説明

飲料容器用フィッティング

【課題】第三者によるフィッティングの安易な分解および飲料容器の不正使用や汚染を防止するとともに、シールリングの寿命を長期化してメインテナンス作業を大幅に軽減する。
【解決手段】飲料容器8の口金9と螺合する雄ねじが外周側に設けられた取付部材20と、取付部材の内周側に設けられた弁座部と、上端部が取付部材に支持された管状のダウンチューブ5と、ダウンチューブの上端部に嵌合され、加圧ガスを容器内部に供給するためのガス弁3と、ダウンチューブの上端部内部に設けられ、飲料を容器外に注出するための飲料弁4と、口金の下部内面と取付部材との間を封止する封止部材28とを有し、取付部材は、頂部から外方に張り出すつば部23が形成されたものであり、取付部材を口金に螺入し、つば部によって規定される所定位置まで螺合して固定し、さらに、つば部と口金とを固着して取付部材の回り止めを行ったものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ビール樽等の飲料容器の口金に固定されて、ディスペンスヘッドと接続するための飲料容器用フィッティングに関するものであり、さらに詳しくは、第三者によるフィッティングの安易な分解および飲料容器の不正使用や汚染を防止するとともに、メインテナンス作業を大幅に軽減することのできる飲料容器用フィッティングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のビール樽等の飲料容器では、飲料容器に口金が溶接等によって固定されており、その口金にフィッティングがねじ込まれて取り付けられている。そして、そのフィッティングにディスペンスヘッドが接続される。このディスペンスヘッドを介して飲料容器内に二酸化炭素等の圧力ガスを供給し、飲料容器内の飲料を容器外に注出する。従来のフィッティングと口金の取り付け状態を、図11を参照して説明する。
【0003】
図11は、従来のフィッティングを飲料容器8に取り付けた状態を示す正面からの断面図である。図11は、飲料は生ビールであり、飲料容器はビール樽の場合である。飲料容器8の上部に設けられた口金9の内側には、フィッティングの取付部材2がねじ込まれて固定されている。また、取付部材2にはコイルばね61で上方に付勢されたダウンチューブ5が取り付けられている。
【0004】
取付部材2の下方側はスカート状の枠部25となっている。枠部25の底面には中央孔が設けられており、ダウンチューブ5、コイルばね61などの各部品はこの中央孔を通して下方から枠部25内に挿入される。コイルばね61が枠部25内に挿入された後、着脱可能な止め具253を枠部25の底面に取り付けてコイルばね61の下端を支持し、各部品を枠部25内に保持する。つまり、取付部材2にダウンチューブ5、ガス弁3などの全ての部品を組み込んだ後に、取付部材2を口金9にねじ込んで固定するのである。
【0005】
ダウンチューブ5の上端部にはガス弁3が固定されており、また、ダウンチューブ5の上端内部にはビール弁4がコイルばね62で上方に付勢されて設けられている。ガス弁3およびビール弁4は、コイルばね61,62による付勢力によって閉状態となっている。口金9および取付部材2にはディスペンスヘッドが取り付け可能である。ディスペンスヘッドと取付部材2とは、係合突起22による接続機構によって容易に結合することができる。
【0006】
ディスペンスヘッドは、ガス弁3およびビール弁4を操作し、二酸化炭素ガス等の圧力ガスを飲料容器8内に供給し、飲料容器8の内圧を高めて生ビールを容器外に注出させるための装置である。生ビールはダウンチューブ5およびビール弁4を通して容器外に注出される。口金9と取付部材2との間からのガス漏れを封止するために、口金9の下部内面と取付部材2との間にはシールリング27が設けられている。
【0007】
飛び出し防止部材7は、取付部材2を口金9から取り外す際に、飲料容器8内のガス圧により取付部材2が飛び出してくるのを防止するものである。ストッパ71が口金9下面に当接することにより、飛び出しを防止する。取り外し工具によりガス弁3を下に押し下げた状態にすると、飲料容器8内から圧力ガスが抜け出るとともにストッパ71が内側に引っ込み、取付部材2が口金9から取り外し可能となる。
【0008】
このような構成のフィッティングは、口金9に取付部材2がねじ込み固定されているとはいえ、口金9と取付部材2との間に微少な隙間が存在する。その隙間から雨水や生ビールが侵入する。隙間から侵入したそれらの汚水は、シールリング27により飲料容器8内への侵入は阻止されるが、口金9と取付部材2との間に長くとどまり、衛生上好ましいものではない。
【0009】
ビール樽を洗浄し高温殺菌する際に、この隙間内の汚水が沸騰して噴出することから、この隙間内に汚水が溜まっていることを確認することができる。この隙間内の汚水は、ビール樽を炎天下に放置した場合などには、熱膨張して隙間からしみ出てくるおそれがあり、さらには口金内に侵入して生ビールを汚染するおそれもある。
