説明

電解コンデンサ用電極箔の製造方法

【課題】エッチングにおける付着陰イオンを効果的に除去し、化成時の皮膜形成を円滑に行い、静電容量を向上できる電解コンデンサ用電極箔の製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム箔に電気化学的なエッチング処理を行うエッチング工程と、エッチング後の洗浄工程と、洗浄工程後の皮膜形成工程と、熱処理工程とを有する電解コンデンサ用電極箔の製造方法において、
前記洗浄工程が、グリコール酸および過酸化水素を含む水溶液にエッチング後の箔を浸漬する工程であり、水溶液のグリコール酸濃度が5.0〜10.0wt%、過酸化水素濃度が0.4〜1.0wt%であり、水溶液の温度が35〜80℃であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサ用電極箔の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、低圧用電解コンデンサ用アルミニウム電極箔は、塩酸と硫酸に、硝酸、リン酸等を混合した水溶液中で化学的または電気化学的なエッチングによって粗面化するエッチング工程と、エッチング後に箔に付着している塩化物イオン、硫化物イオン等を除去する洗浄工程とを経て製造される。
更に、高容量の低圧の陽極用電極箔を製造する際には、アルミニウム原箔の表面に付着している不要物を除去するための前処理工程、エッチング工程、洗浄工程を経た後、水和皮膜や熱酸化皮膜を形成する後処理工程を行うことによって、陽極酸化皮膜形成後の化成箔の静電容量が向上することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
エッチング後に箔に付着している塩化物イオン、硫化物イオン等を除去する洗浄方法としてリン酸、硫酸、硝酸等の無機酸の水溶液に浸漬する方法がある。
また、塩化物イオン、硫化物イオン等を除去する工程を前段と後段の2段階とし、前段においてはリン酸、硫酸、硝酸等の無機酸の水溶液中に浸漬し、後段においてシュウ酸、クエン酸、酒石酸等の有機酸の水溶液中に浸漬する方法が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また、後処理の具体的な手法としては、抑制剤を添加した沸騰水中に浸漬する方法(例えば、特許文献2参照)、温水に浸漬して水和酸化皮膜を形成するなどの方法(例えば、特許文献3参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−354387号公報
【特許文献2】特公昭57−6250号公報
【特許文献3】特開平4−279017号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】永田伊佐也、「電解液陰極アルミニウム電解コンデンサ」、日本蓄電器工業株式会社、平成9年2月24日、第2版第1刷、P265〜272
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電子機器の小形化と共に、電解コンデンサの小形化が進み、コンデンサ用電極箔に対する高容量化の要求は強くなる一方である。
また、近年、電子機器の消費電力の増大に伴い、回路で発生するリプル電流が増大し、このような回路に用いられる電解コンデンサには低インピーダンス特性が要求されるようになった。
これらの低インピーダンス特性を要求されるコンデンサには、従来の駆動用電解液に比べて反応性の高い電解液が使用されているため、コンデンサ用電極箔には電解液に対する高い安定性が求められている。
【0008】
ところが、このような要望に充分対応できるコンデンサ用電極箔が得られていないのが現状である。すなわち、電解液に対して高い安定性を示すには、化成前の表面皮膜が清浄であることが望ましいが、従来の洗浄方法で箔に付着する塩化物イオン、硫化物イオン等を除去するには、洗浄を強く行わなければならず、その結果、エッチング工程で形成された微細なピットを溶解することとなり、静電容量の減少をもたらし、高容量化の要求に対応できない。
【0009】
また、高容量のコンデンサ用電極箔を得るためには、効果的な後処理皮膜を形成することが必要となるが、その後処理皮膜の形成と前段階の洗浄工程には密接な関係が存在し、効果的に塩化物イオン、硫化物イオン等を除去できる洗浄方法であっても、後処理皮膜の形成に不都合となるような場合もあり、この場合も高容量化の要求に対応できない。
