説明

風力発電設備に用いられる減速装置

【課題】風力発電設備に用いられる減速装置の過回転からの保護と、ある程度の制動力の維持(駆動対象物の過度のふらつきの防止)とを、合理的に且つ安全に両立させる。
【解決手段】風力発電設備10に用いられる減速装置G1〜G4であって、当該減速装置G1〜G4の動力伝達経路上に制動機構(制動手段)B1を備え、前記制動機構B1が、相対的に回転する2つのメンバのうちより速い速度で回転する継軸(第1メンバ)26側に設けられたブレーキシュー(第1部材)54と、前記継軸26より遅い速度で回転または固定されている(この例では固定)ブレーキドラム(第2部材)56とを有し、かつ前記継軸26またはブレーキドラム56の回転速度が予め定められた回転速度以上になると、遠心力によってブレーキシュー54とブレーキドラム56が互いに接触し、前記継軸26の回転速度を低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電設備に用いられる減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、風力発電設備のナセル(発電室)のヨー制御、或いは風車ブレードのピッチ制御に用いられる減速装置が開示されている。
【0003】
また、風力発電設備は、自然環境下に設置されるため、ときに乱れた風や突風を受けたりすることがある。
【0004】
風力発電設備に用いられる減速装置は、通常はモータの駆動によってナセルのヨー制御や風車ブレードのピッチ制御を行うが、当該巨大な風力負荷が風車ブレードに掛かると、該風車ブレードやナセルが風によって直接動かされてしまい、減速装置の出力軸側から回転が逆に流入してくるという現象が発生する。これにより、「減速装置」は出力軸側から入力が与えられた「増速装置」として機能し、減速装置内の各部材やモータを極めて高速で回転させ、ときに破壊に至らせてしまう。
【0005】
この特許文献1では、風車ブレード側から設定値以上の過大トルクが入力されて来たときに、スリップカップリングを作動させ、駆動系の動力伝達を遮断して該駆動系の過負荷を防止する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】US2007−0098549A1(請求項1、段落[0015])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1におけるスリップカップリングは、駆動系に予め設定された閾値以上の風力負荷が伝達されてくると、減速装置内の動力の伝達そのものを遮断してしまうものであった。そのため、実際問題として、例えば強い風力負荷が掛かるような状況において、該風力負荷に抗してヨー制御が行われているとき(ナセルがある方向に固定・維持されているとき)に、より過大な風力負荷が掛かって減速装置内の動力伝達が遮断されると、駆動系がフリーの状態となってしまうという問題があった。すなわち、動力伝達が遮断されることによって、それまで行われていたナセルの方向の維持ができなくなり、ナセルが風に任せて無制御状態で激しく振れ回る状態が生じてしまうという問題があった。
【0008】
また、停電時も同様に、駆動系がフリーの状態となってそれまで行われていたナセルの方向の維持ができなくなり、その状態で強い風力負荷が掛かるような状況において、無制御状態のまま激しく振れ回る状態が生じてしまうという問題があった。
【0009】
この事情は、ピッチ制御のための減速装置においても、「当該減速装置の動力伝達が過負荷によって遮断された場合に、風車ブレードが風に任せて無制御状態で激しくふらつく状態が生じてしまう」という点で同様である。
【0010】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたものであって、風力発電設備の駆動対象物が過度にふらつく状態が生じるのを防止しながら、減速装置を保護することのできる風力発電設備に用いられる減速装置を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、風力発電設備側に設けられた歯車と噛合う出力ピニオンを備えた減速装置であって、当該減速装置の動力伝達経路上に制動手段を備え、前記制動手段が、相対的に回転する2つのメンバのうちより速い速度で回転する第1メンバ側に設けられた第1部材と、前記第1メンバより遅い速度で回転または固定されている第2メンバ側に設けられた第2部材とを有し、かつ前記第1メンバの回転速度が予め定められた回転速度以上になると、遠心力によって前記第1部材と第2部材が互いに接触し、前記第1メンバの回転速度を低下させる構成とされていることにより、上記課題を解決したものである。