【0010】
図11に示すような従来のフィッティングでは、口金9と取付部材2との間に異物や汚水等が侵入して溜まってしまい衛生上好ましくない。さらに、シールリング27は、ゴム等の柔軟性材料であるため摩耗や腐食等による劣化が避けられず、定期的な交換が必要である。このように、従来はフィッティングのメインテナンスとして、殺菌・洗浄作業やシールリング27の交換作業を定期的に行う必要があった。
【0011】
そこで、本発明の発明者により、下記の特許文献1に記載されたフィッティングが提案されている。特許文献1のフィッティングは、口金の下部内面と取付部材との間の間隙を封止する第1封止部材に加えて、フィッティングの最上部にも第2封止部材を設け、口金と取付部材との間隙に異物や汚水等が侵入しにくくしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000−79991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図11に示す従来のフィッティングは、前述のように、口金9と取付部材2との間の隙間に汚水等が溜まりやすいという問題点があった。さらに、従来のフィッティングでは取付部材2を口金9から取り外すことが比較的容易にできるため、第三者が飲料容器8のフィッティングを取付部材2とともに取り外して私的用途に流用してしまうというケースも少なからず発生している。しかも、そのような流用によって内部が汚染された飲料容器8に再びフィッティングを取り付けて飲料容器8の正規の流通経路に戻してしまうケースも発生している。
【0014】
このような不正使用の行われた飲料容器を正常な飲料容器の中から選別して除去するための労力とコストは莫大なものになる。そこで、飲料容器の不正使用を防止するために、口金9から取り外すことのできない、もしくは、取り外すことが非常に困難なフィッティングの実現が望まれていた。
【0015】
さらに、従来のフィッティングでは、口金9と取付部材2の間にシールリング27が配置されており、口金9と取付部材2の間を封止している。このシールリング27には、取付部材2を口金9にねじ込み固定する際のねじ込み力が直接作用する。また、飲料容器8は飲料充填、搬送、返却のように繰り返して使用される。シールリング27の経年劣化による封止性能の不足を補うために、飲料充填時には取付部材2を増し締めすることも行われている。
【0016】
シールリング27に対して、取付部材2のねじ込み力の大きな力が長期間にわたって作用することや取付部材2の増し締めによる機械的な摩耗により、シールリング27の劣化が進行するため、シールリング27の寿命は比較的短い。ほぼ3年から5年ごとにシールリング27の交換を行う必要があった。
【0017】
また、特許文献1のフィッティングは、第1封止部材に加えて第2封止部材を設けることにより、口金と取付部材との間隙に異物や汚水等が侵入しにくくなっている。しかし、特許文献1のようなフィッティングでも異物や汚水等の侵入を完全に防止することは困難である。また、第1封止部材と第2封止部材もゴム等の柔軟性材料であるため摩耗や腐食等による劣化が避けられず、定期的な交換が必要である。
【0018】
したがって、特許文献1のフィッティングでも、メインテナンス作業の頻度を減少させることはできるが、殺菌・洗浄作業や第1封止部材と第2封止部材の交換作業を定期的に行う必要があった。なお、特許文献1のフィッティングにおける第1封止部材は、従来のフィッティングのシールリングとほぼ同様の機能であり、寿命も同程度である。
【0019】
さらに、特許文献1のフィッティングも、取付部材を口金から取り外すことが比較的容易にできてしまうため、従来のフィッティングと同様の問題点があった。すなわち、飲料容器の不正使用を防止することができなかった。
【0020】
そこで、本発明は、第三者によるフィッティングの安易な分解および飲料容器の不正使用や汚染を防止することができ、さらに、シールリングの寿命を長期化してメインテナンス作業を大幅に軽減することのできる飲料容器用フィッティングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、本発明の飲料容器用フィッティングは、飲料容器の口金の内周側に形成された雌ねじに螺合されて取り付けられるフィッティングであって、前記口金の前記雌ねじと螺合する雄ねじが外周側に設けられた取付部材と、前記取付部材の内周側に設けられた弁座部と、上端部が前記取付部材に支持された管状のダウンチューブと、前記ダウンチューブの上端部に嵌合され、加圧ガスを容器内部に供給するためのガス弁と、前記ダウンチューブの上端部内部に設けられ、飲料を容器外に注出するための飲料弁と、前記口金の下部内面と前記取付部材との間を封止する封止部材とを有し、前記取付部材は、頂部から外方に張り出すつば部が形成されたものであり、前記つば部は、前記口金の上端に当接して、前記取付部材の前記口金へのねじ込み位置を規定するものであり、前記取付部材を前記口金に螺入し、前記つば部によって規定される所定位置まで螺合して固定し、さらに、前記つば部と前記口金とを固着して前記取付部材の回り止めを行ったものである。
