説明

騒音抑制装置

【課題】十分な充填材収納スペースを確保できないような限られた場所でも、粉粒状体の衝突による振動減衰効果を確保できる騒音抑制装置を提供する。
【解決手段】バケット6の左右両側部に位置するバケット側板6sに騒音抑制装置11をそれぞれ設置する。これらの騒音抑制装置11は、母材としてのバケット側板6sに偏平状の充填材収納空間12を形成する収納部形成部材13を一体化し、偏平状の充填材収納空間12に充填材14を充填する。充填材14は、複数の径の鉄球などの粉粒状体を混合したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉粒状体の衝突により振動を減衰させる騒音抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図6に示されるように、油圧ショベル1は、下部走行体2に対して上部旋回体3が旋回可能に設けられ、この上部旋回体3に対しキャブ4とともにフロント作業装置5が搭載され、このフロント作業装置5の先端にはバケット6が装着されている。このバケット6は、鋼板および鋳物部品を主に溶接で結合する一体構造物である。
【0003】
掘削作業では、このバケット6が岩石に衝突すると、バケット6を発生源とする振動騒音が発生し、鋼板や鋳物部品を溶接で結合した構造では、振動騒音が減衰しにくい。
【0004】
また、都市部での工事、夜間工事では騒音低減の要望は大きいが、バケットを発生源とする騒音対策は十分でない。
【0005】
これに対して、図7に示されるようにバケット6の側面に騒音低減用の積層板7を装着したものがある。この積層板7は、図8に示されるように複数枚の鋼薄板8を積層した構造である(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
このような積層板7は、鋼薄板8どうしの摩擦減衰を得るためには、振動により十分な変位が必要であり、例えば板バネを積層したサスペンションと同じく微小な振動に対する減衰感度は低い。また、鋼薄板8どうしの摩擦減衰を得るために、鋼薄板8どうしを密着させる必要があるが、鋼薄板8を溶接で取付けるため、施工上の困難が伴うなどの問題がある。
【0007】
一方、建設機械の騒音を低減するために、下部走行体上に旋回可能に設けられた上部旋回体の本体フレームを構成する箱形構造の支持ビーム内に、衝突による振動減衰効果を発揮する粉粒状体を充填することで、支持ビームの振動を減衰させ、支持ビームから放射される騒音を低減しようとするものがある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特許第3982584号公報(第9頁、図1−2)
【特許文献2】特開2001−227005号公報(第3頁、図2−3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上部旋回体の本体フレームを構成する箱形構造の支持ビームには十分な粉粒状体収納スペースがあるため、所定の騒音低減効果が得られる十分な量の粉粒状体を支持ビーム内に充填することが可能であるが、この箱形構造の粉粒状体をバケットの側面などの限られた場所にそのまま適用しても、十分な効果が得られない。
【0009】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、十分な充填材収納スペースを確保できないような限られた場所でも、粉粒状体の衝突による振動減衰効果を確保できる騒音抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載された発明は、母材と、母材に一体化されて偏平状の充填材収納空間を形成する収納部形成部材と、偏平状の充填材収納空間に充填された複数の径の粉粒状体を混合した充填材とを具備した騒音抑制装置である。
【0011】
請求項2に記載された発明は、請求項1記載の騒音抑制装置において、母材と収納部形成部材との間に一体化されたスペーサを具備したものである。
【0012】
請求項3に記載された発明は、請求項1または2記載の騒音抑制装置において、収納部形成部材に穿設されるとともに充填材の投入後に閉塞された充填材投入穴を具備したものである。
【0013】
