説明

骨締結ケーブル用緊縛装置

【課題】 骨締結ケーブルを緊縛するための、操作性を高めた装置を提供すること。
【解決手段】 把持部と、前方に延びた桿状部材と、先端の結び目支持手段と、ケーブルの2本の腕を一緒に掴んで保持するケーブル保持手段を備え、桿状部材に取り付けられて牽引手段に連結されている摺動ブロックと、牽引手段を駆動する操作レバーとを含んでなり、結び目支持手段が、ケーブルの2本の腕を桿状部材の上方で左右に分けて掛けることのできる滑らかな支持面を両側に備え、ケーブル保持手段が、(a)摺動ブロックの上部の前後方向の貫通溝、(b)貫通溝の後端で、その横断面と交差し又は中央に沿って貫通溝の横断面を含んだ形で延びる、後方へ向けて断面幅の広がる係止窪みと、(c)摺動ブロックの上側で係止窪みの後に、前後動可能に備えられ、係止窪みに嵌って前進が阻止される、後方付勢された係止部材と、を含んでなるものである、骨締結ケーブル用緊縛装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨折治療-や骨整復固定術等の骨外科手術において、患部の骨同士が癒合一体化できるよう骨同士を緊縛して保持しておくための骨締結ケーブルを、保持に必要な強さで締め付けるための骨締結ケーブル用緊縛装置に関する。
【背景技術】
【0002】
骨折、例えば脊椎骨折の整復骨の固定(すなわち、癒合一体化)や、骨移植術等の骨手術における骨同士の固定には、固定が完了するまでの間、骨同士がずれないように相互に強く保持しておく必要がある。保持のためには、従来鋼線が長らく使用され、状況に応じて、種々の金属製のロッド(棒)、フック、ボルト(ペディクルスクリュー)その他の器具と併用されてきた。しかしながら、脊椎の手術中又は手術後における鋼線断端等による脊髄損傷のリスクを回避する等の観点から、最近では鋼線に代わって、金属繊維で作られたケーブルや、超高分子量ポリエチレンのような高強度の合成繊維で作られたケーブルが広く使用されるようになりつつある(これらを合わせて本発明において、「骨締結ケーブル」という。)。
【0003】
骨締結ケーブルを用いた手術に際しては、図1に上記合成繊維で作られたケーブルを使用する場合の代表的な結び方に基づいて手順を模式的に例示するように、相互に保持させようとする骨(丸棒で示す)同士を(必要なら添え木となるロッド、フックなどと共に)、骨締結ケーブルのループで締結してから、例えば、(1)図1(f)に示されている結び目(仮結び目)を支え、そこから延びるケーブルの2本の腕を重ねて強く引き締めることによって、ループ径を縮めて骨同士を締め付け、ループの張力を必要な大きさまで高めた上、その状態で結び目を例えば接着剤や金具で固定し、或いは、(2)図1(g)の状態から2本の腕を矢印方向に手で引くことにより仮結び目を形成し、そこから延びるケーブルの2本の腕を左右に強く引き締めることによって、ループ径を縮めて骨同士を締め付け、ループの張力を必要な大きさまで高めた上で、その張力を保った状態で、必要に応じ、結び目を、追加の結び又は接着その他によって、ずれないよう固める、という操作が行われる。骨締結ケーブルによる上記の締め付けは、ループを形成するケーブルに強い張力(例えば、5〜10kgf)を発生させるものであることを要する。仮結び目に置けるケーブルの繊維同士の摩擦力に打ち勝ってケーブル同士を滑らせてループを絞りそのような強い張力を得るためには、仮結び目から延びる2本の腕はそれ以上の張力で引き絞る必要がある。これを可能にするための装置として、本出願人による、仮結び目から延びる骨締結ケーブルの2本の腕を別々に保持してそれらの牽引を行うものである装置が知られている(特許文献1参照)。この装置では、仮結び目に先端を押し当てて、仮結び目から延びるケーブルの2本の腕を振り分けてそれぞれを別個の位置で別の機構により保持して斜め手前方向に引くことによって、締め付けが行われる。しかしながらこの装置では、2本の腕の力を引く力の配分が絶えず等しくなるように加減しなければ、締め付け操作の最中に仮結び目が装置の先端からずれてしまう可能性があり、操作性に改良の余地があった。
【0004】
その点を改良したものとして、結び目から延びる骨締結ケーブルの2本の腕を一緒にまとめて先端のスリットを通して引き絞ることができるようにした骨締結ケーブル用緊縛装置(非特許文献1参照)、及び、ケーブルの2本の腕を一旦左右に振り分けてから一緒にまとめて引き絞るようにし且つラチェット機構と連動させた引き金を用いてケーブルの引き締めを容易にするとともに、更に、ケーブルにかける張力の大きさを調節するための張力調節機構を備えた骨締結ケーブル用緊縛装置(図2、4、5及び非特許文献2参照)が、それぞれ「タイティングガン[MH]」、「タイティングガン[NTG]」の商品名で本出願人により開発され、各地の医療施設において使用されている。例えば後者の装置は、把持部3から前方へ延びた桿状部材4の先端に、側方(先端方向に向かって左側、すなわち図面手前側)に延びる1対の突起を結び目支持手段5として備えており、桿状部材4を囲んで長手方向にスライド可能に摺動ブロック6が取り付けられ、摺動ブロック6は、側方(先端方向に向かって左側、すなわち図面手前側)に突出した滑らかな円柱状の側面部分を備えたガイド突起7を有している。摺動ブロック6には、ガイド突起7のすぐ上方において、やはり側方へ突出した1対の突起8、9(突起8は、ガイド突起7と連続一体化している)がそれらの間に上下方向にケーブルを通し得る間隙10をあけた状態で設けられている。間隙10はその断面において上方へV字形に広がっており、この断面形状と一致して摺動ブロックの上部に上方へ広がった横断溝11が形成されている。摺動ブロック6の上部には、棒状の係止部材12が、回動可能なアーム13に支持されており、係止部材12は、その側面において1対の突起8,9と横断溝10の双方に嵌り込むことができる。アーム13は、結び目支持手段5とは反対側(図面において摺動ブロックの向こう側)において摺動ブロック6上に軸支され、係止部材12が間隙10及び横断溝11から上方へ遠ざかる方向にばね付勢されている。また、把持部3内には、引き金14を引くことによってラチェット機構によって一定方向にコマ送りされるドラムが備えられ、これに一端が取り付けられた牽引ケーブル15の他端が、摺動ブロック6の後面に固定されており、引き金14を繰り返し引くことによって、摺動ブロック6が桿状部材4をスライドして後退するように作られている。更に、桿状部材4は、後方へスライド可能に把持部3によって支持されており、その手元側末端が、ねじ機構を備えた張力調節ノブ17に連結されている。
【0005】