【0022】
また、上記の飲料容器用フィッティングにおいて、前記つば部と前記口金とは、1点または複数点の溶接によって固着したものであることが好ましい。
【0023】
また、上記の飲料容器用フィッティングにおいて、前記取付部材は、その下方側がスカート状の枠部として一体的に形成されたものであり、さらに、前記取付部材は、前記枠部の上端近傍位置の外周面に封止部材を保持するためのシール溝が形成されたものであることが好ましい。
【0024】
また、上記の飲料容器用フィッティングにおいて、前記シール溝は、前記取付部材が前記口金に固定された状態において、前記封止部材に対する加圧力が適正な値となるような位置に形成されたものであることが好ましい。
【0025】
また、上記の飲料容器用フィッティングにおいて、前記シール溝は、前記封止部材を加圧する加圧面が傾斜しており、加圧時に前記封止部材に対して外方に拡張させるような力が作用するものであることが好ましい。
【0026】
また、上記の飲料容器用フィッティングにおいて、前記取付部材は、前記枠部がオーステナイト系ステンレス鋼からなり、その他の部分が2相ステンレス鋼からなるものであることが好ましい。
【0027】
また、上記の飲料容器用フィッティングにおいて、前記弁座部は、互いに傾斜角度の異なる2つの円錐面を備えたものであることが好ましい。
【0028】
また、上記の飲料容器用フィッティングにおいて、前記封止部材は、断面形状の外周側の輪郭線が外方に膨らむ円弧状の曲線となるものであることが好ましい。
【0029】
また、上記の飲料容器用フィッティングにおいて、前記取付部材は、前記つば部のない取付部材に前記つば部を一体に固着したものとすることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、以上のように構成されているので、以下のような効果を奏する。
【0031】
取付部材のつば部と口金とを固着することによって、取付部材のねじ固定を緩めて取り外すことが困難になり、第三者によるフィッティングの安易な分解を防止することができる。そして、第三者による飲料容器の不正使用や汚染を防止することができる。また、取付部材のねじ込み力をつば部によって受ける構造により、封止部材に過大な応力や歪みを発生させることがなく、封止部材の寿命を大幅に長期化させることができる。これにより封止部材を交換する必要もほとんどなくなり、メインテナンスのコストを低減させることができる。
【0032】
封止部材に対する加圧力が適正な値となるような位置にシール溝が形成されているので、封止部材に確実に適正な加圧力を印加することができ、封止部材の封止性能を十分に発揮できるとともに、封止部材に過大な応力や歪みを発生させることがなく、封止部材の寿命を大幅に長期化させることができる。これにより封止部材を交換する必要もほとんどなくなり、メインテナンスのコストを低減させることができる。
【0033】
封止部材を加圧するシール溝の加圧面が傾斜しているので、封止部材の加圧時に封止部材を外方に押し出して拡張させるような力が作用し、封止部材が口金の内周面に強力に押し付けられ、封止性能が向上する。
【0034】
弁座部が傾斜角度の異なる2つの円錐面を備えたものであるから、弁座面よりも鉛直方向に近い規制面によってガス弁の水平面内での移動を規制することができ、ガス弁の中心位置からの変位量を小さく保つことができる。
【0035】
つば部のない取付部材につば部を一体に固着してた取付部材を製作するようにした場合は、従来から使用され既に広く普及しているフィッティングの取付部材を改造して本発明の取付部材とすることができ、また、その他のフィッティングの各部品もほとんど流用することができるため、極めて低コストで本発明のフィッティングを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、本発明の第1の実施の形態の飲料容器用フィッティングの構成を示す断面図である。
【図2】図2は、飲料容器8の口金9の構成を示す断面図である。
【図3】図3は、取付部材20の構成を示す断面図である。
【図4】図4は、取付部材20を上方から見た平面図である。
【図5】図5は、取付部材20のシール溝26の断面形状を示す拡大断面図である。
【図6】図6は、シールリングの断面形状を示す断面図である。
【図7】図7は、口金9に取付部材20を組み込んだ状態を示す断面図である。