請求項4に記載された発明は、請求項1乃至3のいずれか記載の騒音抑制装置における母材を、作業機械の振動発生部位としたものである。
【0014】
請求項5に記載された発明は、請求項4記載の騒音抑制装置における母材を、作業機械の機体カバーとしたものである。
【0015】
請求項6に記載された発明は、請求項4記載の騒音抑制装置における母材を、作業機械のフロント作業装置のブームおよびアームの側面部材としたものである。
【0016】
請求項7に記載された発明は、請求項4記載の騒音抑制装置における母材を、作業機械のフロント作業装置のバケットとしたものである。
【0017】
請求項8に記載された発明は、請求項7記載の騒音抑制装置における母材を、バケットの側面としたものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載された発明によれば、母材および収納部形成部材の振動により内部の充填材が運動したとき、充填材は、互いに衝突および接触することにより振動エネルギを吸収するので、従来の騒音低減用の積層板構造に比べて、充填材は微小振動でも振動エネルギを吸収できるため、微小振動に対する感度が高く、特に、複数の径の粉粒状体を混合した充填材は、同径どうしの粉粒状体より、接触点が増え、摩擦が起きやすく、減衰効果が大きいため、十分な充填材収納スペースを確保できないような限られた場所の母材でも、粉粒状体の衝突による振動減衰効果を確保できる騒音抑制装置を提供できる。
【0019】
請求項2に記載された発明によれば、内部に設けられたスペーサにより、母材と収納部形成部材の強度を確保して、それらの変形を防止できる。
【0020】
請求項3に記載された発明によれば、従来の複数枚の鋼薄板を積層させた積層板と異なり、表裏2枚の母材と収納部形成部材を一体化する製造最終工程で、収納部形成部材に穿設された充填材投入穴から母材・収納部形成部材間の充填材収納空間内に充填材を投入して充填する簡単な製造工程で騒音抑制装置を容易に製造できる。
【0021】
請求項4に記載された発明によれば、作業機械から発生する振動騒音を効果的に抑制できる。
【0022】
請求項5に記載された発明によれば、作業機械の機体カバーから発生する振動騒音を効果的に抑制できる。
【0023】
請求項6に記載された発明によれば、作業機械のフロント作業装置のブームおよびアームから発生する振動騒音を効果的に抑制できる。
【0024】
請求項7に記載された発明によれば、作業機械のフロント作業装置のバケットが岩石にぶつけられて発生するバケット振動を減衰できるので、バケット作業中に発生する振動騒音を効果的に抑制できる。
【0025】
請求項8に記載された発明によれば、バケットの側面は最も振動し易い場所であるから、この場所を母材として騒音抑制装置を設置することで、バケットから発生する騒音を最も効果的に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を、図1乃至図5に示された一実施の形態を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
図5に示されるように、作業機械としての油圧ショベル1は、下部走行体2に対して上部旋回体3が旋回可能に設けられ、この上部旋回体3に対しキャブ4とともにフロント作業装置5が搭載され、このフロント作業装置5の先端にはバケット6が装着されているが、バケット側板6sに騒音低減用の騒音抑制装置11を設置する。
【0028】
さらに、例えば耐摩耗性をあまり必要としないバケット底板6bの上部に騒音抑制装置11を設置し、バケット以外のフロント作業装置5、例えばアーム5aまたはブーム5bなどの箱形構造部の側面部材にそれぞれ騒音抑制装置11を設置し、また、機体カバーとしての、例えば上部旋回体3のエンジン側面カバー3e、燃料タンクまたは作動油タンクなどのタンク側面カバー3t、ストレージボックス3sの側面にそれぞれ騒音抑制装置11を設置する。さらに、騒音抑制装置11は、機体フレーム、例えば上部旋回体フレームまたは下部旋回体フレームに設置しても良い。
【0029】
