説明

飛灰へのキレート剤添加率制御方法

【課題】焼却飛灰処理におけるキレート剤の添加率を最小化し、キレート剤の使用量の低減及び最終処分場負荷の低減を可能とする。
【解決手段】排ガス中の酸性ガス濃度に応じて消石灰供給装置4からの消石灰供給量を制御するとともに、この消石灰供給量と必要キレート剤添加率との関係に基づき混練機10に添加するキレート剤の添加率を演算装置7において決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ごみ焼却施設等にて捕集される焼却飛灰にキレート剤を添加する際にその添加量を適正な量に制御する飛灰へのキレート剤添加率制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ごみ焼却炉や産業廃棄物焼却炉等から排出される燃焼排ガスを処理する排ガス処理設備においては、燃焼排ガス中に消石灰を投入して塩化水素等の酸性成分を捕捉した後、バグフィルタ等の集塵装置で飛灰を捕集するようにされている。捕集された飛灰は、一般的には、ごみ焼却によるばいじんと、消石灰飛灰(未反応消石灰及び反応生成物)、助剤、活性炭など薬品類とから構成される。また、捕集された飛灰中に含まれる鉛の安定化処理方法の一つに、キレート剤による飛灰処理がある。
【0003】
図3には、この種従来の排ガス処理システムのフロー図が示されている。
この排ガス処理システム50において、図示されないごみ焼却炉等の燃焼炉で発生した排ガスは、減温塔等によって所定温度まで減温されてバグフィルタ51に至る。このバグフィルタ51に入る直前において、消石灰貯留槽52に貯留されている消石灰粉末が消石灰供給装置53及び薬剤供給ブロア54によって排ガスに添加される。消石灰の添加率は、バグフィルタ51出口側に配されるHCl,SOx分析計55にて検出される処理後排ガスのHCl濃度及びSOx濃度に基づき演算装置56により決定される。
【0004】
バグフィルタ51においては、排ガス中のばいじん、重金属化合物等が濾過されて除去される。また、排ガス中の塩化水素ガスは、添加された消石灰粉末に吸収されて塩化カルシウムに転じ、同じくバグフィルタ51にて除去される。このようにして有害物質が除去された排ガスは、誘引通風機57によって煙突を介して大気中に放出される。
【0005】
一方、バグフィルタ51で回収された重金属化合物を含むばいじん、消石灰飛灰等から構成される飛灰は、そのままでは廃棄できない。このため、飛灰貯留槽58に貯留された後、できるだけ一定量の飛灰が混練機59に供給され、飛灰の供給量に応じて設定された量のキレート剤と水とが混練機59内の飛灰に添加されて混練され、混練後の飛灰を養生固化させることで、飛灰からの重金属類の溶出が防がれる。ここで、キレート剤(液体)はキレートタンク60からキレートポンプ61によって供給され、水は添加水タンク62から添加水ポンプ63によって供給される。
【0006】
この従来システムにおいて、キレートタンク60から飛灰に添加されるキレート剤の添加率制御は、試運転時に例えば3〜4%のキレート添加率を設定し、飛灰の切出し量とキレートポンプ61の出力を一定に保ちながら運転を行うようにされている。
【0007】
ところで、本願発明に関連する先行技術として、特許文献1,2に開示されるものがある。このうち特許文献1に開示された技術は、飛灰中のPb及びCu含有濃度を原子吸光分析法、誘導結合プラズマ発光分析法、蛍光X線分析法などで分析することによって、Pb及びCuの固定化に必要な液体キレート剤の添加量を決定するように構成したものである。また、特許文献2に開示された技術は、燃焼炉からの焼却飛灰をアルカリ水溶液と混合し、加熱して焼却飛灰中の鉛を溶出させ、得られた水溶液中の鉛濃度を測定することにより求めた焼却飛灰中の鉛濃度によってキレート剤の添加量を決定するように構成したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3843551号公報
【特許文献2】特許第3907949号公報
【0009】
しかしながら、図3に示される従来の排ガス処理システムでは、消石灰噴霧によるばいじん中の鉛濃度に対する補正を行っていないために、例えば一時的に炉出口からのHCl,SOxなどの酸性ガス濃度が高くなり、大量の消石灰が吹き込まれた時に、発生飛灰中の鉛濃度が低くなるにもかかわらずキレート剤添加率が発生飛灰量に対して一定となっているため、キレート剤を必要量以上に添加することになり、薬剤費等のランニングコストの増大を招いてしまうという問題点がある。