【図8】図8は、口金9に組み込んだ取付部材20を上方から見た平面図である。
【図9】図9は、ガス弁3を上方から見た平面図である。
【図10】図10は、本発明の第2の実施の形態の飲料容器用フィッティングの構成を示す断面図である。
【図11】図11は、従来のフィッティングを飲料容器8に取り付けた状態を示す正面からの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。飲料は生ビール、飲料容器はビール樽の場合である。図1は、本発明の第1の実施の形態の飲料容器用フィッティングの構成を示す断面図である。図1は、本発明の飲料容器用フィッティングを飲料容器8の口金9に組み込んだ状態を示す正面から見た断面図である。図1の飲料容器用フィッティングの構成を説明する前に、図2から図6により、飲料容器用フィッティングを飲料容器8の口金9に組み込む手順をまず説明する。
【0038】
図2は、飲料容器8の口金9の構成を示す断面図である。飲料容器8の最上部には図示のような口金9が溶接等により接続固定されている。飲料容器8と口金9の接続部は液体、気体の漏れがないように液密かつ気密に接続されている。口金9はほぼ円筒状に形成されており内部が空洞である。口金9の内周面の上部には雌ねじ91が形成されている。また、口金9の内周側の最下部には段部92が形成されている。この段部92は後述するシールリング28を受けてシールリング28による封止を行うための構造である。
【0039】
図3は、口金9の内周側に取り付けるための取付部材20の構成を示す断面図である。また、図4は取付部材20を上方から見た平面図である。取付部材20は、フィッティングの各部品を支持してフィッティングの本体を構成する部材であり、その基本形状はほぼ円筒状である。取付部材20の最上部には、半径方向外周側に広がるつば部23が一体的に設けられている。取付部材20の外周上部には雄ねじ21が形成されている。雄ねじ21はつば部23の下方近傍位置から所定長にわたって形成されている。この雄ねじ21は口金9の雌ねじ91に螺合するものである。
【0040】
取付部材20の内周面上部には内方に突出する係合突起22が形成されている。係合突起22は口金9の上面にディスペンスヘッドを固定するための構造である。図4に示すように、係合突起22は取付部材20の内周面の直径方向に対向する位置に2つ形成されている。ディスペンスヘッドと取付部材20とは、係合突起22による接続機構によって容易に結合することができる。
【0041】
取付部材20の内周面中段部には弁座部24が形成されている。図11に示す従来のフィッティングでは、弁座部24が単一の傾斜角度を有する円錐内面の一部により構成されていて、その円錐面の頂角は60度である。すなわち、円錐面の中心線(ここでは鉛直方向)と円錐面の母線のなす角度(頂角の1/2)は30度である。
【0042】
本発明のフィッティングでは、図示のように弁座部24が上部の弁座面241と下部の規制面242とからなっている。弁座面241、規制面242の各面は、中心線を共通とする円錐内面であるが、その傾斜角度が異なっている。弁座面241の頂角は80〜110度の範囲が好ましく、典型的には90度に設定される。すなわち、円錐面の中心線と母線のなす角度は40〜55度の範囲が好ましく、典型的には45度に設定される。
【0043】
規制面242の頂角は30〜50度の範囲が好ましく、典型的には40度に設定される。すなわち、円錐面の中心線と母線のなす角度は15〜25度の範囲が好ましく、典型的には20度に設定される。このように、規制面242の傾斜方向が従来の弁座面よりも鉛直方向に近いため、ガス弁3の水平面内での移動を規制する作用が強く働く。このため、ガス弁3の中心位置からの変位量を小さく保つことができる。
【0044】
取付部材20の下方側はスカート状の枠部25となっている。この枠部25によってコイルばね61およびダウンチューブ5が支持される(図1参照)。枠部25の円筒状側面には複数の窓部251が形成されている。窓部251は二酸化炭素ガス等を通過させるための開口である。枠部25の底面には、ダウンチューブ5を通過させるための中央孔252が形成されている。
【0045】
中央孔252はダウンチューブ5の上部大径部分がちょうど通過できる大きさであり、中央孔252の周縁によりコイルばね61を支持することになる(図1参照)。なお、取付部材20は、枠部25以外の本体部(つば部23を含む)と、枠部25とが溶接によって一体に接合されたものである。本体部(つば部23を含む)は2相ステンレス鋼によって一体成形されたものであり、枠部25はオーステナイト系ステンレス鋼からなるものである。
【0046】
2相ステンレス鋼はオーステナイトとフェライトの2相からなる高強度、高硬度、耐腐食性の優れたステンレス鋼である。一般的に、2相ステンレス鋼の方が、通常のオーステナイト系ステンレス鋼に比較して高強度、高硬度を示す。2相ステンレス鋼としては、例えば、フェライト相約50%、オーステナイト相約50%の2相組織からなるものが使用できる。