【0012】
駆動対象物の過度なふらつきの防止と減速装置の保護とを両立させるには、動力伝達の遮断と制動力の付与とをバランスさせる必要がある。こうした制御は、例えば、モータ軸、或いは減速装置内の特定の部材の回転速度を検出し、検出された回転速度に応じてクラッチを適度に解放したり制動力を適度に付与したりすることで実現できる。しかし、この手法は、特定の部材の回転速度を検出するために、何らかの「センサ機構」が必要である。ところが、このような過回転や過負荷が問題となるような暴風が吹き荒れている気象状況というのは、同時に激しい雨や頻繁な落雷を伴っていることが多く、停電や電源系、制御系の不良等によってこうしたセンサ機構が必ずしも常に正常に機能するという保証がない。したがって、「荒れた天候時に行う風力発電設備の保護制御」としては必ずしも適正な手法とは言えない。
【0013】
そこで、本発明では、減速装置の保護機能を発揮させるためのトリガ(モータ軸等の回転速度等)を、「数値的な値」として検出するのではなく、「遠心力による機械的な動き(特定の現象)」として把握するようにしている。しかも、この「遠心力による機械的な動きそのもの」を積極的に利用し、減速装置の回転自体を直接低下させ、駆動系に制動力を与える。これにより、ナセル等の駆動対象物が過度にふらつく状態が生じるのを防止しながら、過回転に因って軸受やモータが破損したり焼損したりしてしまうのを同時に防止できる。
【0014】
突風や風向の変化に伴って減速装置の出力側から入力されてくる負荷が強いとき程、過度のふらつきを防止するためには強い制動力が必要である。本発明によれば、減速装置の出力側から入力されてくる風力負荷が強ければ強いほど、回転系にそれだけ強い遠心力が発生し、強い制動力が得られる。また、本発明によれば、ただ単に強い制動力を与えるのではなく制動力の付与によって駆動系の回転速度が低下するのに従い、遠心力が弱まってまた回転を許容し得る状態が形成される。そのため、いわゆる停止状態で(完全制動状態で)風力トルクを全面的に受ける状態が回避され、減速装置の各部が過負荷によって破損してしまうのを防止できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、風力発電設備の駆動対象物が過度にふらつく状態が生じるのを防止しながら、減速装置を保護することのできる風力発電設備に用いられる減速装置を提供することをその課題としている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態の一例に係る風力発電設備に用いられる減速装置の全体断面図
【図2】図1の要部拡大断面図
【図3】図1の減速装置の制動機構の構成を示す平面図
【図4】上記減速装置が適用されている風力発電設備の全体構成を示す正面図
【図5】上記減速装置が適用されている風力発電設備のヨー駆動装置の全体概略斜視図
【図6】上記減速装置がヨー駆動装置に用いられている様子を示す断面図
【図7】本発明の他の実施形態の一例に係る風力発電設備に用いられる減速装置の全体断面図
【図8】図7の要部拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態の一例に係る風力発電設備に用いられる減速装置について詳細に説明する。
【0018】
始めに、当該減速装置が適用されている風力発電設備の概略から説明する。
【0019】
図4及び図5を参照して、この風力発電設備10は、円筒支柱11の最上部にナセル(発電室)12を備える。ナセル12には、ヨー(Yaw)駆動装置14と、ピッチ(Pitch)駆動装置16が組み込まれている。ヨー駆動装置14は、円筒支柱11に対するナセル12全体の旋回角を制御するためのものであり、ピッチ駆動装置16は、ノーズコーン18に取り付けられる3枚の風車ブレード20のピッチ角を制御するためのものである。
【0020】
この実施形態では、ヨー駆動装置14に本発明が適用されているため、ここではヨー駆動装置14について説明する。
【0021】
このヨー駆動装置14は、モータ22、出力ピニオン24付きの4個の減速装置G1〜G4、及びそれぞれの出力ピニオン24と噛合する1個の旋回用内歯歯車28を備えている。各減速装置G1〜G4は、それぞれナセル12の本体側の所定の位置に固定されている。図6を合わせて参照して、各減速装置G1〜G4のそれぞれの出力ピニオン24が噛合している旋回用内歯歯車28は、円筒支柱11側に固定されており、ヨーベアリング30の内輪を構成している。ヨーベアリング30の外輪30Aは、ナセル12の本体12A側に固定されている。なお、図6の符号25はヨー駆動装置14のブレーキ機構である。このブレーキ機構は、ヨー駆動装置を意図的に制動するために備えられているものであるが、なくてもよい。
