説明

露光装置用対物レンズ取り付け部材

【課題】 プロキシミティタイプの露光装置の露光時にマスクの位置合せ用マークと基板の位置合せ用マークとを位置合わせするために用いる顕微鏡の対物レンズ取り付け部材であって、軽量で剛性に優れ、なおかつ熱膨張が小さい露光装置用対物レンズ取り付け部材を提供する。
【解決手段】 プロキシミティタイプの露光装置内に配置される対物レンズ取り付け部材を、Siマトリックス中にSiC強化材を30〜80体積%含有する金属基複合材料により形成する。このようにして、軽量で剛性に優れ、なおかつ熱膨張が小さい露光装置用対物レンズ取り付け部材を得る。このようにすると従来のアルミニウムを対物レンズ取り付け部材として用いた露光装置よりも高速度で露光を行うことが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクと基板とを隙間を設けて配置し、かつ、マスクの位置合せ用マークと基板の位置合せ用マークとを位置合せして露光するプロキシミティタイプの露光装置の構成部材に係わる技術分野に属し、詳しくは、プロキシミティタイプの露光装置の露光時にマスクの位置合せ用マークと基板の位置合せ用マークとを位置合わせするために用いる顕微鏡の対物レンズ取り付け部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マスクと基板の間にわずかに隙間を設け、1:1の関係(倍率)で露光を行うプロキシミティタイプの露光装置において、基板に複数の層を正確に露光するためには、各層の露光の度にマスクと基板の位置合せ(アライメント)を行う必要がある。この時、基板とマスクについている位置合せ用のマーク(アライメントマーク)を使用するが、基板とマスクが複数個のアライメントマークを備えている場合がある。たとえば、1つのマスクを複数の層の露光に兼用する場合がその一例である。1回(1層)の位置合せ(アライメント)には、基板とマスクの一対の位置合せマーク(アライメントマーク)をマスクの左右両側2箇所で使用する。
【0003】
従来においては、基板の位置合せ用マークとマスクの位置合せ用マークを使用して基板とマスクの位置合せをする方式として顕微鏡を使用して目視又は画像処理で行う方式があり、顕微鏡をマーク位置に合わせる時の位置と、露光時の位置との間で往復移動自在にしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。こうした往復移動する顕微鏡の対物レンズの取り付け部材に、従来はアルミニウムが用いられてきた。
【特許文献1】特開平6−244074号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、半導体装置の量産化と歩留まり向上への要求は益々高まる傾向にあり、スループット向上のため、こうした顕微鏡の対物レンズ取り付け部のような駆動部材をより高速に移動、停止させる必要がでてきている。さらに、高速移動時の歪による位置合せ精度の低下を防ぐために剛性が高く、かつ温度変化の影響を受けにくい熱膨張の小さな部材を用いる必要がでてきた。
【0005】
しかしながら、従来のアルミニウムを用いた対物レンズの取り付け部材では、軽量であるものの、熱膨張係数は大きく、剛性が十分ではないため高速移動と停止に限界があるという課題があった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、軽量で剛性に優れ、なおかつ熱膨張が小さい露光装置用対物レンズ取り付け部材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、上記した本発明の目的は下記の手段により達成される。
(1)プロキシミティタイプの露光装置の露光時にマスクの位置合せ用マークと基板の位置合せ用マークとを位置合わせするために用いる顕微鏡の対物レンズ取り付け部材であって、該対物レンズ取り付け部材が金属基複合材料で形成されてなることを特徴とする露光装置用対物レンズ取り付け部材。
(2)前記金属基複合材料がSiマトリックス中にSiC強化材が複合されたものであり、かつ、該金属基複合材料中のSiC強化材の含有率が30〜80体積%であることを特徴とする(1)記載の露光装置用対物レンズ取り付け部材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以下に詳細に説明するとおり、往復移動する露光装置の顕微鏡の対物レンズの取り付け部材として金属基複合材料を用いることにより、高速での移動、停止が可能となり、かつ、歪や温度変化による位置合せ精度の低下を防ぐことができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について、更に詳しく説明する。
本発明では、プロキシミティタイプの露光装置の露光時にマスクの位置合せ用マークと基板の位置合せ用マークとを位置合わせするために用いる顕微鏡の対物レンズ取り付け部材であって、該対物レンズ取り付け部材が金属基複合材料で形成されてなることを特徴とする露光装置用対物レンズ取り付け部材を提案している。(請求項1)
【0010】
ここで、対物レンズ取り付け部材として金属基複合材料を用いた理由は、アルミニウムよりも剛性が高い金属基複合材料を使用することにより高速での移動、停止が可能になり、歪による位置合せ精度の低下を防ぐことができるためである。
【0011】
また、本発明では、前記金属基複合材料がSiマトリックス中にSiC強化材が複合されたものであり、かつ、該金属基複合材料中のSiC強化材の含有率が30〜80体積%であることを特徴とする前記記載の露光装置用対物レンズ取り付け部材を提案している。(請求項2)
【0012】
ここで、金属基複合材料の強化材としてSiCを、マトリックスとしてSi用いた理由は、従来用いられてきたアルミニウムに比べて剛性が高く、熱膨張係数の小さい材料を用いることにより、高剛性で熱膨張係数の小さい複合材料が作製でき、温度変化による位置合せ精度の低下を防ぐことができるためである。
また、SiC強化材の含有率を30〜80体積%に限定したのは、SiC強化材の含有率が30体積%よりも少ない場合では、金属基複合材料の剛性が低いため、高速での移動、停止をする際に歪により位置合せ精度が低下するためであり、また、SiC強化材の含有率を80体積%以下とする理由は、80体積%より含有率が高いと緻密な金属基複合材料を得ることが困難であるからである。
【0013】
以下、本発明に係る金属基複合材料で作製した露光装置用部材の実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0014】
(実施例1)
(1)対物レンズ取り付け部材用の複合材料の作製
市販のSiC粉末(信濃電気精錬社製、平均粒径10μm)100重量部に有機バインダーとしてフェノール樹脂10重量部(炭素換算3重量部)を混合した。これを100×200×H70mmの位置合せ用顕微鏡の対物レンズ取り付け部材形状が得られる金型に充填し、プレス成形した後、窒素雰囲気中で1000℃の温度で3時間加熱処理を行った。
これにより、フェノール樹脂は炭化されSiC充填率50体積%のプリフォームを得た。得られたプリフォームと金属Siとをアルゴン雰囲気中1600℃の温度で6時間保持し、プリフォーム中に溶融Siを含浸させて金属基複合材料(SiC強化材の含有率は50体積%)からなる対物レンズ取り付け部材を作製した。
【0015】
(2)評価
次に、このようにして得られた顕微鏡の対物レンズ取り付け部材のかさ密度をJIS R 1634記載の方法で求めたところ、2.80g/cm3とアルミニウムと同程度であった。また、得られた顕微鏡の対物レンズ取り付け部材と同じ方法で作製した材料から3×4×40mmの試験片を切り出し、共振法によりヤング率を測定したところ、280GPaと高い値を示した。 さらに、同試験片から3×4×12mmの形状を切り出し、25〜400℃までの線熱膨張係数をJIS R 1618記載の方法で測定したところ、2.8ppm/℃と小さい値であった。得られた評価結果を表1まとめてに示す。
【0016】
(実施例2)
SiC強化材の含有率を30体積%となるようにした以外は実施例1と同様にして作製した金属基複合材料の物性を、実施例1と同様の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0017】
(比較例1)
比較例として、市販の純アルミニウムから試験片を切り出して実施例と同様に測定した評価結果を表1に示した。
【0018】
【表1】