【0047】
取付部材20の外周面には、シールリング28を保持するためのシール溝26が、取付部材20の外周一周を包囲するように形成されている。なお、取付部材20の本体部と枠部25とは、このシール溝26の近傍位置で一体に接合されている。
【0048】
図5は、取付部材20のシール溝26の断面形状を示す拡大断面図である。図5(a)はシール溝26の断面形状の一例を示すものであり、図5(b)は断面形状の別の例を示すものである。これらのシール溝26において、加圧面261,262は、シールリング28を下方に加圧する面である。取付部材20を口金9にねじ込み固定すると、シールリング28は加圧面261,262と口金9の段部92との間で加圧される。この加圧力によりシールリング28の封止性能が発揮されるのである。
【0049】
図5(a)のシール溝26では、加圧面261が水平面(取付部材20の中心軸に対して直交する平面)となるように形成されている。シール溝26の深さは、従来のフィッティングよりも大きく形成されている。そのため加圧面261の面積が従来よりも増加している。これにより、シールリング28に対する加圧力が広い面積に分散され、シールリング28の寿命を従来よりも大幅に長期化させることができる。
【0050】
図5(b)のシール溝26も、シール溝26の深さが従来のフィッティングよりも大きく形成されている。それに加えて、図5(b)のシール溝26では、加圧面262は外周側が上方に傾斜するような傾斜面(円錐面)となるように形成されている。加圧面262が図示のように傾斜しているため、加圧面262によってシールリング28を下方に加圧すると、シールリング28に対して外方に押し出して拡張させるような力が作用する。このため、シールリング28が口金9の内周面にいっそう強力に押し付けられ、封止性能が向上することになる。
【0051】
図6は、シール溝26に取り付けるシールリング28の断面形状を示す断面図である。本発明のフィッティングにおけるシールリング28は、従来から使用されていたフィッティングにおけるシールリング27よりも、断面積が大きく形成されており、シールのための押圧力が広く分散される。そのため、シールリング28の寿命を従来よりも大幅に長期化させることができる。
【0052】
また、後述のように、本発明のフィッティングにおけるシールリング28では、気体・液体の封止のために必要な加圧力のみを印加するようにできるため、シールリング28に過大な応力や歪みを発生させることがなく、これによってもシールリング28の寿命を大幅に長期化させることができる。また、シールリング28の材質も、従来のシールリングのように過大なねじ込み力に対する耐性や耐摩耗性を考慮する必要がなく、封止性能や寿命のみを考慮して最適な材料を選択することができる。
【0053】
図6に示すように、シールリング28の断面形状の断面積は、従来のシールリング27よりも大きくなっている。ここで、シールリングの断面形状における幅をW、高さをHとする。従来のシールリング27では、幅W:2.2mmと、高さH:3.0mmの長方形形状の断面であった。それに対し、本発明のフィッティングにおけるシールリング28では、幅W:3.0mm、高さH:3.0mmとなっている。
【0054】
シールリング28の断面形状は完全な正方形でもよいが、図6に示すように、外周面の輪郭線を円弧状の曲線とすることが好ましい。図示のように、シールリング28の断面形状の内周側、上側、下側の輪郭線は直線であるが、外周側の輪郭線は中央部分が外方に膨らむ円弧状の曲線となっている。なお、シールリング28の断面形状の輪郭線を全て直線で構成して断面形状を正方形(または長方形)としてもよい。
【0055】
本発明の飲料容器用フィッティングを飲料容器8の口金9に組み込むには、まず、取付部材20のシール溝26にシールリング28を取り付け、その取付部材20を口金9にねじ込んで固定する。図7は口金9に取付部材20を組み込んだ状態を示す断面図である。また、図8は口金9に組み込んだ取付部材20を上方から見た平面図である。
【0056】
口金9に取付部材20をねじ込んでいくと、取付部材20のつば部23の下面が口金9の上面に突き当たり、そこで取付部材20の位置が固定される。このとき、シールリング28は、加圧面261と段部92の間に挟まれて適正な加圧力で加圧される。すなわち、つば部23の下面と加圧面261との距離Tは、取付部材20の固定時にシールリング28の加圧力が適正値となるように設定されている。
【0057】
口金9の上面と段部92との上下方向の距離Kは規格上28.5mmに固定されているので、つば部23の下面と加圧面261との距離TはT=K−H+αとなるように決められる。ここで、Kは28.5mmであり、Hはシールリング28の断面形状の高さであり、αはシールリング28に適正な加圧力を加えるためのシールリング28の上下方向の圧縮量である。
