸した後、有底筒状の外装ケース8に収納してなる。
外装ケース8の開口部に、封口体9を装着し、絞り加工により封止する。外装ケース8にコンデンサ素子6を固定する素子固定材17を有していてもよい。
封口体9の外端面には陽極端子13および陰極端子14が構成され、これらの端子13、14の下端部には各々、陽極内部端子15および陰極内部端子16として、コンデンサ素子6から引き出された陽極タブ端子11および陰極タブ端子12が電気的に接続されている。
ここで、陽極タブ端子11については、化成処理が施されたものが使用されるが、陰極タブ端子12については、化成処理が施されていないものが使用される。いずれのタブ端子11、12も、表面加工の施されていないアルミニウム箔が用いられている。
【0004】
電解コンデンサの駆動用電解液には、高温長寿命特性を要求される電解液の溶媒としてエチレングリコールがあり、低温特性を要求される電解液の溶媒としてγ−ブチロラクトンがある。これを適当な比率で混合した溶媒に、溶質として環状アミジン化合物のイミダゾリニウムカチオンやイミダゾリウムカチオンを、カチオン成分とし、酸の共役塩基をアニオン成分とした塩を溶解させて使用する(例えば下記の特許文献1参照)。
また、下記の特許文献2には、γ−ブチロラクトンを含む有機溶媒にフタル酸およびマレイン酸のアルキル置換アミジン基を有する化合物の塩を電解質として溶解してなる電解液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−321440号公報
【特許文献2】特開平8−321441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電子部品の小形化、薄形化により電解コンデンサには小形化対応が求められ、一方では、温度変化への対応、高温下での長期信頼性が求められているが、前記の電解コンデンサ用電解液では、高温信頼性に対応できず、また、車載分野において低温特性も満足できていない。
【0007】
本発明は、前記の現状を鑑みてなされたものであり、高温信頼性が良好で低温特性も良好な電解コンデンサおよびこの電解コンデンサに用いられる駆動用電解液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は前記課題を解決するために検討を繰り返した結果、コンデンサ駆動用の電解液の溶媒として、特定のアルキルアニソールを含有する溶媒を用いることにより、前記課題を効果的に解決することに成功し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、アルキルアニソールを含有する溶媒に溶質として有機カルボン酸および/またはその塩を溶解してなる電解コンデンサ駆動用の電解液であって、
前記アルキルアニソールが、エチルアニソール、メチルアニソール、プロピルアニソール、ブチルアニソールおよびt−ブチルアニソールからなる群から選択されることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、電解液に溶媒として上記アルキルアニソールを使用したことにより、電解コンデンサの高温寿命特性において、静電容量およびtanδの変化が抑制されるとともに、低温での比抵抗の上昇も抑制することができる。また、溶質(電解質)として、有機カルボン酸および/またはその塩を使用したことにより、低い比抵抗および、高い耐電圧性を実現することができる。したがって長期的に高温寿命特性が安定で、更に、低温特性も良好な電解コンデンサを提供できる。
【0010】
さらに、前記駆動用電解液中における前記アルキルアニソールの含有量を、5.0〜60.0wt%の範囲とすることにより、コンデンサの高温信頼性・低温特性の両方をより向上させることができる。
本発明の特に好ましい溶媒の一例として、前記アルキルアニソールおよびラクトンを含有する溶媒を挙げることができる。
前記駆動用電解液中における溶質としての有機カルボン酸および/またはその塩の含有量は5.0〜30.0wt%とすることが好ましい。
前記溶質の特に好ましい一例として、有機カルボン酸の環状アミジン化合物の四級塩を挙げることができる。
【0011】
前記駆動用電解液を含浸させたコンデンサ素子を有する電解コンデンサは、長期にわたり安定な高温寿命特性および良好な低温特性を示す。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電解液に溶媒として特定のアルキルアニソールを使用し、溶質として有機カルボン酸および/またはその塩を使用したことにより、高温印加試験において静電容量およびtanδの変化が抑制され、長期的に電気特性が安定し、さらに低温特性も良好な電解コンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】電解コンデンサ素子の分解斜視図である。
【図2】電解コンデンサの要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明におけるアルキルアニソールは、アルキル基として、エチル基、メチル基、プロピル基、ブチル基、tert−ブチル基を有するアニソールであり、以下の化学式で表すことができる(式中のRはアルキル基を示す)。アルキル基の置換位置は、2,3,4位のいずれでもよい。
【化1】

【0015】
本発明に用いる電解コンデンサ駆動用電解液は、アルキルアニソールと1種類以上の他の溶媒を混合した溶媒に、1種類以上の有機カルボン酸またはその塩を溶質として含有していることが好ましい。
この際、アルキルアニソールの含有割合は、電解液全体の5.0〜60.0wt%とするのが好適であり、電解液全体の10.0〜60.0wt%とするのがさらに好適である。
【0016】
本発明でアルキルアニソールと混合される他の溶媒は、アルコール類、エーテル類、アミド類、オキサゾリジノン類、ラクトン類、ニトリル類、カーボネート類、スルホン類からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。溶媒の具体例は以下のとおりであり、2種以上併用することもできる。
【0017】
