説明

餡製品

【課題】 風味が良好であり餡製品としての物性を有しているにもかかわらずクリーム様のなめらかな食感の餡製品を提供することを課題とした。
【解決手段】 餡にグリセリン脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルを配合することで、包餡機での適性があり、かつクリーム様のなめらかな食感の餡製品が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油脂及び特定の乳化剤を含有した餡製品に関する。
【背景技術】
【0002】
餡とは小豆やエンドウ豆等の、主に豆類を煮沸して細胞膜を熱凝固させ、細胞内の澱粉粒子をα化したものであり、煮沸後に粉砕したものを漉し餡、形状を残したものを粒餡と言う。例えば漉し餡は、原料豆の選別、洗浄、水漬け、煮沸、粉砕、餡漉し、水さらし、脱水といった各工程を経て製造され、生餡となる。生餡は水分が多いため変質しやすく、澱粉質の老化も早い。通常、生餡に加糖したものが練り餡として和菓子等に使用される。
【0003】
餡は澱粉と糖質を主体としており、降伏値が高く力を加えても変形しにくい一方、もろくぼろぼろになりやすい。従って、餡を食した場合、歯を入れると変形せずにそのまま割れて口中でぼろぼろとなり、崩壊したものを咀嚼し飲み込むこととなる。一方、カスタードクリームや生クリーム等の洋菓子で使用するクリームは油脂と糖質が主体であり、餡に比較して降伏値が低いため変形しやすく、なめらかな食感となり、咀嚼しなくても飲み込むことができる。一方、包餡機を用いて菓子生地等のセンターにクリームを包み込もうとする場合、ある程度の保形性がないと適切に包餡できない。洋菓子で用いられるクリームは保形性に劣るため、包餡機を用いて製造する場合の加工適性に劣る。
【0004】
このような餡の品質を改良する試みが行われている。特許文献1には、餡にポリグリセリン脂肪酸エステルを配合することを特徴とする餡製品の製造法が記載されている。これは、餡の滅菌温度を上げずに耐熱性細菌胞子の死滅率を向上させるものである。特許文献2には、餡にSUS型トリグリセリドを含む水中油型乳化物の気泡物を混合し、軽い食感にすることの記載がある。これは気泡することを必須としている。特許文献3には、食用油脂と乳化剤を含有して、不凍結化したことを特徴とする餡が記載されている。特許文献4には、α化結晶モノグリセリド及びその他の乳化剤を含む気泡餡の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−205749号公報
【特許文献2】特開平8−70778号公報
【特許文献3】特開2000−32917号公報
【特許文献4】特開2002−159265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように餡製品は、降伏値が高く洋菓子に使用されるクリ−ム様のなめらかな食感を有していない。本発明は、風味が良好でありクリーム様のなめらかな食感を有するとともに、加工適性にも優れた餡製品を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、餡に特定の乳化剤を配合することで、含気することなくクリーム様のなめらかな食感が得られるとの知見によるものである。すなわち、本発明は以下の事項を含む。
(1)グリセリン脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルを含むことを特徴とする餡製品。
(2)ポリグリセリン脂肪酸エステルが、HLB3以下であり、エルカ酸を側鎖とするものである(1)に記載の餡製品。
(3)油脂の含有量が1〜10重量%である(1)又は(2)に記載の餡製品。
(4)油脂製品を含むものである(1)〜(3)のいずれかに記載の餡製品。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の餡製品を使用した食品。
(6)包餡機で製造されたものである(5)に記載の食品。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、餡としての物性とクリーム様のなめらかな食感を併せ持つ餡製品を提供することができる。本餡製品により、餡製品の使用の拡大が期待でき、さらには菓子等の食品に使用することで、餡製品を使用した食品のバリエーションを広げることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の餡製品は、生餡、糖質、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等を混合し、加熱濃縮を行い、冷却することで得られる。生餡の原料としては、小豆、ささげ豆、エンドウ豆、インゲン豆、ライマ豆、そら豆、大豆、ピーナッツ、胡麻、サツマイモ、栗等が使用できるが、中でもタンパク質が豊富な、小豆、ささげ豆、エンドウ豆、インゲン豆、ライマ豆、そら豆、大豆、ピーナッツ等の豆類が好ましい。生餡としては漉し餡が好ましく、また白餡を使用すると、風味付けや色あいの面で他の原料が使用しやすくなり好ましい。
【0010】
糖質としては、ショ糖、ブドウ糖、麦芽糖、果糖、乳糖、トレハロース、パラチノース、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、還元パラチノース、オリゴ糖、水飴等が使用できる。糖度は55〜80がよく、60〜78程度とすると包餡機で使用しやすいためより好ましい。大福餅やどら焼き、蒸し饅頭、アンマン等、餡製品を使用後に熱を加えない食品や、熱を加えても水分の蒸発が少ない、蒸した食品に餡製品を使用する場合、糖度72〜78程度の餡製品を使用できる。一方、ビスケット等の、焼成により水分の蒸発が多い食品においては、例えば糖度の高い餡製品をセンターとした生地を作成し焼成した場合、餡製品は乾燥しすぎてなめらかさが無くなってしまうが、糖度60〜66程度の餡製品を使用すると、焼成後の食品(完成品)に含まれる餡製品は、糖度72〜78程度となって、なめらかさが残るため好ましい。
【0011】
グリセリン脂肪酸エステルは、脂肪酸が1つ結合したモノグリセリドが好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、HLB3以下の親油性のものが好ましく、中でもエルカ酸を側鎖とするものが好ましい。餡製品中、グリセリン脂肪酸エステルは0.01〜0.8重量%、ポリグリセリン脂肪酸エステルは0.03〜0.5重量%含有するのが好ましい。これ以上少ないと効果が劣り、これ以上多いと風味に影響する。
【0012】
上記原料の他、餡製品には油脂を含む原料を使用してもよい。油脂を含む原料としては、パーム油、コーン油、大豆油、胡麻油、ラード、カカオバター、ハードバター、乳脂、ショートニング等の油脂の他、カカオマス、ココアパウダー、チョコレート、ファットスプレッド等の油脂を含む製品を使用してもよい。グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル存在下で油脂製品を使用すると食感がよりなめらかになる。餡製品中の油脂の含有量は、1〜10重量%、好適には1.5〜6重量%とすることが好ましい。油脂を含む原料としてカカオマス、ココアパウダー、チョコレート、ファットスプレッドの油脂製品を使用すると、風味も付加され好ましい。なお、生餡が大豆、ピーナッツ、胡麻といった油脂を多く含む原料であり、餡製品中の油脂の含有量が、1〜10重量%となる場合、油脂を含む原料を使用しなくても食感がよりなめらかになる。
【0013】
得られた餡製品は、他の食材を加えて味付けしてもよい。餡製品は、饅頭、大福餅、月餅、きんつば、どら焼き、たい焼き、大判焼き、アンマン、アンパン等、餡を使用する食品に使用することができるが、ケーキのクリームや、ビスケット、マカロン、ボンボン・ショコラ、シュークリーム、エクレア等のセンタークリームとして等、洋菓子にも使用することができる。
以下に実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【実施例】
【0014】
試験例1
表1に記載の配合に、必要に応じて水を加え、加熱濃縮を行って糖度を調整した後、冷却して餡製品を製造した。また、得られた餡製品の糖度及び降伏値も表1に示した。降伏値は、レオメーター(HAAKE社製MARS)を用いて、品温20℃、プレーンプレートφ60mm、ギャップ2mm、周波数1.0Hzの条件で測定した。
なお、表中の原料配合率及び水分、油分の数値は重量%を示す。生餡はライマ豆を原料とする白生餡の漉し餡を使用した。リョートーエステル−ER290(三菱化学フーズ社製)は、エルカ酸を側鎖とするHLB2のポリグリセリン脂肪酸エステルである。リョートーエステルSMO(三菱化学フーズ社製)は、グリセリン脂肪酸エステルを3.5重量%、ショ糖脂肪酸エステルを3.5重量%含んでいる。エキセルS−95(花王社製)は、グリセリン脂肪酸エステルを95重量%以上含んでいる。
【0015】
【表1】

