説明

飼育種苗の骨格異常形成を診断するための方法およびそれを用いた飼育種苗の生産管理方法

【課題】種苗生産における将来の骨格異常形成の可能性を診断することができ、かつその後の生産に要する過度の設備および費用の発生を抑制することのできる、種苗の骨格異常形成を診断するための方法を提供すること。
【解決手段】種苗の骨格異常形成を診断するための方法が開示されている、本発明の診断方法は、飼育水槽から飼育種苗を取り出す工程;該取出した飼育種苗の全長および主要部位長さを計測する工程;ならびに該計測した飼育種苗の全長に対する主要部位長さを、該飼育種苗と同一種の健苗が有する全長と主要部位長さとの成長変化から得られる相対成長曲線の信頼値範囲と比較する工程;を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飼育種苗の骨格異常形成を診断するための方法およびそれを用いた飼育種苗の生産管理方法に関し、より詳細には、飼育水槽内で飼育される、孵化後から稚魚になるまでの間の種苗(仔魚)の骨格異常形成を予測して、健苗性に優れた種苗生産の効率をより向上させ得る、飼育種苗の骨格異常形成を診断するための方法およびそれを用いた飼育種苗の生産管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ブリ、カンパチ、ヒラメ、マダイ、トラフグ、オニオコゼなどの市場価値の高い魚介類、および熱帯魚などの観賞魚は、卵を孵化させた後、飼育するいわゆる人工種苗により生産されている。このような人工種苗を生産する過程においては、水温、飼料の種類およびその成分、給餌量などの種々の生産環境が影響すると言われている。
【0003】
従来、種苗生産における作業者はこのような生産環境を経験的に習得し、それぞれ独自の手法で餌料の選択、水温調整等を行ってきた。しかし、このような経験的生産環境の確立には長時間を要し、かつその内容も作業者の習得内容によってバラツキを生じるという傾向があった。さらに、このような経験的生産環境の確立は、異常気象などの予期し得ない環境変化に対し、より柔軟に対応することが比較的困難であった。
【0004】
さらに、人工種苗を用いた養殖用種苗生産では、現在いくつかの問題が指摘されており、例えば、種苗の発育過程における体形異常の発生がこれに含まれる。
【0005】
人工種苗では、天然種苗と比較した場合、当該種苗のフン部が短い、前頭骨と上後頭骨との間が若干陥没するなどの傾向が認められる場合がある。また、その発育過程において、頭部骨格、背鰭担鰭骨、臀鰭担鰭骨、尾骨格、鰓蓋などにも骨格異常が生じる場合もある。このような骨格異常には、例えば、欠損、湾曲、陥没などが挙げられる(例えば、非特許文献1〜5)。
【0006】
骨格異常を有する種苗は、体形の一部または全体が奇形化し、その後の発育において健全な体形を維持することができない。そのため、仮に、奇形化したままで養殖され、そして出荷されたとしても、商品価値がすでに喪失しているという問題も存在する。また、このような骨格異常を有する種苗は、稚魚の段階まで発育させること自体も困難であり、その結果、種苗の生存率および生産性を著しく低下させる原因ともなっている。
【0007】
生産性の低下は、種苗生産に要するコストを低減する点から見れば、最も回避すべき問題である。特に、種苗生産を行う上で、その環境が、将来、生産性の低下する可能性を有しているか否かを早期に予測することが所望されている。
【非特許文献1】松里寿彦,魚類の骨異常に関する研究,Bull.Natl.Res.Inst.,Aquaculture,10,57−179(1986)
【非特許文献2】清水弘文,人工採苗クロダイの骨格異常,東海区水産研究所研究報告,122,1−11(1987)
【非特許文献3】日本栽培漁業協会,形態異常魚の出現状況の把握とその防止法の開発1ブリ,平成3年度日本栽培漁業協会事業年報,246−249(1993)
【非特許文献4】日本栽培漁業協会,形態異常魚の出現状況の把握とその防止法の開発,平成10年度日本栽培漁業協会事業年報,289−290(2000)
【非特許文献5】日本栽培漁業協会,形態異常魚の出現状況の把握とその防止法の開発,平成11年度日本栽培漁業協会事業年報,250−258(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、種苗生産における飼育種苗の将来の骨格異常形成の可能性を早期に診断することができ、かつその後の生産に要する過度の設備準備および生産費用の発生を抑制することのできる、飼育種苗の骨格異常形成を診断するための方法およびそれを用いた飼育種苗の生産管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、飼育種苗の骨格異常形成を診断するための方法であって、
飼育水槽から飼育種苗を取り出す工程;
該取出した飼育種苗の全長および主要部位長さを計測する工程;ならびに
該計測した飼育種苗の全長に対する主要部位長さを、該飼育種苗と同一種の健苗が有する全長と主要部位長さとの成長変化から得られる相対成長曲線の信頼値範囲と比較する工程;を包含する、方法である。
【0010】
1つの実施形態では、上記主要部位長さは、上記飼育種苗の標準体長、体高、頭長、躯幹長、尾部長、吻長、上顎長、眼径、眼後長、背鰭前長、腹鰭前長、背鰭基底長、臀鰭基底長、背鰭前部−臀鰭後部長、背鰭前部−肛門前部長、肛門前部−背鰭後部長、尾柄高、尾柄長、頭高、および尾鰭長からなる群より選択される少なくとも1種の部位の長さである。
【0011】
本発明はまた、飼育水槽内の飼育種苗の骨格異常形成を診断するための記録媒体であって、該飼育種苗と同一種の健苗における任意の全長に対し、それに対応する主要部位長さを表す情報を収容し、かつ該主要部位長さを表す情報が、該飼育種苗と同一種の健苗が有する全長と主要部位長さとの成長変化から得られる相対成長曲線の信頼値範囲として設定されている、記録媒体である。
【0012】
本発明はまた、飼育種苗の生産を管理するための方法であって、
飼育水槽から複数の飼育種苗を取り出す工程;
該取出した複数の飼育種苗の全長および主要部位長さをそれぞれ計測する工程;ならびに
該計測した飼育種苗の全長に対する主要部位長さのそれぞれを、該飼育種苗と同一種の健苗が有する全長と主要部位長さとの成長変化から得られる相対成長曲線の信頼値範囲と比較し、そして該飼育種苗の潜在骨格異常形成数に基づく該飼育種苗の潜在骨格正常生残率を算出する工程;を包含する、方法である。
【0013】
1つの実施形態では、上記主要部位長さは、上記飼育種苗の標準体長、体高、頭長、躯幹長、尾部長、吻長、上顎長、眼径、眼後長、背鰭前長、腹鰭前長、背鰭基底長、臀鰭基底長、背鰭前部−臀鰭後部長、背鰭前部−肛門前部長、肛門前部−背鰭後部長、尾柄高、尾柄長、頭高、および尾鰭長からなる群より選択される少なくとも1種の部位の長さである。
【0014】
本発明はまた、飼育種苗の生産を管理するための装置であって、
飼育種苗を含む飼育水槽と;
該飼育水槽から飼育種苗を取り出すための種苗サンプリング手段と;
該種苗サンプリング手段から取り出した飼育種苗を配置するためのステージと;
該ステージ上に配置された飼育種苗の全長および主要部位長さを記録するための記録手段と;
該記録された全長に対する主要部位長さを、該飼育種苗と同一種の健苗が有する全長と主要部位長さとの成長変化から得られる相対成長曲線の信頼値範囲と比較し、そして該飼育種苗の潜在骨格異常形成数に基づく該飼育種苗の潜在骨格正常生残率を算出する解析手段と;
を備える、装置である。
【0015】
1つの実施形態では、上記主要部位長さは、上記飼育種苗の標準体長、体高、頭長、躯幹長、尾部長、吻長、上顎長、眼径、眼後長、背鰭前長、腹鰭前長、背鰭基底長、臀鰭基底長、背鰭前部−臀鰭後部長、背鰭前部−肛門前部長、肛門前部−背鰭後部長、尾柄高、尾柄長、頭高、および尾鰭長からなる群より選択される少なくとも1種の部位の長さである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、種苗の生産過程において、飼育する種苗に骨格異常が生じているか否かの診断を目視可能な段階になるまで待つことなく、より早期な段階で診断することができる。特に、種苗の生産途中におけるサンプリングを通じて本発明を用いることにより、当該生産現場の飼育種苗群に潜在する将来の骨格正常生残率を段階的に予測することもできる。その結果、余分な生産計画の実施および飼料等の生産コストの発生を早期に中止または抑制することができ、最終的な飼育種苗の生産性をも向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
第一に、本発明の飼育種苗の骨格異常形成を診断するための方法(以下、診断方法という)について説明する。
【0018】
本発明の診断方法においては、まず、飼育水槽から飼育種苗が取り出される。
【0019】
本発明に用いられる飼育水槽は、従来の種苗生産に使用され得るものであり、通常、陸上等に配置される水槽、または水上において使用されるフローティング水槽のいずれであってもよい。飼育水槽の大きさおよび材質も特に限定されない。
【0020】
本発明に用いられる飼育種苗とは、種苗生産において実際に飼育されている状態にある種苗をいい、海水または淡水中で天然に存在しかつ漁獲される種苗(天然種苗)を含まない。本発明に用いられる飼育種苗の種類には、例えば、市場価値の高い魚介類または熱帯魚のような観賞魚の種苗が挙げられる。これら種苗は海水魚または淡水魚のいずれのものであってもよく、より具体的な例としては、ブリ、カンパチ、ヒラメ、マダイ、トラフグ、オニオコゼ、カレイ、アジ類、サバ類、イワシ類、キス、メバル、サケ類、マス類、アユ、コイ、ヤマメ、フナ、またはキンギョなどが挙げられるが特にこれらに限定されない。本発明の方法は、特にブリ、カンパチ、ヒラメ、マダイ、トラフグまたはオニオコゼの飼育種苗に対して用いることが好ましい。
【0021】
これらの飼育種苗の生産は、通常、採卵後、当業者に周知の手段を用いて当該種苗を孵化させ、これを所定の個体数毎に飼育水槽のような任意の容器に移し替え、そして人工的に環境を整えて発育させることにより行われる。このような飼育水槽内での種苗生産では、その生産条件が所定期間(例えば、1時間、数時間、半日、1日、または数日)毎に記録されていることが好ましい。種苗生産において記録され得る生産条件の例としては、飼育水槽の水位(当該飼育水槽内の水容量)、水温、換水量(注水量)、種苗密度、餌料密度、餌料の種類、餌料成分、三態窒素のうちの少なくとも1種の含有量(例えば、当該飼育水槽内のアンモニア濃度、硝酸濃度、および/または亜硝酸濃度)、ならびに溶存酸素量が挙げられるが、特にこれらに限定されない。このような生産条件の記録は、条件項目毎に生産従事者が測定し、所定の記録紙に記入したものであってもよく、あるいはコンピュータを使用して自動的に各条件項目を数値化されたデータとして種々の記録媒体に保管したものであってもよい。
【0022】