【0010】
また、前記特許文献1,2にて提案されている方法では、重金属濃度を測定する装置として、大型でかつ高価な装置が必要であり、しかもシステムの稼働中にリアルタイムでキレート剤の添加量制御が行えないという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前述のような問題点に鑑みてなされたもので、排ガスへの消石灰吹込み量の変化に合わせて発生飛灰へのキレート剤添加率を制御することによって、焼却飛灰処理におけるキレート剤の添加率を最小化し、キレート剤の使用量の低減及び最終処分場負荷の低減を可能とする飛灰へのキレート剤添加率制御方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明による飛灰へのキレート剤添加率制御方法は、
燃焼炉からの排ガスを導く煙道に消石灰を吹き込む消石灰供給装置と、前記煙道の消石灰供給地点より下流側に設けられ排ガス中の飛灰を捕集する集塵装置と、前記集塵装置にて捕集された飛灰に水及びキレート剤を添加して混練する混練機とを備える排ガス処理システムにおいて、
前記排ガス中の酸性ガス濃度に応じて前記消石灰供給装置からの消石灰供給量を制御するとともに、この消石灰供給量と必要キレート剤添加率との関係に基づき前記混練機に添加するキレート剤の添加率を決定することを特徴とするものである。
【0013】
本発明において、前記排ガス処理システムの試運転時に、発生飛灰のサンプリングによる溶出試験を行い、消石灰飛灰の割合に対する必要キレート剤添加率との関係を求めるのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、排ガスへの消石灰供給量と発生飛灰への必要キレート剤添加率との関係に基づき、飛灰へのキレート剤添加率を求めるようにされているので、消石灰供給量の変動を加味した飛灰量に対して適切なキレート剤添加率を求めることができる。したがって、焼却飛灰処理におけるキレート剤の添加率を最小化し、キレート剤の使用量の低減及び最終処分場負荷の低減を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る排ガス処理システムのフロー図
【図2】消石灰飛灰の混合比率に対する必要キレート剤添加率の関係を示すグラフ
【図3】従来の排ガス処理システムのフロー図
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明による飛灰へのキレート剤添加率制御方法の具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
図1には、本発明の一実施形態に係る排ガス処理システムのフロー図が示されている。
【0018】
この排ガス処理システム1において、図示されないごみ焼却炉等の燃焼炉で発生した排ガスは、減温塔等によって所定温度まで減温された後、排ガス中の飛灰を捕集するバグフィルタ(集塵装置)2に導入される。このバグフィルタ2の入口煙道の排ガスには、消石灰貯留槽3に貯留されている消石灰粉末が消石灰供給装置4及び薬剤供給ブロア5によって添加され、これによって排ガス中の有害なHClガスが固体かつ無害な塩化カルシウムに変化される。このとき、消石灰の添加率は、バグフィルタ2の出口煙道に配されるHCl,SOx分析計6にて検出される処理後排ガスのHCl濃度及びSOx濃度に基づき演算装置7により決定される。
【0019】
バグフィルタ2においては、排ガス中のばいじん、ダイオキシン等の塩化物、重金属化合物、更にはHClガスから化学変化した塩化カルシウム、表面に塩化カルシウムが付着した未反応の消石灰等が捕集される。このようにして有害物質が除去された排ガスは、誘引通風機8によって煙突を介して大気中に放出される。
【0020】
一方、バグフィルタ2で回収された重金属化合物を含むばいじん、消石灰飛灰等から構成される飛灰は、飛灰貯留槽9に導入された後、混練機10に供給される。飛灰からの重金属類の溶出を防止するため、前記混練機10には飛灰の供給量に応じて設定された量のキレート剤と水とが添加されて混練され、混練後の飛灰が養生固化される。ここで、キレート剤(液体)はキレートタンク11からキレートポンプ12によって供給され、水は添加水タンク13から添加水ポンプ14によって供給される。
【0021】