【0010】
上記の問題点に鑑みて、本発明の課題は、エッチング箔に付着している塩化物イオン、硫化物イオン等を十分に除去するとともに、エッチング工程で形成された微細なピットの溶解がなく、静電容量の減少を抑えることができ、高容量化の要求に対応することができる電解コンデンサ用電極箔の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明では、アルミニウム箔に電気化学的なエッチング処理を行うエッチング工程と、エッチング後の洗浄工程と、洗浄工程後の皮膜形成工程と、熱処理工程とを有する電解コンデンサ用電極箔の製造方法において、
前記洗浄工程がグリコール酸(オキシ酢酸)5.0〜10.0wt%、および過酸化水素0.4〜1.0wt%を含む水溶液にエッチング後の箔を浸漬する工程であることを特徴とする電解コンデンサ用電極箔の製造方法である。
【0012】
さらに、前記洗浄工程における水溶液の温度が35〜80℃であることを特徴とする電解コンデンサ用電極箔の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、エッチング工程後の洗浄工程において、グリコール酸および過酸化水素を含む水溶液にエッチング箔を浸漬することにより、箔に付着する塩化物イオン、硫化物イオン等が十分に除去され、清浄な後処理皮膜を形成できるとともに、エッチング工程で形成された微細なピットの溶解を抑え、静電容量を向上させることができる。
そして、後の化成工程で効果的な皮膜形成が可能であり、さらに、洗浄工程を上記の浸漬一段階で行っているため、製造設備の簡素化をも図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0015】
[実施例1、3、4、(比較例2、6)]グリコール酸濃度の比較
まず、エッチング工程として、アルミニウム箔に、塩酸と硫酸とを混合した水溶液中で電気化学的なエッチングを施し、エッチング箔を作製した。
次に、洗浄工程で使用する洗浄液として、グリコール酸の濃度を4.0〜12.0wt%、過酸化水素の濃度を1.0wt%とした、45℃の水溶液を使用し、該洗浄液に上記のエッチング箔を浸漬した。
後処理工程(洗浄工程後の皮膜形成工程)としては、水和処理として50℃の純水に浸漬する処理を行った後、400℃で熱処理を行った。
後処理工程後、85℃で、アジピン酸アンモニウム8.0wt%の水溶液中にて20Vの電圧を印加し、化成を行って、電極箔を作製し、静電容量を測定した。
また、洗浄工程後の電極箔表面の清浄さは、炭酸水素ナトリウム水溶液を用いて電極箔に付着している陰イオンを抽出し、イオンクロマトグラフィーを用いて、塩化物イオン、硫化物イオンの量を測定した。
【0016】
(比較例1)
上記実施例1と同様のエッチングを施したアルミニウム箔に、洗浄液として、グリコール酸を添加せず、過酸化水素の濃度を1.0wt%とした水溶液に浸漬する以外は、上記実施例1と同様にして、電極箔を作製し、静電容量を測定し、塩化物イオン、硫化物イオンの量を測定した。
【0017】
[実施例2、3、(比較例4、5)]過酸化水素の濃度の比較
上記実施例1と同様のエッチングを施したアルミニウム箔に、洗浄液として、グリコール酸の濃度を7.0wt%とし、過酸化水素の濃度を0.2〜1.2wt%とした水溶液に浸漬する以外は、上記実施例1と同様にして、静電容量と、塩化物イオン、硫化物イオンの量を測定した。
【0018】
(比較例3)
上記実施例1と同様のエッチングを施したアルミニウム箔に、洗浄液として、グリコール酸の濃度を7.0wt%とし、過酸化水素を添加しない水溶液に浸漬する以外は、上記実施例1と同様にして、静電容量と、塩化物イオン、硫化物イオンの量を測定した。
【0019】
[実施例5、1、6、(比較例7、8)]洗浄液温度の比較
上記実施例1と同様のエッチングを施したアルミニウム箔に、洗浄工程として、グリコール酸の濃度5.0wt%、過酸化水素の濃度1.0wt%、温度30〜85℃とした水溶液に浸漬する以外は、上記実施例1と同様にして、静電容量と、塩化物イオン、硫化物イオンの量を測定した。
【0020】
(従来例1)
上記実施例1と同様のエッチングを施したアルミニウム箔に、洗浄工程として、硝酸濃度0.5wt%の水溶液に浸漬する以外は、上記実施例1と同様にして、静電容量と、塩化物イオン、硫化物イオンの量を測定した。
【0021】
(従来例2)