【0022】
この構成により、各減速装置G1〜G4のモータ22によって各出力ピニオン24を同時に回転させると、該出力ピニオン24が旋回用内歯歯車28と噛合しながら旋回用内歯歯車28の中心36(図5参照)に対して公転する。この結果、ナセル12全体を円筒支柱11に固定されている旋回用内歯歯車28の中心36の周りで旋回させることができる。これにより、ノーズコーン18を所望の方向(例えば風上の方向)に向けることができ、効率的に風圧を受けることができる。
【0023】
前記減速装置G1〜G4は、それぞれ同一の構成を有しているため、ここでは図1を参照して、減速装置G1について説明する。
【0024】
減速装置G1はモータ22、2段の揺動内接式の初段及び後段減速機構G11、G12を備える。モータ22は、減速装置G1の反負荷側の継ケース23に取り外し可能に設けられ、該モータ22が取り付けられることによって形成される密閉空間P1内に本発明に係る制動機構(制動手段)B1が組み込まれている。制動機構B1及びその周辺の構成については、後に詳述する。
【0025】
以下、動力伝達経路を順に説明していく。
【0026】
モータ22のモータ軸25には、継軸26がキー27を介して一体回転可能に組み付けられている。継軸26は減速装置G1の初段の減速機構G11の入力軸30と一体化されている。初段の減速機構G11は、当該入力軸30、該入力軸30に設けられた2つの偏心体34、該偏心体34を介して偏心揺動する2枚の外歯歯車36、該外歯歯車36が内接噛合する内歯歯車38を備える。2枚の外歯歯車36は、その偏心位相が丁度180度ずれており、互いに離反する方向に偏心した状態を維持しながら揺動回転する。内歯歯車38の内歯は,この実施形態ではピン及びローラで構成されており,内歯歯車本体は、高速側ケーシング体39と一体化されている。内歯歯車38の内歯の数(ピン及びローラの数)は、外歯歯車36の外歯の数より僅かだけ(例えば1だけ)多い。外歯歯車36には内ピン40が遊嵌されている。内ピン40は、初段出力フランジ42と一体化され、該初段出力フランジ42は、初段出力軸44と一体化されている。
【0027】
この実施形態では、内歯歯車38が高速側ケーシング体39と一体化されているため、初段減速機構G11の入力軸30が回転すると外歯歯車36が偏心体34を介して揺動し、該外歯歯車36の内歯歯車38に対する相対回転(自転)が、内ピン40及び初段出力フランジ42を介して初段出力軸44から(初段減速機構G11の出力として)取り出される構成とされている。
【0028】
初段出力軸44は、ホロー軸とされており、該ホロー部44Aに後段減速機構G12の入力軸130が接着剤による接着とともに圧入連結されている。後段減速機構G12は、細部の構成は若干異なるが,動力伝達系の基本的な構成は、先の初段減速機構G11とほぼ同様である。そのため、同一又は、対応する部位に図1中で下2桁が同一の符号を付すに止め、後段減速機構G12の詳細な説明は省略する。後段減速機構G12の出力軸144は、スプライン146を介して前出の出力ピニオン24が固定・連結されており、該出力ピニオン24が既に説明した旋回用内歯歯車28(図5、図6)と噛合する構成とされている。
【0029】
次に、図2及び図3を合わせて参照して、当該減速装置に組み込まれている制動機構(制動手段)B1の付近の構成について詳細に説明する。
【0030】
前述したように、モータ22は、減速装置G1の継ケース23に取り外し可能に設けられている。モータ22のフロントカバー22Aは、継ケース23のフランジ部23Aと図示せぬOリング等のシール部材を介して密着した状態でボルト(図1にて中心線のみ図示)を介して連結されている。モータ軸25に嵌着されている継軸26を継ケース23に回転自在に支持している軸受50は、シール機能のあるシール軸受とされている。このため、該モータ22が継ケース23に取り付けられことで、モータ22のフロントカバー22Aと継ケース23とで密閉空間P1を形成することが可能である。
【0031】