アルコール類として、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ジアセトンアルコール、ベンジルアルコール、アミルアルコール、フルフリルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、ヘキシトール等が挙げられる。
【0018】
エーテル類として、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、3−メチルテトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
また、高分子量体としてポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコールおよびその共重合体(以下、ポリアルキレングリコール)等が挙げられる。
【0019】
アミド類として、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックアミド等が挙げられる。
【0020】
オキサゾリジノン類として、N−メチル−2−オキサゾリジノン、3,5−ジメチル−2−オキサゾリジノン等が挙げられる。
【0021】
ラクトン類として、γ−ブチロラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、β−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0022】
ニトリル類として、アセトニトリル、アクリロニトリル、アジポニトリル、3−メトキシプロピオニトリル等が挙げられる。
【0023】
カーボネート類として、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられる。
【0024】
スルホン類として、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン等が挙げられる。
【0025】
その他の溶媒として、水、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホオキシド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、トルエン、キシレン、パラフィン類等が挙げられる。
【0026】
本発明に用いられる電解液は必要により、種々の添加剤を含有してもよい。添加剤を加える目的は多岐にわたるが、例えば、熱安定性の向上、水和などの電極劣化の抑制、耐電圧の向上、ガス発生の抑制、ハロゲン化物に対する耐性の付与等が挙げられる。
添加剤の含有量は特に制限はないが、0.01〜20.0wt%の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.01〜10.0wt%の範囲である。
【0027】
そのような添加剤の例として、p−ニトロフェノール、m−ニトロアセトフェノン、p−ニトロ安息香酸、p−ニトロベンジルアルコール、p−ニトロクレゾール、p−ニトロトルエン等のニトロ化合物、オルトリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸ブチル、リン酸イソプロピル、リン酸ジブチル、リン酸ジオクチル等のリン酸化合物、ホウ酸およびその錯化合物等のホウ酸化合物、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、ペンタエリスリトール、ポリビニルアルコール等の多価アルコール類、コロイダルシリカ、アルミノシリケート、シリコーン化合物(例えば、反応性シリコーンであるヒドロキシ変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン、アルコール変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン等)やシランカップリング剤(例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等)等のケイ素化合物が挙げられる。
【0028】
本発明の電解液に使用する溶質(電解質)としては、比抵抗と耐電圧性の面から、有機カルボン酸および/またはその塩を用いる。
ここで、有機カルボン酸または有機カルボン酸塩の含有割合は、電解液全体の5.0〜30.0wt%とするのが好適であり、電解液全体の10.0〜25.0wt%とするのがさらに好適である。
【0029】
本発明において溶質として用いられる有機カルボン酸の例として、フタル酸、マレイン酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン酸、安息香酸、2−メチルアゼライン酸、1,6−デカンジカルボン酸、5,6−デカンジカルボン酸、2-ブチルオクタン二酸、7−ビニルヘキサデカン−1、16−ジカルボン酸等を例示することができる。また、より顕著な効果を得るために、2種またはそれ以上の有機カルボン酸を使用しても良い。特に好ましい有機カルボン酸の例として、フタル酸、マレイン酸が挙げられる。
【0030】
また、前述の有機カルボン酸の塩としては、アンモニウム塩、メチルアミン、エチルアミン、t−ブチルアミン等の一級アミン塩、ジメチルアミン、エチルメチルアミン、ジエチルアミン等の二級アミン塩、トリメチルアミン、ジエチルメチルアミン、エチルジメチルアミン、トリエチルアミン等の三級アミン塩、テトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等の四級アンモニウム塩、イミダゾール単環化合物、2-イミダゾリン環を有する化合物、テトラヒドロピリミジン環を有する化合物、1,3−ジメチルイミダゾリニウム、1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム等の環状アミジン化合物の四級塩を例示することができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。実施例、比較例の電解液組成は表1のとおりとした。