【0019】
表1の結果から明らかなように、本発明の実施例1および2により得られた金属基複合材料は、従来例の比較例1と同程度に軽量であり、かつ、ヤング率は格段に高いため剛性は十分である。さらに、熱膨張係数は比較例1より格段に小さいことが分かった。
本発明の実施例1および2により得られた金属基複合材料による対物レンズ取り付け部材をプロキシミティタイプの露光装置に配置したところ、従来よりも2倍の速さで移動しても精度のばらつきは低下しなかった。
このように、本発明の金属基複合材料で作製した露光装置用顕微鏡の対物レンズ取り付け部材によれば、軽量で高剛性であるため、高速移動、停止が可能であり、歪や温度変化による位置決め精度の低下を防ぐ効果がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロキシミティタイプの露光装置の露光時にマスクの位置合せ用マークと基板の位置合せ用マークとを位置合わせするために用いる顕微鏡の対物レンズ取り付け部材であって、該対物レンズ取り付け部材が金属基複合材料で形成されてなることを特徴とする露光装置用対物レンズ取り付け部材。
【請求項2】
前記金属基複合材料がSiマトリックス中にSiC強化材が複合されたものであり、かつ、該金属基複合材料中のSiC強化材の含有率が30〜80体積%であることを特徴とする請求項1記載の露光装置用対物レンズ取り付け部材。

【公開番号】特開2006−32743(P2006−32743A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−210895(P2004−210895)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】