この装置は、図3及び4に模式的に示すようにして使用される。すなわち、装置を利き手に把持して締結対象骨20を締結しているケーブルの仮結び目21に、桿状部材4の側方に突出している結び目保持手段5を押し当てた状態で、他方の手でケーブルの2本の腕22,23を、結び目支持手段5の上側と下側とに振り分けて掛け、両端を重ね合わせて桿状部材4の側面に沿って手元側へ引き(図3(h))、緩みのない状態を維持したまま、ガイド突起7に掛けて上方へ方向転換させ、1対の突起8、9の間隙10に通した後、摺動ブロック6の上方に持ち上がっている係止部材12に掛けて(図3(i))、その周りに1回巻き(図3(j))、引き金14を2、3回引いて牽引ケーブル15を引いて摺動ブロックを後退させることにより、係止部材12を突起8、9の間隙10及び横断溝11へと落とし込む。これにより、係止部材12に巻かれたケーブルの2本の腕22、23は、間隙10及び横断溝11の両側壁を構成するV字形の斜面と係止部材12との間に挟まれ、その位置に、ずれないように保持される。更に、引き金14を反復して引くことにより、摺動ブロック6が少しずつ手元側へと後退して、ケーブルの2本の腕22、23が強く引かれ、仮結び目内でケーブルが滑ってループが縮められ、締結対象骨が強く緊縛される。張力調節ノブ17で設定しておいた所定の大きさの張力を超えた瞬間に、摺動ブロック6からケーブルの2本の腕22、23を介して結び目保持手段5において桿状部材4に作用する後方への押圧力が、張力調節ノブ17で調節されたばねの反発力に打ち勝って、桿状部材4が始めて僅かに後方へとスライドし、この動きが、例えば窓25を通して検出される。こうして、所定の張力の達成が確認された後は、解除レバー26を操作してラチェットを解除し、摺動ブロック6を前方へ摺動させてケーブルの2本の腕22、23を緩め、装置から取り外す。この状態では、結び目は固く締まっており容易には元に戻らないが、さらに結び目を固めるために、結びの追加、結び目の接着、金具による固定等を施すことができる。
【0006】
この装置は、必要な強い張力で対象骨を確実に締結することができ、広く用いられているが、操作性において依然として改良すべき点があった。すなわち、仮結び目から延びるケーブルの2本の腕を重ねてガイド突起7に掛けた後、上方へ方向転換させて係止部材12に巻くまでの操作をしている間に装置の先端が手ぶれにより前後左右にやや振れ易く、装置の取扱に不慣れな術者の場合、注意深く行わないと結び目保持手段が仮結び目から外れてしまい、再度、先端を仮結び目に押し当てるところから操作をし直さなければならなくなる場合があった。骨手術では多数の箇所を締結しなければならない場合が少なからずあり、これは、円滑に手術を進めようとする術者にとって、煩わしい場合があった。従って、そのような手ぶれを起こす要因を減らした、より操作性の高い装置が求められていた。
【特許文献1】特許第3074205号公報
【非特許文献1】医療用器具許可番号12BZ0286「タイティングガン[MH]」パンフレット、アルフレッサファーマ株式会社、2004年10月改訂版
【非特許文献2】医療用器具許可番号12BZ0286「タイティングガン[NTG]」パンフレット、アルフレッサファーマ株式会社、2004年10月改訂版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記背景において、本発明者は検討の結果、この手ぶれを起こし易くする主たる原因が、(i)摺動ブロック6にあるガイド突起7に骨締結ケーブルを掛けて上方へと方向転換するときに、骨締結ケーブルを張った状態に保つために桿状部材4に対して横断方向の力が必要以上に作用し、この力とのバランスを上手くとりながら係止部材12に骨締結ケーブルを巻きつけることが、装置に慣れるまでは比較的難しいという点、及び、(ii)摺動ブロックの側方のガイド突起7に骨締結ケーブルを掛け、突起8,9の間の溝にケーブルを通し係止部材12に巻きつける操作が、装置の側面を斜め後方から見つつ行う形になりがちであるため、装置の先端部がケーブルを持つ手の陰になり易いと共に、(iii) ケーブルを巻きつける係止部材12の位置と、装置の先端部の位置とが、視野内において比較的大きく離れるため、双方に均等な注意を払うことが難しく、先端部の結び目支持手段5の位置の保持が疎かになりやすいという点にあることを見出した。本発明は、これらの点を解決した、改良型の骨締結ケーブル用緊縛装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的のために検討の結果、本発明者は、従来型の装置では、結び目支持手段である装置先端の突起5が、桿状部材4に対し側方へ突出しておりそのため、仮結び目から延びる骨締結ケーブルの2本の腕を、桿状部材4の側方において該桿状部材4の長手軸に関して上下に振り分けて支持し、その結果、装置の中心面を骨締結ケーブルのループ面と平行に保持にした状態で操作がなされる構造となっていたのに対し、装置の中心面をループ面と垂直に保持にした状態で操作できるようにすること、また、骨締結ケーブルの2本の腕を装置に対して左右対称に引くこと、及び、仮結び目から係止部材への巻きつけまで、骨締結ケーブルができる限り一直線上で操作されるようにすることに着目して検討を行い、これに適した構成を見出して、上記の問題点を解決できることを確認し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち本発明は、以下を提供するものである。
(1) 締結対象に結ばれた骨締結ケーブルの結び目から延びる2本の腕を牽引することにより締結対象を緊縛するための、骨締結ケーブル用緊縛装置であって、
手で持つための把持部と、
該把持部から前方に延びた桿状部材と、
該桿状部材の先端に設けられた、該2本の腕の牽引に際して結び目を支持するための結び目支持手段と、
該2本の腕を一緒に掴んで保持するためのケーブル保持手段を備え、該桿状部材を囲んで長手方向に摺動自在に取り付けられた摺動ブロックであって、該把持部に備えられた牽引手段に張力伝達手段を介して連結されているものである摺動ブロックと、
該把持部に備えられた、該牽引手段を駆動するための操作レバーと、
を含んでなり、且つ
該結び目支持手段が、該桿状部材の上側において、
(1)該2本の腕を該桿状部材の長手軸に関して左右に振り分けて掛けることのできる支持面を両側に備え、及び/又は
(2)該2本の腕を通すことができるスリット若しくは穴を備えるものであり、そして
該摺動ブロックに備えられた該ケーブル保持手段が、
(a)該摺動ブロックの上部に形成された前後方向の貫通溝と、
(b) 該貫通溝の後端において、該貫通溝の横断面と交差した形で又は中央に沿って該貫通溝の横断面を含んだ形で延びる、後方へ向けて断面幅の広がる窪みである係止窪みと、
(c) 該摺動ブロックの上側で該係止窪みより後ろに、前後動可能に備えられ、前進して該係止窪みに嵌りこれに側面が当接して前進が阻止される、該2本の腕を巻き付けるための後方へ付勢された係止部材と、