飼育水槽から飼育種苗を取り出す際のタイミングおよび個体数は、当該種苗の種類および/または目的に応じて変更され得る。ここで、1つの飼育水槽内で生産される飼育種苗の発育状態を段階的に検査する場合、例えば、所定期間毎に飼育水槽から飼育種苗が取り出される。より具体的には、例えば、ブリのような比較的成長の早い飼育種苗では、半日毎、1日毎、2日毎などの期間毎に飼育水槽から取り出される。他方、オニオコゼのような比較的成長の遅い飼育種苗では、2日毎、3日毎、5日毎などの期間毎に飼育水槽から取り出される。なお、取り出す期間は、必ずしも一定である必要はなく、当業者によって適宜容易に変更されてもよい。
【0023】
また、本発明において1回に取り出される飼育種苗の個体数は、特に限定されないが、予め決定された数であってもよく、例えば、10個体〜100個体が挙げられる。後述する飼育種苗の全長と主要部位長さとを計測することを考慮すれば、1回に取り出される個体数は30個体〜50個体であることが好ましい。なお、取り出される個体数は、必ずしも毎回厳密に一定にする必要はないが、その場合、取り出した個体数を正確に記録しておくことが好ましい。
【0024】
飼育水槽から取り出された飼育種苗は、例えば、魚類用麻酔剤を用いて麻酔が施され、当該種苗が動かなくなった後、全長と主要部位長さとが計測される。ここで、本発明において計測され得る主要部位には、種苗の標準体長、体高、頭長、躯幹長、尾部長、吻長、上顎長、眼径、眼後長、背鰭前長、腹鰭前長、背鰭基底長、臀鰭基底長、背鰭前部−臀鰭後部長、背鰭前部−肛門前部長、肛門前部−背鰭後部長、尾柄高、尾柄長、頭高、および尾鰭長が挙げられる。
【0025】
飼育種苗の全長および主要部位長さの測定は、当業者に周知の手段が使用される。具体的には、(1)万能投影機による実寸倍〜20倍の倍率で種苗をディスプレイに表示し、その表示された種苗の全長および主要部位長さをノギスまたはデジタルノギスを用いてそれぞれ測定する(例えば、有効数字を0.01mmとする)方法;(2)マイクロメーターを備える実体顕微鏡を用いた等倍〜10倍の倍率で、例えば、有効数字0.001mmまで測定する方法;あるいは(3)飼育種苗を、例えば、CCDカメラのような手段を用いて画像として取り込み、画像解析技術を利用して、当該飼育種苗の全長と、指定した主要部部位長さとを自動的に測定する方法;が挙げられる。
【0026】
本発明に用いられる飼育種苗の全長および主要部位長さをより具体的に説明するために、まず、ヒラメを例示して説明する。
【0027】
図1は、ヒラメ種苗を用いる際の当該飼育種苗の全長と主要部位の長さとの関係を説明するための図であって、(a)は、0日齢〜およそ15日齢までの全長と、主要部位の長さとの関係を表す模式図であり、(b)は、およそ15日齢〜およそ30日齢までの全長と、主要部位の長さとの関係を表す模式図であり、そして(c)は、およそ30日齢〜およそ40日齢までの全長と、主要部位の長さとの関係を表す模式図である。
【0028】
図1の(a)に示されるように、0日齢〜およそ15日齢のヒラメの種苗においては、全長(TL)(1)は、当業者に周知でありかつ当業者がその測定に際し必要となる始点または終点に対応する各部位の位置を容易に特定し得る長さであって、具体的には、吻の前端からまっすぐに伸ばした尾鰭の後端までの長さとして表される。これに対し、主要部位長さは、それぞれ当業者に周知でありかつ当業者がその測定に際し必要となる始点または終点に対応する各部位の位置を容易に特定し得る長さであって、具体的には、以下の範囲の長さとして表される。
【0029】
例えば、標準体長(BL)(2)(本明細書において単に体長と表現することもある)は、吻または上唇の前端から、下尾骨と尾鰭基底との間の関節点までの長さとして表され、
体高(BDp)(3)は、体幹部の最も高い部分の鉛直高さで表され、
頭長(HL)(4)は、吻または上唇の前端から、主鰓蓋骨または鰓蓋膜の後端までの長さとして表され、
躯幹長(TrL)(5)は、頭部後端から、総排出腔または肛門までの部分の長さとして表され、
尾部長(TiL)(6)は、総排出腔または肛門から、下尾骨と尾鰭基底との間の関節点までの長さとして表され、
吻長(SnL)(7)は、吻または上唇の前端から、眼窩の前縁までの長さとして表され、
上顎長(UJL)(8)は、吻または上唇の前端から、主上顎骨の後端までの長さとして表され、
眼径(EDm)(9)は、眼窩の前縁から眼窩の後縁までの長さとして表され、そして
眼後長(RHLE)(10)は、眼窩の後縁から、主鰓蓋骨または鰓蓋膜の後端までの長さとして表される。
【0030】
さらに 図1の(b)に示されるように、およそ15日齢〜およそ30日齢のヒラメの飼育種苗においては、全長(TL)(1)、標準体長(SL)(2)、体高(BDp)(3)、頭長(HL)(4)、 躯幹長(TrL)(5)、尾部長(TiL)(6)、吻長(SnL)(7)、上顎長(UJL)(8)、眼径(EDm)(9)、および眼後長(RHLE)(10)は上記図1の(a)に示されるものと同様の長さとして表され、
背鰭前長(FLDrF)(11)は、吻または上唇の前端から、背鰭基底の前縁までの長さとして表され、そして
背鰭前部−肛門前部長(LDrAb)(16)は、背鰭基底の前縁から、総排出腔または肛門までの長さとして表される。これらの長さもまた当業者に周知でありかつ当業者がその測定に際し必要となる始点または終点に対応する各部位の位置を容易に特定し得る長さである。
【0031】
またさらに、図1の(c)に示されるように、およそ30日齢〜およそ40日齢のヒラメの種苗においては、全長(TL)(1)、標準体長(SL)(2)、体高(BDp)(3)、頭長(HL)(4)、 躯幹長(TrL)(5)、尾部長(TiL)(6)、吻長(SnL)(7)、上顎長(UJL)(8)、眼径(EDm)(9)、および眼後長(RHLE)(10)は上記図1の(a)に示されるものと同様の長さとして表され、
腹鰭前長(FLPIF)(12)は、腹鰭基底の前縁から、吻または上唇の前端までの長さとして表され、
背鰭基底長(DrFBL)(13)は、背鰭基底の前縁から背鰭基底の後縁までの長さとして表され、
臀鰭基底長(AFBL)(14)は、臀鰭基底の前縁から臀鰭基底の後縁までの長さとして表され、
背鰭前部−臀鰭後部長(LDrAb)(15)は、背鰭基底の前縁から臀鰭基底の後縁までの長さとして表され、
背鰭前部−肛門前部長(LDrAb)(16)は、背鰭基底の前縁から、総排出腔または肛門までの長さとして表され、
肛門前部−背鰭後部長(LADr)(17)は、総排出腔または肛門から、背鰭基底の後縁までの長さとして表され、
尾柄高(CPDp)(18)は、尾柄の最も低い部分の鉛直高さで表され、そして
尾柄長(CPL)(19)は、臀鰭基底の後縁から尾鰭基底までの長さとして表される。これらの長さもまた当業者に周知でありかつ当業者がその測定に際し必要となる始点または終点に対応する各部位の位置を容易に特定し得る長さである。
【0032】
種苗の種類および発育過程に応じて、測定すべき主要部位は適宜決定され得る。例えば、後に実施例で述べるオニオコゼ種苗の場合のように、頭高(HH)、尾鰭長(CFL)などの上記のヒラメ種苗では測定不可能な部位について測定を行ってもよい(図18参照)。ここで、頭高(HH)は、頭部の最も高い部分の鉛直の高さとして表され、そして尾鰭長(CFL)は、およそ6日齢以後の種苗において、尾鰭基底から尾鰭の後端までの長さとして表される。これらの長さもまた当業者に周知でありかつ当業者がその測定に際し必要となる始点または終点に対応する各部位の位置を容易に特定し得る長さである。
【0033】
次いで、上記にて計測された全長に対する主要部位長さが、当該飼育種苗と同一種の健苗が有する全長と主要部位長さとの関係から表される相対成長曲線の信頼値範囲と比較される。具体的には、この比較は、上記にて計測された全長に対する主要部位長さが、当該飼育種苗と同一種の健苗が有する全長と主要部位長さとの成長変化から得られる相対成長曲線の信頼値範囲内にあるか否かが判別される。
【0034】
本発明に用いられる用語「相対成長曲線」は、当該飼育種苗の発育過程における全長と、上記主要部位のうちの1つの長さとの関係を表す図およびグラフ、ならびにこれらを表現する際に用いられる数式を包含していい、特に、健全な骨格形成(すなわち、骨格異常を起こすことなく発育する状態)にある飼育種苗(健苗)の全長と主要部位長さとの関係を表すものである。
【0035】
ここで、本発明に用いられる相対成長曲線の信頼範囲について説明する前に、種苗の全長と主要部位長さとの成長変化から得られる当該相対成長曲線について説明する。
【0036】
種苗における全長および主要部位のそれぞれの長さは、種苗の成長にしたがって常に均等な割合で(すなわち、常に相似的に)変化するものではないことが知られている。むしろ、種苗は、その発育において、ある種苗の特定部分Mの長さXに対する他の部分Mの長さYが:
【0037】
【数1】

【0038】
で表される関係を満足するように成長する。このような成長を相対成長といい、係数bは相対成長係数とも呼ばれる。すなわち、相対成長係数bが1を上回る(b>1)場合、他の部分Mは特定部分Mよりも早い速度で成長していることを表し、相対成長係数bが1である(b=1)場合、他の部分Mは特定部分Mと同じ速度で成長していることを表し、そして相対成長係数bが1未満である(b<1)場合、他の部分Mは特定部分Mよりも遅い速度で成長していることを表す。さらに、上記より長さXおよび長さYのそれぞれの対数値は:
【0039】
【数2】

【0040】
で表される。
【0041】
種苗の発育に伴う相対成長において、当該種苗が仔魚から稚魚へ、そして稚魚から成魚へと段階的に発育する際、各部分の相対成長の速度はこの段階に応じて変化する。これにより、例えば、全長と特定の主要部位長さとの間の相対成長を、屈曲点(相対成長変異点)を有する複数の直線の組み合わせで表すことができる(これを複相アロメトリーという)。相対成長の変化が屈曲点として表れるため、当該種苗の全長と特定主要部位長さとの関係を記録し、その情報を蓄積すれば、種苗は屈曲点を境にして生理的な性質を変化させていることがわかる。したがって、同一種苗の発育過程において、複数の相対成長を組み合わせることにより、成長の特徴がほぼ一致する期間を区分けすることができる。さらに、この区分けとその期間における形態的特徴とを組み合わせることにより、相対成長に対する発育段階の区分が可能となる。
【0042】
屈曲点を有する複数の相対成長の組み合わせは、相対成長曲線と呼ばれる。相対成長曲線は、種苗の種類毎等によって異なり、これは多数の健全な種苗の全長と主要部位長さとでなる複数のデータを集約し、これらデータから近似的に算出することにより得ることができる。
【0043】
相対成長曲線は、例えば、図2に示されるようなグラフで表される。図2は、健苗なヒラメ種苗(0日齢〜40日齢)の全長(TL;単位mm)に対する頭長(HL;単位mmの対数)の関係を示す相対成長曲線を表すグラフである。
【0044】