[実施例1−1〜1−7]アルキルアニソールの配合量検討
・溶質:フタル酸水素1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウム 20.0wt%
・溶媒:4−エチルアニソール 4.0〜70.0wt%
γ−ブチロラクトン 10.0〜76.0wt%
上記組成にて、4−エチルアニソールの混合量を変更し、30℃および−40℃における比抵抗を測定した。
【0032】
[実施例1−8〜1−13]アルキルアニソールの種類による比較
アルキルアニソールとして、3−エチルアニソール、2−エチルアニソール、4−メチルアニソール、4−プロピルアニソール、4−ブチルアニソールまたは4−t−ブチルアニソールを使用した以外は、実施例1−4(アルキルアニソール含有量:20.0wt%)と同様にして電解液を調製し、上記と同様にして30℃および−40℃における比抵抗を測定した。
【0033】
(比較例1)
上記4−エチルアニソールを使用せず、溶媒として、γ−ブチロラクトン60.0wt%、エチレングリコール20.0wt%を混合したものを使用し、溶質は上記実施例1−1〜1−13と同様にして30℃および−40℃における比抵抗を測定した。
【0034】
[実施例2−1〜2−7]4−エチルアニソールの配合量検討(溶質種変更)
溶質として、マレイン酸水素−1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム20.0wt%を使用した以外は、上記実施例と同様にして、4−エチルアニソールの配合量を変化させた電解液を調製し、30℃および−40℃における比抵抗を測定した。
【0035】
(比較例2)
上記4−エチルアニソールを使用せず、溶媒として、γ−ブチロラクトン60.0wt%、エチレングリコール20.0wt%を混合したものを使用し、溶質は上記実施例2−1〜2−7と同様にして30℃および−40℃における比抵抗を測定した。
【0036】
上記の実施例1−1〜1−13、2−1〜2−7、比較例1、2で調製した電解液について、30℃および−40℃における比抵抗を測定した結果を表1に示す。
【0037】
また、上記の実施例1−1〜1−13、2−1〜2−7、比較例1、2の電解液を使用して、定格電圧6.3V、静電容量1000μF(ケースサイズφ10×12.5mmL)のコンデンサを作製し、125℃にて1000時間の定格電圧6.3Vを印加する、高温負荷試験を行った。その結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1から明らかなように、本発明の実施例は、比較例1、2と比べて、−40℃における比抵抗を低減しながら、高温負荷試験でのtanδ変化を抑えており、アルキルアニソールによる改善効果が現れている。その中でも、アルキルアニソールを5.0〜60.0wt%とした実施例1−2〜1−6、1−8〜1−13、2−2〜2−6がより好適である。
【0040】
ここで、前記溶媒に溶解する溶質として、上記実施例では、フタル酸水素1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウム、またはマレイン酸水素−1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウムを用いたが、これ以外の有機カルボン酸またはその塩も用いることができ、特に好ましいのは、有機カルボン酸の環状アミジン化合物の四級塩である。また、駆動用電解液中における前記溶質の含有量は5.0〜30.0wt%とすることが好ましい。
【0041】
なお、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、上述の溶媒、溶質を単独または複数使用した場合、および上述のその他の添加剤を混合した場合にも、同様の低温特性、高温信頼性改善効果が得られた。
【符号の説明】
【0042】
1 陽極箔
2 陰極箔
3 セパレータ
6 コンデンサ素子
8 外装ケース
9 封口体
10 加締め
11 陽極タブ端子
12 陰極タブ端子
13 陽極端子
14 陰極端子
15 陽極内部端子
16 陰極内部端子
17 素子固定剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルアニソールを含有する溶媒に溶質として有機カルボン酸および/またはその塩を溶解してなる電解コンデンサの駆動用電解液であって、
前記アルキルアニソールが、エチルアニソール、メチルアニソール、プロピルアニソール、ブチルアニソールおよびt−ブチルアニソールからなる群から選択されることを特徴とする、電解コンデンサの駆動用電解液。
【請求項2】
前記駆動用電解液中における前記アルキルアニソールの含有量が5.0〜60.0wt%であることを特徴とする、請求項1に記載の電解コンデンサの駆動用電解液。
【請求項3】
前記溶媒が、前記アルキルアニソールおよびラクトンを含有する溶媒であることを特徴とする、請求項1または2に記載の電解コンデンサの駆動用電解液。
【請求項4】
前記駆動用電解液中における前記溶質の含有量が5.0〜30.0wt%であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電解コンデンサの駆動用電解液。
【請求項5】
前記溶質が、有機カルボン酸の環状アミジン化合物の四級塩であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電解コンデンサの駆動用電解液。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の駆動用電解液を含浸させたコンデンサ素子を有することを特徴とする電解コンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−71394(P2011−71394A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222202(P2009−222202)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)