を含んでなるものである、骨締結ケーブル用緊縛装置。
(2)該係止窪みが、中央に沿って該貫通溝の横断面を含んだ形で延びるものである、上記1の骨締結ケーブル用緊縛装置。
(3)該係止部材がアームに取り付けられており、該アームは、該桿状部材に関して該結び目支持手段と同じ側において垂直軸回りに回動可能に該摺動ブロックに設けられたものである、上記2の骨締結ケーブル用緊縛装置。
(4)該係止部材が該係止窪み内に嵌るときに、該アームを受容れることのできる陥凹部が該係止窪みの縁に設けられているものである、上記3の骨締結ケーブル用緊縛装置。
(5)該係止部材が該係止窪み内に嵌るときに該係止窪みの縁との干渉を回避できるよう、該アームが、該係止窪みの縁を退けた輪郭を有するものである、請求項3の骨締結ケーブル用緊縛装置。
(6)該アームが、該摺動ブロックに軸支されているものである、上記3ないし5の何れかの骨締結ケーブル用緊縛装置。
(7)該係止部材の後方への付勢が、該摺動ブロックに軸支された該アームの回動軸周りに配されたばねによるものである、上記6の骨締結ケーブル用緊縛装置。
(8)該係止部材が、該桿状部材に関し該結び目支持手段と同じ側において垂直軸回りに回動可能に、該摺動ブロックの両側に斜め側方へ向けて設けられた同一長の1対の第1の左右のアームと、該1対の第1の左右のアームのそれぞれの先端に、垂直軸周りに回動可能に斜め内方へ向けて取り付けられた同一長の1対の第2の左右のアームであって、それらの先端同士が回動可能に結合されているものである1対の第2のアームとからなる、5節連鎖機構の、第2のアームの先端に備えられているものである、上記2の骨締結ケーブル用緊縛装置。
(9)該1対の第1のアームが、該摺動ブロックに軸支されているものである、上記8の骨締結ケーブル用緊縛装置。
(10)該係止部材の後方への付勢が、該摺動ブロックに軸支された該1対のアームの少なくとも一方の回動軸周りに配されたばねによるものである、上記9の骨締結ケーブル用緊縛装置。
(11)該係止部材が、該摺動ブロックに対して前後方向に摺動可能に取り付けられた摺動部材上に備えられているものである、上記2の骨締結ケーブル用緊縛装置。
(12)該摺動部材が、該摺動ブロックに形成された、該摺動部材の一部が嵌合する摺動ガイドに沿って摺動するものである、上記11の骨締結ケーブル用緊縛装置。
(13)該係止部材の後方への付勢が、該摺動部材に対して該摺動ガイドに配されたばねによるものである、上記12の骨締結ケーブル用緊縛装置。
(14)該係止窪みが、該貫通溝の横断面と交差して延びるものである、上記1の骨締結ケーブル用緊縛装置。
(15)該係止部材が、該摺動ブロックの側面に水平軸周りに回動可能に設けられたアームに設けられているものである、上記14の骨締結ケーブル用緊縛装置。
(16)該アームが、該摺動ブロックの一側面から概略上方へ延び、その先端から係止部材が、該係止窪みの後方においてこれと平行に延びているものである、上記15の骨締結ケーブル用緊縛装置。
(17)該アームが、該摺動ブロックの両側面から概略上方へ延び、該摺動ブロック上で内方へ延びて合体した後再度概略上方へ延びて、その先端に該係止部材が設けられているものである、上記15の骨締結ケーブル用緊縛装置。
(18)該アームが、該摺動ブロックに軸支されているものである、上記15ないし17の何れかの骨締結ケーブル用緊縛装置。
(19)該係止部材の後方への付勢が、該摺動ブロックに軸支された該アームの回動軸周りに配されたばねによるものである、上記18の骨締結ケーブル用緊縛装置。
(20)該係止部材が、該摺動ブロックに対して前後方向に摺動可能に取り付けられた摺動部材上に備えられているものである、上記14の骨締結ケーブル用緊縛装置。
(21)該摺動部材が、該摺動ブロックに形成された、該摺動部材の一部が嵌合する摺動ガイドに沿って摺動するものである、上記20の骨締結ケーブル用緊縛装置。
(22)該係止部材の後方への付勢が、該摺動部材に対して該摺動ガイドに配されたばねによるものである、上記21の骨締結ケーブル用緊縛装置。
(23)該係止窪みが、後方へ向けて断面幅がV字状に広がるものである、上記1ないし22の何れかの骨締結ケーブル用緊縛装置。
(24)該係止窪みが、後方へ向けて断面幅が円弧状に広がるものである、上記1ないし22の何れかの骨締結ケーブル用緊縛装置。
【発明の効果】
【0010】
上記各構成になる本発明によれば、骨締結ケーブルの2本の腕を重ねて係止部材に導くまでの過程で、骨締結ケーブルの側方への方向転換が不要となるため、ケーブル巻きつけ操作に至るまで掛けておく必要があった横方向の力がなくなり、ケーブル巻きつけ操作に際して、装置先端が手の陰になることがなくなり、且つ、操作中の装置先端部と係止部材との間でケーブルが実質的に一直線状に配向するため、双方に均等な注意を払うことが容易になる。その結果、従来の装置に比して、係止部材へのケーブルの巻きつけまでの操作が極めて容易となる。更には、従来の装置では、右手に持って操作することが基本であったが、本発明の装置は実質的に左右対称となる結果、左右の何れの手で持っても全く同様に操作できるため、術者の利き手を問わないという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、握りやすく扱いやすい限り、把持部の形状及び大きさには特に限定はない。把持部から延びる桿状部材は、把持部に固定されていてもよく、又は、所定の力で牽引されたときにスライドして後退し得るように取り付けられていてもよい。桿状部材の長さ及び太さには、特に限定はない。長さは、摺動ブロックが少なくとも数cm程度後退できるだけの余裕を有するものであればよく、太さは、前後方向の数10kgfの圧縮力に耐えるものであればよい。またその断面形状も適宜であり、摺動ブロックがスライドできるものであればよい。断面形状は、例えば、長方形とするのが便利である。
【0012】