飛灰へのキレート剤添加率に関し、これを発生飛灰に対して一定とすると、消石灰供給装置4からの消石灰供給量が多い場合にはキレート剤が過剰に使用されることになり、逆に少ない場合にはキレート剤添加量が不足し鉛溶出のリスクが発生する。そこで、本実施形態では、消石灰供給装置4による消石灰供給量をインプット条件として演算装置7にて演算を行い、その演算結果に基づいてキレート剤及び添加水の供給量を制御するようにされている。
【0022】
このことは、発明者らが、純粋なばいじんと消石灰飛灰(未反応消石灰及び反応生成物)を任意の比率で混合し、それぞれの試料について鉛の溶出基準値以下となるキレート添加率がどのようになるかをテストした結果に基づいている。すなわち、このテスト結果によると、図2に示されるように、消石灰飛灰の混合比率が増加すると、必要キレート剤添加率が低くなることが明らかとなった。
【0023】
このため、演算装置7に、図2に示されるような、ばいじんに対する消石灰飛灰の割合〜必要キレート添加率の関係式を入力・記憶させておき、この関係式に基づきキレート剤の添加率を決定してキレート剤および添加水の供給量を制御することにより、消石灰供給量を加味した飛灰量に対する適切量のキレート剤及び水を添加することが可能となる。
【0024】
現場プラントにおいては、試運転時等に、複数の消石灰吹込量条件における発生飛灰をサンプリングし、それぞれの飛灰に対して溶出試験を行い、排ガスへの消石灰吹込量と発生飛灰へのキレート剤添加率との関係を求め、この関係を演算装置7に入力・記憶させ、この関係を演算に加味することにより、消石灰吹込量の変動を加味した飛灰量に対する適切なキレート剤添加率を定めることができる。
【0025】
なお、図1に示される排ガス処理システム1では、バグフィルタ2から排出された飛灰を飛灰貯留槽9に一旦貯留した後に混練機10に供給するように構成されているが、このように飛灰貯留槽9を介在させる場合には、排ガスへの消石灰吹込量の変動が混練機10へ供給される飛灰の性状に影響するまでに時間的な遅れが生じる。この時間的遅れが大きくなると適切なキレート剤添加率の決定が難しくなるため、キレート剤の処理前にはできるだけ飛灰貯留槽9に飛灰を貯留させないような運転を行うことが重要となる。
【0026】
これに対して、飛灰貯留槽9を廃して、バグフィルタ2から排出された飛灰を混練機10に直接供給するようにシステムを構成する実施形態も可能である。このようにした場合には、消石灰吹込量の時間変動に合わせて適切なキレート剤添加率を定めることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の飛灰へのキレート剤添加率制御方法は、ごみ焼却施設等にて捕集される焼却飛灰を処理するのに、飛灰中に含まれる消石灰供給量の変動を加味して、簡便かつ安価に、しかもリアルタイムにキレート剤の添加率を決定することができるので、各種固体廃棄物の処理に幅広く用いることができ、産業上の利用効果が大である。
【符号の説明】
【0028】
1 排ガス処理システム
2 バグフィルタ(集塵装置)
3 消石灰貯留槽
4 消石灰供給装置
5 薬剤供給ブロア
6 HCl,SOx分析計
7 演算装置
8 誘引通風機
9 飛灰貯留槽
10 混練機
11 キレートタンク
12 キレートポンプ
13 添加水タンク
14 添加水ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼炉からの排ガスを導く煙道に消石灰を吹き込む消石灰供給装置と、前記煙道の消石灰供給地点より下流側に設けられ排ガス中の飛灰を捕集する集塵装置と、前記集塵装置にて捕集された飛灰に水及びキレート剤を添加して混練する混練機とを備える排ガス処理システムにおいて、
前記排ガス中の酸性ガス濃度に応じて前記消石灰供給装置からの消石灰供給量を制御するとともに、この消石灰供給量と必要キレート剤添加率との関係に基づき前記混練機に添加するキレート剤の添加率を決定することを特徴とする飛灰へのキレート剤添加率制御方法。
【請求項2】
前記排ガス処理システムの試運転時に、発生飛灰のサンプリングによる溶出試験を行い、消石灰飛灰の割合に対する必要キレート剤添加率との関係を求めることを特徴とする請求項1に記載のキレート剤添加率制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−17956(P2013−17956A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153766(P2011−153766)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000133032)株式会社タクマ (308)
【Fターム(参考)】