上記実施例1と同様のエッチングを施したアルミニウム箔に、洗浄工程として、リン酸濃度1.5wt%の水溶液に浸漬する以外は、上記実施例1と同様にして、静電容量と、塩化物イオン、硫化物イオンの量を測定した。
【0022】
実施例1〜6、比較例1〜8、従来例1、2の電極箔について、静電容量と、塩化物イオン、硫化物イオンの量を測定した結果を表1に示す。
表1における残留塩素指数、残留硫酸指数、静電容量指数は、従来例1の値を100として算出した。
【0023】
【表1】

【0024】
[グリコール酸の濃度の比較]
表1から明らかなように、過酸化水素の濃度1.0wt%、洗浄液の温度45℃に設定した場合、グリコール酸の濃度5.0〜10.0wt%とした実施例1、3、4は、残留塩素指数、残留硫酸指数、静電容量指数とも、従来例1と比較して効果がみられた。一方、グリコール酸の濃度4.0wt%とした比較例2では洗浄効果が小さく、残留塩素指数が大であり、また、グリコール酸の濃度12.0wt%とした比較例6では洗浄効果はあるが、静電容量指数が減少した。
【0025】
[過酸化水素の濃度の比較]
表1から明らかなように、グリコール酸の濃度7.0wt%、洗浄液の温度45℃に設定した場合、過酸化水素の濃度0.4〜1.0wt%とした実施例2、3は、残留塩素指数、残留硫酸指数、静電容量指数とも、従来例1と比較して効果がみられた。一方、過酸化水素の濃度0.2wt%とした比較例4では、洗浄効果が小さく、残留塩素指数が大であり、また、過酸化水素の濃度1.2wt%とした比較例5では洗浄効果はあるが、静電容量指数が減少した。
【0026】
[洗浄液温度の比較]
表1から明らかなように、グリコール酸の濃度5.0wt%、過酸化水素の濃度1.0wt%に設定した場合、洗浄液の温度35〜80℃とした実施例5、1、6は、残留塩素指数、残留硫酸指数、静電容量指数とも、従来例1と比較して効果がみられた。一方、洗浄液の温度30℃とした比較例7では、洗浄効果が小さく、残留塩素指数が大であり、また、洗浄液の温度85℃とした比較例8では、洗浄効果はあるが、静電容量指数が減少した。
【0027】
なお、洗浄液として、グリコール酸を添加せず、過酸化水素の濃度を1.0wt%とした比較例1では、洗浄が十分に行われず、従来例1と比較して、残留塩素指数、残留硫酸指数が増大した。
また、洗浄液として、グリコール酸の濃度を7.0wt%とし、過酸化水素を添加しない比較例3でも、洗浄が十分に行われず、従来例1と比較して、残留塩素指数が増大した。
よって、洗浄液として、グリコール酸と過酸化水素とを併用することが必須であることが分かる。
【0028】
また、洗浄工程として、リン酸濃度1.5wt%とした従来例2では、硝酸濃度0.5wt%とした従来例1と比較して、残留塩素指数、残留硫酸指数は減少しているが、静電容量指数も低減した。
【0029】
以上より、グリコール酸の濃度5.0〜10.0wt%、過酸化水素の濃度0.4〜1.0wt%で、かつ洗浄温度が35〜80℃の範囲にある実施例1〜6において、従来例1に比べて、清浄な後処理皮膜を形成でき、かつ、静電容量を向上させることができる。
【0030】
なお、一般的な後処理の条件として、水和処理としては30〜80℃の純水、イオン交換水、pH8〜11の水溶液に浸漬する方法等が挙げられる。また、水和処理を行う代わりに、純水ボイル、蒸気処理、または、公知の後処理方法を行っても実施例と同等の効果が得られた。これらの処理を水和処理と併せて行ってもよい。さらに、熱処理の温度範囲は200〜500℃が好ましい。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム箔に電気化学的なエッチング処理を行うエッチング工程と、エッチング後の洗浄工程と、洗浄工程後の皮膜形成工程と、熱処理工程とを有する電解コンデンサ用電極箔の製造方法において、
前記洗浄工程が、グリコール酸5.0〜10.0wt%、および過酸化水素0.4〜1.0wt%を含む水溶液にエッチング後の箔を浸漬する工程であることを特徴とする電解コンデンサ用電極箔の製造方法。
【請求項2】
前記洗浄工程における水溶液の温度が35〜80℃であることを特徴とする請求項1記載の電解コンデンサ用電極箔の製造方法。

【公開番号】特開2011−66032(P2011−66032A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212723(P2009−212723)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)