結び目支持手段は、仮結び目から延びる骨締結ケーブルの2本の腕を後方へ引くに際し、張力に抗して仮結び目を支持するためのものである。結び目支持手段は、(1)その中央に仮結び目を位置させて、そこからケーブルの2本の腕を左右に振り分けて後方へ引くタイプのものであってもよく、(2)ケーブルの2本の腕を通して後方へ引くことができる(但し、ケーブルの仮結び目を通すことはできない)幅のスリット若しくは穴を備えるタイプのものであってもよく、更には、(3)それら両タイプを複合させたものであってもよい。結び目支持手段の具体例としては、タイプ(1)のものでは、桿状部材の先端に設けられた、1個又は左右対称に並んだ1対の突起として構成してもよく、また、桿状部材の先端を上方へ折り曲げた部分として構成してもよい。これらの場合、結び目支持手段は、その左右両側面に沿ってケーブルが引かれることから、少なくともケーブルを支持する左右の支持面は、余分な摩擦を避けるよう、滑らかなものとするのが好ましい。更には、ケーブルの2本の腕が結び目支持手段の左右に沿って引かれるとき、ケーブルが結び目支持手段から上方へ滑って外れてしまうことがないよう、結び目支持手段の両側面には、窪み(例えば鞍形曲面の窪み)を設けておくことが好ましい。また、タイプ(2)のものの具体例としては、桿状部材に備えられた、後方へとケーブルを通すことのできるスリット(前後方向の深さは問わない)を間に画して配列された1対の突起や、前後方向に穴を設けた筒状又は環状の構造部分が挙げられる。タイプ(1)及び(2)を複合させたものの具体例としては、例えば、タイプ(1)のものを1対の突起として構成しそれらの間隙をタイプ(2)のスリットとしたものや、タイプ(1)のものを1個の突起で構成し、これに前後方向の貫通穴を設けたものが挙げられる。
【0013】
摺動ブロックに供えられている貫通溝は、重ねて合わせて引かれる骨締結ケーブルの2本の腕を、それらにケーブルの側面上から受容れるためのものであり、ケーブルの2本の腕を沈めて通すことができる深さと幅のものであればよい。また、係止窪みは、係止部材がその中に入ったときに、係止窪みの両側面が係止部材の側面に当接して、係止部材の前進を阻止することができるものであればよく、形状及び大きさは、この目的に適うよう、係止部材の大きさに応じて適宜決定すればよい。通常は、V字型の断面を有するものとするのが便利であるが、円弧状等の丸みを持った断面の溝としてもよく、その場合は、係止部材に巻かれた2本のケーブルが、係止窪みの円弧状断面のうち、両側の、傾斜部分において係止部材との間に挟持されるように、寸法を定めればよい。V字形の断面と円弧状の断面とを問わず、ケーブルを挟んで係止する面の傾斜は、ケーブルが引かれる方向に垂直な面に対して好ましくは45°以上、より好ましくは55°以上、更に好ましくは60°以上である。また、係止部材の側面及び係止窪みの表面の一方又は双方に、ケーブルとの摩擦を高めて保持を一層確実にするため、例えば、細かな筋を入れる等して表面に凸凹を設けた粗面加工を施しておくことができる。
【0014】
係止窪みは、中央に沿って摺動ブロックの貫通溝の横断面を含んだ形で延びていても、また、これと交差していてもよい。前者の場合、係止窪みの底は貫通溝の断面によって貫通されているため、係止窪みは、噛合いに関与する両側面のみが残る。係止窪みを貫通溝と交差させて形成した場合は、係止窪みは、その中央付近で貫通溝の横断面に分断された形となるが、残り部分では完全な形状を備えることができる。
【0015】
係止部材は、係止窪みが延びる方向と平行になるように配向される。係止部材は、桿状部材に関し結び目支持手段と同じ側において、例えば垂直軸回りに回動可能に摺動ブロックに設けられたアームの先端に取り付けられ、アームの回動に従って水平面内の円軌道上を前後に動いて係止窪み内に後方から出入りすることができる。このとき、アームが係止窪みの縁と干渉することを回避するために、アームを鉤型に曲げておく等することにより、アームの、係止窪みの縁に対向する側に、内側に窪んだ輪郭を設けその中に係止窪みの縁が受け入れられるようにしてもよい。代わりとして、係止窪みの縁の一部を、アームを受容れることができるように切り欠いて陥凹部を形成してもよい。
【0016】
上記アームは、回動可能に摺動ブロックに取り付けられた軸部材を介して摺動ブロックに軸支させておけばよい。係止部材の(従ってアームの)後方への付勢は、摺動ブロック内の軸部材の周囲にばねを配することによって行うことができる。
【0017】
上記の単一のアームに代わる構成の1つとして、係止部材が、摺動ブロックをも含む5節連鎖機構の先端に備えられていてもよい。すなわち、桿状部材に関し結び目支持手段と同じ側において垂直軸周りに回動可能に、斜め側方へ向けて摺動ブロックの両側にほぼ対称に設けられた同一長の1対の第1の左右のアームと、この1対の第1のアームのそれぞれの先端に、水平面内で回動可能に斜め内方へ向けて対称に取り付けられた同一長の1対の第2の左右のアームであってそれらの先端同士が回動可能に結合されているものである1対の第2のアームとからなる5節連鎖機構の、第2のアームの先端に、係止部材が備えられているものである。この構成は、パンタグラフ様の機構であり、これによれば、係止部材は、円周上でなく、直線上を前後に動いて係止窪みに嵌ることができる。この場合、1対の第1のアームの手元側末端は、回動可能に摺動ブロックに取り付けられたそれぞれの軸部材を介して、摺動ブロックに軸支持させておくことができ、また、係止部材を後方へ付勢するには、摺動ブロック内の軸部材の一方又は双方の周囲にばねを配することによって行うことができる。
【0018】
これら単一又は複数のアームを用いる構成に代わるものとして、摺動ブロック上を前後方向にスライド可能に設けられた摺動部材、例えばプレート状の部材に、係止部材を備えておき、摺動部材をばねにより後方へ付勢しておいてもよい。前後方向の摺動部材の摺動には、そのためのガイド(摺動ガイド)を摺動ブロック上に設けておけばよい。摺動ガイドとしては、例えば、摺動部材の前部及び後部をそれぞれ前後方向に摺動可能に収容するガイド穴でもよく、また摺動部材の両側を摺動可能に挟み込む断面L字状の1対の突条と、前後方向の動きを所定範囲に限定する突起を摺動部材の前後に設けた構造としてもよい。摺動部材を(従って係止部材を)後方へ付勢するばねは、例えば、上記ガイド穴内に又は上記突起(例えば後側の突起)と摺動部材との間に配することができる。
【0019】
係止窪みが、前後方向の貫通溝の断面と交差して横方向に延びるものであるときは、それに応じて、これに嵌る係止部材も横方向に向けて配置される。この場合も、係止部材の前後の動きも、摺動ブロックに回動可能に取り付けられたアーム上に配置することにより、又は摺動ブロック上にスライド可能に取り付けられた摺動部材上に配置することにより、行わせることができる。具体的には、例えば、摺動ブロックの一側面に備えられた、水平軸周りに回動可能なアームの先端に係止部材を、係止窪みの後方でこれに平行に設けてもよく、又は、摺動ブロックの両側面から垂直面内に概略上方へ延び、摺動ブロック上で内方へ曲がり込んで中央で一体化し更に概略上方へ延びたアームの先端に、係止部材を、係止窪みの後方でこれに平行に設けてもよい。これらの構成とすることにより、係止部材は円軌道上又は直線軌道上を前後に動いて、係止窪み内に嵌ることができる。係止部材の後方への付勢の方法に関しては、縦方向の係止部材の場合について上記したのと同様である。
【0020】