図2に示されるように、当該期間におけるヒラメ種苗は、2つの屈曲点A1およびA2を有する相対成長を行っていることがわかる。ここで、図2に示される屈曲点A1の座標は(0.824,0.0792)であり(すなわち、元の長さに換算して、全長6.67mmおよび頭長1.20mmを表す)、屈曲点A2の座標は(1.029,0.427)である(すなわち、元の長さに換算して、全長10.70mm,2.67mmを表す)。このように0日齢〜40日齢のヒラメ種苗は、2つの屈曲点を境にして3つの異なる発育段階を経て成長する。
【0045】
さらに、本発明においては、例えば、図2に表されるような相対成長曲線に対し、当該分野において周知の統計学的手法を用いることにより、本発明に用いられる相対成長曲線の信頼範囲を設定することができる。
【0046】
すなわち、本発明においては、予め所定の信頼値(例えば、±5%)が設定され、この値と上記相対成長曲線を作成するために使用したサンプル数(母集団)等に基づいて、統計学的に相対成長曲線の信頼範囲が設定される。例えば、上記全長(TL;単位mmの対数値)に対する頭長(HL;単位mmの対数値)の関係を示す相対成長主曲線を用いて説明すれば、所定のX軸の値(全長(TL)mmの対数値)に対して設定された信頼値に基づくY軸の値(頭長(HL)mmの対数値)の範囲が算出される。本発明に用いられる相対成長曲線の信頼範囲は、設定した信頼値内として許容され得るこのようなY軸の値の範囲を表す。
【0047】
より具体的に説明すれば、本発明に用いられる相対成長曲線の信頼値範囲は、例えば以下のようにして算出される。
【0048】
まず、飼育種苗と同一種の健苗の成長に応じて、全長と主要部位長さとが都度測定される。その後、これにより得られたデータ群から回帰分析を行うことにより、屈曲点を介して接する複数の線分の組合せでなる1本の相対成長曲線(基準曲線)を得ることができる。さらに、得られた基準曲線に対し、例えば、±20%または±5%のような信頼値が統計学的手法を用いることにより設定される。本発明において設定される信頼値は、好ましくは±5%から±30%(95%から70%の信頼区間ともいう)であり、より好ましくは±5%から±20%(95%から80%の信頼区間ともいう)、さらにより好ましくは±5%から±10%(95%から90%の信頼区間ともいう)である。当該信頼値は、例えば、種苗を生産する生産場所の気候、温度条件、飼育種苗の種類などによって当業者により任意に設定され得る。
【0049】
本発明においては、例えば、上記のようにして設定された相対成長曲線の信頼値を用い、実際に取り出した飼育種苗がその範囲内にあるか否かを判別することによって、比較が行われる。より具体的には、例えば、計測された飼育種苗の全長に対する主要部位長さが、上記にて作成された相対成長曲線上にプロットされ、このプロットされた座標点が当該曲線の信頼値範囲内に含まれるか否かが当業者によって判別される。仮にプロットした座標点が信頼値範囲内に含まれる場合は、この取り出された飼育種苗は、少なくとも取り出された時点までは体内に骨格異常が生じていないか、あるいは将来にわたって骨格異常が生じる可能性が低いことがわかる。すなわち、この取り出された飼育種苗は、測定した主要部位長さと全長との関係において、少なくとも取り出された段階では、当業者にとって健苗と判断され得る成長を維持していると判断することができる。一方、仮にプロットした座標点が信頼値範囲の外に位置する場合は、この取り出された飼育種苗は、取り出された時点で体内に少なくとも測定した主要部位長さと全長との関係において骨格異常が生じているか、あるいは将来に骨格異常を生じる可能性があり、その結果、死亡に至るか、または死亡しなくとも将来の成長によって養殖魚としての市場価値を著しく低下される恐れがあることがわかる。
【0050】
当業者は、このようなプロットを行うことにより、飼育水槽内に存在する飼育種苗の骨格に対する健康状態を容易に診断することができ、飼育種苗の骨格異常形成を目視可能な段階になるまで待って確認することなく、より早期な段階で診断することができる。
【0051】
なお、上記の診断方法は、本発明の診断方法の例示であり、必ずしも全長に対する1つの主要部位長さで表される上記相対成長曲線および/または当該相対成長曲線の信頼値範囲のみで診断が行われなくてもよい。すなわち、全長と複数の主要部位長さとが計測され、それぞれの相対成長曲線の信頼値範囲から総合的に診断されてもよい。
【0052】
上記で使用される健苗が示す相対成長曲線および当該相対成長曲線の信頼値範囲は、診断の都度作成または算出するのではなく、予め記録媒体等内に収容され、繰り返し利用されることが好ましい。
【0053】
図3は、飼育水槽内の飼育種苗の骨格異常形成を診断するための本発明の記録媒体の一例を説明する模式図である。
【0054】
図3に示されるように、本発明の記録媒体は例えば書籍10の形態を有する。図3に示される記録媒体は、上記健苗が示す相対成長曲線および当該曲線から統計学的に算出される相対成長曲線の信頼値範囲が、全長に対する主要部位の種類に応じて、例えば、1ページごとに収録されている。本発明の記録媒体は、このような書籍のみに限定されず、このような相対成長曲線等を電子データとして収容したフレキシブルディスク、コンパクトディスク、デジタルビデオディスク、MOディスク、またはハードディスクのいずれであってもよい。さらに、本発明の記録媒体は、上記相対成長曲線自体を電子データとして収容する代わりに、当該曲線を形成するに必要な、各種健苗の全長と主要部位長さと成長変化に対応する式に信頼値範囲を付加した関係式(方程式)が収容されているものであってもよい。
【0055】
次に、本発明の飼育種苗の生産を管理するための方法(以下、管理方法という)について説明する。本発明の管理方法は、上記本発明の診断方法を用いることによって種苗生産全体の将来の骨格異常形成の割合を予測することができる。
【0056】
本発明の管理方法においては、まず上記と同様に飼育水槽から複数個体の飼育種苗が取り出される。
【0057】
本発明の管理方法において、飼育水槽から飼育種苗を取り出す際のタイミングおよび個体数は、必ずしも以下に限定されないが、例えば、1日、2日または3日毎に、飼育水槽から取り出される。1回に取り出される飼育種苗の個体数もまた、特に限定されないが、10個体、20個体、100個体などの予め決定された複数の個体数であることが好ましい。また、本発明の管理方法では、取り出した飼育種苗の個体数が正確に記録される。飼育種苗を取り出した日時も正確に記録しておくことが好ましい。
【0058】
取り出された飼育種苗は、上記と同様にして、全長と主要部位の長さとがそれぞれ計測される。計測される主要部位の種類は、1つに限定されることはなく、複数の主要部位長さが測定されてもよい。
【0059】
次いで、上記計測した飼育種苗の全長に対する主要部位長さのそれぞれを、該飼育種苗と同一種の健苗が有する全長と主要部位長さとの成長変化から得られる相対成長曲線の信頼値範囲と比較し、そして該飼育種苗の潜在骨格異常形成数に基づく該飼育種苗の潜在骨格正常生残率が算出される。
【0060】
上記計測した飼育種苗の全長に対する主要部位長さのそれぞれを、該飼育種苗と同一種の健苗が有する全長と主要部位長さとの成長変化から得られる相対成長曲線の信頼値範囲と比較する手順は、上記本発明の診断方法と同様である。その後、この比較において、プロットされ得る座標点が相対成長曲線の信頼値範囲内にある種苗の数(潜在健苗数)、および/またはプロットされ得る座標点が相対成長曲線の信頼値範囲の外にある種苗の数(潜在骨格異常形成数)の少なくともいずれかがカウントされる。ここで、「潜在健苗数」とは、計測した飼育種苗の全長と主要部位の長さとの関係が、骨格異常がなく健全な状態で発育された種苗群のものとほぼ同様であり、計測段階時において、計測した主要部位に基づく骨格異常が将来起こらないであろうと予測される種苗の数をいう。他方、「潜在骨格異常形成数」とは、計測した飼育種苗の全長と主要部位の長さとの関係が、上記健全な状態で発育された種苗群のものと外れており、むしろ計測した主要部位に基づく将来の骨格異常形成が予測される種苗の数をいう。
【0061】
本発明の管理方法においては、上記計測および比較の結果、飼育水槽から取り出した飼育種苗の個体数と、このような潜在健苗数または潜在骨格異常形成数とによって、当該種苗の潜在骨格正常生残率が、例えば、以下の式(A)〜(D)を用いて算出される:
【0062】
【数3】

【0063】
本発明の管理方法では、飼育水槽中の飼育種苗に対する潜在骨格正常生残率を、所定の主要部位毎に別々に計算することができる。算出された値は、飼育水槽中の飼育開始当初の種苗に対し、計測した主要部位毎で骨格が正常である種苗の割合(例えば、%)とみなすことができる。このため、当業者は算出された割合から、生残する将来の健全な種苗密度を予測し、飼育水槽中の種苗について、そのまま飼育を継続するか、あるいは飼育を中止するかを判断することができる。より詳細には、得られた骨格正常生残率に伴う種苗生産の継続または中止の判断は、飼育種苗の種類および飼育の困難性、将来の飼育に必要な追加設備の有無、飼料コスト等(すなわち、種苗の飼育を継続するために要するコストと、将来健全に発育して得られる種苗自体の市場価値とのバランス)を考慮して、当業者が任意に判断することができる。
【0064】
このようにして、種苗生産を継続しながら、将来の飼育種苗に対する骨格異常をきたすことがない種苗、すなわち健全な種苗(健苗)の割合を早期に予測することができる。
【0065】
次に、本発明の飼育種苗の生産を管理するための装置(以下、管理装置という)について図面を参照して説明する。
【0066】
図4は、本発明の管理装置の構成の一例を表す模式図である。
【0067】
図4に示されるように、本発明の管理装置100は、飼育水槽104、種苗サンプリング手段106、ステージ108、記録手段110、および制御・解析手段112を備える。
【0068】
本発明の管理装置に用いられる飼育水槽104は、従来の種苗生産に使用され得るものであり、通常、陸上等に配置される水槽、または水上において使用されるフローティング水槽のいずれであってもよい。飼育水槽の大きさおよび材質も特に限定されない。本発明に用いられ得る飼育水槽の具体例としては、ポリエチレン製水槽またはポリカーボーネート製水槽が挙げられる。
【0069】
飼育水槽104には、所定量の海水または淡水とともに、上述したような種類の飼育種苗114が収容されている。飼育水槽104の大きさ、飼育種苗114の種類などに応じて、当該水槽に収容される飼育種苗の個体数(孵化仔魚収容密度)を予め適切な範囲に設定しておくことが好ましい。
【0070】
本発明に用いられ得る孵化仔魚収容密度を例示すれば、例えば、ヒラメ種苗を用いる場合の孵化仔魚収容密度は、好ましくは10000個体/m〜30000個体/mであり、より好ましくは15000個体/m〜25000個体/mであり、さらにより好ましくは18000個体/m〜22000個体/mである。オニオコゼ種苗を用いる場合の孵化仔魚収容密度は、好ましくは5000個体/m〜25000個体/mであり、より好ましくは10000個体/m〜20000個体/mであり、さらにより好ましくは13000個体/m〜17000個体/mである。