制動機構B1はこの密閉空間P1に収容されている。密閉空間P1には冷却油が封入されている。すなわち、この実施形態の制動機構B1は該冷却油の中で作動する「湿式」の制動機構である。なお、前記シール機能を有する軸受50に隣接して、いわゆる振り切り機構付きのオイルシール52が組み込まれている。このオイルシール52は、金属製のベース体52Aと、金属製のカバー体52Bとで構成される空間内に、ゴム製の第1シール体52C、および該第1シール体52Cに対向する第2シール体52Dを組み込んだものである。第1シール体52Cにはリップ面52C1が形成され、第2シール体52Dとの間には狭い迷路(ラビリンス)が形成されている。これにより、これから説明する制動機構B1側で生じた摩耗粉等が初段減速機構G11内に入り込んでくるのを防止している。
【0032】
本発明に係る制動機構は、第1メンバ側に設けられた第1部材と、第2メンバ側に設けられた第2部材と、を備える。
【0033】
ここで、第1メンバとは、相対的に回転する2つのメンバのうち、より速い速度で回転するメンバのことである。また、第2メンバとは、第1メンバより遅い回転速度で回転しているメンバのことである。この「より遅い回転速度で回転」の概念には「速度0での回転」すなわち「固定状態」の概念が含まれる。本実施形態では、モータ軸25に嵌着され、減速装置G1の入力軸30と同一の速度で回転している継軸26が第1メンバに相当している。また、固定状態にある継ケース23が第2メンバに相当している。
【0034】
以下、詳述する。
【0035】
第1メンバたる継軸26には、前記第1部材に相当する3個のブレーキシュー54が設けられている。ブレーキシュー54は、その半径方向外側に軸直角断面が円弧状の第1摩擦部54Aを備えている。第2メンバたる継ケース23には、前記第2部材に相当するブレーキドラム56がドラム固定ボルト57を介して固設されている。ブレーキドラム56は、継ケース23よりも硬い素材で形成され、ブレーキシュー54の第1摩擦部54Aとほぼ同一の内径で対向する第2摩擦部56Aを備えている。
【0036】
この制動機構B1は、継軸(第1メンバ)26が予め定められた回転速度以上になると、遠心力によってブレーキシュー(第1部材)54とブレーキドラム(第2部材)56が互いに接触し、継軸26の回転速度を低下させる構成とされている。そして、この制動機能を発揮するために、この実施形態では、ガイド機構58と、ばね機構60と、を備えている。
【0037】
ガイド機構58から説明する。ガイド機構58は、ブレーキシュー54を継軸26に対し円周方向に固定するとともに半径方向に変位可能とするものである。この実施形態では、継軸26の外周にはスプライン62を介してブレーキボス64が嵌着されている。ブレーキボス64は、止め輪59を介して該継軸26に対する軸方向の位置決めがなされている。このブレーキボス64は、継軸26の軸心O1から半径方向に突出・延在された3本のガイド部64Aを有している。各ガイド部64Aは、継軸26の軸心O1と垂直(図3の紙面と垂直)な一対のガイド面64A1を備えている。一方、ブレーキシュー54には、その半径方向内側にこのガイド面64A1に沿って半径方向に摺動可能な被ガイド面54Bが形成されている。被ガイド面54Bは、軸直角断面がコ字形とされ、当該一対のガイド面64A1に半径方向外側から摺動可能に覆い被さっている。この構成により、ガイド機構58は、ブレーキシュー(第1部材)54を、継軸(第1メンバ)26に対して円周方向に固定するとともに半径方向に変位可能としている。
【0038】
一方、前記ばね機構60は、ブレーキシュー54に対して半径方向内側への付勢力を与えるもので、この実施形態では、隣接し合うブレーキシュー54、54を相互に連結するコイルばね66によって構成されている。各コイルばね66は、それぞれの自由長よりも引っ張られた状態で各ブレーキシュー54の組込穴54Cに組み付けられており、各コイルばね66の引っ張り力の半径方向成分がブレーキシュー54に対して半径方向内側への付勢力を与えている。
【0039】
この制動機構B1は、このような基本構成を有し、コイルばね66を組み込んだ状態で、ブレーキシュー(第1部材)54とブレーキドラム(第2部材)56との間に、所定の隙間δ1(図2参照)が確保されている。この隙間δ1の存在により、継軸(第1メンバ)26の回転速度が低いときは、ブレーキシュー54は、ブレーキドラム56と接触しない状態を維持する。一方、継軸26の回転速度が予め定められた回転速度を超えると、ブレーキシュー54に発生する遠心力がコイルばね66の付勢力に打ち勝って該ブレーキシュー54が半径方向外側に移動(摺動)して隙間δ1が詰められ、その結果、ブレーキシュー54とブレーキドラム56が摩擦接触して継軸26の回転速度を低下させる。隙間δ1は、この作用が良好に行われ得るような「大きさ」に設定される。