把持部の具体的構造は、特に限定されない。把持部には、操作レバーを引くことによって、これに連動したラチェット機構によって(直接又は別の歯車等の適宜の機構を介して)一定方向にコマ送りされるドラム等のケーブル巻き取り手段に、牽引ケーブルの一端が取り付けられ、牽引ケーブルの他端は、摺動ブロックの後面に取り付けておけばよい。操作レバーを繰り返し引くことによって、ケーブル巻き取り手段が回転してケーブルを後方へ牽引し、摺動ブロックがそれにより桿状部材をスライドして後退するように構成すればよい。また更に、桿状部材は、手元側へスライドし得るように把持部によって支持することもできる。この場合、桿状部材の手元側末端を、把持部に取り付けられたばね(例えばつる巻きばね)の一端に当接させておき、摺動ブロックの後方への牽引によってこれに保持された骨締結ケーブルを介して桿状部材が後方へ牽引され、牽引力が所定の値を超えたとき初めて桿状部材が後退を開始するようにしておくことができる。そうすることにより、引張力が所定の値に達したとき、装置が術者に知らせることができる。桿状部材の後退が開始する引張力の大きさは、桿状部材の後端に当接しているばねを、その引張力の大きさに等しい反発力を生じる位置まで予め圧縮しておくことによって、任意に設定することができる。そのためには、把持部の、ばねを収容している部分において、例えば、ばねを圧縮して最大長を規制できる枠内に嵌め、枠の最大長をねじ機構で調節可能にしておけばよい。
【0021】
本発明の装置は金属製とするのが好ましいが、強度が上記圧縮力に耐えるのに十分でありかつ手術での使用前後の加熱滅菌に何回でも耐えるものであれば、耐熱性樹脂、セラミック等のような他の材料を部分的に併用してもよい。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を参照して本発明を更に具体的に説明するが、本発明がそれらの具体例に限定されることは意図しない。
【0023】
〔実施例1〕
図6〜10は、本発明の骨締結ケーブル用緊縛装置31の一実施例の側面図、平面図、正面図、背面図及び斜め後方からの部分拡大図を、それぞれ示す。これらの図において、33は把持部であり、その前側から前方へ桿状部材34が延びている。実際の使用に当たっては、装置は様々な角度に向けられるが、構造の説明及び理解の便宜のため、これらの各図において、装置は、桿状部材34の長手方向を水平にし、その先端を前方へ向け、且つ、把持部33(全体として面対称である)の対称面を垂直にした状態で、上下左右及び前後の各方向を規定する。桿状部材34は、把持部33によって後方へスライド可能に支持されており、後述のように後方から強くばね付勢されて図の位置にとどまっている。桿状部材34の先端には、上方へ向けて左右1対の突起35が備えられており、これら1対の突起35は、中央の窪んだ鞍形の滑らかな側面を有し、骨締結ケーブルを緊縛する際に、仮結び目を支持する働きをする。また、1対の突起35の間には、スリットSが構成されている。
【0024】
桿状部材34には、これを囲んで摺動ブロック36がスライド可能に嵌っており、摺動ブロック36の後部には、保持部33の前面から延びる金属性の牽引ケーブル37の先端が固定されている。牽引ケーブル37の他端は、保持部33の内部にある回転ドラムに固定されており、回転ドラムは、保持部33から延びる引き金の形態をした操作レバー40により動作するラチェット機構を介して、一定方向にのみコマ送りで回されるように構成されている。従って、回転ドラムに一端を固定された牽引ケーブル37は、操作レバー40を引くことによる回転ドラムの回転によって後方へ牽引され、その先端に固定されている摺動ブロック36を後方へと牽引する。
【0025】
摺動ブロック36はその上部に前後方向の貫通溝42(図7及び10を参照)を備えており、貫通溝42の後方の左右の縁(図7及び図10を参照)には、後方へ向けて断面幅がV字形に広がった係止窪みが44形成されている。係止窪み44の後方には、貫通溝42の幅より径が太く係止窪み44より径が細い棒状の係止部材46が配置されている。係止部材46の表面は、細かな縦方向の筋が入れられることによって粗面化されている。
【0026】
係止部材46は、その基部においてアーム48の一端に固定されている。アーム48の他端は、垂直軸回りに水平面内において回動可能であるように摺動ブロック36よって軸支されると共に、軸支部分において軸周りに設けられたばね(図では摺動ブロック内部に隠れて見えない)により、係止部材46を係止窪み44から離すように後方へばね付勢されている。また、係止窪み44内へとアーム48が前方へ動くとき、これとの干渉と回避するために、係止窪みの縁において摺動ブロック36に陥凹部50が設けられている。こうして、係止部材46は、ばね付勢により通常は係止窪み44より後方に位置しているが、前方への外力が加わると係止窪み44内に嵌り込むことができる。
【0027】
図11は、装置の内部構造の概略を示す側方断面図である。図において、牽引ケーブル37は、後端が回転ドラム55に固定されそのドラム面に沿って張られている。回転ドラムはそのドラム面と同心の一体化した歯車57を有しており、歯車57は、別の歯車59とかみ合っている。歯車59は、同心のラチェット車61と一体化されている。ラチェット車61と同軸に取り付けられている操作レバー40の下端には板ばね63の下端が結合されており、板ばね63は、操作レバー40を前方へ付勢した状態で上端が把持部33のハウジングに固定されている。操作レバー40には、送り爪65が、その先端がラチェット車61に向けて付勢された状態で、回動可能に取り付けられている。操作レバー40が前方位置にあるときに送り爪65を図面時計回りに回動させて先端をラチェット車61から離すよう、送り爪65の後端67は、把持部33のハウジングに固定されたピン69と当接してカム機構を構成している。ラチェット車61には、ばね付勢された戻り止め71がかみ合っており、戻り止め71は、把持部33の外側に設けられた解除レバー73の軸と結合されており、解除レバー73を引き下げることによって、戻り止め71をラチェット車61から解除し、ラチェット車61の逆回転が、従って、歯車59、57及び回転ドラム55の逆回転が可能となり、牽引ケーブル37の牽引が解除される。
【0028】
図12は、骨締結ケーブルで骨を緊縛する際のケーブルの張力を所望の値に調節するための、張力調節機構の構造を示す概要図である。図において、75は、張力調節ノブである。張力調節ノブ75には雌ねじが切られており、桿状部材34の後端に設けられた雄ねじ77に螺合している。桿状部材34の後端は、把持部33のハウジングと一体に結合された筒状部材79内に前後方向にスライド可能に嵌っており、張力調節ノブ75は、筒状部材79の後端に、滑り摩擦係数の小さいスペーサー81を挟んで当接している。桿状部材34の後端と筒状部材79の後壁内面との間には、つる巻きばね83が封入されている。張力調節ノブ75を時計回りに回転させると、これと螺合した桿状部材34の後端が回転量に応じて後方へ引かれて後退し、つる巻きばね83が圧縮される。従って、張力調節ノブ75の回転量が多い程つる巻きばね83の圧縮量は多くなり、より大きい反発力がばねに蓄えられた状態となる。筒状部材79には、窓85が設けられており、窓85の縁には、張力の大きさに対応した目盛り87が記されている。桿状部材34の後端付近には、バー89が記されており、これは筒状部材79の窓85から観察できる。