【0058】
取付部材20のつば部23が口金9の上面に突き当たって固定されたときに、取付部材20のねじ込み力はつば部23と口金9の上面との間に加わることになり、このねじ込み力が直接シールリング28に対して加わることはない。取付部材20を固定するための締付力がシールリング28に加わらなくなるため、シールリング28に過大な応力や歪みを発生させることがなく、シールリング28の寿命を大幅に長期化させることができる。
【0059】
取付部材20が適正な締付力で固定されたら、次に、つば部23と口金9とを溶接等によって固着して取付部材20の回り止めを行う。固着方法としては、スポット溶接やアーク溶接等の溶接が好ましいが、接着などの他の固着方法も使用可能である。図8は取付部材20を口金9に固着した状態を示している。「×」印で示す固着点231はスポット溶接によって固着した場合を示している。固着点231は図8では2個所示されているが、それに限定されることはなく、1個所でもよく、3個所以上の任意の数としてもよい。ただし、フィッティングの分解を防止するには複数個所の方が望ましい。
【0060】
固着点232はアーク溶接(点付け溶接)によって固着した場合を示している。アーク溶接の場合、図示のように、つば部23の外周縁と口金9上面とをアーク溶接で固着する。固着点232は図8では2個所示されているが、それに限定されることはなく、3個所以上の任意の数としてもよい。なお、スポット溶接とアーク溶接による固着は、両方を行う必要はなくどちらか一方だけで十分である。
【0061】
つば部23と口金9とを固着することによって、取付部材20のねじ固定を緩めて取り外すことが困難になり、第三者によるフィッティングの安易な分解を防止することができる。そして、第三者による飲料容器の不正使用や汚染を防止することができる。このようにつば部23と口金9とを固着しても、シールリング28の寿命が大幅に長期化されて30年以上とすることも可能なため、取付部材20を口金9から取り外す必要はほとんど生じない。
【0062】
しかし、シールリング28が劣化損傷した場合など、取付部材20を口金9から取り外す必要が生じた場合には、取り外し専用の工具を使用して取付部材20を取り外すことも可能である。その場合、まず溶接等による固着個所を専用の工具によって剥離・分離し、固着による回り止めを解除する。その後、取付部材20のねじ固定を専用工具によって緩め、取付部材20を口金9から取り外す。
【0063】
また、シールリング28が劣化損傷して封止性能が損なわれた場合には、飲料容器内の加圧ガスがシールリング28から漏れ出て、さらに、つば部23と口金9の間の微少な隙間から漏れ出てくるため、その状態を肉眼等で容易に確認することができる。このように、シールリング28が劣化した場合に、すぐにそれを確認できることも本発明の利点である。
【0064】
なお、つば部23と口金9の間の隙間はごく微少なものであり、また、隙間が口金9の周縁付近に横向きに開口しているため、この隙間から異物や汚水等が浸入する可能性は非常に小さい。万が一、隙間に異物や汚水等が浸入した場合、それらの汚水等が隙間からしみ出てきたとしても、隙間が口金9の周縁付近に横向きに開口しているため、しみ出した汚水等が口金内に侵入することはない。
【0065】
取付部材20の口金9に取り付けて、図8に示すようにつば部23を固着して取付部材20の回り止めを行った後は、取付部材20の枠部25内にフィッティングの各部品を組み付けて、図1に示すような状態とする。各部品を組み付ける手順は、まず、ダウンチューブ5の上端内部にビール弁4およびコイルばね62を挿入し、ダウンチューブ5の上端外部にはコイルばね61を配置して、それらを取付部材20の枠部25内に上方から挿入する。最後に、ダウンチューブ5の上端にガス弁3を取り付けて固定する。
【0066】
ガス弁3は、傾斜させることにより弁座部24内周の中央孔を通過させることができるものを使用する。図9は、ガス弁3の構成の一例を示す図であり、ガス弁3を上方から見た平面図である。ガス弁3は、ゴム等の柔軟性部材からなる弁部材32がステンレス材等からなる芯金31と一体に成形されたものである。芯金31の外周縁には、中心に対して対称な2位置に互いに平行な平坦部が設けられている。このため平坦部が設けられた位置での芯金31の直径(短径=平坦部間の距離)は、これと直交する方向の直径(長径)に比較して小さくなっている。
【0067】
この平坦部が設けられた部分は、弁座部24の中央孔を通過可能な寸法となっている。すなわち、芯金31の短径寸法は弁座部24中央孔の直径よりも小さく、芯金31の長径寸法は弁座部24中央孔の直径よりも大きくなっている。また、ガス弁3には長径方向を示すマークが刻印されている。このようなガス弁3は、長径方向に傾斜させて上方から弁座部24を通過させ、ダウンチューブ5の上端に組み付けることができる。