【0071】
飼育水槽104中における種苗114の飼育方法は特に限定されず、当該分野において周知の手法が採用され得る。
【0072】
本発明に用いられる飼育水槽104はまた、飼料を投入するための給餌管、注水管、排水管、水温計、温度調節ヒータ(いずれも図示せず)などの通常の種苗生産において必要とされる手段が所定の位置に配置されていてもよい。
【0073】
本発明に用いられる種苗サンプリング手段106は、制御手段120からの電気信号に基づいて、一方の端部が飼育水槽104内の所定の位置に備え付けられた吸引管116を通じて、飼育水槽104内の飼育種苗114を、当該水槽内の海水または淡水の一部とともに吸引し、ステージ108上に排出し得る。
【0074】
より具体的な例を図4を用いて説明すれば、まず、制御手段120から発せられた電気信号によって、吸引管116の途中に設けられたポンプ118が稼動し、飼育種苗114と海水または淡水とでなる所定量が、好ましくは上部の少なくとも一部が開放された処置槽122内に送給される。一方、制御手段120からの別の電気信号に基づいて、麻酔剤槽124に連通した管のバルブ(またはポンプ)が所定時間開放(または稼動)され、麻酔剤槽124内に収容された、所定量の魚類用麻酔剤が処置槽122内に送給される。これにより、処置槽124内で、飼育水槽104から取り出された飼育種苗114に麻酔が施される。
【0075】
次いで、処置槽122内の飼育種苗114がほぼ動かなくなるまでの時間が経過した後、制御手段120からの電気信号に基づいて排出管126に設けられたバルブ(またはポンプ)が開放(または稼動)し、麻酔の施された飼育種苗は排出管126を通って、水槽104からともに取り出された海水または淡水等とともに、ステージ108上に排出される。
【0076】
本発明に用いられるステージ108は水平方向に移動可能であり、好ましくは、円筒状の形状をなし、少なくとも二本のロール128、130とともにベルトコンベアの形態で設計されている。なお、ロール128、130の両方またはいずれか一方には、制御手段120に電気的に接続されたステッピングモーターのような駆動手段(図示せず)が取り付けられており、ロールの回転を自由に制御することができる。
【0077】
本発明に用いられるステージ108はまた、図5に示されるように、ほぼ全面にわたって、空孔131が設けられた(図5の(a)を参照のこと)、あるいはメッシュ状に織り込まれた(図5の(b)を参照のこと)構成を有していることが好ましい。なお、図5の(a)または(b)に示されるようなステージに設けられた孔の直径またはメッシュサイズは、特に限定されないが、管理すべき飼育種苗の大きさよりも小さくなるように(例えば、将来の骨格異常形成を診断し得る3日齢のブリ種苗の場合はおよそ3mm〜4mmの全長を有するため、孔の直径またはメッシュサイズはこれを下回るように)設定されていることが好ましい。
【0078】
再び図4を参照すると、ステージ108上に配置された飼育種苗114は、制御手段120からの電気信号に基づいたロール128の回転に連動して、水平方向に移動させられる。その後、図4に示されるように、飼育種苗114がステージ108を挟んでバキューム手段132上に到達した際、制御手段120からの電気信号に基づいてポンプ134が稼動する。これにより、ステージ108上に飼育種苗114とともに排出された、海水または淡水、麻酔剤の残渣、飼料カス等の不要物が、飼育種苗114のみを残してステージ108に設けられた空孔またはメッシュを通じてバキューム手段132側に移動し、ステージ108上から不要物が除去される。この不要物の除去にあたり、ロール128、130の回転は連続的または断続的のいずれで行われていてもよい。
【0079】
次いで、ステージ108上の飼育種苗114は、そのまま水平移動し、好ましくは下端がテーパ状に絞り込まれたスリット136の下部を通過する。このスリット136とステージ108との間隙は、飼育種苗114の平均体幅よりも若干大きくなるように設けられており、診断する飼育種苗の日齢に合わせて当業者が任意に調節可能である。このような間隙を有していることにより、仮に、排出管126から排出された複数の飼育種苗114がステージ108上に重なっていたとしても、この間隙を通過する際、より上方に位置する飼育種苗がスリット136前で一旦通過を阻止される。その後、下方の飼育種苗のみがまず間隙を通過し、上方の飼育種苗は進行方向に対して後方側に移動することにより、ステージ108上での飼育種苗114の重なりを取除くことができる(すなわち、ステージ108上に、各飼育種苗114が1個体ずつ配置される)。また、本発明に用いられ得るスリット136の下端は、通過する飼育種苗が傷つくことを防止するために比較的軟質な材料(例えば、軟質プラスチック、ゴム、織布または不織布のような布帛、または動物の毛)で構成されていることが好ましい。
【0080】
さらに、ステージ108上の飼育種苗114は、ロール128、130の回転に合わせて水平移動し、記録手段110の下部まで移動する。
【0081】
本発明の管理装置100に用いられる記録手段110は、ステージ108上に所定の間隔をあけて配置されている。記録手段110の例としては、実体顕微鏡またはCCDカメラのような画像記録装置が挙げられる。記録手段110は制御手段120および解析手段138に電気的に接続されている。また、飼育種苗114が記録手段110の下部に位置した際、制御手段120を通じ、好ましくはロール128,130の回転が一時的に停止する。その後、制御手段120は記録手段110に電気信号を送り、ステージ108上の飼育種苗114(好ましくは、飼育種苗114の全長と主要部位長さ)を画像として記録する。なお、記録手段110と反対のステージ108の面(裏面)側には、好ましくは防水加工が施された光源(例えば、ハロゲンランプなど)140が設けられている。光源140が発せられた光は、ステージ108に設けられた上記空孔またはメッシュを通じてステージ108を透過し、記録手段110側をより明るく照らすことができる。これにより、記録手段110が、飼育種苗114をより鮮明に記録することができる。
【0082】
記録された飼育種苗の情報は、画像解析ソフトがインストールされた解析手段138に送信される。解析手段138は、この情報に基づいて、飼育種苗の個体数をカウントするとともに、飼育種苗の全長および主要部位長さを数値化することができる。また、本発明に用いられる解析手段138には、管理者によって、診断すべき種苗の種類、管理すべき主要部位長さの種類、飼育水槽104から取り出した飼育種苗114の日齢、これらに応じた健苗の全長と主要部位長さと成長変化に対応する相対成長曲線の関係式、ならびに当該相対成長曲線に対し所定の信頼値(好ましくは±5%から±30%であり、より好ましくは±5%から±20%、さらにより好ましくは±5%から±10%である)範囲を付加した関係式などの管理条件、関係式等が予め設定されている。解析手段138では、送信された飼育種苗の画像情報についてこれら管理条件、関係式等を用いた各々解析が行われ、上述したような計算式にしたがって潜在骨格正常生残率が算出される。算出された潜在骨格正常生残率は、解析手段に別途接続された表示手段(例えば、ディスプレイ、プリンターなど)144にそのまま出力されるものであってもよく、あるいは算出された潜在骨格正常生残率が管理者よって予め設定された基準値に満たない場合にのみ当該表示手段144に出力されるものであってもよい。
【0083】
なお、図5において制御手段120と解析手段138は各々独立して記載しているが、本発明の管理装置は、この形態に必ずしも限定されない。すなわち、本発明においては、制御手段120と解析手段138とを1台のコンピュータに集約かつ代用し、これを制御・解析手段112として使用してもよい。
【0084】
その後、ステージ108上の飼育種苗は、ロール128、130の回転に合わせてさらに水平移動させられる。ロール128側のステージ端部には、シャワー手段142が設けられている。ロール128付近まで移動した飼育種苗は、シャワー手段142から出される洗浄液(例えば、水)によって洗い流され、ステージ108上から除去される。除去された飼育種苗および洗浄液は一旦回収槽146に集められ、その後管を通じて外部に廃棄される。飼育種苗が除去されたステージは、さらにロール128、130の回転に合わせて移動し、再度排出管126から排出された、次に診断すべき別の飼育種苗を配置することができる。
【0085】
このようにして、飼育水槽内の飼育種苗が現在または将来にわたって骨格異常を来たすか否か、および/またはその確率を自動かつ連続的に測定することができ、当該飼育水槽内の飼育種苗の健苗性を管理することができる。
【0086】
本発明の管理装置は、ブリ、カンパチ、ヒラメ、マダイ、トラフグ、オニオコゼ、カレイ、アジ類、サバ類、イワシ類、キス、メバル、サケ類、マス類、アユ、コイ、ヤマメ、フナ、キンギョなどの海水魚または淡水魚の種苗を管理するために有用である。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例によって具体的に記述する。しかし、これらによって本発明は制限されるものではない。
【0088】
<参考例1:ヒラメ種苗の飼育>
18℃の水温に保たれた1000リットルのポリエチレン製水槽に、孵化直後(0日齢)のヒラメ孵化胚を、初期孵化仔魚収容密度20000個体/mの割合で収容した。孵化後2日齢〜14日齢まではL型ワムシを当該水槽中で5個体/mlを維持し得るように朝(午前8時)と夕方(午後)にそれぞれ給餌し、15日齢〜17日齢までは、先と同様の割合のL型ワムシと、加齢に応じて160万個体/水槽〜400万個体/水槽の範囲で徐々に給餌量を増加させたアルテミアとを朝(午前8時)と夕方(午後3時)にそれぞれ給餌し、18日齢〜39日齢までは加齢に応じて160万個体/水槽〜400万個体/水槽の範囲で徐々に給餌量を増加させたアルテミアを朝、昼、晩の間、ほぼ同じ時間間隔で給餌して40日齢になるまで飼育を行った。
【0089】
<実施例1:ヒラメ種苗の相対成長曲線(全長−体長関係)の作成と信頼値範囲の設定>
上記参考例1において、0日齢〜40日齢の間、5日毎に20個体の種苗を水槽から採取した。採取後、各種苗を直ちに適量の魚類用麻酔剤(田辺製薬(株)製FA100を海水で1/1000倍(容量比)で希釈したもの)を用いて、麻酔した。各種苗が動かなくなったことを確認した後、種苗を1個体ずつ万能投影機((株)ニコン製V−12B)のステージ上に置き、実寸倍〜20倍の倍率で種苗を当該投影機のディスプレイに表示させ、その表示された種苗の全長(TL)および体長(BL)(図1の(a)、(b)および(c)のそれぞれに示される(2)に対応)をデジタルノギスを用いて有効数字0.01mmまで測定した。
【0090】
40日齢が経過し、すべての上記測定が終了した後、得られた全長および体長の結果を対数変換し、相対成長に伴う屈曲点および各屈曲点を境とする相対成長の回帰式を算出した。