【0029】
図13は、本実施例の装置によって2個の骨を緊縛している状態を示す斜め後方からの部分拡大図である。図において93は、骨90、91を緊縛している骨締結ケーブルのループであり、94、95は、骨締結ケーブルの仮結び目(突起35に隠れて見えない)から延びる2本の腕である。仮結び目の形成までの手順は、従来の装置に関し図1及び3を参照して説明したものと同一である。骨締結ケーブルの2本の腕94、95は、突起35によって仮結び目が支持された状態で、突起35の左右に振り分けて後方へ引かれ、両方合わせて貫通溝42に通された後、係止部材46に1回巻きつけられ、次いで、操作レバー40が2、3回引かれて摺動ブロック36が後退し、その結果、骨締結ケーブルの2本の腕94、95が係止部材46と突起35の間で緊張し、それらに巻かれた係止部材46が係止窪み44に嵌り込む。この状態で、操作レバー40が更に繰り返して引かれ、摺動ブロック36が更に後退するが、係止部材46と突起35との間の骨締結ケーブルの2本の腕94、95の更なる緊張によって係止部材46がV字形の係止窪み44に更に固く嵌り込み、骨締結ケーブルの2本の腕94、95を係止窪み44との間に一層強く押し付けるため、それらの間の摩擦力の増大の結果、骨締結ケーブルの2本の腕94、95は、その位置で固く保持される。なお、骨締結ケーブルの2本の腕94、95は、突起35の左右に振り分ける代わりに、突起35の間にあるスリットSを通して後方へ引いてもよい。
【0030】
操作レバー40を更に反復して引くことによって、摺動ブロック36が更に後退し、ケーブルの2本の腕94、95の緊張が増大すると、仮結び目においてケーブル同士の接触面が相互に滑り、ループ93が縮んで骨90、91を徐々に強く緊縛する。この間、桿状部材34も、突起35において係止部材46及び摺動ブロック36を介して牽引ケーブルによって後方へと牽引されているが、後端においてつる巻きばね83によって前方へと付勢されているため、その不勢力が後方への牽引力に負けるまでは、最初の位置のまま停止している。図14を参照し、骨90、91を締め付けるループ93の張力が所望の大きさ達しこれに相関する牽引力が所定の設定値を僅かに超えた瞬間、桿状部材34は、僅かに後方へと後退する。この後退は、張力調節ノブ75の後退としても検出でき、筒状部材79の窓85から見えるバー89の動きとしても観察できる。従って、桿状部材34が最初の位置から僅かに後方へずれたときに、所定の張力が達成されたことを、術者は知ることができる。
【0031】
こうして所定の張力が達成された後は、解除レバー73が引き下げられてラチェット機構の戻り止め71がラチェット車の歯から外され、ラチェット機構が解除される。これにより、摺動ブロック36の牽引が解除されるため、係止部材46も係止窪み44との噛合いから解除され、係止部材46から、骨締結ケーブルの2本の腕を取り外すことができる。装置を用いた操作はこれで完了し、その後は、従来と同様、結び目は、追加の結び、接着その他によって、ずれないよう固められる。
【0032】
〔実施例2〕
図15は、本発明の別の一実施例の、斜め後方から見た部分的拡大図である。図において、実施例1における参照番号と同一の参照番号は、実施例1におけるそれら各部に対応する。本実施例においては、摺動ブロック97に回動可能に取り付けられたアーム98は、鉤形をしており、それにより形成されている内側の凹んだ輪郭のため、前方への回動時にアーム98が係止窪み44の縁と干渉することが回避される。本実施例のその他の構造、機能及び操作方法は、実施例1と同様である。
【0033】
〔実施例3〕
図16は、本発明の更なる別の一実施例の、斜め後方から見た部分的拡大図である。図において、実施例1における参照番号と同一の参照番号は、実施例1におけるそれら各部に対応する。本実施例において摺動ブロック100は、両側から斜め側方へ回動可能に延びる1対の第1のアーム102、103と、これらのアームの先端から回動可能に斜め内方へ延びる第2のアーム104、105とを備え、第2のアーム104、105は両端で相互に回動可能に結合されて、摺動ブロック100、1対の第1のアーム102、103及び1対の第2のアーム104、105で、5節連鎖機構を構成している。1対の第2のアームの先端には、係止部材46が固定されている。1対の第1のアーム、102、103は、摺動ブロック100に軸支され、軸周りに備えられたばねによって、それぞれ、後方へ回る方向に付勢されている。第2のアーム104、105が前進するときに干渉を回避するため、摺動ブロック100には、係止窪み44の縁において陥凹部106が備えられている。こうして、係止部材46は、通常は係止窪み44から後方に離れているが、前方への外力が加わったときは、前方へ直線的に移動して係止窪み44にはまり込むことができる。本実施例のその他の構造、機能及び操作方法は、実施例1と同様である。
【0034】
〔実施例4〕
図17は、本発明の更なる別の一実施例の、斜め後方から見た部分的拡大図である。図において、実施例1における参照番号と同一の参照番号は、実施例1におけるそれら各部に対応する。本実施例において、摺動ブロック110には、前後方向にスライド可能な基板112が、その後方において、閉じ込められたつる巻きばね114により後方へ付勢された状態で、備えられており、係止部材46は基板112上に取り付けられている。こうして、係止部材46は、通常は係止窪み44から後方に離れているが、前方への外力が加わったときは、直線的に前進して係止窪み44に嵌り込むことができる。本実施例のその他の構造、機能及び操作方法は、実施例1と同様である。なお、本実施例において、突起35は、実施例1〜3と異なり、単一構造のものである。
【0035】
〔実施例5〕
図18は、本発明の更なる別の一実施例の、斜め後方から見た部分的拡大図である。図において、実施例1における参照番号と同一の参照番号は、実施例1におけるそれら各部に対応する。本実施例においては、摺動ブロック120の一側面からアーム122が回動可能に、斜め後方に傾斜しつつ上方へ延びるように取り付けられ、摺動ブロック120上方においてその先端に内方へ向けた係止部材124が取り付けられている。アーム122は摺動ブロック120の内部においてばねにより後方へ付勢されている。摺動ブロック120には、貫通溝130が設けられ、その横断面と交差した形で断面V字形の係止窪み132が、貫通溝の後端に横断方向に延びている。こうして、係止部材124は、通常は係止窪み132から後方に離れているが、前方への外力が加わったときは前進して係止窪み132に嵌り込むことができる。係止部材124の中央に取り付けられている突起134は、貫通溝130の真上でのみ骨締結ケーブルの2本の腕が巻かれる事態を回避するためのものであり、貫通溝130内に丁度嵌り込むことができる幅を有する。本実施例のその他の構造、機能及び操作方法は、実施例1と同様である。