【0040】
すなわち、この構成から理解できるように、本発明に係る「第1メンバの回転速度が予め定められた回転速度を超えると」という文言は、『第1メンバの回転速度が(ある)回転速度を超え、それに伴って遠心力によって「機械的な所定の動き(特定の現象)」が生じるようになると』という趣旨で用いられている。換言するならば、当該「予め定められた回転速度」は、前記ブレーキシュー54の質量や隙間δ1等の設定によって(値自体は不確定にアナログ的)に定められるものであって、特定の数値(rpm)としてデジタル的に定められるものではない。定性的には、第1メンバである継軸26の回転速度が、当該モータ22が定格回転速度で回転するときの回転速度を明らかに超えた回転速度となったときに隙間δ1が詰められて制動が掛かり始めるような設定が好ましい。
【0041】
また、モータ22の定格回転速度を超える回転速度であっても、モータ22等に損傷の生じるおそれがほとんどない回転速度であれば、ブレーキシュー54とブレーキドラム56を接触させない方が、両者の摩耗を低減する観点から好ましい。つまり、モータ22の定格回転速度よりも高く、かつ損傷のおそれがある程度存在する回転速度で、ブレーキシュー54とブレーキドラム56が接触するように設定するのがよい。具体的には、モータの定格回転速度(同期回転速度)の110%以上、好ましくは130〜150%程度でブレーキシュー54とブレーキドラム56が接触するように設定するのがよい。
【0042】
例えば、4極モータであれば、定格回転速度は1500〜1800rpm程度であることから、1650rpm以上、好ましくは1950〜2700rpm程度に設定するのがよい。また、6極モータであれば、同期回転速度が1000〜1200rpm程度であることから、1100rpm以上、好ましくは1300〜1800rpm程度に設定するのがよい。
【0043】
なお、第2メンバは、第1メンバより回転速度が遅ければ、(本実施形態のように)固定メンバであってもよいし、また、回転するメンバであってもよい。第2メンバが回転するメンバであるときに、本制動機構によって第1、第2メンバ間に摩擦制動を掛けると、(回転速度が高くトルクの小さな)第1メンバの方が、より円滑に第2メンバの回転速度に近づく(第1メンバの回転速度が先に低下する)現象が発生する。すると、第2メンバの回転速度は、「第1メンバとの比例関係」を崩せないため、第1メンバの当該低下した回転速度に対応する回転速度にまで低下せざるを得なくなる。その結果、結局、第1、第2メンバの回転速度の双方が共に零に近づくように(比例関係を保って)変化してゆくことになり、第1メンバ(および第2メンバ)の回転速度を低下させることができる。例えば、揺動内接噛合式の遊星歯車機構や単純遊星歯車機構を採用した減速装置等にあっては、入力軸と隣接して出力軸の回転速度と同一の(遅い)回転速度で回転しているキャリヤが存在することが多いため、入力軸を第1メンバ、キャリヤを第2メンバとする構成は有効である。
【0044】
次に、この風力発電設備に用いられる減速装置の作用を、主に制動機構の作用に着目して説明する。
【0045】
モータ22のモータ軸25が回転すると、モータ軸25に嵌着されている継軸26が回転する。継軸26が回転すると、制動機構B1のブレーキシュー54が遠心力を受け、コイルばね66の付勢力に打ち勝ってブレーキボス64のガイド面64A1に沿って半径方向外側に摺動する。
【0046】
この摺動量は、通常のモータ22から駆動力が提供されているときには、前記ブレーキシュー(第1部材)54とブレーキドラム(第2部材)56との間の隙間δ1よりも小さく、したがって、制動機構B1は回転系に対して何らの抵抗も与えない。しかしながら、風車ブレード20側から風力による巨大なトルクが掛かって減速装置G1が出力側から強制的に「増速駆動」されると、減速装置G1(〜G4)の各部材やモータ22が、非常に速い回転速度で回転させられ、破損等の危険が生じるようになる。
【0047】
この実施形態では、継軸26の回転速度が予め定められた回転速度を超えると、ブレーキシュー54に掛かる遠心力によって該ブレーキシュー54がブレーキボス64のガイド面64A1に沿って大きく摺動し、ブレーキシュー54の第1摩擦部54Aとブレーキドラム56の第2摩擦部56Aとが摩擦接触するようになる。
【0048】