【0091】
参考例1の飼育条件によるヒラメ種苗は、全長と体長との相対成長の関係において2つの屈曲点AおよびA(すなわち、屈曲点Aは全長6.45mmに対し体長6.12mmであり、そして屈曲点Aは全長10.73mmに対し体長8.93mmである)を有していることがわかった。また、全長(mm)の対数値をx、体長(mm)の対数値をyとしたとき、ヒラメ種苗は、屈曲点Aに至るまではy=1.0172x−0.037(R=0.9957)の関係を満足し、屈曲点Aから屈曲点Aまではy=0.744x+0.1842(R=0.9431)の関係を満足し、そして屈曲点A以降はy=0.9952x−0.0747(R=0.9981)の関係を満足する相対成長曲線で表すことができることを見出した。本実施例で得られた全長(TL)と体長(BL)との間の相対成長曲線を図6に示す。
【0092】
<実施例2:ヒラメ種苗の相対成長曲線(全長−頭長関係)の作成と信頼値範囲の設定>
万能投影機のディスプレイに表示された種苗の全長(TL)および頭長(HL)(図1の(a)、(b)および(c)のそれぞれに示される(4)に対応)をデジタルノギスを用いて有効数字0.01mmまで測定したこと以外は、実施例1と同様にして、相対成長に伴う屈曲点および各屈曲点を境とする相対成長の回帰式を算出した。
【0093】
参考例1の飼育条件によるヒラメ種苗は、全長と頭長との相対成長の関係において2つの屈曲点BおよびB(すなわち、屈曲点Bは全長6.67mmに対し頭長1.20mmであり、そして屈曲点Bは全長10.70mmに対し頭長2.67mmである)を有していることがわかった。また、全長(mm)の対数値をx、頭長(mm)の対数値をyとしたとき、ヒラメ種苗は、屈曲点Bに至るまではy=1.0599x−0.79444(R=0.8098)の関係を満足し、屈曲点Bから屈曲点Bまではy=1.6613x−1.2893(R=0.7482)の関係を満足し、そして屈曲点B以降はy=0.9408x−0.5416(R=0.5594)の関係を満足する相対成長曲線で表すことができることを見出した。本実施例で得られた全長(TL)と頭長(HL)との間の相対成長曲線を図7に示す。
【0094】
<実施例3:ヒラメ種苗の相対成長曲線(全長−尾部長関係)の作成と信頼値範囲の設定>
万能投影機のディスプレイに表示された種苗の全長(TL)および尾部長(TiL)(図1の(a)、(b)および(c)のそれぞれに示される(6)に対応)をデジタルノギスを用いて有効数字0.01mmまで測定したこと以外は、実施例1と同様にして、相対成長に伴う屈曲点および各屈曲点を境とする相対成長の回帰式を算出した。
【0095】
参考例1の飼育条件によるヒラメ種苗は、全長と尾部長との相対成長の関係において3つの屈曲点C、CおよびC(すなわち、屈曲点Cは全長3.71mmに対し尾部長1.84mmであり、屈曲点Cは全長4.91mmに対し尾部長2.52mmであり、そして屈曲点Cは全長10.97mmに対し尾部長5.41mmである)を有していることがわかった。また、全長(mm)の対数値をx、尾部長(mm)の対数値をyとしたとき、ヒラメ種苗は、屈曲点Cに至るまではy=1.6908x−0.6987(R=0.8357)の関係を満足し、屈曲点Cから屈曲点Cまではy=1.133x−0.3808(R=0.7081)の関係を満足し、屈曲点Cから屈曲点Cまではy=0.9482x−0.2531(R=0.7459)の関係を満足し、そして屈曲点C以降はy=1.1352x−0.4476(R=0.9257)の関係を満足する相対成長曲線で表すことができることを見出した。本実施例で得られた全長(TL)と尾部長(TiL)との間の相対成長曲線を図8に示す。
【0096】
<実施例4:ヒラメ種苗の相対成長曲線(全長−体高関係)の作成と信頼値範囲の設定>
万能投影機のディスプレイに表示された種苗の全長(TL)および体高(BDp)(図1の(a)、(b)および(c)のそれぞれに示される(4)に対応)をデジタルノギスを用いて有効数字0.01mmまで測定したこと以外は、実施例1と同様にして、相対成長に伴う屈曲点および各屈曲点を境とする相対成長の回帰式を算出した。
【0097】
参考例1の飼育条件によるヒラメ種苗は、全長と体高との相対成長の関係において3つの屈曲点D、DおよびD(すなわち、屈曲点Dは全長6.13mmに対し体高1.07mmであり、屈曲点Dは全長9.17mmに対し体高3.25mmであり、そして屈曲点Dは全長12.35mmに対し体高4.59mmである)を有していることがわかった。また、全長(mm)の対数値をx、体高(mm)の対数値をyとしたとき、ヒラメ種苗は、屈曲点Dに至るまではy=1.8533x−1.4164(R=0.9512)の関係を満足し、屈曲点Dから屈曲点Dまではy=2.7491x−2.1347(R=0.6689)の関係を満足し、屈曲点Dから屈曲点Dまではy=1.1674x−0.6124(R=0.6142)の関係を満足し、そして屈曲点D以降はy=0.6402x−0.0368(R=0.5714)の関係を満足する相対成長曲線で表すことができることを見出した。本実施例で得られた全長(TL)と体高(BDp)との間の相対成長曲線を図9に示す。
【0098】
<実施例5:ヒラメ種苗の相対成長曲線(全長−上顎長関係)の作成と信頼値範囲の設定>
万能投影機のディスプレイに表示された種苗の全長(TL)および上顎長(UJL)(図1の(a)、(b)および(c)のそれぞれに示される(8)に対応)をデジタルノギスを用いて有効数字0.01mmまで測定したこと以外は、実施例1と同様にして、相対成長に伴う屈曲点および各屈曲点を境とする相対成長の回帰式を算出した。
【0099】
参考例1の飼育条件によるヒラメ種苗は、全長と体高との相対成長の関係において2つの屈曲点EおよびE(すなわち、屈曲点Eは全長7.76mmに対し上顎長0.62mmであり、そして屈曲点Eは全長10.60mmに対し上顎長1.10mmである)を有していることがわかった。また、全長(mm)の対数値をx、上顎長(mm)の対数値をyとしたとき、ヒラメ種苗は、屈曲点Eに至るまではy=1.1595x−1.241(R=0.7499)の関係を満足し、そして屈曲点Eから屈曲点Eまではy=1.8473x−1.853(R=0.6182)の関係を満足し、そして屈曲点E以降はy=1.2644x−1.2544(R=0.7921)の関係を満足する相対成長曲線で表すことができることを見出した。本実施例で得られた全長(TL)と上顎長(UJL)との間の相対成長曲線を図10に示す。
【0100】
<実施例6:ヒラメ種苗の相対成長曲線(全長−躯幹長関係)の作成と信頼値範囲の設定>
万能投影機のディスプレイに表示された種苗の全長(TL)および躯幹長(TrL)(図1の(a)、(b)および(c)のそれぞれに示される(5)に対応)をデジタルノギスを用いて有効数字0.01mmまで測定したこと以外は、実施例1と同様にして、相対成長に伴う屈曲点および各屈曲点を境とする相対成長の回帰式を算出した。
【0101】
参考例1の飼育条件によるヒラメ種苗は、全長と躯幹長との相対成長の関係において3つの屈曲点F、FおよびF(すなわち、屈曲点Fは全長5.92mmに対し躯幹長1.28mmであり、屈曲点Fは全長9.45mmに対し躯幹長1.76mmであり、そして屈曲点Fは全長13.39mmに対し躯幹長0.64mmである)を有していることがわかった。また、全長(mm)の対数値をx、躯幹長(mm)の対数値をyとしたとき、ヒラメ種苗は、屈曲点Fに至るまではy=0.738x−0.4641(R=0.8614)の関係を満足し、屈曲点Fから屈曲点Fまではy=0.6826x−0.4213(R=0.1487)の関係を満足し、屈曲点Fから屈曲点Fまではy=−2.8895x+3.0628(R=0.3003)の関係を満足し、そして屈曲点F以降はy=−0.3827x+0.2384(R=0.0045)の関係を満足する相対成長曲線で表すことができることを見出した。本実施例で得られた全長(TL)と躯幹長(TrL)との間の相対成長曲線を図11に示す。
【0102】
<比較例1:骨格異常形成を誘発させたヒラメ種苗の相対成長曲線>
参考例1で行ったヒラメ種苗の飼育を参照して、餌料としてL型ワムシを給餌する際に、発育過程において過剰量の摂取が骨格異常を来たすことが知られているビタミンAをワムシ乾燥重量に換算して2949.5IU/gの割合で一緒に給餌したこと以外は、参考例1と同様にしてヒラメ種苗を40日齢まで飼育した。なお、この飼育を継続するにおいて、ヒラメ種苗は目視においても骨格異常が起きていることが観察可能であり、かつその飼育途中で種苗の多くが死亡することを確認した。
【0103】
上記飼育の間、5日毎に20個体の種苗を水槽から採取した。採取後、各種苗を直ちに適量の魚類用麻酔剤(田辺製薬(株)製FA100を海水で1/1000倍(容量比)で希釈したもの)を用いて、麻酔した。各種苗が動かなくなったことを確認した後、種苗を1個体ずつ万能投影機((株)ニコン製V−12B)のステージ上に置き、実寸倍〜20倍の倍率で種苗を当該投影機のディスプレイに表示させ、その表示された種苗の全長(TL)および体長(BL)(図1の(a)、(b)および(c)のそれぞれに示される(2)に対応)をデジタルノギスを用いて有効数字0.01mmまで測定した。
【0104】
40日齢が経過し、すべての上記測定が終了した後、得られた全長および体長の結果を対数変換し、相対成長に伴う屈曲点および各屈曲点を境とする相対成長の回帰式を算出した。本比較例1で得られた全長(TL)と体長(BL)との間の相対成長曲線を図12に示す。
【0105】
本比較例1の飼育条件によるヒラメ種苗は、全長と体長との相対成長の関係において2つの屈曲点A’およびA’(すなわち、屈曲点A’は全長7.52mmに対し体長7.04mmであり、そして屈曲点A’は全長9.79mmに対し体長8.16mmである)を有していることがわかった。また、全長(mm)の対数値をx、体長(mm)の対数値をyとしたとき、ヒラメ種苗は、屈曲点A’に至るまではy=0.999x−0.0285(R=0.9966)の関係を満足し、屈曲点A’から屈曲点A’まではy=0.5605+0.3565(R=0.8139)の関係を満足し、そして屈曲点A’以降はy=0.9761−0.0553(R=0.9968)の関係を満足する相対成長曲線で表すことができることを見出した。
【0106】
上記結果を実施例1のものと比較すると、実施例1の屈曲点Aに至るまでの関係式(y=1.0172x−0.037)と、本比較例1の屈曲点A’に至るまでの関係式(y=0.9999x−0.0285)とでは、当該関係式の傾きは、本比較例1の方が小さい(1.0172>0.9999)ことがわかる。また、実施例1の屈曲点Aから屈曲点Aに至るまでの関係式(y=0.744x+0.1842)と、本比較例1の屈曲点A’から屈曲点A’に至るまでの関係式(y=0.5605x+0.3565)とでも、当該関係式の傾きは、本比較例1の方が小さい(0.744>0.5605)ことがわかる。さらに、実施例1の屈曲点A以降の関係式(y=0.9952x−0.0747)と、本比較例1の屈曲点A’以降の関係式(y=0.9761−0.0553)とでも、当該関係式の傾きは、本比較例1の方が小さい(0.9952>0.9761)ことがわかる。