【0036】
〔実施例6〕
図19は、本発明の更なる別の一実施例の、斜め後方から見た部分的拡大図である。図において、実施例1における参照番号と同一の参照番号は、実施例1におけるそれら各部に対応する。本実施例においては、摺動ブロック136の両側面からアーム138が回動可能に、斜め後方に傾斜しつつ上方へ延びるように取り付けられ、該摺動ブロック上で内方へ延びて中央で合体した後前斜め前方へ傾斜しつつ更に上方へ延び、その先端に該係止部材140が取り付けられている。アーム138は摺動ブロック136の内部においてばねにより後方へ付勢されている。摺動ブロック136には、貫通溝130が設けられ、その横断面と交差した形で断面V字形の係止窪み132が、貫通溝の後端を横断する方向に延びている。こうして、係止部材140は、通常は係止窪み132から後方に離れているが、前方への外力が加わったときは前進して係止窪み132に嵌り込むことができる。本実施例のその他の構造、機能及び操作方法は、実施例1と同様である。
【0037】
〔実施例7〕
図20は、本発明の更なる別の一実施例の、斜め後方から見た部分的拡大図である。図において、実施例1における参照番号と同一の参照番号は、実施例1におけるそれら各部に対応する。本実施例において、摺動ブロック150には、前後方向にスライド可能な基板152が、その後方において、閉じ込められたつる巻きばね154により後方へ付勢された状態で備えられており、係止部材156は基板152上に取り付けられている。また、摺動ブロック150には、貫通溝160が設けられ、その横断面と交差した形で断面V字形の係止窪み162が、貫通溝の後端に横断方向に延びている。こうして、係止部材156は、通常は係止窪み44から後方に離れているが、前方への外力が加わったときは、直線的に前進して係止窪み44に嵌り込むことができる。本実施例のその他の構造、機能及び操作方法は、実施例1と同様である。
【0038】
〔実施例8〕
図21は、本発明の更なる別の一実施例の、斜め後方から見た部分的拡大図である。本実施例は、突起35の代わりに円筒部170を備える点以外は、実施例5と同様である。円筒部170は、その穴の中にケーブルの2本の腕を通した状態で、仮結び目を円筒部の先端に支持するために使用される。穴にケーブルの2本の腕を通すには、金属繊維で作られたケーブルの場合は容易に通すことができるが、合成繊維で作られたケーブルの場合は、例えば、両端にワイヤーを引っ掛けることのできる構造部分(例えば、糸で作られたループ)を有するものを使用し、その構造部分にワイヤーを引っ掛け、ワイヤーをガイドとして用いて通せばよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、骨締結ケーブルの2本の腕を重ねて係止部材に導くまでの過程で、ケーブルの側方への方向転換を不要にすることでケーブル巻きつけ操作に至るまでの横方向の負荷が解消され、且つ、操作中の装置先端部と係止部材との同時視認性をも改善されるため、従来に比して、係止部材へのケーブルの巻きつけまでの操作が容易にした、骨締結ケーブル用緊縛装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】骨締結ケーブルの骨への巻き付け及び仮結びの手技を示す概要図
【図2】従来の骨締結ケーブル用緊縛装置の側面図
【図3】従来の骨締結ケーブル用緊縛装置を用いた骨の緊縛の手順を示す概要図
【図4】従来の骨締結ケーブル用緊縛装置を用いた骨の緊縛の手順を示す概要図
【図5】従来の骨締結ケーブル用緊縛装置の斜め前方からの部分拡大図
【図6】本発明の実施例1の骨締結ケーブル用緊縛装置の側面図
【図7】実施例1の装置の平面図
【図8】実施例1の装置の正面図
【図9】実施例1の装置の背面図
【図10】実施例1の装置の斜め後方からの部分拡大図
【図11】実施例1の装置の側方断面図
【図12】張力調節機構の構造を示す概要図
【図13】実施例1の装置により骨を緊縛している状態を示す斜め後方からの部分拡大図
【図14】張力調節機構の動作を示す概要図
【図15】本発明の実施例2の骨締結ケーブル用緊縛装置斜め後方からの部分拡大図
【図16】本発明の実施例3の骨締結ケーブル用緊縛装置斜め後方からの部分拡大図
【図17】本発明の実施例4の骨締結ケーブル用緊縛装置斜め後方からの部分拡大図
【図18】本発明の実施例5の骨締結ケーブル用緊縛装置斜め後方からの部分拡大図
【図19】本発明の実施例6の骨締結ケーブル用緊縛装置斜め後方からの部分拡大図
【図20】本発明の実施例7の骨締結ケーブル用緊縛装置斜め後方からの部分拡大図
【図21】本発明の実施例8の骨締結ケーブル用緊縛装置斜め後方からの部分拡大図
【符号の説明】
【0041】
3=把持部、4=桿状部材、5=結び目保持手段、6=摺動ブロック、7=ガイド突起、8=突起、9=突起、10=間隔、11=横断溝、12=係止部材、13=アーム、14=引き金、15=牽引ケーブル、17=張力調節ノブ、33=把持部、34=桿状部材、35=突起、36=摺動ブロック、37=牽引ケーブル、40=操作レバー、42=貫通溝、44=係止窪み、46=係止部材、48=アーム、50=陥凹部、55=回転ドラム、57=歯車、59=歯車、61=ラチェット車、63=板ばね、65=送り爪、67=送り爪の先端、69=ピン、71=戻り止め、73=解除レバー、75=張力調節ノブ、79=筒状部材、81=スペーサー、83=つる巻きばね、85=窓、87=目盛り、90=骨、91=骨、93=ループ、94=腕、95=腕、100=摺動ブロック、102=第1のアーム、103=第1のアーム、104=第2のアーム、105=第2のアーム、106=陥凹部、110=摺動ブロック、112=基板、114=つる巻きばね、120=摺動ブロック、122=アーム、124=係止部材、130=貫通溝、132=係止窪み、134=突起、136=摺動ブロック、138=アーム、140=係止部材、150=摺動ブロック、152=基板、154=つる巻きばね、156=係止部材、160=貫通溝、162=係止窪み、170=円筒部、S=スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
締結対象に結ばれた骨締結ケーブルの結び目から延びる2本の腕を牽引することにより締結対象を緊縛するための、骨締結ケーブル用緊縛装置であって、