図1はバケット6を示し、バケット底板6bの左右両側部にはバケット側板6sが溶接され、これらの開口縁部に沿って厚みのある枠板6fが溶接され、この枠板6fの下部に当たるエッジ板6eには複数のツース取付部6tが溶接され、枠板6fの上部に当たる取付板6uにはアーム5aの先端などと連結される1対の連結板6cが溶接されている。このバケット6の左右両側部に位置する騒音が発生する母材としてのバケット側板6sに騒音抑制装置11がそれぞれ設置されている。なお、上記のような各バケット構成部材は、鋼板または鋳物部品を用いる。
【0030】
図1および図2に示されるように、左右両側部の騒音抑制装置11は、騒音が発生する母材としてのバケット側板6sに偏平状の充填材収納空間12を形成する収納部形成部材13が一体化され、偏平状の充填材収納空間12に充填材14が充填されている。
【0031】
図3に示されるように、バケット側板6sと収納部形成部材13との間にはスペーサ15が溶接などで一体化されている。騒音抑制装置11の強度を確保して変形を防止するためには、騒音抑制装置11の内部にスペーサ15や仕切板(図示せず)を設けることが望ましい。
【0032】
収納部形成部材13は、バケット側板6sの外周縁に沿って隙間形成板13aを溶接した上で、この隙間形成板13aを介して溶接することで、偏平状の充填材収納空間12を形成し、さらに、この収納部形成部材13の外周縁に沿って縁板13bを面一に溶接する。
【0033】
収納部形成部材13には充填材投入穴16が穿設されている。この充填材投入穴16は、バケット6の側面の上部もしくはバケット肩部側に設けると良い。この充填材投入穴16より充填材収納空間12に充填材14が投入された後に、充填材投入穴16は、溶接またはボルト取付された閉塞板17により塞がれる。施工を容易にするために、充填材14は、10〜15mm程度に穿設された充填材投入穴16より最終工程で充填し、その充填材投入穴16を溶接等で塞ぐ構造とする。
【0034】
図4に示されるように、充填材14は、複数の径の粉粒状体14a,14bを混合したものである。充填材14としては、プラスティック、砂、砂鉄、径の異なる大小の金属球体(ショットブラスト球)などを用いるが、要するに微小振動に対する感度の良いものを用いる。大小の金属球体としては、例えば1mm径程度の鉄球と、0.3mm径程度の鉄球とを混合して用いると、同径どうしの鉄球を用いた場合より、鉄球どうしの接触点が増え、摩擦が起きやすいので、減衰効果が大きい。
【0035】
バケット6の重量増が許容できる範囲であれば数種類の充填材14を混合して見かけの比重を上げると減衰率の向上が可能であるので、充填材14としては、砂鉄、鉄球などの比重大の粉粒状体14a,14bを用いると、重量効果による効果的な振動減衰を図ることができる。
【0036】
次に、図示された実施の形態の作用効果を説明する。
【0037】
表裏2枚の鋼板で充填材14をサンドイッチ状に挟み込んだ騒音抑制装置11を振動がもっとも顕著なバケット側面に備える構造とし、この騒音抑制装置11の内部では、表裏2枚の鋼板から振動を伝達されて運動するこれらの充填材14が、互いに衝突して振動エネルギを吸収する。
【0038】
すなわち、バケット振動により複数の径の粉粒状体14a,14bが振動し、互いに衝突および接触することにより振動エネルギを吸収する。このとき、径の異なる大小の金属球体は、同径どうしの球体より接触点が増え、摩擦が起きやすいので、減衰効果が大きく、バケット6が岩石にぶつけられて発生するバケット振動を減衰できることから、掘削作業中にバケット6から発生する騒音を騒音抑制装置11は効果的に低減する。
【0039】
このように、バケット側板6sおよび収納部形成部材13の振動により内部の充填材14が運動したとき、充填材14の粉粒状体14a,14bは、互いに衝突および接触することにより振動エネルギを吸収するので、従来の騒音低減用の積層板構造に比べて、充填材14は微小振動でも振動エネルギを吸収でき、微小振動に対する感度が高い。特に、複数の径の粉粒状体14a,14bを混合した充填材14は、同径どうしの粉粒状体より、接触点が増え、摩擦が起きやすく、減衰効果が大きいため、十分な充填材収納スペースを確保できないような限られた場所のバケット側板6sでも、粉粒状体14a,14bの衝突による十分な振動減衰効果を確保できる。
【0040】
バケット側板6sと収納部形成部材13とを一体化した内部のスペーサ15により、バケット側板6sと収納部形成部材13の強度を確保して、それらの変形を防止できる。
【0041】