【0068】
全ての部品を組み付けた状態のフィッティングは、図1に示されている。図1は、本発明の飲料容器用フィッティングを飲料容器8の口金9に組み込んだ状態を示す正面から見た断面図である。
【0069】
ダウンチューブ5の上端部にはガス弁3が固定されており、また、ダウンチューブ5の上端内部にはビール弁4がコイルばね62で上方に付勢されて配置されている。ガス弁3およびビール弁4は、コイルばね61,62による付勢力によって閉状態となっている。口金9および取付部材20にはディスペンスヘッドが取り付け可能である。ディスペンスヘッドと取付部材20とは、係合突起22による接続機構によって容易に結合することができる。
【0070】
ディスペンスヘッドを取付部材20に固定すると、ディスペンスヘッドを操作してガス弁3およびビール弁4を開放し、二酸化炭素ガス等の圧力ガスを飲料容器8内に供給するとともに、飲料容器8の内圧を高めて生ビールを容器外に流出させることができる。生ビールはダウンチューブ5およびビール弁4を通して容器外に流出する。
【0071】
以上に説明したような、本発明のフィッティングを使用するには、従来から広く使用されていた図11に示すような飲料容器8から従来のフィッティングを取り外して、本発明のフィッティングに交換することができる。飲料容器8や口金9は、従来のものをそのまま使用することができるため、低コストで本発明のフィッティングを使用することができる。
【0072】
次に、従来のフィッティングを改造して本発明のフィッティングとした、本発明の第2の実施の形態について説明する。図10は、本発明の第2の実施の形態の飲料容器用フィッティングの構成を示す断面図である。図10では、図11の従来のフィッティングまたは図1の本発明のフィッティングと共通の部材には同じ符号を付している。また、共通の部材の説明は省略する。
【0073】
飲料容器8の上部に設けられた口金9の内側には、フィッティングの取付部材2aがねじ込まれて固定されている。この取付部材2aは、従来のフィッティングの取付部材2の上端につば部23を溶接等で全周固着したものである。このように、つば部23を固着することで、従来のフィッティングの取付部材2を、第1の形態のフィッティングの取付部材20と同様の機能を有する取付部材2aに改造することができる。
【0074】
取付部材2aに対するフィッティングの各部品の組み込み方法は、従来のフィッティングと同様である。枠部25底面の中央孔を通してダウンチューブ5、コイルばね61などの各部品を下方から枠部25内に挿入し、その後、着脱可能な止め具253を枠部25の底面に取り付けてコイルばね61の下端を支持する。これにより各部品を枠部25内に保持する。取付部材2aにダウンチューブ5、ガス弁3などの全ての部品を組み込んだ後に、取付部材2aを口金9にねじ込んで固定する。
【0075】
取付部材2aが適正な締付力で固定されたら、第1の形態のフィッティングと同様に、つば部23と口金9とを溶接等によって固着して取付部材2aの回り止めを行う。固着方法としては、スポット溶接やアーク溶接等の溶接が好ましいが、接着などの他の固着方法も使用可能である。固着した状態は、図8に示したものと同様である。
【0076】
この第2の実施の形態のフィッティングでは、従来から使用され既に広く普及しているフィッティングの取付部材2を改造して本発明の取付部材2aとすることができ、また、その他のフィッティングの各部品もほとんど流用することができるため、極めて低コストで本発明のフィッティングを提供できる。その他の利点は、第1の実施の形態のフィッティングと同様である。
【0077】
以上のように、本発明の飲料容器用フィッティングによれば、つば部23と口金9とを固着することによって、取付部材20のねじ固定を緩めて取り外すことが困難になり、第三者によるフィッティングの安易な分解を防止することができる。そして、第三者による飲料容器の不正使用や汚染を防止することができる。
【0078】
また、取付部材20のねじ込み力をつば部23によって受ける構造なので、シールリング28に過大な応力や歪みを発生させることがなく、シールリング28の寿命を大幅に長期化させることができる。これによりシールリング28を交換する必要もほとんどなくなり、メインテナンスのコストを低減させることができる。
【0079】
さらに、つば部23と口金9の間の隙間から異物や汚水等が浸入する可能性は非常に小さく、隙間に異物や汚水等が浸入した場合でもそれらの汚水等が隙間からしみ出して口金内に侵入する非常に小さく、衛生的にも優れたフィッティングが提供できる。
【0080】