手で持つための把持部と、
該把持部から前方に延びた桿状部材と、
該桿状部材の先端に設けられた、該2本の腕の牽引に際して結び目を支持するための結び目支持手段と、
該2本の腕を一緒に掴んで保持するためのケーブル保持手段を備え、該桿状部材を囲んで長手方向に摺動自在に取り付けられた摺動ブロックであって、該把持部に備えられた牽引手段に張力伝達手段を介して連結されているものである摺動ブロックと、
該把持部に備えられた、該牽引手段を駆動するための操作レバーと、
を含んでなり、且つ
該結び目支持手段が、該桿状部材の上側において、
(1)該2本の腕を該桿状部材の長手軸に関して左右に振り分けて掛けることのできる支持面を両側に備え、及び/又は
(2)該2本の腕を通すことができるスリット若しくは穴を備えるものであり、そして
該摺動ブロックに備えられた該ケーブル保持手段が、
(a)該摺動ブロックの上部に形成された前後方向の貫通溝と、
(b) 該貫通溝の後端において、該貫通溝の横断面と交差した形で又は中央に沿って該貫通溝の横断面を含んだ形で延びる、後方へ向けて断面幅の広がる窪みである係止窪みと、
(c) 該摺動ブロックの上側で該係止窪みより後ろに、前後動可能に備えられ、前進して該係止窪みに嵌りこれに側面が当接して前進が阻止される、該2本の腕を巻き付けるための後方へ付勢された係止部材と、
を含んでなるものである、骨締結ケーブル用緊縛装置。
【請求項2】
該係止窪みが、中央に沿って該貫通溝の横断面を含んだ形で延びるものである、請求項1の骨締結ケーブル用緊縛装置。
【請求項3】
該係止部材がアームに取り付けられており、該アームは、該桿状部材に関して該結び目支持手段と同じ側において垂直軸回りに回動可能に該摺動ブロックに設けられたものである、請求項2の骨締結ケーブル用緊縛装置。
【請求項4】
該係止部材が該係止窪み内に嵌るときに、該アームを受容れることのできる陥凹部が該係止窪みの縁に設けられているものである、請求項3の骨締結ケーブル用緊縛装置。
【請求項5】
該係止部材が該係止窪み内に嵌るときに該係止窪みの縁との干渉を回避できるよう、該アームが、該係止窪みの縁を退けた輪郭を有するものである、請求項3の骨締結ケーブル用緊縛装置。
【請求項6】
該アームが、該摺動ブロックに軸支されているものである、請求項3ないし5の何れかの骨締結ケーブル用緊縛装置。
【請求項7】
該係止部材の後方への付勢が、該摺動ブロックに軸支された該アームの回動軸周りに配されたばねによるものである、請求項6の骨締結ケーブル用緊縛装置。
【請求項8】
該係止部材が、該桿状部材に関し該結び目支持手段と同じ側において垂直軸回りに回動可能に、該摺動ブロックの両側に斜め側方へ向けて設けられた同一長の1対の第1の左右のアームと、該1対の第1の左右のアームのそれぞれの先端に、垂直軸周りに回動可能に斜め内方へ向けて取り付けられた同一長の1対の第2の左右のアームであって、それらの先端同士が回動可能に結合されているものである1対の第2のアームとからなる、5節連鎖機構の、第2のアームの先端に備えられているものである、請求項2の骨締結ケーブル用緊縛装置。
【請求項9】
該1対の第1のアームが、該摺動ブロックに軸支されているものである、請求項8の骨締結ケーブル用緊縛装置。
【請求項10】
該係止部材の後方への付勢が、該摺動ブロックに軸支された該1対のアームの少なくとも一方の回動軸周りに配されたばねによるものである、請求項9の骨締結ケーブル用緊縛装置。
【請求項11】
該係止部材が、該摺動ブロックに対して前後方向に摺動可能に取り付けられた摺動部材上に備えられているものである、請求項2の骨締結ケーブル用緊縛装置。
【請求項12】
該摺動部材が、該摺動ブロックに形成された、該摺動部材の一部が嵌合する摺動ガイドに沿って摺動するものである、請求項11の骨締結ケーブル用緊縛装置。
【請求項13】
該係止部材の後方への付勢が、該摺動部材に対して該摺動ガイドに配されたばねによるものである、請求項12の骨締結ケーブル用緊縛装置。
【請求項14】
該係止窪みが、該貫通溝の横断面と交差して延びるものである、請求項1の骨締結ケーブル用緊縛装置。
【請求項15】
該係止部材が、該摺動ブロックの側面に水平軸周りに回動可能に設けられたアームに設けられているものである、請求項14の骨締結ケーブル用緊縛装置。
【請求項16】
該アームが、該摺動ブロックの一側面から概略上方へ延び、その先端から係止部材が、該係止窪みの後方においてこれと平行に延びているものである、請求項15の骨締結ケーブル用緊縛装置。
【請求項17】
該アームが、該摺動ブロックの両側面から概略上方へ延び、該摺動ブロック上で内方へ延びて合体した後再度概略上方へ延びて、その先端に該係止部材が設けられているものである、請求項15の骨締結ケーブル用緊縛装置。
【請求項18】
該アームが、該摺動ブロックに軸支されているものである、請求項15ないし17の何れかの骨締結ケーブル用緊縛装置。
【請求項19】
該係止部材の後方への付勢が、該摺動ブロックに軸支された該アームの回動軸周りに配されたばねによるものである、請求項18の骨締結ケーブル用緊縛装置。
【請求項20】
該係止部材が、該摺動ブロックに対して前後方向に摺動可能に取り付けられた摺動部材上に備えられているものである、請求項14の骨締結ケーブル用緊縛装置。
【請求項21】
該摺動部材が、該摺動ブロックに形成された、該摺動部材の一部が嵌合する摺動ガイドに沿って摺動するものである、請求項20の骨締結ケーブル用緊縛装置。
【請求項22】
該係止部材の後方への付勢が、該摺動部材に対して該摺動ガイドに配されたばねによるものである、請求項21の骨締結ケーブル用緊縛装置。
【請求項23】
該係止窪みが、後方へ向けて断面幅がV字状に広がるものである、請求項1ないし22の何れかの骨締結ケーブル用緊縛装置。
【請求項24】
該係止窪みが、後方へ向けて断面幅が円弧状に広がるものである、請求項1ないし22の何れかの骨締結ケーブル用緊縛装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2006−305211(P2006−305211A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−133906(P2005−133906)
【出願日】平成17年5月2日(2005.5.2)
【特許番号】特許第3721189号(P3721189)
【特許公報発行日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000231394)アルフレッサファーマ株式会社 (27)
【出願人】(591206108)マルホ発條工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】