グリセリン脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルを含んだ餡製品は、乳化剤を含まないもの又はグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルのどちらかしか含まないものよりも降伏値が低いものであった。
【0016】
製造例1
もち米を6時間水に浸漬した後、30分間蒸し、杵でついてもち生地を調製した。もち生地を外皮材、実施例1の餡製品を内包材として包餡機を用いて大福餅を製造した。得られた大福餅はチョコレート様の風味を有し、練り餡の様な硬い食感ではなく、クリーム様のなめらかな食感であった。
【0017】
製造例2
小麦粉100重量部、上白糖70重量部、膨張剤2重量部、水35重量部を混合して饅頭生地を調製した。饅頭生地を外皮材、実施例2の餡製品を内包材として包餡機を用いて成形した後、10分間蒸し上げて蒸し饅頭を製造した。得られた蒸し饅頭はチョコレート様の風味を有し、練り餡の様な硬い食感ではなく、クリーム様のなめらかな食感であった。
【0018】
製造例3
薄力粉100重量部、グラニュー糖25重量部、無塩バター20重量部、卵黄2重量部、食塩1重量部、重曹0.5重量部、炭酸アンモニウム0.5重量部、水25重量部を混合してビスケットドウを調製した。一方、実施例3の餡製品100重量部と抹茶粉末3重量部を混合して抹茶クリームを調製した。ビスケットドウを外皮材、抹茶クリームを内包材として包餡機を用いて成形した後、オーブンにて230℃、8分間焼成して抹茶クリームをセンターとしたビスケットを製造した。得られたビスケットは抹茶風味を有し、センタークリームは水分が蒸発して糖度76程度になっていたが、なめらかな食感を保っていた。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリン脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルを含むことを特徴とする餡製品。
【請求項2】
ポリグリセリン脂肪酸エステルが、HLB3以下であり、エルカ酸を側鎖とするものである請求項1に記載の餡製品。
【請求項3】
油脂の含有量が1〜10重量%である請求項1又は2に記載の餡製品
【請求項4】
油脂製品を含むものである請求項1〜3のいずれか一項に記載の餡製品。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の餡製品を使用した食品。
【請求項6】
包餡機で製造されたものである請求項5に記載の食品。




【公開番号】特開2012−80833(P2012−80833A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230409(P2010−230409)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(000006138)株式会社明治 (265)
【Fターム(参考)】