第1、第2摩擦部54A、56Aの接触圧力は、継軸26の回転速度が大きければ大きい程高くなるため、風力が強くて減速装置G1の各部材の過回転の程度が大きい程、第1、第2摩擦部54A、56Aでより大きな制動力を得ることができる。この作用は、シールされた密閉空間P1内に収められた制動機構B1での(遠心力を利用した)機械的な作用であるため、電源やセンサ、制御回路等を必要としない。換言するならば、たとえ暴風や激しい雨、あるいは頻繁な落雷等が発生しているような悪天候下であっても、非常に信頼性の高い制動機能を得ることができる。
【0049】
また、スリップカップリングやクラッチの解放等によって減速装置の動力伝達系を開放してしまう制御と異なり、風車ブレード20やナセル12が風によって(無制御状態で)激しく揺れ動くことを防止できる。つまり、ナセル12を旋回させるヨー制御中、あるいは図6に示すブレーキ25を開放し、ナセル12を円筒支柱11に対してフリーな状態としているときに、突風や急激な風向の変化によって、出力ピニオン24側から過大トルクが入力された場合にも、制動機構B1により制動がなされるので、過回転による各部の損傷を防止できるとともに、ナセル12自体が過度にふらつく状態が生じてしまうことも防止できる。
【0050】
制動機構B1が機能することによって回転速度が低下させられた減速装置G1の回転系の運動エネルギは、大きな熱エネルギとして第1、第2摩擦部54A、56Aから放出されるが、本実施形態に係る制動機構は、「湿式」であって、熱容量が大きく、また、この放出された熱エネルギを冷却機能を兼ねた潤沢な潤滑剤によって吸収することができる。特に、減速装置の回転系の過回転が問題になる程に風が強い場合には、当該風によるケーシングの冷却効果も期待できる。
【0051】
また、この実施形態では、モータ22が取り外し可能であり、制動機構B1を収容している密閉空間P1が該モータ22が取り付けられることによって形成されるようになっていたため、ケーシング構成に無駄がなく、重量軽減、およびコンパクト化が実現できている。
【0052】
さらに、本実施形態ではブレーキドラム56が継ケース(ケーシング)23よりも硬い素材で形成されているため、耐久性があり、また、万一、ブレーキシュー54やブレーキドラム56が消耗したとしても、モータ22を取り外してドラム固定ボルト57を緩めるだけで該ブレーキドラム56を交換することができるため、メンテナンスも容易である。
【0053】
また、ブレーキシュー54やブレーキドラム56を交換する場合であっても、例えばブレーキシュー54およびブレーキボス64にコイルばね66が装着されている「セット」を止め輪59を外して継軸26にスプライン62を介して係合するだけで済むため、現地で容易に交換することができる。
【0054】
また、仮に、制動機構B1が機能することによって第1、第2摩擦部54A、56Aが摺動し、摩耗粉等が発生したとしても、本実施形態ではシール軸受50に隣接して振り切り機構付きのオイルシール52が組み込まれているため、当該摩耗粉が減速機構側に入り込むのが効果的に防止されるようになっている。
【0055】
図7に、上記実施形態の変形例を示す。図8は図7の要部拡大断面図である。この変形例では、上記実施形態と比較して、振り切り機構付きのオイルシールの配置が省略されることによってコストダウンされている。また、給油口70と排油口72が配置されることによって冷却油の交換が容易に行えるように構成したことが主な相違点である。その他の構成は、先の実施形態と同様であるため、図7、8中で先の実施形態と同一または類似する部分に同一の符号を付すに止め、重複説明を省略する。
【0056】
なお、上記実施形態においては、制動機構(制動手段)B1が収容される密閉空間P1が、モータ22が取りつけられることによって初めて形成されるようにしていたが、本発明においては、制動機構を収容する密閉空間を、どのような構成で形成するかについては、特に限定されない。また、そもそも、制動手段は湿式である必要もなく、この場合には、当該密閉空間そのものを必要としない。また、必ずしも第1部材と第2部材がモータを取り外した際に交換できる位置に取り付けられている必要もない。
【0057】
また、上記実施形態においては、第2部材が(第2メンバたる固定状態の)ケーシングに着脱自在に固定されていたが、本発明においては、ガイド機構やばね機構の構成を含め、制動機構の具体的な構成については特に限定されない。要は、遠心力によって第1部材と第2部材とが互いに接触し、第1メンバの回転速度が低下される構成とされていればよい。
【0058】