従来の複数枚の鋼薄板を積層させた積層板と異なり、鋼薄板どうしを密着させる溶接が不要であるため施工が容易であり、表裏2枚のバケット側板6sと収納部形成部材13を一体化する製造最終工程で、収納部形成部材13に穿設された充填材投入穴16からバケット側板6s・収納部形成部材13間の充填材収納空間12内に充填材14を投入して充填する簡単な製造工程で騒音抑制装置11を容易に製造できる。
【0042】
油圧ショベル1の機体カバーから発生する振動騒音、油圧ショベル1のフロント作業装置5のブーム5bおよびアーム5aから発生する振動騒音を効果的に抑制できる。
【0043】
油圧ショベル1のフロント作業装置5のバケット6が岩石にぶつけられて発生するバケット振動を減衰できるので、バケット作業中に発生する振動騒音を効果的に抑制できる。特に、バケット6の側面は最も振動し易い場所であるから、この場所を母材として騒音抑制装置11を設置することで、バケット6から発生する騒音を最も効果的に抑制できる。
【0044】
なお、図1に示されるように、前記充填材投入穴16に替えて、収納部形成部材13および縁板13bの組立時に充填材投入穴16aを確保し、この充填材投入穴16aより充填材収納空間12内に充填材14を投入した後、溶接により充填材投入穴16aを穴埋めすることも可能である。
【0045】
本発明は、作業機械としての油圧ショベル1だけでなく、作業機械としてのショベル型ローダ、ブルドーザなどにも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る騒音抑制装置の一実施の形態を示すバケットの一部を破断した斜視図である。
【図2】同上騒音抑制装置の断面図である。
【図3】同上騒音抑制装置の分解斜視図である。
【図4】同上騒音抑制装置の充填材の拡大図である。
【図5】同上騒音抑制装置を装着した油圧ショベルの側面図である。
【図6】従来の油圧ショベルの側面図である。
【図7】従来の騒音低減用の積層板を装着したバケットの側面図である。
【図8】同上積層板の斜視図である。
【符号の説明】
【0047】
1 作業機械としての油圧ショベル
3e 機体カバーとしてのエンジン側面カバー
3t 機体カバーとしてのタンク側面カバー
5 フロント作業装置
5a アーム
5b ブーム
6 バケット
6s 母材としてのバケット側板
11 騒音抑制装置
12 充填材収納空間
13 収納部形成部材
14 充填材
14a,14b 粉粒状体
15 スペーサ
16 充填材投入穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材と、
母材に一体化されて偏平状の充填材収納空間を形成する収納部形成部材と、
偏平状の充填材収納空間に充填された複数の径の粉粒状体を混合した充填材と
を具備したことを特徴とする騒音抑制装置。
【請求項2】
母材と収納部形成部材との間に一体化されたスペーサ
を具備したことを特徴とする請求項1記載の騒音抑制装置。
【請求項3】
収納部形成部材に穿設されるとともに充填材の投入後に閉塞された充填材投入穴
を具備したことを特徴とする請求項1または2記載の騒音抑制装置。
【請求項4】
母材は、作業機械の振動発生部位である
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の騒音抑制装置。
【請求項5】
母材は、作業機械の機体カバーである
ことを特徴とする請求項4記載の騒音抑制装置。
【請求項6】
母材は、作業機械のフロント作業装置のブームおよびアームの側面部材である
ことを特徴とする請求項4記載の騒音抑制装置。
【請求項7】
母材は、作業機械のフロント作業装置のバケットである
ことを特徴とする請求項4記載の騒音抑制装置。
【請求項8】
母材は、バケットの側面である
ことを特徴とする請求項7記載の騒音抑制装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−53625(P2010−53625A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221243(P2008−221243)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000190297)キャタピラージャパン株式会社 (1,189)
【Fターム(参考)】