【0107】
以上のことから、本比較例1で骨格異常を来たしたヒラメ種苗は、その飼育過程において全長に対する体長の成長が芳しくなく、この成長不良が骨格異常となって現れ、その相対成長曲線も健全な発育を示す実施例1のものと大きく異なっていることがわかる。
【0108】
<実施例7:飼育水槽中のヒラメ種苗の潜在骨格正常生残率の測定>
比較例1において、上記飼育の間、5日毎に採取した20個体について、その種苗の全長(TL)の対数値および体長(BL)の対数値との関係を、実施例1で得られた相対成長曲線(図6)にプロットし、プロットした種苗それぞれが当該曲線の95%の信頼区間に含まれるか否かを判別する。その後、この信頼区間に含まれなかった個体数を潜在骨格異常形成数としてカウントする。次いで、以下の式(A)〜(D)にしたがって、水槽から取り出したヒラメ種苗の潜在骨格正常生残率(%)を算出する:
【0109】
【数4】

【0110】
こうして、飼育水槽内の5日毎の潜在骨格正常生残率をそれぞれ記録する。この手順を繰り返し、最終的に40日齢経過後の、当該飼育水槽内の健全なヒラメ種苗(すなわち、死亡も骨格異常も起きていないヒラメ種苗)の数(40日齢経過後の健全ヒラメ種苗の収容密度R40(個体/m))をサンプリングによって算出し、以下の計算式を用いて、初期仔魚収容密度R(20000個体/m)に対する当該水槽内で死亡も骨格異常も起きていないヒラメ種苗の最終骨格正常割合R(%)を算出する。
【0111】
【数5】

【0112】
このヒラメ種苗の最終骨格正常割合R(%)と、上記でそれぞれ測定した潜在骨格正常生残率(%)とを比較することにより、飼育段階で得られた潜在骨格正常生残率(%)は、その段階での飼育水槽内の種苗の潜在的な骨格異常形成を数値的に予見し得るパラメータとして利用可能であることがわかる。
【0113】
<実施例8:過剰量のビタミンAを与えたL型ワムシで飼育したヒラメ種苗の潜在骨格正常生残率>
18℃の水温に保たれた1000リットルのポリエチレン水槽に、孵化直後(0日齢)のヒラメ種苗を、初期孵化仔魚収容密度20000個体/mの割合で収容した。孵化後2日齢〜14日齢の間は、異常骨格を誘発させるために、栄養強化剤の質量に対してビタミンAを7500IU/gの割合で配合したワムシ用栄養強化剤を与えたL型ワムシを、仔魚に当該水槽中に対して5個体/mlを維持し得るように朝(午前8時)と夕方(午後3時)にそれぞれ給飼した。次いで15日齢〜17日齢までは、先と同様の割合のL型ワムシと、加齢に応じて160万個体/水槽〜400万個体/水槽の範囲で徐々に給飼量を増加させたアルテミアとを朝(午前8時)と夕方(午後3時)にそれぞれ給飼し、18日齢〜25日齢までは加齢に応じて160万個体/水槽〜400万個体/水槽の範囲で徐々に給飼量を増加させたアルテミアを朝、昼、晩の間、ほぼ同じ時間間隔で給飼し、25日齢まで飼育を行った。
【0114】
25日齢段階で100個体の種苗を水槽から採取した。採取後、各種苗を直ちに適量の魚類用麻酔剤(田辺製薬(株)製FA100を海水で1/1000倍(容量比)で希釈したもの)を用いて、麻酔した。各種苗が動かなくなったことを確認した後、種苗を1個体ずつ万能投影機((株)ニコンV−12B)のステージ上に置き、実寸倍〜20倍の倍率で種苗を当該投影機のディスプレイに表示させ、その表示された種苗の全長(TL)および体長(BL)(図1の(a)、(b)および(c)のそれぞれに示される(2)に対応)をデジタルノギスを用いて有効数字0.01mmまで測定した。
【0115】
得られた全長(TL)および体長(BL)の結果を対数変換し、実施例1で得られた全長(TL)と体長(BL)との間の相対成長曲線にプロットし、プロットした種苗それぞれが当該曲線の95%の信頼区間(±5%の信頼値)に含まれるか否かを判別した。その後、この信頼区間に含まれなかった個体数を潜在骨格異常形成数としてカウントした。次いで、飼育水槽から取り出した飼育種苗の個体数と、得られた潜在骨格異常形成数とによって、以下の式にしたがって、25日齢段階での潜在骨格異常形成率(%)(小数点以下第1を四捨五入)を算出した:
【0116】
【数6】

【0117】
25日齢段階での潜在骨格異常形成率は10%であった。
【0118】
次いで、25日齢段階で飼育水槽から予め定めておいた容量の海水を取り出した。次いで、取り出した海水において生存している種苗を判別し、種苗数をカウントした。
【0119】
次いで、取り出した海水の容量と取り出した海水あたりの種苗数とによって、以下の式にしたがって、25日齢段階での種苗密度(個体/m)を算出した:
【0120】
【数7】

【0121】
25日齢段階での種苗密度(個体/m)は1921個体/mであった。
【0122】
次いで、以下の式にしたがって、20000個体/m(初期孵化仔魚収容密度)に対する25日齢での種苗密度の百分率を生残率(%)(小数点以下第2を四捨五入)として算出した:
【0123】
【数8】

【0124】
25日齢段階での種苗密度(個体/m)は9.6%であった。
【0125】
得られた25日齢段階での潜在骨格異常形成率(%)と生残率(%)とによって以下の式にしたがって、25日齢段階での潜在骨格正常生残率(%)(小数点以下第2を四捨五入)を算出した:
【0126】
【数9】

【0127】
25日齢段階での潜在骨格正常生残率(%)は8.6%であった。
【0128】
したがって、25日齢段階において、今後上記水槽内で骨格異常を発生することなく生育する、健全なヒラメ種苗は、初期孵化仔魚収容密度に対して8.6%以下(すなわち1720個体/m以下の種苗密度)でのみ生存し得るであろうことを予測した。25日齢での結果を表1に示す。
【0129】
次いで、加齢に応じて160万個体/水槽〜400万個体/水槽の範囲で徐々に給飼量を増加させたアルテミアを朝、昼、晩の間、ほぼ同じ時間間隔で給飼して35日齢になるまで飼育を行った。
【0130】
35日齢段階で100個体の種苗を水槽から採取した。採取後、上記と同様の操作で種苗の全長(TL)および体長(BL)を測定した。次いで、得られた全長および体長の結果を対数変換し、実施例1で得られた全長(TL)と体長(BL)との間の相対成長曲線にプロットし、プロットした種苗それぞれが当該曲線の95%の信頼区間(±5%の信頼値)に含まれるか否かを判別した。その後、35日齢段階での潜在骨格異常形成率(%)、種苗密度(個体/m)および生残率(%)を上記と同様にして算出し、得られた種苗密度(個体/m)および生残率(%)によって35日齢段階での潜在骨格正常生残率(%)を上記と同様にして算出した。35日齢段階での潜在骨格正常生残率(%)は4.0%であった。
【0131】
したがって、35日齢段階において、今後上記水槽内で骨格異常を発生することなく生育する、健全なヒラメ種苗は、初期孵化仔魚収容密度に対して4.0%以下(すなわち800個体/m以下の種苗密度)でのみ生存し得るであろうことを予測した。35日齢での結果を表1に示す。
【0132】
次いで、加齢に応じて160万個体/水槽〜400万個体/水槽の範囲で徐々に給飼量を増加させたアルテミアを朝、昼、晩の間、ほぼ同じ時間間隔で給飼して40日齢になるまで飼育を行った。
【0133】
40日齢段階で100個体の種苗を水槽から採取した。採取後、上記と同様の操作で種苗の全長(TL)および体長(BL)を測定した。次いで、得られた全長および体長の結果を対数変換し、実施例1で得られた全長(TL)と体長(BL)との間の相対成長曲線にプロットし、プロットした種苗それぞれが当該曲線の95%の信頼区間(±5%の信頼値)に含まれるか否かを判別した。その後、40日齢段階での潜在骨格異常形成率(%)、種苗密度(個体/m)、および生残率(%)を上記と同様にして算出し、得られた種苗密度(個体/m)および生残率(%)によって40日齢段階での潜在骨格正常生残率(%)を上記と同様にして算出した。40日齢段階での潜在骨格正常生残率(%)は2.5%であった。40日齢での結果を表1に示す。
【0134】
25日齢、35日齢、40日齢段階での潜在骨格異常形成率(%)、種苗密度(個体/m)、生残率(%)、潜在骨格正常生残率(%)、生残する将来の健全な種苗密度の予測値(個体/m)、生残する健全な種苗密度の実測値、および予測値に対する将来の日齢での実測値との関係を表1に示す。
【0135】
【表1】

【0136】
表1に示すように、25日齢で得られた潜在骨格正常生残率から予測された生残する将来の健全な種苗密度の予測値(1720個体/m以下)に対し、35日齢および40日齢での生残する健全な種苗密度の実測値(それぞれ809個体/mおよび492個体/m)はいずれもこれを下回っており、25日齢段階での当該予測通りであったことが分かる。さらに、35日齢で得られた潜在骨格正常生残率から予測された生残する将来の健全な種苗密度の予測値(800個体/m以下)に対し、40日齢での実際の種苗密度(492個体/m)はこれを下回っており、35日齢段階での当該予測通りであったことが分かる。
【0137】
<実験例9:通常量のビタミンAを与えたL型ワムシで飼育したヒラメ種苗の潜在骨格正常生残率>
18℃の水温に保たれた1000リットルのポリエチレン水槽に、孵化直後(0日齢)のヒラメ種苗を、初期孵化仔魚収容密度20000個体/mの割合で収容した。孵化後2日齢〜14日齢の間は、栄養強化剤の質量に対してビタミンAを750IU/gの割合で配合したワムシ用栄養強化剤を与えたL型ワムシを、仔魚に当該水槽中に対して5個体/mlを維持し得るように朝(午前8時)と夕方(午後3時)にそれぞれ給飼した。次いで15日齢〜17日齢までは、先と同様の割合のL型ワムシと、加齢に応じて160万個体/水槽〜400万個体/水槽の範囲で徐々に給飼量を増加させたアルテミアとを朝(午前8時)と夕方(午後3時)にそれぞれ給飼し、18日齢〜25日齢までは加齢に応じて160万個体/水槽〜400万個体/水槽の範囲で徐々に給飼量を増加させたアルテミアを朝、昼、晩の間、ほぼ同じ時間間隔で給飼し、25日齢まで飼育を行った。
【0138】
25日齢段階で100個体の種苗を水槽から採取した。採取後、実施例8と同様の操作で種苗の全長(TL)および体長(BL)を測定した。次いで、得られた全長および体長の結果を対数変換し、実施例1で得られた全長(TL)と体長(BL)との間の相対成長曲線にプロットし、プロットした種苗それぞれが当該曲線の95%の信頼区間(±5%の信頼値)に含まれるか否かを判別した。その後、25日齢段階での潜在骨格異常形成率(%)、種苗密度(個体/m)および生残率(%)を実施例8と同様にして算出し、得られた種苗密度(個体/m)および生残率(%)によって25日齢段階での潜在骨格正常生残率(%)を実施例8と同様にして算出した。25日齢段階での潜在骨格正常生残率(%)は16.0%であった。
【0139】
したがって、25日齢段階において、今後上記水槽内で骨格異常を発生することなく生育する、健全なヒラメ種苗は、初期孵化仔魚収容密度に対して16.0%以下(すなわち3200個体/m以下の種苗密度)でのみ生存し得るであろうことを予測した。25日齢での結果を表2に示す。
【0140】
次いで、加齢に応じて160万個体/水槽〜400万個体/水槽の範囲で徐々に給飼量を増加させたアルテミアを朝、昼、晩の間、ほぼ同じ時間間隔で給飼して35日齢になるまで飼育を行った。
【0141】
35日齢段階で100個体の種苗を水槽から採取した。採取後、実施例8と同様の操作で種苗の全長(TL)および体長(BL)を測定した。次いで、得られた全長および体長の結果を対数変換し、実施例1で得られた全長(TL)と体長(BL)との間の相対成長曲線にプロットし、プロットした種苗それぞれが当該曲線の95%の信頼区間(±5%の信頼値)に含まれるか否かを判別した。その後、35日齢段階での潜在骨格異常形成率(%)、種苗密度(個体/m)および生残率(%)を実施例8と同様にして算出し、得られた種苗密度(個体/m)および生残率(%)によって35日齢段階での潜在骨格正常生残率(%)を実施例8と同様にして算出した。35日齢段階での潜在骨格正常生残率(%)は9.2%であった。
【0142】
したがって、35日齢段階において、今後上記水槽内で骨格異常を発生することなく生育する、健全なヒラメ種苗は、初期孵化仔魚収容密度に対して9.2%以下(すなわち1840個体/m以下の種苗密度)でのみ生存し得るであろうことを予測した。35日齢での結果を表2に示す。
【0143】
次いで、加齢に応じて160万個体/水槽〜400万個体/水槽の範囲で徐々に給飼量を増加させたアルテミアを朝、昼、晩の間、ほぼ同じ時間間隔で給飼して40日齢になるまで飼育を行った。
【0144】
40日齢段階で100個体の種苗を水槽から採取した。採取後、実施例8と同様の操作で種苗の全長(TL)および体長(BL)を測定した。次いで、得られた全長および体長の結果を対数変換し、実施例1で得られた全長(TL)と体長(BL)との間の相対成長曲線にプロットし、プロットした種苗それぞれが当該曲線の95%の信頼区間(±5%の信頼値)に含まれるか否かを判別した。その後、40日齢段階での潜在骨格異常形成率(%)、種苗密度(個体/m)、および生残率(%)を実施例8と同様にして算出し、得られた種苗密度(個体/m)および生残率(%)によって40日齢段階での潜在骨格正常生残率(%)を上記と同様にして算出した。40日齢段階での潜在骨格正常生残率(%)は6.3%であった。40日齢での結果を表2に示す。
【0145】
25日齢、35日齢、40日齢段階での潜在骨格異常形成率(%)、種苗密度(個体/m)、生残率(%)、潜在骨格正常生残率(%)、生残する将来の健全な種苗密度の予測値(個体/m)、生残する健全な種苗密度の実測値(個体/m)および予測値に対する将来の日齢での実測値との関係を表2に示す。
【0146】
【表2】

【0147】
表2に示すように、25日齢で得られた潜在骨格正常生残率から予測された生残する将来の健全な種苗密度の予測値(3200個体/m以下)に対し、35日齢および40日齢での生残する健全な種苗密度の実測値(それぞれ1839個体/mおよび1395個体/m)はいずれもこれを下回っており、25日齢段階での当該予測通りであったことが分かる。さらに、35日齢で得られた潜在骨格正常生残率から予測された生残する将来の健全な種苗密度の予測値(1840個体/m以下)に対し、40日齢での生残する健全な種苗密度の実測値(1395個体/m)はこれを下回っており、35日齢段階での当該予測通りであったことが分かる。
【0148】
<参考例2:カンパチ種苗の飼育>
22〜23℃の水温に保たれた1000リットルのポリエチレン製水槽に、孵化直後(0日齢)のカンパチ孵化胚を、初期孵化仔魚収容密度12500個体/mの割合で収容した。孵化後2日齢〜29日齢まではL型ワムシを当該水槽中で5個体/mlを維持し得るように朝(午前8時)と夕方(午後)にそれぞれ給餌し、12日齢〜39日齢までは、先と同様の割合のL型ワムシと、加齢に応じて160万個体/水槽〜400万個体/水槽の範囲で徐々に給餌量を増加させたアルテミアとを朝(午前8時)と夕方(午後3時)にそれぞれ給餌し、22日齢〜40日齢までは加齢に応じて160万個体/水槽〜400万個体/水槽の範囲で徐々に給餌量を増加させたアルテミアを朝、昼、晩の間、ほぼ同じ時間間隔で給餌して40日齢になるまで飼育を行った。
【0149】
<実施例10:カンパチ種苗の相対成長曲線(全長−体長関係)の作成と信頼値範囲の設定>
上記参考例2において、0日齢〜40日齢の間、5日毎に20個体の種苗を水槽から採取した。採取後、各種苗を直ちに適量の魚類用麻酔剤(田辺製薬(株)製FA100を海水で1/1000倍(容量比)で希釈したもの)を用いて、麻酔した。各種苗が動かなくなったことを確認した後、種苗を1個体ずつ万能投影機((株)ニコン製V−12B)のステージ上に置き、実寸倍〜20倍の倍率で種苗を当該投影機のディスプレイに表示させ、その表示された種苗の全長(TL)および体長(BL)(図13参照)をデジタルノギスを用いて有効数字0.01mmまで測定した。
【0150】
40日齢が経過し、すべての上記測定が終了した後、得られた全長および体長の結果を対数変換し、相対成長に伴う屈曲点および各屈曲点を境とする相対成長の回帰式を算出した。
【0151】
参考例2の飼育条件によるカンパチ種苗は、全長と体長との相対成長の関係において3つの屈曲点A、A、およびAを有していることがわかった。また、全長(mm)の対数値をx、体長(mm)の対数値をyとしたとき、カンパチ種苗は、屈曲点Aに至るまではy=1.0038x−0.0223(R=0.9877)の関係を満足し、屈曲点Aから屈曲点Aまではy=0.8534x+0.0656(R=0.9672)の関係を満足し、屈曲点Aから屈曲点Aまではy=0.9638x+0.0494(R=0.9824)の関係を満足し、そして屈曲点A以降はy=1.051x−0.1639(R=0.9911)の関係を満足する相対成長曲線で表すことができることを見出した。本実施例で得られた全長(TL)と体長(BL)との間の相対成長曲線を図14に示す。
【0152】
<実施例11:カンパチ種苗の相対成長曲線(全長−尾部長関係)の作成と信頼値範囲の設定>
万能投影機のディスプレイに表示された種苗の全長(TL)および尾部長(TiL)(図13参照)をデジタルノギスを用いて有効数字0.01mmまで測定したこと以外は、実施例10と同様にして、相対成長に伴う屈曲点および各屈曲点を境とする相対成長の回帰式を算出した。
【0153】
40日齢が経過し、すべての上記測定が終了した後、得られた全長および尾部長の結果を対数変換し、相対成長に伴う屈曲点および各屈曲点を境とする相対成長の回帰式を算出した。
【0154】
参考例2の飼育条件によるカンパチ種苗は、全長と尾部長との相対成長の関係において2つの屈曲点BおよびBを有していることがわかった。また、全長(mm)の対数値をx、尾部長(mm)の対数値をyとしたとき、カンパチ種苗は、屈曲点Bに至るまではy=0.8511x−0.3196(R=0.857)の関係を満足し、屈曲点Bから屈曲点Bまでは全長(mm)の対数値xに対して、尾部長(mm)の対数値yは一定の値をとり、そして屈曲点B以降はy=0.961x−0.5445(R=0.9689)の関係を満足する相対成長曲線で表すことができることを見出した。本実施例で得られた全長(TL)と尾部長(TiL)との間の相対成長曲線を図15に示す。
【0155】
<参考例3:ブリ種苗の飼育>
20〜22℃の水温に保たれた1000リットルのポリエチレン製水槽に、孵化直後(0日齢)のブリ孵化胚を、初期孵化仔魚収容密度16000個体/mの割合で収容した。孵化後2日齢〜30日齢まではL型ワムシを当該水槽中で5個体/mlを維持し得るように朝(午前8時)と夕方(午後)にそれぞれ給餌し、20日齢〜40日齢までは、先と同様の割合のL型ワムシと、加齢に応じて160万個体/水槽〜400万個体/水槽の範囲で徐々に給餌量を増加させたアルテミアとを朝(午前8時)と夕方(午後3時)にそれぞれ給餌し、33日齢〜40日齢までは加齢に応じて160万個体/水槽〜400万個体/水槽の範囲で徐々に給餌量を増加させたアルテミアを朝、昼、晩の間、ほぼ同じ時間間隔で給餌して40日齢になるまで飼育を行った。
【0156】
<実施例12:ブリ種苗の相対成長曲線(全長−吻長関係)の作成と信頼値範囲の設定>
上記参考例3において、0日齢〜40日齢の間、5日毎に20個体の種苗を水槽から採取した。採取後、各種苗を直ちに適量の魚類用麻酔剤(田辺製薬(株)製FA100を海水で1/1000倍(容量比)で希釈したもの)を用いて、麻酔した。各種苗が動かなくなったことを確認した後、種苗を1個体ずつ万能投影機((株)ニコン製V−12B)のステージ上に置き、実寸倍〜20倍の倍率で種苗を当該投影機のディスプレイに表示させ、その表示された種苗の全長(TL)および吻長(SnL)(図16参照)をデジタルノギスを用いて有効数字0.01mmまで測定した。
【0157】
40日齢が経過し、すべての上記測定が終了した後、得られた全長および吻長の結果を対数変換し、相対成長に伴う屈曲点および各屈曲点を境とする相対成長の回帰式を算出した。
【0158】
参考例3の飼育条件によるブリ種苗は、全長と吻長との相対成長の関係において1つの屈曲点Aを有していることがわかった。また、全長(mm)の対数値をx、吻長(mm)の対数値をyとしたとき、ブリ種苗は、屈曲点Aに至るまではy=3.1455x−2.7462(R=0.7022)の関係を満足し、そして屈曲点A以降はy=0.9864x−1.1252(R=0.951)の関係を満足する相対成長曲線で表すことができることを見出した。本実施例で得られた全長(TL)と吻長(SnL)との間の相対成長曲線を図17に示す。
【0159】
<参考例4:オニオコゼ種苗の飼育>
22〜28℃の水温に保たれた1000リットルのポリエチレン製水槽に、孵化直後(0日齢)のオニオコゼ孵化胚を、初期孵化仔魚収容密度15000個体/mの割合で収容した。孵化後1日齢〜13日齢まではL型ワムシを当該水槽中で5個体/mlを維持し得るように朝(午前8時)と夕方(午後)にそれぞれ給餌し、5日齢〜22日齢までは、先と同様の割合のL型ワムシと、加齢に応じて160万個体/水槽〜400万個体/水槽の範囲で徐々に給餌量を増加させたアルテミアとを朝(午前8時)と夕方(午後3時)にそれぞれ給餌して、22日齢〜40日齢間では、市販の配合飼料を給餌して、40日齢になるまで飼育を行った。
【0160】
<実施例13:オニオコゼ種苗の相対成長曲線(全長−頭高関係)の作成と信頼値範囲の設定>
上記参考例4において、0日齢〜40日齢の間、5日毎に20個体の種苗を水槽から採取した。採取後、各種苗を直ちに適量の魚類用麻酔剤(田辺製薬(株)製FA100を海水で1/1000倍(容量比)で希釈したもの)を用いて、麻酔した。各種苗が動かなくなったことを確認した後、種苗を1個体ずつ万能投影機((株)ニコン製V−12B)のステージ上に置き、実寸倍〜20倍の倍率で種苗を当該投影機のディスプレイに表示させ、その表示された種苗の全長(TL)および頭高(HH)(図18参照)をデジタルノギスを用いて有効数字0.01mmまで測定した。
【0161】
40日齢が経過し、すべての上記測定が終了した後、得られた全長および頭高の結果を対数変換し、相対成長に伴う屈曲点および各屈曲点を境とする相対成長の回帰式を算出した。
【0162】
参考例4の飼育条件によるオニオコゼ種苗は、全長と頭高との相対成長の関係において1つの屈曲点Aを有していることがわかった。また、全長(mm)の対数値をx、頭高(mm)の対数値をyとしたとき、オニオコゼ種苗は、屈曲点Aに至るまではy=1.498x−1.0794(R=0.8322)の関係を満足し、そして屈曲点A以降はy=1.0803x−0.7189(R=0.8847)の関係を満足する相対成長曲線で表すことができることを見出した。本実施例で得られた全長(TL)と頭高(HH)との間の相対成長曲線を図19に示す。
【0163】
<実施例14:オニオコゼ種苗の相対成長曲線(全長−尾鰭長関係)の作成と信頼値範囲の設定>
万能投影機のディスプレイに表示された種苗の全長(TL)および尾鰭長(CFL)(図18参照)をデジタルノギスを用いて有効数字0.01mmまで測定したことおよび尾鰭基底が明確になった日齢(およそ6日齢)から測定を開始したこと以外は、実施例13と同様にして、相対成長に伴う屈曲点および各屈曲点を境とする相対成長の回帰式を算出した。
【0164】
40日齢が経過し、すべての上記測定が終了した後、得られた全長および尾鰭長の結果を対数変換し、相対成長に伴う屈曲点および各屈曲点を境とする相対成長の回帰式を算出した。
【0165】
参考例4の飼育条件によるオニオコゼ種苗は、全長と尾鰭長との相対成長の関係において2つの屈曲点BおよびBを有していることがわかった。また、全長(mm)の対数値をx、尾鰭長(mm)の対数値をyとしたとき、オニオコゼ種苗は、屈曲点Bに至るまではy=2.3933x−1.9386(R=0.6257)の関係を満足し、屈曲点Bから屈曲点Bまではy=1.7193x−1.3069(R=0.6248)の関係を満足し、そして屈曲点B以降はy=0.7247x−0.2963(R=0.3771)の関係を満足する相対成長曲線で表すことができることを見出した。本実施例で得られた全長(TL)と尾鰭長(CFL)との間の相対成長曲線を図20に示す。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明の市場価値の高い種苗を生産するにおいて、種苗に目視では観察困難な骨格異常が生じていること、または当該種苗に将来明らかに骨格異常を生じるであろう予測を早期に行うことができる。本発明は、海洋または淡水漁業分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1】ヒラメ種苗を用いる際の当該飼育種苗の全長と主要部位の長さの計測部位を説明するための図であって、(a)は、0日齢〜およそ15日齢までの全長と主要部位の長さの計測部位を表す模式図であり、(b)は、およそ15日齢〜およそ30日齢までの全長と主要部位の長さの計測部位を表す模式図であり、そして(c)は、およそ30日齢〜およそ40日齢までの全長と主要部位の長さの計測部位を表す模式図である。
【図2】健全なヒラメ種苗(0日齢〜40日齢)の全長(TL;単位mm)の対数値に対する頭長(HL;単位mm)の対数値の関係を示す相対成長曲線を表すグラフである。
【図3】飼育水槽内の飼育種苗の骨格異常形成を診断するための本発明の記録媒体の一例を説明する模式図である。
【図4】本発明の管理装置の構成の一例を表す模式図である。
【図5】本発明の管理装置に用いられ得るステージの表面状態を説明するための模式図であって、(a)は複数の空孔が設けられたステージの模式図であり、そして(b)はメッシュ状に織り込まれたステージの模式図である。
【図6】実施例1で作成された、ヒラメ種苗の全長(TL;単位mm)の対数値と体長(BL;単位mm)の対数値との関係を示す相対成長曲線を表すグラフである。
【図7】実施例2で作成された、ヒラメ種苗の全長(TL;単位mm)の対数値と頭長(HL;単位mm)の対数値との関係を示す相対成長曲線を表すグラフである。
【図8】実施例3で作成された、ヒラメ種苗の全長(TL;単位mm)の対数値と尾部長(TiL;単位mm)の対数値との関係を示す相対成長曲線を表すグラフである。
【図9】実施例4で作成された、ヒラメ種苗の全長(TL;単位mm)の対数値と体高(BDp;単位mm)の対数値との関係を示す相対成長曲線を表すグラフである。
【図10】実施例5で作成された、ヒラメ種苗の全長(TL;単位mm)の対数値と上顎長(UJL;単位mm)の対数値との関係を示す相対成長曲線を表すグラフである。
【図11】実施例1で作成された、ヒラメ種苗の全長(TL;単位mm)の対数値と躯幹長(TrL;単位mm)の対数値との関係を示す相対成長曲線を表すグラフである。
【図12】比較例1で作成された、ヒラメ種苗の全長(TL;単位mm)の対数値と体長(BL;単位mm)の対数値との関係を示す相対成長曲線を表すグラフであって、過剰のビタミンAを摂取させることにより、意図的に骨格異常を形成させたヒラメ種苗の全長(TL;単位mm)の対数値と体長(BL;単位mm)の対数値との関係を示す相対成長曲線を表すグラフである。
【図13】カンパチ種苗を用いる際の当該飼育種苗の全長と主要部位の長さの計測部位を説明するための模式図である。
【図14】実施例10で作成された、カンパチ種苗の全長(TL;単位mm)の対数値と体長(BL;単位mm)の対数値との関係を示す相対成長曲線を表すグラフである。
【図15】実施例11で作成された、カンパチ種苗の全長(TL;単位mm)の対数値と尾部長(TiL;単位mm)の対数値との関係を示す相対成長曲線を表すグラフである。
【図16】ブリ種苗を用いる際の当該飼育種苗の全長と主要部位の長さの計測部位を説明するための模式図である。
【図17】実施例12で作成された、ブリ種苗の全長(TL;単位mm)の対数値と吻長(SnL;単位mm)の対数値との関係を示す相対成長曲線を表すグラフである。
【図18】オニオコゼ種苗を用いる際の当該飼育種苗の全長と主要部位の長さの計測部位を説明するための模式図である。
【図19】実施例13で作成された、オニオコゼ種苗の全長(TL;単位mm)の対数値と頭高(HH;単位mm)の対数値との関係を示す相対成長曲線を表すグラフである。
【図20】実施例14で作成された、オニオコゼ種苗の全長(TL;単位mm)の対数値と尾鰭長(CFL;単位mm)の対数値との関係を示す相対成長曲線を表すグラフである。
【符号の説明】
【0168】
管理装置 100
飼育水槽 104
種苗サンプリング手段 106
ステージ 108
記録手段 110
制御・解析手段 112
飼育種苗 114
制御手段 120
吸引管 116
ポンプ 118
処置槽 122
麻酔剤槽 124
排出管 126
ロール 128、130
空孔 131
バキューム手段 132
ポンプ 134
スリット 136
解析手段 138
シャワー手段 142
表示手段 144
回収槽 146

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飼育種苗の骨格異常形成を診断するための方法であって、
飼育水槽から飼育種苗を取り出す工程;
該取出した飼育種苗の全長および主要部位長さを計測する工程;ならびに
該計測した飼育種苗の全長に対する主要部位長さを、該飼育種苗と同一種の健苗が有する全長と主要部位長さとの成長変化から得られる相対成長曲線の信頼値範囲と比較する工程;
を包含する、方法。
【請求項2】
前記主要部位長さが、前記飼育種苗の標準体長、体高、頭長、躯幹長、尾部長、吻長、上顎長、眼径、眼後長、背鰭前長、腹鰭前長、背鰭基底長、臀鰭基底長、背鰭前部−臀鰭後部長、背鰭前部−肛門前部長、肛門前部−背鰭後部長、尾柄高、尾柄長、頭高、および尾鰭長からなる群より選択される少なくとも1種の部位の長さである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
飼育水槽内の飼育種苗の骨格異常形成を診断するための記録媒体であって、
該飼育種苗と同一種の健苗における任意の全長に対し、それに対応する主要部位長さを表す情報を収容し、かつ該主要部位長さを表す情報が、該飼育種苗と同一種の健苗が有する全長と主要部位長さとの成長変化から得られる相対成長曲線の信頼値範囲として設定されている、記録媒体。
【請求項4】
飼育種苗の生産を管理するための方法であって、
飼育水槽から複数の飼育種苗を取り出す工程;
該取出した複数の飼育種苗の全長および主要部位長さをそれぞれ計測する工程;ならびに
該計測した飼育種苗の全長に対する主要部位長さのそれぞれを、該飼育種苗と同一種の健苗が有する全長と主要部位長さとの成長変化から得られる相対成長曲線の信頼値範囲と比較し、そして該飼育種苗の潜在骨格異常形成数に基づく該飼育種苗の潜在骨格正常生残率を算出する工程;
を包含する、方法。
【請求項5】
前記主要部位長さが、前記飼育種苗の標準体長、体高、頭長、躯幹長、尾部長、吻長、上顎長、眼径、眼後長、背鰭前長、腹鰭前長、背鰭基底長、臀鰭基底長、背鰭前部−臀鰭後部長、背鰭前部−肛門前部長、肛門前部−背鰭後部長、尾柄高、尾柄長、頭高、および尾鰭長からなる群より選択される少なくとも1種の部位の長さである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
飼育種苗の生産を管理するための装置であって、
飼育種苗を含む飼育水槽と;
該飼育水槽から飼育種苗を取り出すための種苗サンプリング手段と;
該種苗サンプリング手段から取り出した飼育種苗を配置するためのステージと;
該ステージ上に配置された飼育種苗の全長および主要部位長さを記録するための記録手段と;
該記録された全長に対する主要部位長さを、該飼育種苗と同一種の健苗が有する全長と主要部位長さとの成長変化から得られる相対成長曲線の信頼値範囲と比較し、そして該飼育種苗の潜在骨格異常形成数に基づく該飼育種苗の潜在骨格正常生残率を算出する解析手段と;
を備える、装置。
【請求項7】
前記主要部位長さが、前記飼育種苗の標準体長、体高、頭長、躯幹長、尾部長、吻長、上顎長、眼径、眼後長、背鰭前長、腹鰭前長、背鰭基底長、臀鰭基底長、背鰭前部−臀鰭後部長、背鰭前部−肛門前部長、肛門前部−背鰭後部長、尾柄高、尾柄長、頭高、および尾鰭長からなる群より選択される少なくとも1種の部位の長さである、請求項6に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2006−304783(P2006−304783A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90853(P2006−90853)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(506054899)ナガセ生化学品販売株式会社 (2)
【出願人】(505119586)
【Fターム(参考)】