なお、以上の実施の形態では、飲料として生ビール、飲料容器としてビール樽を例に挙げて説明したが、それ以外の任意の飲料と飲料容器にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、第三者によるフィッティングの安易な分解および飲料容器の不正使用や汚染を防止でき、さらに、シールリングの寿命を長期化してメインテナンス作業を大幅に軽減できる飲料容器用フィッティングを提供することができる。
【符号の説明】
【0082】
2 取付部材
3 ガス弁
4 ビール弁
5 ダウンチューブ
7 飛び出し防止部材
8 飲料容器
9 口金
20 取付部材
2a 取付部材
21 雄ねじ
22 係合突起
23 つば部
24 弁座部
25 枠部
26 シール溝
27,28 シールリング
31 芯金
32 弁部材
61,62 コイルばね
71 ストッパ
91 雌ねじ
92 段部
231,232 固着点
241 弁座面
242 規制面
251 窓部
252 中央孔
253 止め具
261,262 加圧面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲料容器(8)の口金(9)の内周側に形成された雌ねじ(91)に螺合されて取り付けられるフィッティングであって、
前記口金(9)の前記雌ねじ(91)と螺合する雄ねじ(21)が外周側に設けられた取付部材(20)と、
前記取付部材(20)の内周側に設けられた弁座部(24)と、
上端部が前記取付部材(20)に支持された管状のダウンチューブ(5)と、
前記ダウンチューブ(5)の上端部に嵌合され、加圧ガスを容器内部に供給するためのガス弁(3)と、
前記ダウンチューブ(5)の上端部内部に設けられ、飲料を容器外に注出するための飲料弁(4)と、
前記口金(91)の下部内面と前記取付部材(20)との間を封止する封止部材(28)とを有し、
前記取付部材(20)は、頂部から外方に張り出すつば部(23)が形成されたものであり、
前記つば部(23)は、前記口金(9)の上端に当接して、前記取付部材(20)の前記口金(9)へのねじ込み位置を規定するものであり、
前記取付部材(20)を前記口金(9)に螺入し、前記つば部(23)によって規定される所定位置まで螺合して固定し、さらに、前記つば部(23)と前記口金(9)とを固着して前記取付部材(20)の回り止めを行ったものである飲料容器用フィッティング。
【請求項2】
請求項1に記載した飲料容器用フィッティングであって、
前記つば部(23)と前記口金(9)とは、1点または複数点の溶接によって固着したものである飲料容器用フィッティング。
【請求項3】
請求項2に記載した飲料容器用フィッティングであって、
前記取付部材(20)は、その下方側がスカート状の枠部(25)として一体的に形成されたものであり、
さらに、前記取付部材(20)は、前記枠部(25)の上端近傍位置の外周面に封止部材(28)を保持するためのシール溝(26)が形成されたものである飲料容器用フィッティング。
【請求項4】
請求項3に記載した飲料容器用フィッティングであって、
前記シール溝(26)は、前記取付部材(20)が前記口金(9)に固定された状態において、前記封止部材(28)に対する加圧力が適正な値となるような位置に形成されたものである飲料容器用フィッティング。
【請求項5】
請求項3,4のいずれか1項に記載した飲料容器用フィッティングであって、
前記シール溝(26)は、前記封止部材(28)を加圧する加圧面(262)が傾斜しており、加圧時に前記封止部材(28)に対して外方に拡張させるような力が作用するものである飲料容器用フィッティング。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか1項に記載した飲料容器用フィッティングであって、
前記取付部材(20)は、前記枠部(25)がオーステナイト系ステンレス鋼からなり、その他の部分が2相ステンレス鋼からなるものである飲料容器用フィッティング。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載した飲料容器用フィッティングであって、
前記弁座部(24)は、互いに傾斜角度の異なる2つの円錐面を備えたものである飲料容器用フィッティング。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載した飲料容器用フィッティングであって、
前記封止部材(28)は、断面形状の外周側の輪郭線が外方に膨らむ円弧状の曲線となるものである飲料容器用フィッティング。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載した飲料容器用フィッティングであって、
前記取付部材(2a)は、前記つば部(23)のない取付部材(2)に前記つば部(23)を一体に固着したものである飲料容器用フィッティング。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate