説明

電解コンデンサ

【課題】低域から高域までの帯域で、まとまりがありキレのある音質を提供することができるセパレータを提供するとともに、そのセパレータを使用した、オーディオ機器に好適な電解コンデンサを提供する。
【解決手段】バガスパルプを含有していることを特徴とするセパレータであって、バガスパルプの配合率を10〜30wt%としたセパレータを用いた。このセパレータを陽極箔と陰極箔の間に挟みこんで巻回したコンデンサ素子に電解液を含浸させて、金属ケースに収納し密封した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサ用セパレータおよび該セパレータを使用した電解コンデンサに関するものであり、特に音響機器用電解コンデンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、陽極箔と陰極箔とにリード端子を固着させ、陽極箔と陰極箔との間にセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に電解液を含浸して有底金属ケースに収納し、封口体によりケース開口部を封止し、製品名や定格電圧、静電容量等が印字された被覆チューブでケースの外側を被覆して作製される。セパレータとしては、通常、マニラ麻繊維やクラフトパルプ繊維などが原料に使用されてきた。
【0003】
電解コンデンサは、オーディオ機器等の音響分野において、電源回路または信号回路等に広く使用されている。そして、オーディオ機器等の音質は、程度の多寡はあるものの、使用している電解コンデンサの構造や材質等によって影響を受けることが知られている。
【0004】
例えば、音質は、電解コンデンサの誘電体に交流信号が印加されることで、誘電体が微小な収縮と膨張を繰り返したり、電解液中のイオンの流れに変化が生じたりすることによって、回路を流れる電気信号の成分が微小な変動を受けることで劣化する場合がある。
【0005】
また、電解コンデンサが使用されている周辺にスピーカーやトランス等がある場合には、音質は、該電解コンデンサ周辺の空気の振動や、該電解コンデンサが実装されている基板を介して伝播する振動により、該電解コンデンサの内部が機械的に振動することでも劣化する場合がある。
【0006】
このような現象は、電解コンデンサ固有の共振周波数において特に顕著であり、音の特定周波数成分のみが強調されてしまうために、全体的な音のバランスが損なわれていた。
【0007】
また、特定周波数成分のみが強調された音がスピーカーから出力されることで、スピーカーによって生じた空気振動が電解コンデンサに伝播して音質に影響を及ぼすため、さらにその周波数成分が強調される場合には、全体として正帰還を構成し、より一層音のバランスを損なっていた。
【0008】
このような音質への影響を緩和するために、これまでに、様々な電解コンデンサの検討がなされてきた。例えば、音質劣化を防ぐため、竹パルプを原料として抄紙したセパレータを用いた電解コンデンサ(例えば、特許文献1参照)や、音質改善などのために、セパレータとして、各種混抄したものを用いた電解コンデンサ(例えば、特許文献2及び特許文献3参照)や、コンデンサ素子とケースの間に固定剤を充填した電解コンデンサ(例えば、特許文献4参照)があった。
【0009】
しかし、これらの文献に記載された電解コンデンサを用いたとしても、日々高まっている音質改善の要求を満足することは困難であった。さらに、電解コンデンサの構造または封口体材料、電解液組成等を変更するような改良は、該電解コンデンサ自体の生産性、または耐圧、耐熱等の信頼性に及ぼす影響を常に考慮する必要があり、自ずと改良の余地が限られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−250376号公報
【特許文献2】特開平11−111570号公報
【特許文献3】特開2000−348980号公報
【特許文献4】特開2001−68385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、使用するセパレータにバガスパルプを10〜30wt%配合することにより、低域から高域までの帯域でまとまりがあり、かつキレのある音質を実現できるセパレータを提供するとともに、該セパレータを使用した、オーディオ機器に好適な音響機器用電解コンデンサを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係るセパレータは、電解コンデンサの素子を構成するものであって、該セパレータにバガスパルプが配合されていることを特徴とする電解コンデンサである。このように構成したことにより、低域から高域までの帯域で、まとまりがあり、かつキレのある音質を実現できるセパレータを提供するとともに、該セパレータを使用した、オーディオ機器に好適な音響機器用電解コンデンサを提供することができる。なお、本明細書において、バガスパルプとは、サトウキビの搾りかす等の非木材からつくられる非木材パルプをいう。
【0013】
また、好ましくは、混抄紙は、バガスパルプとマニラ麻とを混抄した紙である。このようにしたことにより、マニラ麻の強度の高さと吸水性良好な特性が加わるため、よりバランスに優れた音質が得られると考えられる。
【0014】
さらに、上記バガスパルプがセパレータ中に10〜30wt%配合されていることがより好ましい。
【発明の効果】
【0015】
電解コンデンサにバガスパルプ配合セパレータを使用することにより、低域から高域までの帯域で、まとまりがあり、かつキレのある音質を提供することができるオーディオ機器に好適な音響機器用電解コンデンサを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る音響機器用電解コンデンサは、以下のように作製する。まず、エッチング処理および酸化皮膜形成処理を行った陽極箔と陰極箔とを、バガスパルプを配合したセパレータを介して巻回してコンデンサ素子を作製し、そのコンデンサ素子に電解液を含浸させた後、コンデンサ素子を有底金属ケースに収納し、封口体によりケース開口部を封止して作製する。その後、このようにして作製した電解コンデンサのケースの外側に被覆チューブを熱収縮により被覆する。
【0017】
また、平均的に高い音質を得るため、バガスパルプの配合量は10〜30wt%とすることがより好ましい。
【0018】
以上の効果により、本発明に係る音響機器用電解コンデンサを用いれば、低域から高域までの帯域で、まとまりがある、かつキレのある音質を実現することができる。
【0019】
[用語の説明]
なお、本明細書中で用いる音質を表す用語において、「まとまり」とは、各音域がばらばらにならずに調和が取れている状態を意味し、「キレ」とは、音の立ち上がりがすばやく、かつ立ち下がりもすばやいスピード感のある音質のことを意味する。また、「解像度」とは、音の分解能であり、例えば、重なった旋律のそれぞれの把握のしやすさを意味し、「クリア感」とは、にごり・雑みのなさを意味する。さらに、「奥行き」とは、音の定位(楽曲が演奏されている位置)の明確さを意味し、「バランス」とは、一部の周波数が際立って強調されることなく、低域から高域までの周波数にわたって、出力レベルが均一に近づいている程度を意味し「低域」や「高域」とは、低いと感じる音から高いと感じる音まで、広帯域において音が忠実に再現されている程度を意味する。
【0020】
[実施例1〜4]
実施例1〜4に係る電解コンデンサは、エッチング処理および酸化皮膜形成処理を行った陽極箔と、エッチング処理および自然酸化皮膜が形成された陰極箔とを、セパレータを介して巻回してコンデンサ素子を作製した。その後、そのコンデンサ素子に電解液を含浸させた後、有底ケースに入れ、封口体によりケース開口部を封止した後、被覆チューブを熱収縮にて被覆して作製した。なお、本実施例では、上記方法で一般的な特性を有する63V、100μF品(寸法:φ10mm×20mm)の電解コンデンサを作製した。
【0021】
上記セパレータにおいて、実施例1は、マニラ麻繊維にバガスパルプを10wt%配合したものを用い、実施例2は、マニラ麻繊維にバガスパルプを30wt%配合したものを用い、実施例3は、マニラ麻繊維にバガスパルプを50wt%配合したものを用いて電解コンデンサを作製した。実施例4は、マニラ麻繊維にバガスパルプを5wt%配合したものを用いて音響用電解コンデンサを作製した。
【0022】
[従来例]
従来例としては、マニラ麻繊維のみのセパレータを用いて電解コンデンサを作製した以外は、実施例と同様の方法で音響用電解コンデンサを作製した。
上記実施例、従来例4種の音響用電解コンデンサを使用して試聴を行い、音質を比較評価した。
【0023】
なお、評価方法としては、上記した各実施例と従来例との音響機器用電解コンデンサを、オーディオ機器の信号回路において、カップリングコンデンサとして用いたときの音質を10点満点として評価比較して行った。その結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1より従来例に比べ、実施例は平均値が高く高音質であり、かつ、まとまりを従来例以上としながらキレを向上させることができ、解像度、クリア感の点数の高さから適度に硬質でクリアな音が得られることが分かる。また、バガスパルプの配合量を10〜30wt%とすることで、平均値が高く高音質で、まとまりとキレをともに向上させた音質にすることができる。
【0026】
また、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、課題を解決するための手段に記載された範囲の限りにおいて、様々な変更が可能なものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する電極箔間にセパレータを介して巻回または積層したコンデンサ素子に電解液を含浸した後、前記コンデンサ素子を封止してなる音響機器用電解コンデンサであって、前記セパレータがバガスパルプを含有してなる混抄紙であることを特徴とする電解コンデンサ。
【請求項2】
前記混抄紙がバガスパルプとマニラ麻とを混抄した紙であることを特徴とする請求項1記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記セパレータが10〜30wt%のバガスパルプを含有してなる混抄紙であることを特徴とする請求項1の電解コンデンサ。


【公開番号】特開2010−238969(P2010−238969A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86220(P2009−86220)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)