上記実施形態においては、減速装置を構成する減速機構が偏心揺動型の減速機構とされていたが、本発明の減速装置に適用される減速機構は特に限定されるものはなく、例えば単純遊星型の減速機構やウォーム減速機構であってもよい。
【0059】
上記実施形態においては、制動機構B1を減速機構よりもモータ側に配置しており、このような構成とすることは、速度変化に対する摩擦損失の変化が大きく、また制動するトルクが小さいため制動機構B1を小型化できることから好ましいが、本発明においては、制動機構の配置位置は限定されず、モータから出力ピニオンまでの動力伝達系のいずれかの箇所に配置されていればよい。
【0060】
上記実施形態においては、密閉空間P1に冷却油が封入されているが、密閉空間P1に封入されるのは油に限定されず、制動機構B1の制動性能を損なうことなく冷却可能な液体であれば、どのような液体でもよい。
【符号の説明】
【0061】
10…風力発電設備
12…ナセル
14…ヨー駆動装置
22…モータ
23…継ケース(第2メンバ)
24…出力ピニオン
26…継軸(第1メンバ)
28…旋回用内歯歯車
54…ブレーキシュー
56…ブレーキドラム
58…ガイド機構
60…ばね機構
66…コイルばね
G1〜G4…減速装置
B1…制動機構(制動手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力発電設備側に設けられた歯車と噛合う出力ピニオンを備えた減速装置であって、
当該減速装置の動力伝達経路上に制動手段を備え、
前記制動手段が、
相対的に回転する2つのメンバのうちより速い速度で回転する第1メンバ側に設けられた第1部材と、前記第1メンバより遅い速度で回転または固定されている第2メンバ側に設けられた第2部材とを有し、かつ
前記第1メンバの回転速度が予め定められた回転速度以上になると、遠心力によって前記第1部材と第2部材が互いに接触し、前記第1メンバの回転速度を低下させる構成とされている
ことを特徴とする風力発電設備に用いられる減速装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記減速装置が、その反負荷側に取り外し可能なモータを備え、
前記第1部材と第2部材の少なくとも一方が、該モータを取り外した際に、交換できる位置に取り付けられている
ことを特徴とする風力発電設備に用いられる減速装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記制動手段が、冷却液で満たされた密閉空間内で作動する湿式の制動手段である
ことを特徴とする風力発電設備に用いられる減速装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記減速装置が、その反負荷側に取り外し可能なモータを備え、
前記密閉空間が、前記モータが取り付けられることによって形成される
ことを特徴とする風力発電設備に用いられる減速装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
前記制動機構が、更に、
前記第1部材を、前記第1メンバに対し円周方向に固定するとともに半径方向に変位可能とするガイド機構と、
前記第1部材に対して半径方向内側への付勢力を与えるばね機構と、を備えている
ことを特徴とする風力発電設備に用いられる減速装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記第1部材が円周方向に複数備えられ、
前記ばね機構が、隣接する第1部材同士を相互に連結するコイルばねによって構成されている
ことを特徴とする風力発電設備に用いられる減速装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、
前記第2メンバが、当該減速装置のケーシングであり、
前記第2部材が、該ケーシングに着脱自在に固定されている
ことを特徴とする風力発電設備に用いられる減速装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記第2部材が、前記ケーシングよりも硬い素材で形成されている
ことを特徴とする風力発電設備に用いられる減速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−140885(P2012−140885A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293613(P2010−293613)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】